著者
上田 博 遊馬 芳雄 高橋 暢宏 清水 収司 菊地 理 木下 温 松岡 静樹 勝俣 昌己 竹内 謙介 遠藤 辰雄 大井 正行 佐藤 晋介 立花 義裕 牛山 朋来 藤吉 康志 城岡 竜一 西 憲敬 冨田 智彦 植田 宏昭 末田 達彦 住 明正
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.415-426, 1995-06-15
参考文献数
26
被引用文献数
11

2台のドップラーレーダーを主に用いた熱帯の雲やクラウドクラスターの観測を、TOGA-COARE集中観測期間内の1992年11月12日から約2カ月半に渡って、パプアニューギニア、マヌス島で行った。観測期間中に、スコールライン、クラウドクラスターに伴う対流雲や層状雲、及び、日中のマヌス島上に発生する孤立対流雲等の種々の異なるタイプの雲について、ドップラーレーダーで観測した。マヌス島における観測の概要と観測結果の要約について述べる。観測データについての解析結果の予備的な要約は以下の通りである。1)レーダーエコーの発達の初期には暖かい雨のプロセスが支配的であり、最大のレーダー反射因子はこの時期に観測された。2)エコー頂高度の最大は最初のレーダーエコーが認められてから3時間以内に観測された。3)レーダー観測範囲内における、レーダーエコー面積の最大値はクラウドクラスターの大きさに対応して最大のエコー頂高度が観測された時刻より数時間遅れて観測された。4)長時間持続する層状エコー内の融解層の上部に、融解層下層の上昇流とは独立した上昇流が観測された。これらの観測データを用いてさらに研究をすすめることにより、熱帯のクラウドクラスターの構造や発達機構を解明できると考えられた。
著者
大野木 和敏
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.497-516, 1998-08-25
被引用文献数
1

気象庁の数値予報システムにおいて、誤った観測データを除去するための新しいデータ品質管理方法を開発した。品質管理は、すべての観測値に対し、予報から与えられる第一推定値との差を評価することによって行われる。この差は統計調査の結果を基に観測要素・観測レベルごとに設定されたしきい値と比較され、許容範囲から外れた観測データは誤データとして除去される。従来の静的品質管理では、気象状態に関係なくしきい値は一定であった。新しい方法である動的品質管理では、観測点付近の第一推定値の場の状態を考慮する。しきい値は局所的な水平勾配と3時間の時間変化によって線形的に変化させる。統計的な調査によって、観測値と第一推定値の差は、第一推定値の局所的な水平勾配と時間変化に近似的に比例することがわかった。動的品質管理はこの関係を品質管理に適用したものである。静的品質管理では、誤ったデータが静穏な領域で誤って採用され、正しいデータが変動の激しい領域で誤って除去される誤判定がしばしば見られたが、動的品質管理によってこれが全領域で大幅に減少した。動的品質管理を適用した予報実験では、熱帯と南半球で予報スコア及び予報値とレーウインゾンデ観測との整合が向上した。予報期間にして1日分以上に相当するアノマリー相関の改善がみられる場合や、レーウインゾンデ観測との整合が平方根平均二乗誤差(RMSE)で10%以上改善される場合もある。北半球では予報結果は変わらなかった。動的品質管理は1997年3月17日に気象庁の数値予報システムに組み込まれ、その後現業全球予報の成績は大幅に向上している。
著者
井上 豊志郎
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.59-66, 1997-02-25
被引用文献数
1

極軌道衛星NOAAに搭載されているSplit Wiondowを用いて, 西太平洋における昼と夜での雲型別雲量のちがいについて調査した. Split Windowでは水晶で構成されている光学的に薄い巻雲型の雲と光学的に厚い積雲型の雲を分類することができる. この研究では光学的に薄い巻雲型の雲はさらに輝度温度で温かい巻雲型と冷たい巻雲型の2つに, また光学的に厚い積雲型の雲も輝度温度で積乱雲型と下層の積雲/層積雲型の2つに分類した. ISCCPの解析結果との比較から温かい巻雲型, 冷たい巻雲型, 下層の積雲/層積雲型と積乱雲型の光学的厚さの平均値はそれぞれ2.2, 7.4, 15.3および33.7であることが分かった. Split Windowで分類される雲型別雲量の昼と夜のちがいを, 個々の対流システムとしての台風についてと, 熱帯海洋域での緯・経度20゜×30゜の広い領域について調査した. 積乱雲型, 温かい巻雲型および下層の積雲/層積雲型の雲量は地方時2:30頃の夜間に多い傾向を示した. それに対し, 冷たい巻雲型の雲量は地方時14:30頃の昼間に多い傾向を示すことが分かった.
著者
Chiaki KOBAYASHI Kiyotaka SHIBATA
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.89, no.4, pp.363-376, 2011-08-25 (Released:2011-08-31)
参考文献数
35
被引用文献数
1 4

Dynamical contributions to past long-term changes in the lower stratospheric ozone over the northern mid-latitudes are evaluated using a chemical transport model (CTM) forced by the horizontal wind of the Japanese 25-year Reanalysis (JRA-25). Two simulations (i.e., one is a simulation that prescribes the time-dependent vertical profile of halogens and the other is a simulation which uses the fixed vertical profile of halogens at 1979.) were conducted to estimate chemical and dynamical contributions to the long-term changes in stratospheric ozone during the last three decades. Different from previous similar studies using meteorological data of ECMWF (European Centre for Medium Weather Forecast) 40-year re-analysis (ERA-40), our current simulation does not show a large positive anomaly of simulated total ozone over northern mid-latitudes in the late 1980s, which is consistent with the observation. Because the trend of the fixed halogen simulation amounts to about two-third of that of the time-dependent halogen simulation during 1980–1993 in the northern mid-latitudes, it is evaluated that about two-thirds of the negative trend in total ozone comes from dynamics in the northern mid-latitudes. Since the increasing ozone from 1994 to 1998 is also represented in the fixed halogen simulation, it is considered that the increase of ozone was mainly due to dynamics as pointed out in previous studies. However the dynamical contribution to the trend after 1994 could not be evaluated in our simulation because of simulated ozone gap in 1998. In the same manner, it is evaluated that about two-thirds of the negative ozone trend in the lower stratosphere comes from dynamics in the northern mid-latitudes from 1980 to the mid-1990s. The simulation results indicate that the effect of transport (dynamical influence) is predominant for the negative ozone trend in the lower stratosphere from 1980 to mid-1990s, while the upper stratospheric ozone trend is strongly influenced by long-term changes in halogens (chemical influence).
著者
那須野 智江 山岬 正紀
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.907-924, 1997-08-25
参考文献数
73
被引用文献数
3

熱帯低気圧のレインバンドを構成するメソスケールの対流に対する地表摩擦の効果を調べるため、軸対称の非静力学モデルを用いて数値実験を行った。風速の回転成分が余り強くない時期(10ms^<-1>以下)には個々のメソスケール対流の時間スケールは2〜3時間であるが、回転風速が強まり地表摩擦による吹き込みが非常に強くなると、メソスケール対流の時間スケールは長くなる(Yamasaki, 1983)。数値実験では11〜12時間の時間スケールをもったメソスケール対流が繰り返し現れた。2〜3時間の時間スケールを持つ対流とは対照的に、この長い時間スケールを持つ対流は、冷却したダウンドラフトに伴う吹き出しにより下層の収束域が外向きに遠ざけられることによっては消滅しなかった。むしろこの対流は、地表摩擦による吹き込みが強くなることによって、下層の収束域が中心向きに移動した時に消滅した。即ち、雲が外に傾くために、降水が下層の吹き込み側で起こり、暖湿な空気が雲の下層に到達するのを妨げていた。この時新しい対流が元の対流の外側に形成された。この長い時間スケールを持つ対流の構造, 時間変化, メカニズムについて詳しく論ずる。
著者
柴垣 佳明 山中 大学 清水 収司 上田 博 渡辺 明 前川 泰之 深尾 昌一郎
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.69-91, 2000-02-25
参考文献数
34
被引用文献数
4

1991年6月17日〜7月8日にMU(VHF帯)・気象(C・X・C / Ku帯)レーダーを用いた梅雨季対流圏の同時観測を行った。MU・C / Ku帯レーダーは風速の3成分と雨雲の鉛直分布をそれぞれ観測した。また、C・X帯レーダーはメソα, メソβスケールの雨雲の水平分布をそれぞれ調べた。この3週間の中で最も激しい降雨が観測された7月4〜5日の期間には、メソαスケール低気圧近傍でいくつかのメソβ, メソγスケールの雲システムが観測された。これらはi)温暖前線、ii)寒冷前線付近の対流雲およびiii)寒冷前線の北西側の層状雲として分類された。i)では、高度14km付近まで発達した降水雲内の顕著な上昇流は高度4〜5kmにおける前面・後面からの吹き込み成分の収束と中部対流圏の強い南風によって生成された。ii)では、寒冷前線の前面にガストフロントを持った狭いレインバンドがみられた。そのレインバンドの前方とその中では、メソγスケールのローター循環がそれぞれ発見された。iii)では、南東風(北西風)は高度9km付近まで延びた寒冷前線面の上側に沿って(その内部および真下で)上昇(下降)していた。その前線面下側には降雨を伴わない乾燥域が存在し、そこでは前線面に沿って下降した西風の一部が雲システムの後方へ吹き出していた。本研究では、晴天・降雨域の両方で観測された詳細な風速3成分を用いることで、上で述べたような特徴的なウインドフローをもったメソβ, メソγスケールの雲システムの鉛直構造を明らかにした。これらの構造は日本中部で観測されたメソαスケール低気圧近傍のクラウドクラスターの階層構造の中のより小さな雲システムとして示された。
著者
三隅 良平
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.107-121, 1994-02-25
被引用文献数
1

降水量、地上気温、海面気圧のデータを用いて、1990年以降の梅雨期の降水量の数十年スケールの変動の特徴を記述し、大規模場の変動との関係を調べた。日本全国を平均した梅雨期の降水量は、1924年から1944年(期間I)には少雨傾向を示していたが、1950年頃に増加し、1952年から1972年まで(期間II)多雨傾向を示した。この数十年スケールの変動は、日本の南西部で大きな振幅を持っていた。期間Iと期間IIの間で、つぎの気象要素に有意な変動が見られた;1)日本の西部での南北温度傾度(増加)、2)日本の、30゜Nと40゜Nの間の緯度帯での海面気圧(減少)、3)マニラの降水量(減少)。東日本の南北気圧傾度、及び日本の地上気温のEOF第1主成分は、梅雨降水の年々変動と相関するにもかかわらず、期間Iと期間IIの間で有意な変動は見られなかった。解析結果は、期間Iから期間IIにかけての梅雨降水の増加が、亜熱帯の循環の長期変動と関係していた可能性を示唆する。1950年頃の梅雨降水の増加に関して、仮説的なプロセスを提案する。
著者
Hor Tai-Hwa Chang Mou-Hsiang Jou Ben Jong-Dao
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.473-496, 1998-08-25
参考文献数
42
被引用文献数
1

TAMEX IOP期間中(1987年6月15日)に台湾の東岸沖で研究用航空機(NOAA P-3)を用いて梅雨前線の鉛直断面(6高度)観測を実施した。航空機による直接観測データと2種類の航空機搭載レーダーのデータを用いて、梅雨前線南端付近のメソスケール構造と、前線の維持機構を調べた。各高度における水平飛行中の乱流強度の急増から前線の先端の位置を決定し、前線の移動速度を考慮に入れて、前線を横切る鉛直断面内の運動学、力学及び熱力学変数の分布を合成した。これらの分布から、前線の先端部は風速の水平成分と空気密度の偏差の等値線に平行で、密度流的な構造を示すことが明らかとなった。熱力学変数の変化はさほど顕著ではないが、相当温位の分布は前線後面の下層の寒気コアの存在を示した。寒気コアは最も空気密度の大きな部分に対応していた。密度流の進行及び前線系の維持のメカニズムとして、寒気コア内における後方から前方に向かう水平気圧傾度力、前線の先端部付近における中程度の対流不安定、平均流からの運動エネルギーの変換が考えられる。
著者
尾瀬 智昭
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.1045-1063, 1998-12-25
参考文献数
25
被引用文献数
5

観測から得られた帯状平均場と熱源を与えたモデルを用いて、その応答としてのアジアモンスーンの循環、特にその気候学的な季節変化を調べた。結果は次のようにまとめられる。(1)夏のアジアモンスーン期において、アジアの南域の深い積雲対流に伴う熱源は、チベット高気圧、モンスーントラフならびに、南アジアにおける下層循環を形成し、さらにユーラシア大陸西部に下降流をもたらす。中央アジアの地表面付近の熱源もまた、その上層に下降流を形成する。(2)初夏(6月)に見られる、アジアの南域の深い対流に伴う熱源は、日本の南東に南西の下層風と上昇流を形成する傾向を示す。これらは、アジアの南域に形成される熱的低圧部とともに、東アジアに梅雨帯が形成される背景的要因になっていると考えられる。中緯度の梅雨帯での降水による熱源は、その南に下層ジェットを形成する。(3)初夏(6月)から盛夏(7月)にかけてのアジアモンスーンの季節変化は、北半球全体で気温が上昇し、帯状平均のジェットが北上し弱まることによって特徴づけられる。モデルにおいて帯状平均場のみを6月から7月に変えると、この季節変化の主な特徴が再現される。すなわち、南アジアから東アジア域において、下層ジェットおよび上昇流域は、大陸周辺の海洋から大陸側に移動する。鉛直流のこの変化は、6月から7月にかけての熱源の季節変化と矛盾しない。(4)盛夏(7月)から晩夏(8月)にかけてのアジアモンスーンの季節変化は、亜熱帯西太平洋の広い範囲で積雲活動が活発化することによって特徴づけられる。モデルにおいて西太平洋の熱源のみを7月から8月に変えると、この太平洋域からインド洋域の季節変化の主な特徴が再現される。上層のチベット高気圧および下層の太平洋高気圧が日本付近へ広がることもまた、西太平洋の熱源のみの季節変化で再現される。(5)6月の帯状平均場と8月の熱源を用いたモデル実験が、気候学的な8月の実験結果と比べられる。気候学的な季節変化から遅れた帯状平均場が、中緯度および亜熱帯域の弱いモンスーン循環および関連する降水偏差と関連していることが暗示される。
著者
柴垣 佳明 山中 大学 橋口 浩之 渡辺 明 上田 博 前川 泰之 深尾 昌一郎
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.569-596, 1997-04-25
参考文献数
39
被引用文献数
4

1991年6月17日〜7月8日にMU・気象(C・X・Ku帯)レーダーを用いた梅雨季3週間連続観測を行った. MUレーダーの観測データから, 下部対流圏の降雨エコーの影響を完全に除去して, 信頼性の高い高分解能の3次元風速のデータセットを作成した. 梅雨前線は最初の約1週間(6月17〜24日)はMUレーダー観測所の南方にあり, その後一旦(6月25〜28日)は北方に移動した. 6月29日以後は中間規模低気圧の地上の中心がレーダー観測所近傍を次々と通過し, その際の水平風の変化は, 下層から圏界面ジェット高度にかけて高度とともに遅れて強まる傾向がみられた. 次に, 中間規模低気圧との相対的位置関係に基づいた数時間スケールの鉛直流と降水雲との対応を(i)低気圧を伴った梅雨前線の北側, (ii)地上の低気圧中心付近, (iii)低気圧からかなり離れた梅雨前線南側の3領域について調べた. (i,(ii)のケースでは, 上昇流領域は対流圏界面付近の層状性乱流下端高度(LSTT)と前線面高度に大きく依存し, その後者のケースの上昇流は温暖前線北側では発達した降水雲を伴い, 寒冷前線北側では中規模スケールの領域にわたって卓越しているが, 降雨を伴わないことが多かった. さらに, (iii)の期間ではいくつかの上昇流領域はLSTTを突き抜けていた. これらの中規模変動は, 積雲規模擾乱に対応する上昇流領域のピークを含んでおり, またそれらのいくつかは地上降雨と一致していた. 以上の観測事実に基づき, 梅雨前線近傍の鉛直流変動の階層構造の概念図を作成した. この特徴は, よく知られている中間規模低気圧, 中規模クラウドクラスター, 積雲規模降水雲から成るマルチスケール構造と部分的には一致しているが, 本観測で得られた結果は過去の研究で主に用いられている気象レーダー・気象衛星では観測できない晴天領域についてもカバーしている.
著者
菅野 洋光
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.1053-1071, 1997-12-25
参考文献数
20
被引用文献数
5

日本の東北地方の夏季に低温をもたらすヤマセ風について、1979年から1993年の三沢の高層気象データを用いて分類を行った。ヤマセ気塊の鉛直構造に対してクラスター分析を行い、7つに分類した。各クラスターに属するヤマセ気塊の特徴を、クラスター毎に平均して調べた。ヤマセ風による地表の低温域は気塊の高さに比例しているが、気塊の高さは必ずしも東風の高さと一致していない。ヤマセ気塊、東風共に高い (約800 hPa以上) 場合、地表では東風が東北地方全域を吹走し、強い低温域が太平洋側に認められる (クラスター2と6)。東風が高いが (約800 hPa以上)、気塊の高さが低い場合 (約800 hPa以下)、東風は東北地方全域を吹走するが、地表の低温はさほど強くはなく、寒気は山地によって効果的にブロックされる (クラスター3と5)。ヤマセ気塊、東風共に低い場合、地表の東風と低温域は太平洋側に限定される (クラスター1, 4と7)。各クラスターに属するヤマセ風の出現頻度には季節性が認められる。クラスター6と7は6月にのみ出現し、クラスター2と4は主に梅雨期に、クラスター1と3は梅雨後期から盛夏季に、またクラスター5は主に盛夏季に出現する。また、地上気圧配置、前線の頻度、および500 hPaの高度場はクラスターごとに特徴的な分布を示している。各年ごとにヤマセ風の出現頻度を調べたところ、夏が著しく低温であった1980年、1988年、および1993年には、クラスター2,3,4のヤマセ風が多く吹走していた。しかしながら、低温かつ高さの高い気塊を伴うクラスター2に属するヤマセ風が、夏季の低温に重要な役割を担っていることが示唆された。
著者
岩崎 博之
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.467-474, 1994-06-25
被引用文献数
2

気象衛星NOAAのsplit-windowデータから求めた可降水量分布の事例解析を行った。可降水量分布にはメソβスケールの不均一が認められた。二つのバンド状の可降水量が少ない領域に沿って地上では発散域が認められ、また、可降水量の多い領域の一つは"小規模の海陸風"が作る収束域に対応していた。
著者
松田 佳久
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.1181-1189, 1995-12-25
参考文献数
12
被引用文献数
2

線型化されたプリミティヴ方程式を使って、ゆっくり回転する大気の、移動する熱源に対する三次元的応答を研究した。まず、プリミティヴ方程式を水平構造方程式と鉛直構造方程式に変数分離した。水平構造方程式の数値的解法においては、Hough関数を利用した。この研究においては、惑星の自転速度と太陽加熱の移動速度は金星の値に固定されている。大気の線型応答が大気の安定度とダンピングレートの色々の値に対して求められている。ダンピングレートが大きな値の時には、夜昼間の直接循環が得られた。一方、ダンピングレートが小さな値の時には、東西風が卓越し、地衡風の関係が中高緯度において成り立った状態が現われた。
著者
直江 寛明 松田 佳久 中村 尚
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.687-700, 1997-06-25
参考文献数
10
被引用文献数
2

色々な基本場におけるロスビー波の伝播の様相を球面上のバロトロピックモデルの時間積分によって研究した。初めに、理想化した基本場における伝播を調べた。東西一様の基本場が強いジェット気流を持つ場合は、ジェット気流はロスビー波の導波管の働きをする。平均流と東西波数1 (又は2) の重ね合わせで基本流が構成されているときは, ジェットの入口から射出されたロスビー波はジェット気流の入口と出口の間の経度 (西風が強い所) を速やかに東に伝播する。そして、その波はジェットの出口付近で停滞し、そのエネルギーはそこに蓄積する。基本流の東西非一様性が大きいときは、基本流が順圧的に不安定になる。しかし、この不安定は弱いので、伝播の様相がこの不安定の影響を受けることはなかった。一方、基本場からの運動エネルギーの順圧的変換も波のジェットの出口付近での増幅に重要であることもわかった。つまり、ジェットの出口付近での波の増幅は、上流のエネルギー源からのそこへの波のエネルギー伝播とそれに基づくそこでの順圧的変換による増幅と理解される。次に、冬 (12月から2月) の観測データから得られた1か月平均の300hPa面での流れを基本流として、そこでの波の伝播を調べた。1986年の12月の場合、アジアジェットの入口と出口の間を東ヘ伝播したロスビー波はジェット出口付近で進行を妨げられ、その付近に停滞した。1984年1月の場合は、ロスビー波の経路はアジアジェットの出口において北大西洋ジェットに接続する東向きの経路と赤道向きの経路とに分岐した。このようにロスビー波の伝播特性は基本流の分布に強く依存することが例示された。
著者
田中 実
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.1109-1123, 1997-12-25
参考文献数
20
被引用文献数
12

東アジアにおける梅雨降水量及び西太平洋における夏のモンスーン (WNPM) の年々変動及び長期変動を1963年から1992年までの30年間の海面気圧・降水量及び5日平均GMS上層雲量データ (1978年4月から1992年12月) を利用して調査した。これらの現象とENSOとの関係を1963年から1992年までの30年間の東部赤道太平洋海面水温(NINO3 SST)を利用して調査した。7月下旬のWNPMの年々変動は、NINO3 SSTと最近の15年間 (1978-1992) のみ高い負の相関があることがわかった。これはLa Nina (El Nino) 年にWNPMは強く (弱く) なりやすいことを示す。7月の梅雨降水量は、NINO3 SSTと上記15年間において高い正の相関があることがわかった。したがって La Nina (El Nino) 年に梅雨降水量が少なく (多く) なりやすいことを示す。これらの関係は最近の15年間については La Nina 年と比較して El Nino 年は WNPM の開始と梅雨降水量の極大が出現する日が20日ほど遅れることによる。7月の梅雨降水量は1963年から1977年の15年間にも NINO3 SST と高い正の相関があることがわかった。しかし La Nina年と El Nino年の梅雨降水量の極大の出現日の遅れの差は小さくなっていた。NINO3 SSTとのラグ相関を計算し、7月下旬のWNPMは5・6月のNINO3 SSTとの負の相関が高かった。梅雨降水量は最近 (前期) 15年間の1978-1992年 (1963-1977年) の期間において、3ヵ月遅い (2ヵ月早い) 月の NINO3 SSTと高い正の相関があることがわかった。NINO3 SSTの自己相関を調べると、1963-1977年の15年間は、2年周期が、1978-1992年は4年位の長い周期が観測された。この周期の変化は、最近の15年間に SSTと WNPM及び梅雨降水量との相関が高くなったことと関係していると考えられるが、今後の調査が必要である。
著者
田中 実
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.255-267, 1994-04-25
被引用文献数
6

5日平均GMS上層雲量(1°×1°メッシュ)データ(1978年4月から1992年12月)、及び5日平均ECMWF上層風(2.5°×2.5゜)データ(1980-88)、を利用してインドネシア・オーストラリア・ニューギニアにおける夏のモンスーンの開始と季節変化を調査した。熱帯モンスーンに伴う雲は、11月にジャワ島・北部ニューギニアで増加し、雨期が始まる。その後、12・1月にかけて東部インドネシア・オーストラリアに広がる。5日平均850hPa及び200hPa面のECMWF上層風の東西成分の季節変化で、850hPaで西風、200hPaで東風が同一地点で観測された期間の始まりを、風によるモンスーン開始日、終わりを終了日とした日付けと比較すると、北部オーストラリア・ニューギニア・スラウエシ島・南部ボルネオ等の島や陸上で、付近の海上にくらべて日射による加熱のため対流活動が活発で、雲量による開始日は早く、終了日は遅れる傾向がみとめられた。インドネシア・オーストラリア・ニューギニアでは広大な海洋のため降水量による雨期の開始(終了)の日付の調査は、ダーウイン付近をのぞいて十分でなかった。しかしGMS上層雲量データによる調査によって、この地域での雨期の開始から終了までの季節変化が明らかになった。
著者
沈 学順 木本 昌秀 住 明正
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.217-236, 1998-04-25
被引用文献数
7

実測SSTを与えた大気循環モデルの10年間積分(1979-1988)を用いて、広域インドモンスーンの年々変動とそれと関連したユーラシア大陸上の陸面プロセスについて調べた。用いたモデルは東大気候システム研究センターと国立環境研究所の共同開発によるものである。南アジアモンスーン域における上下の西風シアをモンスーンの強弱の指標として用いた。モデルでシミュレートされたモンスーン環境の年々変動は観測と良い対応を示した。モデルのモンスーン変動にはユーラシア大陸上で顕著な前兆現象が見い出された。弱いモンスーンの前の冬に、北緯50°より南のほうで積雪がより多く、強いモンスーンの前にはパターンが全く逆になっている。季節の進行とともに、春にはモンスーンの強弱に応じて土壌水分等にも顕著なコントラストが見られた。これらのシグナルは観測の統計結果及び他のモデル実験結果と整合的である。陸面での熱収支解析により、雪解けの遅いチベット高原では積雪のアルベド効果が顕著であり、その西の標高の低い区域では土壌水分偏差による蒸発偏差や増えた雲量によるアルベド効果の方が卓越していることが見い出された。冬〜春の陸面プロセス偏差が引き続き夏のモンスーンの強弱に定量的にどの程度のインパクトをもつかを数値実験によって調べた。このモデルでは、陸面プロセスはボジティブフィートバックとして働きはするが、モンスーン循環の偏差の符号を決定する程の影響力はない。ENSOによる熱帯東西循環の変化の直接的な影響が量的にはより支配的役割を果たすようである。
著者
立花 義裕
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.697-715, 1995-06-25
被引用文献数
3

北海道石狩平野の降雪分布の特性について統計的な研究を行った。主に1982から1991年の冬季のAMeDAS毎時降水量データ用いて調べたREOF (rotated empirical orthogonal function)解析の結果、第1成分(31%)は山雪のパターン、第2成分(11%)は石狩平野を中心とする里雪のパターンになることがわかった。二つの成分の時間的な変化を調べたところ、里雪型は冬の後半に、また、昼間よりは早朝に多いことがわかった。次に、里雪型の降雪をもたらす気象条件を総観場及びメソスケール場の関連に着目して調べた。その結果里雪型の降雪が生じる場合には、北西季節風とは反対向きの寒冷な気流が海岸部の地表付近に存在していることが明らかになった。特に、降雪が1日以上持続する場合は、寒冷な気流は石狩川全流域におよぶ。この事実は、持続する里雪と北海道内陸部に形成される寒気のプールとの関連を示唆する。すなわち、カタバ風によって内陸の山から平野部に流れこんだ寒気が持続的に海上に流出する際に、海岸付近に収束帯形成され、持続的な降雪がもたらされると考えられる。さらに、里雪型降雪の際の総観揚を統計的に調べた結果、偏西風が非常に弱く、上空の気温が非常に低いことがわかった。このような総観場は、カタバ風の発生に好都合であり、上記の推測と整合的である。また、これらの総観場の特徴は他の日本海側の降雪域の特徴に似ていることもわかった。
著者
Sud Y.C. Mocko D.M.
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.335-348, 1999-03-26

ISLSCP Initiative-Iデータを用いた全球土壌水分プロジェクトでの評価で、SSiBモデルによるロシア小麦地帯(RWB)での融雪が観測と比べて非常に遅れ融雪水の浸透が極端に少ないことが示された。さらに、融雪水の多くが土壌水分増加ではなく流出となった。この欠点はSSiBの雪モデルと土壌層のモデル化の不十分のためであった。本研究では独立の雪層を考慮した新雪モデルを採用している。雪は入射太陽フラックスを吸収・射出し冬と融雪期を通じて雪温・地温に影響する。ISLSCP Initiative-Iデータによる評価で、新雪モデルはRWB域での融雪が2〜3週間早くなり、融雪期の初期に土壌が融け、より多くの融雪水が土壌に浸透する。このように新モデルは土壌水分やボルガ河流出をより現実的に再現する。融雪の遅れ(1〜4週間)の理由として、(1)密な森林での衛星による雪観測の不正確さ、(2)モデリングの仮定、例えば雪の年齢の影響を無視していることや雪による太陽放射吸収の簡単化のために雪面温度と平均気温の区別が不適切になること、(3)ISLSCP気温データの低温バイアスの可能性、が考えられる。
著者
青木 輝夫 青木 忠生 深堀 正志 内山 明博
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.595-614, 1999-04-25
被引用文献数
12

雪面及び大気上端(TOA)における波長別及び波長積分した積雪アルベドに対する大気の効果を調べた。そこでは空気分子、吸収気体、エアロゾル、雲による吸収と散乱の効果を、doubling and adding法とMie理論に基づいた大気 - 積雪系の多重散乱放射伝達モデルによって見積もった。波長別雪面アルベドは太陽天頂角が大きいとき、大気中の吸収気体によって大気がないときに比べて減少することが示された。その太陽天頂角依存性は波長0.5μm以下でレイリー散乱によって弱められ、ほとんどの波長でエアロゾル及び雲によって弱められた。水蒸気の豊富な大気は、太陽天頂角が大きいとき、水蒸気の吸収帯で波長別アルベドを減少させた。ところが近赤外域の下向きフラックスが水蒸気の吸収によって減少するため、波長積分したアルベドは数パーセント高くなった。エアロゾルは太陽天頂角が小さいとき波長積分した雪面アルベドを増加させ、太陽天頂角が大きいときには減少させた。しかし、エアロゾルは太陽天頂角が大きいときを除き、波長積分したプラネタリーアルベドを減少させた。光学的に厚い雲は太陽天頂角に依らず波長積分した雪面及びプラネタリーアルベドの両者を増加させた。太陽天頂角が小さいとき可視域では、雪面上における曇天時の下向きフラックスが晴天時のそれを上回り、また両者はさらに大気外日射フラックスを上回り得ることがわかった。この現象は雪面と大気(雲)の間の多重反射によって説明できる。しかし、雪面上における曇天時の全天日射量は、晴天時及びTOAにおけるそれらを上回ることはなかった。