著者
菊池 良和 梅﨑 俊郎 安達 一雄 山口 優実 佐藤 伸宏 小宗 静男
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.333-337, 2014 (Released:2015-02-05)
参考文献数
12

思春期以降の音声言語外来において「声がつまる」「電話で最初の言葉がうまく言えない」という吃音らしい訴えは,吃音症だけに見られるものではない.成人で吃音と鑑別すべき疾患として,過緊張性発声障害や内転型痙攣性発声障害が挙げられる.本研究の目的は,吃音症と発声障害を問診上で鑑別する手掛かりを探すことである.2011年3月から2013年5月まで吃音らしい訴えで九州大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科に来院した患者のうち,病歴・音声・喉頭内視鏡所見で10歳以上の吃音症と診断した46名(平均25.2歳,男女比=3.6:1)(吃音群)と,過緊張性発声障害,内転型痙攣性発声障害の診断にて,問診表を取得できた成人12名(平均39.2歳,男女比=1:3)(発声障害群)との問診上の特徴を比較した.その結果,「声がつまるなど吃音らしい訴えに気づいた年齢」が吃音群で平均8歳,発声障害群は平均34歳と吃音群で有意に低年齢だった.また,吃音群は「言葉がつっかえることを他人に知られたくない」「予期不安がある」「苦手な言葉を置き換える」「独り言ではすらすらしゃべれる」「歌ではつっかえない」「からかい・いじめを受けた」「話し方のアドバイスを受けた」「つっかえるのでできないことがある」などの項目が,発声障害群より有意に多かった.吃音様の訴えでも発声障害と診断されることもあり,音声・喉頭内視鏡だけではなく,詳しい問診をすることが,吃音症と発声障害の鑑別に有効である.
著者
岩城 忍 涌井 絵美 高橋 美貴 四宮 弘隆 森本 浩一 齋藤 幹 丹生 健一
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.152-158, 2017 (Released:2017-05-31)
参考文献数
19
被引用文献数
3 5

高齢者の音声障害に対してStemple(1994)らが提唱した原法どおりの方法でVocal Function Exercises(VFE)を施行したので,その結果と有効性について報告する.対象は2013年10月以降に発声困難を訴え神戸大学医学部附属病院耳鼻咽喉・頭頸部外科を受診した高齢者のうちVFEを行った21例.年齢は67~80歳(平均72.4歳).男性13例,女性8例.6~8週間のベースプログラムの完遂率は85.7%,引き続いて行う約7週間の維持プログラムの完遂率はベースプログラム完遂者中66.7%であった.ベースプログラム終了後には,GRBAS法の嗄声度G(G),maximum phonation time(MPT),mean flow rate(MFR),上限,声域,VHI-10が有意に改善し,maximum expiration time(MET)は延長傾向を示した.練習前と維持プログラム後を比較するとG,MPT,MFR,VHI-10が有意に改善し,上限は拡大傾向を示した.以上より,高齢者の音声障害に対してVFEは有効な音声治療の一つであると考えられた.
著者
菊池 良和 梅﨑 俊郎 安達 一雄 山口 優実 佐藤 伸宏 小宗 静男
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.321-325, 2015 (Released:2015-10-17)
参考文献数
20
被引用文献数
1

「吃音を意識させないように」「親子で吃音のことを話さない」ことが正しい対応だと思われている現状がある.しかし,自分に吃音があることを意識する年齢やその場面についての詳細な報告はこれまでにない.そこで10歳以上の吃音者で親が一緒に来院した40組に対して,吃音に気づいた年齢の違いを調べた.吃音者本人の意識年齢は平均8.1歳(3~16歳)だった.自分に吃音があると気づいた場面として,「親との会話中」はわずか8%であり,「園や学校」で気づいたのは57%だった.また,親が子どもの吃音に気づいた年齢は5.3歳(2~14歳)で,ほとんどの症例で親のほうが先に吃音の発症に気づいていた.以上より,多くの親は子どもに吃音を意識させることはなかったが,園・学校など人前での発表・会話で,本人は吃音を意識し始めたことがわかった.吃音に伴ういじめやからかいなどの不利益を最小限にするためには,吃音の話題を親子でオープンに話す必要があると示唆された.
著者
府川 昭世
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.103-108, 1980-04-25 (Released:2010-06-22)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

運動の外在・内在フィードバックモデルを言語運動に適用し, 言語課題で熟知度の低いことばの朗読はDAF効果を受けやすく, 練習や語の有意味性によって熟知度が高くなるほど, フィードバックが内在化してDAF効果が小さいであろうと予想して, 実験的検証を試みた.小学6年生の男女60名を均質な3群に分け, W群は単語, NS群は無意味綴り, NSP群は練習した無意味綴りの刺激語を朗読させた.流暢さの指標として1秒当たりの正しいモーラ数〈CMR〉をとり, DAF効果を〈1-DAFのCMR/NAFのCMR〉と定義した.被験者全体では熟知度の高い単語はDAF効果は小さく, 熟知度の低い無意味綴りはDAF効果は大であった.無意味綴りの練習群と非練習群とのDAF効果には, 被験者全体としては有意差がなかったが, 男女間では男子は練習群が非練習群よりDAF効果が有意に大きく, その逆に女子では練習群が非練習群よりDAF効果が小さくなる傾向がみられた.DAF効果には性差があり, 無意味綴り練習群と単語群に有意に認められた.
著者
日本音声言語医学会言語委員会 運動障害性 (麻痺性) 構音障害小委員会
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.164-181, 1999-04-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
16
被引用文献数
2 1

1987年に発足した運動障害性 (麻痺性) 構音障害小委員会の10年間の活動経過について報告した.本委員会では, 1980年に本学会言語障害検査法検討委員会・運動障害性構音障害小委員会によって発表された「運動障害性 (麻痺性) 構音障害dysarthriaの検査法―第1次案」 (以下, 第一次案) を基に「dysarthriaの有無とタイプの鑑別ができ, さらに臨床的に使いやすい短縮版検査を作成すること」を目的に活動を行った.この活動の経過を以下の順にまとめ報告した. (1) 臨床上よくみられるdysarthriaの4つのタイプの患者と健常者に対し第一次案を実施し比較検討した結果, (2) この結果に基づき, 第一次案から検査項目を取捨選択して作成した短縮版 (試案) の内容, (3) 短縮版 (試案) を用いた判別分析の結果, (4) 短縮版 (試案) に検討を加え作成した短縮版の内容.
著者
川崎 美香 森 寿子 藤本 政明
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.110-118, 2005-04-20 (Released:2010-12-08)
参考文献数
22

乳幼児の指導を行う際, 母親の心理的安定は訓練効果を高めるうえで重要である.われわれは注意欠陥多動性障害 (attention deficit hyperactivity disorder, 以下ADHD) を合併した人工内耳 (cochlear implant, 以下CI) 装用聾児 (兄, R.H.) と健聴児 (弟) の双生児をもつ母親に, TK式幼児用親子関係検査 (以下TK式) を実施し, 以下の知見を得た.症例R.H.に対するCI術前の母子関係を健聴な弟と比較すると, 術後2年が経過しても変化は見られなかった.術後2年7ヵ月後, R.H.に実施した言語・知能検査が正常となった時点で, 母子関係は兄弟間で類似する結果となった.比較対照群として検討した聴覚障害単一例2例とその兄弟との母子関係では, CI術前は健聴な兄弟に比べ, TK式で問題性が高かったが, CI術後約1年が経過した時点で, 母子関係は安定した.ADHDを合併したR.H.では単一障害例に比し, CI術後母子関係が安定するまでに約3倍の時間を要し, ADHD合併例に対する母親指導の難しさとその重要性が示唆された.
著者
高橋 ヒロ子
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.302-310, 1986-10-25 (Released:2010-06-22)
参考文献数
24

呼吸・発声の障害を主とする脳性麻痺アテトーゼ型四肢麻痺児 (9歳9ヵ月) に心理リハビリテーションの手技 (実施期間: S.58.6.~S.59.4.) とボバースアプローチの手技 (実施期間: S.59.5.~S.60.12.) を通して, 呼吸・発声の改善をはかり, 次の結果を得た.1) 心理リハビリテーションの手技によって「アー」発声持続時間は0.12秒から0.61秒にのび, 呼吸パターンも改善した.しかし, 発声姿勢はトニックな全身性パターンが減少したものの, 座位, 立位では動揺の大きい伸展パターンが出現し, 発声持続がのびるにつれ, むしろ顕著になった.2) ボバースアプローチの手技によって「アー」発声持続時間は0.61秒から2.70秒にさらにのび, 呼吸パターンもさらに改善した.また, 伸展パターンは減少し正中線を交互に動揺するパターンに変化した.両手技とも呼吸・発声に改善を得たが, 姿勢筋緊張の改善と頸部・体幹の安定性の向上および呼吸・発声の分離運動の発達の促通を同時に実施することのできるボバースアプローチの手技がより有効であると考察した.

4 0 0 0 OA 聴覚と音痴

著者
加我 君孝
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.266-271, 2000-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
7
著者
青山 猛 讃岐 徹治 増田 聖子 湯本 英二
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.149-155, 2010 (Released:2010-05-21)
参考文献数
17
被引用文献数
2 1

披裂軟骨脱臼は全身麻酔の気管挿管の合併症として報告され, 外力のかかり方によって前方, または後方に脱臼する. 今回全身麻酔後に発症した前方脱臼症例と後方脱臼症例を経験したので各症例の臨床的特徴について報告する. 症例1:全身麻酔下の手術直後から高度嗄声を認めた. 初診時は右披裂部が固定し, 喉頭筋電図検査では発声時の両側甲状披裂筋に左右同等の活動電位を認めた. 右披裂軟骨前方脱臼と診断し全身麻酔下に整復術を行った. 術後右声帯の可動性と嗄声は徐々に改善し, 術後6ヵ月で声帯運動の左右差はなくなった. 症例2:全身麻酔下の手術直後より高度嗄声を認めた. 初診時は右披裂部の固定を認め, 発声時に左声帯は過内転していた. 右披裂部の固定位より右披裂軟骨後方脱臼と診断し整復術を予定した. しかし, 子供が背後から前頸部にぶらさがり, その直後より嗄声が改善, 再診時は右声帯の動き, 形態も正常となり予定していた手術は中止した. 本症例は後方脱臼が偶然ではあるが徒手整復されたものと考えた.
著者
石毛 美代子 新美 成二 森 浩一
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.347-354, 1996-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
25
被引用文献数
4 3

声帯振動の状態を調べる方法の一つにElectroglottography (以下EGG) がある.EGGは非侵襲的で, 操作が容易, かつ装置が高価でないなど, 音声の研究のみならず臨床においてもすぐれた有用な特徴を持っている.欧米では音声障害患者のルーチンの検査として用いることも少なくない.しかしわが国においては, EGGを使用している施設はむしろ限られており, 声帯振動の一般的な評価方法として普及しているとはいい難い.そこで, あらためてEGGの原理や必要最小限の装置としてどんなものがあれば実際に使用することができるか, 波形から声帯振動の何がわかるか, さらにEGGの模式波形と実際の波形はどのように異なるか, などについてこれまでの研究結果を概説し, EGGが声帯振動の評価として, また音声訓練のバイオフィードバックとして, 簡便でかつ有効な方法であることを述べた.
著者
宮本 昌子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.30-42, 2019 (Released:2019-02-26)
参考文献数
30
被引用文献数
1

クラタリングの暫定的定義では発話速度の速さと不規則さ,正常範囲非流暢性頻度の高さ,調音結合が重視され,症例の多くは吃音と合併したクラタリング・スタタリングである.本研究では,クラタリング・スタタリング群9名,LD・AD/HD・ASD群10名,コントロール群24名を対象に絵の説明課題の構音速度と非流暢性頻度を測定した.構音速度において3群間に有意差は見られなかった.自由発話等を視野に入れ,より適切な測定対象場面を検討することの必要性が明らかになった.また,正常範囲非流暢性頻度の高さがクラタリング・スタタリング群と同等に高い者が,LD・AD/HD・ASD群のなかにも存在していたことがわかった.
著者
浜田 千晴 宇野 彰
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.156-164, 2021 (Released:2021-05-19)
参考文献数
39
被引用文献数
1

小学1年生173名を対象に,ひらがな特殊表記の音読および書字の習得度とそれらに影響する認知能力を検討した.刺激は促音,拗音,長音,撥音の各表記を含む単語(特殊表記単語)と非語ならびに清音,濁音,拗音,撥音のかな1モーラ表記文字とした.典型発達児の音読において,拗音表記文字では頻度効果が認められ,単語では促音および拗音表記の正答率は長音および撥音表記に比べて有意に低かった.また,書字において,単語では促音表記の正答率が最も低く,次いで,拗音と長音表記は撥音表記に比べて有意に低かった.重回帰分析の結果,単語音読には単語逆唱と図形模写と語彙,単語書字には特殊表記単語の音読成績と非語復唱と図形直後再生が有意な予測変数として示された.小学1年生における特殊表記単語の音読には音韻処理能力,視覚認知能力,語彙力が影響し,書字には音読力の影響が示唆された.
著者
富里 周太 大石 直樹 浅野 和海 渡部 佳弘 小川 郁
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.7-11, 2016 (Released:2016-02-23)
参考文献数
12
被引用文献数
5 2

吃音は社交不安障害などの精神神経疾患や発達障害が併存しうることは指摘されているが,これらの併存疾患に関する本邦からの報告はいまだ少数である.そのため,本邦における吃音と併存疾患との関連を検討することを目的に,2012年と2013年に慶應義塾大学耳鼻咽喉科を受診し吃音と診断された39症例について,併存する精神神経疾患および発達障害の有無を調べ,性別,年齢,発吃年齢,吃音頻度との関連を後方視的に調査した.併存する精神神経疾患として,気分障害(うつ,適応障害),強迫神経症,てんかん,頸性チックの合併を全体の15%に認めた.発達障害の併存は,疑い例や言語発達障害のみの症例を含め18%に見られた.発達障害の有無によって吃音頻度,性別,年齢に有意差は見られなかったが,発吃年齢は発達障害併存群で有意に高い結果だった.吃音は発達障害が併存することにより,発達障害を併存しない吃音とは異なった臨床経過を示す可能性が示唆された.
著者
重野 純
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.260-265, 2000-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

生理的には正常なのに正しい音程が分からず, そのために正しい音程で曲を再生できない場合を, 生理的に問題がある場合と区別して認知的音痴と呼んだ.そして, 何がどうして分からないのかについて考えた.その際, (1) 音の高さにおける2種類の性質―ハイトとクロマ―, (2) 2種類の音感―絶対音感と相対音感―, (3) 音楽におけるカテゴリ知覚, の3つの側面から考察した.その結果, 認知的音痴は音名についても音程についてもカテゴリ知覚ができないことや, 音の高さや音程をカテゴリ記憶ではなく感覚痕跡記憶により記憶するため不確実な認知・再生しかできないことなどが原因として考えられた.さらに, 認知的音痴は相対音感を磨くことによりその解消が図られるのではないかということが示唆された.
著者
苅安 誠
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.201-210, 2009 (Released:2010-04-06)
参考文献数
63
被引用文献数
1 1

音声生成 (発声発語) と嚥下は, 上部気道・消化管 (aero-digestive tract; ADT) を共用する感覚・運動機能で, 対象物と発声発語・嚥下条件に適応的である. ADT共用により, 根底にある構造あるいは感覚・運動の問題が発声発語と嚥下の異常を同時にもたらすことがある. また, 一方の異常とその回復が他方の問題とその改善を予測させる. さらに, 一方への訓練が他方の機能改善をもたらす可能性がある. ただし, 発声発語では高速かつ正確な運動が, 嚥下では比較的定型的で持続的な大きな力が要求されるため, 訓練方法の見直しが必要と考えられる. 本論文では, 上記の基本的事項と仮説に基づいて, 嚥下機能の改善のための発声発語訓練, 音声機能の改善のための嚥下訓練を, おのおのの方法 (原法と変法) , ねらい, 標的, 成果指標を示す. さらに, 運動 (再) 学習の原理と神経系可塑性の発想に基づいた治療プログラムの編成について説明を加える.
著者
苅安 誠
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.271-279, 1990-07-25 (Released:2010-06-22)
参考文献数
18
被引用文献数
2

吃音のブロック症状を音声産生の側面からとらえると, 呼気流の一時的な停止状態であり, とくに発声・構音ブロックは, 声門及び声道での閉鎖力が呼気力を上回ることによって起こると推定できる.そこで, 今回の研究の目的は, ブロックと挿入を主症状とする成人吃音者に対して, リズム発話法と運動制御アプローチを併用し, その効果を調べることである.症例は, 29歳の男性吃音者であった.訓練は, 流暢性の獲得とその保持の2段階であった.第1段階ではリズム発話法によって流暢に話すことのできる安全速度を獲得し, 同時に呼吸と発声に対する運動制御アプローチを行なった.第2段階では発声構音に対する運動制御アプローチを行なった.訓練前後及び訓練終了後2ヵ月・1年半経過観察時の音読・自発話の流暢性を比較した結果, ブロック症状だけでなく挿入の頻度も減少しその効果が1年半後も持続していた.
著者
富里 周太 大石 直樹 浅野 和海 渡部 佳弘 小川 郁
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.7-11, 2016
被引用文献数
2

吃音は社交不安障害などの精神神経疾患や発達障害が併存しうることは指摘されているが,これらの併存疾患に関する本邦からの報告はいまだ少数である.そのため,本邦における吃音と併存疾患との関連を検討することを目的に,2012年と2013年に慶應義塾大学耳鼻咽喉科を受診し吃音と診断された39症例について,併存する精神神経疾患および発達障害の有無を調べ,性別,年齢,発吃年齢,吃音頻度との関連を後方視的に調査した.<br>併存する精神神経疾患として,気分障害(うつ,適応障害),強迫神経症,てんかん,頸性チックの合併を全体の15%に認めた.発達障害の併存は,疑い例や言語発達障害のみの症例を含め18%に見られた.発達障害の有無によって吃音頻度,性別,年齢に有意差は見られなかったが,発吃年齢は発達障害併存群で有意に高い結果だった.吃音は発達障害が併存することにより,発達障害を併存しない吃音とは異なった臨床経過を示す可能性が示唆された.
著者
高野 佐代子 松崎 博季 元木 邦俊
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.41-49, 2020 (Released:2020-02-27)
参考文献数
15

母音発話における各種の舌筋の活動について数多くの検討がなされてきたが,舌の内部変形の特徴については観察が困難なために考慮が少なかった.本研究では変形を可視化するために開発された,黒い線を付加できるタギングシネMRI(tagged-cine MRI)のデータ(高野ら,2006)に基づいて,舌の内部変形の特徴を考慮したうえで舌モデルを構築し,有限要素法のシミュレーションにより特に横舌筋の効果について検討する.これまでの研究により,母音発話/ei/(日本語2モーラ)のタギングシネMRIにおいて,舌は前後および上下に4つの部位に分けて考えることで最も簡単に解釈できることが報告されている(高野ら,2006).すなわち,前部は前方移動と中央方向への圧縮,後部は前方移動と左右方向への膨張が見られ,特に前方上部(舌端部)は前後方向よりも上方向への移動が顕著であった.さらに,前方上部は後方下部(舌根部)よりも動き始めるのが早く,速度および移動距離が最も大きかった.これは舌の構造から考えると,横舌筋前部の関与が推測された(高野ら,2006).そこで本研究では,母音/i/における舌端部の運動について,舌を前後および上下に分割した立方体4要素の舌モデルを構築し,有限要素法によるシミュレーションを用いて前部横舌筋の作用について検討した.その結果,母音/i/では前部横舌筋の筋活動に相当する収縮力の発生により,舌端点は中央方向への圧縮を伴い,より早いタミングで動き出し,速度も速く,移動距離も大きくなるという傾向が確認された.
著者
力丸 裕
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.455-461, 1996-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
15
被引用文献数
1

本論文では音楽知覚に不可欠な音感覚を脳が創りだしているという基礎事実について述べた.目的としている音のどの物理的周波数成分 (スペクトル) にも関係のない音を, われわれがよく知覚することは, 聴覚心理学の分野では19世紀からよく知られた事実である.実は, これによってわれわれは音楽を楽しむことができるのである.たとえば, いくつかの連続した高次倍音を加えると, 「ミッシングファンダメンタル」と呼ばれる実在しない低周波の基本周波数に対応したピッチが聴こえる.この現象を容易に理解するために, これまでにみつかった心理学的事実を簡単に紹介し, さらに, 聴覚中枢におけるミッシングファンダメンタルのピッチ抽出機構と関連のある神経生理学的知見をいくつか提供した.ミッシングファンダメンタルとして知られる時間情報で創られるピッチ (時間ピッチ) が, 周波数成分に基づきスペクトルで創られるピッチ (場所ピッチ) を処理している考えられる一次聴覚野ニューロンと同じニューロンによって取り扱われているかどうかが調べられた.その結果, 一次聴覚野において時間ピッチは場所ピッチと同一のニューロンによって取り扱われているらしいことが判明している.紹介しているデータは心理学的知見とよく一致している.

3 0 0 0 OA 声変り

著者
澤島 政行
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.299-300, 1988-07-25 (Released:2010-06-22)