著者
三好 弘子 奥田 豊子 小林 紀崇 奥田 清 小石 秀夫
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.165-170, 1987 (Released:2010-02-22)
参考文献数
33
被引用文献数
3 2

5人の健康な若年成人男子を被験者として, 白米食と玄米食を比較することにより, 米繊維のミネラルの出納, およびみかけの吸収率に対する影響を検討した。体重当たり1.2gのタンパク質を含んだ玄米食, 白米食をそれぞれ2週間与えたが, 食物繊維としては, 玄米食は白米食の約2倍含んでいた。摂取ミネラル量は, 白米食, 玄米食ともミネラル必要量を充足していたが, 玄米のほうが白米よりミネラル含量が多く, とくにK, P, Mgの摂取量が玄米食で多くなった。糞中排泄量は玄米食で白米食に比べて, K, P, Mgが有意に多くなり, 摂取量を反映していた。また, Na, Caにおいても玄米食で糞重量が約2倍と有意に多かったことを反映して糞中排泄量が多くなる傾向がみられた。しかし, これから計算される吸収量においてはK, P, Mgとも有意差は認められなかった。みかけの吸収率ではK, Pで摂取量が多かったにもかかわらず, それ以上に糞中排泄量が大きく, 玄米食で有意に低下した。その結果, 出納をみると, 各ミネラルとも白米食と玄米食の間に有意差は認められなかった。血漿ミネラル濃度ではNa, K, Cl, P, Ca, Mgのいずれの項目にも白米食と玄米食で有意差はみられなかった。
著者
本間 清一
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.85-98, 2005-04-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
51
被引用文献数
2 4

食品の褐変により生じた色素 (褐色色素) であるメラノイジンの性質と主な前駆物質を食品ごとに明らかにした。褐変の原因として一般性が高いグルコースとアミノ酸から調製したモデルメラノイジンを材料に, 焦点電気泳動パターン, 金属キレート能, レクチン親和性, 酸化・還元, 調製時のpH条件, ラットにおける出納試験を調べた。Streptomyces werraensis TT14, Paecilomyces canadensis NC-1, Coriolus versicolor IFO30340の3種類の菌で褐色色素を含む食品や各種モデル褐色色素と培養したときの脱色率の差異が, 食品メラノイジンの特徴解析に有効であることをみとめた。さらに, 3-デオキシオソン類, 糖その他の成分分析, 金属キレートアフィニティーを併用した。その結果, 魚醤とタマネギのソテーの褐色は糖質系メラノイジンが主体であり, 凍り豆腐の褐変は多価不飽和脂肪酸の酸化で生じたカルボニル化合物がタンパク質と反応して生じるエーテル可溶性の褐色色素であった。コーヒーの褐変はショ糖とアミノ酸・タンパク質とのメイラード反応にクロロゲン酸などのフェノール系酸化重合物を多量に巻き込んだ高分子である。
著者
奥恒 行
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.337-342, 2005-12-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
12
被引用文献数
5 10

消化吸収されず, 血糖値も上昇させない糖質はエネルギー源にならず, 役に立たないものとして扱われていた。しかし, 著者らは難消化吸収性糖質の代謝に腸内細菌が重要な役割を演じていることを明らかにし, 難消化吸収性糖質の生体利用に発酵・吸収の概念を導入する必要のあることを提示した。難消化吸収性糖質が腸内細菌によって発酵を受けると, 短鎖脂肪酸, 炭酸ガス, 水素ガス, メタンガスなどが生成され, 菌体成分にも一部取り込まれる。これらのうち短鎖脂肪酸がエネルギー源として利用され, 約2kcal/gのエネルギーをもっていることを示した。また, 腸内細菌叢を改善して直接的・間接的に健康の保持・増進や疾病の予防などに関わっていることを示した。さらに, 難消化吸収性糖質は一度に大量摂取すると高浸透圧性の下痢を誘発するが, 消化されない糖質の最大無作用量はいずれも体重kgあたり0.3-0.4g程度であることを明らかにした。また, 最大無作用量は馴れや食べ方によって変動することを示した。
著者
若林 茂 里内 美津子 野上 義喜 大隈 一裕 松岡 瑛
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.471-478, 1991-12-19 (Released:2010-02-22)
参考文献数
29
被引用文献数
8 17

馬鈴薯デンプンを加熱分解して調製した難消化性デキストリン (PF: 食物繊維含有量58.2%, およびPF-C: 91.6%) の脂質代謝に及ぼす影響をラットを用いて検討し, 以下の成績を得た。(1) コレステロール無添加飼料で5週間飼育したラットの血清コレステロール (119±7.6mg/dl) およびトリグリセライド値 (218±39.0mg/dl) は, PF-C 10%摂取により, それぞれ有意な低下 (94.2±6.0および145土20.0mg/dl) を示した。(2) 市販固形飼料を給餌したラットに飲料水としてPF (20%水溶液) およびPF-C (5~20%水溶液) を5週間与えたとき, 血清および肝臓コレステロール値は有意に低下し, その程度は摂取したPFおよびPF-C水溶液の食物繊維含有量に依存していた。(3) そのときの糞便中への総胆汁酸排泄量は, PFおよびPF-C摂取群で有意な増加を示し, 同様に, (4) 盲腸内容物中の総短鎖脂肪酸量, とくにプロピオン酸量は有意に高値であった。また, (5) 体重, 血清総タンパク質, カルシウム, GOTおよびGPT活性は, PFおよびPF-C摂取によってなんら影響を受けなかった。さらに, (6) 飲料水交換法により, PF-C摂取の有無によって血清および肝臓コレステロール値は容易に変化することが確認された。
著者
山田 和彦 田中 弘之 石見 佳子 梅垣 敬三 井出 留美
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.91-99, 2017 (Released:2017-06-23)
参考文献数
20
被引用文献数
2

食品の機能性に関する表示は, 消費者が食品を選択する際の一つの有効な手段となる。保健機能食品は, 食品表示法に基づく食品表示基準に規定されており, 特定保健用食品, 機能性表示食品および栄養機能食品からなる。特定保健用食品は, 健康増進法においても規定されており, 特定の保健の用途に適する旨を表示するもので, 販売に当たり国の許可が必要である。機能性表示食品は, 2015年に新しく創設された制度であり, 事業者の責任において体の構造と機能に関する機能性表示をすることができる。販売前に機能性と安全性に関する科学的根拠資料を国に届出る。栄養機能食品は, 規格基準型の食品で, 国の許可を受けることなく栄養素の機能表示をすることができる。2015年の特定保健用食品の市場規模は約6,400億円, 栄養機能食品といわゆる健康食品を合わせて1兆5千億円と試算されている。これらの食品の機能性に関する表示は消費者に正しく理解される必要があり, 普及・啓発が重要である。これにより, 人びとの健康の維持・増進が期待される。
著者
山中 千恵美 池上 幸江 青江 誠一郎
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.385-391, 2011 (Released:2012-04-25)
参考文献数
15

カルシウムの摂取量と形態の違いがKKマウスの腹腔内脂肪蓄積に及ぼす影響を比較した。KK/Taマウス3群に, カルシウム含量が0.5%となるように炭酸カルシウム (NC) あるいはミルクカルシウム (MC) を配合した飼料, あるいは, カルシウム含量が0.1%となるように炭酸カルシウム (LC) を配合した飼料をそれぞれ給餌した。終体重, 飼料効率はLC群がNC, MC群に比べて有意に高かった。肝臓脂質蓄積量は, LC群がNC, MC群に比べ有意に高かった。血糖値, 血清インスリンおよびレプチン濃度は, LC群がNC, MC群に比べて有意に高かった。血清PTH濃度は, MC群がLC群に比べて有意に低かった。各腹腔内脂肪組織の重量は, LC群がNC, MC群に比べて有意に増加した。MC群とNC群の間に有意な差は検出されなかった。以上の結果, カルシウムの摂取量の低下は, 腹腔内脂肪蓄積を促進することが認められ, おそらく, インスリン分泌の過剰によると考えられた。しかし, ミルクカルシウムと炭酸カルシウム間では, 腹腔内脂肪蓄積に対して顕著な差は見られなかった。
著者
円谷 悦造 浅井 美都 太田 美智男
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.101-106, 1998-04-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

食酢を用いた調理における, 食中毒原因菌であるEscherichia coli O157: H7 NGY-10, Salmonella Enteritidis IID 604, Vibrio parahaemolyticus IFO 12711および Staphylococcus aureus IFO 3060の挙動を調べ, 食酢が細菌性食中毒の予防に有効か否かを検証した。食酢を調味に使用する調理食品では, 食酢使用量の多い, 酢漬け類, 紅白なます, サワードリンク等では, E. coli O157: H7 NGY-10に対する殺菌効果が, 食酢使用量の比較的少ない, 酢の物類, すし飯等では静菌効果が確認された。食酢を調味には使用しないが, 刺身類や茹で蛸を食酢に短時間浸漬すると, 供試菌株に対する静菌効果ないしは殺菌効果が発現し, 保存性が高まった。炊飯前に, 食味に影響しない量の食酢を添加すると, 冷却後の米飯に供試菌株を接種しても静菌された。冷凍魚介類を食酢希釈液中で解凍すると, その後の穏和な加熱でも, 供試菌株が殺菌され, 保存性が高まった。また, ハンバーグステーキに食酢を適量添加して焼くと, 中心温度が65℃という不十分な加熱でも, 供試菌株が殺菌され, 保存性が高まった。以上の結果より, 調理の場面での食酢の細菌性食中毒防止効果が確認された。
著者
内田 和宏 今村 裕行 宮本 徳子 城田 知子
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.129-134, 1999-06-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
24

本研究では, 各被験者の月経周期の時期を統一し, 運動強度が女性のEPOCの量と持続時間に及ぼす影響について検討した。飲酒・喫煙習慣を有さない女性7名を対象とし, 2周期にわたりVO2maxの40%, 50%, 70%の強度で各30分間の運動と, 運動を行わない非運動実験の計4回の実験を行った。VO2, RER, HRは運動後4時間にわたって測定した。EPOCは運動後17.7±11.1分 (40% VO2max), 23.7±8.1分 (50% VO2max), 41.3±22.6分 (70% VO2max) にみられ, それぞれ1,336±838mL (40% VO2max), 2,011±646mL (50% VO2max), 3,564±1,627mL (70% VO2max) で, 運動強度が高くなるにつれてEPOCの量・持続時間およびEPOCに由来する消費エネルギー量は有意に増加した。また70% VO2maxでは運動後30分までRERの有意な低下がみられたことから, この強度での運動後の脂質代謝の亢進が示唆された。
著者
林 泰資 曽我部 咲 服部 幸雄
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.323-327, 2011 (Released:2011-12-30)
参考文献数
19
被引用文献数
1 2 1

コーヒー飲用によるストレス緩和作用についてはよく知られているが, その揮発性成分の効用に着目した研究は数少ない。本研究では, 焙煎したコーヒー豆の揮発性成分とストレスとの関連性を明らかにするために, マウスを用いて種々の行動薬理学的実験を行い, コーヒー揮発性成分のストレス緩和作用について検討した。高架式十字迷路試験において, コーヒー揮発性成分は自発運動量に影響を及ぼすことなく, オープンアームへの滞在時間および進入回数を増加させた。また, ペントバルビタールによる睡眠時間は, コーヒー揮発性成分の曝露により明らかに延長した。オープンフィールド試験および強制水泳試験では, コーヒー揮発性成分の効果は見られなかった。以上より, 焙煎したコーヒー豆の揮発性成分はマウスの覚醒水準を低下させ, 抗不安様のストレス緩和作用を発揮することが示唆された。
著者
友竹 浩之 安富 和子 富口 由紀子 山下 紗也加 郡 俊之
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.207-213, 2020 (Released:2020-10-19)
参考文献数
20
被引用文献数
1 2

約2カ月間の健康増進教室参加者28名 (75±5歳 女性) の咀嚼能力, 握力, 食意識などを教室前後で比較し, 咀嚼, 栄養, 運動の指導の有効性について調べた。教室前後の調査項目は, 体重, 上腕周囲長, 下腿周囲長, 握力, 咀嚼能力 (チューインガム・グミゼリーを使用) , 食意識調査 (質問紙) , 栄養状態評価 (質問紙) とした。教室はテーマにそって, 講義と実習を行った (第2回「噛むことの大切さ」, 第3回「低栄養を予防する食べ方」, 第4回「運動の大切さと筋肉を鍛えるコツ」) 。教室実施期間中は, 咀嚼および栄養強化食品として高野豆腐を参加者全員に提供し, 摂取状況や噛むことの意識を毎日記録してもらった。参加者の教室前後の咀嚼能力を比較した結果, 有意に高くなっていた (チューインガム判定p=0.004, グミゼリー判定p=0.009) 。握力 (p=0.049) , 上腕周囲長 (p=0.012) も有意に増加していた。咀嚼の意識についての得点は, 教室前と比較して有意に高かった (p=0.016) 。
著者
二川 健
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.3-8, 2017 (Released:2017-02-17)
参考文献数
11
被引用文献数
1

Unloading環境ではタンパク質のユビキチン化が促進されるので, Unloading環境に暴露したラットの腓腹筋の遺伝子を網羅的に解析し, そのユビキチン化の原因遺伝子を探索した。その結果, 増殖因子のレセプターやその関連タンパク質を特異的にユビキチン化させるユビキチンリガーゼCbl-b (Casitus B-ligeage lymphoma-b) の発現が宇宙フライトにより増大していることを発見した。Cbl-bは, インスリン受容体基質タンパク質 (IRS-1) をユビキチン化し分解へと導くユビキチンリガーゼとして働き, 骨格筋におけるインスリン様増殖因子のシグナル伝達を負に調整していた。また, Cbl-bノックアウトマウスではUnloadingによる筋萎縮がほとんど起こらなかった。これらの所見より, Cbl-bが筋細胞の増殖因子受容体シグナル系を負に調節し, 筋萎縮を引き起こす重要な筋萎縮関連遺伝子の一つであることがわかった。この分子をターゲットにして, そのユビキチン化を阻害できる栄養素材も発見した (2件の特許取得) 。それは, Cbl-bとIRS-1の結合に対する阻害活性を有するDG (p) YMPペプチド (Cblinペプチドと名付けた) とその類似配列を持つ大豆グリシニンタンパク質である。これらはin vitroやin vivo実験においてCbl-bによるIRS-1のユビキチン化を抑制し筋量を増大させた。また, 大豆タンパク質添加食は寝たきり患者の筋力減少の抑制にも有効であった。以上の知見から, リハビリテーション以外に治療法のないUnloadingによる筋萎縮に対する新しい栄養学的治療法の概念も提唱する。
著者
青木 雄大 吉田 和敬 信田 幸大 砂堀 諭 西田 由香 加藤 秀夫 菅沼 大行
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.147-155, 2017 (Released:2017-08-25)
参考文献数
35
被引用文献数
3 1

リコピンはトマトに豊富に含まれるカロテノイドであり, 強い抗酸化作用を有することが知られている。これまでに, 様々な栄養素の吸収に概日リズムが影響を与えることが示唆されてきているが, リコピンの吸収について, 摂取時間帯による影響を検証した報告はなされていない。そこで我々は, 摂取時間帯がリコピンの吸収に与える影響を, ラットを用いた動物試験および健常な成人男女を対象としたヒト試験で検証した。ラットおよびヒトに対し, リコピンを含む食品を, 時間帯を変えて摂取させ, 血中リコピン濃度を測定したところ, ラットでは活動期初期, ヒトでは朝に摂取した際に血中リコピン濃度が最も上昇した。また, リコピンを摂取するまでの絶食時間が長くなるほど, 血中リコピン濃度の上昇が大きくなることが示された。以上から, リコピンの吸収は絶食時間の長さの影響を受け, そのため朝に摂取した際に最も吸収率が高くなることが推測された。
著者
石松 成子
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.227-233, 1988 (Released:2010-03-01)
参考文献数
13
被引用文献数
2 2 2

1985年北九州地区の食事調査の結果から成人男女6名の3日間の日常食を分析試料としてニッケル含有量を測定した。また料理の原材料となった食品39品目とさらに米は九州各県・山口県各地から71種収集して測定した。この分析値から1日のニッケル摂取量を推定した。得られた結果はつぎのとおりである。1) 主食である米中のニッケル含有量の分布は対数正規分布を示し, 算術平均22μg/100g, 幾何平均14μg/100gで試料間に差がみられた。2) 大多数の食品中のニッケル含有量は10.0μg/100g以下であったが, ある種の食品たとえば大豆・しょうゆ・米・ほうれん草・キャベツはニッケル含有量が高かった。全体的に植物性食品が動物性食品よりニッケルの含有が高値であった。3) 1人1日当たりのニッケル摂取量は, 男280±90μg, 女190±40μgであった。4) 1日に摂取するニッケル量のうち, 主食である米からの摂取が30%, 米以外の植物性食品から65%, 動物性食品から5%の割合であった。
著者
宮崎 さおり 松本 友希 岡田 知佳 岸田 太郎 西岡 信治 三好 規子 友岡 清秀 谷川 武 斉藤 功 丸山 広達
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.93-101, 2021 (Released:2021-04-14)
参考文献数
38
被引用文献数
1

本研究では, トランス脂肪酸摂取量を推定するための食品成分表を作成することを目的とした。さらにこの成分表を用い, 実際の摂取食品についてトランス脂肪酸量を推定し得るか, 食事記録調査結果を対象に確認を行った。23文献に報告のある280食品のトランス脂肪酸量は平均値を求め, 食品成分表記載の各食品の脂質を乗じ可食部100 g当たりに含まれるトランス脂肪酸量を算出した。文献に報告のない食品の内, 312食品は置き換え法にて対応, 計592食品のトランス脂肪酸含有量を決定した。その食品成分表を用い, 糖尿病境界型の男女35名が実施した食事記録から1日平均のトランス脂肪酸摂取量を算出した。本対象集団が摂取していた可食部100 g当たりの脂質量が1 g以上の食品延べ4,539食品の内, 4,535食品 (99.9%) のトランス脂肪酸量が算出し得, 1日当たりの平均トランス脂肪酸摂取量は0.66 g (エネルギー比率: 0.33%) であった。本成分表は, 置き換え法による食品数の占める割合が高いこと等の限界に留意する必要があるものの, 多数の食品に対して数値を求めていることから, 異なる日本人集団や食事記録以外の食事調査法での応用も可能なものと考える。
著者
岡崎 昌子 藤川 茂昭 松元 信也
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.395-401, 1990-12-10 (Released:2010-02-22)
参考文献数
24
被引用文献数
47 61

キシロオリゴ糖の腸内フローラに及ぼす影響について検討を行うために健康な成人男子を対象に, 毎日1gもしくは2gずつ3週間にわたって摂取させ, 摂取前, 摂取中, 摂取後に採便し, 腸内フローラ, 水分の測定を行った。その結果, 摂取前に比べ, 摂取中は腸内菌叢に占めるビフィズス菌の割合が有意に増加し, 摂取を中止すると低下することが示された。また, 便の水分含量は80%へと収斂し, 軟便, 固い便がちょうどよい固さになる傾向を示した。キシロオリゴ糖摂取量の増加に伴い, 腸内のビフィズス菌も増加したことから, ビフィズス菌の増加は確かにキシロオリゴ糖摂取によるものと考えられた。
著者
喜多村 尚 小原 郁夫
出版者
日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 : Nippon eiy◆U014D◆ shokury◆U014D◆ gakkaishi = Journal of Japanese Society of Nutrition and Food Science (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.291-296, 2009-12-10
参考文献数
24
被引用文献数
2

基本4味に対する味覚感度の月経周期における変動については明らかにはなっていない。本研究は, ヒトの月経周期による基本4味 (甘味, 酸味, 苦味, 塩味) に対する味覚感度の変動について検討した。卵胞期と黄体期が明らかである基礎体温パターンを示した11名の健常女子大生を, 被験者とした。味覚感度の測定部位は, 舌の前2/3の茸状乳頭が散在し, 鼓索神経支配を受けている舌の7カ所とした。ついで, 舌の先端部中央における4基本味に対する味覚感度の測定を行った。甘味の味覚感度は, 卵胞期および黄体期が月経期および排卵期より上昇し, 酸味の味覚感度は, 黄体期が排卵期より低下した。しかし, 塩味および苦味の味覚感度は, 月経周期による変動は観察されなかった。これらのことから, 甘味は, 代謝リズムが急激に変わる月経および排卵期に味覚感度が低下するが, 基本4味すべてにおいて卵胞期と黄体期の間で変動がないことが示唆された。
著者
逸見 隼 牧野 聖也 狩野 宏 浅見 幸夫
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.99-102, 2018 (Released:2018-04-16)
参考文献数
15

我が国では高齢化の進展に伴い, 健康寿命の延伸が課題となっている。この課題解決において健康機能を有する食品が果たすべき役割は大きい。我々は, 日常的に気軽に摂取できるヨーグルトを介した健康増進を目指し, 免疫賦活作用を有する菌体外多糖体を高産生する乳酸菌としてOLL1073R-1株を選抜した。本株で発酵したヨーグルトの摂取はマウスの脾臓細胞のインターフェロン-γ (IFN-γ) 産生を誘導し, ナチュラルキラー (NK) 活性増強効果や抗インフルエンザウイルス活性を発揮した。またヒトでは健常高齢者の風邪症候群の罹患リスクの低減効果や健常成人のインフルエンザワクチン接種後の抗体産生の増強効果を見出し, 自然免疫, 獲得免疫の両面から免疫機能を高め, 感染症に対する防御効果を増強することが示唆された。一方で, 気温変化の大きい季節の変わり目時期における疲労感を軽減することも示され, 体調管理に広く有用であることが明らかとなった。
著者
菅原 達也
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.177-183, 2013 (Released:2013-08-16)
参考文献数
40
被引用文献数
3 2

スフィンゴ脂質は, 真核生物の細胞膜構成成分の一つであり, 細胞の分化やアポトーシスなどの生命現象に深く関わっていることが知られている。近年, 食品機能成分としても注目されつつあり, とくに皮膚バリア向上作用が期待されている。したがって, 経口摂取されたスフィンゴ脂質の消化と吸収の機構を明らかにすることは, その食品機能性を理解する上でも重要といえる。グルコシルセラミドやスフィンゴミエリンなどのスフィンゴ脂質は, 小腸内で消化を受け, その構成要素であるスフィンゴイド塩基にまで加水分解された後に小腸上皮細胞に取り込まれる。しかし, その分解効率は低く, 吸収率も低い。スフィンゴシンと比べて, それ以外の化学構造のスフィンゴイド塩基はP-糖タンパク質による排出を受けやすいため, 吸収はさらに低いことが示唆されている。スフィンゴ脂質の有効利用のためにも, その選択的吸収機構の詳細について, 今後明らかにされる必要がある。
著者
中本 真理子 酒井 徹 首藤 恵泉 安藝 菜奈子 小杉 知里 秦 明子 篠田 香織 桑村 由美 南川 貴子 市原 多香子 田村 綾子 船木 真理
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.185-193, 2013 (Released:2013-08-16)
参考文献数
31
被引用文献数
4 4

近年, 生活習慣病や精神疾患などを抱える勤労者が増加している。一方, 朝食欠食, 過食, 身体活動の不足, 短時間睡眠など, 生活習慣の乱れが疾病の発症に関連することが報告されている。我々は, 徳島県勤労者において, 夕食終了から就寝までの間隔と生活習慣病の有病状況との関係について横断研究を行った。20歳以上の勤労者735名を対象に, 食物摂取頻度調査, 生活に関する質問票調査, 採血, 身体計測を実施した。夕食終了から就寝までの間隔が2時間未満の対象者を対照群とし, ロジスティック回帰分析を用いて解析を行った。高血圧に関して, 対照群に比し3-4時間, 4時間以上の群で, 有意に調整オッズ比が低下した。さらに21時以降の食事摂取者で, 高血圧の調整オッズ比は3-4時間空ける群で有意に低下し, 量反応性の関係が認められた。これらのことより, 夕食終了から就寝までの間隔を空けることが, 高血圧の予防につながる可能性が示唆された。
著者
細谷 圭助 森 真弓
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.231-233, 1986-06-10 (Released:2010-02-22)
参考文献数
6
被引用文献数
1 1

食パン, 菓子パンおよび洋菓子を中心とし, その他, 牛乳, チーズ, 味噌および醤油中のプロピオン酸塩またはプロピオン酸を定量した。まず定量方法について検討した結果, 水蒸気蒸留量は250mlのとき, ガスクロマトグラフィによる回収率は平均99.26%であった。食パン中のプロピオン酸含有量は, 0.0025~0.0045g/kg, 菓子パンでは0.0042~0.0485g/kg, 洋菓子では0.0021~0.6525g/kgであった。製造会社によっても含有量が異なり, 菓子パンではA社製のものは他社製に比べ約10倍多かった。季節によっても含有量は異なりパン類および洋菓子において, 冬期に少なく, 夏期に多かった。パン以外の日常食品として, 牛乳ではプロピオン酸含有量は0.0005~0.0009g/kgであり, チーズでは0.0154~0.0261g/kgと多く, 味噌では0.0020~0.0050g/kg, 醤油では0.0027~0.0060g/kgであった。