著者
矢守 克也 李 旉昕
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.117-127, 2018 (Released:2018-03-03)
参考文献数
19
被引用文献数
1

高知県黒潮町が掲げる「私たちの町には美術館がありません,美しい砂浜が美術館です」というフレーズは,「Xがない,YがXです」の形式をもつ。本論文では,この形式が,「限界集落」,「地方消滅」といった言葉によって形容されるきびしい状況下にある地方の地域社会の活性化を支える根幹的なロジックになりうることを,「Xからの疎外/Xへの疎外」の重層関係を基盤とした見田宗介の疎外論の観点から明らかにした。この疎外論の根幹は,「Xからの疎外」(Xがないことによる不幸)は,その前提に「Xへの疎外」(Xだけが幸福の基準となっていること)を必ず伴っているとの洞察である。よって,Xの欠落に対してXを外部から支援することは,「Xからの疎外」の擬似的な解消にはなっても,かえって「Xへの疎外」を維持・強化してしまう副作用をもっている。これに対して,YがXの機能的等価物であることを当事者自身が見いだし宣言したと解釈しうる黒潮町のフレーズには,「Xからの疎外」を「Xへの疎外」の基底層にまで分け入って根本から克服するための道筋が示されていると言える。
著者
竹之内 健介 加納 靖之 矢守 克也
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F6(安全問題) (ISSN:21856621)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.I_31-I_39, 2018 (Released:2019-02-19)
参考文献数
19
被引用文献数
3

平成29年九州北部豪雨では,中山間地を含む多数の集落で甚大な被害が生じた一方,5 年前の災害経験などを踏まえ,住民が無事避難した事例も確認されている.本研究では,そのような避難に成功した地区などを対象に住民への聞き取り調査を行い,詳細な対応行動や避難につながった背景の分析を行った.調査の結果,地域独自の判断基準の存在が災害対応に効果的に機能していた事例が確認されるとともに,そのような判断基準が地域で継続して定着するような社会環境が存在していた.また当時の住民の対応行動の時系列分析を行い,各種災害情報との対応関係から,実際にその判断基準が災害時に有効に機能していたことを確認した.これらの結果を踏まえ,地域独自の判断基準(防災スイッチ)を災害時に有効に機能させる地域防災の検討と推進を提案する.
著者
舩木 伸江 河田 惠昭 矢守 克也 川方 裕則 三柳 健一
出版者
自然災害科学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.447-471, 2006
参考文献数
58

In Japan, there is concern that great earthquake disasters, in Tokai, Tonankai, Nankai and the Tokyo Metropolitan area, could occur within the next few decades. Once one of these disasters happens, a larger number of deaths than in the 1995 Great Hanshin-Awaji Earthquake Disaster, which killed more than 6,000 people, could possibly occur. Therefore, it is necessary to find an early solution to the problem of mortuary care and cremation of deceased people after large-scale disasters. However, there has not yet been enough discussion about how to deal with, bury, and cremate dead bodies. This study first sorts out several problems related to mortuary care and cremation by examining 34 documents of the Great Hanshin-Awaji Earthquake Disaster. Next, it identifies remaining problems after the Great Hanshin-Awaji Earthquake Disaster. Third, it analyzes new issues related to the mortuary care and cremation when largescale disasters occur. Finally, several important findings are provided for improving present problems in the Japanese system of mortuary care and cremation.
著者
岡田 夏美 矢守 克也
出版者
日本自然災害学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.241-256, 2019 (Released:2019-12-23)
参考文献数
39

近年,わが国では,学校防災教育への期待が高まっている。学校防災教育の推進のための議論には,“何を教えるべきか”,という政策的な“規範論”と,教師の側の“現実論”が存在する。 そうした議論をさらに整理すると,4つのフレームワークが存在することがわかった。すなわち,1防災の教科化,2総合的な学習の時間での実施,3既存の教科での実施,4教科横断的な実施,である。本稿では,それら4つのフレームワークに対して行われている議論や,調査の結果などをもとにして,それぞれのフレームワークが,防災教育の“規範論”と“現実論”の 共存を目指す中で,どのように評価できるかを考察した。本稿では,クロスカリキュラムの概念のもとでの防災教育の展開が,今後の学校教育現場において必要であることを結論とした。
著者
矢守 克也 Yamori Katsuya ヤモリ カツヤ
出版者
「災害と共生」研究会
雑誌
災害と共生 (ISSN:24332739)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.1-8, 2019-01

一般論文本論文は、すでに発表した拙稿「アクションリサーチの〈時間〉」(矢守, 2018)の補論となる論考である。具体的には、鷲田(2006)による〈待つ〉ことに関する示唆的な著作を手がかりに、時間、特に、〈インストゥルメンタル〉な時間と〈コンサマトリー〉な時間の関係性に関して、矢守(2018)で十分論じきれなかった側面について考察したものである。〈待つ〉の根底には、〈インストゥルメンタル〉と〈コンサマトリー〉との間の逆説的な機能連関がある。しかも、その連関は、矢守(2018)が注目した〈インストゥルメンタル〉の拡大・膨張の徹底によって、現在を高揚化・絶対化させることで〈コンサマトリー〉へと転回させる機能連関ではない。それとは正反対に、〈インストゥルメンタル〉の縮小・退縮の徹底によって、現在を冷却化・静謐化させることで〈コンサマトリー〉へと転回させる機能連関である。〈待つ〉は、何らかの目標状態の「徴候」に過敏に反応する態度(アンテ・フェストゥム)のもと、〈インストゥルメンタル〉な意味で待つことではない。また、その目標状態を計画として予め現在の中に取り込もうとする態度(ポスト・フェストゥム)のもと、〈インストゥルメンタル〉な意味で待つことでもない。〈待つ〉は、〈コンサマトリー〉な時間のなかで現在を「時を細かく刻んで」静かに生きながら何かを待つことである。This paper is a supplemental argument for the article, "Theoretical analysis of 'time' in action research" (Yamori, 2018). I discussed, in this paper, the relationship between two totally contradictory dimensions of time, "instrumental" and "consummatory," based on a philosophical work about "pure and perfect waiting" by Washida (2006). "Pure and perfect waiting" is characterized by a paradoxical interdependence between the two different dimensions of time. This paradoxical interdependence is not caused by both "instrumental" and "consummatory" dimensions magnifying or reinforcing each other, highlighted in Yamori (2018), but, on the contrary, by both dimensions negating or reducing each other. "Pure and perfect waiting" is neither "waiting" for a specific target with over-sensitive attitudes under temporal mode of "uncertainty" or "ante-festum" within an "instrumental" dimension, nor "waiting" for a specific target with over-prepared attitudes to predict and prepare for all under temporal mode of "completeness" or "post-festum" within an "instrumental" dimension. It is "waiting" for something undefined, without the feeling of waiting, in a steady and calm everyday lives within a "consummatory" dimension of time.
著者
加藤 謙介 渥美 公秀 矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.155-173, 2004
被引用文献数
5 3

本研究では,高齢者に対するロボット介在活動(Robot Assisted Activity: RAA)の事例を取り上げ,RAAを,ロボットをめぐる物語の共同的承認の過程であるとして検討した。筆者らは,有料老人ホームに入所する高齢者を対象とした,ペット型ロボットを用いたRAAを実施し,参与観察するとともに,RAA実施中における参加者群の相互作用を,定量的・定性的に分析した。定性的分析の結果,RAA時には,対象となった高齢者のみではなく,施設職員やRAAの進行係等,RAAの参加者全員が,ペット型ロボットの挙動に対して独自の解釈を行い,それを共同的に承認しあう様子が見出された。また,定量的分析の結果,RAA実施中における参加者群の「集合的行動」のうち,最も頻度が多かったのが,「ロボットの動きを参加者群が注視しながら,発話を行う」というパターンであることが明らかになった。筆者らは,RAAを,参加者によるロボットの挙動に対する心の読み取り,及びその解釈の共同的承認を通して物語が生成され,既存の集合性とは異なる集合性,<異質性>が生成される過程であると考察した。<br>
著者
矢守 克也 李 旉昕
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.117-127, 2018
被引用文献数
1

<p>高知県黒潮町が掲げる「私たちの町には美術館がありません,美しい砂浜が美術館です」というフレーズは,「Xがない,YがXです」の形式をもつ。本論文では,この形式が,「限界集落」,「地方消滅」といった言葉によって形容されるきびしい状況下にある地方の地域社会の活性化を支える根幹的なロジックになりうることを,「Xからの疎外/Xへの疎外」の重層関係を基盤とした見田宗介の疎外論の観点から明らかにした。この疎外論の根幹は,「Xからの疎外」(Xがないことによる不幸)は,その前提に「Xへの疎外」(Xだけが幸福の基準となっていること)を必ず伴っているとの洞察である。よって,Xの欠落に対してXを外部から支援することは,「Xからの疎外」の擬似的な解消にはなっても,かえって「Xへの疎外」を維持・強化してしまう副作用をもっている。これに対して,YがXの機能的等価物であることを当事者自身が見いだし宣言したと解釈しうる黒潮町のフレーズには,「Xからの疎外」を「Xへの疎外」の基底層にまで分け入って根本から克服するための道筋が示されていると言える。</p>
著者
矢守 克也
出版者
奈良大学大学院
雑誌
奈良大学大学院研究年報 (ISSN:13420453)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.331-358, 2002-03

本研究は、阪神・淡路大震災(1995年1月17日)にともなう体験の記憶とその伝達をめぐって筆者が展開してきた一連研究の一部である。本研究では、震災に関連して建設された博物館が果たす心理・社会的機能について論じる。具体的には、震災後3年を経て、同震災を引き起こした震源断層である野島断層(兵庫県淡路島)の保存を主たる目的として建設された「北淡町震災記念公園(野島断層保存館)」をとりあげた。まず、同施設の建設経緯、施設展示・運営内容に関する事実経過、客観的事実・現状について集約した(Ⅱ節)。次に、筆者自身のフィールドワーク(現場観察、スタッフや見学者に対するインタビューなど)に基づいて、同施設の運営に携わる人々(館内スタッフや語り部の人々)、および、そこを訪れる人々が示す態度、行動上の特徴について列記した。あわせて、Ⅱ節で報告した個々の展示内容が果たしていると思われる機能についても言及した(Ⅲ節)。最後に、Ⅳ節では、以上の2節を踏まえて、同施設が阪神・淡路大震災の記憶とその伝達に果たす役割、および、問題点、ひいては、博物館一般が現実的な出来事の記憶とその伝達に果たす役割、および、問題点について考察を加えた。
著者
矢守 克也
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.119-137, 1997
被引用文献数
3

空前の都市型震災となった阪神大震災は, 多くの尊い人命を奪い, 甚大な被害をもたらすとともに, 自然災害に対する社会的対応のあり方, ひいては, 日本の社会システムのあり方に関して, 多くの警鐘を鳴らした。その一つに, 大量の避難者を, しかも数ヶ月という長期間にわたって引き受けた避難所に関わる問題がある。これまで, 災害に伴う避難所には, 被災者の安全と当面の衣食住を確保する「一次機能」だけが想定されていた。しかし, 阪神大震災によって, 避難所が, 中長期的な生活復旧を支援するための拠点としての機能, すなわち, 「二次機能」をもカバーしなければならないことが明らかになった。本研究では, まず, 事例としてとりあげるA小学校 (神戸市東灘区) が, 強力な地域リーダーのもと, ボランティアを巧みに活用しながら, 時期ごとに運営体制を段階的に変容させ, 一次機能, および, 二次機能の両者を果たしえた過程を, 同避難所のリーダー, 一般避難者, ボランティア, 関連行政組織の担当者らに対するインタビュー結果をもとに報告する。次に, その段階的変容プロセスを, 杉万ら (1995) が提唱した, 避難所運営に関する「トライアングル・モデル」の観点からとらえ返す。最後に, 以上を踏まえて, 今後の大規模災害時の避難所運営に関して, 10の提言をまとめる。
著者
矢守 克也
出版者
奈良大学総合研究所
雑誌
総合研究所所報 (ISSN:09192999)
巻号頁・発行日
vol.8号, pp.165-176, 2000-03

社会的表象理論(social representation theory)が、モスコビッシ(Moscovici,1961;1984)によって提唱されてから40年近くが経過した。しかし、社会心理学界における本理論の評判は芳しくない。なぜか。理由は簡単である。それは、本理論は、個別的な対象・現象をターゲットにした個別理論ではなく、従来の諸理論のほとんどすべてがその大前提として依拠している認識論一主客2元論一、および、方法論一論理実証主義一に抜本的改訂を迫るグラソド・セオリーだからである。自らが長年依拠してきた基盤を揺るがしかねない思潮がスムーズに受容されるわけはない。こうして本理論は、非常に否定的な評価を受けるにいたった。もっとも、こうした理解は、やや繊細さを欠いている。正確に記せば、これまで、本理論は否定的に評価されてきたのではなく、端的に理解されなかったか、もしくは、既存の社会心理学(あるいは、それが拠って立つ認識論)に適合する形に歪曲されてきたのである。本稿は、このような無理解・曲解が生じる原因の一端は、社会的表象理論の側の不備、正確には、不徹底一social constructionismの立場を徹底しえなかったこと一にあったことを指摘し、あわせて、真の理解へ向けた道のりを示すことを意図したものである。この際、具体的には、近年、社会的表象理論について原理的な再検討、および、実証的な研究の双方を精力的に進めているワーグナー(W.Wagner)の著作を議論の出発点とした。