著者
今井 範子 伊東 理恵
出版者
社団法人日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.57, no.11, pp.761-774, 2006-11-15
被引用文献数
5

本研究は,開発から約30年を経過した遠隔郊外に立地する戸建住宅地を対象に,居住地の問題を明らかにし,居住者の家族構成や親子の居住形態の動向を明らかにすることを試みた.その結果を以下にまとめる.1)住宅地内の空地が約10%,空家が約5%存在すること,中古住宅の割合が2割に満たないことから住民の入替わりが頻繁に起こらず,住宅地としての停滞状況が把握できる.このまま流入が停滞すれば,住宅地として衰退することが予測される.また住宅の改修率が低く,住宅更新があまり行われておらず,住宅の老朽化がみられる.2)駅から遠く,坂の多いこの住宅地において,居住者は買い物をはじめとして日常生活を車に依存した生活を送っている.駅から遠いこの住宅地で高齢期を過ごすことへの不安は極めて大きく,移動に関する交通手段の整備などをはじめとして,高齢者のための居住地整備が求められる.3) 60歳未満において,女性有職率が極めて低く,食関連施設の不足,医療や福祉関連施設が不十分であり,仕事場が遠い,駅から遠いことから,女性が就労することを前提とした住宅地でない.4)昭和40年代前半の都市計画により,住宅地内の幹線道路沿いは店舗等を想定し中高層の建物が建築可能な用途地域として計画された.しかし分譲開始から現在に至るまでこの道路沿いに店舗は少なく,また3層以上の建物は建築されていない.存在した店舗の撤退が近年相次いでいる.5)「65歳以上の人がいる」高齢世帯の割合は4割弱,60〜64歳の人がいる世帯を含めると6割が高齢世帯であり,今後さらに急激な高齢化が予測される.遠隔地という立地上,子は独立して流出し,戻らない傾向が強く,今後,高齢夫婦のみ,高齢単身世帯が増加すると予測される.6)別居既婚子との居住形態は,遠居が特徴である.このため,交流頻度は低く,たとえば買い物などの日常的な家事や通院の付き添いといった,子からの直接的な支援は実質受けられない状況にある.7)自然環境の良さが永住意識と結びついているが永住したいと考えるのは半数に過ぎず,永住意識は低い.住み替え希望があっても地価の下落により転売を困難にしている.8)ここ10年ほどの間の転入者のうち,親世帯や子世帯と近接居住のためにこの住宅地に転入してきた世帯は若干存在し,近年微増の傾向がみられる.また,現在他地域に居住している親世帯や子世帯が今後転入し同居,近居予定のある世帯も一定の割合で存在した.しかしながら全体としてその割合は極めて低く,血縁による居住の継承の可能性は低い.このため,今後居住地として持続していくためには,血縁によらない,新規流入が必要である.9)徒歩圏内の食関連の店舗,今後増加する高齢者のための居場所,NPO活動のための空間などの整備が求められる.それらに対し,空地,空家の活用等が当面重要である.10)対象遠隔住宅地の問題点を集約すると,つぎのようである.(1)新規流入が停滞している現況を踏まえると,団塊世代以上の年齢層の居住者が多く居住し,高齢化が,一挙に進展することが予測されること,(2)親子の居住形態の動向は,同居は少なく,別居が主であり今後,高齢夫婦のみ,高齢単身世帯が増加すること,(3)買い物等を車に頼っている現状から,加齢に伴い車の運転から遠ざかり,日常生活における移動困難が発生すること,(4)子との居住形態は遠居であり,子からの身近な支援は受けにくいこと,(5)血縁による居住の継承の可能性は低いこと等である.11)このような遠隔郊外住宅地の方途として,いくつか考えられる.まずは,どの方途であっても,高齢期に対応した居住空間と居住環境の整備は急務であることはいうまでもない.今回の調査から即断することは出来ないが,このまま新規流入が少なく停滞状況となるならば,必然的に衰退化を招かざるをえないであろう.しかし,周辺に保有する自然環境と歴史環境を生かし,また空家や空地の発生に伴う居住地の再編を進め,ゆとりのある郊外住宅地として多世代が生活を共有できる持続可能な住宅地にむけた再構築をめざす方途も一つの方向である.本調査からは,いずれかの方途を具体的に指し示す即断は避け,遠隔郊外住宅地がかかえる課題を精査し,今後の方策とそのあり方を考えていきたい.調査活動にあたり,当時奈良女子大学4回生の杉村知江乃さん,同大学院生の関川華さんの協力を得た.
著者
山口 理衣 伊東 理夫 小笠原 榮希 進士 久明 上西 秀則 本川 渉
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.638-642, 1997-09-25 (Released:2013-01-18)
参考文献数
20

小児歯科臨床における強電解酸性水のより有効利用を調べるため,実験的感染腐敗根管を用いて,強電解酸性水による洗浄,消毒効果を調べた。また,歯ブラシの消毒効果についても検討し,以下の成績を得た。1.根管消毒効果は強酸性水の使用量に比例して効果が高まる。2.根管拡大後,残留するスメア層は除去した方がより効果的である。3.強酸性水は歯垢細菌中の特にグラム陰性菌に対しては強い殺菌効果を示す。4.使用後の歯ブラシを流水にて軽く洗った後に強酸性水に短時間(1分間)浸漬することで有効な消毒効果が得られた。以上のことにより,金属以外の歯科用小器具の簡便な消毒にも応用可能と考えられた。
著者
藤井 正 伊東 理 伊藤 悟 谷 謙二 堤 純 富田 和昭 豊田 哲也 松原 光也 山下 博樹 山下 宗利 浅川 達人 高木 恒一 谷口 守 山下 潤
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

まず、多核的都市圏構造の研究を整理・展望し、空間的構造の変化に関して社会的メカニズムを含め、地理学と社会学からの分析を行い、同心円的なパターンから地区の社会的特性によるモザイク化、生活空間の縮小の傾向を明らかにした。これは都市整備面では、多核の個性を生かし、公共交通で結合する多核的コンパクトシティ整備を指向するものとなる。こうした整備についても、中心地群の再編等の動向について国際比較研究を展開した。
著者
日野 正輝 富田 和暁 伊東 理 西原 純 村山 祐司 津川 康雄 山崎 健 伊藤 悟 藤井 正 松田 隆典 根田 克彦 千葉 昭彦 寺谷 亮司 山下 宗利 由井 義通 石丸 哲史 香川 貴志 大塚 俊幸 古賀 慎二 豊田 哲也 橋本 雄一 松井 圭介 山田 浩久 山下 博樹 藤塚 吉浩 山下 潤 芳賀 博文 杜 国慶 須田 昌弥 朴 チョン玄 堤 純 伊藤 健司 宮澤 仁 兼子 純 土屋 純 磯田 弦 山神 達也 稲垣 稜 小原 直人 矢部 直人 久保 倫子 小泉 諒 阿部 隆 阿部 和俊 谷 謙二
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

1990年代後半が日本の都市化において時代を画する時期と位置づけられる。これを「ポスト成長都市」の到来と捉えて、持続可能な都市空間の形成に向けた都市地理学の課題を検討した。その結果、 大都市圏における人口の都心回帰、通勤圏の縮小、ライフサイクルからライフスタイルに対応した居住地移動へのシフト、空き家の増大と都心周辺部でのジェントリフィケーションの併進、中心市街地における住環境整備の在り方、市町村合併と地域自治の在り方、今後の都市研究の方向性などが取組むべき課題として特定された。
著者
野間 晴雄 森 隆男 高橋 誠一 木庭 元晴 伊東 理 荒武 賢一朗 岡 絵理子 永瀬 克己 朴 賛弼 中俣 均 平井 松午 山田 誠 山元 貴継 西岡 尚也 矢嶋 巌 松井 幸一 于 亜 チャン アイン トゥアン グエン ティ ハータイン チャン ティ マイ・ホア 水田 憲志 吉田 雄介 水谷 彰伸 元田 茂光 安原 美帆 堀内 千加 斎藤 鮎子 舟越 寿尚 茶谷 まりえ 林 泰寛 後藤 さとみ 海老原 翔太
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

東アジア世界に位置する歴史的地域としての東シナ海,日本海,黄海・渤海・中国東北地方,広義の琉球・ベトナム,朝鮮半島の5つの部分地域として,環東シナ海,環日本海沿岸域の相互の交流,衝突,融合,分立などを広義の文化交渉の実体としてとらえる。それが表象された「かたち」である建築,集落,土地システム,技術体系,信仰や儀礼,食文化等を,地理学,民俗建築学,歴史学・民俗学の学際的研究組織で,総合的かつ複眼的に研究することをめざす。いずれも,双方向の交流の実体と,その立地や分布を規定する環境的な側面が歴史生態として明らかになった。今後はこの視点を適用した論集や地域誌の刊行をめざしたい。
著者
高瀬 武典 大西 正曹 与謝野 有紀 伊東 理 廣田 俊郎 森田 雅也 林 直保子
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

1.地域活性化モデルの精密化と汎用性の検討廣田は、上場企業を対象に「サービス価値向上のための戦略・組織、システムに関する質問票調査」を実施し、サービス業が地域社会・経済システムの活性化に対して果たす役割について「経済的貢献・自社へのフィードバック・問題状況への対応・社会的貢献」の類型化を行った。2.経済活性化の日英比較伊東は英国訪問調査により、1990年代以降英国における都市活性化の成功例である、各都市における小売業の「タウン・シティセンター」の動向実態と成功要因を研究し、大阪における小売業活性化に向けて、(1)地域都市圏全体での検討(2)きめ細かい土地利用計画(3)意思決定の仕方の再検討(4)計画・戦略の連携・調整の重要性などを指摘した。3.事業所統計調査結果の時系列比較高瀬は、過去の事業所組織と雇用関係の統計分析をすすめて、組織からの個人への束縛作用が、官僚制的な束縛と終身雇用的関係からの束縛という両方の点から見て軽減の傾向にあり、組織活性化を促進する背景的状況が生まれていることを明らかにした。4.経済活性化のための社会的基盤の検討与謝野と林は、全国の20歳以上を対象にした「信頼感」に関する調査結果をもとに、「信頼の解き放ち理論」の前提となる事実認識が支持を得られないものであることを示した。このことは、個人間競争を通じた経済活性化という、よく見受けられる政策的提案の妥当性に疑問を抱かせるものである。5.経済活性化の事例研究大西は、東大阪市の工場組織に関する実態調査をもとに活性化に向けた方策として中小企業の独立化、企業グループの形成、企業間ならびに官民連携による設備活用を提案した。6.活性化につながる人的資源の形成に関する研究森田は日米欧におけるエンプロイヤビリティの展開を比較し、人事制度に組み込むための条件について考察した。