著者
矢野 栄二 西川 翔子 山根 雅史
出版者
近畿大学農学部
雑誌
近畿大学農学部紀要 = Memoirs of the Faculty of Agriculture of Kinki University (ISSN:04538889)
巻号頁・発行日
no.41, pp.1-10, 2008-03-01

Aphidoletes aphidimyza (Rondani), an aphidophagous species of Cecidomyiidae, is widely distributed in the world.Larvae of this species feed on a wide variety of aphids, at least 80 species having been known as hosts. In many countries,A. aphidimyza has been used extensively as a biological control agent against aphids, particularly in greenhouses, andhas been proved effective. An exotic strain of this species has been commercialized to control aphids in protected culturesince 1998 in Japan. Use of this strain has not been very successful, possibly because of maladaptation to environmental conditions in Japan or improper use of the strain. Study of the natural distribution of A. aphidimyza in Japan, prior to commercialization of its exotic strain, revealed that this species is distributed commonly in Japan. Use of domestic strains,which are well adapted to both the physical and biological environments in Japan, is recommended to avoid environmental risk by use of the exotic strain. The biology and use for biological control of European strains of A. aphidimyza have been studied and published by many authors. It is worthy to review these studies for the development of biological control using domestic strains of A. aphidimyza in Japan. In this review, the biology of A. aphidimyza, i.e., the taxonomy, morphology, development, oviposition, predation, mating and interspecific interactions with other natural enemies, will be described. Then, mass production and storage of this species, its use for biological control in greenhouses and its role in the regulation of aphids in orchards will be discussed as practical information.
著者
荒井 由美子 田宮 菜奈子 矢野 栄二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.497-503, 2003-09-25 (Released:2011-02-24)
参考文献数
23
被引用文献数
96 101

要介護高齢者を介護する者の介護負担を客観的に測定することは極めて重要である. 本研究の目的は, 我が国で頻用されている Zarit 介護負担尺度日本語版 (J-ZBI) の短縮版を作成することである.鹿児島県肝属郡内の6町の在宅要介護高齢者1,713名を対象に, 訪問調査を実施した. この1,713名のうち, 同居家族が主介護者であった735名に対しては, 訪問時に主介護者の性, 年齢, 介護負担 (J-ZBI) に関する調査も行った.短縮版の項目の選定にあたっては, 因子分析 (最尤法, Varimax 回転) を行った. 因子分析の結果, 固有値1以上の因子が4つ抽出された. 固有値の大きさと原版の因子構造を参考に, 第一因子 (Personal strain), 第二因子 (Role strain) から, 因子負荷量の高い項目を, それぞれ5項目, 3項目を選択し, J-ZBI短縮版 (J-ZBI_8) とした. J-ZBI_8の内的整合性を確認するために, Cronbach's αを計算したところ, 0.89であり, 下位尺度 Personal strain, Role strain それぞれの Cronbach's αの値は0.87, 0.82であった. また, J-ZBI_8の併存的妥当性を検討するために, J-ZBI_8とJ-ZBIおよび項目22との相関を検討したところ, それぞれr=0.93, 0.68であった (共に, p<0.001). さらに構成概念妥当性を検討すべく, 介護で困っていると答えた介護者のJ-ZBI_8得点と困っていないと答えた介護者とのJ-ZBI得点を t-test により, 比較したところ前者が9.31点 (SD=7.19), 後者が3.45点 (SD=4.57) であり有意差がみられた(p<0.001).J-ZBIの短縮版, J-ZBI_8の信頼性, 妥当性は原版と同様高いものであり, 充分に実用に耐えうるものと確認された.
著者
竹内 武昭 中尾 睦宏 野村 恭子 錦谷 まりこ 矢野 栄二
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.103-110, 2007-02-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
21
被引用文献数
4

ストレス自覚度や社会生活指標が,筋骨格系症状に及ぼす影響を評価するため,日本の国民統計データの解析を都道府県単位で行った.国民生活基礎調査,人口動態統計,厚生労働省衛生業務報告に基づき,1995年と2001年におけるストレス自覚度と19の社会生活指標の計20変数を抽出し,腰痛,関節痛,肩こりの有訴率との関連を調べた.因子分析の結果,19の社会生活指標は,「都市化」「加齢と生活の規則性」「個人化」の3因子に分類されたが,ストレス自覚度は,「都市化」因子に属する社会生活指標8変数と有意な相関があった.重回帰分析により,そうした「都市化」因子の影響を調整しても,ストレス自覚度は,腰痛(1995年と2001年)・関節痛(2001年のみ)・肩こり(1995年と2001年)と有意な関連が認められた.ストレス自覚度は,「都市化」因子と密接なつながりがあったが,その交絡要因の影響を調整しても,筋骨格系症状の有訴率に関連していることが示唆された.
著者
石黒 彩 磨田 百合子 井上 まり子 矢野 栄二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.9, pp.582-592, 2020-09-15 (Released:2020-10-10)
参考文献数
28

目的 人々が健康に安心して暮らせる地域づくりには,医療・保健・福祉等の直接的サービスだけでなく,住民の自助・共助を推進する社会関係資本の強化が重要である。その方法として,地域にある社会資源の調整やネットワーク形成を通し地域を自立活性化させるコーディネーターの機能が注目されているが,コーディネートの具体的な方法は明確化されていない。本研究では,東日本大震災の被害を受け住民の抱える生活課題が複雑化した被災地にて,地域づくりに従事する地域福祉コーディネーター(Community Social Coordinator, CSC)を対象に質的研究を行い,地域への介入プロセスを明らかにする。方法 対象者は,宮城県A市で震災後の地域づくりのために配置されたCSC,10人とした。40~90分の半構造化面接を個別に行い,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて分析した。結果 CSCによる地域への介入プロセスには,《地域の中で関係を構築する》,《地域をアセスメントする》,《地域へ働きかける》の3段階があった。地域のアセスメントでは,〈地域の課題や強みを見定める〉というように地域課題だけでなく地域の資源となりうる強みを見極めていたが,この際〈対象分野を限定しない〉ようにしていた。地域への働きかけでは,〈CSC自らが地域に働きかける〉だけでなく〈住民の主体性を支援する〉ことや〈住民と資源をつなぐ〉こともCSCは行い,〈地域の課題解決をはかる〉ことへ進んでいた。また〈地域と協力する〉ことや〈他の支援者と協力する〉ことにより,地域への働きかけが促進されていた。結論 本研究の結果から,CSCによる地域への介入プロセスには,地域の中での関係構築・地域のアセスメント・地域への働きかけの3段階があることが示された。対象分野を限定せずアセスメントした地域の課題や強みをもとに,地域や他の支援者とも協力しながら地域へ働きかけており,その際住民を主体として考えコーディネートが進められていることが明らかになった。
著者
井上 まり子 錦谷 まりこ 鶴ヶ野 しのぶ 矢野 栄二
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.117-139, 2011 (Released:2011-08-04)
参考文献数
110
被引用文献数
14 18

非正規雇用者の健康に関する文献調査:井上まり子ほか.帝京大学大学院公衆衛生学研究科―目的:非正規雇用者の健康に関する原著論文を収集して整理し,その内容を概観することを目的とした. 方法:非正規雇用に関連するキーワードをもとに,米国国立医学図書館のMEDLINEと医学中央雑誌刊行会の医中誌webで検索して文献を入手した.各文献を研究方法,調査データの種類,標本規模,調査国,結果となる健康指標,非正規雇用の定義,主な研究結果について整理して分析した. 結果:条件に該当したのは英語論文68編であった.これらの論文を結果指標である労働災害,身体的健康,精神的健康,代替的健康指標の4種類に分け,研究デザイン(コホート研究,症例対照研究,横断研究)別に概観した.非正規雇用者の健康状態が正規雇用者と比べて悪かったのは,一部の労働災害による傷病と身体的健康における死亡率であった.精神的健康ではGeneral Health Questionnaire等の指標を用いた研究で,概して非正規雇用で健康状態が不良であると結論づけた研究が多くみられた.そのほかの代替的健康指標として,医療へのアクセスについても非正規雇用で限りがあるという傾向や,非正規雇用者では正規雇用者と比べて病気による休職や欠勤が少ないという傾向が認められた. 考察:非正規雇用者で正規雇用者より健康状態が悪い場合が,複数の研究から示された.不安定な雇用契約や,しばしば変化する職場環境下で働かざるをえない非正規雇用者の負の側面が,健康に影響を及ぼす可能性がある.一方,正規雇用者の健康度が悪いと結論づける研究もあり,雇用形態が多様化する社会においては雇用形態を問わず健康度が悪化する可能性がある. (産衛誌2011; 53: 117-139)
著者
矢野 栄二
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.1-11, 2018-02-25 (Released:2018-05-20)
参考文献数
78
被引用文献数
2 6
著者
矢野 栄二 西川 翔子 山根 雅史
出版者
近畿大学農学部
雑誌
近畿大学農学部紀要 (ISSN:04538889)
巻号頁・発行日
no.41, pp.1-10, 2008

現在、世界各国で施設栽培の野菜・花きの害虫防除に多くの天敵昆虫類が利用されている。ショクガタマバエAphidoletes aphidimyza(Rondani)も、施設栽培のアブラムシ類に対する有望な生物的防除資材として世界各地で利用されており、その効果が認められている。わが国においても1995年以降、外来系統のショクガタマバエを含む16種の天敵昆虫が農薬登録され、害虫防除資材として実用化している。アブラムシ類の防除資材としてはコレマンアブラバチAphidius colemani Viereckなど外来天敵昆虫の利用が先行していたが、近年、わが国においても国内系統のショクガタマバエを利用したアブラムシ類防除の機運が高まっている。国内系統は外来系統に比べ、より環境リスクが少なくわが国の気候に適応していると考えられる。ヨーロッパ系統のショクガタマバエの生態特性については、発育、増殖能力、捕食能力、休眠、餌探索行動、配偶行動など多岐にわたる研究が行われている。また大量増殖方法、貯蔵法、温室内の放飼による効果判定試験など害虫防除への利用についても多くの報告がある。わが国の系統について、まだほとんど生態的特性は解明されていないが、本種が北半球に広く分布する種である事を考慮すれば、ヨーロッパの系統とは同種ではあるがかなり異なる特性を保持していると予想される。それにともない利用技術も異なるものになる可能性がある。そこで本種国内系統の実用化に向けて、その基礎となる知見として、ヨーロッパ系統に関する生態特性と利用技術に関する研究成果を中心に、これまでの知見をとりまとめて総説として報告したい。
著者
井上 まり子 矢野 栄二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.63, no.6, pp.303-309, 2016 (Released:2016-07-13)
参考文献数
29
被引用文献数
2

Japan, known for its good healthcare access via universal health insurance, leads the world in terms of life expectancy, and possesses a public health system that has improved health standards markedly in the 20th century. However, we currently face major challenges to maintain and promote people's health. Although these complicated problems pose numerous threats to public welfare, education of public health for health professionals still retains 20th-century standards. This also means that graduate education of public health in Japan is traditionally based on obtaining licensure as a medical professional, conducting research and writing papers, and on-the-job training. Since graduate school education is expected to produce competent public health leaders, Japan requires a reform toward a new education design that caters to the current societal needs. The current global trend in the education of health professionals leans toward outcome-based education to meet core competencies. Here, “competency” refers to a set of features or particular behavioral patterns possessed by highly qualified persons. In 2006, the World Health Organization (WHO) established a general health professional competency standard that includes both management and leadership competencies. Moreover, the Lancet Commission concluded that there was a need for transformative education based on a “health system approach.” In brief, this means that our education should correspond to the needs of the health system to allow for the resolution of problems by educated professionals with satisfactory levels of competencies. In addition, as “change agents,” these competent professionals are expected to promote societal change toward the realization of better public health. In Japan, the Central Education Council has produced several reports on professional graduate school reform since 2000. These reports indicate that graduate school curricula require reform to allow the health professionals to work locally and globally, as well as to solve problems through the application of systematic knowledge that matches practice with theory. Therefore, with reference to the current Japanese health situation, global trends in education, and the Japanese educational policies, transformational changes are needed toward a new era of Japanese public health education specifically through outcome-based education to improve the health professionals competencies. We hope that education in the new schools of public health will contribute to solve authentic public health problems and create a healthy future with competent professionals.
著者
福井 次矢 高橋 理 徳田 安春 大出 幸子 野村 恭子 矢野 栄二 青木 誠 木村 琢磨 川南 勝彦 遠藤 弘良 水嶋 春朔 篠崎 英夫
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.96, no.12, pp.2681-2694, 2007-12-10
被引用文献数
5 4

平成16年度に開始された新医師臨床研修制度が研修終了時の研修医の臨床能力にどのような影響をもたらしたのかを調査する目的でアンケート調査を行った.旧制度下の研修医(平成15年3月の2年次研修医)に比べて新制度下の研修医(平成18年3月の2年次研修医)は,調査対象となった幅広い臨床能力の修得状況(自己評価)が全般的に著しく向上し,以前認められていたような大学病院の研修医と研修病院の研修医との差がほとんど認められなくなった.また,調査対象となった82の症状·病態·疾患と4種類の医療記録すべてについて,旧制度下の研修医に比べて新制度下の研修医の経験症例数·記載件数が有意に多かった.新医師臨床研修制度による研修医の幅広い臨床能力修得という目的は達成される方向にあることが示唆された.<br>
著者
中尾 睦宏 野村 恭子 竹内 武昭 山地 清久 矢野 栄二
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.46, no.12, pp.1037-1042, 2006-12-01
被引用文献数
1

本研究では,帝京大学病院の外来データベースを用いて,ベンゾジアゼピン系薬剤(BZP)の科別処方状況を,選択的セロトニン再取込阻害薬(SSRI)ならびにセロトニン・ノルアドレナリン再取込阻害薬(SNRI)と対比させながら,比較検討した.帝京大学病院の診療科を内科,外科,神経内科,精神科,その他の科の5群に分け,各科のBZPとSSRI・SNRIとの処方割合(B/S比)を計算した.病院全体の年間処方は644,444件であったが,うちBZPが11.9%,SSRIが1.6%,SNRIが2.3%であった.BZP処方の中では,内科群が26.8%を占めていた.内科群のB/S比は13.0と最大で,外科群7.6,神経内科群4.8,精神科群2.5と続いた.うつ患者の多くが内科を受診するという文献報告もあり,特に内科領域で,BZPからSSRIやSNRIへの処方切り替え可能な症例が多くいるかもしれない.
著者
野村 恭子 中尾 陸宏 竹内 武昭 山地 清久 佐藤 幹也 矢野 栄二
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.41-47, 2007-01-01

帝京大学医学部附属病院を受診し何らかの投薬を受けたすべての外来通院患者34,422名を対象に,ベンゾジアゼピン(BZP)系薬物の処方期間について調査を行った.コンピューター・オーダリング・システムから性別,年齢,BZP,診療科(内科系,外科系,精神科・心療内科系,その他)を抽出し,患者単位のデータベースを作成した(2002年7月から2003年6月).その結果,BZPを処方された患者は5,959名(17%)であったが,投薬期間が4カ月以上の群(長期処方群4,470名)と3カ月以内の群(短期処方群1489名)の臨床学的特徴を比較したところ,長期処方群では短期処方群に比べて男性が多く,年齢が高く,また診療科では内科系とその他の科で長期処方が多い傾向にあった(いずれもp<0.05).BZP系薬物は長期連用で健康障害を与えることが知られており,その処方につき大学病院での教育プログラムが重要である.
著者
竹内 武昭 矢野 栄二 中尾 睦宏
出版者
帝京大学
巻号頁・発行日
2008

職場でのうつ病スクリーニングの一般性を検討するため,2008年度某企業の健康診断において約600名の男性従業員に対して, DSM-IVの半構造化面接と気分質問調査票(Profile of Mood States:POMSの両方によるうつ病診断を行ったデータクリーニングを行い,不十分なデータを削除したのち592入の男性データを対象データとした。解析では, DSM-IV大うつ・小うつ病診断を基準とし, POMSうつ得点の感度・特異度を調べて受信者操作特性下面積(Area Under the Curve: AUC)を算出(オリジナル)。同様にPOMSうつ質問1項目のAUC(15通り)と大うつ・小うつ病のAUC比較も行った。大うつ病の有病率は,25人(4.2%),小うつ病は27入(4.6%)であった。POMSオリジナル版の大うつ病に対するAUCは0.71,小うつ病に対するAUCは0.63であった。POMSの1項目でみると,大うつ病に対しては"ゆううつだ"のAUCが0.73と最も高く, "あれこれ心配だ"(0.72), "気持ちが沈んで暗い"(0.72)が続いた。小うつ病に対しては"くたびれた"のAUCが0.70と最も高く, "疲れた"(0.69),"ゆううつだ" (0.67)が続いた。面接によるうつ病の診断が質問調査票でもある程度出来るという本研究の結果は,2006年度に我々の発表した論文(Takeuchi T, Nakao M, Yano E. Primary Care & Community Psychiatry 11:13-9, 2006)を他施設で検証し,その一般性の可能性を広げる結果となった。来年度以降の複数施設における自殺予防を目的としたコホート比較検討試験実施の基盤となる意味で重要である。
著者
鶴ヶ野 しのぶ 井上 まり子 中坪 直樹 大井 洋 矢野 栄二
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.15-18, 2009 (Released:2009-04-10)
参考文献数
15
被引用文献数
1 3

年越し派遣村村民の健康:鶴ヶ野しのぶほか.帝京大学医学部衛生学公衆衛生学―わが国では雇用の流動化が進行している.2008年からの世界的不況により,2009年には派遣労働者をはじめとする非正規雇用者の大量解雇が予測されている.海外の先行研究では,不安定な雇用形態そのものが健康に影響する可能性が示唆されている.2008年の年末,職と住まいを失った労働者の緊急の避難所として「年越し派遣村」が東京に設営された.我々は2009年1月8~10日に東京都福祉保健局が行った健康相談及び健康診断に参加したが,そこでみられた村民の健康状況について報告する.健康相談に訪れた村民は89名であった(平均年齢48歳).身体症状としては多い順に,呼吸器症状(咳43%,痰36%),微熱(16.9%),筋骨格系症状(13.5%),皮膚症状(5.6%),消化器症状(3.4%),神経症状(3.4%)その他で,不安や不眠などの精神症状(10.1%)もみられた.個別の相談では,自覚症状があっても医療機関の受診が困難であったり治療が中断されているケースが多かった.また,1年以内に健康診断を受診した村民は23.8%(84名中)にとどまっていた.非正規雇用者の健康問題については十分認識されていないが,注目していく必要がある. (産衛誌2009; 51: 15-18)