著者
笠岡 成光 田中 栄治 阪田 祐作 内藤 龍之介
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1987, no.12, pp.2267-2274, 1987-12-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
9
被引用文献数
1

フェノール樹脂系繊維状活性炭(ACF)の細孔特性ならびに分子ふるい吸着特性を明らかにし,種々の吸着質分子に適応するACFの至適な製造法確立の資とするために,重合度の大きく異なる(平均分子量:106~90万)8種のポリエチレングリコール(PEG)'の水溶液における吸着等温線(25℃)を測定した。ACFは賦活度の異なる9種を用い,また比較のために5種のヤシ殻系粒状活性炭(ACG)にっいても同様に検討した。ACFは,約4nm径以下のミクロ孔領域にのみ先鋭な単峰型細孔分布をもち,ACGは,ミクロ孔以外にトランジショナル孔およびマクロ轟の幅広い分布をもっている。これらの活性炭への特殊な分子構造をとりうるPEGの水溶液での吸着を試み,,各PEGの分子量と吸着可能な活性炭の細孔径との関係を検討し,分子ふるい吸着効果の顕著に現われる臨界細孔径(最小細孔径)と臨界賦活収率を評価した。得られたおもな結果おまび知見は,つぎのとおりである。,(1)PEGの活性炭への吸着は,ACGに対しても約4nm径以下のミクロ孔に対してのみ起こり,吸着形態は直鎖らせん状の結晶に近いと推定される。(2)活性炭に吸着されうるPEGの臨界分子寸法は,その短軸径によって決まり,約0.4nmである。また,'PEGの吸着可能な活性炭の臨界細孔径は分子量に無関係に約1.8nmである。
著者
三村 均 山岸 功 秋葉 健一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌 (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1989, no.3, pp.621-627, 1989-03-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
13
被引用文献数
4 13

放射能高汚染水中のCsとSrの処理処分法を確立するため, 各種ゼオライトを充填したカラムについてCsとSrの漏出特性を検討した。CsとSrの漏出におよぼす流速(SV)の影響は大きく SV25 で良好なS字形の漏出曲線が得られた。Csにおいては, いずれのゼオライトでもほぼ対称で良好な漏出曲線が得られた。一方, チャバザイトとモルデナイトのカラムからの Sr の漏出では, 流出液中の Sr 濃度が一時的に初期濃度を超え, 漏出比 C/C0が1以上となる“濃縮現象”が観察された。これらゼオライトに対するCsの選択性が高いため, いったん吸着した Sr が Cs により脱着され溶離したためである。濃縮現象は交換吸着が犬きく低下する要因となる。Csに選択性の高いチャバザイト(C)とモルデナイト(M), Srに選択性のあるXとAゼオライトを用いて, これらを混合した混合ゼオライトの漏出特性をその混合比を変えて調べた。CsとSrの漏出が開始するまでの貫流交換容量をくらべると, C/X=1/3の混合系でもっとも高く, 一括除去の混合系として有効である。混合系の全交換容量は加成性が成立ち, 単独ゼオライトの値から容易に推定できる。
著者
荻田 堯 八田 博司 鍵谷 勤
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌 (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1983, no.11, pp.1664-1669, 1983-11-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
17
被引用文献数
7

各種トリハロメタン水溶液に室温で低圧水銀灯の紫外線を照射すると,トリハロメタンの濃度はしだいに減少し,CO, CO2, HCl, HBrなどが生成した。クロロホルム水溶液の場合にはO2が存在する必要があり,バイコールフィルターを用いると反慈は起こらない。また,本反応の物質収支から,クロロホルムの分解はつぎの反応式で表わされる酸化反応であることがわかった。他方,CHBrCl2, CHBr2Cl, CHBr3などのブロモ置換メタン類の場合にはO2が共存する必要はなぐ,反応速度はバィコールフィルターの有無によらない。また,プロモ置換体の分解速度はクロロホルムよりも非常に大きく,HCl, HBrおよびCOが生成した。これらの場合の物質収支から,プロモ置換体の反応はつぎの反応式で表わされる加水分解反応であることがわかった。
著者
酒井 保藏 鈴木 秀一 若林 章一 高橋 不二雄
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1988, no.11, pp.1880-1884, 1988-11-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
10

本研究はリボ核酸 (RNA) から5'-イノシン酸 (IMP) を連続生産するのに水酸化ジルコニウムダイナミック膜を被覆したセラミック膜 (Zr-CM膜) を分離膜として応用することを目的としている。2種の酵素 (5'-ホスポジエステラーゼと AMP(5'-アデノシンーリン酸, 以下 AMP と略す) -デアミナーゼ) を用いて RNA からモノヌクレオチドへの反応と, 生成したモノヌクレオチドの一種 AMP から IMPへの反応を行なった。同時に Zr-CM膜を用いて酵素や未反応 RNA を反応器内に保持しつつ低分子成分である IMP などのモノヌクレオチドを分離した。このメソプランリアクターの操作では沸過された IMP などのモノヌクレオチドに見合う分の RNA を逐次添加している。ここで反応系を定常状態にして RNA から IMP への連続生産を期待した。本研究はその基礎的条件として, 高分子排除率, 透過流束, 酵素活性の時間変化, RNA から IMP への変換率, 炉液中の IMP 濃度などを検討した。その結果, 酵素活性が一定になるように反応途中で失活分に相当する量の両酵素を逐次添加していれぽ高分子排除率, 透過流束, および炉液中の IMP 濃度は一定となり, RNA から IMP の連続生産が可能になること明らかにした。
著者
向山 光昭 岩澤 伸治
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1987, no.7, pp.1099-1107, 1987-07-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
38
被引用文献数
2

二価スズのトリフラートに塩基の存在下,種々のカルポニル化合物を作用させるとすみやかに対応する二価スズのエノラートが生成する。これにアルデヒドを作用させることにより収率よく,また,高立体選択的にsyn-形のアルドール付加体が得られる。この反応は種々のβ-ヒドロキシカルボン酸誘導体,α,β-エポキシカルボニル化合物,カルバペネム系β-ラクタムなどの立体選択的合成に適用できる。また,二価スズのエノラートに光学活性ジアミンを配位子として作用させるだけで,高能率的不斉アルドール反応が進行し,80%ee以上の高い不斉収率でアルドール体を得ることができる。また,触媒量の二緬スズ化合物を用いるアルドール反応もニ価スズと硫黄との親卸力を利用することにより実現できる。さらに二価スズのエノラートを用いるMichael付加反応,キノンとの付加一還元反応など,従来の金属エノラートでは困難とされていた種々の有用な合成反応を開発することができた。
著者
中村 國衛 野元 けい子 大沢 俊彦 高橋 幸男 秋葉 光雄 柿本 紀博
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1994, no.3, pp.307-316, 1994-03-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
3
被引用文献数
2

有機ゲルマニウム化合物,とくにBis(2-carboxyethylgermanium)trioxide[(GeCH2CH2COOH)2O3,Ge-132],Bis(2-amino-2-carboxy-1-phenylethylgermanium)trioxide[GeCHPhCH(NH2)COOH2O3,Ge-373],Bis(2-amino-2-carboxyethylgermanium)trioxide[GeCH2CH(NH2)COOH]2O3,Ge385]の生理活性をinvitroモデル実験系および実験動物(糖尿病ラット)に投与して検討した.Ge-373は,DNAを断片化する作用を示した.この事実から,有機ゲルマニウム化合物が糖に対して特殊な作用を発揮するのではないかと考え,MaiUard反応(non-enzymaticamino-carbonylreaction)における効果の検討を行った.種々アミン酸とリボースを混合しAmadori転移およびAdvancedGlycationEndproducts(AGE)の生成を測定する実験系に,Ge-132またはGe-385を加え,AGE形成を蛍光分光光度計により測定した.有機ゲルマニウム化合物は,Amadori転移産物の形成は阻害しなかったが,AGEの形成を抑制した.とくにGe-385は,いったんできたAGEを可逆的に減少させる作用を発揮した.Streptozotocin(STZ)により誘発した糖尿病ラットにGe-132またはGe-385を100mg/kg/d経口投与し,糖尿病合併症に対する効果を観察した.Glycatedalbumin,fructosamineの低下,レンズ混濁の低下が観察された.糖と有機ゲルマニウム化合物,とくにGe-132との相互作用の様子をNuclearMagneticResonance(NMR)を用いて解析した.Ge-132は糖の1および2位のヒドロキシル基と反応し,糖一有機ゲルマニウム複合体を形成することが判明した.この反応がAmadori転移以降の反応を阻害し,AGEの可逆的可溶化を誘導する化学分子論的機序であろうと考えられる.
著者
安江 任 小澤 聡 荒井 康夫
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.6, pp.767-770, 1986-06-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
26

水道水の軟化, ボイラーのスケール防止, 焼セッコウやボルトランドセメントの凝結遅延に関連し, 水溶液中のカルシウム, マグネシウムイオンを封鎖することを目的として, クエン酸ナトリウ, ショ糖, ブドウ糖, ジグリコール酸などの錯形成能,錯イオンの組成を比較検討した。測定方法には濁度法, 金属指示薬法, イオン選択電極電位差法, 電気伝導度法を用いた。クエン酸ナトリウムおよび糖類のイオン封鎖能は測定方法によってかなり相違し, その理由を考察した。クエン酸ナトリウムはカルシウムイオンに対する封鎖能が大であり, たとえぽpH8.5での封鎖能は26.8g であるのに対してマグネシウムのそれは17.0g であった。本研究で確認した錯イオンのほとんどは結合比が1/1であるが, ジグリコール酸のカルシウム錯イオンにかぎり結合比は1/2であった。また, 錯イオンの多くはpH8.0~9.5の水溶液中でもっとも安定である。
著者
西坂 剛 円入 寛子 竹野 哲 大倉 一郎
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1993, no.7, pp.867-873, 1993-07-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
4

メチレンブルーの光化学治療用光増感剤としての有用性を検討した。その結果,長波長領域の照射光を利用することができ,HeLa細胞に対する殺細胞効果が大きいことがわかった。光照射後の細胞を形態学的に観察すると,照射直後ではあまり変化がみられないが,照射1時間後では,細胞の輪郭を保ったまま核が突出している様子がみられた。メチレンブルーの光化学作用は主としてタイプIIの機構で起こり,その際,一重項酸素をよく生成することがわかった。
著者
雲林 秀徳 佐用 昇 芥川 進 坂口 登志昭 鶴田 治樹
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1997, no.12, pp.835-846, 1997-12-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
62
被引用文献数
7

BINAPを配位子とする遷移金属錯体触媒を用いた不斉触媒反応の開発と工業的合成法の確立について述べる.まず,BINAP-ロジウム触媒を用いたN,N-ジエチルゲラニルアミン(GDEA)の不斉異性化反応を鍵反応とするl-メントール合成の工業化を行った.この工程の工業化は1)異性化基質であるGDEAの合成,2)BINAPの合成,3)ロジウム錯体の簡易合成法,4)触媒反応の高効率化という四つの問題を解決することにより確立した.このプロセスの完成後,不斉触媒反応の開発を続けた結果,BINAP-ルテニウム錯体が近傍に官能基を有するオレフィソ類,ケトン類の不斉水素化反応に有効な触媒であることを見いだした.そして,この不斉水素化反琳を鍵反応とする4-アセトキシ-2-アゼチジノン(4-AA)および1,2-プロパンジオール誘導体(2-PPD)合成の工業化を完成した.特に,4-AAの合成においてはα-置換β-ケトエステル類のジアステレオ選択的不斉水素化反応,つまり,同時に二つの不斉点を制御する方法を開発し,さらにルテニウム触媒を用いたラクタム環への位置選択的アセトキシ化反応を開発することにより工業化を確立することができた.また,本論文では不斉水素化反応を用いたその他医薬品中間体合成の開発についても述べる.
著者
杉谷 嘉則 山崎 裕一 長島 弘三
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1980, no.1, pp.28-32, 1980-01-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
17
被引用文献数
1

サマルスキー石は希土類元素およびニオブ,タンタルを主成分とする酸化物鉱物の一種であるが,ほとんどすぺての試料は,その含有するウランなどの放射線のためにメタミクト化している。さらに,通常成分として上記以外にも多数の元素が含まれている。このような事情により,サマルスキー石は古くから知られている鉱物であるにもかかわらず,その組成,構造などに関して確定的な結論が得られていない。このサマルスキー石に関し,過去の文献データと結晶化学的考察により,組成としてはAB206型(A=Y,ランタノイド元素,U,Caなど,B=Nb,Ta,Fe+3,Tiなど)が妥当であること,また構造に関しては,他の鉱物(コルンブ石,鉄マンガン重石,ユークセン石,イクシオライト)との関連からα-PbO2型構造を基本にもち,かつ構造中でこれらの金属元素がAおよびBの位置を無秩序に占めているものと推定した。この考察に基づき,含まれる成分をY,Ca,U,Nb,Fe,Tiにかぎって焼結法により合成実験を行なった。その結果,天然のサマルスキー石を加熱(1000℃)したものと類似構造をもつ化合物が得られた。天然のサマルスキー石にはカルシウム成分のとくに多いCa-samarskiteが報告されているが,これに対応する合成物も得ることができた。
著者
石井 裕子
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1991, no.1, pp.63-70, 1991-01-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
40
被引用文献数
4

シュウ酸カルシウムは水溶液中で一般には一,二,または三水和物の混合物沈殿として生成する。高温では一水祁物のみが生成するが,本研究によれば少量のクエン酸あるいはリンゴ酸ナトリウムの共存の下で二水和物のみが生成し,やや多量のクエン酸またはリンゴ酸ナトリウムの共存の下で三水和物のみが生成した。シュウ酸カルシウムー水和物の溶解度は6×10-5M程度で二水和物および三水和物が一水和物よりやや大きい。一水漁物の溶解度は100℃ではわずかに大きくなった。シュウ酸カルシウムの一,二および三水和物沈殿の形態はそれぞれ長い六角形板状,八面体および平行四辺形板状である。二および三水和物は不安定で水中で約10分煮沸すると一水和物に転移した。シュウ酸カルシウムー水胸物沈殿の結晶核は誘導時間の測定からCa3(C2O4)3n・H2Oと推定できた。シュウ酸カルシウムー水和物および二水和物は植物の葉または茎に見いだされたものと沈殿粒子との形態を比較し,またX線回折によって同定できた。植物中のシュウ酸カルシウム結晶は極めて安定で一水和物に変化するには1時間以上煮沸することが必要であった。
著者
浦 康一 橋場 功
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1991, no.4, pp.253-260, 1991-04-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
22

選択性除草剤として,フェノキシプロピオン酸エステルあるいはピリジルオキシプロピオン酸エステルが知られている。著者らはフェノキシあるいはピリジルオキシに代わって縮合ヘテロ環を幅広く検討する中,キノキザリン類の中に細葉雑草の除草に卓効のある,有望な化合物群を見いだした。その中で,キザロホップェチル(コード No. NC-302 )は特に強い効力を持ち,茎葉処理型除草剤として企業化された。その工業化に際し,キノキザリン環部の合成は大きな課題の一つであったが,汎用な原料から合成できる簡単な方法を見いだした。また,キザロホヅプェチルは不斉炭素を持ち,光学異性体が存在するが,その有効成分は(R)-(+)体であり,ラセミ体にくらべて2倍の効果を持つ。(0)0(+)体の製造は,分割法ではなく,光学活性な原料を使いラセミ化させない方法で行っている。また,(R)-(+)体は,ラセミ体とは異なり結晶型が二つ存在する。この分測晶析法が発見され,(R)一(+)体の工業化が可能となった。本論文では,特に光学活性キザロホップエチルと,その重要な中間体である2-(4ヒドロキシフェノキシ)プロピオン酸エチルの製造法について,詳しく述べる。
著者
藤田 晴久 福島 紘司 桜井 敏晴 福間 真理子 瀬戸 淑子 藤田 知信 伊藤 光一 篠原 紀夫 由本 靖 石原 俊信
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1990, no.5, pp.566-574, 1990-05-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
10

有機ケイ素化合物の抗腫瘍活性を培養細胞系と実験動物移植腫瘍系を用いて検討した。50種類の化合物には培養細胞系においてEhrlichがん,肉腫-180.Lewis肺がんおよびB-16メラノーマに対して細胞増殖抑制効果を示す化合物が認められ,また,マウス移植腫瘍系においても上記の各固形腫瘍に対して経口投与によって有効な抗腫瘍活性を現わす化合物が見いだされた.中でも2-(2-Trimethylsilylethy1)thiaethylamine(SDK-12A)は最も強い活性を示し,その効果は抗がん剤5-FUのそれに匹敵するものであった。さらに,SDK-12AはLewis肺がんの転移を有意に抑制し.遅延型免疫機能賦活化作用も認められた。またSDK-12Aは実験動物において毒性面では安全性の高い化合物であった。これらの結果は,SDK-12Aが多面的作用を持った特異な化合物であり,抗がん剤開発の研究領域からみて興味ある物質である。
著者
高橋 一正 宇田川 毅 草葉 義夫 村松 岳彦 天野 壮泰 谷岡 慎一 市野 富雄 中野 清志 村上 一方 畔 和夫 奈良部 幸夫 今井 昭生 小西 優介 天田 巌
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1989, no.9, pp.1571-1575, 1989-09-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
4

波長可変レーザー装置を用いてcis-ビタミンK2(cis-VK2)→trans-ビタミンK2(trans-VK2)の光異性化反応を試みた。cis-VK2またはtrans-VK2の溶液に紫外から可視領域のレーザー光を照射し,それぞれの異性化量を測定した。その結果,cis-5-VK2→trans-VK2の異性化に有効な波長は280~460nmであり,とくに435と355nmが高い異性化率を示した。trans-VK2→cis-VK2の異性化反亦も同時に進行するがその速度は遅く,光平衡組成はtrans-VK2/cis-VK27/3となった。また異性化反応は溶媒の影響を受け極性溶媒よりも無極性溶媒が有効であった。cis-VK2→trans-VK2の異性化はテトラプレニル側鎖中のナフトキノン骨格にもっとも近い二重結合で起こり,他の二重結合部では起こらず選択的反応である。窒素雰囲気下でのおもな副生成物はメナクロメノロ一ルであった。これらの結果から異性化反応過程を推定した。
著者
黒崎 博雅 阿南 秀基 木村 栄一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1988, no.4, pp.691-697, 1988-04-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
18
被引用文献数
5

ブレオマイシン金属配位部位の新モデル配位子L1,L2を合成し,水溶液中におけるCu(II)およびFe(II)との錯生成および,それらの錯体の化学的性質についてブレオマイシンと比較検討した。カルバモイル基の存在が,鉄錯体生成には必須であることが,L1,L2の比較により明らかとなり,その理由について考察した。L2の鋼(II)錯体は,3モルのシステイン存在下で鉄(II)錯体と金属交換が起こること,および鉄錯体は分子状酸素を活性化し,DNAを切断することなど,L2はブレオマイシンの挙動によく類似する。そのDNA切断能は,EDTA-鉄錯体とほぼ同じであるが,ブレオマイシンよりは弱いことも明らかとなった。
著者
新村 典康 宮腰 哲雄 小野寺 潤 樋口 哲夫
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1995, no.9, pp.724-729, 1995
被引用文献数
5

試料の形状を問わず,短時間で微量試料の分析が可能な熱分解GC-MS(PY-GC-MS)を用いて漆膜の分析を行った.今回測定に用いた熱分解法は,従来から用いられてきた瞬間熱分解法と比較的新しい手法である二段熱分解法を併用した.瞬間熱分解法は一段法と呼ばれ,混合熱分解クロマトグラムが得られる.これに対して二段熱分解法はポリマー中の揮発性成分と基質ポリマーの熱分解成分を二段階に分けて分析する手法である.従って漆膜のように複合的な天然塗膜の分析には有効な手法であると推定した.本研究では,まず一段法を用い,漆樹液から単離したゴム質,含窒素化合物,ウルシオール成分を分析し,各成分の検出に最適な加熱炉温度を検討した.次に二段法によって,漆膜を熱分解分析した.その結果,ウルシオールポリマー骨格成分の解析を容易に行うことができ,これまで不明であった漆膜の高次の重合機構を解明した.それにより,ウルシオールの塗膜形成時に側鎖一側鎖のC-Cカップリソグや芳香環と側鎖の間のC-Oカップリソグがかなり進行していることが明らかになった.
著者
青山 肇 草柳 賀一 四辻 美奈子 北山 功 山口 友伸 児玉 勉
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.12, pp.1765-1770, 1986-12-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
24
被引用文献数
3

5-フルオロ-2'-デオキシ-β-ウリジン〔5〕の合成法について検討した。Brφnsted酸の存在下,5-フルオロ-2,4-ビス(トリメチルシリルオキシ)ピリミジン〔1〕は立体運択的に3,5-ビス[O-(p-クロロベンゾイル)]-2-デオキシ-α-D-リボフラノシルクロリド〔2〕と反応し,3,5なビス[O-(p-クロロベンゾイル)]-5-フルオロ-2'デオキシ-β-ウリジン〔3〕を高収率で与えた。反応生成物の立体異性体の比率は添加されたBrφnsted酸の種類により変化し,p-ニトロフェノールの存在下では,〔3〕は92%の収率で得られた。β-立体選択性は,モル比〔1〕/〔2〕を上げることにより増加し,下げることにより減少した。一方,この反応に極微量の塩化鉄(III)を存在させると,β-立体選択性は低下し,その値は塩化鉄(III)の濃度に逆比例した。〔1〕と〔2〕との反応はSN1とSN2との両反応機構を経由して競争的に進行し,この反応速度比がβ一立体選択性を定めていると思われる。〔3〕にアンモニア/メタノール溶液を作用させることにより,反応および単離精製が容易になり,高収率で〔5〕が得られた。
著者
横井 弘 菊地 毅光 花木 昭
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.11, pp.1594-1600, 1986-11-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
45
被引用文献数
2

pH10の水溶液中のトリグリシン(グリシルグリシルグリシン),テトラグリシン,ペンタグリシン,ヘキサグリシン,オクタグリシンの1:1銅(II)錯体は,どれもよく似た状況で,単量体との平衡系として,二量体生成をすることがESR法で明らかとなった。さらに,グリシンアミド,グリシルグリシンアミド,ビウレットの銅(II)錯体もpH12で二量体を生成することがわかった。テトラグリシン錯体について,単量体と二量体のESRシグナル強度比の濃度依存性から,単量体と二量体問の平衡定数(0℃付近)が460mol・dm-3と求まった。また,二量体ESRスペクトルのΔM=2遷移強度の温度依存性から,これら二量体のスピン交換相互作用エネルギーは,ほぼ-1cm-1程度であることが推定できた。観測した二量体ESRスペクトルのすべては計算機シミュレーション法で解析し,平行平衝型二量体の構造パラメーターのr(Cu-Cu距離)とξ(Cu--Cu軸と分子面垂線とのなす角度)を推定した。ゆそれによれば,トリグリシン錯体の二量体(r=3.3Å;ξ=40°)は,結晶内の二量体構造と同一であるゆこと,しかし,ほかの錯体の二量体(r=4.0-4.3Å;ξ ≦15°)は,結晶内のものとは一致せず,配位面を真上近くでたがいに重ね合わせたような二量体構造をもつことがわかった。また,この種の錯体が二量化能をもつためには,分子内に2個以上の脱プロトンしたペプチド(アミド基)窒素原子の配位が必要であり,金属イオンとこれら脱プロトンしたアミド基がπ-電子系を構成し,そのような二つの錯体分子間にはたらくいわゆるπ-π 相互作用が,二量化の主要な駆動力と考えられる。
著者
鷹野 景子 細矢 治夫 岩田 末廣
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.11, pp.1395-1403, 1986-11-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
24
被引用文献数
1

古典的な酸化数概念を検討するために分子内のある特定の原子種に注目し,原子のまわりでの精密な電子数解析を,非経験的分子軌道法(ab initio MO method)に基づいて系統的に行なった。対象とした原子種は,H,C,N,O,F,P,S,Clである。正四面体型イオン,XO4n-(X=si,P,S,Cl,Ar)の系列についても計籏を行なった。ある原子を中心とし,半径Rの球における差球平均電子密度,Δρo(R)=ρo(R)-〓 ρoi(R)を種々の精度で計算し,基底関数依存性も調べた。その結果,原子のまわオりの電子数の変化は古典的な酸化数から予測されるほど大きくないが,Δρo(R)の値はわずかながらも段階的な有意の差を示し,古典的な酸化数に比例する量として解釈できることがおかった。このことは無機化合物だけでなく,有機化合物にもあてはまる。さらに,著者らの電子数解析と古典的な概念の間の一致を得るためには,CH,PH,NH,NOのようなイオン性の小さい結合に対して,酸化数の古典的な割りふりをつぎのように小修正すべきであることがわかった。C-H+1 → C-H+0.5 ; P-H+I → P-H0N-H+1 → N-H0.5 ; N-O-II → N-0-1
著者
井本 稔 大内 辰郎
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.4, pp.585-590, 1986-04-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
19
被引用文献数
1

Hückel MO法およびab initio RHF MO法によってラジカル重合における成長反応の活性化エネルギーEp≠ は, ラジカルのSOMOとモノマーのLUMOの固有値の差幅が大きいほど小さくなることを知った。また笛野らの報告によって, 6種のラジカルがエチレンに付加する場合にも同じ結論になることを計算した。その結果は式(3)としてまとめられる。その理由を7種のモノマーの成長反応について考察した。ラジカルのSOMOはまずモノマーのHOMOと作用する(摂動エネルギー, ΔE1)。新しくできるSOMOはつぎにLUMOと作用する(摂動エネルギー,ΔE2)。SOMO-HOMOの摂動では電子はモノマーからラジカルに流れ, SOMO-LUMOの摂動では電子はラジカルからモノマーに移行する。その電荷移動の大きさはΔEに比例する。この場合はΔE1の方がΔE2より大きく, したがってモノマーからラジカルへ電荷移動が起こる。その電荷移動が成長反応のすすむ条件の1部になるとして, 次式(10)を提出した。Ep≠=C-γ(ΔE1-ΔE2) (10)式(10)から式(3)を導くことは容易であった。ただしフロンティァMOで計算したΔE1が1.9±0.4eVという定数値になることが式(3)の誘導を可能した。