著者
池上 幸江 山田 和彦 池本 真二 倉田 澄子 清水 俊雄 藤澤 由美子 由田 克士 和田 政裕 坂本 元子
出版者
日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 : Nippon eiy◆U014D◆ shokury◆U014D◆ gakkaishi = Journal of Japanese Society of Nutrition and Food Science (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.285-302, 2008-12-10
被引用文献数
3 7

食品成分表示・栄養教育検討委員会ではこれまで栄養成分表示に関する調査を行い,報告書として発表し,また栄養成分表示や健康強調表示に関するシンポジウムなどを開催してきた。前期の委員会では栄養成分表示と健康強調表示に関する意識調査を多様な対象者について行った。今期はこの調査結果を以前の調査と比較しながら,報告書としてまとめることとした。また,今後は新たな調査も加えて,栄養教育の観点から栄養成分表示や健康強調表示のあり方について,一定の見解をまとめた。本調査では,栄養成分表示,健康強調表示については,特定保健用食品や栄養機能食品,「いわゆる健康食品」について,認知,利用,情報源などについて調査した。その結果,<br>(1) 栄養成分表示は広く見られており,健康維持や増進のために利用されている。しかし,現状の表示は分かりにくく,また対象食品が限られていることから,消費者は改善を望んでいる。これらの結果は前回調査と同様であった。<br>(2) 特定保健用食品の認知度はきわめて高く,利用もされていた。とくに若い世代,学生での認知や利用が高いが,高齢者や生活雑誌読者での利用は低かった。他方,関心のある保健の用途は「体に脂肪が付きにくい」や「お腹の調子を整える」,「腸内環境を整える」などであった。しかし,保健の用途の関心と成分の関連には十分な認識がなく,消費者への情報提供が十分ではないと思われた。<br>(3) 栄養機能食品に対する認知や利用は特定保健用食品に比べると低かったが,世代間の傾向は(2)の特定保健用食品と同様であった。<br>(4)「いわゆる健康食品」の利用については特定保健用食品の利用とは異なる傾向を示した。すなわち年齢階層による差異が少なく,高齢者による利用も高く,特定保健用食品とは異なっていた。<br> 「いわゆる健康食品」に関する情報源はテレビや知人・友人からのものが多く,科学的な根拠の入手が困難な状況にあることを反映している。今後「いわゆる健康食品」の有用性や安全性の確保についてどのような制度を作るかが課題と思われる。
著者
森 強士 西川 泰 高田 曜子 樫内 賀子 石原 伸浩
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.197-203, 2001-08-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
24
被引用文献数
3 3

ブラジルで民間療法として用いられているインスリーナは, 糖尿病や高血圧症に効果があるといわれている。そこでインスリーナの抗糖尿病作用を評価するための試験を行った。in vitro の試験として, マルターゼ, α-アミラーゼおよびα-グルコシダーゼ活性の阻害能を調べ, in vivo の試験として, 自然発症糖尿病マウスに対する連続摂取での作用と正常ラットおよびストレプトゾトシン (STZ) 誘発糖尿病ラットに対する血糖値上昇への影響を調べた。その結果, インスリーナはマルターゼおよびα-グルコシダーゼに阻害活性を示した。また, 4週間連続摂取後の自然発症糖尿病マウスの随時血糖値を有意 (p<0.001) に低下させた。正常ラットおよびSTZラットの糖負荷後の血糖値への影響は, 正常ラットショ糖負荷後30分値で有意 (p<0.01) に血糖上昇を抑制し, STZラットショ糖負荷後60分値で有意 (p<0.05) に抑制した。これらの結果から, インスリーナ葉は糖尿病の予防に有効であることが予想された。
著者
山田 千佳子 岩崎 泰史 吉田 企世子
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 : Nippon eiyo shokuryo gakkaishi = Journal of Japanese Society of Nutrition and Food Science (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.167-173, 2003-06-10
被引用文献数
4 6

ホウレンソウ7品種 (パレード, 豊葉, 次郎丸, オーライ, おかめ, オリオン, オラクル) を栽培時期 (秋播き) および施肥を同一条件で栽培し, 還元糖, アスコルビン酸, シュウ酸, 硝酸の違いについて比較した。収穫は, 播種後41日目 (すべての品種), 48日目 (豊葉, 次郎丸, オーライ), 60日目 (オラクル, おかめ, オリオン) である。生育の早いパレードはアスコルビン酸, 還元糖の含有量が少なかった。豊葉, 次郎丸, オーライは生育途上から収穫適期までの生育でアスコルビン酸が増加したが, 豊葉は硝酸含量も増加した。オラクル, おかめ, オリオンは生育途上でもアスコルビン酸含量は多かったが, 収穫適期まで生育させても成分は増加しなかった。
著者
河合 美香
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 : Nippon eiy◆U014D◆ shokury◆U014D◆ gakkaishi = Journal of Japanese Society of Nutrition and Food Science (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.361-365, 2002-12-10
被引用文献数
1 2

一流競技者は, 科学的なトレーニングに加え, 栄養面 (食事の量・質などの内容や摂取タイミング) にも気を配るようになっている。また, 選手の身体組成, 体力, 疲労からの回復, トレーニングや食事に対する代謝的応答, 食事の摂取パターン, 嗜好などに個人差があり, これらは同一個人であっても日々変化している。2000年シドニーオリンピック女子マラソンで金メダルを獲得した高橋尚子選手は, 競技を開始した当初, 栄養に対して興味や関心はなく, 食欲や気分に任せて食事を摂ることの多い選手であった。しかし, マラソンのトレーニングを実施する上で, 食事に対して興味・関心をもつようになり, これに伴って意識が変わってきている。それまで提供される食事を摂っていたのが, 自分自身の体調やトレーニングに合わせて摂る成分を考え, 選択するようになった。また, 同選手の指導者も食事の内容について配慮している。トレーニングの効果を高めるために栄養のサポートをする場合, 選手の様々な環境や段階を熟慮する必要がある。
著者
中川 靖枝 岡松 洋 藤井 康弘
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.95-101, 1990
被引用文献数
8 17

ポリデキストロースR (PD) は人の消化酵素により加水分解を受けることの少ない水溶性多糖の一種である。PDの生理作用を調べる目的で青年期女性ボランティア22名にPDを5~10g摂取させ, 排便回数ならびに便通感に及ぼす影響を検討した。試験はラテン方格による交差試験法に準じて実施した。被験者のPD摂取を容易にするためPDは飲料の形態とし, PDをそれぞれ0, 5, 7, 10g/100ml含む飲料を調製した。被験者は同一種類の飲料を毎日1本ずつ5日間連続摂取し, それを4種類の飲料について繰返し行った。試験期間を通し, PD摂取量を除く食物繊維摂取量は8.0gから8.8gまでの値であり, 各試験期間の摂取量に差は認められなかった。PD摂取量の増加に伴い便が柔らかくなり, PD 7gあるいは10g摂取期間時の便の硬度はPD無摂取時に比べ危険率5%で有意に高値を示した。便の硬度はPD摂取量と有意に負の相関 (r=-0.387) を示した。しかし, 便の硬度以外の便通感と排便回数には影響を与えなかった。以上の結果ならびに考察はPDが排便に対する食物繊維様の作用を有していることを示唆した。
著者
中島 健一朗
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.105-110, 2023 (Released:2023-04-21)
参考文献数
21
被引用文献数
1

ヒトを含め動物が生きていくうえで, 食欲は最も重要な本能の1つである。脳は食欲調節の中心的な役割を担い, その破綻は過食や食欲不振を引き起こす。これは最終的に肥満やサルコペニアにつながるため, 食欲をコントロールしつつ適切な食物 (栄養素) を摂ることが, 健康維持および未病状態の改善に非常に重要となる。食欲の特徴は全身のエネルギーを一定に保つ摂食 (恒常性の摂食) と食の美味しさを追求する摂食 (嗜好性の摂食) に分類できる点である。また, これらの性質は食物の機能という点から見ると, 脳が栄養, 感覚, 機能性成分を感知し, 評価・選択して摂取する仕組みと言える。近年, 脳内の摂食調節の複雑なネットワークが次々に明らかになってきたが, 本項では代表的な仕組みと今後の課題を紹介する。
著者
小田 裕昭
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.331-342, 2023 (Released:2023-12-22)
参考文献数
71

栄養学は主に「何をどれだけ食べるか」について研究を行ってきた。一方, 栄養が充足される以前から人間の知恵として「規則正しい食生活は健康に秘訣だ」と考えられてきた。体のすべての細胞がその時計システムを備えており, 時計遺伝子による生物時計の制御機構が明らかとなった。さらに体内時計が食事により同調を受けることがわかり, 食事のタイミングは, 多くの代謝リズムを制御している。そして, 不規則な食生活をすると, 脂質代謝異常を誘発して, 肥満やメタボリックシンドロームなどに結びつくことがわかった。食事のタイミングによって形成される体内時計は個人の「体質」である。概日リズムをはじめとするさまざまな生体リズムの総体をリズモーム (rhythmome) としてとらえると, 健康を維持するため個人化対応した栄養学 (「プレシジョン栄養学」) の基盤データとしてとらえることが可能になる。時間栄養学を考えることにより, メタボリックシンドロームや生活習慣病, ロコモティブシンドロームを予防することが期待できる。
著者
芳賀 めぐみ 坂田 隆
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.213-220, 2007-08-10 (Released:2009-01-30)
参考文献数
15
被引用文献数
5 5

食塩摂取量推定法として全尿採取による尿中ナトリウム排泄量の推定法がある。この方法の大前提は正確な24時間尿量の把握である。そこで, 3-5歳児の蓄尿方法の検討および24時間尿量の推定を試みた。宮城県内の3歳から5歳の健常幼児を対象に早朝尿の採取と24時間尿の採取とを2003年と2005年に計4回実施した。分析対象は, 4回の蓄尿方法において採尿記録により, 取りこぼしがなかったと判断された対象者242名 (52.8%) のうち, 著しく体調を崩していた児および基礎データの欠損があった児5名を除いた237名とした。性別と測定回を要因とした2元の分散分析を行ったところ, 早朝尿, 24時間尿, 身長あたりの尿量等のすべての項目について, 交互作用も性の効果も有意ではなかった。いずれも2003年の値よりも2005年の値のほうが有意に大であった。24時間尿量の変動係数は, 2003年調査では42%, 2005年調査では35%であった。24時間尿量と早朝尿量との相関係数は, 2003年調査ではr=0.54, 2005年調査ではr=0.60で, ともに有意な相関はあったが, 相関係数は必ずしも高くなかった。2005年度の調査において得られた24時間尿量を目的変数として体重, 身長, 体表面積および除脂肪体重との間には有意な相関は認められたが, いずれも相関係数はr=0.26であった。今回対象とした3-5歳児の尿量は, 早朝尿量165 (mL/日), 24時間尿量533 (mL/日), 身長あたりの尿量518 (mL/m) と考えてよい。
著者
小林 義典 長谷川 亮平 五十川 みさき
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.265-271, 2008 (Released:2009-01-30)
参考文献数
16
被引用文献数
2 2

新潟の伝統野菜“かきのもと”は,食用菊Chrysanthemum morifolium Ramat. forma esculentum Makinoの一種である。本研究では,食用菊の消化管運動および消化吸収に及ぼす影響を検討することを目的とした。食用菊“かきのもと”花弁の熱水抽出物を油脂・ショ糖混合溶液に10 w/v%添加し,マウスに経口投与したところ,消化管内容物の胃滞留時間の短縮,消化管移行の亢進,トリグリセライドの吸収抑制および血糖値上昇の抑制が認められた。次に,ラット小腸由来α-グルコシダーゼへの影響を検討したところ,食用菊花弁熱水抽出物は強い阻害活性を示し,スクラーゼ,マルターゼに対する50%阻害濃度は,それぞれ34.6,20.0 mg/mLであった。また,ヒトにおける50 gショ糖負荷試験(11名)において,食用菊“かきのもと”凍結乾燥粉末10 w/v%添加したショ糖溶液では,負荷後15分および30分での血糖値上昇の抑制,および負荷後から60分までの血糖値変化量の曲線下面積(ΔAUC)の積分値の減少を認めた。以上の結果から,食用菊“かきのもと”が血糖値上昇抑制作用を有する機能性食品素材として有望であることが示唆された。
著者
餅 康樹 角田 伸代 柴 祥子 村木 悦子 加園 恵三
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.69-77, 2010 (Released:2010-06-02)
参考文献数
27
被引用文献数
1

魚油のウェイトリバウンドに及ぼす影響について検討を行った。KK-Ayマウスを用い, 増量期・減量期・リバウンド期を再現した。脂質源として牛脂 (B食) または魚油 (F食) を含有した2種の高脂肪食を作成した。増量期はすべてB食を与え, B食で減量しB食でリバウンドした群をB-B群, 同様にB-F群, F-B群, F-F群およびB食をアドリブにて全期間摂取させた群 (Control群) を設けた。リバウンド後の体重は, B-B, F-B群に比べ, B-F, F-F群でそれぞれ減少した。肝臓重量および肝臓中脂質量は, Control群と比べ, B-B, F-B群では増加したが, B-F, F-F群では減少した。またB-B, F-B群と比べ, B-F, F-F群では肝臓のSREBP-1c, FAS mRNA量が低下し, PPAR-α, HSL mRNA量およびMTPタンパク質量が増加した。以上より, リバウンド期の魚油摂取は, 体重増加と肝臓への脂肪蓄積を抑制することが示唆された。肝臓での脂肪蓄積抑制の機序として, 肝臓での脂肪酸合成の抑制, 脂肪分解や脂肪酸酸化の亢進および肝臓からのリポタンパク質分泌の正常化が関与すると推察された。
著者
山下 かなへ
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.155-163, 2009 (Released:2009-10-28)
参考文献数
29
被引用文献数
1 2

ゴマとビタミンEは, ともに老化抑制効果をもつ物質として古くから認識されてきた。ところが, ゴマに含まれるビタミンEの98%は, ビタミンE活性の低いγ-トコフェロール (γ-Toc) である。筆者らは, ゴマとしてγ-Tocを摂取するとγ-Toc単独摂取では認められない高い生体内γ-Toc濃度を観察した。そして, ゴマの特徴的成分であるゴマリグナンがビタミンEの主要代謝物であるカルボキシエチルヒドロキシクロマン (CEHC) への分解を阻害することを認めた。この作用はゴマリグナンに特異な作用で, 他のリグナン物質, たとえばflaxseedやエゾ松に含まれるリグナン物質では認められなかった。また, 筆者らは, トコトリエノールが血漿や肝臓に比べ, 皮膚や脂肪組織に特に多量に貯留することを認め, ゴマリグナンがこれら組織のトコトリエノール濃度を増加させることを見出した。そして, ヘアレスマウスに紫外線を照射した実験で, 皮膚に貯留したトコトリエノールが紫外線照射による皮膚障害を軽減させる可能性を認めた。
著者
寺本 哲子 沖 直子 草野 崇一
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.17-21, 2005-02-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
12
被引用文献数
3 3

マテ (Ilex paraguariensis) 葉は, 南米で古くから茶として飲まれてきたが, 糖代謝についての報告はない。我々は, 種々の食用植物について二糖類分解酵素阻害活性を指標としたスクリーニングを行ったところ, マテ葉熱水抽出物 (マテHE) に顕著な糖質分解阻害作用のあることを見出した。マルトース, スクロース, デンプンを基質とした場合, それぞれのIC50値は0.11, 0.49, 0.60mg/mLであった。また, 正常ラットへの経口糖負荷試験の結果, 血糖上昇抑制作用を示した。これらのことから, マテには糖質分解酵素阻害に基づく, 糖質消化吸収阻害作用のあることが示唆された。
著者
竹林 純 鈴木 一平 千葉 剛
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.15-20, 2023 (Released:2023-02-22)
参考文献数
13

2015年から熱量とたんぱく質・脂質・炭水化物・食塩相当量の栄養成分表示が加工食品に義務付けられている。栄養成分表示値は, 食品表示基準で定められた分析方法 (表示分析法) による分析値を原則とするが, 日本食品標準成分表 (成分表) の収載値等の合理的根拠に基づいた計算値も認められている。消費者が栄養成分表示を比較して自らに適した食品を選択できるように, 計算値は, 表示分析法による分析値と可能な限り近しい値であることが望ましい。成分表2020年版 (八訂) では, 成分表2015年版 (七訂) から熱量計算方法が変更され, 複数の項目が併記されている栄養成分も多い。そこで本稿では, 表示分析法と成分表2020の分析方法を比較し, 成分表2020を栄養成分表示に用いる場合の適切な参照方法について考察した。
著者
比良 徹
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.215-220, 2012 (Released:2012-10-26)
参考文献数
24

本研究では,腸上皮に散在する消化管内分泌細胞が,管腔内の栄養素を認識して消化管ホルモンを分泌する機構の解明と,食品ペプチドによる消化管ホルモン分泌を介した食欲抑制,血糖上昇抑制の確立を目的とした。膵酵素分泌,満腹感誘導等の作用を持つコレシストキニン(CCK)の分泌機構に関して,カルシウム感知受容体が,フェニルアラニンや各種食品ペプチドの受容体としてCCK分泌に関与することを見いだした。トウモロコシ由来のペプチドが,グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の分泌を促進し,さらに血中ジペプチヂルペプチダーゼ-IV活性を低下させることで,GLP-1の作用を高めて,血糖上昇が抑制されることをラットにおいて示した。これらの研究成果は,消化管での栄養素認識機構の一部を明らかにし,食品成分による消化管ホルモン分泌コントロールを介した,メタボリック症候群の予防,病態改善へ応用しうるものと考えられる。
著者
ジャン ムンソン 森 郁恵
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.111-117, 2023 (Released:2023-04-21)
参考文献数
34

脳神経系は, 感覚, 思考, 学習, 感情, 行動などの私たちの日々の生活に重要な生命現象を制御している。脳の仕組みを解明するため, 多種多様な研究が世界中で行われているが, 近年, 腸など他の組織が脳機能に影響しているという新たな知見が得られはじめている。線虫Caenorhabditis elegansは, マウスやサルなどの哺乳動物の複雑な脳とは異なり, 際立って少数の神経細胞からなる脳を持ち, この線虫を用いることで, シングルセルレベルの解像度で脳の情報処理の全体像を研究することが可能である。これまでに, 線虫は化学物質や温度などのさまざまな刺激に走性を示すことがわかっているが, その走性行動は摂食状態, すなわち広い意味での栄養状態に依存して変化することも知られている。つまり, 線虫は, エサの有無といった栄養状態と刺激を連合学習し行動に反映することができる。学習により生成された行動にはRAS/MAPK経路やTOR, インスリン, モノアミンシグナル伝達など, ヒトまで進化的に保存された重要な分子が働いている。本稿では, 線虫の脳神経系が栄養状態に依存して行動可塑性を制御するメカニズムに関する遺伝学的知見を概説し, 記憶学習に関与する分子機構と, 感覚応答及び内部状態による行動制御機構について紹介する。
著者
松本 元伸 小谷 麻由美 藤田 晃人 田中 敏郎
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.3-7, 2001-02-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
8
被引用文献数
4 5

われわれは, 柿葉抽出物が好塩基球細胞からのヒスタミン遊離を抑制することを以前に報告した。本報文において, われわれはアトピー性皮膚炎モデルマウス, NC/Ngaを用いて皮膚炎発症に対する柿葉抽出物の影響をみた。皮膚症状が発現した後, NC/Ngaマウスにコントロール食またはコントロール+柿葉抽出物を4週間経口摂取させた。皮膚症状が進展した後, 血清IgE値, 引っ掻き行動を測定した。また, 甜茶と青しそ, 柿葉抽出物によるPCA抑制力価を動物モデルで検討した。柿葉抽出物投与により, アトピー性皮膚炎モデルマウスNC/Ngaマウスの皮膚炎および痒みの軽減, 血清IgE値の抑制を認めた。また, 甜茶と青しそ, 柿葉抽出物によるPCA抑制力価を動物モデルで検討したところ, 柿葉抽出物投与群で濃度依存的に耳介浮腫の抑制がみられた。これらの結果は柿葉抽出物が抗アレルギー作用を有することを示唆するものである。
著者
前田 有美恵 石川 雅章 山本 政利 寺田 志保子 増井 俊夫 渡辺 佳一郎
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.447-450, 1985-12-10 (Released:2010-02-22)
参考文献数
16
被引用文献数
5 4

イワシについて焼く, 煮るめ調理を行なった場合のイワシ中の不飽和脂肪酵の安定性を明らかにするために, 脂肪酸組成およびEPA, DHA含有量の変化を検討した。またイワシ中の脂肪酸とEPA食品のそれとを比較し, 次の知見を得た。1) イワシ中のEPA, DHAをはじめとする不飽和脂肪酸は, 焼く, 煮るの加熱調理を行なっても安定で脂肪酸組成は変化しなかった。2) 生魚に比べ焼魚はEPAが17%, DHAが15%減少したが, これは脂質の減少 (20%) にほぼ比例していた。また煮魚ではEPAおよびDHAはほとんど減少しなかった。すなわち, 焼魚, 煮魚ともに調理によるEPAおよびDHAの極だった損失はないことが明らかになった。3) イワシ (11月) は可食部1g当たりEPAを24.9mg, DHAを31.7mg含有していた。同量のEPAおよびDHAを摂取するのにEPA食品ではイワシの12~36倍も高価であった。こうしたことより安全性, 経済性および栄養の面を考慮すると, EPAおよびDHAの摂取にはEPA食品よりもイワシを活用するほうが望ましい。
著者
本窪田 直子 駒居 南保 鈴木 麻希 林 育代 森谷 敏夫 永井 成美
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.65-74, 2016 (Released:2016-04-15)
参考文献数
36
被引用文献数
4 3

生体リズム位相には個人差があり, 日中に活動しやすい朝型と夕方から夜間に活動しやすい夜型があることが知られている。そこで, “朝型と夜型では体内時計支配下にある自律神経活動や胃運動・食欲感覚の日中の変動が異なる”という仮説を立て, 実験による検証を行った。前夜22時より絶食した若年女性34名の胃電図, 心電図 (心臓自律神経活動) , 食欲感覚, 眠気, 深部体温 (耳内温) を8-20時まで1時間毎に測定した。食事と間食は定時に供した。全測定後に朝型-夜型を質問紙によりスコア化し, 中央値以上を朝型傾向群, 未満を夜型傾向群として結果を比較した。夜型傾向群は朝型傾向群と比べて, 終日, 交感神経活動優位の自律神経活動と高い心拍数, 眠気スコアが示された。また, 午前中の空腹感スコアが低く, 食後胃運動の周波数シフトに有意な上昇を認めなかった。本結果より, 午前中の食欲や活動が減弱しやすい夜型傾向群の特徴が示唆された。
著者
樫村 淳 原 喬 中島 良和
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.117-122, 1993 (Released:2010-02-22)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

パラチノースオリゴ糖 (以下IBOと略す) 摂取がヒトの糞便中の腸内腐敗産物 (インドール, スカトール, p-クレゾール, フェノール), アンモニア, 有機酸 (コハク酸, 乳酸, ギ酸, 酢酸, プロピオン酸, イソ酪酸, 酪酸, イソ吉草酸, 吉草酸) 含量およびpH, 腸内フローラ, 発がんに関係すると注目されているβ-グルコシダーゼ, β-グルクロニターゼ活性に及ぼす影響について検討した。健康なボランティア7名にパラチノースオリゴ糖を1日20g摂取させた。試験期間は20日間で最初の10日間をコントロール期, 次の10日間を摂取期間とした。食事はすべてのボランティアにコントロール期の10日間と摂取期10日間同しメニューを摂取させ, その量については各ボランティアごとに各期で同量とした。各期間の5日目と7日目に新鮮便を回収し, それぞれ測定した。IBO摂取により, アンモニアと腸内腐敗産物のインドール, p-クレゾールが, 統計的に有意ではなかったが減少し, とくに便秘症のボランティアには顕著であった。また有機酸は乳酸, 酢酸, ギ酸が有意に増加した。腸内フローラはBifidobacteriumが有意に増加する一方, Bacteroidaceaeが有意に減少した。また腸内腐敗菌として知られるウェルシュ菌 (Clostridium perfringens) がIBO摂取により検出されなくなった。またpHはIBO摂取により有意に低下した。β-グルクロニダーゼ活性には著しい変化は認められなかったが, β-グルコシダーゼ活性はIBO摂取により有意に上昇した。
著者
米代 武司
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.297-304, 2022 (Released:2022-12-22)
参考文献数
37

褐色脂肪組織 (BAT) は寒冷刺激に応じて活性化して熱産生を行い, 体温と体脂肪量の調節に寄与する。ヒトのBATは加齢とともに機能低下して肥満の一因になるが, 慢性的な寒冷刺激により再活性化が可能で, その結果, 体脂肪が減少する。寒冷刺激の効果は, 温度感受性TRPチャネルの刺激活性を有する食品成分を経口摂取することで模倣できる。TRP刺激活性を有するカプシノイドや茶カテキンなどを単回摂取するとBAT熱産生が活性化し, 慢性摂取することによりBATの再活性化・増量が可能である。また, BATの熱産生活性を制御する因子として, 基質選択性の重要性が明らかになってきた。BATの主なエネルギー基質は脂肪酸と糖であることが古くから知られるが, これに加えて分岐鎖アミノ酸の選択的な代謝分解が不可欠である。これらの知見は, 臨床応用可能な栄養学的介入によるBAT活性化法の確立, ひいては新たな生活習慣病予防法の考案に役立つ。