270 0 0 0 Pork-cat syndrome

著者
千貫 祐子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.16-18, 2017-04-10

summaryPork-cat syndromeは獣肉アレルギーの一種で,原因抗原は豚の血清アルブミン(Sus s)であり,類似の構造を有するネコの血清アルブミン(Fel d 2)に経気道的に感作された後,交差反応によって豚肉摂取時にアレルギー症状を呈する疾患である.遅発性に発症する糖鎖α-Galが原因の獣肉アレルギーとは異なり,一般的に豚肉摂取30〜45分後に症状が出現するとされる.Pork-cat syndromeの診断には,問診と同時に,豚の血清アルブミン(Sus s)特異的IgEとネコの血清アルブミン(Fel d 2)特異的IgEの測定を行うことが有用である(保険未適用).保険適用の検査では,豚肉特異的IgEとネコ上皮特異的IgEを測定することで,ある程度推測できる.豚肉摂取後に蕁麻疹やアナフィラキシーを発症した患者を経験した場合は,ネコの飼育歴やネコとの接触の問診聴取が必要であり,豚肉やネコ(上皮やフケ)の特異的IgE検査を行う必要がある.
著者
川島 眞 沼野 香世子 石崎 千明
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.563-568, 2007-06-01

要約 健康成人の前腕部に作製した人工的乾燥皮膚におけるヘパリン類似物質含有製剤(ヒルドイド(R)ローション:HL),尿素製剤(尿素ローション)およびワセリンの保湿効果を,ランダム化比較試験で評価した.試験薬は1日1回3日間連続して対象部位に塗布し,経日的に角層水分量および経表皮水分喪失量を測定し,皮膚乾燥度を評価した.HL塗布部位は,無塗布部位に比べ角層水分量が有意に改善し,薬剤間比較においても尿素ローションおよびワセリン塗布部位に比べ有意に高い角層水分量を示した.尿素ローションおよびワセリン塗布部位は,有意ではないが角層水分量の改善傾向を示した.また,いずれの保湿剤とも皮膚乾燥度の改善傾向を示したが,経表皮水分喪失量については改善効果を示さなかった.以上より,今回試験した保湿剤は,乾燥皮膚の生理学的機能異常を改善することが示唆され,なかでもHLは,他剤よりも優れた保湿効果を有することが示唆された.
著者
足立 厚子 大塚 晴彦 山野 希 濵岡 大 井上 友介 一角 直行
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.170-172, 2019-04-10

summary第二子出産後,初めての夫との性交渉後に顔面浮腫,呼吸苦などのアレルギー症状を起こした29歳女性を経験した.夫が採取した精液を遠心分離して得た精漿希釈液を用いたプリックテストが陽性を示し,ヒト精漿アレルギーと診断した.血清特異的IgEでは,ヒト精漿とともに,イヌ上皮にも陽性を示し,イヌアレルゲンコンポーネントでは,r Can f 5(アルギニンキナーゼ,prostatic kallikrein)が高値で,r Can f 1,r Can f 2,r Can f 3は陰性であった.牡イヌ上皮中のCan f 5に感作された場合,その交差反応により,ヒト精漿アレルギーが発症するとの報告がある.自験例は第二子出産前後に里帰りした実家で飼育されていた牡イヌに接触して,イヌ上皮中のCan f 5に感作され,出産前までは無症状であったが,出産後初めての夫との性交渉時にヒト精漿アレルギーを起こしたと考えた.性交渉時のコンドーム使用にて症状の再発はない.
著者
猪又 直子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.158-160, 2016-04-10

summary納豆アレルギーは,IgE介在性アレルギーにかかわらず,摂取後約半日経ってから発症し,その多くが全身症状に発展する遅発性アナフィラキシー(late-onset anaphylaxis)の臨床型をとる.興味深いことに,患者の多く(約8割)はサーフィンやダイビングなどのマリン・スポーツ愛好家であり,納豆の主要アレルゲンであるポリガンマグルタミン酸(PGA)はクラゲの触手でも産生されることから,感作機序として「クラゲ刺傷による経皮感作」の可能性を疑っている.これまで「遅発性アナフィラキシー」という臨床型ゆえに,本症の診断は難しかったが,マリン・スポーツ歴の聴取は診断に繋がる有力な手がかりになるものと期待される.
著者
夏賀 健 阿部 理一郎 浜坂 明日香 猪熊 大輔 横田 浩一 清水 宏
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.582-584, 2006-06-01

38歳,男性.初診の3か月前に軽度の発熱を伴う感冒様症状が出現し,その10日後から両手爪部および爪周囲に膿疱を伴う紅斑が出現した.Hallopeau稽留性肢端皮膚炎と診断し,エトレチナート内服にて症状は一時軽快した.しかし,経過中にエトレチナートを自己判断で中止していたため,5か月後に汎発化をきたした.再度エトレチナート内服にて皮疹は速やかに軽快した.
著者
岡田 理
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.119, 1997-04-15

「皮膚科の先生,焼身自殺の人が運ばれてきましたので,すぐ来てさい.」ICUの婦長さんからの電話である.「またか」と,医局に重苦しい空気が流れる.ICUへ行ってみると全身黒こげの若い女性が救急部のスタッフの治療を受けている.両親から話を聞くと,うつ病で治療中であったが,死にたい死にたいと何度も口にしていたとのこと.やけどの状態を説明すると,治療はいりませんから死なせてあげて下さいと懇願される.両親の要求をそのまま実行しようものなら大きく叩かれる昨今である.結局,懸命の治療にもかかわらずこの患者は20日後に亡くなってしまった.このようなことが繰り返される度に“焼身”自殺を止める策はなかったのかと思うのだが.昨年1996年の1年間で,5名の焼身自殺患者が当院に搬送されてきた.そもそも秋田県は人口当たりの自殺者の数が全国でも1〜2位を争うほど多い県である.北国の秋田では容易に灯油が入手できるので,焼身という手段が選択されているのであろう.救急蘇生の技術が発達した昨今では,どんな熱傷患者でもショック期を脱することが可能となっている.一命を取りとめた後は死ぬより辛い痛みが待ち受けている.また,形成外科がなく,救急部のスタッフの極めて少ない当院では,重症熱傷の治療に皮膚科が全面的に関わるので,医局員の少ない当科には大きな負担となっている.もちろんこうした患者の治療にも多額の医療費が使われているのが現実である.このような悲劇をなくすために,焼身自殺の悲惨さを広く知らしめることはできないものだろうか.皮膚科医,救急科医,精神科医などが協力して一大キャンペーンを行って頂ければありがたい.「焼身自殺はやめましょう,もしするなら他の方法でお願いします…」とは言えないが.
著者
林 圭 西 薫 堀 仁子 山本 明美
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.70, no.9, pp.671-674, 2016-08-01

要約 25歳,男性.ブリ摂食後に蕁麻疹の出現を数回経験していた.生寿司を摂取後に顔面の瘙痒と息苦しさを自覚し,救急外来を受診した.クロルフェニラミンマレイン酸塩とメチルプレドニゾロンの点滴を行ったところ症状は速やかに改善した.問診の結果,ハマチの寿司を摂食したことが原因であると考えられた.魚介類のIgE-RAST検査はすべて陰性であり,マグロ,カツオ,シメサバ,アジ,ブリ,ハマチでプリックテストでは,ブリとハマチのみに陽性を示した.病歴からヒスタミン中毒やアニサキスアレルギーは否定的であり,ブリ(ハマチ)単独のアレルギーと診断した.ブリ(ハマチ)のアレルギーではパルブアルブミンやコラーゲンなどの抗原蛋白の関与は低いとされている.ブリは比較的有名な出世魚であるが,患者はブリとハマチが同種の魚であることを知らなかった.魚は地域や大きさによりさまざまな呼び名が存在するため,医療者側も注意が必要である.
著者
石川 博康 熊野 高行 鈴木 昌幸 熊谷 裕昭
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.17-21, 2003-01-01

62歳,男性.食用のベニナギナタタケと間違ってカエンタケを誤食したところ,嘔吐,腹痛,水様下痢などの消化器症状に引き続き,翌日には全身の潮紅とともにショック症状が出現した.大量補液と人工透析の併用により,ようやく循環動態の改善をみたが,1週後には骨髄抑制による白血球および血小板の減少を認めた.経過中,顔面の発赤腫脹や難治性口内炎,回復期での掌蹠の膜様落屑と脱毛などきわめて特異的な皮膚粘膜症状を呈した.カエンタケの毒素成分は長年不詳であったが,mycotoxinとして有名なtrichothecene類であることが昨年解明された.カエンタケ中毒は本邦で6件発症し,患者10例中2例が死亡している.救命にはキノコの十分な鑑別と初期医療での大量補液が重要である.
著者
宇宿 一成
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1129-1130, 2003-11-01

4歳,女児.熱発に対して前額部に冷却シートを貼付したところ,翌朝疼痛を伴い水疱形成を混じる紅斑を生じた.冷却シートおよびそれに含まれる植物成分の精油を用いたパッチテストは陰性だった.発熱と発汗により角質バリアーが障害されたために生じた冷却シートによる一次刺激性皮膚炎と考えた.1週間のストロングクラスのステロイド外用で略治した.冷却シートの安全性に対して皮膚科的に検討する必要があると考えた.
著者
織田 好子 一角 直行 堀川 達弥 猪又 直子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.558-561, 2016-07-01

要約 41歳,男性.約10年前から全身の蕁麻疹・血圧低下・呼吸困難感などのアナフィラキシー症状を繰り返し,そのたびにエピペン®の自己注射を行っていた.さまざまな病院で多数の食品のプリックテストやスクラッチテスト,血清特異IgE抗体の検査を受けたが,長い間原因不明であった.今回,納豆摂取の2時間後に呼吸困難感が生じたため,納豆およびポリガンマグルタミン酸(poly gamma-glutamic acid:PGA)のプリックテストを施行したところ,両者で陽性であった.患者はサーファーであり,過去に頻回のクラゲ刺傷歴があった.PGAは冷やし中華のスープや種々の調味料などに含まれており,自験例の過去のアナフィラキシーのエピソードの中にもそれらを摂取して発症していた可能性が疑われた.クラゲ刺傷既往のある原因不明のアナフィラキシー患者の原因抗原としてPGAを考慮する必要があると考える.
著者
甄 雅賢 工藤 和浩 末武 茂樹 田上 八朗
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.649-652, 1994-07-01

正常角層は扁平な角層細胞が細胞間脂質を介してサンドイッチのように何層も積み重なってできた膜状物である.身体各部位における角層層数の違いを調べるために,皮膚疾患患者から得た正常部皮膚の凍結切片を用い1%サフラニン液で染色した後,2%KOH水溶液により角層を膨潤させ層数を数えた.角層が最も薄いのは男子の陰茎部で約6層,次いで眼瞼の約8層で,逆に最も厚いのは手掌と足蹠で40層以上であった.十分な標本数が得られた部位で年齢と角層層数の関係を検討したところ,頬部と眼瞼では年齢によって角層層数に違いはなかったが,下肢伸側では加齢に伴って角層層数の増加がみられた.腹部では逆に高年齢層のほうが角層層数が少なかった.また増殖細胞のマーカーであるPCNAに対するモノクローナル抗体を用いて表皮の増殖の程度を評価し,角層層数との関係を検討したが両者の問に相関は認められなかった.
著者
川崎 洋
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.514, 2015-06-01

腸管内には多様な微生物が大量に生息しており,宿主に対して重要な役割を担っている.宿主と微生物相との関係が崩れると,炎症性腸疾患やメタボリックシンドロームなどの慢性炎症性疾患の発症につながる可能性が近年指摘されている.腸管表面は多層構造の粘液で覆われ,腸管上皮と腸内細菌を安全な距離に保っている.本研究では,食品添加物として汎用される乳化剤が粘液と細菌との相互作用に影響し,炎症性腸疾患やメタボリックシンドロームの発症に関わる可能性を示した. 一般に使用されているカルボキシメチルセルロースとポリソルベート80という2種類の乳化剤をマウスに摂取させたところ,腸内細菌は腸管粘液層内に侵入し,腸管上皮近くに存在するようになった.さらに乳化剤の摂取は,細菌叢の構成を変化させ,腸内での炎症誘発や腸管上皮バリア異常を促進する方向に作用することがわかった.これらの乳化剤の作用は,低用量の使用であっても野生型マウスに軽度の腸内炎症やメタボリックシンドロームを引き起こし,Il10-/-やTlr5-/-などの腸内に慢性炎症を生じやすい素因を持ったマウスにおいては重度の大腸炎の発症につながることがわかった.一方,無菌環境下で飼育したマウスに乳化剤を投与しても,大腸炎やメタボリックシンドロームは生じず,粘液層の障害もみられなかった.乳化剤投与マウスの糞便を,乳化剤を投与していない無菌マウスへ移入する実験を行ったところ,腸管粘液層の障害を認め,腸内炎症やメタボリックシンドロームの発症を導いた.以上より,乳化剤が関与する大腸炎やメタボリックシンドロームの発症に腸内細菌が関与している可能性が示唆された.
著者
齋藤 京
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1047-1051, 2019-12-01

要約 42歳,女性.既往に憩室炎,単純ヘルペス,クラムチャウダーでの口唇アレルギーがある.左手指に発赤,遅れて喉の違和感や軽度の腹痛,口唇の腫れも生じたため紹介された.左手指と左頰に紅斑,右下口唇には水疱も出現したが,受診時すでに軽快中であった.1か月後に,発症時と同じファミリーレストランでの食後に同じ皮疹が再燃し再受診,臨床および病理検査で固定疹と診断した.原因として普段飲まないドリンクバーでのトニックウォーターを疑い,試飲によるチャレンジテストを施行し陽性だった.トニックウォーターはメーカーによっては苦み成分のキナ抽出物が含有されており,それによる固定疹の報告が散見される.その認知度はまだ低く,診断確定には時間を要することが多いが,今回は速やかに診断できた.飲食店によってはトニックウォーターがアルコールに限らず清涼飲料としても提供されていることから,周知が必要である.
著者
種子島 智彦 池田 信昭 井上 雄介 相原 道子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.207-210, 2014-03-01

要約 26歳,男性.5年前より口唇に疼痛を伴う水疱形成を繰り返していた.2008年8月中旬,左口唇に小水疱が出現した.近医にて口唇ヘルペスを疑われバラシクロビルを処方されたが改善しなかったため,当科を受診した.肛門,亀頭部にもびらんがみられTzanckテストを施行したが陰性であった.その後,自然軽快した.以後2回ほど同様の皮疹が出現し,下顎,両手背に有痛性の紅斑も出現するようになったが自然軽快した.2011年4月中旬,同症状が再度出現し,詳細な問診の結果,トニックウォーターを含むカクテルの摂取後に症状が出現していたことが明らかになった.ジントニック1杯に含まれるトニックウォーターの半量(60ml)による誘発試験を施行したところ,摂取2時間後に症状が出現し,トニックウォーターによる固定疹と診断した.薬剤内服歴のない若年者に同部位に繰り返す皮疹を認めた場合,トニックウォーターによる固定疹も鑑別に挙げることが重要であると考えた.
著者
豊田 智宏 樋口 哲也
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.27-31, 2019-04-10

summary固定疹は原因物質の摂取のたびに同一部位に繰り返し生じる皮疹である.原因として薬剤による頻度が高いが,食物など薬剤以外によるものでも引き起こされることが知られている.非薬剤性の場合,原因物質の特定が困難な場合が多く,診断に時間を要してしまうことが多い.薬剤内服歴がなければ早期診断のために詳細な問診を行うことが重要であり,確定診断には負荷試験が最も有用である.トニックウォーターによる固定疹はトニックウォーター中に含まれるキニーネにより引き起こされることが報告されている.キニーネを含む水は紫外線照射で青く発光するため容易に検査することができ,国内で流通しているトニックウォーターにはキニーネを含んでいる製品も認められている.今日ではトニックウォーターを使用したカクテルなどの種類も豊富であり,知らずにキニーネを摂取してしまう機会が多くなっているため注意が必要である.
著者
大滝 倫子 谷口 裕子 牧上 久仁子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.692-698, 2005-06-01

要約 高齢者施設で疥癬患者74例にイベルメクチン200μg/kg,1週間間隔で2回投与した結果,9例(12.2%)が未治癒,4か月後までにさらに9例(12.2%)に再発を認めた.この結果より,同剤は有効であるが,高齢者では再発の可能性があり,長期間の観察が必要であることがわかった.予防的治療として無症状者150例に1回投与を行ったが,4か月までに7例(4.7%)の発症を認めた.この結果より,高齢者では予防的治療でも2回投与が望まれる.職員102名は症状の有無に応じて1~2回投与を受けたが未治癒,再発,新たな発症はなく,健常者には極めて有効であることがわかった.入居者,職員ともに投薬前後での検査値に変動はなく,皮疹の増悪,そう痒の増加などの副作用も認められなかった.なお,イベルメクチンは疥癬の保険適用がないため,インフォームドコンセントを得たうえで投与した.
著者
藤本 亘
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.92-96, 2012-04-10

要約 酒皶は顔面にほてり,潮紅を繰り返すことを特徴とする慢性疾患であり,患者のQOL低下に対し皮膚科医が責任をもって治療すべき疾患である.コクランシステマティックレビューで酒皶に有効と判定されているのはメトニダゾール外用,アゼライン酸外用,および低容量ドキシサイクリン(40mg)内服である.本邦では酒皶の治療に有効な外用薬が保険適用薬として処方できないため,酒皶に対し適切な治療が行いにくい状況にある.酒皶様皮膚炎の発症を減らすためには,皮膚科医が酒皶に対しエビデンスに基づいた治療を行えるようにこの状況を変えることが急務である.
著者
安田 文世
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.70, no.10, pp.811, 2016-09-01

アトピー性皮膚炎や喘息などのアレルギー疾患は,寄生虫感染が蔓延していた頃にはほとんど存在しなかったといわれる.これは寄生虫に対するIgE抗体反応が誘導されることにより,他の外来抗原への反応が抑制されるためと説明されてきた.本論文では,寄生虫感染そのものではなく,寄生虫感染により変化した腸内細菌叢が,アレルギー反応を抑制することが示された. マウスに寄生虫を感染させた上で,ハウスダストによる気道アレルギー反応を誘発させ,その反応の大きさの変化を,気管支肺胞洗浄液中の好中球数,IL-4値,IL-5値,ハウスダスト特異的IgG1値,肺の組織変化などで評価した.結果は寄生虫感染させたマウスのほうが,感染させてないマウスに比べ有意にアレルギー反応が抑制されていた.一方,寄生虫には直接効果のない抗生剤を予め投与したマウスでは,寄生虫を感染させてもアレルギー反応は抑制されなかった.ところが,予め抗生剤を投与しておいたマウスを,寄生虫感染したマウスと同じケージで飼育すると(寄生虫はマウスからマウスへ感染しないが,腸内細菌はマウスからマウスへと感染する),アレルギー反応が抑制された.すなわち,寄生虫感染自体ではなく,寄生虫感染により変化した腸内細菌がアレルギー反応を抑制することが明らかとなった.アレルギー反応が抑制されたマウスでは,腸内細菌由来の短鎖脂肪酸の濃度が上昇しており,短鎖脂肪酸の免疫機能への作用を媒介するGPR41受容体を欠損させたマウスでは,寄生虫感染によるアレルギー抑制効果が消失した.さらにはブタやボランティアのヒトに寄生虫を感染させると,腸内の短鎖脂肪酸産生が上昇することが示された.膨大な実験をもとに寄生虫感染がアレルギーを抑制する機構を明らかにした,大変興味深い論文である.
著者
中野 創
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.103, 2007-04-10

読者の皆様は「どんずあな,け」の意味がわかりますか? ここ青森県津軽地方で医師として仕事をするためには,いわゆる津軽弁を理解する必要があります.日本の津々浦々にユニークな方言がありますが,津軽弁もそれらに負けない独特の語彙を有しています.体の各所を現す言葉には,じゃんぼ,なずぎ,ぼんのご,おどげ,よろた,あぐど,どんず,はど,などがあります.それぞれ,髪,額,項,頤,太腿,踵,尻,陰茎の意味です.濁点が多いのが特徴でもありますが,それを上手くフィルターにかけると語源が推測できる語もあります.「なずぎ」は「脳(なずき)」,「ぼんのご」はうなじの窪みを表す「盆の窪(ぼんのくぼ)」,「おどげ」は「頤(おとがい)」,「あぐど」は『東海道中膝栗毛』にも用例が見いだされる,かかとを示す「踵(あくと)」がそれぞれ転訛したものと考えられます.