著者
播磨屋 敏生 中井 安末
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.101-115, 1999-02-25
被引用文献数
1

日本の日本海側の山岳地域において、毎年のように豪雪が起る。その降雪の形成に貢献する雲粒捕捉成長過程が、レーダーと微物理解析によって調べられた。観測結果は次のようにまとめられる。レーダー解析によると、日本海上で形成された降雪雲は、海上から陸上に向かって移動するにつれて、発達期から最盛期となる。その後陸上を移動するにつれて消滅期をむかえる。それらの降雪雲が山岳地域に到達する時、地形性上昇流によって再発達するのが観測された。降雪強度の増加につれて付着雲粒量が増加すること、および上方がら降る氷結晶の質量フラックスの影響をとりのぞいた付着雲粒量が、風速が増加するにつれて増加することが示された。そのうえ、風上から移流する雲粒量を差引いた付着雲粒量が、風速が増加するにつれて増加することが風速と雲粒寄与率の関係図から推測された。この観測事実から、風速の強い時には再発達して雲粒の増加した雲内を氷結晶が落下することによって、たくさんの雲粒を捕捉して、結果として高い雲粒寄与率をもち、強い降水強度をもつ降雪となることがわかる。このようにして、雲粒捕捉成長過程が山岳性降雪の形成へ非常に貢献する。観測結果は、昇華と雪片形成成長過程もまた山岳性降雪の形成に貢献することを示した。降雪雲内の雲水量は、地形性上昇流によって形成される雲粒量のみだけでなく、氷結晶の質量フラックスとの兼ね合いで決まることが示された。観測結果は、雲粒量に比べて氷結晶の質量フラックスが少なくなる風速の強い条件下と風速が弱くても発達初期段階の降雪雲である条件下の二つの場合が人工種まき実1験のために可能性が高いことを示した。
著者
Peng Melinda S. Chang Simon W.
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.1073-1089, 1997-12-25

マイクロ波放射系 SSM/Iから推定された雨量の同化は、領域モデルによる熱帯低気圧の数値予報に有益であることが示されている (Pong and Chang, 1996)。しかし、衛星がほぼ太陽周期軌道をとることと観測幅が狭いことにより、SSM/Iは熱帯を完全にはカバーしない。一つまたはそれ以上の熱帯低気圧がSSM/I の観測領域に含まれず、したがって予報モデルに同化するための雨量を推定できない場合が多くある。この研究では、雲頂輝度温度がら推定された雨量を同化する効果評価する。Manobianco et al. (1994)によって提案された、SSM/Iの同時観測による雨量に基づいて赤外雲頂輝度温度から雨量を推定するアルゴリズムを、1990年の台風Floの数値予報に適応した。赤外観測による雨量の同化は、台風Floの経路と強さの予報に正の効果があり、これはSSM/Iによる雨量を用いた Peng and Changの結果と定性的に同じであることがわかった。赤外輝度温度とSSM/I輝度温度が同時に観測されない場合には、赤外雨量をSSM/I雨量に関係づける解析アルゴリズムの精度が低下した。赤外雨量を、数日前に得られた赤外輝度温度とSSM/I雨量の間の関係式から計算した感度実験では、赤外雨量の精度と予報のスキルの改善率が共に減少した。
著者
金田 幸恵 耿 驃 吉本 直弘 藤吉 康志 武田 喬男
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.135-154, 1999-02-25
被引用文献数
1

1993年7月25日未明に台風9304が紀伊半島南端に最接近し、その後四国に上陸したことに伴い、半島南東斜面に多量の降水が観測された。この台風に伴い形成された対流性降水雲の地形による変質過程が、2台のドップラーレーダを用いた観測により調べられた。7月24日1900LSTから25日0000LSTにかけてのドップラーレーダ観測期間中、多くの対流性降水雲が上陸した。それらのレーダエコーは、様々な発達段階で海岸に達したにもかかわらず、海岸の10-20km手前で強まり、海岸線付近でいったん弱まった後、上陸後に再び強化されるか、あるいは広がるという共通の特徴を示した。また、対流性エコーは、海上で強まる前、海岸から30-40km沖付近で後面上部で強まり、その後、海岸に近づくにしたがって、進行方向前面のエコーが強まるという特徴も見出された。2台のドップラーレーダの観測データから導出された海上の水平風を時間平均したところ、平均風速は海岸に近づくにつれ減衰すること、海岸から約10km海上に10^<-4>s^<-1>以上の水平収束域が存在することが見いだされた。以上の観測事実にもとづき、また一般風に対する半島の地形効果に関する数値実験の結果も考慮して、対流性降水雲の地形による変質過程と効率的な降水形成過程が議論された。海上から接近、上陸する対流雲に対するこのような地形効果の総合的な結果として、紀伊半島南東斜面に多量の降水がもたらされたと考えられる。
著者
植田 宏昭 安成 哲三
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.1-12, 1998-02-25
被引用文献数
12

本研究ではベンガル湾及び南シナ海上の東南アジアモンスーン(SEAM)の開始のメカニズムを, チベット高原とその周囲の海洋との温度コントラストの視点から調べた。循環場の解析にはECMWFによる5日平均客観解析データ(1980-1989年), 対流活動の指標としてはGMSの5日平均等価黒体温度(TBB)データ(1980-1994年)を用いた。東南アジアモンスーンのいち早い開始は, 第28半旬(5月16-20日)に下層のモンスーン西風気流の加速を伴って見られ, その後6月の上旬に2回目のモンスーン強化が生じている。春から夏にかけてのチベット高原上では, 200-500 hPaの気層の温度上昇が約15日間隔で上昇している。特に5月中旬のチベット高原上の温度上昇は, SEAMの開始と一致している点が重要である。すなわちチベット高原とその周囲の海洋との温度差異は, 下層のモンスーン気流の加速と東方への拡大を引き起こし, 結果として南シナ海モンスーン(SCSM)を含むSEAMの急激な開始をもたらす。この関係は, (10゜-20゜N, 80゜-120゜E)での下層の風と200-500 hPaの層厚との年々変動の相関解析によっても確認された。中緯度への影響としては, SCSMの開始による低気圧性渦度と熱源により, 定常ロスビー波が南シナ海上で励起され, 更に北東方向に伝播している。この波の下流の日本付近は正の高度場偏差が現われ, 川村と田(1992)が示した5月中旬の日本の晴天の特異日と一致している。
著者
城岡 竜一 上田 博
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.461-470, 1995-06-15
被引用文献数
1

TOGA-COAREの集中観測期間中、西部熱帯太平洋上のパプアニューギニア、マヌス島において1992年11月19日から1993年1月19日までの2ケ月間、全天日射量の観測を行なった。日射量の日変化の特徴から観測期間を4つに分割した。GMSのT_<BB>からみた対流の活発度やウインドプロファイラーから得られた東西風にも各期間の特徴がみられた。観測期間を通して地上風の変動は激しかったが、12月下旬から1月上旬にかけて強い西風が観測された。最も対流活動が活発であった期間は午後の日射量の低下で特徴付けられ、西風強化の前に現れていた。一方、西風が強化された期間では午前中の対流活動が支配的であった。日射量の日変化を渦相関法によって求められた顕熱や潜熱のフラックスと比較すると、陸上におけるエネルギーフラックスの変化は日射量の変動に30分程度ですばやく対応していた。潜熱と顕熱のフラックスは、夜間はほとんど零であり、昼間の最大値は潜熱で約270W/m^2、顕熱で200W/m^2であった。
著者
荻野 慎也 山中 大学 深尾 昌一郎
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.407-413, 1995-06-15
被引用文献数
4

J-COARE白鳳九航海のレーウィンゾンデ観測(1992年11月1日〜12月4日)より得られた温度・風速データをもとに、低緯度帯(13.78°S〜24.50゜N)の下部成層圏(14〜22km)における重力波活動度の南北変化を調べた。高度14〜22kmのデータを用いて鉛直波数スペクトル解析を行ない、全期間の平均をとると、卓越鉛直波長は温度・東西風については4km、南北風については2.7kmであった。高度プロファイルおよびホドグラフ解析結果をみると、赤道をはさんで南北約10゜の範囲では、鉛直波長が4km程度の比較的振幅の大きな(5〜10m/s)波動構造が、東西風にはしばしば認められるが南北風にはほとんど認められないことから、4kmの成分には主にケルビン波が、2.7kmの成分には主に重力波が寄与しているものと考えられる。鉛直波長4.0km,2.7m,2.0mの各成分について、パワースペクトル密度を緯度の関数として整理し、中緯度帯と較べると低緯度域の方が重力波活動度は大きいという結果を得た。重力波の振幅は波の周期や背景のブラントバイサラ振動数に関係すると考えられるが、今回得られた南北分布はこれらのパラメタだけでは説明できず、赤道付近で活発な積雲対流が重力波の励起と密接に関わっていることを示唆している。
著者
加藤 輝之 栗原 和夫 瀬古 弘 斉藤 和雄 郷田 治稔
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.5, pp.719-735, 1998-10-25
被引用文献数
6

10km分解能気象研究所非静力学メソスケールモデル(MRI-NHM)が予想した降雨の精度検証を1996年梅雨期について行った。精度検証結果については気象庁の10km分解能静力学領域スペクトルモデル(RSM)の結果とも比較した。MRI-NHMには雲水、雨水を直接予報する暖かい雨タイプの降水スキームを用い、RSMでは2つの対流のパラメタリゼーションスキームを大規模凝結とともに用いている。MRI-NHMは1時間降水量1mm程度の小雨を僅かに過小に予測した一方、降水強度の最大値20mm以上の強雨の面積を相当に過大評価した。統計的なスコアを取ったところ、1時間降水量10mm以上の強雨についてはMRI-NHMの方がRSMより正確に予測していた。ただし、5mm以下の雨についてはMRI-NHMはRSM程成績は良くなかった。MRI-NHMは1時間降水量20mm以上の雨のほぼ半数を予想することができた。降水は九州北部より南部の方が精度良く予想されていた。このことは九州北部と南部とで強雨形成のメカニズムが異なるためだと考えられる。
著者
Liebmann Brant Hendon Harry H. Glick John D.
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.401-412, 1994-06-25
被引用文献数
1

当論文においては、西太平洋及びインド洋における熱帯低気庄とMadden-Julian振動(MJ0)との関連を記述する。熱帯低気圧は振動の積雲対流活動活発期に生じ易いし、雲塊は下層の低気圧性渦度の周辺に存在し、発散場はMJ0に伴う積雲対流活動の西方極側に現れる。熱帯低気圧や台風の絶対数は振動の積雲対流活動活発期に増大するが、弱い熱帯低気圧から転化する熱帯低気圧と台風の比率は、積雲対流活動活発期と乾燥期において同一である。積雲対流活動活発期においてより多くの熱帯低気圧や台風が存在するのは、当時期により多くの弱い熱帯低気圧が存在することによる。当研究の第三の結果は、積雲対流活動活発期の熱帯低気圧の活動度がMJOの活動度に限定されていない点である。事実、我々はMJ0と独立かつ無作為に選ばれた積雲対流活動活発期において熱帯低気圧の活動度が同等に増大することを見いだした。結論として、MJ0は熱帯低気圧に影響を及ぼす独自の機構を持つと言うより、むしろそれに伴う熱帯の変動度が大きな割合を占めるという点で重要である。
著者
Baik Jong-Jin Paek Jong-Su
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.78, no.6, pp.857-869, 2000-12-25

バックプロパゲーション型ニューラルネットワークを使って、北西太平洋での熱帯低気圧の強度の変化を12, 24, 36, 48, 60, 72時間について予測するモデルを開発した。用いたデータは、1983-1996の14年間の北西太平洋の熱帯低気圧に対する、低気圧の位置、強度、NCEP/NCARの再解析、それに海面水温である。ニューラルネットワークの予測因子は重線形回帰モデルの予測因子に基づいて選ばれた。回帰分析により、予測因子の一つ風の鉛直シア-が全ての予測時間に渡って一貫して重要であることを示した。予測因子として気候学的、持続的、総観的因子を用いたニューラルネットワークモデルによる平均予測誤差は、同じ予測因子を用いた重線形回帰モデルに比べて7-16さらに、予測因子として気候学的、持続的因子のみを用いたニューラルネットワークモデルの性能でさえも、総観的因子まで含んだ重線形回帰モデルの性能をわずかに上回った。ニューラルネットワークモデルの性能は14年間の全ての年について回帰モデルを上回るわけではないけれども、ニューラルネットワークモデルの方が良い年の方が逆の年よりもずっと多く、その傾向は短い予測時間の方が顕著である。感度実験により、ニューラルネットワークモデルの平均強度予測誤差は、隠れ層や隠れ層のニューロンの数には敏感ではないことを示した。しかし、熱帯低気圧強度予測のために、より良い隠れ層の構造を用いることにより、回帰モデルに比べてニューラルネットワークモデルをさらに改良する余地がいくらかある。この研究は、予測因子として気候学的、持続的、総観的因子を用いたニューラルネットワークモデルが熱帯低気圧の強度予報において有効な道具として使えることを示唆している。
著者
隈 健一
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.147-172, 1994-04-25
被引用文献数
5

気象庁現業全球モデルの高水平分解能(T63、T159)水惑星版を時間積分した。どちらの分解能でも、40日周期のマッデン-ジュリアン振動(M-J振動)が出現した。波数1スケールの構造は両者ともほとんど同一であったが、振幅はT159の方が2倍の大きさであった。下層の収束域の東側では、赤道域で湿潤対流が見られ、西側では赤道から離れた熱帯域で湿潤対流が見られる。水蒸気収支解析によると、M-J振動の構造維持には地表付近の摩擦収束の効果が重要である。T-159モデルでは、クラウドクラスターの集団(スーパークラウドクラスター)のふるまいが中沢(1988)の解析に類似している。しかし、M-J振動とスーパークラウドクラスターのスケールは分離できなかった。M-J振動の熱帯低気圧発生に及ほす影響も調べた。振動の赤道下層収束域付近およびその西側近傍で多くの熱帯低気圧の発生が見られた。これらの低気圧は東西方向に長い対称ロスビー波の構造の生成に寄与している。
著者
藤部 文昭
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.259-272, 1996-04-25
被引用文献数
3

1994年の猛暑の特徴を, 境界層内の状況に焦点を当てて調べた. 境界層内の気温を表す指標として, 地上気温と850hPa気温との差(δT)および昼夜の気圧差(Δp)を使い, これらの経年変化と1994年の偏差を求めた. 解析は1961〜1994年7〜8月の晴天弱風日を対象にした. 1994年の夏はδTの正偏差とΔpの負偏差が明瞭に認められ, 境界層内には自由大気を上回る気温偏差があったことが見出された. また夏季晴天日の一般的特徴として, δTやΔpの偏差は降水・日照の履歴と相関があり, 少雨・多照が続いた後は境界層内は高温になる傾向が認められた. これは地表面の乾燥によって蒸発散が減り顕熱供給量が増すためであると考えられる. 従って, 1994年の夏は著しい少雨・多照の持続が境界層内の高温を増幅する1要因になったと推測される. 一方, δTの経年上昇傾向は夜間については多くの地点で認められるが, 昼間は関東内陸など一部の地点を除いて目立たない. むしろ沿岸ではδTの低下傾向があり, これは海面水温の低下に対応する. 従って, 1994年の猛暑のうち昼間の著しい高温については, 都市化の影響は一部の地域にとどまっていたと考えられる. なお他の研究結果から見て, 昼間の都市昇温は数十年以上の長いスケールにおいて初めて検出されるものと考えられる.
著者
瀬古 弘 加藤 輝之 斉藤 和雄 吉崎 正憲 楠 研一 真木 雅之 「つくば域降雨観測実験」グループ
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.4, pp.929-948, 1999-08-25
被引用文献数
7

台風9426号(Orchid)が日本列島に接近した1994年9月29日に、関東平野にほぼ停滞するバンド状降雨帯が見られ10時間以上持続した。つくばにおける特別高層観測、2台のドップラーレーダーおよびルーチン観測のデータを用いて、この降雨帯を解析した。この降雨帯はニンジン形の雲域を持ち、バックビルディング型の特徴を持っていた。南北に延びた降雨帝はマルチセル型の構造をしていて、その中のセルは降雨帯の南端で繰り返し発生し, 西側に広がりながら北に移動した。水平分解能2kmの気象研究所非静水圧メソスケールモデルを用いて、数値実験を行った。メソ前線は実際の位置の約100km南東に形成されたが、バックビルディング型の特徴を持つニンジン型の形状のほぼ停滞する降雨帯が再現され、3時間以上持続した。セルが北西に移動すると共に降雨帯の東側で降水が強化されて、ニンジン形が形成されていた。降雨帯の形成メカニズムを調べるためにまわりの場と雲物理過程を変えて感度実験を行った。その結果、中層風の風上側からの高相当温位の気塊の供給と風の鉛直シアが重要であることがわかった。
著者
三隅 良平
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.101-113, 1996-02-25

1993年8月9日の夜, 台風9307が日本の南部に接近し, 大隅半島に多数の土砂災害を伴う豪雨を発生させた. この豪雨の興味深い特徴は, 降水量が山脈の風下側で著しく多かったことである. 山脈風上側の観測地点では9時間雨量が80mmであったのに対して, 風下側では大部分の観測地点で150mmを超えた. また, すべての土砂災害は山脈の風下側に発生した. この豪雨は, 主として台風の眼の壁雲とレインバンドの間の領域でおこった. 豪雨の期間中, 山脈の上層に強いレーダーエコーが頻繁に出現した. 山脈の風下側で降水量が増加する過程を, 2次元モデルによる数値シミュレーションで調べた. シミュレーションの結果は, 降雨が主としてシーダ・フィーダ機構によって強められていたことを示した. すなわち, 上層の雲から落ちてきた降水粒子が, 地形性上昇流によって形成された雲粒を捕捉することによって成長し, 山脈上で成長した粒子が, 台風に伴う強い風によって風下側に運ばれたと考えられる. また別の機構として, 山岳波に伴う下降流が, 局所的に多量の雪粒子を下層に運ぶことも, 風下側の降雨量の増加に寄与していたと考えられる.
著者
岩崎 博之
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.711-719, 1999-06-25
被引用文献数
4

NOAA衛星のSplit-windowデータを用いて陸域の可降水量を見積もるIwasaki(1994)のアルゴリズムを30画素×30画素からなる山岳域を含んだ解析単位について応用し、マイクロ波放射計で得られた可降水量と比較した。12事例について比較した結果、回帰直線の傾きは1.0に近く、y軸切片も-1.68mmと小さく、相関係数は0.81と良好な結果を得た。このアルゴリズムを使うことで、熱的局地循環に伴う晴天域のメソスケールの可降水量分布とその時間変化を可視化できた。熱的局地循環が卓越した1995年7月28日の07時30分がら14時30分の間に、海岸付近では可降水量が5-20mm増加していた。山岳域では可降水量は0-20mm増加し、逆に、山麓では可降水量が0-15mm減少していた。
著者
佐藤 薫 永戸 久喜 廣田 勇
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.427-436, 1993-08-25
被引用文献数
8

時間分解能の高いMUレーダー観測データ及び水平分解能の高い気象庁JSM(Japan Spectral Model)データを用いて対流圏中上部に卓越する中間規模東進波動擾乱を発見しその特性を詳しく調べた。この波動は3-4日周期の移動性高低気圧波動(長波)の卓越する春季において常に存在する。スぺクトル法、ラグ相関法を用いて定量的解析を行なった結果、この波動は緯度30-40゜Nに帯状に分布し、東西波長約2100km、周期約26時間であることがわかった。東向き位相速度は約22ms^<-1>で、長波の約2倍にあたる。これは、この中間規模東進波動が長波の高調波ではなく、独立な固有の生成維持機構を持っていることを意昧する。南北方向、高度方向の位相の傾きは殆んど見られない。高度場及び南北風成分の振幅は250hPaで最も大きく、約4ms^<-1>である。風と高度場との対応は地衡風的である。この種の対流圏東進波動に関するこれまでの観測的知識は乏しく、したがって、その力学は殆んどわかっていない。今後、背景流との関連を通して、この中間規模波動の力学特性を明らかにすると共に、他の季節での中間規模波動解析を発展させる必要がある。
著者
児玉 安正
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.581-610, 1993-10-25
被引用文献数
7

梅雨前線帯、南太平洋収束帯(SPCZ)、南大西洋収束帯(SACZ)は亜熱帯域の顕著な収束帯である。これらは(以下亜熱帯収束帯)は、強い水蒸気収束、相当温位場での前線強化、対流不安定の生成で特徴づけられる顕著な亜熱帯前線帯である。亜熱帯収束帯が特定の領域に出現する理由を明らかにするため、循環場の大規模な特性を亜熱帯域全域について調べ、亜熱帯収束帯の周囲と対比した。また、亜熱帯収束帯と循環場の短時間変動の関係を調べた。亜熱帯収束帯は以下のような循環場の条件が準定常的に満たされる領域に現れた。(1)亜熱帯ジェットが亜熱帯域(緯度30-35度)にある。(2)下層の極向き気流が亜熱帯高気圧の西縁で卓越する。これらの条件のうち1つでも準定常的にみたされない領域では、亜熱帯域に降雨域がないか、弱い降雨域があらわれた。亜熱帯収束帯の活動は、循環場の短時間変動において上記の条件が満たされる期間に活発化した。また、これらの条件が短期間でも満たされれば、亜熱帯収束帯に類似の性質を持つ降水帯が亜熱帯域のどこでも出現した。下層の極向きの気流は、亜熱帯域における水蒸気収束、相当温位場での前線強化、対流不安定の維持に不可欠であった。この気流は、亜熱帯高気圧と亜熱帯高圧帯内の熱的低圧部の間で地衡風的に生成した。モンスーン対流と大陸上の地面加熱は熱的低気圧の生成に重要であった。
著者
村上 多喜雄 松本 淳
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.719-745, 1994-10-25
被引用文献数
17

西部北太平洋における夏のモンスーン(WNPM)は、8月中ごろの最盛期には、東南アジアモンスーン(SEAM)と同程度かそれ以上に活発になる。これら2つの夏のモンスーン地域の境界は、OLRが190Wm^<-2>以下になる両モンスーンの上昇域の間にあって、OLRが230Wm^<-2>以上と比較的高く、相対的な好天域である南シナ海にある。主要な下降域は中部北太平洋にあり、そこでは太平洋高気圧の発散域の上層に、熱帯上部対流圏トラフの収束域が位置している。すなわち、29℃を超える世界でもっとも高い海水温域にあるWNPMの中心地域(北緯10-20度、東経130-150度)では、活発な対流活動が生じ、東経110度付近の南シナ海と、西経140度付近の中部北太平洋との間に、顕著な東西循環が起こっている。この東西循環の鉛直構造は、北緯10-20度付近ではバロクリニックで、東経150度以東では下層が偏東風、上層が偏西風となっており、以西ではこの逆となる。WNPMは、北緯10度から20度付近における海水温の東西コントラストと、北緯20-30度付近における、大陸-海洋間の東西の熱的コントラストの複合作用の結果として生じていると考えられる。WNPM域の極側には大きな大陸がないため、南北の熱的コントラストの影響は、二義的なものとなる。一方SEAMは、主に南北の海陸熱的コントラストによって駆動される、南北循環によって生じている。SEAMは10月初め以前に後退するのに対し、WNPMは29℃を超える高海水温が維持されているため、11月初めまで持続する。
著者
Chan Johnny C.L. Wang Yongguang Xu Jianjun
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.367-380, 2000-08-25
被引用文献数
2

南シナ海(SCS)夏季モンスーン(SCSSM)の様々な観点を研究する目的でSCSモンスーン実験が1998年5-6月に実施された。本論文ではSCSSMオンセットと関連した力学的・熱力学的特徴について予備的な結果を示す。研究目的は850-hPa東西風の東風から西風へのシフトとSCS上の日降水量の突然の増加に基づいて定義されたオンセットを引き起こしたメカニズムを決定づけることである。これらの基準に基づき1998年のSCSSMのオンセットは5月25日であった。高い相対湿度と同様に夏季の南北温度傾度、子午面循環は5月上旬にSCS上で既に確立していた。一方、海面気圧の南北傾度および東西風循環の反転はオンセット直前に起こった。オンセット前日、850hPaと500hPa間の飽和相当温位の鉛直傾度はSCS全域で最大に達しており、下層大気がとても不安定であったことを意味している。ベンガル湾の熱帯低気圧は明らかにSCS地域への水蒸気輸送に対する導管の役割を果たしていた。加えて、北西太平洋の亜熱帯高気圧は東方へ後退し、105°-125°E間のequatorial buffer zoneと関連して赤道越え気流が105°E付近で卓越した。これらの結果として下層西風が形成された。上述のプロセス全てがSCSSMオンセットの必要条件になった。チベット高原北東部で生成された前線性低気圧がSCS地域に南進すると、そこで上昇流が強化され多量の降水を促した。まさにこれがSCS全域でモンスーンオンセットが生じた時であった。
著者
鈴木 力英
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.81-90, 1994-02-25
被引用文献数
1

沿岸域の地表風は主に以下の二つの風成分から成り立っていると考えられる。一つは海陸風成分(以下、LSCと呼ぶ)で、もう一方は総観規模の気圧傾度が原因となって生じる風成分(以下、SWCと呼ぶ)である。本研究では、日本の沿岸地域の地表風をLSCとSWCに分解し、それぞれに対する地表地衡風の影響を調べた。解析には沿岸のアメダス226地点における、1983-1987年の毎時の風のデータを使用した。地表風からSWCを分離する方法としては、全地点の風をベクトル平均すると日本が海で囲まれている理由からLSCが相殺してしまうことを利用した。また、LSCについては各地点の海風向を定義することによって観測値より抽出した。地表地衡風は気象官署の地上気圧値から各アメダス地点について平面回帰によって求められた気圧傾度より、地衡風平衡の式を使って計算した。SWCとSGWとの風速比(SWC/SGW)は15時と6時においてそれぞれ0.22と0.15であった。これは、Suzuki(1991)による山岳部を含む中部日本での解析結果と比べ、大きな値であった。これは、沿岸域の粗度が中部日本全体と比べた場合、小さいためであろう。SGWからSWCへ反時計回りに計ったなす角は51度であり、昼夜の差はほとんどなかったが、SGWの風速によって大きく変化した。LSCの風速はSGWが0ms^<-1>に近い時、14時に海風が1.6ms^<-1>、6時に陸風が0.8ms^<-1>であった。LSCはSGWが大きくなるにつれて小さくなり、SGWの風速が14ms^<-1>を超えるとLSCは消滅することが明らかになった。
著者
板野 稔久
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.325-333, 1998-04-25
被引用文献数
4

HEIFE期間中の中国北西部・乾燥地帯における降雨前後の総観気象状態を本著者による以前の研究(Itano, 1997)の発展としてより詳しく調べた。その結果、この地域では頻繁にトラフの通過がみられ、それに伴って、チベット高原のすぐ北側ではトラフ上に低気圧が次々と形成されることがわかった。この地域の降雨は基本的にそのような東進するトラフによってもたらされる。トラフの通過とともに、標高の高い所では相当量の降雨が観測されるけれども、標高の低い所では必ずしも降雨は見られない。特に, この辺りで標高の最も低い砂漠で降雨が観測されるのは、夏と冬の両季節において雲底下の大気の相対湿度が60パーセントを超えた時だけである。これは、砂漠の境界層が乾燥しているために、そこでの湿度がある程度になるまでは雨粒が境界層内で蒸発してしまって地表面まで届かないためではないかと考えられる。また、この地域で頻繁に総観規模の擾乱通過がみられ、またそれに伴って多くの降雨現象がみられるのにもかかわらず地表面で観測される降雨量が少ないのは、このような雨粒の蒸発によるためもあると思われる。