著者
柳田 寿一 平田 茂留
出版者
日本古生物学会
雑誌
Transactions and proceedings of the Palaeontological Society of Japan. New series (ISSN:00310204)
巻号頁・発行日
no.74, pp.89-111, 1969-06-30

西南日本外帯の愛媛県上浮穴郡柳谷村中久保付近の石灰岩より産出した腕足類を検討し, 11属14種を識別しえた。これら腕足類化石群の構成要素の多くは, 中国の下部ペルム系太原統および船山統の腕足類化石群のそれらと密接な関係をもち, またテチス地域の各地や南米西部の下部ペルム系産腕足類化石群中にも共通種ないし近縁種を見出しうる。さらにこの腕足類化石群に密接に伴われる4種のフズリナ化石が, いづれも九州矢山岳石灰岩のPseudoschwagerina minatoi帯石灰岩およびこれに対比される各地の下部ペルム系石灰岩を特徴づける種であることから, 腕足類化石群の時代が後期サクマール世であることが明確となった。
著者
松本 達郎
出版者
日本古生物学会
雑誌
日本古生物学會報告・紀事 新編 (ISSN:00310204)
巻号頁・発行日
no.153, pp.12-24, 1989-04-30
被引用文献数
6

Inoceramus pictus Sowerby, 1829は古く設立され, 白亜系セノマニアン階(おもに上部, 時に中部)に世界的分布を示す重要種である。しかし本邦からはまだ記載されていなかった。本種は変異が著しいと言われ, Dietze (1959)以来, かなりの数の亜種が設けられている。日本産のは既知のとは別な亜種であるため気付かれていなかったのでは? という着想を得て, 古い採集品を含めて調べてみた所, 北海道天塩川中流域の2地点産の複数の標本(T. M. Coll.)と小平蘂川の1転石(Yabe Coll.)がそれに該当することが判明した。また古丹別や幾春別にもI. cf. pictusと言えるものがある。産地の多くはセノマニアン上部で1地点(type loc.)は中部とみなされる。日本産のものを記載するに当たり, I. pictusの既設の諸亜種を文献と一部は標本に基づいて再検討した。各亜種の概念が研究者により異なり, 同一標本が著者により異なる亜種に同定されたり, 同一地理区の同一化石帯に複数の亜種が報ぜられたりで, 混乱や疑問がかなりある。しかしholotypeとそれに似る典型的なもののほか, どのような形質の変異形(人によっては亜種扱い)があるのかをある程度知ることができた。典型的なものは種名の示す通り, 成長輪と条線が明確で粗く, 中〜後年に現われる主助もかなり強く粗い。殻はかなり膨らみがある。北海道産のものは細肋・条線が微弱で, 強い主肋がなく, 弱いが頻繁な副肋か緩い起伏がある。殻の膨らみもやや弱い。北米産のI. pictus gracilistriatus K. & P.に成長輪の微弱な点が似るが, 彼等の亜種には粗大な主肋がある。殻の膨らみの弱い点ではI. pictus neocaledonicus Jeannet(実はこの亜種名には疑問あり)と称せられるものに似るが, 彼では成長輪・条線は明確で粗い。カムチャッカ産のこの名のはむしろ北海道のに似る。新亜種I. pictus minusを設立した。たぶん北西太平洋区の地理的亜種であろう。
著者
氏家 宏 市倉 賢樹
出版者
日本古生物学会
雑誌
日本古生物学會報告・紀事 新編 (ISSN:00310204)
巻号頁・発行日
no.91, pp.137-"150-1", 1973-09-20

日本海より得た約40本のピストン・コアのうち25本の予察的検討をおこない, 炭酸石灰補償深度が非常に浅いことを知り, 日本海特有の溶存酸素に富む冷水塊に帰因すると推察する。いっぽう, 同深度より浅い鳥取市沖水域より得たコア(V28-265)は, 920cmに及ぶ全長にかけて, ほぼくまなく浮遊性有孔虫を産出する。卓越する"Globigerina" pachydermaのcoiling ratioから, コア頂部より約120cmのところに完新世・更新世境界(約11, 000年前)を認め, それを境にして古水温の上昇, 還元的条件から酸化的条件へなどの古環境の急変があることを示唆する。もう一つの優勢種であるGlobigerina umbilicataは, ほぼ同コア更新統のみに限られ, 中・高緯度地方の上部鮮新統ないし更新統の示準種となるかもしれない。ただし, V28-265は, Riss-Wurm間氷期には達していないらしい。
著者
西田 史朗
出版者
日本古生物学会
雑誌
日本古生物学會報告・紀事 新編 (ISSN:00310204)
巻号頁・発行日
no.75, pp.136-"152-1", 1969-09-30

能登半島の中新統中の石灰質超微化石のうちディスコースターについて報告した。西黒沢階から船川階に及ぶとされている輪島互層, 赤神頁岩層, 法住寺含珪藻泥岩層, 輪島石灰質砂岩層, 飯田含珪藻泥岩層, 南志見泥岩層から21種のディスコースターを光学顕微鏡および電子顕微鏡によって識別し, そのうち4種を新種として記載した。また今までに報告されたディスコースターの産出層準との比較を試みたが確定したものとは言い難い。ディスコースターの出現の時期についてはほゞ明らかにされたようであるが消滅期については問題を残す。石灰質超微化石のプレパレーションテクニックも併せて報告した。
著者
柄沢 宏明 西川 功
出版者
日本古生物学会
雑誌
日本古生物学會報告・紀事 新編 (ISSN:00310204)
巻号頁・発行日
no.163, pp.852-860, 1991-09-27
被引用文献数
3

広島県神石郡油木町宗兼に分布する備北層群神石累層下部(中期中新世初頭)より産したオキナワアナジャコThalassinia anomala(Herbst)を記載した。T. anomalaは現生種で, インド-西太平洋の熱帯地域のマングローブ沼生活者であり, その産出を中新世まで遡らせた。この種の産出は, 中期中新世初頭の西南日本の熱帯的古環境を支持する。
著者
田沢 純一
出版者
日本古生物学会
雑誌
日本古生物学會報告・紀事 新編 (ISSN:00310204)
巻号頁・発行日
no.148, pp.276-284, 1987-12-30
被引用文献数
3

南部北上山地, 宮城県本吉郡歌津町石浜東方海岸に露出する上部ペルム系(ズルファー階)下部登米層下部の頁岩と石灰質頁岩から, 我が国では初めての腕足類Attenuatellaが採集された。これをAttenuatella bandoiと命名し, 記載する。Attenuatellaはスピッツベルゲン・ソ連邦北極地方・シベリア・ウラル山脈・ユーコン北部・テキサス西部・メキシコ北部・オーストラリア東部・ニュージーランド・ニューカレドニア・タイ北部・中国北部および東北日本の中部石炭系(モスコー階)から上部ペルム系(ドラシャム階)に分布するが, 特にボレアル地域とゴンドワナ地域の下部〜中部ペルム系に集中している。
著者
Karasawa Hiroaki
出版者
日本古生物学会
雑誌
Transactions and proceedings of the Palaeontological Society of Japan. New series = 日本古生物学会報告・紀事. 新篇 (ISSN:00310204)
巻号頁・発行日
no.182, pp.413-418, 1996-06-30
被引用文献数
5

The monotypic genus Shako (Crustacea, Stomatopoda) is erected with S. tomidai sp. nov. from the Miocene Ayugawa and Mizunami Groups (Lower Miocene) of Central Japan. This is the second record of the Stomatopoda from Cenozoic deposits of Japan. It appears that S. tomidai preferred a brackish water environment.
著者
木村 達明 金 鳳均
出版者
日本古生物学会
雑誌
日本古生物学會報告・紀事 新編 (ISSN:00310204)
巻号頁・発行日
no.155, pp.141-158, 1989-09-30
被引用文献数
1

韓半島の大同, 金浦, 漣川, 忠南, 聞慶および丹陽炭田地域に露出する非海成の大同累層群の植物化石は, かつて矢部長克, 川崎繁太郎, 大石三郎, 小畠信夫らによって研究されたが, 1945年以来その研究は途絶えていた。筆者らは1973年以来, この地域の炭田の開発にともない, おもに忠南および聞慶炭田地域の新産地から多くの植物化石を入手することに成功し, 現在までに, 38属79種を識別し, またこれらの中には, 従来知られていなかった分類群, 1新属および10新種を加え20属33種を含む。本論文は以上の新種を含むこの植物群の特徴種14属19種を記載した。大同累層群の植物群の時代は, かつて, ジュラ紀初〜中期と考えられたが, 少なくとも金浦, 忠南, 聞慶炭田地域から得られた化石植物群集に関する限り, その組成は, 日本, 沿海州南部および中国東北の東南部, および中国南部の三畳紀後期植物群と完全に一致し, これら地域のジュラ紀初〜中期植物群とは著しく異なる。
著者
松居 誠一郎
出版者
日本古生物学会
雑誌
日本古生物学會報告・紀事 新編 (ISSN:00310204)
巻号頁・発行日
no.160, pp.641-662, 1990-12-30
被引用文献数
10

日本の中新世末期から更新世に及ぶ約500万年間の寒流系貝類動物群中に7つの群集のグループが認められた。それぞれのグループを構成する地域群集はお互いに種または属組成のみならず環境との関係も類似し, お互いに生態的平行の関係にある。群集のグループの分布は主に水深と底質に規制される。また, これらの群集のグループに対応する現生の群集が日本周辺海域に認められる。7つのグループのなかでAcila-Turritella群集が最も普遍的で, 現生の下部浅海帯群集に比較される。Delectopecten群集とNuculana群集はこれより深い環境に認められる。Anadara群集とMacoma-Mya群集は浅海環境を代表し, それぞれ上部浅海帯の砂底と泥底群集に比較される。Thyasira群集は還元的な環境と結びついていたと考えられる。Chlamys群集は下部浅海帯及び上部漸深海帯の粗粒砂底を代表する。
著者
棚部 一成 小畠 郁生 二上 政夫
出版者
日本古生物学会
雑誌
日本古生物学會報告・紀事 新編 (ISSN:00310204)
巻号頁・発行日
no.124, pp.215-"234-1", 1981-12-30
被引用文献数
2

北海道の上部白亜系産のNostoceratidae, Diplomoceratidae両科に属する異常巻アンモナイト5属8種の成長初期の殻形態を記載し, その古生物学上の意義を考察した。諸形質のうち, 縫合線と連室細管の位置は初期段階でも安定し, どの種も前者は式ELUIで, 後者は外殻側に存在する。またDiplomoceratidae科のScalarites 3種(うち1種はS. ? sp.)は成長初期に強いprorsiradiateなくびれを伴った直線状の殻を有する点で, 幼期に同様なくびれのないNostoceratidae科の類とは区別できる。この特徴的な初期殻はDiplomoceratidae科の他の類にも存在する(WRIGHT and MATSUMOTO, 1954)ことから, 同科の属性の1つとみなせる。他の形質のうちでは, 特に螺環の巻き方が変異に富み, 同一種の個体発生中でも複雑に変化する。その変異幅は巻貝類のそれに比較でき, RAUP (1966)のパラメータを用いることにより(1)平巻型(2)旋回型(3)旋回軸変換型の3群に区分できる。しかし記載種と似た巻きを示す類は別の系統の類にも存在する。Eubostrychoceras japonicumとNeocrioceras spinigerumに同定した個体では, ごく初期に胚殻と約1巻の螺環からなる正常巻のアンモニテラが識別された。アンモニテラは明瞭なくびれ(nepionic constriction)を境に異常巻の螺環に続く。他の種においても, 観察結果から同様のアンモニテラの存在が示唆される。なお表面装飾は異常巻段階に入って出現する。以上の事実や他の正常巻・異常巻類にも類似の内部構造を持つアンモニテラが認められていることから考えると, アンモニテラは卵中で形成された可能性が高い。おそらく異常巻類の孵化直後の"正常型"幼体は一時的な浮遊生活を営み, 以後底生型の生活に適応していったと想像される。
著者
木村 達明 関戸 信次
出版者
日本古生物学会
雑誌
日本古生物学會報告・紀事 新編 (ISSN:00310204)
巻号頁・発行日
no.84, pp.190-195, 1971-12-30

筆者らは1965年, 手取川支流目附谷川上流に露出する桑島砂岩・頁岩互層相当層から, 葉縁にいちじるしい棘のあるソテツ状葉標本2個を採集した。現生ソテツ類において, とくにいちじるしい棘のある属はEncephalartosであるとされているが, 全縁の種もあり, またStangeria, Bowenia, Zamia, MacrozamiaおよびMicrocycasなどにも棘または鋸歯のあるものが多く, 棘や鋸歯があるというだけで属を識別する根拠とはならない。しかし化石ソテツ状葉で棘や鋸歯のある例は少なく, 筆者らの標本は, 1962年, VAKHRAMEEVによってヤクーツク付近の下部白亜系から報告・記載されたNeozamites属に一致する。この属は沿海州やレナ川中流地域の下部白亜系から3種が知られているが, ここに記載する標本はそのどれとも一致しないので, Neozamites elongata sp. nov.として報告する。この属はシベリア植物群の主要要素とされている。
著者
藤 則雄
出版者
日本古生物学会
雑誌
日本古生物学會報告・紀事 新編 (ISSN:00310204)
巻号頁・発行日
no.86, pp.295-"318-1", 1972-06-30

能登半島に広く分布する新第三系に関する花粉学的研究のうち, 今回は, その第IV報として, 能登半島北端の輪島市に発達する中新世後期の塚田含珪藻泥岩層についての花粉学的研究の結果を報告する。塚田層は輪島市の一本松公園付近と宅田付近に, 局部的に発達する含珪藻泥岩を主体とする累層である。本層は硬質頁岩の薄層によって, 上部層と下部層とに2分される。上部層は泥岩よりなり, 下部層は砂岩薄層を夾在する泥岩よりなっている。塚田層の13層準からの16試料と, 他に, 参考までに洪積世後期の稲舟段丘堆積物からの1試料, 中新世中期の地層からの2試料(粟蔵層-1試料, 縄又層-1試料)について分析し, 各層準毎の化石群集の構成・変化の内容を明らかにし, これらの分析結果に基づいて, 塚田層堆積時の古気候・古地理的条件・地質時代について考察した。(1)塚田層堆積時の古地理的条件 : 本層からの花粉の構成は, upland系の植物をいくらか含んではいるが, mixed-slope・riparian要素を主体とする。本層に含まれている化石珪藻の構成内容や岩相などからの資料をも併せて判断すると, 本層の堆積盆地は, 入口の広い入江が直接外海に面しており, その入江の奥の, 出入りの多い水域であった, と推定される。本層と同時代といわれる能登半島中央部の和倉層・聖川層からの花粉構成は, 寒冷系の要素が塚田層のそれの1/2〜1/3である。このことは, 和倉層・聖川層の堆積域が半島中央部の, 入江や湾奥で, 北方からの風や海流の影響を直接うけないような環境であったのに対して, 塚田層の堆積域では, 比較的直接うけるような環境下であった, と推定される。(2)塚田層堆積時の古気候 : 温暖系の植物の花粉の頻度は10%で, 和倉層の30%や台島期の砂子坂層・山戸田層のそれらが50〜60%であるのに比較すると, かなり低率である。本層の主体をなすのは温帯系の要素で, 60〜70%を占めている。本層の下部と上部とを比較すると, 下部に, 温暖系要素が多い。本層では, 寒冷・冷凉系要素は, 温暖系要素に対してよりも, むしろ温帯系要素と正の相関々係を示す。塚田層と同時代といわれる和倉層・聖川層の花粉構成に比較すると, 細かな点では違いがあるが, 大局的には同じである, と判断され, 塚田層堆積当時の古気候は, 現在の北陸地区の気候に殆んど同じか, 若干冷凉か位であろう。(3)塚田層の地質時代 : 本層からの花粉群集は, 大局的には中新世後期の和倉層・聖川層, 鮮新世前期の荻の谷層の花粉群集に酷似し, 本層の地質時代もこれらの地層の時代に対比されよう。
著者
仲谷 英夫
出版者
PALAEONTOLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
日本古生物学會報告・紀事 新編 (ISSN:00310204)
巻号頁・発行日
vol.1989, no.154, pp.96-116, 1989-06-30 (Released:2010-05-25)
参考文献数
35

北海道勇払郡穂別町のサヌシュベ川より発見された長頸竜(爬虫類, 鰭竜目, 長頸竜亜目)化石を記載した.本標本にともなう軟体動物化石および微化石から化石の年代は後期白亜紀のサントニアンからカンパニアンと考えられる.本標本は体幹と四肢の部分が保存されており, 死後, 頸部や尾部の先端が脱落した後に埋積されたと考えられる.またその形態的特徴は長頸竜の中でもプレシオサウルス上科のエラスモサウルス科に属することを示している.しかし属以下の分類群については不明である.日本列島周辺の後期白亜紀の長頸竜はジュラ紀以降の長頸竜の分布を検討してみると, ユーラシアの北部または北アメリカから北太平洋を経由して移動してきたと考えられる.このことは同時代の海生二枚貝のデータとも調和的である.
著者
田代 正之
出版者
日本古生物学会
雑誌
日本古生物学會報告・紀事 新編 (ISSN:00310204)
巻号頁・発行日
no.110, pp.319-329, 1978-06-30
被引用文献数
3

熊本県天草郡竜ケ岳町の姫浦層群の下部亜層群下層部より産する二枚貝Atreta intuleavis, sp. nov., Pycnodonte amakusensis, sp. nov., Thyasira (Thyasira) himedoensis, sp. nov., Chlamys (s.l.) tamurai immodesta, subsp. nov.の4属3新種1新亜種を記載した。そのうちAtreta, Pycnodonte, Thyasiraは, 本邦中生界では, おそらく最初の記載である(但し, Pycnodonte? sp., HAYAMI 1975 ; Thysira sp., TASHIRO 1976を除く).なおAtretaの所属については, PlicatulidaeとDimyidaeのどちらに加えられるか疑問な点があったが, 今回, 前者に属することが判明した。PycnodonteやThyasiraは, アフリカ, ヨーロッパ, 北アメリカでは, カンパニアン以降にその発達が顕著であるが, 本産地は, サントニアンの下部とされているので, 姫浦層群産のPycnodonte, Thyasiraは, 古い形態を示すものとして興味深い。また, Chlamys (s.l.) tamurai, Chlamys (s.l.) tamurai immodestaは, Camptonectes, Camptochlamysの中生代型のPectinidsとEburneopecten, Palliolumの新生代型のPectinidsの双方にそれぞれ共通する表面装飾を有する点, 分類学上, 極めて, 興味あるものである。
著者
松本 達郎 村本 喜久雄
出版者
日本古生物学会
雑誌
日本古生物学會報告・紀事 新編 (ISSN:00310204)
巻号頁・発行日
no.130, pp.85-95, 1983-07-15

3種のうちの1は羽幌の下部サントニアン産のもので代表され, Eutrephoceras sublaevigatum (d'Orbigny) に似るが, 縫合線がもっと波状でKummeloceras(その1で設立)の1新種とした。2番目は幾春別の下部サントニアン産の大小2個体で代表され, 従来九州天草の姫浦層群の下部サントニアンから報ぜられていたCymatoceras pseudoatlas (Yabe et Shimizu)に同定される。3番目は天塩アベシナイの中部カンパニアン産の大小2個体と, 昔の南樺太(川上の下部カンパニアン?)から採取されていた中位の大きさのもので代表され, Cymatoceras の新種とした。これはC. saussureanum (Pictet)に似るが, サイファンクルがやや腹側に位置することなどで区別される。なお論文中の一部(松本単著)で, Cymatoceratidae及びCymatocerasにつき論述し, 1新属を提唱した。
著者
BURTON C. K.
出版者
日本古生物学会
雑誌
日本古生物学會報告・紀事 新編 (ISSN:00310204)
巻号頁・発行日
no.65, pp.27-46, 1967-04-10
被引用文献数
1

近年北西マライから多数の筆石とtentaculitesが発見されている。筆石の大部分はLlandovery期のもので一部Wenlock型がある。Tentaculitesは明らかに中下部デボン系のものである。時代が異るにもかかわらず両者は密接に伴っていて, 16産地では同一層理面上に伴って産出している。集められた事実を照合し再検した結果判ったことは, このようなシルル紀筆石とデボン紀tentaculitesの共存という異常な産状は, 北西マライからタイ西部, ビルマ東部をへて雲南西部に続く地向斜地帯ではごく普通にみることができる。このようなフォーナの混合は, 一時的な隔離と, その結果として浮游生物が堆積地帯から消失し, 続いて外的連繋が復旧した時に造山的擾乱が起った結果であると考えられる。この古生代中期の地向斜は, 雲南から北東に中国にのび, それから恐らくはヨーロッパと連絡があったことを示すいくつかの証拠がある。この雲南-マライ地向斜はまた, ヒマラヤ地域とも時々連っていた。南方では, Kalimantan(インドドネシアのボルネオ)からニューギニアのIrian Baratをへて東オーストラリアにのびていた可能性がある。時代の異るシルル紀筆石とデボン紀tentaculitesとが相伴って産出することは, Victoriaでも知られている。
著者
小池 敏夫 石橋 毅
出版者
日本古生物学会
雑誌
日本古生物学會報告・紀事 新編 (ISSN:00310204)
巻号頁・発行日
no.96, pp.433-"436-1", 1974-12-20

沖繩島の今帰仁層上部から, 多くのアンモナイトとともにコノドントが採集された。本層のアンモナイトについては, すでに石橋(1970)によって記載されており, コノドントを産する層準はJuvavites cf. kellyi帯に含められた。この化石帯は北米のカーニアン上部Tropites welleri帯に対比された。今回得られたコノドントはEpigondolella nodosa (HAYASHI)のほか3種である。Epigondolella nodosaの産出から, 本層準は北米のカーニアン最上部Klamathites macrolobatus帯;ハルスタツト石灰岩のAnatropites帯に対比される。以上のように, コノドントとアンモナイトによる本層準の時代決定はほぼ同じであるが, 現在の知識では, コノドントによるほうが, 若干新しい時代を示す。
著者
田代 正之
出版者
日本古生物学会
雑誌
日本古生物学會報告・紀事 新編 (ISSN:00310204)
巻号頁・発行日
no.86, pp.325-339, 1972-06-30
被引用文献数
1

日本産のpennatae trigoniidsの特に九州姫浦層群産の種を中心に, その表面装飾及び成長に伴う形態変化を細かく観察した結果, これらの3属Apiotrigonia, Heterotrigonia, MicrotrigoniaはFrenguelliellaに酷似した幼殼を持ち, diskのL型肋は各々成長初期に突発的に形成され, areaの装飾は種により特徴ある形態を示す。Heterotrigonia特有とされたareaの放射状肋に似た細肋がApiotrigoniaやMicrotrigoniaの成長形にも弱いが出現することがある。又Heterotrigoniaのdiskにおける定向的な装飾変化はApiotrigonia, Microtrigoniaと酷似する。したがって, これら3属間には互いに密接な関係があり, 特にMicrotrigoniaはApiotrigoniaより分かれたことは明瞭である。このpennatae trigoniidsの起源はおそらくFrenguelliellaに端を発し, Trigoniinaeに加うべき過程を経たと思われるが, 成長後の形態は独特のL型肋を示すので, むしろこれらを一括して, 新亜科を設定すべきかと思われる。これらの属に加えられる姫浦層群産の3新種Ap. utoensis, Het. himenourensis, M. imutensisを記載した。またAp. minor var. nankoi NAKANOとAp. obliquecostata NAKANOは各々Ap. obsoleta NAKANOとAp. minor (YABE and NAGAO)の同種異名であろう。
著者
速水 格
出版者
日本古生物学会
雑誌
日本古生物学會報告・紀事 新編 (ISSN:00310204)
巻号頁・発行日
no.150, pp.476-490, 1988-06-30
被引用文献数
3

三畳紀以降半深海の泥相に多いワタゾコツキヒガイ属(Propeamussium)は, ツキヒガイ属(Amusium)と見かけの上で内肋を共有するが, 系統的には全く異なり, 古生代後期に栄えたPernopectinidaeの特徴をとどめる「生きた化石」として注目される分類群である。PropeamussiumのほかPolynemamussium, CyclopectenがPropeamussiidaeの標徴を共有する。今回, 西太平洋地域の現生および化石イタヤガイ上科の数種について, 内肋の巨視的・微視的特徴を観察し, その機能的・分類学的意味を考察した。Amusiumを含むイタヤガイ科の内肋は, 腹縁近くの外層で外表の放射肋に応じて形成され, 本来は腹縁の噛み合わせを確実にする補助的役割を果たしている。これに対して, Propeamussiumの内肋は, 交差板構造の内層の中に繊維状構造を示すレンズ状のコアを伴って形成され, その末端部で付加成長する。このコアは発生的には, 右殻では稜柱層直下の"中層"から, 左殻では外層から分化したと考えられる。内肋の末端は両殻の間で対置し, 殻を閉じた時に互いに接するようにできている。おそらく, 遊泳のための強力な閉殻筋の緊縮が薄質の殻に与える破壊力を和らげるバットレスの役割を果たしていると考えることができる。
著者
岩崎 泰頴
出版者
日本古生物学会
雑誌
日本古生物学會報告・紀事 新編 (ISSN:00310204)
巻号頁・発行日
no.77, pp.205-"228-1", 1970-04-10

1966年初頭にルソン島Tayabas地区の地質構造調査を行った木村敏雄・徳山明両氏は, 保存は良くないが種々検討する価値があると思われる貝化石標本を, 2ケ所から採集し持ち帰った。産出層は下部Gumaca層の上部で中新統の由であった。さて標本類は二枚貝20種, 巻貝16種が識別され, 不確定の11種を除いてすべて既知の化石種・現生種に同定されている。特徴的な種として, Vicarya callosa, Anadara multiformis, Joannisiella cumingi, Paphia exarataなどを含み, 且ってMARTIN, SMITH等によって指摘されたフィリッピン及びインドネシア方面に広く分布する中新統下部の夾炭層に伴う浅海棲貝化石群に属すると見做し得る。一方の産出地Pitogo付近の2層から得られた標本類については, 不充分な材料ではあるが露頭における産出状態から自生の種群構成を復元することができる。この結果, 現地生に近いDosinia-Anadara群集と運搬されたと思われるBatillaria群集の両要素の混合したものと推定される。更に, この仮称"Pitogo fauna"は日本の黒瀬谷層などにみられるVicaryaを含む貝化石群と古生態的にも極めてよく類似している。両者を種群構成の上から比較すると, 両地の緯度の違いを反映して個々の群集の構成種の入れ替りは, 門ノ沢型における奥尻島と種子ケ島両地産の差よりも大きいが, まったく同一の生物地理区に属するとみて矛盾はない。従っていわゆる"門ノ沢型動物群"と比較できる, はるか南方延長上に存在する貝化石群として古生物地理の観点から見落せない。少くとも中新統下部の日本の貝化石群の古生物地理学的吟味は, 東南アジア地域をも対象にする必要があろう。本報告では層序はKIMURA et al. (1968)に基いた。また貝化石群としてみた場合は, 終始日本のそれと比較するという立場で取扱っている。