著者
菅谷 佑樹 狩野 方伸
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.9, pp.840-844, 2016 (Released:2016-09-02)
参考文献数
18

内因性カンナビノイドはシナプス後部の神経細胞で作られ、シナプス前終末に“逆向きに“働く。シナプス前終末ではCB1受容体を介して、グルタミン酸やGABA等の神経伝達物質の放出を抑える。2001年にこの“逆行性伝達物質”としての働きが発見されてから、その産生や分解の経路やシナプス伝達調節のメカニズムに関する数多くの研究が行われてきた。本稿ではこれまでに明らかになっている内因性カンナビノイドによる逆行性シナプス伝達抑圧のメカニズムを解説する。
著者
薗田 啓之
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.11, pp.1051-1053, 2016 (Released:2016-11-01)
参考文献数
8

脳は生物にとって最も重要な臓器の一つである.その機能を健全に保つため,脳血管には血液脳関門(blood-brain barrier: BBB)が存在し,脳内への物質輸送を制限している.この機構のおかげで脳はその機能を維持できているわけだが,ひとたび脳疾患を患い薬物治療が必要になると,このBBBの存在が大きな障壁となる.つまり,脳の恒常性を維持するBBBによって必要な薬物までもが脳内への輸送をブロックされるのである.脂溶性低分子化合物の中には高い脳移行性を示すものもあるが,ペプチド・タンパク質等の親水性高分子はほとんど移行性を示さない.しかしながら,ペプチドやタンパク質であっても脳に必要な物質についてはBBBに存在する特別な輸送システムを介して能動的に輸送されることが分かっている.例えばインスリンやトランスフェリン等はBBBの実体である脳血管内皮細胞上の受容体を介して血液中から脳内へと輸送される.このような生体が元来持っている輸送システムを利用した脳内薬物送達技術の開発が世界中で行われている.本稿では,J-Brain Cargo®(JCRファーマ)を含む各種BBB通過技術について紹介する.
著者
小林 映子
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.961, 2020 (Released:2020-10-01)
参考文献数
4

妊婦への解熱鎮痛剤の使用について,NSAIDsは流産との関連性を示唆する報告や,胎児動脈管早期閉鎖との関連性によって妊娠後期は禁忌とされ,注意喚起されている.一方でアセトアミノフェンは,より安全性が高いとされ使用経験は多く,欧米では妊婦の半数以上に使用経験があるといわれている.妊娠後期の使用における胎児動脈管への影響との因果関係は認められていないとされているが,ヒトでの研究から胎盤を通過し長期間胎児の血液循環に残るとされる.近年,注意欠陥多動性障害(ADHD)や自閉症スペクトラム(ASD)との関連を示唆する多数の前向きコホート研究の結果が示され,欧米で大きな話題となった.さらにメタ解析によっても胎児曝露との有意な関連性を示した.妊婦の医薬品使用による胎児へのリスク評価については,倫理的視点から介入試験ができないことにより,観察研究の結果に情報が限定されるため正確な評価が難しい.ADHDやASDとの関連性に関するこれまでの研究も,ほとんどが母親の自己申告情報に基づくものであった.そこで今回,子宮内での胎児のアセトアミノフェン曝露による影響を明らかにする目的で,出生時の臍帯血漿中濃度と児の疾患診断との関連性について前向きコホート研究を実施した.特に,本研究は以前の研究で指摘されてきたエビデンスとして用いる上での制限や方法論的懸念に対応すべく研究デザインが設定された.その結果,ADHDおよびASDのリスクに有意な正の相関が確認され,用量反応性も認められたので紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Dathe K. et al., BJOG, 126, 1560-1567(2019).2) Ystrom E. et al., Pediatrics, 140, e20163840(2017).3) Masarwa R. et al., Am. J. Epidemiol, 187, 1817-1827(2018).4) Ji Y. et al., JAMA Psychiatry, 77, 180-189(2020).
著者
本間 謙吾 藤澤 貴央 一條 秀憲
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.54, no.7, pp.658-662, 2018 (Released:2018-07-01)
参考文献数
23
被引用文献数
1

亜鉛は非常に多くのタンパク質の適切な立体構造や活性の維持に必要であり、生体にとって重要な微量元素である。しかしながら、亜鉛が生理作用を発揮する詳しい分子機構や、亜鉛恒常性の維持機構については未解明な点が多く残されている。本稿では、亜鉛制御機構としての小胞体ストレス応答について紹介し、筆者らが研究を進めている筋萎縮性側索硬化症と亜鉛恒常性の破綻の関係について議論したい。
著者
内山 奈穂子 花尻(木倉) 瑠理
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.9, pp.855-859, 2016 (Released:2016-09-02)
参考文献数
26
被引用文献数
1

2011年頃から,危険ドラッグが関与したと考えられる健康被害や自動車事故等の他害事件の報告が急増し,大きな社会問題となった.2016年4月時点で,医薬品医療機器等法下,指定薬物として規制されている物質数は2,343物質であるが,その中でカンナビノイド受容体に対し作用を有する合成物質群(合成カンナビノイド)の数は最も多く,全体の約40%を占める(包括指定を除く).本稿では,合成カンナビノイドの流通実態およびその法規制について解説する.

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著者
岡 秀樹
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.154-155, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
4

月経に伴う症状の中で,月経開始前に発現する種々の症状については,1931年にFrankが月経前緊張症として初めて報告し,その後「月経前症候群(premenstrual syndrome:PMS)」と定義され,一般に知られるようになった.現在,日本産科婦人科学会では,PMSを「月経開始の3~10日位前から始まる精神的,身体的症状で月経開始とともに減退ないし消失するもの」と定義している.PMSの症状は200~300種類とも言われており,身体的症状として,乳房のはり・痛み,肌あれ・にきび,下腹部のはり,眠気または不眠,疲労倦怠感,頭痛,腰痛,むくみ,下腹部痛,のぼせなど,精神的症状として,イライラ,怒りっぽい,情緒不安定,憂うつ,落ち着かない,緊張感などがある.生殖年齢の女性の約70~80%は,月経前に何らかの症状を伴うとされている.
著者
八幡 紋子
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.582, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
4

「カロリーゼロ」「ノンシュガー」.これらは今日の生活で多く見掛ける言葉である.消費者の健康指向の高まりを背景に,様々な食品や飲料に低カロリー甘味料が選ばれている.なかでも人工甘味料は砂糖に比べ甘味度が数百倍高く,カロリーを抑えて使用できることから,今後も使用量が増加すると予測されている.一方で人工甘味料を含む飲料の摂取と,高血圧,高血糖,高トリグリセリドといったメタボリックシンドロームを示すパラメータとの高い相関が報告されている.本稿では,人工甘味料によって腸内細菌叢に変動が起こり,正常な血糖コントロールができない耐糖能異常が現われるという論文を紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Lutsey P. L. et al., Circulation, 117, 754-761 (2008).2) Suez J. et al., Nature, 514, 181-186 (2014).3) Soldavoni J. et al., Dig. Dis. Sci., 58, 2756-2766 (2013).4) Schwiertz A. et al., Obesity, 18, 190-195 (2010).
著者
高岡 尚輝
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.474, 2022 (Released:2022-05-01)
参考文献数
3

うま味は,食品に含まれるグルタミン酸やイノシン酸が,舌の味蕾にあるうま味受容体と結合することで生じる.このうま味成分は食品添加物として使用されており,その安全性は十分に確認されている.一方で,近年,疫学研究や動物試験により,グルタミン酸ナトリウム(monosodium glutamate: MSG)などのうま味成分の多量摂取がメタボリックシンドロームの発症につながる可能性が報告されている.しかしながら,うま味成分の摂取がメタボリックシンドロームを引き起こす分子機構は未解明であった.本稿では,プリン分解経路に関与する酵素AMPデアミナーゼ(AMPD)の遺伝子欠損マウスなどを用いて,うま味成分がメタボリックシンドロームを誘発する分子機構の一端を解明したAndres-Hernandoらの報告を紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) He K. et al., Am. J. Clin. Nutr., 93, 1328–1336(2011).2) Andres-Hernando A. et al., Nat. Metab., 3, 1189–1201(2021).3) Cicerchi C. et al., FASEB J., 28, 3339–3350(2014).
著者
吾郷 由希夫
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.686-690, 2017 (Released:2017-07-01)
参考文献数
24

うつ病の生物学的な原因は未解明であり,臨床研究と同時に,その病態解明や創薬には実験動物を用いた研究が必要不可欠である.うつ病の動物モデルとしての意味には二通りあり,一つは,薬物の抗うつ効果の判定などに用いられる行動モデルとしての動物モデルであり,もう一つは,特定の病因仮説に基づいた疾患モデルとしての動物モデルである.本稿では,うつ病の中心的症状である無快感症(アンヘドニア)を齧歯動物で評価する行動試験について,最新の研究を紹介する.また,臨床開発が進んでいるケタミンを例に,抗うつ薬の新しい標的分子について概説する.
著者
山本 経之
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.9, pp.817, 2016 (Released:2016-09-02)

大麻は、人類誕生以前から地球上に存在する植物であり、また繊維として、食物として、医薬品として人類が広く頻用してきた歴史がある。大麻の活性成分として精神作用の強いΔ9-THCや精神作用の弱いCBN等が同定され、カンナビノイドと呼ばれている。また体内にも大麻の活性成分と結合する特異な受容体の存在が明らかにされ、同時に内因性カンナビノイドも見つけられている。一連のカンナビノイドは、創薬としての新たなブレークスルーが期待できるか?
著者
橋本 正史
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.534-538, 2016 (Released:2016-06-01)
参考文献数
11

2015年4月からスタートした機能性表示食品の中で機能性成分としてルテインとゼアキサンチンがあるが、消費者の認知はまだそれほど高くない。表示例としては「ルテイン、ゼアキサンチンには眼の黄斑色素量を維持する働きがあり、コントラスト感度の改善やブルーライトなどの光刺激からの保護により、眼の調子を整えることが報告されています」というのがある。表示の科学的根拠は何か又安全性はどうかということについて紹介したい。
著者
芹沢 貴之
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.55, no.10, pp.919-923, 2019 (Released:2019-10-01)
参考文献数
15

創薬の分野においてもAIの活用は注目を集めている。化合物デザイン、QSAR、QSPRによる活性物性予測、合成経路提案など、様々なパートへAI(主に深層学習)を適用する報告も多くなされてきている。その一方で、実例報告はまだ多くはない。そこで今回は、実際の創薬研究プロジェクトでのAIの活用事例、並びに今後の展望について紹介させていただきたい。
著者
久綱 僚
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.152, 2021 (Released:2021-02-01)
参考文献数
3

潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis: UC)は,クローン病とともに炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease: IBD)に分類される.時に血液を伴う下痢や腹痛を引き起こし,寛解と増悪を繰り返して慢性的な経過を辿る.UCの発症メカニズムは今日においても解明されておらず,根本的な治療法も確立されていないことから患者数は世界規模で増加傾向にあり,日本では難病に指定されている.そのようなUCに対し,たばこの煙(cigarette smoke: CS)が発症リスク,進行,再発を抑えるという疫学的な報告がある.また,UCモデルとして確立されているデキストラン硫酸ナトリウム(dextran sulfate sodium: DSS)誘発性大腸炎マウスにおいても,疫学的所見に肯定的な結果が得られている.しかし,CSの腸管炎症に対する影響を調べた研究は限られており,そのメカニズムは明らかとなっていない.今回,Lo SassoらはUCモデルマウスを用いて,CS曝露によって腸管での発現量が変動する遺伝子群を同定した.また,CSがマウス腸内細菌叢の組成に影響を与え,大腸炎の緩和または回復の促進に寄与することを明らかにしたので紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Mahid S. S. et al., Mayo. Clin. Proc., 81, 1462-1471(2006).2) Lo Sasso G. et al., Sci. Rep., 10, 3829(2020).3) Kang C. S. et al., PLoS One, 8, e76520(2013).
著者
石田 寛明
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.8, pp.819, 2017 (Released:2017-08-01)
参考文献数
2

銅触媒を用いたアジド–アルキン環化付加(CuAAC)反応は,2001年にK. B. Sharplessによって提唱された「クリックケミストリー」で中心を担う反応である.本反応は基質選択性と反応性が高く,生体直交型反応として応用され,生物学的プロセスの研究を可能にする有用な手法である.一方で,in vivoへの適用は銅触媒の毒性が問題になるうえ,様々な生体分子が複雑に存在する細胞内で,高い選択性で反応を進行させることが課題となる.この背景のもと Clavadetscherらは,新たに開発した不均一系触媒を用いて CuAAC反応を行い, 抗腫瘍活性化合物の初のin vivo合成を達成したので紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Kolb H. C. et al., Angew. Chem. Int. Ed., 40, 2004–2021(2001).2) Clavadetscher J. et al., Angew. Chem. Int. Ed., 55, 15662–15666(2016).