著者
福澤 康典 川満 芳信 小宮 康明 上野 正実
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.54-60, 2008-01-05
被引用文献数
1

サトウキビの初期の生長速度は他のC_4植物に比べて遅く,糖収量及び原料茎重を上げるためにはその改善が重要である.本研究では,サトウキビ属(Saccharum spp. Hybrid,S. edule)及び近縁種(Erianthus spp.,Pennisetum purpureum)を用いて極初期の生長の支配要因について検討した.調査は発芽後,2ヶ月目と本葉が7枚出るまでの2種類の時期に着目して行った.2ヶ月目の植物体を比べた場合,サトウキビ雑種KRSp93-30の茎乾物重及び葉面積は高く,茎根数の割合も高かった.しかし,葉位を7枚に固定して比較した場合,KRSp93-30における茎根数の割合は他の系統とほぼ同じであった.生育初期におけるKRSp93-30の効率的な生長は早い出葉速度と高い純同化率によってもたらされるものと考えられる.
著者
平 将人 二瓶 直登 遠藤 あかり 谷口 義則 前島 秀和 中村 和弘 伊藤 裕之
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.173-182, 2012

タンパク質含有率の増加を目的とした出穂期の窒素追肥が,硬質コムギ品種ゆきちからの中華麺適性に及ぼす影響を検討した.出穂期における窒素追肥量の増加に比例してタンパク質含有率は高くなり,SDSセディメンテーション沈降量および湿グルテン含量は増加して生地物性は強くなった.一方,グルテンインデックスは低下したが,中華麺官能検査におけるゆであげ7分後の食感の評点は有意に高くなった.したがって,出穂期の窒素追肥によりグルテンインデックスは低下してグルテンの質は変化するが,生地物性が強くなることで中華麺のゆでのびを抑えられることが明らかとなった.また,福島県でゆきちからを喜多方ラーメン用として栽培する際に目標となるタンパク質含有率を明らかにするために,製粉工場でゆきちから100%で製造されたタンパク質含有率が9.1,9.8および10.8%の中華麺用粉を用いて中華麺官能検査を行い,タンパク質含有率と中華麺適性との関係を検討した.外国産硬質コムギを原料に用いたタンパク質含有率が11.8%の中華麺専用粉と比べて,ゆきちからの色相およびホシの程度の評点は10.8%でも有意に高かった.また,ゆであげ7分後の食感の評点はいずれのタンパク質含有率においても有意差は認められなかったが,総合評価の評点は9.8%および10.8%で有意に高かった.したがって,福島県で喜多方ラーメン用にゆきちからを栽培する際には,出穂期の窒素追肥により,タンパク質含有率を粉で10.0~11.0%程度にすることが望ましいと考えられた.
著者
小川 正巳 太田 保夫
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.499-505, 1973-12-30
被引用文献数
1

This investigation was conducted on rice seedlings to elucidate the plant growth-regulating properties of 3-hydroxy-5-methyl isoxazole which is an effective fungicide against the damping-off organism of rice seedlings. The results obtained are summarized as follows: 1) The promotion of root growth by 3-hydroxy-5-methyl isoxazole was assumed to be mediated by its metabolite (N-β-glucoside) in plants. 2) The formation and development of lateral roots and root hairs were accelerated in the early seedling stage. The root growth was vigorously promoted by 3-hydroxy-5-methyl isoxazole in the later seedling stage. 3) The rooting ability and root activity (oxidizing or reducing activity of roots) were enhanced by 3-hydroxy-5-methyl isoxazole.
著者
森下 敏和 山口 博康 出花 幸之介 手塚 隆久
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.335-344, 2006-07-05
被引用文献数
2

ダックンソバの農業関連形質および子実成分等の特徴を明らかにするために,九州(熊本県)と関東(茨城県)でそれぞれ2カ年圃場試験を実施した.その結果,草丈,主茎長,主茎節数,一次分枝数などの形態的な形質,および全重,収量などの生育量に関する形質の年次変動の程度は異なるが,品種間差が認められ,品種の序列も各年次でほとんど変化が無く,これらの形質は品種の特性を表す指標になると考えられた.草丈などの形態的な形質の年次変動は小さいが,全重,収量などの生育量に関する形質の年次変動は大きかった.さらに個体サイズや生育量の大きい品種が多収を得るのに有利であることが示された.早播と標播を比較した結果,播種日の移動に対する反応は品種により異なることが示された.子実成分を調査した結果,ダックンソバ子実のルチン含量は普通ソバの100倍以上であったが抗酸化能は普通ソバの3〜4倍であったことから,ダックンソバと普通ソバでは抗酸化能に寄与する主な物質が異なると推測された.
著者
杉本 秀樹 佐藤 亨
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.39-44, 1999-03-05 (Released:2008-02-14)
参考文献数
16
被引用文献数
3 6

夏季における新ソバ供給と水田の高度利用を目的にした, 西南暖地における夏ソバ栽培技術の確立に関する研究の一環として, 播種期の違いが夏ソバの生育ならびに収量に及ぼす影響について調査した. 普通ソバ品種キタワセソバの種子を, 愛媛大学農学部内の雨よけビニルハウスに設置したポットに3月中旬から6月初旬まで10日ごとに播種した. 播種期が遅くなるほど開花数は増加したが, 結実率の著しい低下により粒数が減少し, さらに千粒重も低下して子実重は減少した. 特に, 開花始~成熟期における日最低気温の平均値が17.5℃を越えると結実率は顕著に低下した. したがって, 西南暖地における夏ソバの播種は, 遅霜の心配がなければできるだけ早く, かつ開花始~成熟期における日最低気温の平均値が17.5℃を越えない時期までに終える必要があることが明らかになった. さらに, 瀬戸内地域においては遅霜と梅雨入り時期ならびに上記臨界温度を考慮すると, 播種期は3月下旬から4月中旬に限定されること, 4月中旬までに播種すれば収穫は6月初旬となり, 初夏には新ソバの供給ができるばかりでなく, その後作に水稲はもちろんダイズ, 飼料作物などの栽培も可能となり, ソバを水田における輪作体系に組み込むことができることも明らかになった.
著者
氏家 和広 笹川 亮 山下 あやか 磯部 勝孝 石井 龍一
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.59-64, 2007 (Released:2007-02-28)
参考文献数
17
被引用文献数
3 5

本研究は,我が国でキノアの経済栽培を行う際に必要な基礎データを集収するために行ったものである.一連の研究の最初に,我が国の気象条件下でのキノアの播種適期を検討した.実験1では,南米の高地で栽培されているValleyタイプの品種と,高緯度・低地で栽培されているSea-levelタイプの品種を人工気象室内で栽培し,日長,気温が子実肥大および収量に及ぼす影響を調べ,播種適期を予測しようとした.Valleyタイプは,長日条件によって子実肥大が著しく抑制された.このため,関東地方南部においてValleyタイプを栽培する場合には,子実肥大期が短日条件にあたる7月以降に播種する必要があると考えられた.一方,Sea-levelタイプでは,子実肥大に日長は影響しなかったが,高温条件下で多収となった.そのため,子実肥大期が高温期にあたる3月~5月が播種に適すると考えられた.実験2では,上記のことを実証するために,屋外で播種時期を変えてポット栽培した.その結果においても,Valleyタイプは7月播種が,Sea-levelタイプは3月あるいは5月播種が,他の播種期に比べて高い収量を示したので,これらが関東地方南部における各タイプの播種適期であることが確認された.また,二つのタイプ間で収量を比較すると,Sea-levelタイプの3月,5月播種区の方がValleyタイプの7月播種区よりも多収であったことから,関東地方南部ではValleyタイプよりもSea-levelタイプの品種の方が適していると考えられた.
著者
磯部 勝孝 氏家 和広 人見 晋輔 古屋 雄一 石井 龍一
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.167-172, 2012 (Released:2012-03-26)
参考文献数
15
被引用文献数
2 10

起源地が異なるキノア2品種を人工気象室で栽培し,昼夜の気温が子実肥大に及ぼす影響を明らかにした.供試した品種はValleyタイプのAmarilla de Marangani(以下,AM)とSea levelタイプのNL-6である.両品種とも播種から開花始めまでは昼温25℃,夜温10℃,日長13時間で栽培し,開花始めに昼温を25℃,夜温を10℃(25/10℃区),15℃(25/15℃区),20℃(25/20℃区)の3段階に設定する区,および夜温を17℃,昼温を20℃(20/17℃区),25℃(25/17℃区),30℃(30/17℃区)の3段階に設定する区の合計6区を設けた.全ての区において,開花始め以降の日長は11時間とした.キノアの子実肥大に対して10℃から20℃の範囲では夜温の影響はなかったが,昼温が20℃から30℃の範囲では両品種とも低いほど子実肥大が促進された.その結果,昼温が20℃の時の1000粒重が最も大きくなったが,これは粒径に対する影響であり,粒厚に対しては影響が小さかった.昼温を20℃にするとValleyタイプのAMは1000粒重と粒数が増加し,昼温が20℃から30℃の範囲では昼温が20℃の時に子実重が最も大きかった.一方,Sea-levelのNL-6は昼温が低くなるほど粒数が減少し,子実重は昼温が30℃の時が最も大きかった.このことからAMとNL-6では子実肥大の機構に及ぼす昼温の影響は異なると考えられた.
著者
磯部 勝孝 石原 雅代 西海 陽介 宮川 尚之 肥後 昌男 鳥越 洋一
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.84, no.1, pp.17-21, 2015 (Released:2015-02-23)
参考文献数
10
被引用文献数
1

播種時期の違いによる出芽率が異なる原因を明らかにするため,播種時の土壌の水ポテンシャル,気温並びに播種深度違いがキノアの出芽に及ぼす影響を明らかにした.圃場実験では6月,8月および10月にキノアの種子を播種したところ,8月播種区は他の区に比べ出芽率が低かった.8月播種区では他の区に比べ播種後の土壌の水ポテンシャルと温度が高く推移した.しかし,人工気象室のポット試験では20℃から34℃の範囲では最終的な出芽率には大きな違いはなかった.また,出芽に対しては播種時の土壌の水ポテンシャルが−5 kPaから−20 kPaの範囲では出芽率に大きな違いはなかったが,−40 kPaになるとほとんど出芽しなかった.このことから,播種期の違いによるキノアの出芽率の変動には播種時やその後の土壌の乾燥状況が影響していると考えられる.また,同じ水ポテンシャル間で播種深度がキノアの出芽率に与える影響をみると,播種時の水ポテンシャルが−20 kPaの時では播種深度が1.0 cmの時に最も出芽率が高くなり,それより播種深度が浅くなっても,深くなっても出芽率は低下した.同様の傾向は水ポテンシャルが−5 kPaや−10 kPaの時でもほぼ同様であった.従って,土壌の水ポテンシャルの変化を考慮した場合,最も適するキノアの播種深度は1.0 cmであると考えられた
著者
山内 稔
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.148-159, 2012 (Released:2012-03-26)
参考文献数
116
被引用文献数
3 5

稲作の低コスト・省力化のため直播栽培の普及が求められている.本総説では最近開発された鉄コーティング種子を用いた湛水直播技術について,発案と開発の経緯を他の直播技術との関連性に基づいて論じ,技術の内容と評価を概説する.鉄コーティング種子は浸種または催芽した発芽準備期のイネ種子を還元鉄粉で造粒して酸化処理した後乾燥したものであり,手作業で,または機械化して大量に製造できる.鉄コーティング湛水直播は表面播種であることと,コーティング済みの種子を長期保存できそのまま播種できる点において,酸素発生剤を使う土中播種や欧米およびアジアで普及している催芽種子の湛水または落水表面播種とは異なる.鉄コーティング種子は浮かず,スズメによる食害を受けにくく,また種子伝染性病害虫が発生しにくい.本技術を普及させるためにはコーティング種子作製時の鉄の酸化発熱による種子の損傷問題の解決,出芽遅延の軽減,苗立ち期の水管理の改善および収量の向上が課題であり,発芽準備期の種子に関する生理学的解析,点播,条播および散播における収量向上に関する実証的研究および無代かき条件下での播種技術の開発が望まれる.
著者
山下 正隆 武弓 利雄 佐波 哲次
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.538-542, 1998-12-05

実生のチャの根は深くまで分布するが, 挿し木によるチャは浅根化の傾向が強い.このことから, 挿し木個体の根系を構成する基本的な根である不定根の伸長方向が, 根系分布と密接な関係を持つのではないかと考えられた.そこで, 我が国の品種, アッサム種, 中国種を用いて, 挿し木苗から生じた不定根(直径1mm以上)の伸長方向の変異について検討した.挿し木は1994年および1995年の6月に行い, いずれも翌年の3月に苗を掘り取って根を調査した.不定根の伸長方向は鉛直線に対してなす角度で表した.我が国の品種はいずれも不定根の伸長角度に変異の幅が小さく, そのほとんどが65〜75゜の比較的大きな角度を示すことが明らかとなった.アッサム種, 中国種は不定根の伸長角度に変異が大きく, さらに, 平均伸長角度は我が国の品種に比べて約15゜小さかった.また, 我が国の品種に比べて, アッサム種, 中国種の多くは不定根の発生が少なかった.以上の結果から, 我が国の品種, アッサム種, 中国種間での不定根伸長方向の多様性が明らかとなった.また, アッサム種, 中国種は, 我が国の品種に比べて深い根系分布を持つ可能性を示唆した.
著者
野並 浩
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.151-163, 2001-06-05
被引用文献数
4

作物の水分状態を計測するために使われるサイクロメーター、プレッシャーチャンバー、プレッシャープローブの計測原理に触れ、計測器相互間で計測値の比較を行い、それぞれの計測法の違いについて検討した。また、土のマトリックポテンシャルを計測するために使用されているpF値と水ポテンシャルの関係について説明し、作物を取り囲む環境の水分状態計測と作物の水分状態計測について解説した。とくに、プレッシャーチャンバーを用いての水分状態計測の意義について詳しく説明し、生長に伴った水ポテンシャル勾配がアポプラストに働く張力に関連したマトリックポテンシャルに依存していることを説明した。また、養分欠乏、塩ストレス、低温ストレス、高温ストレス、植物ホルモン添加による生長阻害下における細胞伸長速度が、生長に伴った水ポテンシャル勾配の大きさと直接比例して関連していて、いかに伸長している細胞内へ水が流入することができるかが細胞伸長の速度を決定することを述べている。
著者
松崎 守夫 豊田 政一
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.183-188, 1997-06-05
被引用文献数
8

本報告では, コムギ品質形成過程についての基礎的知見を得るために, 登熟にともなうコムギ粉の物理的特性, タンパク特性, デンプン特性の推移を検討した. 1992年および1993年に秋播きコムギ2品種, 春播きコムギ2品種を開花後3日から3日毎に収穫し, その子実から調整された60%粉を用いて上記特性を測定した. 粉ぺーストの反射率から測定した粉の白さ, 明るさは一粒重の増加にともなって最大粒重到達期まで増加した. タンパク質に関係する特性と考えられる比表面積, 沈降価の推移には品種間差が観察された. 春播きコムギ品種のハルユタカ, ハルヒカリでは, 比表面積は登熟期間中ほとんど変化しなかったが, 沈降価は最大粒重到達期まで増加した. しかし, 秋播きコムギ品種のチホクコムギ, タクネコムギでは比表面積, 沈降価とも登熟にともない減少する傾向を示した. アミログラム最高粘度は品種, 年次によって異なった推移を示した. 今回の結果において, 子実含水率が約40%である最大粒重到達期以降, コムギ粉の品質特性が大きく向上することはなかった. 立毛コムギの品質特性から考えた場合, 子実含水率が40%以下の時期にはコムギは収穫可能であると考えられた.
著者
玉置 雅彦 吉松 敬祐 堀野 俊郎
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.677-681, 1995-12-05 (Released:2008-02-14)
参考文献数
11
被引用文献数
2 5

水稲有機農法(無化学肥料, 稲わら還元)実施後1年目から16年目までの米のアミログラム特性値と, 窒素およびミネラル含量を測定した. 米粉の最高粘度とブレークダウン値は, 有機農法実施年数の増加にともない増加した. 窒素およびミネラル含量は, 有機農法実施後1年目では慣行農法の結果と大差なかった. しかしながら, 実施年数の増加にともないN, P, K含量は減少しMg含量は微増した. これら成分含量の増減傾向は, 実施後5年目頃までの変化が大きかった. 食味指標としてふさわしいと考えられたMg/K比と最高粘度およびブレークダウン値との間には, 有意な相関が得られた. 以上のことから有機農法実施年数の増加にともない, 物性面ではデンプンの粘りの向上により, 成分面からみると, Mg含量の微増とK含量の減少とが関与するMg/K比の増加により, 食味は向上することが示唆された.
著者
二瓶 直登 増田 さやか 田野井 慶太朗 頼 泰樹 中西 友子
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.194-200, 2012
被引用文献数
4 1

有機態窒素の作物生育に与える影響を解明するために,単一窒素源としてタンパク質を構成する20種類のアミノ酸を用いて5種類の作物を無菌栽培し,各アミノ酸に対する作物毎の生育への影響を検討した.作物別の比較をすると,イネ,チンゲンサイでは,アミノ酸間の生育差が大きく,コムギ,キュウリはイネ,チンゲンサイよりアミノ酸間の生育差は小さかった.ダイズでは,アミノ酸間の生育差はほとんどみられなかった.アミノ酸別の比較をすると,アスパラギン,グルタミンでは,無窒素区より地上部乾物重,地上部窒素含量の増加がみられ,一方,システイン,メチオニン,ロイシン,バリンでは地上部乾物重や地上部窒素含量が無窒素区より低下した.そこで,アミノ酸濃度を変えた時の影響を調べるため,生育への影響が異なる5種類のアミノ酸を単一窒素源に選び,イネ幼植物に対する影響について検討した.その結果,グルタミンで生育したイネは窒素濃度増加に伴い地上部乾物重,地上部窒素含量は増大した.セリン,バリンで生育したイネは,低濃度から生育阻害がみられた.グルタミンは無機態窒素を代謝する際に最初に同化されるアミノ酸でもあるので,植物体内で濃度が高くても障害をおこさず,窒素源として効率的に利用されていると考えられた.セリン,バリンはグルタミンに比べてアミノ酸生成経路の末端で生成されるアミノ酸であるため,植物に吸収されても代謝されず植物体内で濃度が上がり,生育を阻害したものと考えられた.
著者
下野 裕之
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.83, no.4, pp.341-351, 2014 (Released:2014-11-04)
参考文献数
16

わが国の食料の生産基盤である耕地は減少を続け,食料安全保障に多大な影響を及ぼしうる.本研究では,わが国の食料の生産力の現状を世界の各地域と比較評価するとともに,潜在的な生産力を現在ならびに将来について推定した.解析は,FAOSTATの主要作物14品目のデータを用い熱量に換算した.わが国で自給している主要作物からの一人あたり一日当たりの供給熱量は1961年の2497 kcalから低下を続け,2010年には795 kcalとなった.この水準は世界平均の26%かつアフリカ地域の37%である.供給熱量を最大化するため,すべての耕地にイネとイモ類を植え付けた場合でも1626 kcalと,アフリカ地域の76%にとどまった.同様に,将来について,人口の減少傾向に加えて,耕地と単収の変化を考慮して4シナリオを比較した.シナリオ1では耕地が減少を続け,単収が増加しない場合,シナリオ2では耕地が減少せず,単収が増加しない場合,シナリオ3は耕地が減少せず,単収が増加する場合,シナリオ4では人口減少がない場合とした.なおシナリオ1~3は人口が減少するとした.2030年において,シナリオ1では1608 kcalと現状と同程度に対し,耕地面積が減少しないシナリオ2では1826 kcalに,それに加えて現在の単収の増加傾向が続くシナリオ3では1976 kcalまで増加が推定された.一方,シナリオ4として人口の減少がないとした場合では1464 kcalまでの減少を予測した.本研究により,わが国の食料安全保障を考えた場合,現在からの耕地面積の減少を回避するとともに,単収の持続的な増加は欠かすことができないことを示した.
著者
森田 茂紀 根本 圭介
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.359-362, 1993-09-05

水稲根系の形態について研究していく場合, 根系の枠組みを構成している1次根の伸長方向は, 重要な形質となる. 著者等は, 1次根の伸長方向を定量的に推定するための方法を開発改艮してきた. しかし, ある根系における1次根の空間的な分布を評価したり, 異なる根系を相互に比較する方法は, いまだ確立していなかった. そこで, 1次根が空間的に均等に伸長していることを仮定した水稲1次根均等伸長モデル (均等モデル) を想定した. この均等モデルの特性について検討を行なった結果, 1次根の走向角 (1次根と水平面とがなす角度) をθとした場合, 走向角別の1次根の頻度分布がcos θであること, 走向角の平均値が約32.7゜であること, 走向角が0-30゜と30-90゜の1次根の数が等しいことなどが分かった. 実際に, 水稲品種むさしこがねおよびIR50の根系における1次根の走向角別頻度分布を均等モデルと比較したところ, いずれの品種も斜横方向が若干「空いて」いるが, 斜下方向が若干「混んで」いるという傾向を示した. さらに, 両品種の差異についてみてみると, IR50に比較してむさしこがねが下方向で1次根の相対的な密度が高いことも分かった. 以上のように, 均等モデルは1次根の空間的分布における品種間差異の解析にも有効であることが分かった.
著者
川田 信一郎 石原 愛也 角田 昌一
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.68-74, 1967-03-10

The seminal root tips of the rice, var. Norin No. 29 were used as materials. Two root tips were grown in each flask containing 15 ml of liquid medium. Cultures were maintained at 26〜27℃ in the dark for the periods from half to one month, until the root growth ceased. The following subjects were studied. First, the effects of yeast extract, peptone, casamino acid (casein acid hydrolysate), tryptophane and indole acetic acid on the growth of excised root tips have been investigated. These substances were added singly or in combination to the basic components of medium, i. e., modified White's inorganic salts (containing 0.4 mg per liter of Fe in the form of ferric citrate) and sucrose or dextrose. Among the substances tested, casamino acid were most stimulating to the growth of root tips. Other substances were without noticeably favorable effects. Basing upon these results, the "original medium" were obtained, which was consisted of modified White's inorganic salts, 4 percent sucrose and 0.2 percent casamino acid. Next, the several factors involved in the preparation of the "original medium" have been examined to study their respective effects on the growth of excised roots. The points which have emerged from these experiments were as follows: i. the optimum PH of the medium is . 4.0, ii. the concentration of Fe may be increased to 4.0 mg per liter, iii. the optimum concentration of sucrose is relatively high, about 6 percent, and iv. the autoclaving of the medium at 1.0 kg per cm^2 air pressure for five minutes shows best results. In addition to these, it was found that the vitamins (thiamin, pyridoxine and nicotinic acid each in the concentration of 0.5 mg per liter) accelerated the growth of excised root tips distinctly unless they had been sterile-filtered. By all accounts, "improved medium" were constituted as follows: modified White's inorganic salts (containing 4.0 mg per liter of Fe in the form of ferric citrate), 6 percent sucrose, each 0.5 mg per liter of thiamin, pyridoxine and nicotinic acid and 0.2 percent casamino acid. Superiority of the "improved medium" to the "original medium" for the growth of excised root tips of rice were verified. Nevertheless, incapability of "improved medium" to sustain the unlimited growth of excised rice roots were the problem remaining for future work.