著者
池田 幸弘
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.456-457, 2015 (Released:2018-08-26)

東海道線小田原駅に降り立つと,駅舎に掲げられた大きな小田原提灯の出迎えを受けた.小田原は天下の巨城で名高いが,江戸時代,品川から数えて9番目の東海道の宿場町として栄えた土地でもある.目指す済生堂薬局は旧街道(現在の国道1号線)に面した中宿町にあり,当時は脇本陣や10軒を超える旅籠があったという.駅の喧騒を抜け,落ち着いた佇まいの堀端を春風にそよぐ柳を眺めながら歩き,20分ほどで目指す済生堂薬局に到着した.
著者
廣部 祥子 岡田 直貴 中川 晋作
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.11, pp.1030-1034, 2016 (Released:2016-11-01)
参考文献数
29

皮膚の表皮や真皮には免疫担当細胞が多数存在しており、これらの細胞にワクチン抗原を送達することができれば、高いワクチン効果が期待できる。近年、痛みを伴うことなく皮膚に貼るだけでワクチンを接種できるマイクロニードルを用いた経皮ワクチン製剤が、従来の注射ワクチン製剤と比較して、有効性だけでなく迅速大規模接種や開発途上国へのワクチン普及において優位性をもつことから注目されている。

6 0 0 0 OA 第32回 透頂香

著者
外郎 武
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.906-907, 2017 (Released:2017-09-01)

室町時代に大陸から渡来した元朝の役人陳延祐(ちんえんゆう)は医薬の術に長けていた。日本では元朝の役職の一部を使って外郎(ういろう)と名乗った。その姓名は650年の時を経て、お菓子として、また薬の愛称として今に続いている。延祐を初祖として二十五代、外郎家の長い歴史の中で様々な逸話が生まれた。日本史を交えながら薬のういろう「透頂香(とうちんこう)」の特徴やお菓子のういろうが薬種業から生まれた理由を紹介する。
著者
中川 公恵
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.220-224, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
24

薬学の分野においては,ビタミンKが血液凝固に必須の役割を担うことは周知の事実であり,常にワルファリンとの相互作用を考慮しなければならないことはよく知られている.また,骨粗しょう症の予防や治療においても重要な栄養素であり,ビタミンK2(メナキノン-4(menaquinone-4:MK-4))は,骨粗しょう症治療薬として臨床応用されている.ビタミンKは栄養素として摂取しないといけないもの,摂取不足により欠乏症になるビタミンである.しかし,ただ単に摂取したものが,そのまま生体内で利用されているだけではない.MK-4が,我々の体内で作られることを,どれだけの人が認知しているであろうか? 日常的に摂取するビタミンKの大部分は,植物由来のビタミンK1(フィロキノン(phylloquinone:PK))であり,これが生体内でMK-4に代謝変換され,PKにはない様々な生理作用を発揮しているのである.最近我々は,ビタミンK同族体が体内でMK-4に変換されること,その変換を担う酵素を明らかにすることに成功し,さらにMK-4を合成する酵素が個体発生に必須であることを見いだした.本稿では,この研究成果を含めて,生体内でMK-4が変換生成する機構とその意義について概説する.
著者
米山 達朗
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.11, pp.1074, 2016 (Released:2016-11-01)
参考文献数
4

日本には「ミョウガを食べすぎるとボケる」という言い伝えがある.そのような言い伝えのためかミョウガには鈍根草という別名も存在し,狂言の曲名にも用いられている.ミョウガZingibermiogaはショウガ科ショウガ属の多年草であり,古くに中国より渡来し,野生化したと考えられている.我が国においてミョウガの花蕾は,夏の風物詩として長きにわたり食されている.今回Kimらは,韓国済州島産ミョウガ花蕾の熱水抽出物の神経成長因子(NGF)を介した記憶力改善作用について報告したので紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Kim H. G. et al., Phytother. Res., 30, 208-213 (2016).2) Salehi A. et al, J. Neural Transm., 111, 323-345 (2004).3) Kim H. G. et al., Curr. Pharm. Des., 18, 57-75 (2012).4) Felipe C. F. B. et al., J. Med. Plants, Res., 2, 163-170 (2008).
著者
尾内 一信
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.55, no.11, pp.1039-1043, 2019 (Released:2019-11-01)
参考文献数
14

ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンは、HPV感染を予防しHPV感染に起因する子宮頸がんを予防するワクチンである。日本でも2010年から子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業開始され、2013年4月から定期接種に組み込まれた。接種率の上昇に伴いワクチン接種後の多様な症状が報告され、2013年6月積極的勧奨の一時差し控えが通知された。その後、現在も定期接種であるのも関わらず接種率が1%に満たない状況が続いている。先進諸国ではHPVワクチンの高い接種率が維持されており、このままだと日本だけが子宮頸がんが減らないのではないかと危惧される。
著者
花輪 剛久
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.575_2, 2015

ひと昔前,CMにも出てきたこの言葉の意味について検索してみた.英語では"honest injun"と表現し,Marc Twainの"Adventures of Tom Sawyer"で使われているが,起源は更に古いと考えられていることが分かった(www.alc.co.jp;アルクより).また,その背景としては「ネイティヴアメリカンにとって言葉は神聖なもの,絶対的なものであり,言葉をもって他人と約束をするということは神と約束を交わすのと同等で,それを破ることは神を欺くことになる.」という概念にあるとされているのが一般的な解釈である.私は学生時代,大切な恩師からこの言葉を幾度となく聞いた.それはゼミ中だったり,酒宴の席だったり様々であったが,現在でも事あるごとに思い出される貴重な言葉となっている.
著者
前川 京子 佐井 君江
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.7, pp.669-673, 2014 (Released:2016-09-17)
参考文献数
17
被引用文献数
1

医薬品開発においては,副作用発現や有効性の変動要因となり得る薬物相互作用の有無について,適正に試験し評価することが求められている.近年,薬物代謝酵素のみならずトランスポーターに関する研究の進展に伴い,被験薬の薬物動態に対する,これらの分子の影響を定量的に評価するための検討方法を提示した薬物相互作用ガイドラインの改定が欧州,米国および我が国の規制当局で進められている.一方,薬物動態関連分子の中には,活性変化をもたらす遺伝子多型が存在し,患者の遺伝的要因が薬物相互作用を増強する事例も報告されている.さらに一部の遺伝子多型には,その頻度に大きな人種差・民族差が認められることから,今後加速する医薬品の国際共同開発においても,特に遺伝子多型の人種差を考慮した適正な薬物相互作用の評価が重要となる.本稿では,人種差が注目されている薬物動態関連分子の遺伝子多型を取り上げ,これらの薬物相互作用への影響について事例を含めて概説する.
著者
池田 幸弘
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.1106-1107, 2017 (Released:2017-11-01)

戸越銀座を歩き、星薬科大学へと向かう。正門を入ってすぐ右手の建物の1階に資料館があった。本資料館には、創立者星一ゆかりの資料を中心に、本学にかかわる多様な歴史資料が展示されている。星薬科大学の歴史を辿ると、明治44(1911)年、星製薬株式会社が創立された際、社内に設置された教育部に遡る。会社創立と同時に教育部門を設けることは珍しいと思われるが、これは、建学の精神である「世界に奉仕する人材育成の揺籃である」に由来するのであろう。この根底には、座右の銘である「親切第一」 -「親切第一を主義として、自己に親切なれ、何人にも親切なれ、物品に親切なれ、時間に親切なれ、学問に親切なれ、金銭に親切なれ、親切は平和なり、繁栄なり、向上なり、親切の前には敵なし、親切は世界を征服す」の信念が礎となっている。ちなみに、星薬科大学と聞くと、つい創立者の長男である作家星新一を頭に浮かべてしまうが、本名は親一で、この言葉から名づけられたという。さらに余談を述べると、次男は協力第一の銘から、協一と名づけられたらしい。

5 0 0 0 OA 味覚とGPCR

著者
岩槻 健
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.9, pp.885-887, 2014 (Released:2016-09-17)
参考文献数
14

最近,日本が誇る伝統文化の1つである和食がユネスコの無形文化遺産に登録された.その理由は,自然食材の利用やそれを用いた表現,栄養バランス,年中行事とのかかわりなどが認められたということである.しかしながら,和食の神髄は食材のうまみを引き出す“出汁(ダシ)”を使うことにある.和食では出汁を昆布,削り節,干し椎茸などからとるが,昆布からはグルタミン酸が,削り節や椎茸などからは核酸が主な成分となっている.これらはいずれも,味覚受容体の1つであるうま味受容体に結合し,うま味シグナルを味神経に伝える.これまでの研究から,うま味受容体は甘味,苦味と同様にGタンパク質共役型受容体(GPCR)で構成されており,T1R1+T1R3のヘテロ2量体,代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)1,mGluR4と報告されている.
著者
大友 千絵子
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.9, pp.863-865, 2016 (Released:2016-09-02)
参考文献数
12

全米の医療大麻人口はおよそ260万人と推計されている。50州から構成される連邦国家であるアメリカ合衆国で、医療大麻(医療マリファナ)が合法とされている州はそのうち24州と連邦政府直轄地区であるワシントンD.C地区である。その先陣を切り、最も早く医療大麻が合法化されたのがカリフォルニア州(加州)だ。規制薬物法で最も規制の厳しいスケジュールIに分類されている医療大麻の現状を紹介する。
著者
菅 敏幸 友岡 克彦
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.301-303, 2002-04-01 (Released:2018-08-26)
参考文献数
4
被引用文献数
1
著者
及川 弘崇
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.264, 2017 (Released:2017-03-01)
参考文献数
3

成人期に形成された記憶は長期保持されるが,幼児期に形成された記憶は簡単に失われる.この現象は,「幼児期健忘」と呼ばれ,人ではおおむね3歳以前の幼児期の記憶を喪失することが知られている.長年,幼児期健忘の機構は明らかではなかったが,2014年にAkersらは,神経新生の多い幼若期海馬歯状回において,神経新生による回路再編が神経回路に蓄えられた記憶の忘却を促進し,神経新生の少ない成人期には記憶の忘却が起こりにくいということを明らかにした.その一方で,忘却したはずの早期記憶が,後の人生の脳機能と生理に深く影響していることも実証されている.例えば,育児放棄や虐待を幼児期に経験すると,成人期でのストレス脆弱性が増加し,心的外傷後ストレス障害などの発症素因となる.しかしながら,早期記憶を忘却するにもかかわらず,早期の経験が成人の行動に影響を及ぼす機構は明らかではなかった.今回Travagliaらは,幼児期健忘期に体験学習したことが潜在的な記憶として保管されることと,それが脳の発達過程の臨界期(神経回路網の再編成が一過的に高まり,記憶・学習に効果的とされる生後の限られた時期)に起こる機構の刺激により惹起されることを報告したので紹介したい.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Akers K. G. et al., Science., 344, 598–602(2014).2) Travaglia A. et al., Nat. Neurosci., 19, 1225–1233(2016).3) Matta J. A. et al., Neuron., 70, 339–351(2011).
著者
秋山 遼太 中安 大 水谷 正治
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.726-730, 2021 (Released:2021-08-01)
参考文献数
18

ジャガイモはステロイドグリコアルカロイド(SGA)と呼ばれる有毒なα-ソラニンを含有している。SGAは少量であれば不快なえぐみを示す程度だが,多量に摂取した場合は食中毒を引き起こす。トマトにも有毒なSGAであるα-トマチン が葉や花、未熟果実に蓄積しているが、赤く熟した果実には有毒SGAは蓄積しておらず、食中毒を引き起こすことはない。本稿では、SGA生合成遺伝子同定に関する最近の研究の進展を解説するとともに,それらの知見を生かした有毒SGAを生産しないジャガイモの作出について紹介する.