著者
中沢 利勝 塩沢 佳幸 説田 和洋 板橋 国夫
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1989, no.7, pp.1103-1110, 1989-07-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
14
被引用文献数
1

3-(2-ナフチルチオ)プロピオンアルデヒド〔1a〕およびそのメチル置換体〔1b,c〕を50%硫酸存在下,エーテル中で反応させると容易に閉環が起こり2,3-ジヒドロ-1H-ナフト[2,1-b]チオピラン-1-オール〔2a〕および対応するメチル置換体〔2b,c〕がほぼ定量的に生成する。〔2a〕をクPtpaホルム溶液中塩酸とともに加熱すると,3H-ナフト[2,1-b]チオピラン〔3a〕がほぼ定量的に,ポリリン酸(PPA)中で加熱すると2,3-ジヒドロ-1H-ナフト[2,1-b]チオピラン〔4a〕のみが70%得られた。また〔2b,c〕を同様に処理すると対応するメチル置換体〔3b,c〕,〔4b,c〕がそれぞれ高収率で得られた。〔2a〕を硫酸触媒存在下アルコール,チオールおよびチオカルボン酸などの求核剤と反応させるとまもの〔2a〕のヒドロキシル基は反応試剤によって容易に置換され,対応するエーテル,チオエーテル,チオカルボン酸エステルが,ほぼ定量的に生成した。さらに硫化水素とはチオールが,N,N-ジメチルチオホルムアミドとはチオギ酸エステルが,塩化テオニルとは塩化物が,それぞれ得られた。また,〔2a〕と臭化アヤをルとの反応では臭化物が,トリエチルアミン触媒存在下での臭化アセチルとの反応ではア竜トキシ体がそれぞれ得られた。1-ナフタレンチオールから得た3,4-ジヒドロ-2H-ナフト[1,2-b]チオピラン-4-オール〔7a〕も〔2a〕とほぼ同様の結果を示した。以上,〔2〕のヒドロキシル基は酸触媒存在下で,種々の求核剤により容易に置換されたが,アミン類による置換は,酸塩基触媒ともいずれも進行しなからた。
著者
砂本 順三 佐藤 智典
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1989, no.2, pp.161-173, 1989-02-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
70
被引用文献数
4

卵黄レシチンリポソームの構造強化と標的指向性を達成するために, 本研究では疎水性アンカーとしてパルミトイル基やコレステリル基で一部修飾した天然由来多糖でリボソーム表面を被覆した。多糖被覆リボソームの構造安定性は, 内包蛍光ブローブの流出抑制およびリボソームの酵素的分解抑剃により確認された。また多糖の構造に依存した標的指向性も発現した。すなわち, アミロペクチンやマンナン誘導体で被覆したリボソームは貧食細胞との親和性に優れ, 動物に静脈投与したのち肺への特異的な集積がみられた。この特異性を利用して, 抗菌剤 (アンホテリシンB, ミノサイクリンおよびシソマイシンなど) や免疫賦活剤 (ポリアニオンポリマー) をこれらの多糖被覆レポソームにカプセル化することで, それぞれ, 細胞内増殖菌に感染した動物モデルでの抗菌活性およびマクロファージの活性化を顕薯に向上することに成功した。つぎに, がん細牌への特異牲を付与するために, プルラン被覆リポソームへ抗体を化学的に結合した immunoliposomeを作製した。認識素子として CSLEX1 のサブユニット IgMs を結合したリボソームは, 特異がん細胞との高い結合性および, PC-9 肺がん移植マウスでの腫瘍指向性を示した。また, 抗がん剤アドリアマィシンを immunolipasame にカプセル化することで, 動物モデルでの顕著な腫瘍増殖抑制効果も観察された。
著者
肥田 宗政 三井 利幸 藤村 義和
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1989, no.6, pp.972-976, 1989-06-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
3
被引用文献数
2

合成樹脂の構造推定を行なう一手段として, パーソナルコンピューターを使用した多変量解析法の適用を試みた。まず, 14個の構造のわかった既知の合成樹脂と, 3個の構造のわからない未知の合成樹脂について, それぞれに熱分解ガスクロマトグラフィーを行なった。つぎに, 個々のパイログラムをピーク高と保持時間をもとに数値化し, 多変量解析のためのデータとした。多変量解析において, クラスタ憎分析では, ウォード法, 主成分分析では, 合成変量の分散を最大にする方法, 因子分析では, 規準パリマックス法を使用して, 距離, 主成分得点, 因子得点を計算した。得られた数値を総合的に判断して, 未知の合成樹脂の構造推定を行なった。その結果, 未知試料は, 高圧ポリエチレンあるいは, ポリ-1, 2-ブタジエン, 未知試料2は, 既知試料中に特に類似したものはなく, 未知試料3は, 天然ゴムとの類似盤が高いことがわかった。
著者
野平 博之
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1989, no.6, pp.903-914, 1989-06-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
67
被引用文献数
4

優先晶出法およびジアステレオマー塩法など, 主として選択的な結晶化現象を利用した光学活性体の効率的な取得方法の研究を行なった。優先晶出法においては, 自然分晶する化合物の検索方法を提示し, この方法により新たに多数の自然分晶する化合物を見いだした。また, 優先晶出法において, 分割効率をいちじるしく向上させることができる共存塩法を開発した。さらに, ラセミアミンとラセミカルボン酸の組合せにおいて, その難溶性ジアステレオマー塩が自然分晶する例をいくつか見いだし, これによりラセミ体同士の組合せから4種類の活性体を一挙に得る方法を提示した。ジアステレオマー塩法においては, できるかぎり効率の高い分割剤の検索方法を提示し, この方法を用いて種々の生理活性をもつ化合物をはじめ, 多数のアミン, カルボン酸, アルコール類の光学分割を行なった。さらに, 新しい合成光学分割剤として, trans-およびcis-2-ベンズアミドシクロヘキサンカルポン酸 ([1]および[4])とcis-2-(ベンジルアミノ)シクロヘキサンメタノール[23]を提案し, これらが合成光学分割剤として有用であるとを示した。
著者
玉野 美智子 中林 幹夫 纐纈 銃吾
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1989, no.5, pp.891-894, 1989-05-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
10
被引用文献数
2

9-(Acyloxy)anthracenes were synthesized by the reactions of anthrone (9(10 H)-anthracenone) with acyl chlorides.Treatment of these substances with various metal halides in benzene under reflux gave the corresponding 10-acylanthrones and anthrone.
著者
巣山 隆之 曽我 卓生 宮内 一憲
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1989, no.5, pp.884-887, 1989-05-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
19
被引用文献数
10

It was found that amines added to the N-cyano group on cyanoguanidines in the presence of FeCl3 or ZnCl2 under mild conditions. For example, the reaction of cyanoguanidine [2a] with butylamine, proceeded at room temperature in the presence of FeCl3 to give butylbiguanide [1a] in 99% yield. Similarly, [2a] or N-cyano-N'-phenylguanidine [2b] reacted with diethylamine, benzylamine, hexadecylamine, octadecylamine and aniline at room temperature or under reflux in dioxane or tetrahydrofuran to give the corresponding biguanides [1].In the presence of ZnCl2, [2] and two equivalents of amines were heated in refluxing dioxane. The initial products, biguanides [1]-ZnCl2 complexes, were readily hydrolyzed by aqueous ammonia or amines to give hydropchlorides of [1].When N-substituted-N'-cyano-S-methylisothioureas [3] reacted with primary amines in the presence of FeCl3 or ZnCl2 the addition to the cyano group and the substitution of the methylthio group with amines occurred at the same time to yield the corresponding [1].
著者
山本 忠 漆間 貴史 幸本 重男 山田 和俊
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1989, no.4, pp.760-763, 1989-04-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
18
被引用文献数
1

A new method for the preparation of (Z)-4-alkylidenebutenolides is described. Coupling reaction of acetylenic stannanes with enol triflates of β-keto esters gave the corres ponding (Z)-2-alken-4-ynoates which were hydrolyzed and then subjected to cyclization in the presence of HgO to give moderate yields of (Z)-4-alkylidenebutenolides.
著者
杉岡 正敏 青村 和夫
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1973, no.3, pp.471-476, 1973
被引用文献数
2

いろいろの固体触媒によるエタンチオール(ET)の接触分解をパルス反応器を用いて行なった。この結果,エタンチオールの分解に活性を有している触媒はB酸点を有しているNHY-ゼオライト,固体リン酸(SPA),シリカ-アルミナ(SA)ばかりではなく, Al,08およびアルカリ金属ゼナライト,MeY(Me=Li, Na, K, Rb, Cs)のようにB酸点を有していない触媒もまた分解活性を示すことがわかった。しかしながら,CaO, MgOのような固体塩基は不活性であった。エタソチオールの分解生成物はNH,Y, SPA, SAおよびMeYではエチレンと硫化水素のみであったが, A130,ではエチレンと硫化水素とともにかなりの量のジエチルスルフィドが生成した。<BR>NH,Y, SPA, SAおよびA1203によるETの分解はピリジンで被毒されたが, MeYでは被毒されなかった。さらに,NH,YとSPAのエタンチオール分解活性は触媒の焼成温度の上昇とともに低下し,その活性低下はクメン分解の活性低下とよく対応していた。<BR>以上の結果から,エタンチオールの分解に対するNH,Y, SPA:およびSAの活性点はB酸点であるが,A1203とMeYではB酸点とは異なると考えられたので,その活性点に関して考察を加えた。
著者
江島 清 湯浅 真 西出 宏之 土田 英俊
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1988, no.11, pp.1846-1851, 1988-11-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
24

2-[trans-2-[[L-[2-hexadecylcarbamqy1-1-[[3-(2-methyl-1-imidazoly1)propy1]carbamoyl]]ethyl]carbamoyl]ethenyl]-5,10,15,20-tetrakis(α,α,α,α-o-pivalamidophenyl)porphyrinatoiron(II)[1]は界面活性剤であるポリ(オキシエチレン)誘導体やリン脂質との相溶性がよく, 高い効率でミセルやリポソームに包埋され, 水溶液に可溶化した。ミセルまたはリポソームに包埋した [1] の水溶液中での酸素および一酸化炭素の結合親和性はそれぞれ 30~40mmHg, O.02mmHg で, 赤血球のそれらに類似した値であった。酸素および一酸化炭素の結合・解離速度定数も赤血球の値に近かった。
著者
江島 清 長谷川 悦雄 松下 洋一 西出 宏之 土田 英俊
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1988, no.11, pp.1836-1845, 1988-11-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
14
被引用文献数
1

3種類の 2-位置側鎖にイミダゾリル置換基をもつ 5, 10, 15, 20-tetrakis(α, α, α, α-o-pivalamidophenyl)porphyrinatoiron(II) 誘導体 [12], [14] および [15] を合成した。5, 10, 15, 20-tetrakis(α, α, α, α-o-pivalamidophenyl)porphyrin[1] の銅(II) 錯体 [2] は, Vilsmeier 試薬と反応して 2-ホルミルポルフィリナト銅(II) 誘導体 [3] を与えた。[3] を濃硫酸で処理して銅が脱離した [4] を得た。これは, Knoevenagel 反応で 2-(trans-カルボキシエテニル)ポルフィリン誘導体 [7] を, 水素化ホウ素ナトリウム還元で 2-(ヒドロキシメチル)ポルフィリン誘導体 [5] を与えた。[5] にホスゲン, 1-(3-アミノブロピル)イミダゾール, および臭化鉄(II) を順次反応させて [12] を得た。[7] の鉄(III) 錯体 [13] に2種のイミダゾール誘導体をアミド縮合させて, [14] および [15] を得た。[5] と比較して [14] と [15] は, 鉄(II) フリーの状態で不安定であり, 置換基の種類によってイミダゾリル基をもつ 5, 10, 15, 20-terakis(α, α, α, α-o-pivalamidophenyl)porphyrin の安定性に差が見られた。
著者
江島 清 長谷川 悦雄 松下 洋一 西出 宏之 土田 英俊
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1988, no.10, pp.1713-1718, 1988-10-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
10

5,10,15-tris(α,α,α-o-pivalamidophenyl)-20-[α-o-[4-[[12-(1-imidazelyl)dodecyl]carbamoyl]-2,2-dimethylbutanamido]pheny1]porphyrinatoiron(II) [9] を合成した。5,10,15,20-テトラキス(α,α,α,α-o-アミノフェニル)ポルフィリン [4] に 1.2当量の4-エトキシカルボニル-2,2-ジメチルブタノイルクロリド [3] および過剰量のピバロイルクロリドを順次反応させたのちエステルを加水分解し, 5,10,15-tris(α,α,α-o-pivalamidophenyl)-20-[α-o-(4-carboxy-2,2-dimethylbutanamido)phenyl]porphyrin [7] を得た。これに 1-(12-アミノドデシル)イミダゾール [7'] を縮合させて, 5,10,15-tris(α,α,α-o-pivalamidophenyl)-20-[α-o-[4-[[12-(1-imidazolyl)dodecyl]carbamonl]-2,2-dimethylbutanamido]Pheny1]Porphyrin [8] を得た。この化合物は化学的に安定であり, 対応する既報の 5,10,15-tris(α,α,α-o-pivalamidophenyl)-20-[β-o-[5-(1-imidazolyl)pentanaido]phenyl]porphyrin が光と酸素の共存下で迅速に分解するのと対比される。[9]のとり得る立体配座をあわせ議論した。
著者
木村 純二 平 潔 後藤 伸治 泉水 裕二
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1988, no.7, pp.1122-1123, 1988-07-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
12

Conformational analyses of 2′, 3′-O-methylene- [1], 2′, 3′-O-isopropylidene- [2], 2′, 3′-O-isobutylmethylene- [3], 2′, 3′-O-diheptylmethylene- [4], and 2′, 3′-O-diphenylmethyleneuridine [5] are examined by interpretation of proton magnetic resonance coupling constants and quantitative application of the nuclear overhauser effect (NOE). Dihedral anglesφ 1′, 2′ and φ 3′, 4′ in DMSO-d6 at 22±1°C are slightly broadened in the order [1]>[2]>[3]≅[4]≅[5] because of the effect of steric barrier of alkylidene group. Under the same conditions, these compounds are found to exist primary in the syn-like conformation from NOE measurement. It is clarified that the population of the anti-conformation such as 2, 2′- and 2, 3′-anhydro nucleosides increases ([4]>[5]≅[3]>[2]>[1]) with the increase of bulkiness of the substituent of 2′, 3′-O-alkylidene group.
著者
田代 田鶴子
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1988, no.4, pp.684-690, 1988-04-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
8
被引用文献数
1

cis-ジクロロジアンミン白金(II),(シスプラチン)を凌駕することを目的に合成された白金錯体の抗腫瘍活性をまとめてみた。担体配位子は制がん活性の強さおよび抗腫瘍スペクトラムをかなり限定している。一方,脱離基は水溶性や安定性に影響し,錯体の毒性を規定し,その種類により約30倍の差も見られた。
著者
菅原 享 宮下 晃 三田村 孝 飯田 武揚
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1988, no.4, pp.597-603, 1988-04-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
23

cis-ジクロロジアンミン白金(II)錯体(以下cis-DDPと略記する)には制がん作用があり,現在各種がんの臨床治療に広く使用されている。このcis-DDPは生体内において特異的にがん細胞のDNAと結合し,そのDNAの複製を阻害することが知られている。このような事実を踏まえて,白金錯体の配位子を種々変えた新規の白金錯体の報告が数多くだされているが,担体配位子に硫黄含有配位子を用いた白金族錯体についての研究は,ほとんどなされていない。そこで担体配位子に硫黄含有配位子を用いた白金族錯体であるジクロロ(2-アミノエチルスルポニル)白金(II)錯体およびジクロロ(2-アミノエチルスルポニル)パラジウム(II)錯体を新規に合成し,UV,UV差スペクトル,解離塩化物イオンなどの測定から,これらの白金族錯体のがん細胞障害性,DNAおよびDNA構成ヌクレオシドとの相互作用を研究した。その結果,がん細胞増殖抑制・障害性では,ジクロロ(2-アミノエチルスルホニル)白金(II)錯体ではアドリアマイシン耐性マウス白血病細胞に,ジクロロ(2-アミノエチルスルホニル)パラジウム(II)錯体ではマウスメラノーマ細胞に対してそれぞれがん細胞障害性を示すことがわかった。また,DNAおよびヌクレオシドとの相互作用では,ジクロロ(2-アミノエチルスルホニル)白金(II)錯体とジクロロ(2-アミノエチルスルポニル)パラジウム(II)錯体との結合様式に差異があることが示唆された。
著者
福島 一嘉 高橋 誠 長野 裕友 小山内 州一 吉川 貞雄
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1988, no.4, pp.585-590, 1988-04-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
11
被引用文献数
7

各種N-アルキル置換アルキレンジアミンを合成し,それらを配位子とするビス(ジアミン)ニッケル錯体を用いて,D-グルコース,D-マンノースのC-2エピマー間において,それぞれのC-2エピマー化反応を行なった。その結果,N,N'-ジアルキルエチレンジアミンを配位子とした場合によくC-2エピマー化反応が起こり,平衡まで達することがわかった。さらに,置換基と,して長鎖アルキル基を導入すると,アルキル鎖長が長いほど平衡点がグルコース側に偏り,エピマー間に優位差が生じることがわかった。これは遷移中間体である含糖錯体の,糖とジアミンの結合部分の立体化学によると考えられる。また,糖のエピマー化反応において,ジアミンニッケル錯体は触媒として働き,糖の1/10程度の濃度でも活性が落ちないことがわかった。さらに,カルシウムとモノアミンを用いた系でC-2エピマー化を検討した。この場合,エピマー化と同時にエンジオール転移によると考えられるフルクトースの生成も見られた。
著者
花木 昭 伊古田 暢夫 本野 和彦 山内 脩
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1988, no.4, pp.578-584, 1988-04-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
34

2個のロイシン(Leu)残基と,1個のグリシン(Gly)残基をもつトリペプチドジアステレマーの銅(II)錯体生成における立体選択を電位差滴定で,錯体における側鎖の相互作用を円偏光二色(CD)法を用いて研究した。側鎖をもつアミノ酸残基が隣りあうペプチド,Leu-Leu-Gly,Gly-Leu-Leuの錯体の安定度定数は,側鎖の相互配置によって異なる。側鎖がキレート平面の同じ側にくるL,L-錯体の方が側鎖が反対側にあるL,D-(およびD,L-)錯体より安定度(錯体形成の選択性)が高い。Leu-Gly-LeuではL,L-錯体とL,D-(およびD,L-)錯体の安定度定数は等しかった。側鎖の相互作用はCD強度(Δ ε)の相加牲から検討した。側鎖の相互配置の差が錯形成能に影響しないLeu-Gly-Leuでは,L,L-錯体のΔ εはL-Leu-Gly-Gly錯体とGly-Gly-L-Leu錯体のΔ ε の和に等しく,L,D-錯体ではL-Leu-Gly-Gly,Gly-Gly-D-Leu錯体のΔ ε の和に等しかった。その他のペプチドでは,L,L-異性体を配位子とした錯体においてのみ相加性は成立した。Δ ε 相加性の基本条件は錯体の基本骨格(平面性)の保持である。L,D-錯体で相加性が成立しない理由として,側鎖同志,または側鎖と配位水との相互作用による錯体の基本構造のひずみが考えられる。
著者
江島 清 松下 洋一 長谷川 悦雄 西出 宏之 土田 英俊
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1988, no.4, pp.518-521, 1988-04-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
18
被引用文献数
1

シクロデキストリンをかぶせた構造のヘム誘導体(以下CD結合ヘムと略記する)を,鉄(II)プロのなトポルフィリンIX(ヘム)の6-,7-位プロピオン酸とα-シクロデキストリン(以下CDと略記する)の第一級ヒドロキシル基をエステル結合またはウレタン結合により結び付ける反応から合成した。CD結合ヘムへ軸配位したイミダゾールの配位平衡定数はヘムの約1/100に低下,,CD結合側からの軸配位がCDの立体障害によって妨げられることを観測した。高分子2一メチルイミダゾールが配位したCD結合ヘムは,-30℃ の水中で寿命の長い酸素錯体を生成した。これらの結果は,CDがヘム面上にかぶさった立体構造を支持する。CD結合ヘムを生体内酸素輸送の目的でラットに静脈内投与した場合,急性毒性はヘムに比較していちじるしく低下する。
著者
西長 明継 杉本 岩雄 松浦 輝男
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1988, no.4, pp.495-499, 1988-04-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
15
被引用文献数
6

反応場の変化に応じてジオキシゲナーゼ型およびモノオキシゲナーゼ型反応の触媒活性を示すコバルト(II)シップ塩基錯体が,酸化剤としてt-ブチルヒドロペルオキシドを用いると置換ベンジルアルコールの脱水素反応を触媒し,高選択的に対応する置換ベンズアルデヒドを生成する。生体内酸化反応におけるヘム錯体の示す多様な触媒活性によく似ていて興味深い。この脱水素反応の活性種はt-ブチルペルオキソコバルト(III)錯体種であって,配位不飽和の状態で強い活性を示すが,ジクロロメタン中では溶媒の関与する自己分解が競争的に起こる。配位飽和状態では活性は低下するが脱水素の選択性は増大する。ベンジルアルコールの脱水素反応に活性なt-ブチルペルオキソコバルト(III)錯体は同様の反応条件下ジベンジルエーテルから脱水素しないので,脱水素反応に対しては基質のアルコール性ヒドロキシル基の関与する機構を含むものと考えられる。
著者
村上 幸人 久枝 良雄 尾崎 俊章 横野 照尚 谷 祐太郎
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1988, no.4, pp.445-451, 1988-04-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
27

ビタミンB12誘導体の反応性に関するアキシアル配位塩基の効果を明らかにするために,α-配位座に分子内塩基を有する疎水性ビタミンB12[Cob(II)(α-Im)6C1ester]ClO4,β-配位座に分子内塩基を有する疎水性ビタミンB12[Cob(II)(β-Im)6C2ester]ClO4,配位塩基でキャップした疎本性ビタミンB12[Cob(II)(Im:cap)5C1ester]CIO4,を合成した。電子スピン共鳴(以下ESRと略記する)スペクトルおよびサイクリックボルタンメトリーによる検討から,これらの錯体はほぼ完全なbase-on型で存在し,分子内配位塩基をもたない疎水性ビタミンB12[Cob(II)7C1ester]ClO4に50倍モルのN-ひメチルイミダゾールを添加した状態に匹敵することを明らかにした。アルキル化反応においては,コバルト+1価は四配位構造のためアキシアル配位塩基の影響は小さいが,アルキル錯体の光開裂反応におヘセいては,アキシアル配位塩基の立体的および電子的効果により反応はいちじるしく促進された。また,β-配位面側に分子内配位塩基が導入された錯体では,コパルト-炭素結合生成反応が抑制された。
著者
山内 脩 小谷 明
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1988, no.4, pp.369-382, 1988-04-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
68
被引用文献数
11

生体系の金属イオンにはタンパグ質に組み込まれて存在するものや低分子錯体として存在するものなどがあり,それぞれなんらかの存在理由をもっている。モデル低分子錯体の挙動を明らかにすることは,生体系低分子錯体の挙動はもとより金属イオンと一般の生体物質との相互作用の様式と役割を理解する基本となるとともに,未知の錯体の存在やその機能を示唆することにもなるであろう。アミノ酸,ペプチドの錯形成反応より,低分子混合配位子錯体に鞍いて静電的相互作用,水素結合,あるいは芳香環スタッキングという弱い相互作用が配位子間に起こりうることが明らかとなった。また,DNAインターカレーターであるいくつかの芳香環含有白金(II)錯体とモノヌクレオチドとの間で希薄水溶液中安定な会合体が形成されることから,これをモデルとして核酸の関与する非共有結合性相互作用のエネルギーに関する知見を得た。