- 著者
-
熊谷 仁
- 出版者
- 一般社団法人 日本食品工学会
- 雑誌
- 日本食品工学会誌 (ISSN:13457942)
- 巻号頁・発行日
- vol.9, no.3, pp.123-134, 2008-09-15 (Released:2010-06-08)
- 参考文献数
- 13
- 被引用文献数
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食品の内部の構造や状態を反映する電気物性および誘電緩和について概説した.物体の電気的な特性としては, 大きく分けて電気 (電荷) を蓄える性質と電気を流す性質があるが, 電気を蓄える“能力”を表すのが誘電率ε', 電気の通り易さを表すのが電気伝導度σ'である.また, 解析の便のために誘電損失ε” (=σ'/ (2πfe0) : e0, 真空の誘電率; f, 周波数) を用いることも多い.電気物性の測定において, 試料に交流電場を印加すると, 周波数fの増加に伴って内部の電気双極子が電場の変化に追随できなるため, 誘電率ε'が低下し, 同時に電気伝導度σ'が増加, 誘電損失ε”がピークを示すことがあるが, この現象が誘電緩和である.誘電緩和のデータをCole-Cole式やCole-Davidson式などの半経験式を用いて解析することにより, 電気双極子の配向時間に相当する緩和時間τをはじめとする重要なパラメータが求められる.対象とする系, 測定周波数によって, さまざまな種類の電気双極子の配向に起因する誘電緩和が観測され, 系の内部構造や状態に関する様々な情報が得られる.例えば103~107Hz近辺で観測される緩和は, 球状タンパク質であるBSA溶液では分子回転による配向分極に, ゼラチン溶液では分子鎖の揺らぎに, 高分子電解質溶液では対イオンの揺らぎに, W/Oエマルションでは水一油界面での界面分極に起因する.誘電緩和データから, 系の構造についての詳細な情報を得るには, スケーリング則などの理論を併用することが有効である.