著者
佐藤 武 武市 昌士
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.453-458, 1995-11-20
参考文献数
7
被引用文献数
3 1

精神分裂病の向精神薬療法中に, 抗精神病薬の効果がない症例や抗精神病薬の減量を希望する症例に大柴胡湯の併用を試み, 経過良好であった3症例を経験した。 症例1 (22歳・男性) では, 複雑な環境で育ち, 幻聴などの異常体験や思考障害に加え, 対人場面での異常な緊張症状に悩んでいたが, 大柴胡湯の服用後より頭につっかったものが取れると語り, 漢方薬だけの投与で現在に至っている。 症例2 (26歳・男性) では, 幻聴や被害関係妄想などの知覚や思考障害はないが, 「首が痛い, 回らない, 首筋に音がする」というセネストパチーを主症状とし, 5年間経過した患者で, 大柴胡湯投与後, 首の違和惑が軽減し, 漢方薬のみの処方に至った例である。 症例3 (29歳・男性) は大柴胡湯の投与で抗精神病薬が減量できた症例である。 以上の症例を中医学的にみて「肝火旺」の現象に求めるなら, 大柴胡湯は最も有効な漢方薬であると考えられた。
著者
赤瀬 朋秀 秋葉 哲生 井齋 偉矢 鈴木 重紀
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.655-663, 2000-01-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
7
被引用文献数
5 6 3

1997年12月より1998年2月の3ヵ月間に, かぜ症候群にて調査対象施設を受診した患者875名に関して処方薬の調査を行った。対象患者を西洋薬治療群, 漢方薬治療群, 西洋薬漢方薬併用群に分類し, 平均年齢, 薬剤数, 処方日数を調査し1日当りの薬剤費を算定したところ, 西洋薬治療群では203.8円, 漢方薬治療群では119.6円, 西洋薬漢方薬併用群では215.9円となり, 漢方薬単独で治療した群の薬剤費は西洋薬で治療した場合と比較すると60%ほど安価であり, 経済効率がよいことが明らかとなった。また, 平成10年度の薬効別の医薬品売上のシェアから削減可能な薬剤費を予測すると, 最低でも415億円の削減が可能であることが推測された。以上より, かぜ症候群の治療に, 漢方薬を取り入れることは経済効率が極めて高いことが示唆された。
著者
高島 充 長屋 健 菊名 剛 松多 邦雄
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.635-643, 1997-01-20
被引用文献数
5 3

橈骨動脈を対象とした, 東洋医学的脈診法を機械化した。指に代わる交流型の圧力センサーを独自に開発し, 3個のセンサーの押し当て方を検討した。その結果, 各人各様の腕に対して, 滑り機構付のマンシェットが最適かつ被験者の体動の影響を受けにくいことが確かめられた。経験的な動脈の圧迫圧を回避する目的でマンシェット圧の連続減圧を行い, 減圧過程の信号の中から物理量を探り脈診法の科学的解明を試みた。血流が比まる充分な高圧から連続減圧した場合, 各チャンネルの信号は圧力変化に件って振幅が変化し, 全体で特徴的な振幅パターンが得られた。このパターンから, 減圧に伴ってセンサー列の下へ順次拍動流が押し進む様子が観察され, 中央側, 末梢側センサーに拍動流が到達したときの側圧変化, 開口伝播スピード, 浅手掌, 深手掌動脈弓の開閉が観測可能となった。
著者
小暮 敏明 渡辺 実千雄 伊藤 隆 嶋田 豊 寺澤 捷年
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.349-355, 1997-11-20
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

温経湯が奏効した原発性シェーグレン症候群(pSjS)の三例を報告した。症例1は, 67歳, 女性。1992年4月に目のゴロゴロ感を自覚, 11月砺波総合病院受診。抗核抗体(+), 乾燥性角結膜炎の存在, 唾液腺シンチで分泌低下からpSjSと診断。点眼薬で加療されたが無効のため1995年6月同院東洋医学科受診, 温経湯を投与したところ眼・口腔乾燥症状の軽快が得られ, 6ヶ月後乾燥性角結膜炎の改善が確認された。症例2は73歳, 女性。1987年腰痛で当科受診し和漠薬治療を受けていた。1991年胸鎖関節痛が出現し当科入院。シルマーテスト(+), 抗SS-A抗体(+), 口唇生検でリンパ球浸潤の存在より, pSjSと診断。温経湯の投与後1ヶ月で胸鎖関節痛は消失し, 赤沈などの炎症反応も正常化した。しかし, この例は乾燥症状の改善は得られなかった。症例3は39歳, 女性。1991年6月多関節痛, 口腔乾燥感を自覚し近医受診, 高γ-グロブリン血症, 抗SS-A抗体(+), 唾液腺シンチで分泌低下からpSjSと診断,非ステロイド性抗炎症剤を受けていた。和漢薬治療希望で1994年3月当科受診。多関節痛が強いため, 桂枝加苓朮附湯等を投与し関節痛は軽減。口唇乾燥と月経痛から温経湯に転方, 口腔乾燥感, 目のカサカサは軽快したが, 手関節痛の出現のため2ヶ月後, 桂枝加朮附湯加減に転方した。これらから温経湯のpSjSへの応用の可能性が示唆されるとともに, 乾燥症状だけでなく, 関節痛という腺外症状にも有効であったことから, 本方剤を運用するうえで示唆に富む症例と考えられた。
著者
守屋 純二 竹内 健二 上西 博章 赤澤 純代 元雄 良治 橋本 英樹 金嶋 光男 小林 淳二 山川 淳一
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.87-93, 2014
被引用文献数
1

慢性疲労症候群(Chronic Fatigue Syndrome : CFS)は6ヵ月以上持続する,休息後も改善しない強い疲労感を主症状とする。発熱,睡眠障害,頭痛などの症状を呈し,著しく生活の質が損なわれる。原因として,ウイルスによる先行感染,免疫学的な変調,中枢神経系の,特に海馬における形態的・機能的変化などが報告されている。しかし,明らかな原因は不明で,診断マーカーや治療法は確立していない。<br>今回報告する症例は16歳男子高校生で,インフルエンザ罹患後の持続する発熱と強度の倦怠感などを主訴とした。既に複数の医療機関において約1年間の精査・加療を受けるも原因は不明で,CFSと診断された。当科紹介時に再度CFSの診断基準を満たすことを確認し,三黄瀉心湯エキス7.5g/分3とデュロキセチンを併用したところ,4週後には疲労・倦怠感は軽減した。しかし,熱型は不変,食欲低下を認めたため,補中益気湯エキス7.5g/分3を追加したところ,劇的に症状が改善した。<br>西洋医学的に治療に難渋するCFS のような疾患に対して,漢方治療が有効な治療方法として使用できると考え報告する。
著者
金澤 一郎
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.765-774, 2008-11-20

東洋医学が見直されている。日本では特に保険適用もあり,医学教育の中にも不十分ながら東洋医学が取り入れられてきた。一方,東洋医学そのものには,まだプラセボ効果が払拭できていないところがあり,二重盲検ランダム化比較試験を行う必要がある。東洋医学と西洋医学が互いの利点・欠点をわきまえて統合的に医療を進めることが望ましい。
著者
森田 智 村上 綾 平地 治美 渡邊 悠紀 中口 俊哉 越智 定幸 奥平 和穂 平崎 能郎 並木 隆雄
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.175-179, 2023 (Released:2023-11-23)
参考文献数
12

短時間の鍼灸実習が与える教育効果を明らかにするため,病院実習中の医学部5年生112名を対象に,体験を含む1時間の鍼灸実習および実習前後でのアンケート調査を実施した。全10項目のうち8項目において,実習後に「はい(思う)」の割合は有意に大きく,ポジティブな変化が得られた。実習前と後の変化幅が大きく現れた項目は,「科学的だと思いますか?(実習後に+47.4%)」,「全般的に,どのようなイメージをもっていますか?(+39.3%)」,「将来,鍼灸を取り入れたいと思いますか?(+39.3%)」であった。伝統医学を学ぶ機会はさらに確保されることが望ましいが,時間や人員が有限であるという問題点も改善策が必要となる。本調査により,短時間の実習で有益な教育効果が示されたことは,鍼灸実習実施の重要性を示しており,他の医学部学生や医療系学部の学生に対しても同様に期待できる可能性を示している。
著者
笛木 司 吉田 理人 田中 耕一郎 千葉 浩輝 加藤 憲忠 並木 隆雄 柴山 周乃 藤田 康介 須永 隆夫 松岡 尚則 別府 正志 牧野 利明
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.336-345, 2018 (Released:2019-08-01)
参考文献数
16
被引用文献数
1

中国天津市及び上海市の上水道水を用いて「ウズ」の煎液を調製し,煎液中のアルカロイド量を,新潟市上水道水を用いた場合と比較した。中国の上水道水を用いて調製した煎液中のアコニチン型ジエステルアルカロイド(ADA)量は,新潟市上水道水を用いた場合に比べ有意に少なく,この原因として,中国の上水道水に多く含まれる炭酸水素イオンの緩衝作用によりウズ煎煮中のpH 低下が抑制されることが示唆された。また,ウズにカンゾウ,ショウキョウ,タイソウを共煎した場合,ウズ単味を煎じたときと比較して煎液中ADA 量が高値となり、さらにこの現象は中国の上水道水で煎液を調製した場合により顕著に観察された。煎じ時間が一定であっても,用いる水や共煎生薬により思わぬADA 量の変化を生じる可能性が示唆された。また『宋板傷寒論』成立期の医師たちが,生薬を慎重に組み合わせて煎液中のADA 量を調節していた可能性も考えられた。

2 0 0 0 OA 医の心

著者
松田 邦夫
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.103-112, 2011 (Released:2011-07-08)
参考文献数
55

漢方医学の最盛期であった江戸時代を中心とした名医といわれた12人を選び,彼らがその弟子に,診察治療の心構えをどのように教えていたかを検討し,現代の漢方医学を学ぶ者が優れた漢方医になるための参考点を探った。その結果,名医とは,病人を治せる知識や技術を持つことは当然であり,さらに人の心をわかる誠実な医師でなければならないと結論づけた。漢方を学ぶことは,観察力を鋭くする。現代医学に加えて漢方および医のこころを学ぶならば名医に近づけると考える。
著者
神谷 浩
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.191-195, 1993-10-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
12
被引用文献数
2 1

歯肉の発赤, 腫脹, 疹痛, 出血, 排膿などの炎症症状が著明に認められる炎症型 (実熱証型) 歯周疾患の急性発作期に対し, 清熱作用を持つ黄連解毒湯と排膿散及湯の投薬目標 (証) を想定し投薬を行った。黄連解毒湯の証は, 歯肉が腫脹し発赤の程度が強い歯周炎, あるいは歯肉発赤と出血が認められる歯周炎と想定した。排膿散及湯の証は, 歯肉が腫脹しているが発赤の程度が弱い歯周炎, あるいは排膿が認められる歯周炎と想定した。黄連解毒湯, 排膿散及湯とも各10症例に投与し, 良好な結果が得られた。炎症型 (実熱証型) 歯周疾患の急性発作期において, 想定した投薬目標 (証) で, 黄連解毒湯と排膿散及湯のエキス剤が有効であると考えられた。
著者
髙橋 京子 髙浦(島田) 佳代子 後藤 一寿
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.422-433, 2022 (Released:2023-07-01)
参考文献数
72
被引用文献数
1

本研究は,日本古来の篤農技術や品種・系統および形態の史的検証と現況調査に基づき,医薬品原料品質の担保と採算性が見込める暗黙知発掘を目的とした。特に,中山間地域活性化を図る候補として期待されるシャクヤク(Paeonia lactiflora Pallas)について,江戸享保期,徳川吉宗が展開した薬草政策以降,国内で育種された大和芍薬のルーツとして,実地臨床で良品とされる「梵天(白花重弁)」と異なる複数の系統基原種を確認した。その中に,幕府保護下の私設薬園(現森野旧薬園)を創始した森野藤助賽郭真写「松山本草」に描かれた赤花単弁の品種も存在した。森野家所蔵文書群から,大和の薬種特産性を示す初出史料を発見し,国内生産地動向や品質系統の管理・栽培技術を考察した。近現代の薬用栽培法では摘蕾・摘花が散見するが,地域文化および薬種専門家の現地取材から,観賞や切り花利用など営利性向上の可能性を示唆した。
著者
田原 英一 新谷 卓弘 森山 健三 中尾 紀久世 久保 道徳 斉藤 大直 荒川 龍夫 寺澤 捷年
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.957-961, 2003-09-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
8

療養型病床群における高齢者の性的逸脱行動に桂枝加竜骨牡蛎湯が有効であった2例を報告する。症例1は71歳男性で, 前立腺肥大症の術後リハビリテーション目的で入院となった。入院後まもなくから自慰行動が出現し, 他の女性入院患者や介護職員が不快感を訴えるようになった。桂枝加竜骨牡蛎湯を投与したところ自慰行動は消失した。症例2は90歳男性で, 脳梗塞のリハビリテーションのために入院となった。入院後半年ほどして卑猥な言葉を言ったり, 他の女性患者の体を触るようになった。桂枝加竜骨牡蛎湯を投与したところ, 性的逸脱行動は軽減した。桂枝加竜骨牡蛎湯は痴呆による高齢者の性的逸脱行動に有効な治療法となると示唆される。
著者
河尻 澄宏 木村 容子 伊藤 隆
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.295-299, 2018 (Released:2019-02-27)
参考文献数
20

<緒言>胃食道逆流症(GERD)は胃食道症状に加え,咽喉頭違和感などの食道外症状を起こすことがある。今回,GERD による咽喉頭違和感に対し,清熱補血湯が有効であった症例について報告する。<症例>72歳女性。X年2月に咽喉頭のヒリヒリ感が出現し,耳鼻咽喉科では異常を指摘されず,上部消化管内視鏡検査で逆流性食道炎を認め,ラベプラゾールで症状の改善を認めた。同年9月に再燃し,11月に当院受診。皮膚・目の乾燥症状,浅い眠り,足の冷え等の血虚に伴う症状を多く認めたため,清熱補血湯を処方した。ヒリヒリ感は速やかに改善し,2ヵ月で消失した。また,皮膚や目の乾燥症状および不眠も改善した。<考察>清熱補血湯は血虚,燥熱による口舌の潰瘍・びらんなど口腔局所の炎症を治す方剤として理解されてきた。しかし,今回の症例を通じて,本方剤の作用が口腔局所だけでなく GERD による咽喉頭症状にも及んでいる可能性が示唆された。
著者
前田 ひろみ 伊藤 ゆい 吉永 亮 土倉 潤一郎 上田 晃三 井上 博喜 矢野 博美 犬塚 央 山口 昌俊 藤野 昭宏 田原 英一
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.218-222, 2015 (Released:2015-11-05)
参考文献数
13
被引用文献数
1

ばね指は,手のA1輪状靭帯の部位に狭窄を生じ円滑な指屈伸動作が阻害されることにより発症し,西洋医学的には消炎鎮痛剤,ステロイド剤注入,手術等で治療される。今回温経湯が奏効したばね指の3症例を報告する。症例1は71歳女性。腹部膨満感に対して漢方治療中に右第3指のばね指を発症し,口唇乾燥と手足のほてりを認めた。 症例2は56歳女性。手指の多関節痛に対して漢方治療中に左第4指のばね指を発症し,手のほてりを認めた。症例3は71歳女性。慢性腎不全で加療中に,左第1指のばね指を発症した。手のほてりや口唇乾燥を認めなかったが,皮膚の枯燥感を認めた。温経湯は,手掌煩熱や口唇乾燥を使用目標としており,補血・駆瘀血作用や抗炎症作用,滋潤作用を有する生薬で構成されている。温経湯のこれらの作用が,ばね指改善に寄与した可能性がある。