著者
若林 茂 植田 由香 松岡 瑛
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.131-137, 1993 (Released:2010-02-22)
参考文献数
26
被引用文献数
8 15

馬鈴薯デンプンより調製した低粘性水溶性食物繊維である難消化性デキストリン (PF-C) について, 各種糖質負荷後の血糖値およびインスリン分泌に及ぼす影響を検討した。1) PF-Cの血糖値上昇抑制効果はショ糖およびマルトースに対して, またインスリン分泌の抑制効果はショ糖, マルトースならびにマルトデキストリンに対して有意に認められた。しかし, グルコース, 異性化糖あるいはラクトース負荷後の血糖値およびインスリン分泌に対してPF-Cは有意な影響を及ぼさなかった。2) PF-Cはスクラーゼ活性を微弱ながら上昇させたが, マルターゼ活性に対しては有意な影響を及ぼさなかった。3) in situ小腸灌流実験において, PF-Cはグルコースの吸収にはほとんど影響を与えなかうたのに対し, ショ糖およびマルトースの消化により生じたグルコースの吸収はいずれも有意に抑制した。
著者
藤澤 史子 灘本 知憲 伏木 亨
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 : Nippon eiyo shokuryo gakkaishi = Journal of Japanese Society of Nutrition and Food Science (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.3-9, 2005-02-01
参考文献数
25
被引用文献数
5 17

漢方で身体を温める効果があるといわれているショウガについて, ヒトを対象としてショウガ摂取後の体表温を中心とし, 生理機能に及ぼす影響を検討した。その結果, ショウガ水摂取後は対照の水摂取後と比較して, 額の体表温が有意に上昇した (<i>p</i><0.05)。ショウガ添加パン摂取後は対照のショウガ無添加パン摂取後と比較して, 額と手首の体表温が有意に上昇した (<i>p</i><0.05)。すなわちショウガはパンへ添加することにより温熱効果はより顕著になった。なお, 官能検査の結果からは, ショウガ添加パンはショウガ無添加パンと比較して, 香り, 味, 食感, 総合評価に有意な差はみられず, パンとして好ましい評価を得た。これらの結果から, ショウガは実用的食材としての可能性が大きいことが示唆された。
著者
田中 清 上西 一弘
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.231-236, 2020 (Released:2020-12-26)
参考文献数
4

日本人の食事摂取基準2020年版におけるビタミン・ミネラルにつき, 変更点を中心に述べる。脂溶性ビタミンでは, ビタミンDの目安量の根拠は従来健康人摂取の中央値だったが, 近年ビタミンD欠乏/不足者の割合が非常に高いことが明らかとなり, 「骨折予防に必要な量-日照による産生量」に変更された。水溶性ビタミンでは, 葉酸に関して, 食事性葉酸と狭義の葉酸の区別が明記された。多量ミネラルでは, ナトリウム (食塩相当量) の目標量 (上限) は, 高血圧・慢性腎臓病の発症予防のため, 望ましい摂取量 (5 g/日) と日本人の摂取量の中間値に基づき, 男性 < 7.5 g/日, 女性 < 6.5 g/日とされ, 今回その重症化予防のための量 (< 6 g/日) も定められた。カリウムは目標量 (下限) が定められ, ナトリウム・カリウム比の重要性も記載された。微量ミネラルでは, 妊娠中期・後期での鉄の付加量が引き下げられた。策定栄養素には変更なく, クロムについてのみは必須性に関して再検討されているが, これらの必須性は既に確立され, 食品成分表と合わせた活用が重要である。ヒト対象のエビデンスは少なく, 日本人での研究が必要である。
著者
荒牧 礼子 廣内 智子 佐藤 厚
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.107-111, 2011 (Released:2011-06-10)
参考文献数
9

野菜摂取量増加を目的とした栄養教育において, 喫食者に野菜摂取目標量, および自己の日常的な野菜摂取量を把握させることは重要である。喫食者が野菜と認識する食品素材が, 日本食品標準成分表において野菜として定義・分類されている食品素材とどの程度異なっているのかを調査し, その違いが日常的な野菜摂取量把握に及ぼす影響の検討を行った。成分表に収載されている主要野菜25品目, および非野菜15品目の計40品目を抽出し, 野菜, および非野菜かの認識を質問した。その結果, 平均正解率は, 野菜類93.6%, 非野菜類57.8%, 正解率の最も低かった食品は, じゃがいも14.9%, 次いで, やまいも18.9%, さつまいも24.2%であり, いも類を野菜と誤認識している者が非常に多いことが明らかとなった。また, 市販弁当78種類の副食に使用されていた食品素材の重量を秤量し, 分類した結果, 野菜実重量は47±26 g, 認識野菜重量は57±29 gと実重量に比較し21%高値を示した。
著者
佐々木 敏
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.74, no.6, pp.291-296, 2021 (Released:2021-12-20)
参考文献数
7
被引用文献数
3

『日本人の食事摂取基準』は, 厚生労働省が公開しているガイドラインのひとつであり, 食事・栄養に関するわが国で唯一の包括的ガイドラインである。本稿では, 総論のなかで今回の改定 (2020年版) で特に強調された点を紹介するとともに, 今後の食事摂取基準の策定も見据えて, 栄養学研究の役割や食事摂取基準との関係性について, 考察を加えることにする。今回の改定では, 数値の改定は最小限に留まっているものの, 指標の定義が再整理され, その詳細が説明されている。また, 食事摂取基準活用時に必要となる食事アセスメントに関する知識や知見などについても詳述されている。さらに, 食事摂取基準の策定方法に関する課題, 特に系統的レビューならびにメタ・アナリシスの利用における課題についても触れられている。総論の中でもっとも注視すべき記述は, 「我が国における当該分野の研究者の数と質が食事摂取基準の策定に要求される能力に対応できておらず, 近い将来, 食事摂取基準の策定に支障を来すおそれが危惧される。」という一文であろう。栄養学研究に携われる者がこの問題を真摯に取り上げ, 積極的に対応することを期待したいところである。なお, 本稿は政府の公式見解を述べたものではない。
著者
伴野 太平 小森 ゆみ子 鈴木 聡美 田辺 可奈 笠岡 誠一 辨野 義己
出版者
日本栄養・食糧学会
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.229-235, 2016 (Released:2016-12-15)

さつまいもの一種である紅天使を健康な女子大学生22人に摂取させた。加熱後皮をむいた紅天使の食物繊維は2.9g/100gだった。摂取開始前1週間を対照期とし,その後1週間単位で紅天使を1日300g,0g,100gとそれぞれ摂取させた。排便のたびに手元にある直方体の木片(37cm3)と糞便を見比べ便量を目測した。その結果,対照期には1.8±0.2(個分/1日平均)だった排便量が,300gの紅天使摂取により約1.6倍に,100g摂取により約1.5倍に増加した。排便回数も紅天使摂取量の増加に伴い増加した。300g摂取でお腹の調子は良くなり便が柔らかくなったと評価されたが,膨満感に有意な変化はなかった。各期の最終日には便の一部を採取し,腸内常在菌構成を16S rRNA遺伝子を用いたT-RFLP法により解析した結果,紅天使摂取により酪酸産生菌として知られるFaecalibacterium属を含む分類単位の占有率が有意に増加した。
著者
溝口 亨 加藤 葉子 久保田 仁志 竹腰 英夫 豊吉 亨 山崎 則之
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 : Nippon eiyo shokuryo gakkaishi = Journal of Japanese Society of Nutrition and Food Science (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.257-263, 2004-12-10
被引用文献数
2

エゾウコギ根抽出物 (EUE) の機能性を探索することを目的とし, 動物試験を実施した。EUEの安全性評価において, 最大用量6,000mg/kgの単回投与毒性試験および最大用量3,000mg/kg/dayの2週間反復投与毒性試験では, 異常は認められなかった。ビタミンC欠乏飼料で飼育したモルモットを対照群, ビタミンC欠乏飼料にEUEを0.25%の割合で配合した飼料で飼育した群をEUE投与群とし, 30日間飼育し, 飼育28日目に除毛して背部皮膚に紫外線照射を行い, 30日目に紫外線照射部位の過酸化脂質含量および紫外線非照射部位のコラーゲン含量を測定した。その結果, EUE摂取により皮膚の過酸化脂質生成およびコラーゲン含量低下が有意に抑制されることが認められた。冷水に15分間浸漬したラットの体温低下状態からの回復時間を測定した試験では, EUE 500mg/kgの2週間投与により対照群と比較して体温回復時間が有意に短縮され, その作用は末梢血液循環改善によるものと考えられた。マウスを用いた強制水泳負荷後の水泳耐久時間測定試験では, EUE 500mg/kgの2週間投与により対照群と比較して水泳耐久時間の有意な延長がみられ, この作用はEUEの抗疲労作用による可能性が示唆された。以上の結果, EUEは皮膚過酸化脂質生成抑制作用およびコラーゲン減少抑制作用, 末梢血液循環改善作用, 抗疲労作用を有する可能性が示唆された。
著者
寺口 進 小野 浄治 清沢 功 福渡 康夫 荒木 一晴 小此木 成夫
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.157-164, 1984
被引用文献数
7

ヒト由来のBifidobacterium 5菌種, すなわちB. in-fantis, B. breve, B. bifidum, B. longumおよびB. adolescentisを用い菌体内と菌体外のビタミン産生量を測定した<BR>1) 供試したBifidobacteriumのすべての菌株は菌体内にビタミンB<SUB>1</SUB>, B<SUB>2</SUB>, B<SUB>6</SUB>, B<SUB>12</SUB>, C, ニコチン酸, 葉酸およびビオチンを蓄積し, 菌体外にはビタミンB<SUB>6</SUB>, B<SUB>12</SUB>および葉酸を産生した。<BR>2) 菌種別ではB. longum, B. breveおよびB. in-fantisが比較的高いビタミン産生能を有していた。とくにB. longumはビタミンB<SUB>2</SUB>およびB<SUB>6</SUB>, B. breveはニコチン酸, B. infantisはビオチンにおいて高い産生能を示した。<BR>3) これらBifidobacteriumの産生するビタミン量は宿主としてのヒトのビタミン所要量と比較しても無視できない量であると考えられる。
著者
田中 啓二
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.221-228, 2011 (Released:2011-10-18)
参考文献数
25
被引用文献数
1

生体を構成する主要成分であり, 生命現象を支える機能素子であるタンパク質は, 細胞内で絶えずダイナミックに合成と分解を繰り返しており, ヒトでは, 毎日, 総タンパク質の約3%が数分から数カ月と千差万別の寿命をもってターンオーバー (新陳代謝) している。タンパク質分解は, 不良品分子の積極的な除去に関与しているほか, 良品分子であっても不要な (細胞活動に支障をきたす) 場合, あるいは必要とする栄養素 (アミノ酸やその分解による代謝エネルギー) の確保のために, 積極的に作動される。タンパク質分解研究は, 過去四半世紀の間に未曾有の発展を遂げてきたが, 現在なお拡大の一途を辿っており, 生命の謎を解くキープレイヤーとして現代生命科学の中枢の一翼を占めるに至っている。我々はタンパク質分解システムについて分子から個体レベルに至る包括的な研究を継続して進めてきた。その研究小史を振り返りながら, タンパク質分解 (リサイクルシステム) の重要性について概説したい。
著者
石見 百江 寺田 澄玲 砂原 緑 下岡 里英 嶋津 孝
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 : Nippon eiyo shokuryo gakkaishi = Journal of Japanese Society of Nutrition and Food Science (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.159-165, 2003-06-10
参考文献数
13
被引用文献数
6 9

高糖質食ならびに高脂肪食 (ラード食) にショウガ粉末あるいはショウガの有効成分であるジンゲロンおよびジンゲロール (ジンゲロンの還元型) を添加し, エネルギー消費に及ぼす影響を酸素消費量と呼吸商の面から検討した。添加前と比べた12時間の累積酸素消費量はショウガの2%添加によって高糖質食群で7%と有意に増加し, ラード食群でも増加傾向 (6%) を示した。その際, 呼吸商 (RQ) はショウガの添加によって高糖質食ならびにラード食群でともに有意に低下した。比較のために唐辛子を2%添加して調べたところ, ショウガ添加とほぼ同程度の酸素消費量の増加とRQの低下を認めた。ショウガの辛味成分であるジンゲロンの効果を調べると, 0.4%の添加によって, 高糖質食群では微増にすぎなかったが, ラード食群で著しく増加した。RQはジンゲロンの添加によって両食餌群ともに低下した。一方, 辛味のないジンゲロールを0.4%添加した場合には, 酸素消費量ならびにRQ値に有意な変化がみられなかった。しかし, ジンゲロンとジンゲロールを同時に添加すると, 酸素消費量は高糖質食群で34%, ラード食群で28%と有意に増加し, 両成分の相乗効果が観察された。RQも有意な低下をみた。以上の実験結果から, ショウガあるいはその辛味成分であるジンゲロンは酸素消費量を増加させ, かつ体内の脂肪の燃焼を盛んにすることによってエネルギーの消費を促進する作用を持つことが明らかになった。
著者
松本 万里 渡邊 智子 松本 信二 安井 明美
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.255-264, 2020 (Released:2020-12-26)
参考文献数
21

目的: 組成に基づく成分値を基礎とした食品のエネルギー値 (アミノ酸組成, 脂肪酸組成, 炭水化物組成などを用いたFAOが提唱する方法, 組成エネルギー値) と従来法によるエネルギー値の相違を明らかにすることを目的とした。方法: 日本食品標準成分表2015年版 (七訂) の収載食品を対象に可食部100 g当たりの組成エネルギー値を算出し, 既収載のエネルギー値 (既収載値) と比較した。さらに, 平成26年国民健康・栄養調査の食品別摂取量から, 組成エネルギー値および既収載値を用いてエネルギー摂取量を算出し, 両者を比較した。結果: 可食部100 g当たりの組成エネルギー値 (a) と既収載値 (b) との一致率 (a/b×100) は, 126±24% (藻類) から76±20% (野菜類) の範囲であった。一致率が100%未満の食品群は14群であり, 全食品の一致率は91±17%であった。一致率80‐100%の範囲に対象食品の68%が含まれ, 一致率60‐80%に対象食品の13%が, 一致率100‐120%に対象食品の12%が含まれていた。国民健康・栄養調査の食品別摂取量を基に, 組成エネルギー値を用いて算出した総エネルギー摂取量と, 既収載値を用いて算出した総エネルギー摂取量との一致率は, 92%であった。
著者
久米 大祐 喬 穎 中山 珠里 保川 清 島尻 佳典 伊東 昌章
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.15-20, 2021 (Released:2021-02-27)
参考文献数
13
被引用文献数
1

本研究では, シマグワ (Morus australis) 葉から製造したパウダーを配合したパン (シマグワパン) の血糖値上昇抑制効果を検証することを目的とした。実験1では, シマグワパンの機能性解析として, 1-デオキシノジリマイシン (1-DNJ) 含有量, α-アミラーゼ[3.2.1.1]およびマルターゼ[3.2.1.20]阻害活性を評価した。実験2では, 健常成人を対象として同パンの食後血糖値上昇に対する抑制効果を検証した。実験1の結果, 製パン時に1-DNJ含有量は減少するものの, シマグワパンには1-DNJが残存していることが示された。シマグワ葉パウダーにα-アミラーゼ阻害活性は認められなかった。シマグワパンは, シマグワ葉パウダーそのものよりもマルターゼに対する50%阻害濃度は高値を示すものの, マルターゼ阻害活性を保持していた。実験2の結果, シマグワパンを摂取した後は, 通常のパンを摂取した後よりも, 血糖値およびインスリン値の上昇が抑制された。本研究の結果から, シマグワパンの血糖値上昇抑制効果が明らかとなった。
著者
石見 百江 寺田 澄玲 砂原 緑 下岡 里英 嶋津 孝
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.159-165, 2003-06-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
13
被引用文献数
7 9

高糖質食ならびに高脂肪食 (ラード食) にショウガ粉末あるいはショウガの有効成分であるジンゲロンおよびジンゲロール (ジンゲロンの還元型) を添加し, エネルギー消費に及ぼす影響を酸素消費量と呼吸商の面から検討した。添加前と比べた12時間の累積酸素消費量はショウガの2%添加によって高糖質食群で7%と有意に増加し, ラード食群でも増加傾向 (6%) を示した。その際, 呼吸商 (RQ) はショウガの添加によって高糖質食ならびにラード食群でともに有意に低下した。比較のために唐辛子を2%添加して調べたところ, ショウガ添加とほぼ同程度の酸素消費量の増加とRQの低下を認めた。ショウガの辛味成分であるジンゲロンの効果を調べると, 0.4%の添加によって, 高糖質食群では微増にすぎなかったが, ラード食群で著しく増加した。RQはジンゲロンの添加によって両食餌群ともに低下した。一方, 辛味のないジンゲロールを0.4%添加した場合には, 酸素消費量ならびにRQ値に有意な変化がみられなかった。しかし, ジンゲロンとジンゲロールを同時に添加すると, 酸素消費量は高糖質食群で34%, ラード食群で28%と有意に増加し, 両成分の相乗効果が観察された。RQも有意な低下をみた。以上の実験結果から, ショウガあるいはその辛味成分であるジンゲロンは酸素消費量を増加させ, かつ体内の脂肪の燃焼を盛んにすることによってエネルギーの消費を促進する作用を持つことが明らかになった。
著者
北野 泰奈 本間 太郎 畠山 雄有 治部 祐里 川上 祐生 都築 毅 仲川 清隆 宮澤 陽夫
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.73-85, 2014 (Released:2014-04-21)
参考文献数
52
被引用文献数
26 26

日本人の食事 (日本食) は健康食として世界中に認知されている。しかし, 日本では食の欧米化が進行し, 現代日本食が本当に有益か疑わしい。そこで本研究では, 時代とともに変化した日本食の有益性を明らかにするため, 2005年, 1990年, 1975年, 1960年の日本食を調理・再現し, これをマウスに4週間与えたところ, 1975年日本食を与えたマウスで白色脂肪組織重量が減少した。肝臓のDNAマイクロアレイ解析より, 1975年日本食を与えたマウスは糖・脂質代謝に関する遺伝子発現が増加しており, 代謝の活性化が認められた。次に, 各日本食のPFCバランス (タンパク質・脂質・炭水化物のエネルギー比率) を精製飼料で再現し, 上記と同様な試験を行ったところ, 群間で白色脂肪組織重量に大きな差は認められなかった。以上より, 1975年頃の日本食は肥満発症リスクが低く, これは食事のPFCバランスに依存しないことが明らかとなった。
著者
門岡 幸男 小川 哲弘 高野 義彦 守屋 智博 酒井 史彦 西平 順 宮崎 忠昭 土田 隆 佐藤 匡央
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.79-83, 2019 (Released:2019-04-23)
参考文献数
19

Lactobacillus gasseri SBT2055株 (LG2055) の摂取による消化管を介した保健機能に関する研究を行った。内臓脂肪蓄積抑制作用については, はじめに, LG2055を含む高脂肪飼料を摂取したラットで腸間膜脂肪の脂肪細胞の肥大化が抑制されることを見出した。さらに, この知見を基にヒト介入試験を実施し, 有効性探索, 用量設定および最終製品での確認という一連の試験において, LG2055の摂取による内臓脂肪蓄積抑制作用を確認した。免疫調節作用については, マウスにおける小腸免疫グロブリンA産生促進作用およびインフルエンザウイルス感染防御作用を確認し, さらに, ヒト介入試験においてインフルエンザワクチン特異的抗体価およびナチュラルキラー細胞活性の亢進を確かめた。以上の成果の活用例として, 内臓脂肪蓄積低減作用に関する知見に基づいた特定保健用食品の許可取得および機能性表示食品としての届出があげられ, 実際の商品への保健機能表示が可能となった。
著者
三澤 江里子 田中 美順 阿部 文明 山内 恒治 齊藤 万里江 鍋島 かずみ
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.141-145, 2019 (Released:2019-08-22)
参考文献数
13

アロエベラ葉肉から機能性成分として同定した植物ステロール類 (以下, アロエステロール) について, 生体の恒常性維持に重要な役割を果たす皮膚機能に着目し, 経口摂取による効果を検討した。ヒト皮膚由来線維芽細胞をアロエステロール存在下で培養する in vitro 試験により, コラーゲンとヒアルロン酸の合成と産生が促進されることを明らかにした。また, in vivo での検討において, 紫外線による皮膚の水分量や弾力の低下が予防され, コラーゲン量の低下とマトリックスメタロプロテアーゼ (MMP) 過剰産生が抑制されたことから, ヒトでの効果を検証するため無作為化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験を行った。その結果, アロエステロール含有食品の12週間摂取が, 皮膚の保湿力を高めて肌の潤いを保つとともに, 真皮コラーゲンを増やして皮膚弾力性を維持することを確認した。細胞からヒトまでの試験結果から, アロエステロールが皮膚の健康の維持, 増進に役立つ機能性食品素材として有用であることが明らかとなった。
著者
佐藤 隆一郎
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.66, no.6, pp.279-285, 2013 (Released:2013-12-20)
参考文献数
37

脂質代謝異常に起因すると考えられる生活習慣病の予防, 改善に寄与する食品成分の探索を行った。脂質代謝制御において重要な働きをする生体内機能分子を定め, これら分子の機能, 活性を変動させ得る食品成分を, 分子細胞生物学的手法を駆使して樹立した評価系を用いて評価した。その際に機能分子として, 核内受容体, 転写因子, 受容体を設定し解析を行った。また, 入手可能な市販食品由来化合物を多数集めた食品成分ライブラリーを構築し, これらの活性を追跡した。結果として, 機能性食品化合物の作用点が標的分子を介したことを明確にする特徴を持つ。筆者らが見いだした機能性食品成分を列挙して解説した。
著者
藤澤 史子 灘本 知憲 伏木 亨
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.3-9, 2005-02-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
25
被引用文献数
14 17 1

漢方で身体を温める効果があるといわれているショウガについて, ヒトを対象としてショウガ摂取後の体表温を中心とし, 生理機能に及ぼす影響を検討した。その結果, ショウガ水摂取後は対照の水摂取後と比較して, 額の体表温が有意に上昇した (p<0.05)。ショウガ添加パン摂取後は対照のショウガ無添加パン摂取後と比較して, 額と手首の体表温が有意に上昇した (p<0.05)。すなわちショウガはパンへ添加することにより温熱効果はより顕著になった。なお, 官能検査の結果からは, ショウガ添加パンはショウガ無添加パンと比較して, 香り, 味, 食感, 総合評価に有意な差はみられず, パンとして好ましい評価を得た。これらの結果から, ショウガは実用的食材としての可能性が大きいことが示唆された。
著者
金子 一郎
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.3-7, 2020 (Released:2020-02-17)
参考文献数
18

これまで謎のベールに包まれていたリン代謝調節系は, その詳細が解明されるにつれ, 寿命や加齢に関して非常に重要な役割を演じていることが明らかにされた。特に老化抑制遺伝子Klothoの研究により, 「リンが老化を加速する」という概念が確立され, 線維芽細胞増殖因子 (FGF23) /Klotho/ビタミンD調節シグナルを介したリン代謝異常と各種疾患との関連が重要視されている。本研究では, 遺伝子改変動物や培養細胞を用いた基礎研究からFGF23/Klotho/ビタミンD調節シグナルが成長期から加齢におけるミネラル代謝の中核として機能していることを明らかにした。これらの研究成果は, 各種慢性疾患におけるビタミンDの栄養状態を維持することが老化を制御している可能性も示唆している。さらに, 現代高齢化社会で問題となる慢性腎臓病重症化予防や脳機能障害改善におけるリン・ビタミンD代謝を介する老化抑制機構の解明は, 栄養学的アプローチを可能とするために, より一層の健康長寿への応用が期待できるものと予想された。