著者
金 貞花 シュマッカー ヤンディャク 藤井 聡
出版者
人間環境学研究会
雑誌
人間環境学研究 (ISSN:13485253)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.71-77, 2012

スペインの哲学者オルテガ(1883~1955)の著書「大衆の反逆」(1930)に基づいて、社会ジレンマの問題は「傲慢性」の因子という心理的傾向性に影響がある可能性が指摘されている。本研究では、交通需要マネジメント施策の賛同と共感意識形成問題を社会的ジレンマ中の一つと見なし、『傲慢性』が「交通施策に対する賛同と共感意識形成」と負の関係があるという仮説に基づき進める。さらに、政府に対する信頼、環境問題に対する認知、公共交通や自転車、徒歩などの環境にやさしい交通手段に対する意識といった心理的要因も施策への賛同と共感意識の形成に影響する要素と考えている。本研究では、まず、アンケート調査を通じて上に述べた心理的要因に関するデータを収集してTDM施策に、主に環境税に対する受容可能性に対し影響を及ぼすという仮説を設定し、検証する。
著者
藤井 聡 柴山 桂太 中野 剛志
出版者
人間環境学研究会
雑誌
人間環境学研究 (ISSN:13485253)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.85-90, 2012
被引用文献数
1

In this paper, a theoretical hypothesis that public works would have deterrence effects of deflation under the situation that deflation-gap exists was tested empirically. For testing this hypothesis empirically, we used macro-economics data in Japan since 1991 when the huge deflation-gap was brought by the collapse of the babble economy. As a result, we found that 1,000 billions yen's public works increases the GDP deflator by 0.2-0.8 % and increases nominal GDP by about 2,430 billions yen - 4,550 billions yen. This results support the hypothesis that public works would have deterrence effects of deflation under the situation that deflation-gap exists. It was also found that the deflation deterrence effects by the public works was larger than that by the in-crease export.
著者
羽鳥 剛史 中野 剛志 藤井 聡
出版者
人間環境学研究会
雑誌
人間環境学研究 (ISSN:13485253)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.163-168, 2010 (Released:2010-12-29)
参考文献数
13
被引用文献数
4

The aim of this paper is to examine the relationship between nationalism and civil society. The present hypothesis, which was developed from the theory of civil society, especially Hegel's thought, supposes a mutually dependent relationship between nationalism and civil society: the stronger (weaker) nationalism, the stronger (weaker) civil society and vice versa. On the other hand, its competitive hypothesis supposes a mutually substitute relationship: the stronger (weaker) nationalism, the weaker (stronger) civil society and vice versa. These hypotheses were tested in a survey, in which participants (n = 400) were asked to respond to measurements for a sense of alienation from four communities (family, organization, region, and state). All the items for the measurements were developed based on Hegel's descriptions about alienation from communities. The obtained data showed that the sense of alienation from each community was positively related with each other. This result gave supports to the interdependent relationship hypothesis. The implication of the result was discussed.
著者
藤井 聡
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.334-350, 2006-10-20
参考文献数
52

本稿では,土木において風土の問題は極めて重大であろうとの認識の下,風土に関する代表的哲学書である和辻哲郎著「風土:人間学的考察」(1943)を批評することを通じて,土木工学への知見を得ることを目指した.和辻の哲学的存在論の基本的立場を踏まえることで,各種土木事業が地域のあり方のみならず,地域の人々の人間存在そのものに根元的影響を及ぼし得る可能性が浮かび上がることを指摘した.それと共に,和辻風土論には「健全なる風土と不健全なる風土」との別が論理的に指し示され得ないという実践倫理哲学上の問題点が潜んでいることを指摘し,その問題点が土木において和辻風土論を参照するにあたっての重大な障害となることを指摘した.その上で,その問題点を超克するためのアプローチとして,近代保守思想を参照し,援用することの有効性を論証した.
著者
村尾 俊道 藤井 聡 中川 大 松中 亮治 大庭 哲治
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.44.3, pp.103-108, 2009-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
12

本研究では、京都都市圏での通勤交通における課題を明らかにするとともに、京都府での実際のプロジェクトを紹介することを通じ、職場MMの実行過程に着目し成功要因や課題を整理する。その結果、実施に至る準備段階においての関係者間の合意、組織の意思形成が重要であることを明らかにするとともに職場MM成功のための知見を提供した。これは、今後、職場MMを他地域で展開される際に極めて有益な知見となる。
著者
柳川 篤志 川端 祐一郎 藤井 聡
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.I_351-I_368, 2020

<p><tt>現在わが国の人口は東京へ一極集中しており,世界の先進諸国と比較しても東京への集中度合いは非常に高い.人口の一極集中には地方の衰退,首都における災害等への脆弱性という弊害が存在しており,東京一極集中は是正されるべきであると考えられる.一極集中の是正へ向けてはその要因を検証していくことがまずもって必要である.国内外の既往研究においては,一極集中の要因を巡る研究がなされてきたが,定量的な分析に基づく実証研究は十分になされていない.そこで本研究では,鉄道整備が人口の一極集中に与える影響を明らかにすることを目的とし,国内外のデータを利用し実証的な分析を行った.その結果,鉄道インフラの偏在が人口移動に影響をもたらし,鉄道整備の東京圏への一極集中が,人口の東京圏への 一極集中をもたらす可能性が示唆された.</tt></p>
著者
鈴木 春菜 藤井 聡
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木計画学研究・論文集 (ISSN:09134034)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.357-362, 2008-09-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
19
被引用文献数
14 17

地域愛着のインパクトについての研究はこれまで, 主として環境心理学をはじめとする他領域の中で各種の分析が進められてきたため, 土木計画に直接かかわる諸変数に対する地域愛着の影響は, 十分に検討されているとは言い難いものであった. 本研究では, このような背景のもと, 地域愛着と地域への協力行動をはじめとする土木計画にかかわる諸変数との間の統計的関係を質問紙調査の結果をもとに分析した. その結果, 地域愛着が高い人ほど, 町内会活動やまちづくり活動などの地域への活動に熱心で, 行政を信頼する傾向が示された.
著者
藤井 聡
出版者
一般財団法人 運輸総合研究所
雑誌
運輸政策研究 (ISSN:13443348)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.2-9, 2004
被引用文献数
2

<p>交通ネットワーク整備をはじめとする様々な交通政策を実施する際に近隣住民の合意が得られず,それ故にその政策を実施できないという局面は年々増加しているものと考えられる.こうした合意形成の問題に対処すべく,本稿では,社会的ジレンマ(藤井,2003)の理論的枠組を用いて社会状況を捉えることで,人々が特定の政策に対して合意する傾向を促進できる可能性を,社会心理学的アプローチに基づいて探る.特に,行政手続きに対する公正感(i.e. 手続き的公正)と行政に対する信頼の重要性を指摘するとともに,それらの高揚を目指すためには計画の修正可能性を担保すること,そして,計画上の誤りが明らかとなった場合には行政側の謝罪が決定的な役割を演ずることを理論的に指摘する.</p>
著者
夏山 英樹 神田 佑亮 藤井 聡
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F5(土木技術者実践) (ISSN:21856613)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.14-26, 2013 (Released:2013-06-20)
参考文献数
16
被引用文献数
5

現在日本では,地域主権改革の名の下,地方出先機関原則廃止の流れが存在している.また,民主党が掲げる「コンクリートから人へ」のスローガンにより,公共事業は縮小傾向にあり,それに伴い地方建設業もまた縮小傾向にある.しかし,先に起きた東日本大震災で復旧活動を主導したのは,今まさに廃止が論じられている地方整備局であり,その活動の先頭にいたのは地元建設業者である.本研究では,関係資料や関係者の証言に基づき,特に地方建設業に着目し,発災直後の対応として行った「くしの歯」作戦や関連する道路啓開・復旧作業の全容を改めて物語描写し,その物語描写に基づき,地方整備局を中心とした地方建設業界の防災対応力に関する基礎的な知見,ならびに,今後の防災対応を踏まえた行政制度設計に資する基礎的な知見を得ることを目的とする.
著者
藤井 聡
出版者
一般財団法人 運輸総合研究所
雑誌
運輸政策研究 (ISSN:13443348)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.002-009, 2004-10-29 (Released:2019-05-31)
参考文献数
17

交通ネットワーク整備をはじめとする様々な交通政策を実施する際に近隣住民の合意が得られず,それ故にその政策を実施できないという局面は年々増加しているものと考えられる.こうした合意形成の問題に対処すべく,本稿では,社会的ジレンマ(藤井,2003)の理論的枠組を用いて社会状況を捉えることで,人々が特定の政策に対して合意する傾向を促進できる可能性を,社会心理学的アプローチに基づいて探る.特に,行政手続きに対する公正感(i.e. 手続き的公正)と行政に対する信頼の重要性を指摘するとともに,それらの高揚を目指すためには計画の修正可能性を担保すること,そして,計画上の誤りが明らかとなった場合には行政側の謝罪が決定的な役割を演ずることを理論的に指摘する.
著者
株本 啓佑 田中 皓介 宮川 愛由 藤井 聡
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.1-17, 2020 (Released:2020-01-20)
参考文献数
40

適正な公共インフラ政策についての世論形成やそれに基づく政策判断を促すためには,公衆一人一人の事実情報の認識形成のプロセスについての知見が重要な基礎的知見となる.本研究ではこうした認識に基づき,「公共政策におけるキッチュ」の存在についての心理実証実験を行った.これは,「明らかな危険性を含んだ公共政策を,崇高にして達成可能な美しい理想のごとく絶対化し,そのような姿勢をとるうえで都合の悪い一切の事柄を,汚物のごとく見なして排除したがる態度」という,特定事実を無視する不合理かつ不条理な態度を意味する.本研究では「公共事業の縮小」「緊縮財政」「新自由主義的な改革推進」の三つの政策について「キッチュ」の存在を確認する心理学実験を行い,その存在を実証的に示した.
著者
阿部 正太朗 藤井 聡
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.37-45, 2015-04-25 (Released:2015-04-25)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

自転車の放置駐輪は、社会的ジレンマ構造を内包し大きな社会問題となっている。京都市では放置駐輪に対して、駐輪場増設や撤去取締りなどに力を入れている。また、放置駐輪への警告看板を市内のいたるところに設置しているが、その内容は放置自転車の撤去に関する記載に留まり、看板自体も老朽化、陳腐化している。本研究では、心理学などの知見を援用しつつ、放置駐輪の抑制を目的としたポスターを設計した。そして、設計したポスターを、実際に放置駐輪多発地点に設置し、その効果の検証を試みた。その結果、自転車放置者が自転車の放置をためらう意識の活性化等が確認され、ポスター設置による放置駐輪抑制効果が示された。
著者
佐藤 翔紀 高橋 祐貴 川端 祐一郎 宮川 愛由 藤井 聡
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.I_513-I_524, 2018 (Released:2019-01-10)
参考文献数
20

自然災害のリスクが高い我が国においては,中央政府と地方自治体双方の努力により「ナショナル・レジリエンス」を確保することが急務となっている.国のみならず地方自治体の取り組みが重要な役割を担っており,その実態の把握と,取り組みを改善する手段についての研究が不可欠である.本研究では,地方自治体に対するアンケートを行い,地方自治体における防災政策の現状を確認するとともに,防災に関する地方自治体間のやり取りや,近年公共政策の領域においても活用の可能性が指摘される物語型の情報共有が,防災政策の充実を促す傾向が観察されるか否かを検証する.
著者
羽鳥 剛史 福田 大輔 三木谷 智 藤井 聡
出版者
科学・技術研究会
雑誌
科学・技術研究 (ISSN:21864942)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.107-114, 2012 (Released:2013-01-11)
参考文献数
26
被引用文献数
1

本研究の目的は、モノに関する記憶の想起がそのモノに対する愛着意識にどのような影響を及ぼすかについて実証的に検討することである。この目的の下、具体的なモノとして「自転車」に着目し、大田区在住の自転車利用者704名を対象として実験を行った。この実験では、自転車に関する記憶を想起する条件を設定し、自転車への愛着意識に及ぼす影響を検証した。併せて、放置駐輪問題に関して、実験対象者の放置駐輪に対する態度を測定し、実験条件との関連を検討した。その結果、自転車に関する記憶を想起することにより、自転車への愛着意識が向上する効果が示された。さらに、自転車への愛着意識が放置駐輪を控える傾向と関連している可能性が示された。自転車に関する記憶の想起と放置駐輪に関わる態度との間には直接的な関連性は認められなかったが、共分散構造分析より、自転車に関する記憶の想起が愛着意識を活性化し、愛着意識が放置自転車配慮傾向(及び放置駐輪抑制意図)、放置自転車配慮傾向が放置駐輪抑制意図を活性化する、という因果プロセスの妥当性が示された。また、自転車に関わる記憶の想起による効果がどのような条件に依存しているかについて検証したところ、主な交通手段が自転車でない人、有料駐輪場を利用しない人、盗難経験のない人においては、自転車に関わる記憶を想起することによって、自転車への愛着が向上する効果がとりわけ強いという結果が示された。最後に、本研究の結果が放置駐輪問題に対して示唆する点についてとりまとめた。
著者
藤井 聡 谷口 綾子 羽鳥 剛史
出版者
東京工業大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本年度は,土木計画における公共受容や合意形成の問題を考える上で,個人の心理的傾向性として「大衆性」に着目した.そして,オルテガの政治哲学理論を踏まえ,行政行為が一切変化しない状況でも,公衆が大衆化することで公共事業に対する合意形成が困難となるであろうという仮説を理論的に措定した.そして,大学生100名を対象としたアンケート調査を通じて,その仮説を実証的に検証した.その際,大衆社会論の代表的古典であるオルテガ著「大衆の反逆」(1930)を基にして構成された個人の大衆性尺度を用い,それら尺度が,政府・行政や公共事業に対する態度に及ぼす影響を分析した.その結果,本研究の仮説が支持され.大衆性が公共事業に対する合意形成を阻害する可能性が示された.以上の結果は,人々の大衆性が昨今の行政不信と公共事業を巡る合意形成問題をもたらし得る本質的な原因であり,そうした問題の解消にあたっては,人々の大衆性を低減することが本質的課題であることを示唆するものである.次に,以上の先行研究を受けて,個人の大衆性を低減するための方途を探ることを目的として,人々とのコミュニケーションを通じた態度変容施策の一つとして,「読書」の効果について実証的に検討した.そして,内村鑑三著「代表的日本人」(1908)に着目し,本書を通読することによって,人々の大衆性が低減するという仮定を措定し,実証実験を通じて本仮説を検証した.その結果,本研究の仮説が支持され,「代表的日本人」を通読することによって,人々の大衆性が低減し得る可能性が示された.