著者
林 勲男 杉本 良男 高桑 史子 田中 聡 牧 紀男 柄谷 友香 山本 直彦 金谷 美和 齋藤 千恵 鈴木 佑記
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008-04-08

大規模災害被災地への人道支援や復興支援は、災害規模が大きくなるほど、地域を越え、国を越えたものとなる。そうした支援が被災地の従来の社会関係資本を正しく評価し、それを復旧・復興に活用し、さらにはその機能と価値を高めることによって、将来の更なる災害に対する脆弱性を克服することに繋がる。しかし、地域や国を越えての異なる文化や社会構造の理解は容易ではなく、多分野の専門家や住民との協働が求められる。それは、開発途上国の被災地への支援だけでなく、先進国で発生した災害の被災地支援についても同様であることが、2011年3月発生の東日本大震災で示された。平穏時から、対話と協働に基づく活動と研究が重要である。
著者
三尾 稔 杉本 良男 高田 峰夫 八木 祐子 外川 昌彦 森本 泉 小牧 幸代 押川 文子 高田 峰夫 八木 祐子 井坂 理穂 太田 信宏 外川 昌彦 森本 泉 小牧 幸代 中島 岳志 中谷 哲弥 池亀 彩 小磯 千尋 金谷 美和 中谷 純江 松尾 瑞穂
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

文化人類学とその関連分野の研究者が、南アジアのさまざまな規模の20都市でのべ50回以上のフィールド調査を実施し、91本の論文や27回の学会発表などでその結果を発表した。これまで不足していた南アジアの都市の民族誌の積み重ねは、将来の研究の推進の基礎となる。また、(1)南アジアの伝統的都市の形成には聖性やそれと密接に関係する王権が非常に重要な機能を果たしてきたこと、(2)伝統的な都市の性格が消費社会化のなかで消滅し、都市社会の伝統的な社会関係が変質していること、(3)これに対処するネイバーフッドの再構築のなかで再び宗教が大きな役割を果たしていること、などが明らかとなった。
著者
金谷 美和
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:24240508)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.403-424, 2000-03-30 (Released:2018-03-27)

本論では, 日本民芸運動を事例にして, 日本の植民地という状況下において支配する側にいた人々が, 他者をどのように概念化し, 記述し, 理解しようとしたかを検討することで, 文化表象, ことに物質文化の表象について考察する。「民衆的工芸」=「民芸」という概念は, 大正時代末に柳宗悦を中心とする民芸運動によって作られた。流通機構の変化や機械生産の導入などにより衰退していた, 地方の手工芸による日用生活用品を取りあげて「民衆的工芸」=「民芸」と名付け, それらのもつ美的価値と, 「地方性」, 「民衆性」という性質から, 真正なる日本文化を示すものであると主張した。民芸運動の活動は, 日本が植民地支配下においていた中国北部においても行われ, その言論は, 日本の中国支配, さらには「満州国」や「大東亜共栄圏」を支持するものとなっていった。ここでは, 中国北部の民芸運動の中心人物であった吉田璋也と, 中国での運動から距離をおいていた柳宗悦の言説を比較し, 異なる文化を尊重することから始まった民芸運動が, 日本の植民地支配を支える方向に向かっていった原因が, 柳の民芸論に内包されていたことを明らかにする。そして, 文化表象には創造性と支配の2つの側面があること, 異文化表象の政治性を批判するだけでなく, 文化表象の創造性を問うことで文化表象についての議論が新たな方向に向かう可能性を示唆する。
著者
金谷 美和
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.77-98, 2005-06-30 (Released:2017-09-25)

本研究は、インド西部グジャラート州カッチの女性によって着用されている頭に被る布オダニーの着用に注目し、布の着用を通して作られるヒンドゥーとムスリムの境界について考察したものである。衣服が、着用者の属性を示し、コミュニティ間の境界を示す機能をもっことは知られている。しかし、コミュニティの境界そのものや、境界を指標する衣服は固定的ではなく、衣服の着用者の所属するコミュニティの外部との関わりのなかで変化してゆくものであるインドが英国の植民地から独立して以降、境界の明確化、差異化が進行しており、宗教的なアイデンティティの高まりや、宗教の違いによってコミュニティを区別することは、そのような変化の過程として捉えるべきである。オダニーは、婚家において女性が特定の姻族の男性から顔を隠すアンダルという既婚女性の慣習の媒体であり、その機能や意味はヒンドゥーとムスリムによって共有されていた。しかし、ここ50年ほどの間で、オダニー着用の方法や意味は、ヒンドゥーとムスリムで異なる方向に変化していった。その変化によって、ヒンドゥーとムスリムの境界は、衣服の違いとして明確になっていった。衣服による可視的な差異と境界の明確化と並行して、ヒンドゥーとムスリムという宗教の違いが、次第にコミュニティ帰属の最も重要な要素として人々に認識されるようになっていったのである。
著者
吉本 忍 金谷 美和
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、現在アジア、アフリカにおいて民族衣装の素材として広く使用されているプリント更紗が、インドネシアやインドの伝統的染織技法とデザインをもとにして、ヨーロッパの植民地支配を背景にしたグローバルな交易と産業革命による技術革新によって創出され、広く展開してきた歴史的経緯を、サンプル帳を始めとする資料の検討によって実証的に明らかにしたものである。本研究を通して、私たちが経験する伝統工芸の変革と文化の創出の場面におけるグローバル化の功罪などの本質的意義について批判的視座を提示した。
著者
李 仁子 二階堂 裕子 金谷 美和
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、東日本大震災の津波被災地において人々の生活再建や地域の復興がどのように進むのかを明らかにするために、複数の調査地で長期にわたる文化人類学的調査を行い、被災者の移動に伴う生活相の変化や、被災者をとりまく社会的環境の変化、さらには彼らのコミュニティに生じた再生や変容を詳細に記録した。再建や復興のプロセスは一様かつ直線的なものではなく、被災の程度、行政による施策の影響、震災前から家族やコミュニティに内在していた諸条件、外部からのボランティアとの関わり方等々といった様々なファクターにより多様かつ複雑に展開するのだが、その全容を民族誌的に記述するためのデータを蓄積することもできた。