著者
山本 昇吾 藤東 祥子
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.347-358, 2011 (Released:2011-09-15)
参考文献数
28
被引用文献数
1

再発性眼疾患に対して再発防止の目的で漢方治療を行った症例を呈示し,漢方治療の有効性について考察した。眼科漢方30年の経験の中で,再発予防を目的として漢方治療を施した症例は27例あった。疾患の内訳は,再発性麦粒腫,再発性多発性霰粒腫,再発性結膜下出血,再発性糸状角膜炎,再発性角膜ヘルペス,Posner-Schlossman Syndrome,中心性漿液性脈絡網膜症,再発性硝子体出血であったが,随証治療の原則に従い,継続的に漢方治療を施したところ27例中12例で3年以上にわたって再発を認めなかった。再発性眼疾患に対する再発防止は一般に困難と考えられているが,これらの結果は再発性眼疾患に対する漢方治療の有効性を示唆するもので,漢方は今後も試みるべき治療であると考える。また,今回の検討から,再発性疾患に対して治療を施した場合にその治療が有効であると言えるまでの年数に関する一つの基準として3年~4年が妥当ではないかと思われた。
著者
橋本 すみれ 地野 充時 来村 昌紀 王子 剛 小川 恵子 大野 賢二 平崎 能郎 林 克美 笠原 裕司 関矢 信康 並木 隆雄 寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 = Japanese journal of oriental medicine (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.171-175, 2009-03-20
参考文献数
13
被引用文献数
2

線維筋痛症による全身の疼痛に対し,白虎湯加味方が有効であった症例を経験した。症例は65歳女性。自覚症状として,夏場に,あるいは入浴などで身体が温まると増悪する全身の疼痛および口渇,多飲があり,身熱の甚だしい状態と考えて,白虎湯加味方を使用したところ全身の疼痛が消失した。線維筋痛症に対する漢方治療は,附子剤や柴胡剤が処方される症例が多いが,温熱刺激により全身の疼痛が悪化する症例には白虎湯類が有効である可能性が示唆された。
著者
瀧波 慶和 三田 建一郎 長井 篤 山川 淳一 小原 洋昭
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.358-361, 2017 (Released:2018-02-07)
参考文献数
10
被引用文献数
1

77歳男性,主訴:左下顎部痛と重だるさ。左下顎部を中心に痛みがあり,近医で三叉神経痛第3枝領域と診断された。カルバマゼピンの処方により一時的に痛みは治まったが,再度同部位の焼けつくような痛みが出現し,当院ペインクリニック外来に紹介となった。1日に数十回の瞬間的な強い発作があり,うつ気分,食欲不振,意欲低下,口渇,下肢冷感,皮膚乾燥,舌診では紅色,やや腫大し,辺縁歯痕,舌尖紅,白苔。脈診で沈,腹診では腹力は虚(2/5)で心下痞,小腹不仁を認めた。下顎神経ブロックにより痛みは一時消失するが再燃を繰り返す状態で,この間も重だるさは継続していた。初診から35ヵ月後に,重だるさに対して抑肝散エキス7.5g/分3を処方したところ重だるさは消失した。1年6ヵ月経過した現在も下顎神経ブロックおよび鎮痛剤なしで経過している。
著者
阿南 栄一朗 織部 和宏
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.15-21, 2018 (Released:2018-07-04)
参考文献数
18

気道感染後,CO2ナルコーシスを呈したため治療に難渋した症例に大建中湯や人参養栄湯,附子末の加味を行うことで改善した1症例を経験した。症例は,88歳女性。肺結核後遺症,慢性閉塞性肺疾患があり,チオトロピウム,ブデソニド吸入,ツロブテロール貼付を行っていたが,発熱後,呼吸困難が持続し,当院へ救急搬送された。CO2ナルコーシスになっていたため人工呼吸管理を勧めるものの高齢を理由に拒否され,呼吸困難や軽度の意識低下が遷延した。そこで,大建中湯,人参養栄湯,附子末を段階的に加味したところ,呼吸困難,便秘,食欲不振,意識低下の改善,動脈血中CO2濃度の低下,Ph の正常化をみた。慢性呼吸不全が悪化し,CO2ナルコーシスを生じた場合,人工呼吸管理を行うことは第一選択である。しかし,本症例のように,医療処置を拒否され治療継続困難となる場合,呼吸不全の改善に漢方を投与することで症状緩和につながる場合がある。
著者
堀野 雅子
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 = Japanese journal of oriental medicine (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.27-31, 2010-01-20
参考文献数
10

リベド血管炎は,日常診療上対応に苦慮する皮膚疾患のひとつである。リベド血管炎と診断され,難治性の下肢の多発性潰瘍が,漢方治療によって奏効した一例を経験した。症例は23歳の女性で,X‐2年春より打撲傷のような皮疹が出現し,他病院にてリベド血管炎という診断を受けた。X年4月より両下肢に有痛性潰瘍が多発しはじめ,西洋医学的標準治療に抵抗した。X年5月6日より当院漢方治療を開始,約4カ月で有痛性潰瘍は消失した。薬剤は当帰四逆加呉茱萸生姜湯を主に,加工附子末,排膿湯,千金内托散,伯州散,当帰芍薬散を使用した。リベド症状は残っており,完治には長期治療を有すると思われるが,激痛を伴う潰瘍から開放されて,日常生活は正常に戻った。
著者
星野 綾美 小暮 敏明 伊藤 克彦 萬谷 直樹 田村 遵一
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.649-653, 2004-09-20
参考文献数
19
被引用文献数
2 1

遅延化した帯状態疹後神経痛(post herpetic neuralgia:PHN)に対し烏薬順気散料が奏効した一例を経験した。症例は76歳,女性。既往に糖尿病はあるが,食事療法でコントロール良好。主訴は右頬部痛。2002年10月,右頬部の帯状態疹に罹患し近医に入院,アシクロビルの点滴静注を受け皮疹は消失したが,同部位のピリピリする疼痛が持続した。PHNの診断でカルバマゼピン内服に加え,星状神経節ブロックを受けたが痛みは不変であった。Visual analogue scale (VAS)では10cm中7cmの評価であった。5ヵ月間同レベルの疼痛が持続したため,和漢診療を目的に2003年3月31日当科紹介受診。受診時身体所見では,右三叉神経第2枝領域を中心とした,ピリピリする自発痛があったが,味覚や頭頚部の触覚は正常であった。疼痛は持続性で強さには日内変動があり,疲労時に増強する傾向にあった。烏薬順気散料を投与して1ヵ月後には疼痛が軽減しはじめ,2ヵ月後にはVAS2cm となった。3ヵ月後,疲労時以外の疼痛はほぼ消失した。その後も再発はみられていない。本症例の経験から遅延化したPHNにおいても烏薬順気散料を鑑別に挙げる必要性が示唆された。
著者
松本 大樹 木村 容子 佐藤 弘
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.325-329, 2012 (Released:2013-02-14)
参考文献数
17

更年期女性の動悸に対し,桂枝加竜骨牡蛎湯が有効であった症例は報告されているが,冷えに対する効果に言及した報告は認めない。今回動悸と冷えに対し,桂枝加竜骨牡蛎湯が速やかに奏効した症例を経験したので冷えを中心に考察を加え報告する。症例は48歳,女性。2-3年前より動悸,手足の冷えが出現し,X 年5月8日当院を初診。虚証で動悸と不眠を訴え,腹診所見の腹部動悸から,桂枝加竜骨牡蛎湯7.5g/日を投与したところ,服用2週間で動悸,手足の冷えが改善した。1年後に5g/日と減量したが,症状は落ち着いている。今回の症例では,臍上悸を伴う動悸と手足の冷えに対し,桂枝加竜骨牡蛎湯が速やかに奏効した。桂枝加竜骨牡蛎湯はのぼせを伴う上熱下寒型の冷えに限らず,のぼせの訴えがない場合でも,動悸や臍上悸などの気逆によると考えられる所見を伴う手足の冷えには,桂枝加竜骨牡蛎湯を応用できると考えられた。
著者
木村 容子 清水 悟 田中 彰 鈴木 まゆみ 杵渕 彰 稲木 一元 佐藤 弘
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.265-271, 2008-03-20
参考文献数
19
被引用文献数
6 10

抑肝散およびその加味方の有効な頭痛の患者タイプを検討した。対象は,随証治療にて抑肝散およびその加味方を投与した頭痛の患者45人(男性6人,女性39人,中央値38歳,範囲25-68歳,片頭痛34例,緊張型頭痛6例,混合型頭痛5例)とした。年齢,性別,身長,体重と,初診時に認められた体質傾向と随伴症状からなる31項目を説明変数とし,頭痛改善の有無を目的変数として,多次元クロス表分析により最適な説明変数とその組み合わせ検討した。この結果,単変量解析では,抑肝散による頭痛改善に有効な情報は,「眼痛」,「背中の張り」,「目の疲れ」,「イライラ」の順であった。多変量解析では,「眼痛」,「イライラ」,「背中の張り」の組み合わせが,抑肝散による頭痛改善を予測する一番よいモデルとなった。古典的考察を加え,抑肝散およびその加味方は「肝」と関連する頭痛において治療効果を期待できると考えられた。また,抑肝散およびその加味方は,呉茱黄萸で軽快するもののストレスによって再び増悪する頭痛にも有効で,ストレスなどの頭痛発作の誘因や増悪因子を抑えるはたらきがあると推察された。従来,抑肝散には緊張興奮型などの腹証が重要視されてきたが,本研究では興味深いことに,むしろ背部所見に頭痛改善と強い相関を認めた。これまで抑肝散に関する背部所見の有用性について述べた報告はなく,今後は抑肝散証では背診も重要となることが示唆された。
著者
磯部 哲也
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.326-329, 2013 (Released:2014-05-16)
参考文献数
14
被引用文献数
1

多のう胞性卵巣症候群(Polycystic Ovary Syndrome : PCOS)は月経不順や不正性器出血の原因疾患となる。当センターにてPCOS と診断された患者の中で鍼治療を行なった21症例を対象とした。鍼治療6回終了後に迎えた月経周期で超音波断層法および血中エストラジオールとプロゲステロンの測定によって卵胞発育と排卵を観察した。月経開始30日目までに卵胞発育または排卵を認めなかった場合にはピルを投与して消退出血を起こさせ鍼治療を4回追加した後に同様の観察を行なった。鍼治療を10回行なって迎えた月経周期30日目までに卵胞発育および排卵を認めなかった症例を無効とし,それまでに成熟卵胞を認めた症例または排卵した症例を有効とした。有効症例の割合は57.1%となった。有効症例において成熟卵胞を認めるまでに要した平均日数は20.6日であり,成熟卵胞または排卵を認めるまでに要した平均施術回数は7.9回であった。今回の検討によりPCOS 症例に対する鍼治療の有効性が認められた。
著者
藤森 勝也 鈴木 栄一 下条 文武
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.725-732, 2001-01-20
参考文献数
20
被引用文献数
4 3

麦門冬湯(B)は漢方薬で, 気管支炎モルモットの咳嗽を抑制することが知られている。かぜ症候群後咳嗽に麦門冬湯が有効か否か検討した。非喫煙者で, かぜ症候群後2週間以上咳嗽が続き, ACE阻害薬を内服しておらず, 鼻・副鼻腔疾患, 慢性呼吸器疾患, アトピー歴, 胃食道逆流症がなく, 胸部単純X線, 呼吸機能, 抹消血好酸球数, CRP, 血清IgE値に異常のない症例を適格症例とした。適格症例を, 無作為にBエキス顆粒9g/日と臭化水素酸デキストロメトルファン(D)60mg/日の1週間内服群に分け, 咳日記(咳点数0-9点に分布)を用いて, 2群間の咳嗽抑制効果を比較検討した。B13例, D12例で検討した。両群で, 年齢, 性, 来院時の咳点数, 咳嗽持続機関, 検査成績に有意差はなかった。B, D両群で有意な咳嗽抑制効果が認められたが, Bでは2日目より, Dでは3・6・7日目に, 有意に咳点数が低下した。BはDに比し, 2日目で咳嗽抑制効果が強かった(P<0.05)。両軍に重篤な副作用を認めなかった。以上より, 麦門冬湯は, 非喫煙者のかぜ症候群跡咳嗽に有用で, 内服後すみやかに咳嗽抑制効果を現すと考えられた。
著者
有島 武志 佐々木 一郎 吉田 麻美 深尾 篤嗣 大澤 仲昭 花房 俊昭 石野 尚吾 花輪 壽彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.69-74, 2007-01-20 (Released:2008-09-12)
参考文献数
14
被引用文献数
1

我々は, バセドウ病発症に伴い, 精神変調を来した, もしくは精神変調が悪化し, 西洋医学的治療により甲状腺機能が正常化したにも関わらず精神変調の改善が無く, 漢方治療を併用することで改善を認めた2症例を経験した。症例1は, 24歳女性。2000年にバセドウ病と診断され, 抗甲状腺剤による治療が開始され, 機能正常となったが, イライラ感, 不安感, 絶望感等の精神変調が改善しないため2005年2月来院。症例2は, 26歳女性。高校卒業後, 就職を契機にバセドウ病を発症。抗甲状腺剤による治療が開始されたが, 甲状腺機能は不安定で軽度の亢進と低下を繰り返し, その間にイライラ感, 疲れやすい, 気力減退, 脱毛等の症状が悪化し, 2005年1月来院。2例とも桂枝甘草竜骨牡蠣湯合半夏厚朴湯を処方 (症例1は経過中変方有り) し, それぞれ16週, 9週後には症状は著明に改善した。精神変調を併発したバセドウ病に対する漢方治療の有用性が示唆された。
著者
Eiichi TAHARA Tadamichi MITSUMA Yutaka SHIMADA Takashi ITOH Katsutoshi TERASAWA
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
Kampo Medicine (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.341-348, 1997-11-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
17
被引用文献数
1 2

今回我々はバセドウ病による甲状腺機能亢進症に対して抗甲状腺剤を用いることなく, 漢方方剤のみによる治療を行い, 寛解に至った症例を報告した。症例1は47歳, 女性。約2年前より動悸, 体重減少, イライラ感, 耳鳴, めまい感など多愁訴。TSH低値, fT3・fT4・TBII高値, 123I 24時間摂取率高値からバセドウ病と診断。動悸などを目標に炙甘草湯を処方。その後証に応じて柴胡加龍骨牡蛎湯などを併用した。1年10ヶ月後には, TSH, fT3, fT4, TBIIとも正常化し, 以後現在まで正常域。症例2は40歳, 女性。3年前より動悸出現。近医で甲状腺機能亢進症を指摘され, 約2ヶ月間チアマゾールを内服。初診時TSH低値, fT3・fT4正常, TBII高値。動悸などを目標に炙甘草湯を処方。約3週後にチアマゾールを自己中止。証に応じて柴胡加龍骨牡蛎湯などを併用した。fT3, fT4は徐々に増加したが動悸は消失。10ヶ月後からfT3・fT4は徐々に低下傾向にある。甲状腺機能亢進症に対して抗甲状腺剤を用いることなく, 漢方治療のみで寛解に至らしめ得る病態のあることが示唆された。
著者
矢数 道明 真柳 誠 室賀 昭三 小曽戸 洋 丁 宗鉄 大塚 恭男
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.103-112, 1987
被引用文献数
3

筆者らは日本の医科・歯科・薬科大学 (学部) における, 伝統医学教育についての調査を実施した。本報では当調査結果のうち, 以下の項目に関する統計分析を報告した。<br>1) 伝統医学教育における問題点<br>2) 教育の展望<br>3) 今後導入がなされるべき課程<br>この結果, 伝統医学教育を未実施校の過半数がその理由に教育時間不足と担当者の不在を挙げること。現在実施中と今後実施の可能性のある校を合わせると, 全体平均では37%に達っすること。医科・歯科大学では, 今後は臨床医学系教科と自由講座中にて教育が導入される傾向の高いこと。薬科大学では, 現況の独立教科以外に自由講座・卒後教育などにも導入が進む傾向のあることが知られた。
著者
遠藤 次郎 中村 輝子
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.435-444, 2005-05-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
19
被引用文献数
2 1

初代曲直瀬道三 (1507-1594) 原著, 二代目曲直瀬道三 (曲直瀬玄朔, 1549-1631) 増補と言われている江戸時代のベストセラー,『衆方規矩』を検討し, 以下の結果を得た。(1)『衆方規矩』は, 曲直瀬玄朔の弟子, 岡本玄冶 (1587-1645) が口述し, 岡本玄冶の弟子が編纂したと推測される。(2)『衆方規矩』に収載されている処方の70%は〓廷賢の医方書からの引用である。彼の著作の中でも, 殊に『万病回春』からの引用が多く,『衆方規矩』の処方の約60%は『万病回春』からの引用である。(3)『衆方規矩』は「基本処方とその加減方」という医学体系を基本にしている。本書が『万病回春』を採用した理由として,『万病回春』が加減方を数多く記していることが挙げられる。(4)『衆方規矩』には非常に多くの版本があるが, それらは3つの系統に大別される。
著者
鈴木 達彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.289-298, 2010 (Released:2010-09-07)
参考文献数
29

『古今方彙』の各種版本における引用の傾向,甲賀通元の編纂の姿勢,および後代の影響について検討した。1.甲賀通元以前の『古今方彙』は,『万病回春』を初めとする龔廷賢の医書や,『医学入門』などの新方を中心とした処方集である。2.通元は,『刪補古今方彙』,『重訂古今方彙』において,2度考訂している。現在一般的な『重訂古今方彙』は,『万病回春』,『医学入門』,薛己医書等の新方が中心の処方集である。3.通元は処方の増補以外に,旧版の出典文献を訂正し,処方名や処方中の薬物や分量を訂正した。4.原『古今方彙』は,新方を選集する立場に立って成立した処方集であるが,通元の時代に良質の経験方を選集する見方が加わっている。後の日本漢方では経験方が重視されるが,『古今方彙』はその先駆けと見ることができる。5.『衆方規矩』は,基本処方と加減方という体系で治療を組み立てる処方集である。時代が下るとともに同書は『古今方彙』と同じ性格をもつようになる。
著者
伊藤 忠信 村井 繁夫 斎藤 弘子 大久保 昇 斎藤 裕志 道尻 誠助
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.593-601, 1997-01-20
参考文献数
11
被引用文献数
2

柴胡加竜骨牡蛎湯 (SRT) および柴胡桂枝乾姜湯 (SKT) は臨床使用において, 虚実の区別はあるものの, お互いに類似した精神・神経症状が目標とされている。本研究においては, 両薬方の中枢神経に対する影響を明らかにするため, 脳内モノアミン類とその代謝に及ぼす影響について, マウスを用いて比較検討した。1) SRTおよびSKTの単回投与は線条体のドパミン作動性神経伝達物質の含量を増大し, 代謝を促進した。2) SRTの反復投与は視床下部および海馬のドパミン作動性神経系の伝達物質の代謝を促進し, アドレナリン作動性神経系の伝達物質の代謝を抑制した。一方, SKTの反復投与は海馬のドパミン代謝を促進し, セロトニン代謝を抑制した。従って, 両薬方のドパミン作動性神経系の充進作用とセロトニン作動性神経系の抑制作用が, 精神・神経症状の調節に関与しているかも知れないことが示唆される。
著者
山内 智彦 菅野 晶夫 市村 恵一
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.556-558, 2011 (Released:2011-10-21)
参考文献数
6

小児インフルエンザ感染症における麻黄湯の呼吸器合併症に対する効果について検討した。呼吸器系に作用する薬の使用例は,抗ウイルス薬群166例中64例(39%),麻黄湯群80例中12例(15%)と,麻黄湯群で有意に少なかった(P 〈 0.01)。しかし,呼吸器合併症に対する追加治療を行った症例は,抗ウイルス薬群166例中34例(21%),麻黄湯群80例中9例(11%)で,明らかな差を認めなかった(P = 0.07)。追加治療例は,気管支喘息の既往のない例においては,抗ウイルス薬群107例中19例(18%),麻黄湯群67例中4例(6%)と有意差を認めたが(P = 0.045),気管支喘息の既往のある10歳未満の例については,抗ウイルス薬群57例中15例(26%),麻黄湯群5例中4例(80%)であり,症例数は少ないが,後者が有意に多く(P = 0.047),今後注意を要する。
著者
渡邊 武 裏辻 嘉行 堀 達彦 森田 陽一
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.255-272, 1985-04-20 (Released:2010-09-28)
参考文献数
8

『金匱要略』 の土瓜根散は, 原典では, 女子は月経が月に2回ある者, 男子は陰部腫痛に局限されているが, 構成する4つの薬味の薬性薬能から考察すると, 日本人に多発する桂枝湯証に血熱と陳久淤血が加わった病像に適応するものと考えられる。方証一致の古方の観点から, 既報のとおり, 薬方をそれを構成する薬物が所属する気剤, 血剤, 水剤, 脾胃剤の4要因と寒熱の2要因を含めた6要因に分類して, レーダーグラフを作図すると, その方剤が適応する証即ち病像が図示され, 薬方の証が質的量的にやや明細に知ることができる。著者らは投与した薬方をこの要因でレーダーグラフに作図して, それに対応する疾患50症例に単方または加方, 合方で投与して, 顕著な効果をみた。それは男女の性別にかかわらず, また年令的にも幼児から老人に至るまで, 広範囲に適用される。症候別には, 筋骨格結合組織系疾患を筆頭に, 感覚器系と血液体液系疾患を除く各領域にわたっている。血症が淤血を経て乾血に至る過程を, その解除剤である駆淤血剤から考察すると, 土瓜根散は乾血発生の初期または乾血陳久淤血剤投与後の残留淤血解除剤をも兼ねるユニークな方剤として位置づけられる。
著者
小田口 浩 若杉 安希乃 伊東 秀憲 正田 久和 五野 由佳理 金 成俊 遠藤 真理 及川 哲郎 坂井 文彦 花輪 壽彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.1099-1105, 2007-11-20 (Released:2008-09-12)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

長年にわたる先人の経験に基づいて形成されてきた呉茱萸湯証を再考した。84名の慢性頭痛患者に対してツムラ呉茱萸湯エキス (TJ-31) 7.5g/日を4週間投与した。投与後に患者がレスポンダーか否か判定を行った。投与前に43項目からなる漢方医学的所見をとり, レスポンダーか否かを目的変数にした判別分析 (厳密に言えば数量化II類) を施行した。最終判定を行った80名のうち57名がレスポンダー, 23名がノンレスポンダーであった。ステップワイズ変数選択により「 (他覚的) 足冷」, 「胃内停水」, 「胸脇苦満」, 「臍傍圧痛」, 「腹部動悸」の5項目が有用な項目として抽出された。これらを使用した判別分析の誤判別率は35%であった。特に23名のノンレスポンダーのうち20名を正確に判別することができ, この5項目は呉茱萸湯証でない者を除外するのに役立つと考えられた。経験的に形成された呉茱萸湯証に, 「臍傍圧痛」や「腹部動悸」といった徴候も加えることでさらに診断の正確度が増す可能性が示唆された。