著者
田辺 晋 堀 和明 百原 新 中島 礼
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.122, no.4, pp.135-153, 2016-04-15 (Released:2016-06-21)
参考文献数
94
被引用文献数
11 15

日本列島における「弥生の小海退」は,その存在が認められる地域と認められない地域が明確になっておらず,その存在が報告された地域においても,海水準インデックス・ポイントが連続的に得られていないことに問題がある.筆者らは,利根川低地最奥部において,水深が約1~2mと推定され,3~2cal kyr BPの海水準上昇に伴って形成されたと考えられる湖沼堆積物を発見した.その堆積年代と分布深度は,水深を推定値の最大の2mと仮定しても,海水準が3.0cal kyr BPには標高-2.2mまで低下したことを示す.この低下量は予想される圧密の総和よりも大きく,また,周辺では大規模なテクトニックな地殻変動は考えにくい.したがって,この事象は利根川低地最奥部に「弥生の小海退」が存在したことを意味する.このような相対的海水準低下の要因としては堆積物荷重の影響を今後最も検討しなければならない.
著者
後藤 和久 小松 吾郎
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.118, no.10, pp.618-631, 2012-10-15 (Released:2013-02-20)
参考文献数
122
被引用文献数
2

近年の衛星画像の精度向上などにより,火星の堆積岩に関する研究が急速に進展している.火星には,水の作用により海や湖,バレーネットワーク,アウトフローチャネルが形成された痕跡がいたるところに残されており,気候変動を含む火星史を理解する上で極めて重要である.実際に,ノアキス紀の古クレーター湖の壁面の堆積岩露頭には,フィロケイ酸塩鉱物のような粘土鉱物が豊富に含まれることがわかっている.こうした堆積岩は,アメリカやヨーロッパの宇宙機関の火星探査の着陸候補地点となっており,水と生命の痕跡を発見するための重要な研究対象とみなされている.2011年11月には,アメリカ航空宇宙局の最新探査機が打ち上げられ,古クレーター湖中の露頭を対象として地質調査を行なう予定である.こうした将来探査計画の中で,地質学者の知識と経験が大いに有効であり,惑星地質学分野での貢献が期待される.
著者
田切 美智雄 堀江 憲路 足立 達朗
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.122, no.6, pp.231-247, 2016-06-15 (Released:2016-08-01)
参考文献数
81
被引用文献数
2 6

日立変成地域のカンブリア系について,ジルコンU-Pb SHRIMP年代値を追加し,既報の年代値をまとめ,各地層を再定義し,地質図を改めた.層序については,早期から晩期のカンブリア系を日立火山深成複合岩体として一括し,その中に赤沢層,玉簾層,変成花崗岩類,変成ポーフィリィを含めた.玉簾層の一部を分離して滝沢層を新設した.西堂平層の堆積年代は白亜紀前期である.さらに,白亜紀後期に火成岩貫入と中圧型変成作用が起った.これは阿武隈帯の竹貫変成岩類の変成履歴とも共通し,東北日本列島でこのような急激なテクトニクスが起こった時期があったと推定した.古第三紀の中央構造線が日本列島全体を縦断していたと仮定して,日本海形成前における,カンブリア系を含む日立古生層と東北日本列島基盤の復元を試み,日立古生層や阿武隈帯は中国東北部の佳木斯・ハンカ地帯に近接することを示した.カンブリア系日立火山深成複合岩体は北中国地塊の東縁に帰属することを主張した.
著者
櫻井 剛 高須 晃
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.107, no.6, pp.XIII-XIV, 2001 (Released:2010-11-26)
参考文献数
2
被引用文献数
1

三波川帯は高圧型変成帯であるが藍晶石の産出は比較的まれであり, 四国中央部の高変成度部に分布するいくつかのテクトニック・ブロックから報告されているのみである(第1図). 今回, 四国中央部三波川変成帯の“いちのまつこ谷”上流の五良津東部岩体中から長径約16cmに達する藍晶石の巨晶が発見された(第2~5図). 五良津東部岩体は, 原岩が層状はんれい岩であり, グラニュライト相→高温のエクロジャイト相→藍閃石片岩相→低温のエクロジャイト相という変成履歴を経た後, 現位置にテクトニック・ブロックとしてもたらされ, 緑れん石角閃岩相の変成作用(三波川変成作用)を受けたと考えられている(Takasu, 1989). 藍晶石の巨晶は, 緑れん石角閃岩相の鉱物組合せよりなる岩石の片理面と斜交するすべり面上に形成されている. このことから, 藍晶石は五良津東部岩体が緑れん石角閃岩相の変成作用が進行していた三波川変成帯の現位置ヘテクトニック・ブロックとしてもたらされる前後の時期に形成されたといえる.
著者
志村 俊昭 小山内 康人 豊島 剛志 大和田 正明 小松 正幸
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 = THE JOURNAL OF THE GEOLOGICAL SOCIETY OF JAPAN (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.112, no.11, pp.654-665, 2006-11-15
参考文献数
57
被引用文献数
2

日高変成帯は,第三紀の火成弧の地殻断面であると見なされている.シンテクトニックなトーナル岩マグマは地殻規模のデュープレックス構造のフロアースラスト,ランプ,ルーフスラストに沿って迸入している.このトーナル岩マグマは露出していない最下部地殻のアナテクシスによって生じた.<br>日高変成帯北部の新冠川地域には,含輝石トーナル岩類(最下部トーナル岩体)が分布している.このトーナル岩体には,斜方輝石の仮像や,アプライト脈などの様々な冷却過程を示す証拠を見ることが出来る.これらの組織から,このトーナル岩体の冷却過程が明らかになった.シンテクトニックなトーナル岩体と,変成岩層の<i>P</i>-<i>T</i>-<i>t</i>経路は地殻の上昇テクトニクスを示している.一方,デラミネーションを起こした最下部地殻の<i>P</i>-<i>T</i>-<i>t</i>経路も推定することが可能である.<br>
著者
鹿野 和彦 谷 健一郎 岩野 英樹 檀原 徹 石塚 治 大口 健志 Daniel J. Dunkley
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.118, no.6, pp.351-364, 2012-06-15 (Released:2012-11-07)
参考文献数
76
被引用文献数
7 8

赤島層デイサイト溶結火山礫凝灰岩についてジルコンのU-Pb年代とフィッション・トラック(FT)年代,斜長石のAr-Arプラトー年代を測定し,それぞれ72 Ma,65〜63 Ma,34 Maの値を得た.ジルコンは自形に近い外形とこれに調和的な累帯構造を保持し,かつ溶結した基質や軽石もしくは緻密なレンズの中に散在しており,本質結晶と考えられる.個々のジルコンのU-Pb年代値は集中して標準偏差も1〜2 Maと小さく,マグマの噴出年代を示している可能性が高い.FT年代値は,FTの短縮化が確認できるので,噴出後に熱的影響を受けて若返ったと考えることができる.斜長石のAr-Ar年代値は,段階加熱の広い範囲で安定しているものの,プラトー年代値は上位の門前層火山岩の同位体年代値の範囲内にあり,門前層の火山活動によってアルバイト化して若返った可能性が高い.得られたU-Pb年代は,東北日本においても後期白亜紀の後半に酸性火山活動が活発であったとする見解を支持する.
著者
隅田 祥光 早坂 康隆
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.115, no.6, pp.266-287, 2009 (Released:2009-10-29)
参考文献数
100
被引用文献数
4 8

兵庫県朝来地域には,古生代海洋内島弧の中~下部地殻に由来する夜久野オフィオライト朝来岩体が露出する.本研究では夜久野古島弧の基盤地殻を構成する苦鉄質岩類の起源について,そしてSuda(2004)が報告したミグマタイトの産状分類に基づいた島弧花崗岩類の形成過程について,地球化学的手法を用いたモデル計算を行い検討した.結果,以下のことが示された.朝来岩体では背弧盆地殻に由来した基盤地殻が部分融解し,珪長質メルトが形成された.これら珪長質メルトは集積,上昇する過程で結晶分化しながらマグマへと成長し,キュームレイトに相当するものが主にミグマタイト中のリューコソムとして下部地殻相当域に,一方,残液に相当するものが岩脈,岩床として主に中部地殻相当域に残された.朝来岩体には,島弧下部地殻の部分融解過程と,島弧花崗岩質マグマの形成と発達による地殻の安山岩質化過程を示すまさにその現行段階が残されている.
著者
奈良 正和 清家 弘治
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.110, no.9, pp.545-551, 2004-09-15
参考文献数
37
被引用文献数
3 26

千葉県九十九里浜の前浜堆積物中から,多数のMacaronichnus segregatis様生痕を発見した.この生痕は,剥ぎ取り試料面上において高さ2-3mm,幅3-50mmほどの円形もしくは長楕円形を成し,内部が細粒砂サイズの無色鉱物で充填され,その周囲に磁鉄鉱などの有色鉱物が濃集することが特徴である.この生痕ときわめて似た特徴を有する本邦第四系産生痕化石Macaronichnus segregatisの形成者については,従来,小型等脚類ヒメスナホリムシとするものと,オフェリアゴカイの様なゼン虫類とするものの2つの説があった.この生痕が産する堆積物からは,ヒメスナホリムシは一切採集されなかったものの,オフエリアゴカイ科の多毛類であるEuzonus sp.が多数採集された.このことから判断すると,このM.segregatis様生痕の形成者は,オフェリアゴカイ類と判断して良いだろう.
著者
菅森 義晃
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.112, no.6, pp.390-406, 2006 (Released:2006-10-12)
参考文献数
48
被引用文献数
12 9

本論では, 層序や構造に不明な点が多かった京都西山地域の中・古生界の層序区分を行った.研究地域の中・古生界は構造的上位の高槻層(再定義)と島本層(新称)及び下位の丹波帯に区分される.年代未詳とされた従来の高槻層は, 砕屑岩主体の上部ペルム系高槻層と中部三畳系島本層に区分されることが明らかになった.一方, 丹波帯は構造的上位から本山寺コンプレックス(再定義), 出灰コンプレックス(再定義)及び田能コンプレックスに細分される.本山寺コンプレックスから三畳紀新世前期, 出灰コンプレックスから三畳紀新世後期及び田能コンプレックスからジュラ紀古世を示す放散虫化石が, それぞれの砕屑岩から産出する.これらの丹波帯の各コンプレックスはその層相及び構造から付加複合体と判断され, 丹波帯の付加・形成が三畳紀新世前期には始まっていたと考えられる.
著者
鈴木 陽雄 佐藤 正
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.213-215, 1972-04-15 (Released:2008-04-11)
参考文献数
9
被引用文献数
4 5
著者
中澤 圭二 志岐 常正
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.60, no.704, pp.192-201, 1954-05-25 (Released:2008-04-11)
参考文献数
7
被引用文献数
3 3

The Paleozoic rocks which occur in the Miharaiyama district belong to the Minamitani group., They are correlated with the rocks of Kuma series (Upper Permian), which are typically expose in Kumamoto Pref., The Minamitani group contains special deposits such as the so-called Yasuba conglomerate., The Mesozoic Miharaiyama group is correlated with the lower part of the Inai series and is considered Scythian in age., It is subdivided as follows: Gannosudani formation G3 bluish grey siltstone -200m G2 bluish grey sandstone -80∼95m G1 conglomerate-50∼80m Niikuradani formation N2 bluish grey sandstone -30∼60m N1 basal conglomerate -15∼30m Minamitani group (Upper Permian) The Niikuradani formation contains no fossils, but the Gannosudani formation, especially G2 is rich in fossils which are listed below., G3: Nuculana sp., Myophoria aff., laevigata G2: Neobakevellia kambei M., S., M., aff laevigata (abundant) Neob., kambei sakaigawensis M., S., Nuculana sp., Rhynchonella sp., Terebratula? sp., etc., (rare) An unconformity was discovered between the Miharaiyama group and the underlying Paleozoic rocks., The Lower Triassic formations in Japan are local and very limited in occurrence., They are generally jammed into others formations by faults., Previously, the disconformable relation of the Lower Triassic with the Upper Permian Series (≒Kuma series), had beenknown only in the Kitakami Mountains, Miyagi Prefecture., The discovery of the unconformity mentioned above may be important in the study of the late Paleozoic crustol movement in Japan.,
著者
吉川 敏之
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.99, no.1, pp.29-38, 1993-01-15
被引用文献数
2 16
著者
河野 俊夫 中野 聰志
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.117, no.8, pp.472-475, 2011-08-15 (Released:2011-12-10)
参考文献数
10
被引用文献数
2

Many transparent calcite crystals exhibit striking fluorescence together with own birefringence. On the basis of these two characteristics (fluorescence and birefringence), suitable calcite crystals can be utilized to visualize the splitting of both monochromatic and polarized light emitted from a laser pointer, as the light passes through a crystal. This new device should serve as a learning tool in introductory microscopy courses or whenever learning the principles of polarizing microscopy.
著者
及川 輝樹 和田 肇
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.110, no.9, pp.528-535, 2004 (Released:2005-01-07)
参考文献数
37
被引用文献数
4 3

飛騨山脈の東縁に面した主に礫層で構成される居谷里層の堆積時期は, 層序関係と古地磁気極性から1.65~0.78 Maの間のいずれかとされている. この地層の礫層は, 大部分が茶色の溶結凝灰岩礫 (70%) で構成され, その他, 花崗岩礫 (15%), 緑~黒緑色の溶結凝灰岩・火山岩礫 (5%) も含まれる. これらの礫は, 記載岩石岩学的特徴からすべて飛騨山脈起源である. 花崗岩礫には高率に暗色包有岩を含む特徴的な細粒花崗岩礫があり, 記載岩石学特徴からその花崗岩礫は飛騨山脈北部に露出する黒部川花崗岩からもたらされたと考えられる. 黒部川花崗岩は, 1.5~1.0 Ma (ジルコンFT, 黒雲母 K-Ar年代) の年代値が得られており, これは居谷里層の堆積時期とほぼ一致する. したがって, 居谷里層中から黒部川花崗岩礫が発見されたことは, 1.5~1.0 Ma以降に黒部川花崗岩が分布する飛騨山脈北部の隆起は急激だった事を示している.
著者
藤原 治 鈴木 紀毅 林 広樹 入月 俊明
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.119, no.Supplement, pp.S96-S119, 2013-08-15 (Released:2014-03-21)
参考文献数
135
被引用文献数
9

本巡検では,東北日本の太平洋側新第三系の標準地域としての宮城県仙台市から名取市にかけて分布する新第三系を見学する.見学の要点は,シーケンス層序と奥羽山脈発達史などの研究成果を念頭においた観察にある.最下位の茂庭層では,同時期の地層では例の少ない岩礁性動物群化石を見る.時間が許せば,茂庭層-旗立層境界に見られる海緑石層を見学し,東北日本で同時期に海緑石層が形成されていた一端を紹介する.名取川下流の露頭が本巡検の主要な見学地で,これまでの巡検で詳細には紹介されたことがない,旗立層と綱木層の不整合と堆積サイクルを見学する.この見学地は,フィッション・トラック年代の測定用試料を採集した露頭でもあるため,旗立層・綱木層の見学地としては模式地に匹敵する重要地点である.青葉山丘陵の見学地点では,綱木層と梨野層の境界を見学する.梨野層は白沢カルデラの東縁を構成する地層とされるが,綱木層との層序関係については不整合か整合か決着していない.最後に,仙台層群を観察する.下位の名取層群とは対照的に水平層となっていることが分かるほか,竜の口層から向山層への層相変化を見ることができる.
著者
松岡 篤 山北 聡綜 榊原 正幸 久田 健一郎
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.104, no.9, pp.XXI-XXII, 1998 (Released:2010-12-14)
被引用文献数
1

秩父累帯の主要部は, ジュラ紀の付加体からなる. 付加体に含まれるチャートや石灰岩などの海洋性物質について, その堆積年代や含まれる化石の古生物地理学上の特徴を明らかにすることにより,秩父累帯の形成モデルに制約を与えることができる. また, 地質構造の特徴は, 付加体形成から現在にいたるまでのプロセスを反映している, 秩父累帯を構成する主要なユニットについて, 露頭のようすや山塊の表情を紹介する. 斗賀野ユニットと三宝山ユニットは南部秩父帯に, 柏木ユニット, 住居附ユニットおよび沢谷ユニットは北部秩父帯にそれぞれ属する.
著者
小竹 信宏 近藤 康生 藤井 隆志 芝崎 晴也
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.110, no.12, pp.733-745, 2004 (Released:2005-03-18)
参考文献数
64
被引用文献数
3 5

島根県浜田市の中部中新統唐鐘累層畳ヶ浦砂岩部層下部で見られた皿状およびレンズ状の貝殻密集部の形成メカニズムと形成プロセスを, 生痕学的ならびに古生物学的観点から検討した. 明瞭なポットホール状の形態が識別できないことを別にすれば, これらの貝殻密集部の形態と内部構造の特徴は共産する生痕化石Piscichnus waitemata の充填物として見られる化石密集部のそれに酷似する. Piscichnus waitemata は一部エイ類の摂食活動によって形成された構造物と考えられており, 皿状およびレンズ状の貝殻密集部もエイ類の摂食活動による生物攪拌起源である可能性が極めて高い. 皿状およびレンズ状の貝殻密集部が母岩中に孤立して産出する理由として, (1) P. waitemata の充填物と母岩の質的および粒度の差異が極めて少ないこと, (2) 後から形成されたP. waitemata による破壊や上書き, そして内在型底生動物による生物攪拌作用などによって, P. waitemata の上部の形態情報が消去されてしまったこと, などが考えられる.