著者
本田 領
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.34-35, 2003-06-25
著者
深尾 正
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.g71-g72, 1991-04-25 (Released:2017-02-23)

化学的に活性の高いフッ素 (以下F) がエナメル質の脱灰過程に存在すると, きわめて著明な脱灰抑制を示すことが報告されている. Intraoral fluoride releasing device (以下IFRD) は, 口腔内に長期間一定量のFを放出することが可能で, 低濃度のFがエナメル質に効果的に取り込まれ, 齲蝕抑制効果が期待できる新しいF応用法である. そして, このIFRDから放出される低濃度のFにも同様の脱灰抑制があると考えられる. IFRDによるエナメル質へのFの取り込みやエナメル質の結晶性および耐酸性の向上については, 報告されているがIFRDから放出される低濃度Fによる脱灰過程のエナメル質における脱灰抑制効果については未だ研究されていない. そこで本研究では, IFRDによる特徴的な脱灰抑制効果を検討するため, 脱灰液中にFを添加し, ウシエナメル質の脱灰におよぼす影響を検討した. また, IFRDを口腔内に長期間使用した場合を想定すると, すでにFが取り込まれたエナメル質に齲蝕が侵襲することも考えられるので, すでに取り込まれたFと新たに口腔内に放出されたFとの複合効果についても検討した. ウシ下顎永久切歯唇面から6×6×3mmのブロックを作製し, エナメル質試料とした. エナメル質試料をNaFの添加により, 0, 0.3, 1.0, 10.0, 100.0ppmの5段階のF濃度のフッ化物溶液に30, 60および90日間浸漬した. 同試料を37℃, 24時間, 1M KOHに浸漬後, 0.5M HClO_4で連続脱灰を行い, Fは, F複合電極 (オリオンリサーチ, 96-09) で, また, カルシウム (以下Ca) は, 原子吸光分光光度計 (日立製作所, 508) でそれぞれ測定し, エナメル質の層別F濃度を算出した. 次に脱灰液中のFの脱灰抑制効果を検討するために未浸漬のエナメル質試料を用い, NaFの添加により, 0, 0.3, 1.0, 10.0, 100.0ppmの5段階のF濃度でpHを4.4に調整した0.2M酢酸緩衝液で48時間脱灰した. また, 複合効果を検討するために, フッ化物溶液に浸漬後のエナメル質試料を用い, 浸漬液と同一のF濃度の酢酸緩衝液で同様に脱灰した. 脱灰後, 溶出Ca量を原子吸光分光光度計を用い, 溶出リン (以下P) 量をEASTOE法によりそれぞれ測定した. さらに脱灰エナメル質面をSEM (日立製作所, X-560) 観察するとともに, エックス線マイクロアナライザー (日立製作所, X-560) でCa, PおよびFについて同面の元素分析をそれぞれ行った. また, Weatherell et al. のabrasive法を用いて脱灰エナメル質中のF濃度およびCa濃度を測定した. さらに微小部エックス線回折装置 (リガク社, RAD-RC+PSPC/MDG) で脱灰後の反応生成物の定性分析を行った. その結果, 以下の結論を得た. 1) 脱灰液中のF濃度が高いほど脱灰量は減少した. また, 脱灰時間が経過するに従って脱灰量は減少傾向を示し, その傾向は脱灰液中のF濃度が高いほど著明であった. 2) Abrasive法により脱灰エナメル質に取り込まれたF量を測定したところ, 脱灰液中のF濃度が高いほど多量にエナメル質深部にまでFが取り込まれていた. また, いずれの実験においてもエナメル質の脱灰層に多量のFが認められた. 3) 脱灰後の反応生成物をエックス線回折法で定性分析を行った結果, 脱灰液中のF濃度が100.0ppmでは, エナメル質の最表層部にCaF_2の形成が認められた. 4) フッ化物溶液に浸漬したエナメル質をFを含む脱灰液で脱灰した場合, 脱灰量は著明に減少した. 以上のことから, IFRD法を想定し, Fをエナメル質の脱灰過程に作用させると脱灰部にFが取り込まれ, 同部が強化され, 脱灰が抑制されるとともにF濃度100.0ppmではCaF_2が形成されることが明らかになった.
著者
竹村 正仁
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.g7-g8, 1997

根管の器械的清掃時には作業液を応用した根管の拡大・形成を進め, 拡大・形成後の化学的清掃には3〜5% NaOCl溶液および3% H_2O_2溶液による交互洗浄が一般に応用されている。しかし, 根管の拡大・形成の良否によっては根管内に応用する洗浄液の根尖歯周組織への溢出という危険性も考えられるため, 使用する洗浄液には可能な限り組織親和性を示すものが望ましい。最近, 水道水の電気分解で得られる強酸性水が広範囲な殺菌作用を示す一方, 細胞毒性が低く, 人体に何ら影響を及ぼさない水として注目されている。そこで本実験は, 根管拡大・形成後の根管洗浄液として強酸性水の根管壁スメアー層およびdebrisの除去効果を検索し, 臨床応用が可能かどうかを検討した。実験にはヒト抜去上顎中切歯120歯を使用し, 洗浄法に従いシリンジ洗浄群および超音波洗浄群の2群に60歯ずつを分割した。実験歯の髄室開拡後は, 通法に従いステップバック法にて根管の拡大・形成を終了した。なお根管の拡大・形成中は, 各群の60歯を15歯ずつの4グループにそれぞれ, 分割し, グループ1〜3は5% NaOClを, グループ4には強酸性水を作業液として応用した。根管の拡大・形成後, 各グループの根管洗浄を以下のように行った。すなわち, シリンジ洗浄群では22ゲージの注射針を装着した10 ml注射筒を用いて, グループ1の実験歯には精製水, グループ2には強酸性水, グループ3には15% EDTA, グループ4には強酸性水をそれぞれ用いて根管洗浄を行った。各グループはさらに5歯ずつの3つのサブグループに分け, 各洗浄液の使用量を10, 20および30 mlとした。超音波洗浄群では#30のファイルを超音波発生装置に装着し, シリンジ洗浄群の各グループと同様の洗浄液を使用して超音波洗浄を行った。超音波作用時間は各グループの実験歯をさらに5歯ずつの3つのサブグループに分け, 1分, 3分および5分間とした。全実験歯の根管洗浄後は歯冠部を切除したあと, 歯根を歯軸に沿って2分割し通法に従って電顕用試料とした。根管壁面の観察には走査型電子顕微鏡を用いて根中央部および根尖1/3部の写真撮影を行い, 根管壁面に残存するスメアー量ならびにdebris量を0〜3の数値にスコアー化し評価した。その結果, シリンジ洗浄法および超音波洗浄法ともに根管洗浄液の使用量および超音波作用時間の違いによる清掃効果には差を認めなかった。スメアー層除去効果については, 作業液にNaOCl溶液を使用した根管拡大・形成後に洗浄液として強酸性水をシリンジ清浄法で使用したグループ2は, EDTAを洗浄液として使用したグループ3と同程度の洗掃効果が得られた。しかし, 超音波洗浄法による清掃効果では強酸性水はEDTAより多少劣っていた。一方, NaOCl溶液を作業液として応用し根管拡大・形成を行ったのち, 精製水にて根管洗浄を行ったグループでは洗浄方法に関わらず根管壁面全体がスメアー層で覆われており, 明らかな歯細管の開口は認められなかった。この結果は, 強酸性水を作業液および根管洗浄液として用いたグループと類似の結果を示していた。Debris除去効果については, シリンジ洗浄法において, 強酸性水を使用したグループ2がEDTAを使用したグループ3より優れたdebris除去効果を示したが, 超音波洗浄法では両者の間に差はみられなかった。また, 作業液にNaOCl溶液を使用し, 根管拡大・形成後に根管洗浄液として強酸性水を使用したグループでは, 超音波洗浄法によって良好なdebris除去効果を示したが, シリンジ洗浄法では中等度の除去効果であった。さらに, 作業液および根管洗浄液に強酸性水を応用したグループでは, 洗浄方法に関わらず中等度のdebris除去効果を示したにすぎなかった。以上のことから, 根管拡大・形成時にNaOCl溶液を作業液として応用し, 拡大・形成後に強酸性水を根管洗浄液として応用すると根管壁面のスメアー層やdebrisの除去が十分に行われ, 強酸性水は根管洗浄液として臨床応用が可能であることが明らかになった。
著者
金山 愛加 笹部 倫世 山本 眸 片岡 宏介 吉松 英樹 小柳 圭代 南部 隆之 沖永 敏則 小野 圭昭 河村 佳穂里 土居 貴士 三宅 達郎
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.82, no.2, pp.72-80, 2019-09-25 (Released:2019-12-25)
参考文献数
28

ニームはインド原産センダン科の常緑樹で,古来よりその枝は歯ブラシとして,またその葉は駆虫剤(虫下し),整腸剤,胃薬といったオーラルメディケーションとして,そして種子からの抽出液は植物の除虫剤として用いられてきた. 本研究では,根面う蝕から高頻度に検出されるLactobacillus casei(Lc),口臭との関連が深いとされているFusobacterium nucleatum(Fn),さらに口腔カンジダ症の起因菌であるCandida albicans(Ca)に対するニーム抽出液の抗菌効果について検討することを目的とした. ニーム抽出液は種子の搾汁液を使用した.まず,各菌を播種した寒天培地にニーム抽出液(x1)20μLを含むディスクを静置し,24時間培養後,それぞれの発育阻止円を測定するペーパーディスク法を行った.さらに各菌液をニーム抽出液の段階希釈液と30分間および24時間共培養を行ない,その途中経過の培養液100μLを寒天培地に播種しコロニー数を計測するtime‐killing kinetics assayを行った. ペーパーディスク法における発育阻止円の直径平均値は,Lcが15.5mm, Fnが12.2mm, Caが15.8mmであった.time‐killing kinetics assayについては,30分間共培養ではLcが103倍希釈(x1/103),CaおよびFnは102倍希釈(x1/102)までの希釈液に菌増殖抑制効果が認められた.また,24時間共培養では,Lcでは103倍希釈(x1/103),Caについては102倍希釈(x1/102)までのニーム希釈液に菌増殖抑制が認められたが,Fnでは102倍希釈(x1/102)までのニーム希釈液については培養12時間までは菌の増殖抑制が認められたものの培養12時間以後は菌増殖の抑制が認められなかった.すなわち,Fnについては,24時間までの共培養では,全ての供試されたニーム希釈液では抗菌効果は認められなかった.以上のことから,ニーム抽出液はLcおよびCaに対し明らかな抗菌効果を有することが示された.このことは,ニーム抽出液がヒト口腔内微生物に対し抗菌・抗真菌効果を有した植物由来の基剤となるものであり,根面う蝕や口腔カンジダ症の予防・治療ツールに応用できる可能性を示唆するものである.
著者
吉岡 正晴
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.g23-g24, 1994

筋の収縮によって骨が変形するという実験結果が報告されているので, 咬合および咀嚼時には, 頭蓋や顔面を構成する骨は歯を介しての咬合力および咀嚼力, あるいは咀嚼筋の収縮力などによって複雑に変形していると考えられる. また, 咬合および咀嚼時には, 頸部から背側部の筋, すなわち胸鎖乳突筋や僧帽筋まで活動していることも近年明らかにされている. さらに, 下顎運動の中心は顎関節だけでなく頸椎の環椎と軸椎とで構成される環椎歯突起関節にも存在し, むしろこの部位が顎運動の中心的な役割を果たしているという説が発表されている. 頸椎はかなりの重量の顔面頭蓋を支えているし, 咬合, 咀嚼および発音・発声時には, 頸椎にこれらの影響が及ぶことは十分に考えられる. しかし, 頭部における各種の運動と頸椎の力学的反応との関係についての研究はほとんど見当らない. そこで, 咬合時の頸椎の力学的反応を解明するために, 立位に固定した麻酔下の成熟日本ザルの両側の咬筋中央部を電気刺激して, 咬合させたとき, 片側の犬歯あるいは第一大臼歯で 3, 7 および 10mm の木片を噛ませたときの各頸椎の作業側および非作業側の椎弓板のひずみを三軸ストレンゲージ法で測定した. 木片を犬歯あるいは第一大臼歯のどちらで噛ませても, 頸椎の作業側よりも非作業側のほうが, 咬合させたときに比べて主ひずみ量の増加する割合が高くなる傾向がみられた. このことから, 作業側では犬歯で木片を噛ませたときには第二頸椎が, 第一大臼歯で噛ませたときは第四頸椎が, 非作業側では, 木片を犬歯で噛ませても第一大臼歯で噛ませても, 第三および第七頸椎は頭部が片側に傾斜するのを防ぐ支点としての役割を果たしていることが示唆された. 頸椎の主ひずみの方向を観察することによって, 犬歯で噛ませたときには, 頸椎の上部は収縮して下部は伸展し, 中間部は上部と下部との変形のバランスをとるために作業側が伸展して非作業側が収縮する傾向があることが, また, 第一大臼歯で木片を噛ませたときには, 頸椎の作業側ではほとんどが垂直方向に伸展し, この傾向は開口度が大きくなればなるはど強くなり, 非作業側では頸椎の多くが水平方向に伸展 (圧迫) することがわかった. さらに, 頸椎においては, 各軸のひずみが最大の値をとる時間が, 三軸ともわずかにずれていることを示す波形が多くの部位で認められた. このような波形は顔面や頭蓋を構成する骨でもみられるが, 頸椎においてはとくに多く認められた. 以上, 咬合および咀嚼時には, 頸椎には非常に大きなカが加わるが, 頸椎は顔面や頭蓋を構成する骨よりもさらに強く変形して, 頸椎に加わる応力を巧妙に分散できるような機能的構造になっていることを明らかにした.
著者
福島 卓司 畦崎 泰男 井上 宏
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.195-200, 2004-06-25
被引用文献数
6

歯科診療時に日常的に行われる処置に患者はストレスを感じているが,そのストレス軽減のためにはインフォームドコンセントや信頼形成が必要とされている.今回の研究目的は,歯科診療処置の繰返し経験が,患者の自律神経活動にどのような影響を与えるかを検討することである.方法 歯科浸潤麻酔と印象採得を疼痛を伴う処置と不快感を伴う処置として選択して負荷ストレッサーとした.被験者5名に1週間隔でこの試行を計3回繰り返して行った.実験中は心電図をモニターし,心拍数と共に,R-R間隔のパワースペクトルから低周波成分(LF:0.04-0.15Hz)および高周波成分(HF:0.15-0.40Hz)の積分値を算出し,その比(LF/HF)を交感神経活動の指標とした.各条件での心拍数とLF/HFの変化は繰り返しのある二元分散分析による解析を行った.1.歯科浸潤麻酔は1回目から3回目にいたるまで開始合図に対して麻酔中は心拍数が低下,麻酔後は上昇した.しかし試行回数を重ねるにしたがって合図時は減少して安静時に近づくのに対して,麻酔中,麻酔後には回数を重ねることによる差は認められなかった.LF/HFでは麻酔中の値に,繰り返しによる差は認められなかった.2.印象採得は1回目2回目は開始合図に対して印象中の心拍数は低下し,印象撤去後は上昇するが,3回目では差は認められなかった.また回数を重ねると,合図,印象時,印象撤去後は安看割犬態に近づく傾向が認められた.LF/HFでは印象中は上昇するが,繰り返しにより安静時に近づいた.以上の結果から,痛みを伴うストレッサーに対しては繰り返しによる交感神経活動の低下がみられず,痛みを伴わないストレッサーに対しては,繰り返しによる交感神経活動の低下と安定化が認められ,ストレスに対する慣れがうかがわれた.
著者
藤本 哲也 井上 博 平野 俊一朗 内橋 賢二 西川 泰央
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.62-69, 2016

<p>ビスフェノールA(Bisphenol A;以後,BPA と略す.)は,歯科材料をはじめポリカーボネイトの原料として広く用いられている.BPA は環境ホルモンの1 つであり,エストロゲン様作用および抗アンドロゲン様作用を有する.前回我々はBPA の周産期曝露による性的二型行動への影響を報告したが,今回はBPA の情動行動への影響に着目した. 極微量BPA を妊娠期の母ラットに経口投与し,生まれた仔ラットの成長後に,うつ情動の評価法である強制水泳試験を実施,さらに環境ストレスに対する脆弱性を調べる目的で独自の評価法を考案し,捕食者であるキツネのニオイに対する回避行動を調べた. 強制水泳試験において,BPA 曝露によりimmobility 時間が有意に延長し,swimming 時間は減少した.また回避行動では,BPA 曝露群のみがキツネのニオイに対して有意に回避した.BPA 曝露ラットのうつ様行動亢進は,その背景としてキツネのニオイのような環境ストレスに高感受性状態に起因することが示唆された.</p>
著者
玉田 亨 岡下 慎太郎 橋本 和哉 荒川 博之 本田 領 神原 敏之 川本 達雄
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.274-278, 2004-12-25
被引用文献数
2

我々は顎変形症患者の性別による性格傾向を調査するため,本研究を行った.資料として1999〜2002年に本学附属病院矯正歯科を受診した(1)男性の顎変形症患者19名(平均年齢22.17歳,18〜27歳)(2)女性の顎変形症患者27名(平均年齢23.72歳,18〜39歳)を用いた.方法として,MINI自動心理診断システムver6.0(学芸図書出版)を用い,臨床尺度について比較検討を行った.男性の顎変形症患者群において有意水準p<0.05でHy(ヒステリー),Pd(精神病質的逸脱),Pa(妄想症)の尺度で有意に高得点を示した.女性の顎変形症患者群において有意な高得点を示す尺度はなかった.以上の結果,顎変形症患者の男性群は女性群と比較して,身体表現性障害や精神的障害の可能性が多いことが示唆された.
著者
森川 康之 四井 資隆 松本 尚之
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.35-48, 2008-03-25
被引用文献数
1

歯列矯正装置が磁気共鳴画像装置(以下,MRIと略す)に及ぼす影響について,多岐の材料の組み合わせを実験的に検討した.試料および方法として,プラスチック製歯列模型にブラケット3種類(スチール,セラミック,レジン)とワイヤー4種類(スチール, NiTi,ヒートアクチベートNiTi,ベータTi),リガチャー2種類(スチール,エラスチック)を組み合わせた装置を作製の上,1.5Tesla MRI装置を使用し,6種類の撮像シーケンス(以下,撮像法と略す)で撮像した.得られた画像で障害について,信号強度の変化と信号欠損の大きさ,信号欠損直近のひずみ,3次元構築像でのゆがみの計測を行い,以下の結果を得た.すべての部品がスチール製の矯正装置を装着した場合にGR-T2法で極端な信号強度の低下を示し,画像の表示が困難となった.同じ組み合わせで最大の信号欠損を形成し,磁場方向で160mm,左右方向で145mm,上下方向では137mmに達した.セラミック・ブラケットにスチール以外のワイヤ一をエラスチック・リガチャーで結紮した場合は障害像を発生しなかった.スチール・ブラケットを装着した場合,MRIのすべての撮像で磁場方向に100mm以上の信号欠損を形成し,特にSE-T1法で広範囲に影響した.信号欠損周囲では縮小傾向で0.62倍,膨張傾向で1.58倍のひずみを示し,影響は広範囲に及んだ.3次元像ではスチール・ブラケットを装着した場合には,他の材料に関わらずほぼ10mm以上のゆがみを示し,その最大値は13.7mmであった.スチール製歯列矯正装置を用いた場合に最大の金属障害が発生するのはスチールが常磁性体であり,磁場断面積が大きいためである.しかし,スチール・ブラケット単独の場合でも大きな金属障害を生み出し,ブラケット相互間の電気的短絡がない状態でも障害を生ずる.したがって,磁力線に対する影響は相乗効果かあるものと考えられる.MRI検査を用いる可能性のある歯科矯正治療患者には,スチール製矯正装置を避け,他の材料の装置作製が必要である.また,撮像法はFSE法やFGR法を用いるべきであると考えられる.
著者
柚木 大和
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.g65-g66, 1993-04-25 (Released:2017-03-02)

顎口腔領域における悪性腫瘍切除後の広範囲な軟組織欠損に対する再建には, しばしば有茎皮弁が用いられる. 糖尿病患者の場合, 術後感染や創傷治癒遅延を起こしやすく, 糖尿病性細小血管症による微小循環障害がその原因の一つといわれているが, その詳細ほいまだ明らかでない. そこで今回, ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラット背部皮膚に有茎皮弁を作製し, 糖尿病性細小血管症における皮弁先端部の生着過程の変化を観察し, 検討した. 実験方法および観察方法 生後6週齢Wistar系雄性ラット(体重180g)を用い, ストレプトゾトシン(SIGMA社製, 以下STZと略す.)を大腿静脈より1回投与(60mg/kg)し, STZ投与前の平均血糖値145.6mg/dlの約2倍(300mg/dl以上)の血糖値を示したラットを糖尿病発症ラットとした. 糖尿病発症後8週, 16週(以下DM8週群, DM16週群と略す.)の各時期に, 尾側に茎をもつ, 3×1cmの有茎皮弁を作製した. 皮弁は, 筋肉層(Panniculus carnosus)直下の疎性結合組織層で剥離挙上後, 元の位置に復位しナイロン糸にて縫合した. なお, STZ非投与群を対照群とした. 術後3, 5, 7日および2週に屠殺し, 10%中性ホルマリンで固定したのちセロイジン包埋し, 薄切後ヘマトキシリン・エオジン染色を施し, 組織学的に観察した. また太田ら(1990)の方法を用いて上行大動脈より樹脂を注入し, 樹脂硬化後5%水酸化ナトリウムにて軟組織を除去し, 乾燥させ血管鋳型標本を作製した. 同標本に金蒸着を行い, 走査電子顕微鏡(JSM-T300, JEOL)にて観察した. 結果 1)対照群 術後3日には, 創は表皮で覆われ, 真皮上行血管の分枝に新生洞様血管が形成され術後5日には表層付近の真皮上行血管から伸展した新生洞様血管が裂隙を横切って吻合していた. 術後7日には接合部の乳頭層血管網が形成され, 真皮上行血管も新生血管によって吻合していた. 術後2週では乳頭層血管網の血管の太さを増し, その数を減じ, 接合部の境界は不明瞭になっていた. 2)実験群 DM8週群は, 組織学的には術後2週まで炎症性細胞がわずかに残存し, 対照群と比較してやや遅延していたが, 血管構築においては対照群とほぼ同様であった. DM16週群では, 術後5日で表皮は厚みを増して連続性を回復し, 真皮層では炎症性細胞が密にみられ, 術後2週では真皮層の炎症性細胞は, 表皮直下ではほとんど消失し, 深層では散在性に残存していた. 電子顕微鏡学的には, 術後5日に真皮上行血管の分枝に新生洞様血管が形成されていたが, 裂隙を横切る吻合はなく, 術後7日には裂隙を横切って吻合している新生洞様血管もみられ, 術後2週では真皮上行血管から伸展した新生洞様血管が裂隙を横切って互いに吻合していた. 対照群, DM8週群と比較すると, 組織学的においても, 血管構築においても治癒が遅延していた. 以上の結果より, 実験群では対照群と比べると, 炎症性細胞が術後2週まで残存し, さらに糖尿病性罹病期間が長期になると, 残存している炎症性細胞の数が多くみられ新生血管形成も遅れていた. また, 皮弁移植手術の創傷治癒過程において糖尿病性罹病期間が長期になると, 線維芽細胞の増殖および新生血管形成の遅延がみられ, 表皮直下に比べると真皮深層の治癒が遅れる点に留意して治療にあたる必要があると考えられた.
著者
田中 克弥 吉本 仁 閔 理泓 窪田 亮介 窪 寛仁 大西 祐一
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.86, no.1, pp.21-29, 2023-03-25 (Released:2023-06-25)
参考文献数
20

高齢者社会が急速に進んでいる昨今,90歳以上の超高齢者への外科手術はまれでなくなってきた.今回われわれは超高齢者MRONJ患者に対し,全身麻酔下で外科的療法を施行した4例について検討を行った.4例の年齢は平均94.3歳で,骨粗鬆症の治療に対して3例はビスフォスフォネート製剤の内服,1例はデノスマブ製剤の皮下注射を行っていた.すべての症例で重大な術後合併症なども認められず術後の経過も良好であった.しかし,超高齢者の手術では全身状態や社会背景から手術の適応をより慎重に判断し,quality of lifeの改善を最優先した治療を選択する必要があり,慎重に検討が必要であると考えられた.
著者
村井 亜希子 錦織 良 神 光一郎
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.68-75, 2020-09-25 (Released:2020-12-25)
参考文献数
29

本研究は,わが国における歯科衛生士の就業実態や医療・介護現場で歯科衛生士が行っている処置・指導の状況などの歯科衛生士の需給に関する実態について明らかにするとともに,将来的な歯科衛生士の需給バランスについて検討することを目的として行った.分析データには,厚生労働省が実施している国家統計調査の結果および本学附属歯科衛生士専門学校に応募があった求人票を用いた. その結果,全国の歯科衛生士養成学校数は2010年から2019年の10年間で9校増え163校であった.就業歯科衛生士数を年度ごとに累積人数で推計したところ,ほぼ半数の者が歯科衛生士として就業していない実態が明らかとなった.一方,30歳以上では就業者数が増加しており,特に50歳以上ではその傾向が顕著であった.歯科衛生士の就業状況では90%の者が歯科診療所に従事していたが,一般病院や介護保険施設における歯科衛生の従事者数および保険点数の算定回数が大幅に増加している傾向が示唆された.求人票のデータ分析では,求人応募機関数が2010年度の443施設から2017年度には944施設と2倍以上に増え,特に病院からの求人が2010年度の6施設から2017年度には31施設と急増していた. 本研究により,歯科衛生士の需要が経年的に増していることが窺え,今後も周術期や介護現場等での専門的口腔管理の重要性が浸透し,歯科衛生士の需要は高まることが推測される.一方,歯科衛生士国家試験合格者のほぼ半数が歯科衛生士として就業しておらず,20歳代の就業歯科衛生士数が他の年齢層の就業歯科衛生士数と比べて減少傾向を示していることが明らかとなった.今後歯科衛生士の需給を検討する上では,歯科衛生士が生涯を通じて資格を活かすことのできるワークライフバランスや待遇の改善,医科歯科連携や高齢者の口腔機能管理などに係る教育カリキュラムの充実など,有資格者が歯科保健医療に貢献できる就業の在り方を検討することが課題であると考えられる.
著者
田中 昭男
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.81, no.1, pp.1-10, 2018-03-25 (Released:2018-07-01)
参考文献数
22

歯原性腫瘍は歯を形成する組織細胞から発生する口腔領域に特化した腫瘍である.腫瘍細胞の由来によって腫瘍は大きく上皮性,混合性,非上皮性の3 種に分けられる.文献的に最初に報告されたのは1746 年でPierre Fauchard により行われた.その後,Pierre Paul Broca そしてSir John Bland­Sutton が歯胚の構造に応じて歯原性腫瘍を分類している.当時,歯原性腫瘍は「odontome」という名称で表されていた.Ameloblastoma およびodontoma いう用語が使用されたのは,それぞれ1930 年代および1950 年代である.WHO が歯原性腫瘍の分類を世に表したのは1971 年に書籍を刊行したときである.その後,WHO は 1992 年,2005 年,そして2017 年に改訂版をそれぞれ発刊している.1992 年までは歯原性腫瘍のみを単独で出版していたが,2005 年版からは頭頸部腫瘍の中に含めたかたちで刊行している.2005 年版では,それまで囊胞として扱われていた歯原性角化囊胞および石灰化歯原性囊胞の2 病変がそれぞれ角化囊胞性歯原性腫瘍および石灰化囊胞性歯原性腫瘍として扱われた.しかし,2017 年版では腫瘍から囊胞へ戻り角化囊胞性歯原性腫瘍および石灰化囊胞性歯原性腫瘍の名称は消滅し,それぞれ歯原性角化囊胞および石灰化歯原性囊胞として扱われることになった.このほかにも歯牙エナメル上皮腫,エナメル上皮象牙質腫およびエナメル上皮線維歯牙腫の病名も消滅し,それらはすべて歯牙腫として扱うことになった. 一方,本学附属病院における病理組織診断を1994 年1 月から開始し,2016 年末で20,000 件を超える病理組織標本を扱ってきた.最も頻度の高い症例は囊胞性病変であり,次いで癌腫性,炎症性および歯原性の病変であるが,歯原性腫瘍の頻度は少ない.小切片では病理組織学的に囊胞と単胞性エナメル上皮腫の診断は必ずしも容易ではない.しかし,全割面の標本では診断は容易である.
著者
竹本 靖子
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.51-56, 2001
参考文献数
28
被引用文献数
1

私たちが研究の対象としている口腔の感染症のほとんどは, 常在菌やその他の病原性の弱い細菌による感染症である.また, ここ数年, 世間を騒がせている黄色ブドウ球菌による食中毒, 風呂の水から感染したレジオネラ症, MRSAやVREによる院内感染なども病原性の弱い細菌による感染症である.これら弱毒菌感染症の特徴は, まず, 原因微生物の病原性が弱いので, compromised hostに発症する日和見感染症であるということである.二番目として, 原因菌の特定が困難であること, 三番目として, 院内感染の場合, 原因菌が薬剤耐性化することにより, 病原性を発揮している点が挙げられる.弱毒菌が病原性を示すメカニズムは, 毒性の強い外毒素により病原性を示す強毒菌に比べると, 1つの病原因子だけでは説明できず, 多くの病原因子が関与している.口腔感染症では, う蝕, 歯周病, それ以外の歯性感染症が主なものであるが, その主要原因菌として, それぞれ, Streptococcus mutans, Porphyromonas gingivalis, Prevotella intermedia/nigrescensが挙げられる.これらの細菌は, 宿主への付着および定着, 免疫系からの回避, 宿主細胞の破壊, 病巣の拡大などに関わるさまざまな病原因子を産生し, 病気を起こしていると考えられる.Compromised hostが増加していたり, 現代の日本のように, 環境の衛生状態がよいと, いままでは問題とならなかった弱毒菌による感染症はあなどれない.また, 薬剤耐性菌や腸管出血性大腸菌E. coli O 157:H7のように, 本来, 病原性の弱かったものが, 病原性を獲得して, 病原性を発揮する現象も見うけられる現代では, 弱毒菌感染症について, 注意を払わねばならない.
著者
崗本 晋澤
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.g83-g84, 1996

Face bow headgearは, 上顎大臼歯の遠心移動, 上顎骨の成長抑制および加強固定などに用いられる顎外固定装置で, その作用を解明するための研究が数多く行われている. しかしながら, 顔面頭蓋形態的差異による効果と, 顔面頭蓋の主たる成長発育の場である縫合部で実際に歪計測を行った報告はない. そこで, 骨格形態の差異が上顎顎外固定装置の作用に及ぼす影響と上顎顎外固定装置が上顎骨周囲の縫合部に及ぼす影響について検討した. 研究方法 Hellmanのdevelopmental stage VAに属し, 健全な永久歯列を有する乾燥頭蓋骨2体を使用した. 1体は, SNA 83.5゜, SNB 78゜, ANB 5.5゜, FMA 25゜, Occlusal to FH 11゜および Palatal plane to FH 5゜で, 口蓋平面が前下方に傾斜していた. 他の1体は, SNA 87゜, SNB 81.5゜, ANB 5.5゜, FMA 23゜, Occlusal to FH 0゜および Palatal plane to FH -7゜で口蓋平面が前上方に傾斜しており, 上顎第一大臼歯が前者に比べて前方に位置していた. 乾燥頭蓋骨を前処理したのち, 頭蓋全縫合部にセメダイン1565, 歯根膜空隙にはデンタルシアノンを注入した. 上顎中切歯から第二大臼歯に edgewise appliance, 左右上顎第一大臼歯間に palatal barを装着し, 矯正線を結架して上顎歯列を一塊にした. おのおのの頭蓋骨に三軸型ロゼットゲージを19か所接着した. Long typeの face bow headgearを上顎第一大臼歯に装着し, outerbowの第一大臼歯相当部を mediumとし, 前方20mmを short, 後方20mmを longの3か所の位置で牽引した. 牽引方向は FH planeを基準平面として上方75, 60, 45, 30, 15, 0, -15および-30゜の8方向とした. 荷重量は, 骨がクリープ現象を起こさず反復荷重-歪曲線において完全に Hookeの法則が成立する3kgを用いた. 歪測定には, デジタルメーターとスキャナーを使用した. 結果および考察 口蓋平面前下方傾斜頭蓋骨において, short 75, 60゜および medium 75゜牽引では, 上顎骨には反時計回りの回転を伴う後上方への変位, short45゜, medium 60゜および long 75゜より下方の牽引では, 上顎骨には時計回りの回転を伴う後上方への変位が生じていた. 口蓋平面前上方傾斜頭蓋骨において, short 45゜, medium 60゜ および long 75゜より上方の牽引では, 上顎骨には反時計回りの回転を伴う後上方への変位, short 30゜, medium 45゜および long 60゜より下方の牽引では, 上顎骨には時計回りの回転を伴う後上方への変位が生じていた. 前頭上顎縫合部, 頬骨上顎縫合前面, 側頭頬骨縫合外側縁, 蝶前頭縫合上および蝶鱗縫合の側頭面部の歪は, それぞれ牽引部に近い上顎骨前頭突起上, 上顎骨頬骨突起, 頬骨骨体部および蝶形骨大翼と比較して最大20倍前後であった. また, 横口蓋縫合部, 蝶鱗縫合の下顎高前方部および蝶後頭軟骨結合部では, 他の骨体部と比較して上記の縫合上と同様に大きな値を示した. これらの結果から, 顔面頭蓋において縫合部は主たる成長発育の場であり, face bow headgearによる orthopedic effect が主として縫合部と蝶後頭軟骨結合部に生じているのではないかと考えられる. 矯正歯科臨床において face bow headgearを用いる場合, 使用目的と患者の顎顔面形態の特徴を把握したうえで, 牽引部位と牽引方向を十分に検討することの重要性が示唆された.
著者
佐藤 正樹 覺道 昌樹 田中 順子 田中 昌博
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.81, no.1, pp.11-15, 2018-03-25 (Released:2018-07-01)
参考文献数
17

咬合力を電気的に時系列に計測できる咬合検査装置T­-Scan Ⅲを研究および臨床に応用してきた.習慣性咬合位から咬頭嵌合位に至る咬合力上昇時間の指標であるオクルージョンタイム(以下,OT とする)は,健常有歯顎者と比較して顎機能障害者で有意に延長することが報告されている.しかし顎機能障害者の中にはOT が比較的短いものがいるなど,その機序には不明な点も多い.そこで本研究では,T­-Scan Ⅲを用いて,健常有歯顎者と顎機能障害者の咬合状態の違いを明らかにすることを目的とした.健常有歯顎者 20 名と顎機能障害者42 名を選択し,T­ScanⅢを用いて習慣性咬合位から咬頭嵌合位に至るOT を計測した.また,早期接触の検出に有用であるとされているデルタの咬合力を求め,デルタのraw sum 値を咬頭嵌合位における咬合力のraw sum 値で除し,正規化したものを早期接触の指標とした.健常有歯顎者と顎機能障害者のOT の中央値は,それぞれ0.36 秒と0.61 秒で統計学的に有意な差を認めた(p<0.01).咬頭嵌合位の咬合力に対するデルタの咬合力の割合は,顎機能障害者をOT で0.7 秒未満と0.7 秒以上の2 群に分け,健常有歯顎者と合わせて3 群間で比較したところ,3 群間で有意な差を認めた(p<0.01).健常有歯顎者と顎機能障害者(OT≧0.7 秒)間(p<0.01),顎機能障害者(OT<0.7 秒)と顎機能障害者(OT≧0.7 秒)間(p<0.05)に有意な差を認めた.デルタは水平面内での下顎変位が生じる際に検出されると考えられることから,顎機能障害者(OT<0.7 秒)は,水平面内での下顎変位が比較的少なく,回転中心の下顎変位を示すためOT が短く,顎機能障害者(OT≧0.7 秒)は下顎の水平面内での変位を伴う早期接触のため,習慣性咬合位から咬頭嵌合位に至るOT が延長したと考察した.
著者
森川 康之 四井 資隆 松本 尚之
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.35-48, 2008-03-25 (Released:2017-05-29)
参考文献数
12
被引用文献数
1

歯列矯正装置が磁気共鳴画像装置(以下,MRIと略す)に及ぼす影響について,多岐の材料の組み合わせを実験的に検討した.試料および方法として,プラスチック製歯列模型にブラケット3種類(スチール,セラミック,レジン)とワイヤー4種類(スチール, NiTi,ヒートアクチベートNiTi,ベータTi),リガチャー2種類(スチール,エラスチック)を組み合わせた装置を作製の上,1.5Tesla MRI装置を使用し,6種類の撮像シーケンス(以下,撮像法と略す)で撮像した.得られた画像で障害について,信号強度の変化と信号欠損の大きさ,信号欠損直近のひずみ,3次元構築像でのゆがみの計測を行い,以下の結果を得た.すべての部品がスチール製の矯正装置を装着した場合にGR-T2法で極端な信号強度の低下を示し,画像の表示が困難となった.同じ組み合わせで最大の信号欠損を形成し,磁場方向で160mm,左右方向で145mm,上下方向では137mmに達した.セラミック・ブラケットにスチール以外のワイヤ一をエラスチック・リガチャーで結紮した場合は障害像を発生しなかった.スチール・ブラケットを装着した場合,MRIのすべての撮像で磁場方向に100mm以上の信号欠損を形成し,特にSE-T1法で広範囲に影響した.信号欠損周囲では縮小傾向で0.62倍,膨張傾向で1.58倍のひずみを示し,影響は広範囲に及んだ.3次元像ではスチール・ブラケットを装着した場合には,他の材料に関わらずほぼ10mm以上のゆがみを示し,その最大値は13.7mmであった.スチール製歯列矯正装置を用いた場合に最大の金属障害が発生するのはスチールが常磁性体であり,磁場断面積が大きいためである.しかし,スチール・ブラケット単独の場合でも大きな金属障害を生み出し,ブラケット相互間の電気的短絡がない状態でも障害を生ずる.したがって,磁力線に対する影響は相乗効果かあるものと考えられる.MRI検査を用いる可能性のある歯科矯正治療患者には,スチール製矯正装置を避け,他の材料の装置作製が必要である.また,撮像法はFSE法やFGR法を用いるべきであると考えられる.
著者
福島 久典
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.115-120, 1998
参考文献数
13
被引用文献数
1

う蝕は, 歯周疾患や根尖性歯周疾患とともに, 口腔常在細菌によって引き起こされる, 内因感染症である.しかしコレラ菌やチフス菌などの外因感染症と異なり, 内因感染症は, 病原性の弱い細菌による感染症であるので, 発症するためには, 宿主の状態, 基質などの因子が密接に関連する.う蝕は, 高濃度の有機酸でエナメル質が脱灰されることで始まる.この酸は, 歯の表面の歯垢内細菌が植物のなかの糖を発酵して生じる.歯垢内細菌のなかでmutans streptococciは, う蝕の原因菌としてもっとも注目を集めている.それはmutans streptococciが, 以下に示す種々の病原性状を備え, 実験動物に単独でう蝕を誘発することができるためである.歯の表面へのmutans streptococciの付着は, う蝕の発症にとって重要なステップである.この過程は, スクロール非依存性とスクロール依存性メカニズムによて仲介されている.スクロース非依存性の付着は, mutans streptococciと歯の表面の獲得被膜との間の相互作用で起こる.Mutans streptococciは, wall-associated proteins, serotype-specific antigens, lipoteichoic acid, peptidoglycan のような種々の細胞表面ポリマーをもっている.これらのポリマーのうち, 190 kDa(Russellらは, 167-kDaと記載している)cell surtace fibrillar protein antigen (antigen l/ll、B、lF, P1, SR, MSL-1, PAcなどと命名されている)は, 歯の表面の獲得被膜へのmutans streptococciの結合を仲介する要因の1つとして知られている.スクロース依存性の付着(粘着)は, glucosyltransferase(GTFs)で触媒される, スクロースから水不溶性グルカンの合成による.Mutans streptococciの歯の表面への粘着に続いて, 水溶性のdextranによる細菌の凝集(aggregation)巣が形成される.さらに菌体内外の各種の糖(多糖体を含む)を分解し, 乳酸を産生して, エナメル質の脱灰を生じさせる.このとき増殖が抑制される低いpH値でも, mutans streptococciは, 酸を産生し続ける性質(耐酸性)をもつ.このように, mutans streptococciは多くのう蝕誘発因子で, う蝕を発症させる.本シンポジウムでは, mutans streptococciのcell surface fibrillar protein antigen, GTFs, 耐酸性に関連するproton-ATPaseなどの最近の知見について概説する.
著者
岩井 康智
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.233-238, 1999-12-25 (Released:2017-04-13)
参考文献数
27

解剖学的ならびに生物学的な立場からみると, ヒトの系統発生および個体発生における総合咀嚼器官の進化または退化には, 環境因子が深く関与している.一方, 正常咬合は総合咀嚼器官が正常に機能するための重要な要件とされている.咬合の静態と動態, 即ち形態的ならびに生理的にともに正常であることが, 形態学的立場からの理想的咬合の条件である.