- 著者
-
高橋 誠一郎
- 出版者
- International Society of Histology and Cytology
- 雑誌
- Archivum histologicum japonicum (ISSN:00040681)
- 巻号頁・発行日
- vol.12, no.2, pp.297-309, 1957
正常犬の視床下部神経分泌細胞の位相差顕微鏡所見を記載した.<br>Ravonal 麻酔下に両側内頸静脈より潟血しつつ両側内頸動脈より先ず Ringer 氏液1500cc, ついで冷却40%庶糖液1000ccで灌流後, 開頭, 視索上核と脳室旁核を摘出, 凍結切片を40%庶糖液で封入するか, 或は Zenker 氏液, Bouin 氏液, formalin, alcohol の何れかで固定後4μ paraffin 切片とし, 脱パラ後 glycerin で封入して, 何れも主として dark contrast, 特にP. M. で観察し, かつ Gomori 氏C. H. P. 標本及び Nissl 標本の所見と比較した.<br>無固定神経分泌細胞の細胞質内及び突起内にはその形態並びに配列状態が Gomori 標本におけるC. H. 好性顆粒に酷似する多数の小球形顆粒が認められ, それらは, 小脳皮質の Purkinje 細胞や大脳皮質の錐体細胞には同様の顆粒が見出されないが, 後葉の血管周囲には同様の顆粒の密集所見があり, 渇状態においては視床下部においても後葉においてもそれらが激減する等のことから, 神経分泌顆粒と同定される. Mitochondria は神経分泌顆粒に混合し, 後者よりも明るい短桿状の顆粒として区別される. Nissl 物質は, 神経分泌顆粒及び mitochondria の少い細胞辺縁部に, 均質, 暗調, かつ粗大な顆粒又は塊状物として認められ, Nissl 標本における Nissl 物質の所見と一致した所見を呈する. これらの細胞内構造のうち, 最も長時間にわたって安定した位相差像を保つものは神経分泌顆粒であり, 秋-冬季, 室温で高張庶糖液中において約6-7時間その所見に著変を来さない.<br>固定標本における所見は Zenker 氏液, Bouin 氏液, formalin の何れを用いた場合にも著しい差異はなく, 無固定標本におけるに比して位相差像の鮮明さが稍々劣るが, 上記の細胞内諸形態は何れも識別される.<br>Alcohol 固定の標本では神経分泌顆粒が認められない. Alcohol 固定標本の Gomori 染色標本においても神経分泌顆粒が消失しているが, 位相差所見はそのことが分泌顆粒の染色性の変化に基ずく所見ではなく, 分泌顆粒の消失に基ずく所見であることを示し, その点後葉における同一所見とは全く意義を異にする (後報).<br>Golgi 装置は無固定, Zenker 固定, Bouin 固定, formalin 固定の何れの場合にも認められないが, 青山氏法の固定を行えば鍍銀を行わなくとも, 微細管腔状の構造が固定鍍銀標本におけると同様な形態で見出される.