著者
好田 裕史 淡路 友香子 内田 雅昭 永井 成美
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.243-250, 2018 (Released:2018-10-19)
参考文献数
21
被引用文献数
2

ウイスキーの香り刺激後の眠気感覚を体温や自律神経活動と共に評価することを目的とした。若年女性12名に, 異なる2日間の午前9時に, ウイスキー (8倍希釈) もしくはブランク (水) 10 mLを染み込ませた角綿をマスクに挟んで65分間連続で香りを負荷し, 主観的眠気・覚醒感覚, および深部 (鼓膜温) ・末梢 (足先) 体温, 自律神経活動 (心拍変動) を経時測定した。その結果, 1) 主観的な眠気スコア (絶対値) には両試行間で有意な差はみられなかった, 2) 深部体温は, ブランクでは負荷後65分まで緩やかに上昇を続けた (約0.05℃上昇) が, ウイスキー試行では負荷後30分まで上昇 (約0.15℃) した後低下する変化を示した。3) ウイスキー試行では, 負荷後の深部体温 (最大値からの低下量) と眠気スコア増加に有意な相関が認められた。本研究で用いたウイスキーの香りには, 深部体温を変化させる作用を有することが示唆された。主観的眠気に関しては, 評価方法を改善した検討が必要である。
著者
江崎 治 佐藤 眞一 窄野 昌信 三宅 吉博 三戸 夏子 梅澤 光政
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.123-158, 2006-04-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
209
被引用文献数
2 5

日本人のn-3系多価不飽和脂肪酸 (以下n-3系脂肪酸と略す) の摂取基準策定 (2005年版) に用いた論文をエビデンステーブル (表) として提示し, 策定の基本的な考え方を詳しく述べた。n-3系脂肪酸は一定量以下のある摂取量で皮膚炎, 成長障害が認められる必須脂肪酸であるので, 下限の設定 (最低必要量) が必要である。しかし, 報告症例が少なく, 一定量以下のある摂取量を求めることができないため, 摂取量の中央値で表される目安量を用いた。すなわち, 大部分の日本人では皮膚炎は認められていないので, 日本人の各年齢階層における男女別にみたn-3系脂肪酸摂取量の中央値を日本人の大多数で欠乏症状が認められない十分な量と考え, 目安量とした。このように安全幅が広めに設定されているため, 実際の摂取量が目安量より少なくても欠乏症状はあらわれないと思われる。n-3系脂肪酸を多く摂取すると, 虚血性心疾患罹患が少なくなることを示す欧米の報告は多い。しかし, 現在の日本人のn-3系脂肪酸摂取量の中央値は, 欧米人の検討成績の中で, 虚血性心疾患罹患率の最も低い, 最高分位のn-3系脂肪酸摂取量のグループの中央値よりも多い。このため, 日本人のn-3系脂肪酸摂取量の中央値程度を摂取していれば, 虚血性心疾患罹患率を十分低くできると考えられる。そこで, 18歳以上に対し, n-3系脂肪酸摂取量の中央値を, 目標量 (生活習慣病予防を目的とした食事摂取基準の一つ) の下限と設定した。設定された18歳以上の目標量は2.0-2.9g/day以上となる。この値は必須脂肪酸としての目安量と一致するため, 18歳以上については目標量のみの設定となっている。n-3系脂肪酸を多く摂取した場合の弊害についても検討した。出血時間の延長, LDL-コレステロール値の増加が多く報告されているが, 臨床的に問題となる出血例の増加は報告されていないし, 虚血性心疾患罹患率が増加したことを示す報告もない。このため, 今回の策定では, 目標量の上限値設定は行わなかった。しかしながら, 日本人のおもなn-3系脂肪酸摂取源である魚介類には, 水銀, カドニウムなどの重金属, ダイオキシン, PCBなどの環境汚染物質が微量ながら含まれる。食事摂取基準では, 有害物質の摂取量について取り扱っていないため, これらの影響については考慮されていない。この点を補完するために, 本稿では水銀摂取の影響についてエビデンスの収集を行い, 妊婦が魚を摂取する場合の注意点についても言及した。
著者
佐々木 敏
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.53-59, 2017 (Released:2017-04-27)
参考文献数
6
被引用文献数
2

『日本人の食事摂取基準』は, 厚生労働省から出されているガイドラインのひとつであり, 食事・栄養に関するわが国で唯一の包括的ガイドラインである。「日本人の食事摂取基準 (2015年版) 」は, 全344ページからなり, 巻末に添えられた2つの参考資料まで含めると440ページにも及ぶ。食事摂取基準は, 栄養と食事に関するわが国で唯一の包括的なガイドラインである。今回の改定では数値の変更は比較的に少ない。一方, ガイドラインとしての位置づけをより明確にし, 活用方法について特にその理論的視点が詳述されている点が特徴である。本稿では, 日本人の食事摂取基準 (2015年版) の概要を紹介するとともに, 食事摂取基準の学問的および実務的意義について, ガイドラインという観点から簡単な考察を加える。
著者
渡邉 純子 渡辺 満利子 山岡 和枝 安達 美佐 根本 明日香 丹後 俊郎
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.167-178, 2018 (Released:2018-08-21)
参考文献数
31

M市域中学生 (12-14歳, 1,625名) を対象に, 体格, 食事 (FFQW82) , ライフスタイル・心身の健康問題 (SPS) に関する横断調査を実施した。男子・女子ともエネルギー (E) 摂取量における朝昼夕の3食配分比は2 : 3 : 4で, 朝食摂取不足, 夕食摂取量多過が考えられた。食品群別 (E) 摂取量は肉類が魚介類の2倍以上と多く, 野菜類は対象の摂取目標値 (350 g/1日) に比べ少なかった。ライフスタイル (男子%, 女子%) では朝食に主菜 (34.3, 29.9) ・野菜 (25.1, 24.2) を食べる, 油の多い料理をとり過ぎない (34.9, 34.8) がそれぞれ半数に満たなかった。重回帰分析によりSPSスコア低値と男子・女子の食物繊維摂取量 (p=0.011, p<0.001) , 夜12時には熟睡 (p=0.006, p<0.001) , 睡眠6時間以上 (p<0.001, p=0.018) , 同高値と嗜好品類摂取量の多さ (p<0.001, p=0.001) が関連していた。中学生の食事摂取・ライフスタイルとSPSとの関連性が示唆された。
著者
緒方 幸代 藤田 孝輝 石神 博 原 耕三 寺田 厚 原 宏佳 藤森 勲 光岡 知足
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.317-323, 1993 (Released:2010-02-22)
参考文献数
26
被引用文献数
5 21 18

健常成人8名に4G-β-D-Galactosylsucrose (ラクトスクロース: LS) をはじめの1週間1g/日, 次いで1週間は2g/日, さらに, 2週後の1週間は3g/日を摂取させ, 少量LS摂取の腸内フローラおよび糞便の性状に及ぼす影響について検討した。その結果, LSの1g/日, 2g/日および3g/日の摂取のいずれにおいても, Bifidobacteriumが有意に増加し, C. perfringensを含むレシチナーゼ陽性ClostridiumおよびBacteroidaceaeの減少が認められた。糞便中のアンモニアおよび硫化物はLS 2g/日, 3g/日摂取で有意に減少した。糞便pHはLS 3g/摂取で低下し, 糞便重量および水分量はわずかな増加をした。以上の成績から, LSの最小有効摂取量は健康成人において1日当り1~2gと判断された。
著者
川端 輝江 兵庫 弘夏 萩原 千絵 松崎 聡子 新城 澄枝
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.161-168, 2008 (Released:2009-01-30)
参考文献数
27
被引用文献数
2 6

女子大学生25名を対象として,7日間の食事調査を実施し,積み上げ法によるトランス脂肪酸摂取量を計算した。さらに,そのうちの特定の1日を選び,調査者側で食事を再現した。得られた食事サンプルはフードカッターで細砕し均一化後,脂質およびトランス脂肪酸含有量を分析した。計算,あるいは実測から求められた総トランス脂肪酸摂取量の平均値(±標準偏差値)は,それぞれ,0.95±0.31 g,1.17±0.84 gであった。総トランス脂肪酸摂取量の分布は正の歪度を示し,はずれ値が1名(2.82 g),極値が2名(3.13 g,3.27 g)であった。若年女性のトランス脂肪酸摂取量はWHOの基準値であるエネルギー比率1%未満を下回っており,したがって,トランス脂肪酸摂取の血清脂質に対する影響は懸念されるものではないと考えられる。しかしながら,トランス脂肪酸を高濃度に含む加工食品を摂取することで,1日のトランス脂肪酸摂取量が予測の範囲より高くなる可能性のあることが明らかとなった。
著者
堀尾 拓之 大鶴 勝
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.299-305, 1995-08-10 (Released:2010-02-22)
参考文献数
24
被引用文献数
4 4

The effects of Maitake (Grifola frondosa) on blood glucose level in rats with streptozotocin-induced diabetes were investigated. Diabetic rats were produced by injecting 80mg/kg streptozotocin (STZ) into 2-day-old neonates. From the age of 9 weeks, the rats were given Maitake as a dietary admixture at 20% food weight for 180 days. Diabetic rats showed obvious diabetic symptoms such as hyperglycemia, hyperphagia, polydipsia, polyuria and glucosuria. The diabetic levels of blood glucose, water consumption, urine volume and glucosuria were significantly decreased in the rats fed Maitake. From these results, it may be considered that the bioactive substances present in Grifola frondosa ameliorate the symptoms of diabetes.
著者
藤沢 和恵 吉野 昌孝
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.494-497, 1995-12-10 (Released:2010-02-22)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

パン生地および発酵前後のイノシン酸, グルタミン酸を定量し, 両者の増減の機構とパンの旨味との関連を考察した。1) イノシン酸, グルタミン酸とも, パン生地として用いた小麦粉の中で強力粉に最も大量に含まれ, ついで中力粉, 薄力粉の順であった。2) 発酵によりパン中のイノシン酸は約2倍に増加する一方, グルタミン酸は1/2以下に減少した。3) パンの旨味物質としてはイノシン酸が発酵により増加しており, その蓄積はパン酵母のAMPデアミナーゼの高い活性とイノシン酸分解酵素 (5′-ヌクレオチダーゼ) の低い活性に起因すると結論された。
著者
江頭 祐嘉合 真田 宏夫
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.357-360, 2002-12-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
13

ラットに脂質を経口投与するとトリプトファンからナイアシンへの転換率が上昇した。その転換率に影響を与える脂質の構造を調べたところ, 炭素数18以上の多価 (一価) 不飽和脂肪酸が影響を与えた。トリプトファン・ナイアシン代謝経路の酵素活性を測定したところ, トリプトファン・ナイアシン代謝経路の鍵酵素α-amino-β-carboxymuconate-ε-semialdehyde decarboxylase [EC4.1.1.45] (ACMSD) の活性を多価不飽和脂肪酸が抑制したことを明らかにした。初代培養肝細胞の実験でも同様の現象が認められた。ACMSDの精製, cDNAのクローニングを行い, ウエスタンブロット分析, ノーザンブロット分析を行ったところ, 多価不飽和脂肪酸摂取によりACMSDの酵素量およびmRNA量が著しく減少し, 血清キノリン酸レベルが上昇することを明らかにした。脂質がトリプトファン代謝系の鍵酵素に転写レベルで影響を与える可能性が示唆された。
著者
鈴木 麻希子 山下 成実
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.115-120, 2019 (Released:2019-06-14)
参考文献数
21

近年, 加工食品は多様化し, その利用も増加しているため, 食品添加物として使用されている無機リンの過剰摂取が懸念されている。また, 無機リンの吸収率は有機リンよりも高いことが知られている。しかしながら, 国民健康・栄養調査では, そのリン量が考慮されている加工食品は一部に限られ, 無機リンとしての摂取量は不明である。そこで, 本研究においては, 加工食品における添加無機リンおよび総リンの定量を行った。小スケールの陰イオン交換カラムでも直線濃度勾配法により, オルトリン酸, ピロリン酸, トリポリリン酸を効率よく分離し, 90%以上回収することができた。測定した食品の中には, トリポリリン酸を含むものもあり, 総リン量に占める無機リンの割合が50%を超えるものが複数あった。また, 一般に, 食品のリン/たんぱく質比は15 mg/gとされているが, それを超えるものも複数見られた。これらの情報は慢性腎臓病患者にとって有用な情報となると考えられる。
著者
中川 恭 甲田 哲之 濱田 広一郎 菅谷 建作 斎藤 高雄
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.55-60, 2020 (Released:2020-04-15)
参考文献数
29

「乳酸菌B240」は, タイ北部の発酵茶ミヤンから単離された植物由来の乳酸桿菌である。B240は小腸のパイエル板から取り込まれ, 生菌と死菌ともに分泌型免疫グロブリンA (sIgA) の産生誘導活性を有する。基礎検討では, B240の経口投与により季節性及びパンデミックインフルエンザウイルス, 肺炎球菌やサルモネラに対する感染防御効果を認めた。さらにヒトにおいてはB240の経口摂取により唾液中sIgAの分泌が促進され, また用量依存的に風邪罹患割合を抑制することを実証した。一方, 我々は分岐鎖アミノ酸 (BCAA) の摂取による運動後の疲労感, 筋肉痛の軽減を認めており, またホエイプロテインを運動直後に摂取することで, 骨格筋量や筋力を増加させる効果を確認している。従ってB240とホエイプロテイン及びBCAAを組み合わせた食品は, アスリートだけでなく感染リスクの高い高齢者や受験生, ビジネスパーソンなど, 大切な時期に体調管理を心がけたい多くの生活者のコンディショニングフードとして貢献し得るものと期待される。
著者
林 あつみ 清水 真澄 七戸 和博 長谷場 健 木元 幸一
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.321-329, 1996 (Released:2010-02-22)
参考文献数
30

スナネズミの肝と胃における各クラスのADHアイソザイムの存在ならびにそれら組織におけるADH活性をマウス, ラット, モルモット等の超歯類と比較検討した。スナネズミは, 肝においては, 電気泳動により3本のADHバンド (A, B, C) が検出された。陰極側のバンドAは低濃度エタノールを基質とした場合に濃く染色され, 4-methylpyrazoleで強く阻害されたことから, クラスIと同定された。陽極側のバンドCはヘキセノールに対して強い活性を示し, エタノールを基質とした場合2.5Mまで活性が飽和せず, 4-methylpyrazoleにより阻害されないことより, クラスIIIと同定された。クラスとクラスIIIの間にみられたバンドBは, 肝に存在することおよびIとIIIの中間の酵素的性質を有することより, クラスIIと同定された。胃においても2本のバンド (D, E) が検出された。陰極側のバンドDは, 胃に特異的であること, エタノール1Mで最大活性を示したこと, また4-methylpyrazoleによる阻害感受性が肝のクラスI ADHより低いことより, クラスIVと同定された。陽極側のバンドEは肝のバンドCと同様の基質特異性および4-methylpyrazoleによる阻害感受性および移動度より, クラスIIIと同定された。以上のように, スナネズミのADHアイソザイムシステムは他の齧歯類と同様であった。スナネズミの肝におけるADH活性は, マウスやラットと同様, 15mMエタノールおよび5mMヘキセノールのいずれの基質でもモルモットより有意に高かった。一方, スナネズミの胃ADH活性はいずれの基質でもモルモットと同様, マウスおよびラットに比べ著しく低かった。また, 肝ADHはいずれの種においても, 15mM以上のエタノール濃度では活性の低下がみられたが, 胃ADH活性はマウスやラットにおいては逆に上昇し, 0.25M以上になると逆転し, 肝の活性より高くなった。このことは, 胃が摂取された高濃度のアルコールを代謝する場として重要であると考えられた。一方, スナネズミおよびモルモットにおける胃ADH活性は, 高濃度エタノールでも有意な活性の上昇はみられず, 低値のままであった。したがって, これらの動物種のアルコール代謝における胃の役割は小さいと考えられた。さらに, 動物種間における各ADHアイソザイム活性の相違は, とくに胃ADHのヘキセノールに対する活性で著しく, 各動物種の食性との関連が示唆された。
著者
斎藤 雅文 堀 由美子 中島 啓
出版者
日本栄養・食糧学会
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.69-75, 2013 (Released:2014-01-23)

人工甘味料の摂取が糖代謝に及ぼす影響を明らかにすることは,糖尿病患者や減量に関心のある人々にとって重要である。しかしわが国では人工甘味料に関する疫学研究が進んでおらず,その摂取状況の把握と評価は困難であり,適否を判断することが難しい。そこで我々は,国内外の文献検索データベースから人工甘味料と肥満や糖尿病に関する論文を抽出し,研究デザインごとに内容を整理することとした。観察研究では,人工甘味料入り飲料の飲用習慣が肥満や糖尿病の発症に影響すると報告されており,介入研究では,人工甘味料の負荷は糖代謝へ影響しないこと,ショ糖を人工甘味料に代替した食事は体重や糖代謝に影響しないことが報告されていた。これらは欧米人を対象としたものであり,結果についても一様ではなかった。今後は,人工甘味料に関するわが国でのエビデンスを蓄積するために,日本人での記述疫学や観察研究などによる情報の集積が求められる。
著者
土井 佳代 小島 尚 原田 昌興 堀口 佳哉
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.15-22, 1994-02-10 (Released:2010-02-22)
参考文献数
20
被引用文献数
3 3

1%コレステロール添加飼料 (Ch) に乾燥桑葉 (ML) およびその熱水抽出物 (ME) をさらに配合した飼料 (ML・Ch, ME・Ch) をウサギに12~16週間与え, 血清脂質に及ぼす影響について検討した。実験期間中2週間ごとに採血し, 総コレステロール (TC) 等の血清脂質成分を測定し, 実験終了時には剖検および病理組織学的検討を行った。1) Ch食による血清TCの増加は, 10週間で2, 500mg/dlに及んだのに対して, ML・Ch食によるTCの増加は抑制された。とくに2.5%添加したML・Ch群では最大値1, 500mg/dlを示したに過ぎず, 有意に増加が抑制された。FC, PL, TGなどの血清脂質成分も同様の傾向を示した。2) 16週間の摂食後の剖検において, 肝臓の肥大・脂肪沈着はML・Ch群で軽減することが認められた。10%MLのみを添加した飼料を与えた動物は, 通常飼料群との間に差を認めなかった。3) 4週間Ch食で飼育し, 各群のTCが約1, 300mg/dlに増加したのをみてML・Chに切り換えて飼育すると, TCをはじめとする血清脂質成分の増加は抑制された。また, ME・Ch群においても, 増加は抑制された。4) 3) の肝臓病理組織学所見において, 肝細胞の腫大・脂肪沈着等はCh群で顕著であったのに対して, ML・Ch食群とME・Ch食群では微弱傾向を示した。胸部大動脈の病理組織学所見において, Ch群で顕著にみられた血管内膜の肥厚は, ML・Ch群では抑制された。以上の結果より, 桑葉には高コレステロール食により高脂肪血症を呈したウサギの血清脂質増加を抑制し, 脂肪肝を軽減する効果を有することを認めた。また, この効果は桑葉の熱水抽出物でも認めたが, 有効成分は非抽出画分にも存在すると思われる。
著者
井手 隆
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.105-110, 2002-04-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

食品成分が肝臓脂肪酸酸化と合成系に与える影響をラットで系統的に追究した。大豆リン脂質は肝臓のトリグリセリド合成を著減させる。この低下は脂肪酸合成低下が主要因となり引き起こされることを明らかとした。卵黄やサフラワー種子リン脂質も同様な生理作用をもつことを示し, また脂肪酸合成低下は脂肪酸合成系酵素の遺伝子発現の変化によることも明確にした。α-リノレン酸の血清脂質濃度低下作用の発現機構に関連し, ミトコンドリアとペルオキシゾームの脂肪酸酸化系酵素の基質特異性とα-リノレン酸摂取によるβ酸化系酵素活性と遺伝子発現増加が, 大きな役割を果たすことを明確にした。ゴマに含まれるリグナンであるセサミンの血清脂質低下作用発現機構に関し, セサミンが強力な肝臓β酸化酵素の活性上昇と遺伝子発現誘導作用をもつことを示した。また, セサミンは脂肪酸合成系酵素遺伝子発現を低下させ, この低下に転写因子ステロール調節エレメント結合タンパク質-1 (SREBP-1) 遺伝子発現低下とその活性化抑制が関与することを示した。
著者
中埜 拓 村上 雄二 佐藤 則文 川上 浩 井戸田 正 中島 一郎
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.37-42, 1995-02-10 (Released:2010-02-22)
参考文献数
22

カゼイン組成がカード形成状態や消化性に及ぼす影響を調べた。ウシα-カゼインに酸を添加すると粗大なカードが形成されたが, ウシβ-カゼインならびに人乳カゼインではカードが微細であった。乳児の消化管内を想定したpH 4.0のペプシン分解およびそれに引き続くパンクレアチン分解を行うと, ウシβ-カゼインがウシα-カゼインに比べ速やかに消化された。ラットによる消化試験では, ウシβ-カゼインがウシ全カゼインに比べ分解されやすく, 胃内滞留時間が短かった。以上のことから, カードはβ-カゼインのように微細であるほど, 消化されやすいこと, また胃から速やかに小腸に移行することが示唆された。
著者
荒木 理沙 藤江 敬子 中田 由夫 鈴木 浩明 松井 幸一 植松 勝太郎 柴﨑 博行 安藤 貴彦 植山 ゆかり 礒田 博子 橋本 幸一
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.121-131, 2018 (Released:2018-06-15)
参考文献数
28
被引用文献数
3 4

オリーブは, 果実だけでなく, 葉にもオレウロペイン等のポリフェノールを豊富に含んでいる。この点に着目し, オリーブ葉茶が生産されているが, ヒトにおけるオリーブ葉茶の機能性は明らかになっていない。そこで, 血清LDL-コレステロール (LDL-C) 濃度が境界域または軽度高値の40‐70歳非糖尿病男女を対象とし, 試験飲料としてオリーブ葉茶と緑茶を用いたランダム化2群並行群間比較試験を実施した。12週間の介入によって, オリーブ葉茶群でのみ, 体重 (p<0.05) と腹囲 (p<0.01) が有意に減少した。このことから, オリーブ葉茶が緑茶に比べて体重や腹囲の減少に有効となる可能性が示唆され, オリーブ葉に特有のポリフェノール等の機能性成分の関与が考えられた。なお, オリーブ葉茶群ではLDL-C濃度の低下傾向 (p=0.054) がみられたが, 明確な糖・脂質代謝改善効果を認めるには至らなかった。オリーブ葉茶がヒトの健康に及ぼす影響について, 今後さらに検討すべきと考えられた。
著者
伊藤 千夏 小泉 暁子 田中 絵里香 金子 佳代子
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.221-227, 2006-08-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
26
被引用文献数
9 3

9歳から22歳までの男女3468名の骨量を超音波法により測定し, 骨量の年齢別推移および骨量と身長, 体重, BMI, 除脂肪量, 体脂肪率との関連を検討した。骨量は乾式踵骨超音波骨評価装置 (ALOKA 社AOS-100) を用い, 超音波伝播速度 (SOS) と透過指標 (TI) を測定して音響的骨評価値 (osteo sono-assessment index 以下OSIとする) を算出し骨量に相当する指標とした。OSIは9歳から14歳までは男女間に差はなく年齢とともに増加し, 15歳以降は男子の方が女子よりも有意に高値を示した。女子では初経発来者は未発来者に比べてOSIが有意に高値を示していた。年齢を4区分 (9-12歳, 13-15歳, 16-18歳, 19-22歳) にわけ, OSIと身長, 体重, BMI, LBM, 体脂肪率との相関を検討したところ, 女子ではすべての年齢区分で, OSIと体重, BMI, LBM, 体脂肪率との間に, 有意な正の相関関係が認められたが, 男子の19-22歳では, OSIと身長, 体重などの身体組成とは相関が認められなかった。
著者
森藤 雅史 伊藤 恭子 市川 聡美 大庭 知慧 北出 晶美
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.19-22, 2022 (Released:2022-02-23)
参考文献数
12

皮膚は, 水分の喪失を防ぐ, 微生物や物理化学的な刺激から生体を守るなど, 生命を維持するためになくてはならない様々な機能をもっている。それゆえ, 常に皮膚機能を高めておくことが必要であり, その方法として日々の食生活の改善や機能性を有する食品素材の継続的な摂取が効果的である。我々は, 様々な食品素材の中から, 「SC-2乳酸菌」「コラーゲンペプチド」「スフィンゴミエリン」の3成分に着目し, 吸収動態, 有効性評価, メカニズム解析をすすめた。また, これら3成分を配合した新たな食品を開発した。臨床試験において, 3成分を配合した被験食品を摂取することにより, 対照食品を摂取したときと比べ, 紫外線刺激から肌を保護するのを助けること, 肌の潤いを保ち, 肌の乾燥を緩和することが示された。本技術により, 食べることによって人において皮膚機能を高めることが可能となり, 人々の健康の維持・増進に貢献できると考える。