著者
森 静香 横山 克至 藤井 弘志
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.113-119, 2010
被引用文献数
1 5

共同籾調整乾燥貯蔵施設利用地域における産米の食味向上については,地域全体で産米のタンパク質含有率の制御を目的とした食味向上栽培技術の導入と同時に個別の産米に対する評価の方法を構築する必要がある.そこで,登熟期の葉色と玄米タンパク質含有率の関係,その年次間・地域間変動および登熟期の葉色による産米の仕分けについて検討した.乳熟期,糊熟期および成熟期における葉色と玄米タンパク質含有率の関係は,止葉および次葉とも,糊熟期での相関が最も高く(r=0.814<sup>***</sup>),次いで成熟期(r=0.727<sup>***</sup>),乳熟期(r=0.704<sup>***</sup>)であった.また,1999年から2001年での年次別および地域別の止葉の葉色と玄米タンパク質含有率の相関関係を比較すると,糊熟期>成熟期>乳熟期の順に高くなる傾向であった.糊熟期の葉色で玄米タンパク質含有率を推定した場合,乳熟期および成熟期と比較して,地域・年次による差が小さかった.1999年から2001年の八幡町・酒田市・鶴岡市において,玄米タンパク質含有率が75 g kg<sup>-1</sup>となる糊熟期の止葉の葉色値(10株の最長稈の平均値)32を境界値とした場合,葉色値32以上と32未満のグループにおける玄米タンパク質含有率の差が5.4~7.8 g kg<sup>-1</sup>での仕分けが可能であった.
著者
森 静香 横山 克至 藤井 弘志
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.113-119, 2010
被引用文献数
1 5

共同籾調整乾燥貯蔵施設利用地域における産米の食味向上については,地域全体で産米のタンパク質含有率の制御を目的とした食味向上栽培技術の導入と同時に個別の産米に対する評価の方法を構築する必要がある.そこで,登熟期の葉色と玄米タンパク質含有率の関係,その年次間・地域間変動および登熟期の葉色による産米の仕分けについて検討した.乳熟期,糊熟期および成熟期における葉色と玄米タンパク質含有率の関係は,止葉および次葉とも,糊熟期での相関が最も高く(r=0.814<sup>***</sup>),次いで成熟期(r=0.727<sup>***</sup>),乳熟期(r=0.704<sup>***</sup>)であった.また,1999年から2001年での年次別および地域別の止葉の葉色と玄米タンパク質含有率の相関関係を比較すると,糊熟期>成熟期>乳熟期の順に高くなる傾向であった.糊熟期の葉色で玄米タンパク質含有率を推定した場合,乳熟期および成熟期と比較して,地域・年次による差が小さかった.1999年から2001年の八幡町・酒田市・鶴岡市において,玄米タンパク質含有率が75 g kg<sup>-1</sup>となる糊熟期の止葉の葉色値(10株の最長稈の平均値)32を境界値とした場合,葉色値32以上と32未満のグループにおける玄米タンパク質含有率の差が5.4~7.8 g kg<sup>-1</sup>での仕分けが可能であった.
著者
白岩 立彦 橋川 潮
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.1-8, 1993-03-05
被引用文献数
4

ダイズ個体群における捕捉日射エネルギーの乾物への変換効率 (EPAR) の安定性および変動要因を検討した. 1989年に品種エンレイを異なる播種期, 個体密度および畦幅で, 1990年に品種タマホマレを異なる個体密度で, それぞれ圃場栽培した. ダイズ個体群による光合成有効放射 (PAR) の捕捉量と地上部全乾物重の推移を測定したところ, 両者の関係は密接であった. しかしそれは, 生育時期を問わず直線的であるとは単純にはいえず, 両者の比であるEPARは生育初期には増加し, その後やや安定的に推移した後, 子実肥大始 (R5) を過ぎる頃から低下した. このような推移には, 第一に個体群光合成能力の変化が関与すると思われるが, このことに加えて, 生育初期のEPAR増加過程には葉面積増加による光飽和葉の減少が, また生育後期におけるEPAR低下過程には維持呼吸量増大の影響が, それぞれ関与することが示唆された. 安定期におけるEPARは, ほとんどの処理区で2.1〜2.3gMJ^<-1> (1989年) あるいは2.4〜2.5gMJ^<-1> (1990年) の範囲にあり, 播種期, 個体密度あるいは畦幅によっては大きくは変動しないものと思われた. EPARの若干の変動をもたらす要因を検討したところ, EPARは, 葉面積当りN含量とは無相関だったが, 群落吸光係数 (KPAR) との相関は比較的明瞭 (r=0.651) だった.
著者
斎藤 邦行 杉本 充
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.91-93, 1998-03-05
被引用文献数
2

自然光下で生育した水稲の暗呼吸速度(Rr)の日変化と日変化に影響する要因を検討するため以下の3つの実験を行った.水田に生育した水稲を用いて, 18時から翌日18時までの24時間連続して暗黒下におけるRrの経時変化を測定した(実験I).Rrは暗期移行後急速に低下して翌朝までほぼ一定で推移し, 午前5次をすぎると, 生育初期には急速に低下, 最高分げつ期以降には上昇し("morning rise"MRと略記), 最大値を示す時刻は登熟後期ほど遅くなった.各時刻のRrは生育の進みに従い小さくなった.早朝から夕刻まで3段階の遮光処理を行い, 18時以降Rrの測定を行った結果(実験II), 遮光率が大きくなるとRrは低くなったが, 暗黒下においた個体(100%遮光)のRrは80%遮光区に比べ高くなった.ポット栽培し, 野外で孤立状態にある個体を早朝6時から, 18時まで3時間おきに5回, 明所から暗黒下のチェンバーへ移してそれぞれ3時間のRrの経時変化を測定した(実験III).各3時間の測定において, いずれの測定時刻においてもRrは測定開始直後急速に低下した後に上昇して極大値を示し, その後低下する経時変化が認められた.Rrの最大値は午前中に認められ, 夜間に比べ日中のRrは1.3〜2倍の値を示した.実験IIより暗呼吸速度は夕刻になるほど高くなると考えられたが, Rrの日変化のピークは午前中にみられ, この日変化とMRを示す時刻がよく一致したことから, Rrの日変化は主として内生的なリズムにより制御されている可能性が示唆された.
著者
宋 祥甫 縣 和一 川満 芳信
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.107-112, 1990-03-05
被引用文献数
4

水稲の子実生産は, 出穂期前に稈・葉鞘部に蓄積された非構造性炭水化物 (NSC) と出穂後の葉身光合成による同化産物とによって決まることから, 本報ではそれぞれの指標となる茎葉中のNSC%と葉身窒素濃度 (N%) の動態に注目して, F_1ライスの多収性を検討した。F_1ライスの葉身中のNSC%は普通稲品種に比べて大差はなかったが, 稈・葉鞘部では顕著に高かった。各品種とも出穂後NSC%は急減したが, 普通稲品種では登熟期後半に再び高まった。これに対してF_1ライスは登熟末期まで減少を続け, その減少率も大きかった (第1図)。出穂期から登熟末期にかけてのNSC%の減少と稈・葉鞘部から子実への乾物の転流分との間には高い正の相関々係が認められた (第3図)。また, 玄米収量との間にも高い正の相関々係がみられた (第4図)。これらの結果は, 子実への転流の主体はNSCであること, 稈・葉鞘部のNSC%は玄米収量と密接な関係にあることを示し, F_1ライスの多収性は高いNSC%に負うところが大きいことが示唆された。各品種とも葉身のN%は稈・葉鞘部に比べて高く, 生育段階が進むにつれて減少した。F_1ライスの N%は葉身, 稈・葉鞘部とも普通稲に比べて低く, 減少割合も小さかった (第5図)。葉身のN%と玄米収量との間には, F_1ライスを除いた場合, 両者間に有意な正の相関々係が認められた (第6図)。以上の結果から, F_1ライスの子実生産は普通稲品種に比べて, 出穂期前に稈・葉鞘部に蓄積された炭水化物に依存する割合が大きいことが明らかになった。
著者
玉置 雅彦 山本 由徳
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.29-34, 1997-03-05
被引用文献数
5

遮光および施用窒素量が, 水稲の出葉転換点とその前後の出葉速度ならびに分げつ発生数に及ぼす影響について検討した. 1/5000a ワグネルポットを用いて, 3レベルの遮光処理(0, 50, 95%)と3レベルの施用窒素量処理(移植時から10日毎に25, 100, 200 mgN/ポット施用)を組み合わせた計9区の処理区を設定し, 移植時から収穫時まで処理を行った. 主茎の葉齢の増加は, 95%遮光区を除き, 出葉転換点を境にして2本の直線で近似することができた. 95%遮光区は, 出葉転換点が存在せず1本の直線で近似された. 出葉転換点までの出葉速度は, 施用窒素量よりも光条件によって強く左右され, 強光下ほど出葉速度は早かった. しかし出葉転換点後は, 出葉速度に及ぼす光条件の影響は小さくなった. 無遮光区では, 出葉転換点前後とも施用窒素量が多くなるにつれて出葉速度は早くなったが, 遮光区では施用窒素量が出葉速度に及ぼす影響はほとんど無かった. 分げつ発生には, 出葉転換点前後とも光条件が影響し, 無遮光区で分げつ発生数は最も多かった. 無遮光区では, 施用窒素量が多くなるにつれて分げつ発生数は増加したが, 50%遮光区では窒素量の影響が小さくなり, 95%遮光区では影響は認められなかった. 出葉転換点がみられた無遮光区と50%遮光区について出葉速度と分げつ発生数との関係をみると, 出葉転換点前では有意な正の相関が認められたが, 出葉転換点後では有意な相関は認められなかった.
著者
森田 敏
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.391-399, 2000-09-05
被引用文献数
15

ポット栽培水稲を用いて人工気象室による温度処理実験を行い, 中国地方平坦部の福山市のおける平均的な8月の気温が登熟に及ぼす影響を解析した.人工気象室で登熟期に福山平年区(32°C/23°C;最高/最低気温), 低温区(28°C/19°C)および高温区(35°C/26°C)の3区を設けた.玄米1粒重と良質粒歩合は低温区に比べて福山平年区で有意に低下し, 高温区ではさらに低下した.高温による玄米1粒重の低下は粒厚の減少を伴った.また, 高温による玄米1粒重の低下は全ての節位の1次枝梗で生じた.福山平年区では低温区より発育停止籾歩合が高く, 高温区では不稔歩合が著しく高かった.高温による玄米1粒重の低下程度には品種間差異が認められ, 高温区の粒重が低温区のそれより10%以上低下した品種は, 森田早生, 大粒のジャワ型品種のArborio, 極穂重型で登熟不良となりやすい日本型品種アケノホシなどであった.高温区での粒重低下程度が5%未満であった品種は, 環境による品質の振れが小さいと言われるコガネマサリ, 小粒のジャワ型品種のLakhi Jhota, アケノホシと兄弟であり極穂重型で登熟が良いインド型品種のホシユタカであった.
著者
平野 貢 山崎 和也 TRUONG Tac Hop 黒田 栄喜 村田 孝雄
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.551-558, 1997-12-05
参考文献数
16
被引用文献数
12

水稲品種あきたこまちとひとめぼれを供試して, 基肥窒素無施用一8葉期以降追肥の施肥体系と疎植の組合わせ栽培が慣行栽培に比べて低収である原因と改善の可能性について検討した. 基肥窒素無施用-疎植栽培区では葉面積や分げつなどの栄養生長が緩慢で最大葉面積指数も4程度と小さかった. また有効茎歩合が慣行区に比べてやや大きかったにもかかわらず, 登熟期におけるm^2当たり穂数はかなり小さく, m^2当たり籾数は3万粒を下回った. 登熟歩合は慣行区よりも明らかに大きかったが, 収量は慣行区より5-10%低かった. 穂揃期の有効茎数を株あたりで見ると, 1次分げつは慣行区と基肥窒素無施用-疎植栽培区で大差がなかったが, 2次分げつでは後者で多く, 全有効茎数も多くなった. 有効茎となった1次分げつおよび2次分げつの発生部位は慣行区では下位節に, 基肥窒素無施用-疎植栽培区では上位節に偏る傾向があった. しかし, 基肥窒素無施用-疎植栽培区の2次分げつ穂は1穂重, 穂長および1穂当たり生葉重が大きかった. 穂ばらみ期および登熟期の個体群内部の相対光強度は基肥窒素無施用-疎植栽培区で明らかに大きかった.
著者
梅崎 輝尚 松本 重男
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.364-367, 1989-09-05

本研究では, ダイズの主茎節間における伸長性を明らかにするため, 九州地方の秋ダイズ4品種を供試して, 各節間の伸長経過について経時的に調査を行った。1) ダイズ主茎の各節間は主茎と同様におのおのS字カーブを描いて伸長した。2) 主茎各節間の最終節間長は第1節間 (子葉節-初生葉節) が長く, 第3あるいは第4節間が最短で上位節間になるに従って長くなり, 頂部で再び短くなるパターンが認められた。3) 主茎節間の伸長と出葉には同伸性が認められ, 一般に第N節間の伸長最盛期は第N+2葉期, 伸長停止期は第N+4葉期で示すことができた。以上のようにダイズの主茎節間の伸長には規則性が存在することが明らかとなった。今後, 人為的に節間長を制御しようと試みる場合, この規則性を考慮・活用することにより, より効果的な制御が可能となろう。
著者
小林 和彦
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1-16, 2001-03-05
被引用文献数
8 5

FACE(Free-Air CO_2 Enrichment = 開放系大気CO_2増加)は,何の囲いもしない圃場の空気中に直接CO_2を吹き込んで,植生の周りのCO_2濃度を高める実験手法である.FACEにより,大気CO_2濃度が上昇した時の植物や生態系の変化を,現実の圃場で観察できる.1987年にアメリカで始まったFACEは,今ではアメリカとヨーロッパを中心に世界中で,農作物,牧草,樹木,自然植生を対象にした研究に用いられており,日本でもイネのFACE実験が1998年から行われている.大気CO_2濃度の上昇が植物に及ぼす影響については数多くの研究があり,初期の温室や環境制御チャンバーでのポット実験から,近年のオープントップチャンバー等のフィールドチャンバー実験に至っているが,いずれもチャンバー自体が植物の生長を変化させ(チャンバー効果),それがCO_2濃度上昇に対する植物の応答を変化させている可能性がある.これに対してFACEは,チャンバー効果が無い上に,大面積の圃場を高CO_2濃度にできる特長があり,今や実用的な実験手法として確立しつつある.FACE実験の結果は,農作物の収量増加率については従来の実験結果をほぼ支持しているが,さらに収量増加に至る生長プロセスの変化やメカニズム,生態系の変化について,多くの新しい研究成果を生み出しつつある.今後は,FACE実験結果のモデリングへの利用,複数地点でのFACE実験実施と実験結果の比較解析,そして特に発展途上国でのFACE実験の展開が期待される.
著者
井上 吉雄 森永 慎介 佐々木 次郎
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.120-121, 1994-04-01

係留気球システムによって線虫に汚染されたダイズ圃場の可視・近赤外の空中同期写真を測定し, 4バンドのデジタル画像からバイオマスと葉緑素濃度の面的評価を行った.
著者
堀江 武 中川 博視
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.687-695, 1990-12-05
被引用文献数
24 21

イネの幼穂分化, 出穂および成熟などの発育ステージを環境要因の経過から予測するモデルの基本構造とパラメータの推定法を提案し, その考え方のもとに出穂期の気象的予測モデルを導き, 水稲品種日本晴に適用した。本モデルでは, de Witらの発育速度の慨念を適用して, 出芽後n日目の発育指数 (Developmental Index, DVI) はその間の発育速度 (Developmental Rate, DVR) を積算したものとして与える。さらに出芽時のDVIを0, そして出穂時のそれを1と定めることによって, 出芽から出穂に到る発育過程をDVI=0〜1の間の連続的な数値として表すことができる。このようなDVIの制約条件下で, DVRと気温および日長との関係を与える数式を導き, かつそのパラメータを, 筑波と京都での日本晴の作期移動試験および人工気象室実験から得られた出穂日のデータを用いて, シンプレックス法によって決定した。得られたパラメータの値から, 日本晴の出芽から出穂までの最小日数 (基本栄養生長性) は51.4日, 限界日長は15.6時間, 発育の最低温度は12〜13℃, 同最適温度は30〜32℃, そして日長に感応し始める時期はDVI=0.20と推定された。本モデルによる出穂データの推定精度は標準誤差で3.6日であったが, 従来の有効積算温度法によるそれは6.5日であった。したがって, 本報のモデルは従来の方法に比較して高い予測精度を得ることが可能と考えられる。
著者
一井 真比古
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.281-286, 1982-09-15

水稲の飼料化栽培, 再生を利用した二期作栽培および農業形質の間接選抜手段としての利用において再生は重要な特性である. 再生は遺伝的変異を有する特性であるが, 株および根の内的ならびに外的環境条件によって変異するであろう. しかしながら再生に関する基礎的知見はきわめて少ない. そこで本報告では, 外的環境条件の一部である光および温度が再生に及ぼす影響について検討した. 出穂後10日に地上5cmで地上部を刈取り, ただちに30℃自然光(30L), 30℃暗黒(30D), 20℃自然光(20L)および20℃暗黒(20D)下ヘ移動し, その後の再生重, 再生草丈, 再生茎率および稈基重を調査した. 再生重は高温, 自然光下ほど大きく, 30L>30D>20L>20Dの順であった. 温度による差が光の有無によるそれよりおおむね大きかった. とくに自然光下では温度による差は顕著であった. 一方暗黒区では枯死する再生茎が刈取り後20日前後からみられた. 再生草丈は高温下で高かった. 出穂した再生茎が刈取り後20日前後の高温下ではみられたが, 低温下ではみられなかった. それゆえ高温下では再生草丈の伸長が遅くとも刈取り後20日前後に停止するようである. 再生草丈の光の有無による差は高温下で認められるが, 低温下では認められなかった. 再生茎率も高温下で大きかった. また再生茎率が最大に達するまでの日数も高温下で短く, 低温下で長かった. 温度の差に基づく変異の幅は再生重や再生草丈におけるそれより小さいようであった. 再生茎率は自然光区より暗黒区で少なく, 高温下では光の有無による差が認められるが, 低温区では認められなかった. 再生にとって重要な役割をはたすであろう稈基重はいずれの条件下でもおおむね直線的に減少し, 高温下での減少は低温下でのそれより顕著であった. しかしながら高温, 自然光下における稈基重の減少量は高温暗黒下におけるそれより少なかった. 再生茎葉それ自体が再生に及ぼす影響を知るため, 稈基重+再生重の刈取り後の推移をみた. 高温, 自然光下では再生茎葉それ自体が再生重の増加に刈取り後10日すぎから寄与するが, 低温, 自然光下では刈取り後20日以降でないと寄与しないようである. 一方暗黒下における稈基重+再生重が刈取り後わずかしか減少しないことから, 呼吸基質として利用される稈基の量はわずかであろう. 再生茎率は再生重や再生草丈より温度による変異の幅も小さく, かつ再生茎葉それ自体の光合成による影響も小さいと考えられるので, 農業形質の間接選抜の手段として再生を利用するのであれば, 再生重や再生草丈より再生茎率に注目すべきであろう. 再生重, 再生草丈および再生茎率のいずれもが高温下ほど旺盛であった. それゆえ水稲の飼料化栽培および再生を利用した二期作栽培にとって再生期の温度が高い地域が有利であろう.
著者
藤井 弘志 小田 九二夫 柴田 康志 森 静香 今川 彰教 安藤 豊
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.459-464, 2006-10-05
被引用文献数
6 8

2004年の台風15号に伴い東北地方の日本海側で発生した潮風害の発生要因を台風の特徴から総合的に解析して,今後の東北地域の日本海側における潮風害発生に対する資料とするとともに,台風の特徴から潮風害の発生を予測する手順についても考察する.台風の特徴からみた潮風害の発生要因としては,(1)南西風で風速が強く(15ms^<-1>以上),風速10ms^<-1>以上の継続時間が長いこと(5時間以上)によって,飛散した海塩粒子が平野の内陸部まで運搬されたこと,(2)高い波が海岸線に打ち寄せられ波しぶきが上がったこと,(3)降雨が少ないことによって,農作物に付着した塩分が洗い流されなかったこと,(4)水稲の生育時期が潮風害の被害を受けやすい時期であったことが相互に重なりあって潮風害の被害地域および被害程度の拡大につながったと考えられる.市町村によって収量的には大きな差が認められ,北部地域または海岸に近い地帯ほど減収割合が高かった.北部地域で南部地域に比べて収量が低下した一つの要因としては,南部地域に比べて北部地域で風が強く,海塩粒子が内陸部まで運搬されたことが考えられた.
著者
萩原 素之 井村 光夫
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.441-446, 1991-09-05
被引用文献数
3

水稲種子を湛水土壌中に播種すると, 出芽・苗立ちが不良となるが, 酸素発生剤であるCaO_2を種子に被覆して播種した場合には出芽・苗立ちが促進される. これは, CaO_2が嫌気状態の湛水土壌中で発芽している種子に酸素を供給するためと一般に理解されてきた. しかしCaO_2を被覆した種子でも, 出芽後は, 鞘葉を通じて湛水中または空中から酸素が供給されなければ, 本葉抽出が抑制されることが知られている. 本実験では, それ自身では酸素を発生しないが, 土壌を酸化するKNO_3の種子被覆が湛水土壌中に播種した水稲の出芽・苗立ちにおよぼす効果を調査した. KNO_3被覆種子では無被覆種子に比べて出芽・苗立ちが早まり, 出芽・苗立ち率も高まった. KNO_3の効果は温度が低い場合には, CaO_2とほぼ同等ないし, むしろより顕著な傾向であった. これらの結果は, 湛水土壌中に播種した水稲の出芽・苗立ち不良の主要な原因は湛水土壌中の酸素不足ではないことを示唆している. したがって, 出芽・苗立ちの促進に種子への酸素供給が必須かどうか, また, CaO_2がなぜ出芽・苗立ちを促進するのかがさらに詳細に調査される必要があろう.
著者
平井 源一 稲村 達也 奥村 俊勝 芦田 馨 田中 修 中條 博良 平野 高司
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.196-202, 2003-06-05
被引用文献数
1 1

本研究は水稲と陸稲の栄養生長期の生育に及ぼす大気湿度の影響を相対湿度60%と90%で比較したものである.その結果,低湿度条件は高湿度条件に比較して,水稲の乾物生産を有意に減少させたが,陸稲では乾物生産の減少は認められなかった.低湿度下の水稲では,単位葉面積当たり気孔密度が増大し,気孔装置面積も大となり葉面積に占める気孔装置面積の割合が高湿度に比較して有意に大きかった.また,水稲は低湿度で,気乱闘度の低下が少なく,単位葉面積当たり蒸散量が顕著に大きくなり,葉身の本部水ポテンシャルが大きく低下することが認められた.一方,陸稲では水稲に比し低湿度によって,気孔密度,気孔装置面積が変化せず,葉面積の中で気孔装置面積の占める割合に湿度間で有意差がなかった.また,陸稲では,低湿度によって気乱闘度が低下し,蒸散量を抑制するため,葉身の本部水ポテンシャルが低下しなかった.さらに,低湿度による葉身の本部水ポテンシャルの低下した水稲では,葉面積の相対生長率(LA-RGR)が,高湿度に比して有意に低下した.なお,純同化率(NAR)は低湿度によって低下したが,高湿度との間に有意差は認められなかった.したがって,水稲では低湿度で有意なNARの低下をまねく以前に葉面積の低下を引きおこし,乾物生産は抑制されたが,陸稲では湿度間で葉面積の生長速度に差を生じなかった.この点が水稲と,陸稲の生育,乾物生産において湿度間に差を生じさせたものと考える.要するに,水稲と陸稲との間には大気湿度,特に低湿度に対する形態的生理的反応のことなることが,湿度間で認められた乾物生産の水稲,陸稲間差異を生じた要因と考えられる.
著者
立田 久善
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.187-193, 1999-06-05
被引用文献数
6

通常の気象条件下において,窒素施肥条件の異なる圃場で栽培したイネの葯長,葯幅および充実花粉数を比較した.基肥窒素量を1m^2当たり0,4,7,10,13gとした圃場で栽培したイネの場合,基肥窒素量が多くなるほど葯長,葯幅は短くなり,充実花粉数は減少した.また,基肥窒素量を1m^2当たり4gまたは10g施用し,穂首分化期,幼穂形成期,減数分裂期に1m^2当たり3g窒素追肥したイネと無追肥のイネの場合,基肥窒素量が1m^2当たり4gのときは,無追肥に比較して幼穂形成期の追肥で葯長,葯幅が短くなり,充実花粉数も減少した.基肥窒素量が10gの場合も同様の傾向がみられたが,追肥時期の違いによる差は基肥窒素量が4gの場合よりも小さかった.これらのことから,イネの葯長,葯幅および充実花粉数には窒素施肥が大きな影響をおよぼしており,低温の影響を受けていない年でも,基肥窒素を多く施用した場合や幼穂形成期頃の追肥は,葯長や葯幅を短く,充実花粉数を減少させる.また,追肥時期の影響は基肥量の多少によって異なった.