著者
甲本 亮太 工藤 裕紀 高津 哲也
出版者
日本水産増殖学会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.615-630, 2011-09-20 (Released:2012-12-27)
参考文献数
45

秋田県沿岸におけるハタハタ仔稚魚の水深別分布と摂餌生態を調べるため,2009年2-5月に仔稚魚の分布密度と食物組成および餌サイズ組成を調査した。仔稚魚は水温7.3-12.2°Cの底層に分布し,水深0.5-5 m の産卵場から個体発生的に水深60 m 以深に移動した。また稚魚は,水温13.2°C以上の底層には分布しなかった。ハタハタの孵化仔魚は脊索長が約12 mm あり,他の海産魚類の仔魚に比べて口器および形態が発達した段階で孵化していた。体長12-30 mm の仔魚の餌は浮遊性あるいは底生性のカイアシ類コペポダイトが高い割合を占め,40 mm 以上ではアミ類が優占した。コブヒゲハマアミはハタハタ稚魚の成育場に同期的に出現し,他の浮遊性あるいは底生性の甲殻類に比べて大型であることから,稚魚の重要な餌生物の一つであると考えられた。
著者
佐々木 義隆 水野 伸也 今田 和史 吉田 豊 守山 義昭 足立 伸次
出版者
水産増殖談話会
雑誌
水産増殖 = The aquiculture (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.211-219, 2008-06-20
参考文献数
16
被引用文献数
2

2003年6月9日から9月10日にかけて天塩川水系のヤマトシジミを採取し軟体部および生殖巣指数の変化を調べるとともに、生殖巣の組織像から成熟時期の推定を行った。また、人工産卵誘発条件として最適な水温および塩分条件、並びに成熟時期と産出卵から着底稚貝までの生産性の関係について検討した。その結果、天塩川では雌雄ともに軟体部および生殖巣指数は6月上旬に低く7月上旬にかけて上昇し、その後短期間に急激に減少した。生殖巣の組織像は6月上旬から下旬にかけて成長期を示し、7月上旬には成熟期から放出期に移行していた。このことから軟体部指数および生殖巣指数の急激な減少は成熟卵および精子の放出によるものと推測された。また、供試貝を水温条件20〜30℃に保った塩分0〜10psuの水に移行し産卵数から最適な水温および塩分条件を検討した結果、水温25℃、塩分5psuの条件で最も多くの産卵がみられた。この条件を用いて7月7日〜8月5日にかけて5回人工産卵誘発を行ったところ、7月9日に人工産卵を行った群において雌親個体あたりの産卵数が最も多く、また10日後における着底稚貝までの生残率が最も高かった。天塩川水系産ヤマトシジミにおいて人工種苗生産に適した時期は極めて限られた期間であり、成熟時期の把握が極めて重要であることが示唆された。
著者
高木 基裕 谷口 順彦
出版者
日本水産増殖学会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.329-333, 1992-09-20 (Released:2010-03-09)
参考文献数
4
被引用文献数
1

高知県内のカマキリの分布調査を行った。奈半利川, 伊尾木川, 安芸川, 四万十川, 小名鹿川, 立石川, 布川, 鍵掛川, 以布利川では潜水目視観察によってカマキリの生息が確認された。野根川, 安田川, 物部川, 仁淀川では聞き込み調査によって生息を確認した。カマキリの分布は堰堤の存在によってその直下域に限定され, 堰堤の上流では生息が確認できなかった。1980年の高知県の淡水魚類相調査と比較して, 高知県のカマキリの生息状況はさらに悪化しているものと考えられる。
著者
鬼倉 徳雄 松井 誠一 竹下 直彦 古市 政幸
出版者
日本水産増殖学会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.367-370, 1998-09-20 (Released:2010-03-09)
参考文献数
10
被引用文献数
1

カマキリとヤマノカミの成長および生残率と水温の関係を明らかにするために, 天然河川で採集した供試魚を用いて短期間の飼育を行った。カマキリの場合, 低水温区の20℃区が最も優れた成長と生残率を示した。逆に高水温区の27℃区は短期間で生残率が急減し, 成長も他の水温区に劣った。ヤマノカミの場合, 20~28℃の全区で生残率の急減は認められなかった。しかし, 成長では明らかに差が認められ, 20℃区と24℃区が28℃区に比べ優れていた。したがって, 生存可能な限界水温はカマキリでは24~27℃に, ヤマノカミでは28℃以上にあり, 成長のための至適水温は3区の中では20℃前後であると推察された。
著者
田原 大輔 羽田野 亮 岩谷 芳自
出版者
日本水産増殖学会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.37-43, 2008-03-20 (Released:2012-09-04)
参考文献数
26
被引用文献数
1

カマキリ養成2才親魚の卵巣成熟度を,外観および組織観察から周年調査した。卵母細胞の発達段階,残留卵の状態と再吸収の進行状況を基に,卵巣成熟度を6段階(前卵黄形成期,卵黄形成期,成熟期,退縮前・中・後期)に分類した。残留卵の出現は産卵期が近づくにつれ低くなったが,ほとんどの養成親魚の卵巣内にほぼ周年残留卵は認められた。残留卵の長期滞留の発生は,親魚が過熟卵を放卵できず,卵巣での再吸収に長期間を要することによる。また,残留卵をもっていた親魚でも排卵し良質卵が得られた場合があり,残留卵の長期滞留と翌年の成熟への影響は明確ではない。
著者
片野 修 中村 智幸 山本 祥一郎 阿部 信一郎
出版者
日本水産増殖学会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.115-119, 2005-06-20 (Released:2010-03-09)
参考文献数
15
被引用文献数
3

外来魚ブルーギルは日本全国の湖沼や河川に拡まっており, 水産有用魚種や生態系への影響が危惧されている。しかし日本の河川上中流域におけるブルーギルの生態についてはほとんど報告がない。著者らは長野県の千曲川の1支流である浦野川のAa-Bb移行型の河川形態区間で, 2003年の6月及び7月に75個体のブルーギルを電気ショッカーによって採捕した。すべてのブルーギルは岸から1m以内で採捕され, その空胃個体は75個体中8個体にすぎなかった。胃内容物充満度は平均0.63%で, 最大で2.86%に達した。ブルーギルは主にユスリカ科の幼虫を摂食し, そのほかカゲロウ科やトビケラ科の幼虫及び陸生昆虫を捕食していた。ブルーギルの食性は浦野川の在来魚の何種かといちじるしく重複していた。ブルーギルは河川の魚類群集に負の影響を与えると考えられ, 根絶される必要がある。
著者
Lideman Gregory N. Nishihara 野呂 忠秀 寺田 竜太
出版者
日本水産増殖学会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.563-571, 2011-09-20 (Released:2012-12-27)
参考文献数
35

カタメンキリンサイ,トゲキリンサイ,トサカノリ(紅色植物門ミリン科)は,熱帯・亜熱帯域に生育する有用海藻であり,日本では南西諸島や九州でよく見られる。本研究では,これら3種の養殖技術を確立する上で必要な至適光・温度条件を検討することを目的とした。温度(16,20,24,28,32°C)が生長や光合成に与える影響については,培養による生長試験と溶存酸素計を用いた光合成試験の2つの実験で行った。また,水温24°C,光量0から536μmol photon m-2 s-1 の条件で光合成速度を測定し,光合成-温度曲線を作成した。光量90μmol photon m-2 s-1 における最適生長率はカタメンキリンサイとトゲキリンサイで24°Cと28°C,トサカノリで20°Cと24°Cの範囲だった。最大光合成速度はカタメンキリンサイで135.0,トゲキリンサイで65.0,トサカノリで52.4μg O2 (mg chl-a)-1 min-1であり,それぞれ94.9,69.4,35.4μmol photon m-2 s-1 以上で飽和した。これらの結果は各種の生育水深と日本南部における分布と密接に関連しており,各種の養殖可能時期について考察を行った。
著者
丸 邦義 山崎 真 中井 純子
出版者
水産増殖談話会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.251-255, 2005-09-20
参考文献数
16
被引用文献数
4

石狩川で採集したヤマトシジミを2001年7月25日から8月25日まで、0、1、2、3、4、5、6、9、12、15、18、19、20、21psuの各塩分濃度で飼育した結果、産卵がみられたのは2psuから12psuの水槽で、再度産卵がみられたのは2、3、5、6psuである。したがって、産卵に好適な塩分濃度は2~12psuで、最適濃度は2~6psuである。
著者
橋本 徳蔵
出版者
日本水産増殖学会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.61-66, 1961-08-25 (Released:2010-03-10)
参考文献数
11

利根川下流で, 越冬前のソウギョ (全長4.5-7.6cm, 体重1.1-4.9g), レンギョ (全長4.9-6.3cm, 体重1.0-2.2g) の天然餌料を調査した結果, ソウギョの消化管内はSpirogyraと若干の水生植物の繊維によってほとんど満たされていることがわかった。レンギョの消化管内からは, ランソウ類, ケイソウ類, 緑藻類, ベンソウ類等の植物性プランクトンが見出されたが, ケイソウ類が特に多く, Navicula, Nitzschia, Achnanthes, Bacillariaが多く見出された。 他の水域でもケイソウ類が優占することがわかった。
著者
野田 幹雄 田原 実 片山 貴之 片山 敬一 柿元 晧
出版者
水産増殖談話会
雑誌
水産増殖 = The aquiculture (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.37-46, 2002-03-25
被引用文献数
10

1996年2月から2年間にわたり瀬戸内海中部水域の4地点に設置された4種類の付着基質の餌料培養効果が比較された。使用した付着基質は、マガキ殻、アコヤガイ殻、砕石のいずれかを集積した塊をポリエチレンメッシュ(目合20×25mm)で覆い、直径15cm、長さ30cmのパイプ状にしたものと同サイズの円柱状コンクリートである。メッシュパイプの基質は、内部に多くの空隙をもつ点に特徴があった。24ヵ月浸漬後の付着動物相の比較では、どの基質もフジツボ類とホヤ類が優占したが、コンクリート区に比べ内部空隙のある基質では十脚類と軟体動物(腹足類と二枚貝類のみ)が着生量および出現種ともに増加した。付着動物量の経月変化の比較でも、内部空隙のある基質で付着動物と餌料動物の着生量は高い状態で推移し有意差が認められた。この傾向は特に十脚類で明瞭であった。このような付着動物相の相違は、基質構造の相違に由来することが示唆された。
著者
圦本 達也 吉田 幹英 前野 幸男
出版者
水産増殖談話会
雑誌
水産増殖 = The aquiculture (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.587-594, 2008-12-20
被引用文献数
1

「立枯れ死」の前兆として底質から浮上したタイラギの存在を認め、浮上タイラギの各種臓器組織の観察および栄養状態を調査した。浮上タイラギでは鰓および消化盲嚢の上皮細胞に重篤な損傷が認められ、生殖腺の発達も大きく遅滞していた。浮上タイラギは、閉殻筋中のグリコーゲン量および消化盲嚢中のクロロフィルa、フェオフィチンの各量は、底質に埋在したタイラギのそれらと比べて有意に低かった。また、浮上タイラギの閉殻筋および消化盲嚢における栄養状態および摂餌状態の各指標は、組織学的観察結果とよく一致しており、タイラギの「立枯れ死」は継続的な摂餌機能の低下および消化吸収機能の不全によって発生する可能性が強く示唆された。
著者
立原 一憲 Obara Emi
出版者
水産増殖談話会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.295-306, 2003-09-20

カワスズメOreochromiss mossambicusは、1954年に沖縄島に移入された後、野外に逃げ出して定着し、現在では多くの河川で優占種となっている。ここでは本種の卵内発生の経過と飼育条件下における稚魚への成長に伴う外部形態および骨格系の発達を記載した。カワスズメ卵は、1997年6月4日に沖縄島の小那覇川で採集した口内保育中の親から得た。卵は平均長径2.72mm、平均短径1.96mmの楕円型で、受精後88時間30分で孵化した。孵化後6日、体長4.0mmで遊泳し始め、12日後に稚魚に達した。本種の骨格の主要な要素は、孵化後25日には全て形成された。