著者
瀬尾 美紀子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.68-82, 2016 (Released:2016-08-12)
参考文献数
66
被引用文献数
1 2

本稿では, 現在の教授・学習研究が「21世紀の学習・教育実践」に対しどのような役割を果たすことができるか明らかにすることを目的とした。「21世紀の学習・教育実践」に関する教育界の議論を踏まえ, この1年間の教授・学習研究を「学習の認知過程に関する研究」「主体的・自律的な学習に関する研究」「協同や相互作用を活かした学習に関する研究」の3つに分類して論評した。学習の認知過程に関しては, 思考・問題解決や言語表現に比べて, 知識獲得・記憶に関する研究が少ないことが明らかになった。一方, 言語表現に関する研究は, コミュニケーション能力の育成に具体的かつ実践的な示唆をもたらすものが多く見られた。主体的・自律的な学習に関しては, 特に, 不適応的な学習行動の適応的側面を見出す研究がリアリティのある実践提案に結びつく可能性が示唆された。協同や相互作用を活かした学習に関しては, 機能の解明から, 規定要因についての検討および協同を活かした教育実践研究へと研究関心が移ってきている可能性が述べられた。最後に, 21世紀の学習・教育実践に対して, どのような教授・学習研究が期待されるか今後の研究の方向性について展望した。
著者
西村 多久磨 瀬尾 美紀子 植阪 友理 マナロ エマニュエル 田中 瑛津子 市川 伸一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.197-210, 2017 (Released:2017-09-29)
参考文献数
40
被引用文献数
4 8

本研究では, 中学生を対象に学業場面に対する失敗観の個人差を測定する尺度を作成した。その際, 子どもにとって身近で回答しやすい失敗場面を想定し(問題場面, 発表場面, テスト場面, 入試場面), これらの場面の高次因子として「学業場面の失敗観」を想定するモデルを提案した。中学生984名から得られたデータに対して探索的因子分析を行った結果, 失敗観は「失敗に対する活用可能性の認知」と「失敗に対する脅威性の認知」の2因子から構成されることが, 各場面に共通して示された。また, これら4つの場面の高次因子として「学業場面の失敗観」を想定したモデルの適合度は十分な値であった。この結果から, 高次因子モデルによって失敗観を測定するアプローチの妥当性が支持された。さらに, 理論的に関連が予想された変数との相関関係も確認され, 尺度の妥当性に関する複数の証拠が提出された。最後に, 作成された尺度を用いた今後の研究の展望について議論がなされた。
著者
植阪 友理 鈴木 雅之 市川 伸一 Manalo Emmanuel 和嶋 雄一郎 小山 義徳 瀬尾 美紀子 植阪 友理 Manalo Emmanuel
出版者
東京大学大学院教育学研究科附属学校教育高度化センター
雑誌
Working Papers
巻号頁・発行日
vol.1, 2012-08-31

科学研究費補助金基盤研究B「学習方略の自発的利用促進メカニズムの解明と学校教育への展開」(代表 Emmanuel Manalo)
著者
市川 伸一 南風原 朝和 杉澤 武俊 瀬尾 美紀子 清河 幸子 犬塚 美輪 村山 航 植阪 友理 小林 寛子 篠ヶ谷 圭太
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.333-347, 2009 (Released:2010-09-10)
参考文献数
15
被引用文献数
8

COMPASS is an assessment test based on the cognitive model of mathematical problem solving. This test diagnoses components of mathematical ability which are required in the process of understanding and solving mathematical problems. The tasks were selected through the case studies of cognitive counseling, in which researchers individually interview and teach learners who feel difficulty in particular learning behavior. The purpose of COMPASS is to provide diagnostic information for improving learning process and methods of class lessons. Features of COMPASS include: The time limitations are set for each task to measure the target component accurately; questionnaires are incorporated to diagnose orientation toward learning behavior. The present paper aims to introduce the concept and the tasks of COMPASS to show how cognitive science contributes to school education through the development of assessment tests.
著者
瀬尾 美紀子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.441-455, 2005-12
被引用文献数
3

本研究は, 学習上の援助要請を促進する介入方法を考案し, その効果を検証することを目的とした。まず, 予備調査において, 援助要請に必要な要因を学習者に尋ねた結果, 主に自己のつまずきを明確化することと, 時間や場所の確保のような環境要因が挙げられた。研究1では, 自己のつまずきを明確化するためのつまずき明確化方略の使用と, 先行研究で影響が示されてきた達成目標や援助要請に対する認知が, 援助要請とどのように関連しているか質問紙調査によって検討した。その結果, 習得目標がつまずき明確化方略を媒介して援助要請と関連することが明らかになった。予備調査と研究1の結果を受けて, 研究2では, 高校2年生を対象に, 質問生成に対してつまずき明確化方略を教授する介入授業を行い, 方略教授の効果について検討した。その結果, 方略を教授することによって, 質問生成量の増加が, 数学の学力の高い集団で確認された。一方, 数学の学力に関係なく, 数学の学力の高い集団と低い集団の両方で, 一般的な質問は減少し, 内容関与的質問が増加して, 質問生成の質的な向上が確認された。
著者
植阪 友理 鈴木 雅之 清河 幸子 瀬尾 美紀子 市川 伸一
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.397-417, 2014-02-20 (Released:2016-08-10)
被引用文献数
4

全国学力調査の結果などを受け,教育現場では日本の子どもの学力について,「基礎基本はおおむね良好,活用に課題」と論じられることが多い.しかし,認知心理学を生かした教育実践では,基礎基本が必ずしも十分ではない可能性が指摘されている.そこで本研究では,これらの実践的な知見や認知心理学を参考に開発された,構成要素型テストCOMPASS(市川ら2009)を中学2年生682名に実施し,もし一般的な社会の認識とは異なり,基礎基本が十分なのではないとするならば,特にどのような学力要素が不十分であるのかという実態について検討した.また,調査対象となった生徒の数学担当教師15名に,中学2年生にとって「十分満足」「やや不十分」「極めて不十分」と考えられる基準を評定するよう求めた.教師が評定した基準と,COMPASSの実施結果を比較した結果,数学的概念の不十分さ,基本的な文章題において演算を迅速に決定する力の弱さ,問題解決方略を自発的に利用する力の不十分さなどに課題があることが明らかとなった.これらの結果は,日本の子どもの学力に対する従来の捉え方に再考を促すものである.
著者
Manalo Emmanuel 鈴木 雅之 田中 瑛津子 横山 悟 篠ヶ谷 圭太 Sheppard Chris 植阪 友理 子安 増生 市川 伸一 楠見 孝 深谷 達史 瀬尾 美紀子 小山 義徳 溝川 藍
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

3年目である本年は、21世紀型スキルの促進ということに焦点を当てて研究を行った。この結果、様々なワークショップや授業を開発した。具体的には、大学教員の質問スキルの向上を目指すワークショップの開発、小学校教員による効果的な学習法指導の開発、高校生の批判的思考と探究学習を促進する実践の提案などを含む。さらに、教育委員会と連携した実践なども行った。こうした研究の結果、研究代表者であるEmmanuel Manaloと分担研究者である植阪友理を編者に含む、英語の書籍を刊行した。この書籍は、自発的な方略を促進するためのあり方を具体的に提案するものであった。この本の論文はいずれも、査読付きであり、このうち9本は本プロジェクトに関わるメンバーが執筆している。のこり10本は海外の研究者が執筆している。海外の著者にはアメリカのUCLA (University of California Los Angeles) やPurdue University、スイスの ETH Zurich、ドイツの University of Munster (Germany) 、University of Hong Kongなどといった一流大学の研究者が含まれており、国際的な影響力も大きなものとなったと考えられる。さらに、日本心理学会、教育工学会などといった国内学会において発表を行った。さらに、EARLI (European Association for Research in Learning and Instruction) やSARMAC (Society for Applied Research in Memory and Cognition) といった国際学会においても発表した。