著者
三浦 於菟 松岡 尚則 河野 吉成 板倉 英俊 田中 耕一郎 植松 海雲 奈良 和彦 芹沢 敬子 中山 あすか 橋口 亮 福島 厚 小菅 孝明 斉藤 輝夫
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.1-14, 2012 (Released:2012-08-24)
参考文献数
53

盗汗病態理論の史的変遷を中国医書に基づいて検討した。隋代まで,盗汗と自汗の病態は同様であり,主に体表の気虚によって出現すると考えられていた。唐代には,盗汗と自汗の病態の相違性が指摘され,盗汗は熱によって出現するとされた。宋金代には,血虚や陰虚の熱が盗汗を出現させるとされた。金代には,寒邪などの外邪によっても盗汗は起こるとの実証盗汗理論が提唱された。元代と明代の初期には,盗汗は陰虚,自汗は陽虚という学説の完成をみた。明代中期には,盗汗は陽虚でも出現する事があり,病態によって盗汗と自汗を把握すべきだという新学説が登場した。清代には,外邪のみならず湿熱,食積,瘀血によっても盗汗は出現するという実証の盗汗,部位別盗汗病態などの新しい学説が登場した。また温病盗汗は傷寒とは異なり陰虚によるとの学説もみられた。盗汗学説は古きに知恵を求めながら発展したといえる。
著者
小野 孝彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.10-15, 2013
被引用文献数
2

近年,糖尿病性腎症,慢性腎炎,腎硬化症など各種の腎疾患をひとまとめにして慢性腎臓病と呼んでいる。レニン・アンジオテンシン系に働く治療薬は慢性腎臓病治療の第1選択とされているが,七物降下湯は併用効果が期待される。基礎的研究では糖尿病性腎症の進展に八味地黄丸の抑制効果がある。近年の研究から腎炎や一次性ネフローゼ症候群において,柴苓湯はステロイドや免疫抑制薬の減量効果が期待される。慢性腎炎やネフローゼ症候群の背景となる病態として,柴朴湯の治療は頻回の上気道炎を減少させ,柴苓湯はアレルギーの関与が考えられるネフローゼ症候群に対して効果的な場合が見られる。小児の IgA 腎症に対して,前向きの臨床試験による柴苓湯効果のエビデンスも得られている。透析に至る前の慢性腎不全に対して温脾湯は,透析導入への延長効果が知られている。五苓散は血液透析時の透析困難を改善し,腹膜透析においては腹膜線維化の問題点に対して柴苓湯の改善効果が期待される。
著者
和久田 哲司
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1-2, pp.71-75, 2002-03-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
22

漢代に成立した『黄帝内経』の以前もしくは以後の関係文献から, 手技 (按摩) 療法の発祥及び発展状況を考察したところ, 次の事項を確認した。中国における按摩療法の起源は, 甲骨文や『周禮』の記述から殷周代に求められ,『扁鵲伝』に按摩治法の名やその治効作用が示されていることから, その発祥を春秋戦国期に遡ることが出来る。また,『五十二病方』に按摩療法の記述が見られることは, 按摩治法が既に秦漢以前に行われていたことを実証するものである。そして『養生方』『神農本草経』などの薬物書において「摩」の術が膏薬と共に用いられていたことは,『黄帝内経』での「按」の術との表現が異なってはいるが, 按摩施術が存在していたことを裏付けている。以上のことから按摩療法は少なくとも周代には既に他の治法と共に併用されていた。しかし「按」と「摩」の術としての発展過程の相違が伺われ, 今後この点の検討を要する。
著者
越田 全彦 山崎 武俊
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.134-139, 2017 (Released:2017-10-20)
参考文献数
19
被引用文献数
2

症例は特記すべき既往のない19歳男子大学生。16歳の時に明らかな誘因なく1日に10回以上嘔吐を繰り返し,経口摂取不能のため近医入院の上,点滴加療を受けた。発作間欠期にはほぼ無症状だが,以後年に2~3回,激しい嘔吐のために1週間程度入院するようになった。その都度精査を受けたが,脱水を認めるのみで他に明らかな異常を認めなかった。19歳を過ぎた頃より毎月入院するようになったため,精査目的に当院紹介受診となった。西洋医学的には特記すべき異常を認めず,周期性嘔吐症候群と診断した。漢方医学的には,気鬱・気逆と診断した。半夏厚朴湯を処方したところ,自覚症状は著明に改善し,内服開始から半年が経過したが嘔吐発作は出現していない。 気鬱・気逆を伴う強い嘔吐症状を半夏厚朴湯が予防する可能性があり,機能性消化管障害に対する漢方薬の有効性が示唆された。
著者
小山 誠次
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.49-52, 1997-07-20

『日本東洋医学雑誌』第47巻第1号に筆者の論文「〓苡仁の治疣処方」が掲載された。今回, その論文の内容を追補しうる文献を見出したので報告する。山脇東洋著『養寿院山脇先生方函』には, 「肬ヲ理スル方 〓苡仁五銭 右一味, 水三合ヲ以テ煮テ一合ヲ取り, 或ハ服シ, 或ハ洗フ。(原文漢文)」とあり, 山脇東洋が〓苡仁を民間薬的に茯の治療として使用していたことが明白である。本書の成立年は全く不明であるが, 治療年代は山脇東洋の没年(宝暦十二年)より以前であることは論を俟たない。この記事は『大和本草』中の〓苡仁の治茯記事より遥かに確実である。また, 〓苡仁の治茯処方を最初に記載した『名家方選』は, 山田元倫が10歳代後半から秘かに諸家の諸名方を盗掠し, 纂集した書であり, 山田元倫の名は諸文献によれば惟亨となっているが, 『名家方選』自叙には維亨とあり, 『黴瘡約言』には惟亨とあるので, 始めは維亨だったかもしれない。
著者
小山 誠次
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.371-376, 1994-10-20

下部直腸sm癌に低位前方切除術を施行した。入院中から退院後仕事再開までは特に下着汚染等の訴えは全くなかったが,鈑金業に復職後から粘液による下着汚染をみるようになった。手術はEEA器械吻合によるS状結腸直腸端々吻合術であったが,その際ドーナツリングに一部不確実な箇所があり,そのため手縫いによる全層縫合を3針迫加し,横行結腸に一時的人工肛門を造設した。術後2週間IVH管理としたため特に明瞭な縫合不全等は認めなかったが,粘液による下着汚染は吻合部に何らかの炎症が遷延していると考え,漢方的には大腸湿熱と診断し,黄連解毒湯で清熱化湿を図った。結果的には黄連解毒湯がよく奏効した。しかし下着汚染が激減しても,なお肛門括約筋は緊張低下のままだったので,補中益気湯で升提して括約筋緊張の回復を図った。文献上,低位前方切除術後の粘液による下着汚染に漢方薬治療した症例は見出し得ないので,今回報告した。
著者
金田 康秀
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.278-286, 2014 (Released:2015-03-30)
参考文献数
60

Vogt-小柳-原田病(原田病)は,本邦では2番目に多いぶどう膜炎である。自己のメラノサイトに対する自己免疫性疾患と考えられており,汎ぶどう膜炎に加え,中枢神経症状,内耳症状,皮膚症状をきたすことが特徴的である。標準治療は全身的なステロイド大量療法である。更に不十分なステロイド剤使用は再燃や遷延化を招く。今回,B 型肝炎ウイルスキャリアに初発した原田病に対し,ステロイド剤を一切使用せずに竜胆瀉肝湯(一貫堂)と五苓散の併用が奏効した一例を経験したので報告する。症例:40歳男性。両)霧視を主訴に近医眼科を受診し,両)黄斑症を認め当科に紹介。原田病と診断し,和漢診療学的に軽度の水滞・瘀血を伴う足厥陰肝経の湿熱と捉え,竜胆瀉肝湯(一貫堂)と五苓散を投与した。結果,翌日から徐々に視力が改善し始め,ステロイド剤を使用することなく治癒した。原田病に漢方単独の治療が選択肢になり得ることが示唆された。
著者
光藤 英彦
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.363-375, 1994-01-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
14

鍼灸医学における穴位主治の伝承は, 古方における方と証に匹敵すると考えられる。しかし唐代以後, その伝承の整理にはほとんど手がつけられなかった。その最大の理由は, 明堂経の亡佚である。近年, 黄帝内経明堂類成の一部が我が国の仁和寺において発見され, この研究に端緒が生まれた。1980年代の善本の復刻事業がこの方面の研究に拍車をかけた。私共の研究も, この流れの一端に位置する。私共の研究の特徴は, 穴位主治条文の字列構成を解析するという方法論を用いている点と, 医心方穴位主治の執筆者の見識を研究対象にしている点にある。私共は, この2つの視点から, 穴位主治の伝承を整理し, 伝承の本来の姿を明らかにすることを試みた。
著者
王 元武 赤堀 幸男
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.49-64, 1988-07-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
29

中国の薬酒は疾病の治療・予防のために創製された方剤であり, 中医弁証に基づく組方原則により組成され, 多くの種類の疾病に対応できる方剤体糸を構成する。このような中国薬酒の本質を解明するために, 歴代典籍の記述を参照して, 酒と薬酒の歴史を考証し, 酒の種類・薬性・宜忌についての記述を引用して酒の本性と特徴を詳しく論述した。これら基礎資料をもとにして, 中医学基礎理論の組方原則に基づく薬酒方剤の組成解析を実施し, 薬酒中における酒の地位は君・使両薬としての二重性を持つことを明らかにした。君薬とは定義通りの主薬であり, 使薬とは引薬・行薬勢・薬性制約・薬効改変の四種の作用を包含する。この方中地位の二重性は, 極めて特殊な事例であり, 薬酒方剤の特質を構成する最も本質的な因子である。さらに, 薬酒方剤の分類を提示し, 著名な薬酒についての解説を行い, 薬酒使用上の注意点を指摘して安全有効な使用法を提言した。
著者
新井 信 佐藤 弘 代田 文彦
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.247-254, 2000-09-20
参考文献数
12
被引用文献数
2

軽症のSLEと診断され, 顔面, 頭部および背部の皮疹と脱毛を主訴に来院した26歳の女性患者に対し, 小柴胡湯合黄連解毒湯加〓苡仁を用いて治療した。その後の経過として, 紅斑, 脱毛, 光線過敏症などの皮膚症状が消失したうえ, 初診時に640倍を示していた抗核抗体が約2年後には陰性化した。さらに, 約1年間休薬しても皮膚症状が再燃せず, 抗核抗体もほとんど再上昇しなかった。調べ得た限り, SLEに対して漢方薬単独で治療して抗核抗体が陰性化した報告, 小柴胡湯合黄連解毒湯あるいはその加味方で治療した報告はなかった。<br>以上のことから, 本例は軽症のSLEの一部, あるいはSLEと診断できず, 西洋医学的にステロイド治療の対象とならない疑SLE症例に対して, 漢方薬を試みる価値があることを示唆する興味深い症例と考えられた。
著者
木村 容子 杵渕 彰 稲木 一元 佐藤 弘
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.391-395, 2009 (Released:2009-08-12)
参考文献数
15

気管支喘息に対する漢方治療では,咳や痰の性状や呼吸困難の程度などを指標として,通常,臓腑の立場からは「肺」へのアプローチをを選択することが多いと思われる。さらに,気管支喘息の増悪因子がある場合は,その要因を排除することも大切である。今回,便通異常を伴って気管支喘息の症状が悪化した患者において,便通の改善を図ったところ,患者の咳嗽や呼吸困難などの症状が軽快した3症例を経験したので報告した。漢方では「肺」と「大腸」は表裏関係をなすとされるが,どのような気管支喘息患者の場合に,便通調整を考慮するのが有効であるかを検討した報告は少ない。今回の3症例から,便通が安定している軽症の気管支喘息患者が,突然,気管支喘息症状の悪化とともに便通異常を認めた場合に,「肺」に直接作用する処方だけではなく,その表裏関係にある「大腸」の作用を整える治療をすることが有効であるのではないかと推測された。
著者
千々岩 武陽 伊藤 隆 菅生 昌高 仙田 晶子 大川原 健 海老澤 茂 王子 剛 島田 博文
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.840-846, 2010 (Released:2010-12-24)
参考文献数
15
被引用文献数
1

桂枝加桂湯が奏効した奔豚気病と思われる身体表現性障害の3症例を経験した。第1例は34歳男性。頭痛,動悸,「胸から頭に何かが突きあがってくる感じ」を奔豚気と捉えて桂枝加桂湯を開始したところ,内服1週間後に頭痛,4週間後には動悸や耳鳴りが著明に改善した。第2例は22歳男性,主訴は緊張感,全身倦怠感。下肢の冷え,発作的な頭痛のエピソードを奔豚気と解釈し,桂枝加桂湯を開始したところ,自覚症状と心理テストの大幅な改善を認めた。第3例は75歳女性。自宅のリフォームを契機に激しい頭痛と動悸が出現した。桂枝加桂湯開始により,内服3週間後には症状の消失を認めた。近年,奔豚気病はパニック障害と比較されることが多かったが,身体表現性障害と称される一群の中にも奔豚気病の症例が含まれている可能性がある。頭痛や動悸など身体愁訴の背景に奔豚気病の存在を疑うことが,桂枝加桂湯の処方選択に有用であると考えられた。
著者
水上 勝義 畑中 公孝 田中 芳郎 朝田 隆
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.655-660, 2006-09-20
参考文献数
13
被引用文献数
3 4

精神症状および行動障害 (behavioral and psychological symptoms of dementia: BPSD) を呈し, それらの症状に抑肝散が奏効したアルツハイマー型認知症 (AD) の5例を報告した。我々の症例では, 5例全例に易怒性, 興奮を認め, 4例に攻撃的言動, 不眠を, 3例に俳徊を認めた。いずれの症例に対しても抑肝散は比較的早期から効果を認め, また明らかな副作用は認めなかった。我々の検討から, 抑肝散はADでみられる易怒性, 興奮, 攻撃性などに効果的であり, また安全な治療薬と考えられた。また夜間不眠や俳徊を認める例, 抑うつ状態と易怒性, 興奮を共に認める例, 歩行障害や尿失禁などの身体症状を伴う例など, 向精神薬による治療が困難な例に対して, 抑肝散は特に重要な治療薬の一つと考えられた。
著者
三浦 於菟
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.821-827, 2010 (Released:2010-12-24)
参考文献数
22

東洋医学の独特な理論である気の概念を,主に近世中国の医書より再検討した。気とは,万物を成立させ,生命現象をおこさせるものである。東洋医学の特色である全体観・統一観は,この気の概念によってその根拠が与えられた。生体の機能を気,肉体を形成するものを血と呼ぶ。血とは滋養分であり,気より形成されたものとされ,いわば異名同類のものである。気と血の概念により,体全体を考慮した疾病把握,各臓器相互の関連性の重視,機能と物質(肉体)は分離できないという認識を生み出させた。気は消化管と肺(後天の気),生まれ持った気(先天の気)から形成される。「こころ」は気によって出現し,気の概念によって「こころ」と身体の関連性,一体化が理論化された。気の病態は,(1)気の能力の低下(気虚と陽虚)と(2)気の循環失調(気滞・気逆)の二つに分類される。これらを合わせた病態に中気下陥がある。気とは,現実的かつ有用性がある東洋医学独自の生理病態観といえる。

2 0 0 0 OA 歯痕舌の臨床

著者
村松 睦 村松 慎一
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.31-35, 1991-07-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
10
被引用文献数
2 2

舌所見の中で, 比較的認識が容易であり, 病因以外の影響の少ないものとして歯痕舌がある。歯痕舌の臨床像を検討し, その漢方的発生病理の考察を行った。歯痕舌は当院内科外来患者の9.6%に認められ, 稀なものではない。陰病期の水滞, 脾虚, 脾腎陽虚証に多く, 少陽病期にも認められた。これらの症例では, 歯痕舌を基本に, さらに詳細な病態分類が可能であり, 補剤, 健脾利水剤などの選択に有用な所見と考えられる。
著者
柴原 直利 嶋田 豊 伊藤 隆 新谷 卓弘 喜多 敏明 後藤 博三 寺澤 捷年
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.43-50, 2000-07-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
20

C型慢性肝炎は高率に肝硬変症へと進展し, 自然治癒の可能性は非常に低いとされている。筆者らは, 和漢薬治療によりC型肝炎ウイルスが消失したC型慢性肝炎の一例を経験した。症例は37歳の女性。1982年の第一子出産時に輸血を受けた。1983年1月頃に全身倦怠感を自覚し, 慢性肝炎と診断され治療を受けていた。1988年に肝生検により慢性活動性肝炎と診断され, 同年5月に当科を受診した。初診時より補中益気湯・桂枝茯苓丸を併用投与し, 自覚症状は改善したが, ALT値は不変であった。しかし, 柴胡桂枝湯合当帰芍薬散投与後より徐々にALT値に改善が得られ, 加味逍遥散料に転方した1996年5月以降は正常化した。ウイルス学的検査においては, 柴胡桂枝湯合当帰芍薬散投与中である1995年3月に測定したHCV RNA定量では104 Kcopies/mlを示したが, 1998年4月以降は検出感度以下となった。
著者
松田 邦夫
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.347-357, 2000-11-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
53
被引用文献数
2 1
著者
木村 容子 田中 彰 佐藤 弘
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.299-304, 2012 (Released:2013-02-14)
参考文献数
15
被引用文献数
11 12

目的:当帰四逆加呉茱萸生姜湯が有効な冷え症のタイプを検討した。研究デザイン:後ろ向きコホート研究。対象:冷え症患者181名を対象とし,初診時に自覚症状をデータベースに登録した。さらに,外的妥当性を新規28名で評価した。介入:エキス顆粒7.5g/日服用1ヵ月後に評価。評価項目:治療効果の有無。結果:冷えは74%の患者で改善し,頻度および程度(0-4)は各々3.2±0.7から2.1±0.1(p <0.01),3.1±0.7から2.2±0.9(p <0.01)に減少した。治療効果予測の最適モデルとして,胃もたれおよび抑うつを伴わない腸骨窩圧痛の有無が選ばれ,判別予測率は84.4%であった。このモデルを別の28名の患者で検証したところ,予測精度は82.1%であった。結論:胃もたれや抑うつ感がみられず,腹診にて腸骨窩圧痛が認められる冷えの患者で,当帰四逆加呉茱萸生姜湯が有効である可能性が示唆された。
著者
及川 哲郎 米田 吉位 玄 世鋒 小田口 浩 若杉 安希乃 猪 健志 橋口 一弘 滝口 洋一郎 花輪 壽彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.615-620, 2011 (Released:2011-12-27)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

沢瀉湯は,水毒徴候を目標としてめまいに用いられる。しかし,水毒徴候の改善が沢瀉湯の臨床効果に繋がっているか,未だ明確ではない。そこで,沢瀉湯投与症例における症状などの改善度と,水毒徴候の改善度との関連について検討した。沢瀉湯を4週間投与しためまい患者20名に対し,自覚症状に関するアンケート調査や水滞スコア判定,各種平衡機能検査を施行,これらをスコア化したのち,投与前後における各項目間の関連につき統計学的に解析した。その結果沢瀉湯投与後において,めまいと随伴症状を合わせた全自覚症状の改善度は,水滞スコア改善度と有意に相関した。平衡機能検査改善度に関しては,水滞スコア改善度と関連する傾向が認められた。これは,沢瀉湯の臨床効果と水毒徴候の改善がある程度関連することを示唆し,条文の記載を裏付ける知見である。従って,水毒徴候の存在は沢瀉湯の使用目標として一定の妥当性を有すると考えられる。
著者
猪 健志 小田口 浩 若杉 安希乃 及川 哲郎 花輪 壽彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.86-92, 2013 (Released:2013-09-13)
参考文献数
27
被引用文献数
1 4

耳鳴は現代医学ではしばしば治療に難渋する。漢方薬の有効例の報告がいくつかあり,漢方薬が耳鳴の治療法として期待される。今回我々は,慢性耳鳴患者に対する漢方随証治療の有用性についてカルテを後ろ向きに検討した。対象は331例(男性114例,女性217例)であり,平均年齢は57.8歳であった。耳鳴に対する有効率は38.4%であり,随伴症状(めまい,不眠,頭痛等)に対する効果も含めると有効率は64.6%であった。半夏厚朴湯が最も多く処方されており,耳鳴に対する有効率は32.1%であった。また,釣藤鈎を加味することで有意に有効率が高くなった(p < 0.05, Fisher's exact test)。釣藤鈎は,その効能や現代薬理作用から考えて,耳鳴に有効である可能性がある。対象の84%が当院受診前に治療を受けており,前治療に効果のない難治例が多かったと考えると,漢方治療は相当程度有効である可能性がある。