著者
内田 希 前川 尚 横川 敏雄
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.11, pp.1414-1424, 1986-11-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
38
被引用文献数
2

半経験的分子軌道法MNDOを二元系ホウ酸塩ガラスに適用し,その構造と塩基度に対する考察を進めた。ホウ酸塩ガラス中に存在するとされるpentaborate,triborate,diborate構造のクラスターを組み立て構造の最適化を行なった。計算結果は実験的に決定された構造をよく再現した。四配位ホウ素(4B)あるいは非橋かけ酸素(NBO)の形成にともなうB-O結合長の変化は電荷の移動と対応し, Gutmannの結合長変化則による予想と一致した。これらを基に分子式[H8B12O23]2-をもち種々の組成における構造を反映した異性体を組み立てた。これらのクラスター中の,軌道相互作用による非局在化エネルギー,Sparkle親和力,陽子親和力を求め塩基度の尺度とした。ハードおよびソフト酸・塩基の考え方にしたがった場合,クラスター中のBO4-構造単位はハード塩基に分類され・非橋かけ酸素はむしろソフト塩基に分類された。二元系ホウ酸塩中の4Bの安定性は対となる塩基性酸化物の種類に依存し,アルカリ酸化物とH2Oの場合で大きく異なることが示された。
著者
大作 勝
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.11, pp.1371-1376, 1986-11-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
68

種々の基底関数を用いたメチルシランチオールに関するab initio SCF MO計算の結果を報告する。分子構造パラメーターの実測値は,3-21G+d(0.8C+0.6S+0.4Si)の基底によって非常によく再現されることが判明した。得られた分子構造パラメーターを他の構造類似分子について得られているものと比較,検討した。この分子ではSi-S結合軸のまわりでトランス,ゴーシュの回転異性が考えられ,STO-3G,STO-3G*の基底ではゴーシュ形がやや安定,3-21G,3-21G*,3-21G十dの基底ではトランス形がやや安定と計算され,これから,両者の間の熱力学的安定性の差異は,あまり大きぐないことが判明した。これは得られているエネルギー差の実験結果,40±30cm-1,ca.0.11kcal/mol(ゴーシュ形がトランス形よりやや安定)をよく説明している。Si-S結合軸のまわりの回転のポテンシャルを計算し,これを実測データ,その他のチオール類の場合におけるものと比較,検討した。双極子能率の計算値は,基底関数の違いによってかなり変化した。しかしながら,どの基底による計算値も実測双極子能率の傾向,μ(ゴーシュ)>μ(トランス)をよく説明した。これらの傾向は,構造類似化合物であるCH3SiH2SHにおける実測値,計算値の傾向とも一致した。
著者
長村 吉洋
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.11, pp.1384-1387, 1986-11-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
19
被引用文献数
3

abinitioMCSCF法を用いてベンゼンの基底状態(1A1g)および最低励起一重項状態(1B2u)の構造を求め,解析的エネルギー勾配法によって振動解析を行なった。基底関数はSTO-3Gを用い,MCSCFにおいては6個のπ軌道におけるすべての可能な電子配置を考慮した。1B2u状態におけるベンゼンのゆゆ構造ばD6h対称性を保持し,C-CおよびC-H結合距離はそれぞれ1。4498Å および1.0818Å が得られた。 基底状態から1A1g状態へのO-O遷移エネルギーは4.727eVと計算された。MCSCF法によって計算した基準振動数の順序は実験値とよく対応し,一部不明確な実験値に対する示唆を与えるであろう。
著者
田代 浩二 海野 美奈子 永瀬 茂 寺前 裕之
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.11, pp.1404-1408, 1986-11-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
13

Allingerの分子力場計算(MM2)のための飽和ケイ素化合物の力場定数を,分子軌道法を用いて決定した。決定した力場定数を用いて計算した構造と生成熱は実験値およびab initio計算値と非常によい一致を与えることを示した。ケイ素化合物の構造と安定性を明らかにするために,環状化合物としてヘキサシラシクロヘキサン(Si6H12)とその誘導体を,鎖状化合物としてボリシランSinH2n+2(n=1~30)を取り上げ,類似の炭素化合物と比較した。ケイ素化合物の立体配座異性体間のエネルギー差は炭素化合物の場合よりもきわめて小さいことを見いだした。とくに興味深い結果は,直鎖パラフィン(CnH2n+2)では炭素鎖がまっすぐに紳びた直鎖構造をとるのに対して,ポリシランではn=7以上になるとケイ素鎖がらせん構造をとることである。
著者
菊池 修 古崎 輝也 守橋 健二
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.11, pp.1409-1413, 1986-11-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
17
被引用文献数
2

溶媒効果を扱う有効電荷モデルにおいて,分子中の各原子に対する構造因子を導入した。溶媒殻に占める溶媒の割合から求める溶媒殻体積因子と,溶媒と接する原子球の表面積から求める表面積因子である。有効電荷モデルを取り入れたCNDO/2計算によると水中でのアセチルコリンの立体配座は,構造因子を導入しない場合には真空中の立体配座とほぼ等しくなるが,溶媒殻体積因子を導入すると実験および他の理論的モデルで計算されている立体配座とよい対応を示すようになった。溶媒殻体積因子には結合していない原子の立体的効果も含まれているので,溶媒中の分子の立体配座の計算には重要である。
著者
山辺 信一 田中 徹
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.11, pp.1388-1394, 1986-11-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
9
被引用文献数
8

隣接基関与の有機反応で生ずるフェノニウムイオン中間体の構造を理論的に調べた。STO-3G基底の非経験的分子軌道計算により構造の最適化を行なった。アリール基のパラ位に六つの置換基Xを付けた場合,XC6H4+…2H4の点線部分の橋かけ結合の強さが規期的に変化した。XC6H4X+→C2H4の逆電荷移動(back CT)が大きくなれば,その結合が強化される。メチル基がエチレン側に付くと,構造変化が大きい。古典open型と非古典橋かけ型の境界的な構造が得られた。
著者
寺井 忠正
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.10, pp.1333-1337, 1986-10-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
4
被引用文献数
1

ツツジ科植物に含まれる有毒成分であるGrayanotoxin(G)類は鉱酸に対して不安定であり,従来これらのアセタール化には無水硫酸銅が助剤として用いられてきた。本実験において,Cu(II)にかぎらず,Ce(IV),Fe(III),Ni(II),Sn(II)などの硫酸塩でもアセタール化が進むことがわかった。 そこでモデル化合物としてcis-1,2-Cyclohexanediolを用い,種々の硫酸塩について定性的にアセタール化の可否を調べた。一方,G-II,G-IIIの場合二,三の脱水反応をともなうが,各種硫酸塩を用いた場合の反応経過をTLCによって調べ効率のよいアセタール化条件の検討および,これらの反応の図式について考察を行なった。各反応速度は硫酸塩によって差異はあるが,相対的にC-10-OHの脱水はもっとも速ぐ,つぎにC-5-OH,C-6-OHのアセタール化,C-16-OHの脱水の順となっている。G-IIIアセタールを得るためには硫酸ニッケル(II)を用い65.0℃,30分間,G-IIアセタールを得るためには,硫酸鉄(III)あるいは硫酸ニッケル(II)を用いて70~100分間反応させるのが適している。
著者
金沢 孝文 梅垣 高士
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1972, no.2, pp.335-338, 1972-02-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
10
被引用文献数
3

乾式合成したβ-リン酸カルシウム,フッ素アパタイト,β-ピロリン酸カルシウム,レナニットおよび湿式合成した水酸アパタイト,リン酸-水素カルシウム二水塩の計6種のリン酸カルシウム塩類を,塩酸,クエン酸液,中性クエン酸塩溶液に投入して溶解熱の測定を行った。β-リン酸カルシウムは同じ程度のpHの塩酸およびクエン酸液に対する溶解発熱量が等しく,水素イオン濃度と溶解熱とは密接な関係がある考えられる。しかし,カルシウム塩類のクエン酸液への溶解のさいには,溶触にいちじるしい特徴が認められず,クエン酸基とカルシウムとの錯形式を熱化学的に検知し論議することが困難であることがわかった。β-リン酸カルシウムの溶解量を変化させても,2%クエン酸液と10%クエン酸液でカルシウム塩溶解量が小さい場合とでは,モル溶解熱がほぼ一定で,発熱量はβ-リン酸カルシウムの溶解重量に比例するとみなせる。0.5%塩酸への溶解のさいの発熱量は,乾式合成試料では,β-リン酸カルシウムがもっとも大きく,ついでレナニット,フッ素アパタイト,β-ピロリン酸カルシウムの順となった。
著者
石山 純一 専田 泰久 今泉 真
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.6, pp.834-836, 1986-06-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
17
被引用文献数
4

The stereoselectivity in the rhodium(I)-catalyzed reduction of 2-alkyl-substituted cyclopentanones and cyclohexanones with organosilanes was investigated. Relative amount of the more stable alcohol increased with bulkiness of organosilanes used, and the more bulkiness of 2-alkyl substituents produced the larger percentage of less stable of the two possible alcohols. The results were compared with those of the reduction by boranes and those of hydrogenation over platinum catalyst.
著者
新井 有子 蛭川 みつ子 花井 俊彦
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.7, pp.969-975, 1986-07-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
14
被引用文献数
2

オクタデシル基を結合したシリカゲルを用いる逆相液体クロマトグラフィーでの保持時間は, 分子固有の性質(Van der Waals 体積, π-エネルギー, 水素結合エネルギー効果, および解離定数)から予測することが可能となった。さらにより疎水性な化合物の強い保持は, エンタルピーの測定により, 直接に疎水性充填剤表面への吸着によることがわかった。ただし, シリカゲルを支持体とする充填剤の化学的安定性が悪いため, ビニルアルコールコポリマーゲルにオクタデシル基を結合させた充墳剤を使ってオクタデシル基結合シリカゲルを使った場合と同様の実験を行なった。これら2種の充填剤上での保持機構は必ずしも同じではなく, ビニルアルコールコポリマーゲル上では分配的で, シリカゲル上では吸着的挙動が見られた。さらに, 酸のイオン交換体上での保持の予測を可能にするために, イオン交換基を結合させたビニルアルコールコポリマーゲルを用い, pHを変えた溶離液中での酸の保持時間を測定した。この結果, 異なる充填剤上で測定した解離定数は100%水溶液中で測定した値にくらべて規則正しくシフトしていた。
著者
和田 啓男 牧野 圭祐 尾崎 広明 武内 民男 波多野 博行
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.7, pp.976-980, 1986-07-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
17
被引用文献数
1

ODSカラムを用いた逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)において, 親水性のより高いヌクレオシドが対応する核酸塩基よりも遅れて溶出すること, ならびに, イオン化合物である環状AMPがアデニンおよびアデノシンよりも竜遅く溶出することが, これら溶質のオクタデシル鎖に対する特殊な相互作用によるものか, あるいは基材であるシリカゲルとの特異的な相互作用に起因するものかが明らかにされていなかった。本研究においては, 基材のビニルアルコールコポリマーゲル(VA)とシリカゲルのそれぞれにオクタデシル鎖を結合した充墳剤を用い, RPLCの条件下での上記化合物の溶出挙動を調べ, 得られた結果をソルボホビック理論により解析した。その結果, オクタデシル鎖をつけたビニルアルコールコポリマーゲル(VA-C18)上での溶出挙動は, すべてこの理論によって説明することができ, さきに述べた特異的なODSシリカゲル上での挙動が, 担体であるシリカゲルと溶質の特異的な相互作用によるものであることを明らかにした。なお比較として, 他の親水性ポリマーゲルについても同様の研究を行ない, 担体がカラムの溶質に対する保持に大きな影響をもつことを明らかにした。
著者
神野 清勝
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.7, pp.981-986, 1986-07-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
20

高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は, もっとも有力な分離分析法として広く使用されるようになってきた。しかしながら, HPLC分析においてもっとも重要と考えられる分離条件の設定については, いまだ旧態依然たる“試行錯誤”的な方法が主法であり, もっとも進歩の遅れている部分である。これを改良するもっともよい方法は, コンビピューターを利用することである。本報告では以上のような観点からコンピューターを用いたLC分析の流れを提案する。コンピューターを使用することにより, 分析対象化合物としてその発がん性などから環境汚染物質として注目されているベンゾ[a]ピレンを選び, その同定法への適用例を述べる。
著者
田中 信男 橘 勇治 荒木 幹夫
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.7, pp.993-998, 1986-07-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
16
被引用文献数
3

逆相クロマトグラフィー用固定相として2-(1-ピレニル)エチル基をシリカゲルに化学結合したPYE固定相と, 通常のオクタデシル固定相(C18)とを用いて,ニ重結命を含む試料の位置異性体と幾何異性体についての分離を検討した。C18固定栢の場合には疎水性相互作用による保持が主となり, 内部二重結合とくにE-形二重結合を含む不飽和化合物が大きな保持を示した。一方PYE固定相においては, 試料のπ電子と固定相のピレン環との相互作用があり, Z-形二重結合および末端二重結合を含む試料について大きな寄与が認められた。このピレン環と試料の二重結合との相互作用の大きさの傾向は, 二重結合炭素上の原子団の立体効果で説明可能である。この相互作用によってPYE固定相においてC18固定相とはまったく異なる分離パターンが得られ, この効果はメタノール含量の大きな移動相でさらに大きな寄与を示した。PYE固定相においては不飽和カルボン酸の二重結合が極性基から遠く位置する場合に大きな保持が得られ, C18固定相では分離されないリノレン酸とγ-リノレン酸も容易に分離された。
著者
中川 照眞 澁川 明正 貝原 徳紀 田中 久
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.7, pp.1002-1010, 1986-07-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
33
被引用文献数
1

18-クラウン-6を移動相に含む逆相系高速液体クロマトグラフィーにおける種々のアミノ酸,対応するアミン, およびペプチド類の保持挙動と分子構造との関係を調べ, 従来のイオン対逆相クロマトグラフィーと比較した。18-クラウン-6を移動相に添加することにより, α-位やβ-位の炭素の級数が低いアミノ酸ほど大きな保持値の増加率を示し, ロイシンとイソロイシンなどのように, イオン対モードでは分離しにくい疎水性の類似したアミノ酸を短時間で容易に分離することができた。また, 側鎖にアミノ基を有するリシンではほかにくらべてキャパシティーファクターの増加率はいちじるしく大きかった。アミノ酸とそれに対応するアミンとの問の保持値の差は, イオン対法にくらべて大となった。またプロリンはイオン対法では保持値の増加を示したが, 本法では逆に減少した。ペプチドの保持はN末端残基のアミノ酸の構造を強く反映した変化を示した。N末端残基のβ-位炭素に枝分かれがあるペプチドでは, 18-クラウン6との会合定数が小さく, 会合にともなう保持値の増加率も小さいことがわかった。このように, 18-クラウン-6はアミノ基周辺の立体構造をより強く認識する能力をもつので, 従来法では困難であった微妙な分離が可能となり, ペプチドやタンパク質の新しい分離分析への応用が期待される。
著者
中村 洋 高木 和子 田村 善蔵 与田 玲子 山本 有一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.7, pp.1017-1024, 1986-07-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
16
被引用文献数
1

主としてタンパク質の蛍光標識試薬として利用されてきた2-メトキシ-2, 4-ジフェニル-3(2H)-フヲノン(MDPF)をアミノ酸のプレカラム蛍光誘導体化試薬として活用する試みを行なった。誘導体化反応の至適条件の検討は, α-アミノ酸の場合には生成するMDPF誘導体が蛍光性であることを利用して蛍光検出フローインジェクション分析法によった。一方, N-アルキル-α-アミノ酸(環状アミノ酸を含む)についてはMDPF誘導体が無蛍光性であるので, これを過剰の試薬や試薬水解物からHPLCで分離後に2-アミノエタノールを添加して蛍光検出する方法によった。その結果, アミノ酸の蛍光誘導体化には10mmol・dm-3MDPFとともにpH10, 20℃ で40分間反応させる条件が最適であった。α-アミノ酸からは一対のジアステレオマーによると思われる2本の蛍光性ピーク渉生じたが, TSKLS-410K逆相カラムと50mmol・dm-3リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)-メタノール系移動相を用いるメタノール勾配溶離法により, 2~5pmolのα-アミノ酸を定量し得た。100pmolのα-アミノ酸を5回分析した場合の相対標準偏差は2.9~5.3%であった。予試験の結果から, MDPFはペプチドのプレカラム蛍光試薬としても有望と思われた。
著者
稲垣 健治 喜谷 喜徳
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.7, pp.1025-1031, 1986-07-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
34

抗がん活性白金錯体のDNAへの選択的結合を酵素分解および高速液体クロマトグラフ法で研究した。白金修飾DNAをエキソおよびエンドヌクレアーゼで処理し, 酵素分解産物をHPLCで分離・同定した。結果は隣接グアニン塩基対がDNAにおける優先的白金結合部位であることを示した。d(GpG)と各種白金錯体との反応生成物をHPLCで分離した。光学異性ジアミンを含む白金錯体とd(GpG)を反応させると, 二つのピークがクロマトグラムに現われた。これはジアステレオマーの生成による。また, d(GpG)とmeso-ジアミン配位子を含む白金錯体との反応は二つの反応生成物を生ずる。これはN-Pt-N角を二分するC2軸をもたない白金錯体にみられる。これらの化合物の分離に対する至適条件を示した。1, 2-シクロヘキサンジアミン白金錯体で修飾されたDNAの酵素分解産物はクロマトグラフにおいて四つの主ピークを示す。その内の二つはPt[(1R,2R)-1,2-cyclohexanediamine][d(GpG)]とPt[(1S,2S)-1,2-cyclohexanediamine][d(GpG)]である。残りの二つのピークはPt[(1R,2S)-1,2-cyclohexanediamine][d(GpG)]に由来するものである。これらの結果はキラルなジアミン配位子を含む白金錯体のDNAへの結合様式を暗示している。
著者
高橋 圭子 中田 壮一 三上 正仁 服部 憲治郎
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.7, pp.1032-1039, 1986-07-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
18
被引用文献数
2

親水性ポリアクリレートTSK Gel PW-3000(以下PWと略記する)に6-デオキジ-6-アミノ-β-シクロデキストリンを導入したゲル(ACD-PW)および, アミノ化シクロデキストリンのヒドロキシル基をメチルエーテル化したゲル(Me-ACD-PW)に対する各種アミノ酸の保持挙動の検討を行ない, 保持容量比(k')の比較を行なうことでシクロデキストリン(以下CDと略記する)包接由来の効果とアミノ基由来のイオン相互作用の評価を奢なった。デミン酸は老のままではアミノ酸のアミノ基とCD上のアミノ基の反発のため, まったく保持されない。N-保護アミノ酸は, カルボン酸部位とCD上のアミノ基との間のイオン相互作用により保持されるようになり, イオン強度を小さくすると保持は増大する。また, CDのヒドロキシ基のメチル化は, CD上のアミノ基のイオン相互作用を明確にし, また包接能を増大し, ベンゼン環を有するフェニルアラニン誘導体ではいちじるしい保持の増大がみられた。イオン強度や有機溶媒添加などの溶離液変化によりk'は600倍以上の値まで変化し, ホスト-ゲストコンプレックス形成に基づく包接クロマトグラフィーにおける選択性をさらに向上させる可能性を示した。
著者
牧野 圭祐 尾崎 広明 松本 哲史 武内 民男 福井 寿一 波多野 博行
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.7, pp.1043-1045, 1986-07-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
5

Separation of oligodeoxyribonucleotides, prepared by chemical synthesis, was carried out using reversed 'phase ion-pair chromatography with LiChrospher 100 RP-18e. By this technique, the peak shape and the separation of peaks were highly improved, compared to the results obtained by conventional reversed phase chromatography with the same column. The chain length and the concentration of the tetraalkylammonium ion-pair reagents were found to be responsible for their retention behaviors and tetrabutylammonium phosphate showed marked enhancement of the peak resolution. In the separation with this reagent, a good linear relationship between the elution volumes and the base numbers of oligodeoxyribonucleotides was obtained. This implies that ion-pair chromatography can be used for the separation of oligodeoxyribonucleotides according to their base numbers.
著者
大井 尚文 北原 一 大墨 利佳
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.7, pp.999-1001, 1986-07-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
7
被引用文献数
5

Two novel chiral stationary phases derived from (R)- and (S)-1-(1-naphthyl) ethylamine with (R)-phenylglycine chemically bonded to (3-aminopropyl)silanized silica, [5] and [6], which contain two asymmetric carbon atoms attached to two nitrogen atoms of the ureylene group, have been prepared. These phases showed good enantioselectivity for derivatives of amino acid, amine, carboxylic acid and alcohol enantiomers. Especially excellent separation factors were obtained in enantiomeric separation of aromatic amine and carboxylic acid in the form of 3, 5-dinitrobenzoyl and 3, 5-dinitroanilide derivatives respectively upon phase [6]. It is noticed some enantiomers were resolved directly without any prederivatization on these phases. For example, enantiomers of both E- and Z-isomers of S-3308 (1-(2, 4- di chloropheny1)-4, 4-dimethy1-2-(l, 2, 4-triazol-1-y1)-1-penten-3-ol) are well resolved simul taneously with [5].
著者
酒井 章吾 井本 稔 大内 辰郎 大岩 正芳
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.6, pp.739-744, 1986-06-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
20
被引用文献数
2

ab initio UHF MO(STO-3G)法によってC6H5COO・の平衡構造をもとめ, C6H5平面とCOO・平面とが直交し, COO・は2A'対称をもつものとした。すなわち不対電子の軌道はCOO・平面にあり, σ 電子ラジカルである。また電子総計63個なので, 不対電子をα-スピン状態として,ψα32が見かけのフロンティアαMOとなる。しかしそれはフェニル基のπ電子を容れている。ラジカル不対電子をもつ分子軌道はip2s(その対応βMOはψβ34)であることをそれぞれのMOの内容からきめた。またψα32~ψα36のαMOについて, それぞれの対応するβMOを定め, それぞれのMOのもつ電子の性質の種類を示した。