- 著者
-
山野 恒一
- 出版者
- 一般社団法人 日本小児神経学会
- 雑誌
- 脳と発達 (ISSN:00290831)
- 巻号頁・発行日
- vol.11, no.2, pp.138-148, 1979-03-01 (Released:2011-05-24)
- 参考文献数
- 35
妊娠中期および後期の親マウスを低蛋白食飼料で飼育し, 胎仔の大脳皮質の神経細胞の生成や分化におよぼす影響を主に電子顕微鏡により検索し, 以下の結果を得た.1. 妊娠第8日目以後, 低蛋白食飼料で飼育し, 妊娠第16日目に屠殺した第1群の胎仔重量は, 全経過中繁殖用飼料で飼育した対照群にくらべ約20%の減少を示した. また, 第1群の胎仔大脳皮質では, 母細胞層および移動層内に変性中の細胞や少数の壊死細胞が観察された.2. 妊娠第8日目から15日目まで低蛋白食飼料で飼育し, 第16日目から再び繁殖用飼料にもどした第2群の新生仔マウスでは, 生下時体重や大脳皮質幅は対照群と同程度まで回腹していた.また大脳皮質第2層, 第3層領域の微細構造も対照群との間に差異は認められなかった.3. 妊娠第13日目より低蛋白食飼料で飼育した親マウスから生まれた第3群の新生仔は, すべて予定日より1日早く, 妊娠第19日目に出生した. この群の仔マウスの生下時体重は対照群の妊娠第19日目の胎仔と比較しても, 対照群の51%にすぎなかった.また, その大脳皮質幅も対照群の82%であった. 大脳皮質第2, 第3層領域では神経細胞間隙を占める突起の数が著しく減少していた.4. 以上の結果から, 妊娠中期および後期の高度な蛋白栄養障害により, 母細胞やきわめて幼若な神経細胞の一部は変性・壊死に陥ることが明らかにされた.また, 栄養障害が神経細胞の生成期以後におよぶと, 神経細胞の突起の萌出や伸展など, 神経細胞の初期の分化が高度に抑制されることが判明した.