著者
阿部 彩
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.339-348, 2021-05-15 (Released:2021-06-03)
参考文献数
28

目的 本研究は,祖父母世代の貧困が親世代の貧困を統制しても孫のBMIと抑うつに影響があるのかを明らかにすることを目的とした。方法 東京都(2016年)が行った都下の4つの自治体の小学5年生,中学2年生,高校2年生の年代の全児童とその保護者を対象とした子どもの生活実態調査(有効回収数8,367票,有効回答率42.0%)のデータを用いて,まず,祖父母世代の貧困と親の貧困による4つの貧困タイプに分類し,BMIと抑うつの値の差を検証した。次に,祖父母世代の貧困が親世代の貧困と親世代のBMIと抑うつと関連し,それらを介して孫のBMIと抑うつと関連するといった関係に加え,直接的にも孫のBMI・抑うつに関連するというモデルを仮定し,モデルの適合性と変数間の関連を,構造方程式モデリング(SEM)を用いて分析した。分析に用いたのは,保護者票の回答者が母親であった小学5年生2,407票,中学2年生2,415票であった。指標には,孫にはBMIとバールソン児童用抑うつ尺度(DSRS-C),親にはBMIおよびK6を用いた。結果 抑うつについては,祖父母世代では貧困であったが,現在貧困でない層は非貧困層に比べ統計的に有意に抑うつ指標が高かった。しかし,BMIについては統計的な有意差はなかった。また,SEM分析の適合度は,BMIの場合はCFI=0.907,RMSEA=0.036,抑うつ指標の場合はCFI=0.810,RMSEA=0.037であった。祖父母の貧困は,BMIについては親のBMIを介して子のBMIと正に関連しているものの,直接的な関連や親の貧困を介した関連は見られなかった。しかし,抑うつについては,親の貧困,親の抑うつを介した正の関連に加え,直接的な正の関連が認められた。結論 抑うつについては,祖父母世代の貧困は,親の貧困と抑うつを介さない祖父母世代からの不利の蓄積が孫の抑うつと正に関連しており,その対策には,現時点の親と子の状況の改善のみならず,将来,子が親となる時に不利を孫に伝承しない「3世代アプローチ」が必要である。一方,BMIについては,親と子の2世代の現時点のBMIに対する政策が有効であると考えられる。
著者
新井 祐未 石田 裕美 中西 明美 野末 みほ 阿部 彩 山本 妙子 村山 伸子
出版者
日本栄養・食糧学会
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.139-146, 2017 (Released:2017-11-16)

世帯収入別の児童の栄養素等摂取量に対する学校給食の寄与の違いを明らかにすることを目的とし,小学5年生の児童とその保護者を対象に調査を実施した。世帯収入は保護者への質問紙調査,児童の栄養素等摂取量は平日2日と休日2日の計4日間の食事調査(秤量・目安量記録法)により把握した。低収入群と低収入以外群に分け,摂取量および摂取量に占める学校給食の割合について共分散分析により比較した。低収入群は平日より休日に摂取量が有意に少ない栄養素が多く,特に昼食で有意な差が認められる栄養素が多かった。また平日,休日ともにたんぱく質摂取量が有意に少なかった。平日1日あたりの摂取量に占める学校給食の割合には有意な差が認められなかった。休日を含めた4日間の総摂取量に占める学校給食の割合は,たんぱく質,ビタミンA,食塩相当量で有意な差が認められ,いずれも低収入群の割合が低収入以外群の割合より高かった。4日間の摂取量に対する学校給食の寄与は,低収入以外群より低収入群の方が高いことが明らかとなった。
著者
阿部 彩 上枝 朱美
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.67-82, 2014-09-10 (Released:2018-02-01)
被引用文献数
1

本稿は,「最低限必要な住まい」の広さや設備といった具体的な「質」について,三つの調査((1)「2011年社会的必需品調査」,(2)ミニマム・インカム・スタンダード法(MIS法)による最低生活費の推計.(3)「最低限必要な住まいに関する調査」)により明らかにしようとしたものである。三つに共通するのは,どれも,一般市民に許容範囲の「最低限の住まい」とはどのような広さや間取りであり,どのような設備が備わっているべきか,また,家賃は収入のどれくらいの割合に収まるべきかという質問を投げかけ,社会規範としての最低生活の住まいの姿を明らかにしようとした点である。これを国土交通省による最低居住基準と比較することにより,求められる住まいの具体像に接近することが可能となった。
著者
阿部 彩
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.362-374, 2012

日本の子どもの相対的貧困率は16%であり,約6人に1人が相対的貧困状態にあると推計される。しかしながら,この相対的貧困の概念については,研究者らも含め殆ど知られておらず,この数値の意味するところが理解されていないのが現状である。本稿では,子どもの相対的貧困率の現状と動向を把握した上で,「豊かさ」と「貧しさ」という観点から,相対的貧困と絶対的貧困の概念の違いを明らかにする。また,一般市民の貧困の概念が,絶対的貧困や物質社会に反抗する精神論に強く影響されており,それが現代における貧困(相対的貧困)の議論の本質を見えにくくしている点を指摘した。最後に,相対的貧困が,どのようにして子どもの健全な育成を妨げているかについて,一つは相対的貧困にあることが子ども自身の社会的排除を引き起こすリスクが高いこと,二つが,子どもが相対的貧困の状態であるということは,親も相対的貧困状況にあるということであり,貧困が親のストレスを高め,親が子どもと過ごす時間を少なくし,孤立させることにより,厳しい子育て環境に置かれていることを指摘した。「豊かさ」や「貧しさ」は相対的な概念であり,たとえ豊かな社会であっても相対的貧困にあることは大きな悪影響を子どもに及ぼす。
著者
小島 唯 阿部 彩音 安部 景奈 赤松 利恵
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.86-93, 2013 (Released:2013-05-23)
参考文献数
13
被引用文献数
8 4

【目的】学校給食の食べ残しと児童の栄養摂取状況との関連を検討すること。【方法】2009年5~6月,東京都公立小学校に通う5・6年生の児童112名を対象に,給食の食べ残しに関する自記式質問紙調査と残菜調査を実施した。残菜調査は,対象者一人につき2回ずつ行い,延べ人数のデータを用いた。残菜調査の結果から,食べ残しの有無により,残菜率0%の児童を完食群,それ以外の児童を残菜群とした。この2群の栄養摂取量の中央値の差について,一般化推定方程式(generalized estimating equation: GEE)を用いて検討した。解析対象の栄養素等は,エネルギー,たんぱく質,脂質,炭水化物,ミネラル5種,ビタミン4種,食物繊維とした。【結果】延べ人数で,218名分の残菜データを得た。そのうち,男子104名(47.7%),女子114名(52.3%)であった。全体で,残菜群が80名(36.7%),完食群が138名(63.3%)であった。残菜率は0.2%~84.3%の間に分布していた。残菜群と完食群のエネルギーの中央値(25,75パーセンタイル値)は,各々 562(435,658)kcal,715(699,715)kcalであった(p<0.001)。また,ビタミンCの中央値(25,75パーセンタイル値)は,残菜群で 26(16,35)mg,完食群で 41(41,47)mgであった。同様に,その他すべての栄養素等で差がみられた(すべてp<0.001)。【結論】残菜群のビタミンCを除く栄養摂取量は,完食群に比べて2~3割少なかった。残菜群のビタミンC摂取量は,完食群に対して4割程度少なかった。
著者
米田 穣 阿部 彩子 小口 高 森 洋久 丸川 雄三 川幡 穂高 横山 祐典 近藤 康久
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究では、全球大気・海洋モデルによって古気候分布を復元し、旧人と新人の分布変動と比較検討することで、気候変動が交替劇に及ぼした影響を検証した。そのため、既報の理化学年代を集成して、前処理や測定法による信頼性評価を行い、系統的なずれを補正して年代を再評価した。この補正年代から、欧州における旧人絶滅年代が4.2万年であり、新人の到達(4.7万年前)とは直接対応しないと分かった。学習仮説が予測する新人の高い個体学習能力が、気候回復にともなう好適地への再拡散で有利に働き、旧人のニッチが奪われたものと考えられる。
著者
阿部 彩子 田近 英一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

地球上には長い目でみれば生命が存在するような温暖な環境が保たれてきた。ところが、原生代前期と原生代後期において、低緯度の陸が氷で覆われるほどの氷河期が出現したこと、その後急激な温暖化で気候が回復したことなどが最近明らかになった。このような地球規模の大寒冷化では全球凍結状態が実現したのではないかと考えられ、スノーボールアース仮説とよばれている。本研究では、大循環モデルと炭素循環モデルを用いて、地球の過去に見られるような全球規模の凍結や融解がどのような条件で起こりうるものなのかを数値実験によって明らかにすることを大目標としている。本研究では、まず、大循環モデルによる全球凍結の臨界条件決定のための数値実験を数多く行ない、全球凍結に至る気候遷移過程や全球凍結から脱する遷移過程などを調べた。大循環モデル(東京大学気候システム研究センター/環境研にて開発)を用いて、気候感度をしらべるためのエネルギーバランスモデルと同様の系統的実験を行った。季節変化のある場合とない場合、現実のように大陸配置がある場合をまったくなくてすべて海の場合のような異なるケースに対して、異なる太陽定数を設定した実験を、系統的に実行した。結果は、全球凍結に陥る条件については、季節変化の有無に敏感であることがわかった。また、大循環モデルの結果は、地球が部分凍結している条件の範囲がエネルギーバランスモデルで求めたものよりずっと広く、これはハドレー循環や中緯度擾乱など大気輸送メカニズムを考慮したことによることがわかった。海洋熱輸送の変化の寄与を考えずに大気熱輸送の寄与のみを考える限りにおいては、大陸配置はほとんど臨界条件に影響を与えないことがわかった。さらに、大陸配置依存性は、少なくとも降水や蒸発に関わる大気水循環を通じて、炭素循環や氷床形成条件に影響を与えることなどが示唆された。今後この結論は海洋循環や海氷力学の扱いによって変更される可能性があることが、予備的に現在開発中の大気海洋海氷結合モデルの示す南北半球の違いから示唆された。また氷床の力学が臨界条件を変更することが予想される。今後は、大循環モデルの結果を氷床モデルや炭素循環システムのモデルに与えて数値実験を行なうこと、さらに海洋および海氷の効果と氷床力学の効果について検討してゆくこと、など課題は多く残されている
著者
阿部 豊 阿部 彩子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

1.南北一次元エネルギーバランスモデル(EBM)を用いた検討:拡散近似の南北一次元エネルギーバランスモデルを構築し、離心率と自転軸傾斜の影響を吟味した(1)気候レジームは年平均日射、最大日射、最小日射に複雑に依存まる。(2)離心率の増大で年平均日射が大きくなるため概して温暖化する。(3)一般に離心率の増大によって気候の多重状態は解消する。(4)近日点での一時的な暴走状態の発生が、平均的な気候状態や生物生存可能性に大きな影響を与える。(5)自転軸傾斜角、離心率、軌道長半径は一定のままでも、歳差運動(春分点と近日点の位置関係の変化)によって気候モードが変化する惑星が存在する。(6)年間の温度変化幅は傾斜角の大小と歳差運動によって大きく変わる2.大気大循環モデル(GCM)を用いた検討:地球大気用に気候システム研究センターと国立環境科学研究所で共同開発してきたCCSR/NIES AGCM 5.4gを使用して、理想的な惑星(現在の地球大気、地球サイズ)のモデルを作り、離心率を変化させる実験をすすめた。(1)定性的にはEBMを用いた結果と一致するが、やや寒冷化する傾向がある。(2)地面状態の違いによって、離心率が増大したときに暖かくなる場合と寒くなる場合がある。(3)降水分布の年変化は自転軸傾斜による直立・傾斜レジームと離心率による溜め込み・放出サイクルの合成されたものとして理解できる。3.生存可能性について:(1)熱容量が大きい場合、年平均日射が最も重要である。(2)歳差運動まで考慮すると、生存可能な緯度帯を持つ惑星の軌道は自転軸が少しでも傾くと離心率が小さい範囲に制限される
著者
松井 孝典 阿部 彩子 杉田 精司 大野 宗祐
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では, 堆積岩及び各種氷の衝突脱ガス過程における化学反応過程の解明を目的として実験を行った. また, 脱ガス過程からの反応生成物が, 地球気候システムに及ぼす影響の定量的評価を行った. 結果として, (1)衝撃脱ガスによるCO2の発生は, 先行研究の推定より非常に高圧でのみ起きることと(2)白亜期末の巨大隕石衝突後には, 従来想定されていたCO2の大量発生ではなくCOが大量に発生したらしいこと, (3)COが大量発生した場合には, 強力な温室効果が起きることが分かった.
著者
阿部 彩
出版者
日本統計協会
雑誌
統計 (ISSN:02857677)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.2-8, 2010-05