著者
藤田 之彦 日吉 一夫 若杉 直俊 作田 亮一 柳田 恭子 淵上 達夫 後藤 一彦 大久保 修 内海 康文
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.59-63, 1988-01-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
13

ロタウイルス腸炎罹患を契機にそれまで頻発していた痙攣発作が一時的に全く消失した点頭てんかんの2例を報告した. 2例ともに症候性点頭てんかんであり, 一日に10回程度のシリーズ形成の痙攣発作が下痢出現後3日目には1日に1回となり5日目からは全く消失した. また脳波上も2例ともに改善し, 発作波は限局化を示した. しかしそれぞれ痙攣発作消失後16日目と30日目に下痢出現前と同様の発作型で再発した. これらの作用機序は不明であるが, 突発性発疹症や麻疹などの感染症でも同様の報告があり免疫学的作用機序などが推察された.
著者
岡村 均
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.97-102, 2008-03-01 (Released:2011-12-12)
参考文献数
20

億年前, 自転する地球に現れた生物は, 巨大な発光体である太陽から周期的にエネルギーを得, また, それによる障害から個体を守るため, 体内で時間システムを進化させてきた.これが, 時間形成に特化した時計遺伝子であり, それが形成する生物時計である.これは, ヒトにおいても時間機構の骨格をなし, 近年の時計遺伝子の研究により, 近年の生活スタイルの激変に伴うリズム障害が, 睡眠異常のみならず, うつ病, メタボリック症候群, 発癌などさまざまな疾病の要因となりうることが明らかになりつつある.
著者
三池 輝久
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.85-91, 2006-03-01 (Released:2011-12-12)
参考文献数
31
被引用文献数
1

生徒・学生の学業不振の背景には本人にも納得・理解できない高次脳機能としての学習意欲の低下が存在するが, その背景に体内 (生物) 時計の混乱が潜んでいることが珍しくない. ヒトの日常生活は意識されることのない体内時計の働きによって極めて自然に24時間周期で営まれている. この時計機構の混乱は普段には起こり難いものとされ, これまで時差ぼけ状態以外には知られていなかった. しかし, 競争社会での頑張りや人間関係に伴うストレスが現代夜型生活と相侯って視交叉上核を刺激し体内時計にズレを生じさせることが明らかになってきた. この時計のズレは初期においては自律神経機能の軋みに伴う不定愁訴として現れるが,十分な睡眠・休養により修復することができる. しかし, 体にむち打って無理を重ねると,慢性的睡眠欠乏状態に至り, 体内時計のズレが大きくなると同時にリズムも乱れてメリハリが消え平坦化が起こる. ついにはリズムは消失し, 平坦化が完成され修復不能となって, 慢性的時差ぼけ状態が作られる. その結果, 持続する奇妙な疲労, 学習・記銘機能低下を来して勉強が手につかなくなる.最も厄介な問題は長時間を要する睡眠で, 10時間を要し, 睡眠時間帯の分布が社会活動時間帯と大きく重なるために子どもたちは学校社会生活から脱落せざるを得ず不登校となる. この睡眠障害は難治性で年齢とともに増える傾向があり, 高校生・大学生においても5-7%程度の不登校状態が見込まれる.結果として, 休学・退学あるいは繰り返す留年の背景となっている事実は日本の将来を担う若者たちの現実的な大問題として社会的に注目されなければならない.
著者
塩見 正司 石川 順一 外川 正生 岡崎 伸 九鬼 一郎 木村 志保子 川脇 寿
出版者
The Japanese Society of Child Neurology
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.122-127, 2008-03-01
被引用文献数
4

当院に入院した, てんかん, 脳性麻痺などを有さず, 発熱時けいれん重積で発症し予後不良であった症例を検討した結果,「けいれん重積型急性脳症acute encephalopathy with febrile convulsive status epilepticus; AEFCSE」という名称を提唱した.その特徴としては,(1) 脳CTでは4~5日以後に両側前頭葉, 一側側頭葉など脳葉単位の広がりをもつ低吸収域が生じ (lobar edema; LE), 同部白質は同時期のMRIの拡散強調画像 (DWI) で, 樹枝状の高信号を呈する (bdght tree appearance; BTA),(2) FCSE後意識回復する例では, 数日後に短時間のけいれん (late seizure; LS) を反復する,(3) ASTが100前後の軽度上昇する他は髄液・血液検査の異常は少ない,(4) 知的障害優位の後遺症を生じる,(5) 年齢は全例5歳未満, 感染症はHHV6, インフルエンザが多く, 2歳以上ではtheophylline (THEO) 服用例が多い, THEO服用例は2005年以後はない, などであった.AEFCSE後のてんかんでは反射てんかんがみられることがある点やAEFCSEの前頭葉病変では運動性失語が多い点など, 後遺症の検討も重要である.
著者
大城 あずさ 仲村 貞郎 玉城 邦人 藤原 一男
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.199-203, 2016

症例は10歳男児. 3週間続く弛張熱, 虫垂炎罹患の後, 両眼の高度視力低下, 歩行障害が出現し, MRIで両側視神経・視交叉・小脳・皮質下白質・脊髄にT2高信号病変を認めた. 視神経脊髄炎 (neuromyelitis optica ; NMO) あるいはNMO spectrum disorders (NMOSD) と考え, ステロイドパルス療法を2クール施行した. 歩行障害は改善したが中心視力の改善が乏しいため, 血漿交換療法を追加し, 視力は両側1.0に改善した. 血清抗aquaporin (AQP) 4抗体は陰性で, 抗myelin oligodendrocyte glycoprotein (MOG) 抗体が1,024倍であった. 急性期以後はprednisoloneおよびazathioprineの内服を行ったが, 血清抗MOG抗体は経時的に低下し, 治療漸減にて症状再燃を認めないため発症11カ月で治療を中止した. 近年, 抗AQP4抗体陰性のNMO/NMOSDの中で, 抗MOG抗体陽性例の報告がみられる. 抗AQP4抗体陽性例と異なりステロイドパルス療法のみで軽快する例が多いが, 本例のようにステロイドの効果が不十分で血漿交換が有効な症例もある. 今後さらなる症例蓄積による検討が必要である.
著者
帆足 英一
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.303-310, 1977-07-01 (Released:2011-05-24)
参考文献数
21

夜尿症の病態生理を明らかにする目的で, idiopathic enuresis 21例について終夜睡眠ポリグラフを第1夜に記録し, 分析をおこなった.1) 正常児と比較して, 睡眠段階の割り合いはSV, S1, S3の増加, SREM, S4の減少傾向がみられた.2) 夜尿時の睡眠段階は, 22回の夜尿のうちS2で12例 (54.5%) と多く, S3, SREMは各1例と少ない.3) 夜尿前後の睡眠段階の変化から, 覚醒機構の未熟性あるいは障害が推定された.4) REM睡眠とNREM睡眠の周期的変動の乱れがつよく, 入眠期の障害とREM睡眠の睡眠内周期の障害が推定された
著者
岡部 保 松谷 天星丸 小川 恵弘 松山 春郎
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.312-318, 1973 (Released:2011-05-24)
参考文献数
23

A case of maple syrup urine disease was reported. This female infant was hospitalized at the 15th day after birth, abecause of poor sucking and fever. Two weeks after hospitalization peculiar odor of maple syrup in the urine was detectected and 2, 4dinitrophenylhydrazine reaction of the urine became positive. At 31/2 months of age treatment wa s begun by the diet without valine, leucine and isoleucine. But she died of pneumonia at the age of 41/2months.
著者
林 隆 市山 高志 西河 美希 古川 漸
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.339-345, 1998-07-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
12

未熟児出生, 新生児仮死による痙性両麻痺児に認めた鏡像書字について, 神経心理学的, 画像診断学的に検討し発症機序について考察した. 右側優位の麻痺による左利き状態を右手使いに矯正する過程で鏡像書字は増悪した. 神経心理学的には利き手の矯正中にWPPSIでVIQ86, PIQ74, TIQ76と境界域の知能レベルで視覚認知の弱さが窺えた.もともと左手を使用していたこと, 視覚的に鏡像が自覚出来たこと, MRI上左頭頂葉白質に虚血性搬痕病変を認めたことより, 鏡像書字の原因として空間方向性の障害を考えた. Frostig視知覚発達検査では, 検査IVの空間位置関係の得点が利き手の矯正により低下し矯正をやめると速やかに戻った. 利き手の矯正による感覚運動刺激が視覚認知機能に影響を与える可能性を示唆している.
著者
福田 冬季子 杉江 秀夫 伊藤 政孝 杉江 陽子
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.314-318, 2001-07-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
12
被引用文献数
1

自閉性障害の病態として, セロトニン系の関与が示唆されている.自閉性障害児における選択的セロトニン再取り込み阻害剤 (selective serotonin reuptake inhibitor: SSRI) の有用性を検討するため, 保護者の同意が得られた自閉性障害児に対しfluvoxamineを投与し, crossoverdesignによる二重盲検法で検討した.行動評価表の項目別評価では, 視線と言語においてfluvoxamine投与による有意な改善が見られた (p<0.05).特に言語における効果は保護者の観察を裏付ける結果となった.Clinical Global Impression Scale (CGI) では約半数の症例で何らかの改善が見られたと考えられた.試験期間中重篤な副作用は見られなかった.小児自閉性障害においてSSRIは治療薬として試みる価値があると考えられた.
著者
宮崎 雅仁 西條 隆彦 森 健治 田山 正伸 内藤 悦雄 橋本 俊顕 黒田 泰弘 埜中 征哉
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.65-70, 1991-01-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
20

Epilepsia partialis continuaを呈したmitochondrial myopathy, encephalopathy, lactic acidosis, and strokelike episodes (MELAS) の14歳1カ月男児例を報告した.本症例は8歳時に自家中毒様の反復する腹痛および嘔吐で発症し, 10歳7カ月, 10歳9カ月, 14歳1カ月の3回にわたりミオクロニー発作, 一過性の片麻痺などの脳卒中様症状を認めた.14歳1カ月時はepilepsia partialis continuaを呈し, 10日間にわたり, 脳波上, 右中心部に出現する棘波に同期する左前腕のミオクロニー発作が持続した.血液および髄液中の乳酸・ピルビン酸の上昇, 頭部CTでの両側側頭部の低吸収域, 生検筋ではragged-red fiberが認められた.
著者
坪倉 ひふみ
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.122-128, 2002-03-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
14
被引用文献数
1

ヒトの胎児や新生児は自発的に運動しており, その中にgeneral movements (以下GMsと略す) が含まれる。PrechtlによればGMsは全身を含む粗大運動で出現した時点で複雑であり, 個々の運動に分化する. GMsは胎生期には不変だが新生児期には変化し, 軌跡が小さくなり単調になる. それに対し異常なGMsは周期的かつ単調で発達的変化を欠く. GMs, 特にfidgetyは神経学的予後と相関する. GMsの臨床的意義は,(1) GMsの観察は非侵襲的・安全・簡便で,(2) 観察者がトレーニングを受けていれば, 観察者間の判定一致率は高い. (3) GMsのreliabilityは78-98%で平均90%である. (4) 異常なGMsは脳障害の存在や重症度とよく相関する.
著者
杉浦 ミドリ 松本 昭子 渡辺 一功 根来 民子 高江洲 悦子 岩瀬 勝彦
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.226-230, 1985 (Released:2011-09-13)
参考文献数
12

歳以降の予後の明らかとなった1歳未満発症の熱性けいれん33例と無熱性けいれん133例を以下の4群に分類して, 成因, 臨床像, 発作像, 脳波, 長期予後について比較検討を行った.A群, 38℃ 以上の有熱時のみのけいれん, B群, 有熱けいれんで初発したが経過中無熱けいれんに移行したもの, C群, 無熱けいれんのうち, 3歳未満で発作消失し精神運動発達正常のもの, D群, 無熱けいれんのうちC群を除いたもの.熱性けいれんの48.5%で無熱けいれんが発症した.A, D群はそれぞれ特異的な特徴を示し, B群は両群の中間的な特徴を示した.C群はA群とは明らかに異なり, D群の予後良好なものと同一の範疇に位置づけられるであろうと考えられた.
著者
奥村 彰久 早川 文雄 久野 邦義 夏目 淳 渡辺 一功
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.26, no.6, pp.475-479, 1994-11-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
8

脳室周囲白質軟化症 (PVL) 17例の出生予定日の頭部CT所見を, 正常発達を確認した児50例と比較した.脳室周囲白質の域性低吸収域は正常発達児の40%に認められ, 必ずしも病的な所見とはいえなかった.それに対し, 脳室周囲白質の孤立性低吸収域・脳室壁の不整・半卵円中心の著明な低吸収域はPVLに特徴的であった.新生児期CT所見が軽度・中等度異常の例では, 年長に達した時点のMRI所見とは55%で, 運動発達予後とは50%で, 異常の程度が一致した.CT所見が重度異常の児はMRI所見・予後とも重篤であった.重症のPVLでは半卵円中心の著明な低吸収域が特徴的で, その範囲はMRI所見・予後と関連が認められた.
著者
二瓶 健次
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.16-22, 2002-01-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
9

Intelligent technology (IT) 技術は, 小児神経を含む医療のあらゆる分野で今後ますます利用されていくと考えられるが, 診療録の電子化, マルチメディアの進歩はこれまでの大都市, 主治医中心の医療から地方分散, 患者中心の医療へと変化していくことが予想され, 医療側の発想の転換も迫られる.生まれてから成人に至るまでの医療データを必要とし, 数の少ない疾患を集積することが必要で, 遠隔医療, 在宅医療の必要性の高い小児神経の分野ではとくにIT化が必要であると考えられる.さらに障害児のケアや生活介護を支援するための技術, QOLの向上のためのシステムが開発され, より質の高いケアがなされることが期待される.それには工学, 医学の両方からの協力が必要である.