著者
小林 豊 高村 巧 下野 功 浦 和寛 都木 靖彰
出版者
Japanese Society for Aquaculture Science
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.271-278, 2009-06-20 (Released:2012-09-26)
参考文献数
55

岩手県大槌産,岩手県山田産,北海道鹿部産,北海道知内産の2年貝養殖ホタテガイの貝殻中のLi,Mn,SrおよびBa濃度を誘導結合プラズマ質量分析装置を用いて測定したところ,産地により微量元素組成に有意な差が認められた。MANOVAの判別分析を用いて産地識別を試みたところ,48個体中9個体で誤判別が発生し,判別的中率は81.3%であった。大槌産と他の産地との間で誤判別される例が多かったが,そのほかの産地間の誤判別は少なかった。同様の方法を用いて岩手県八幡平産および北海道七飯産の養殖ニジマスの耳石中の微量元素濃度を定量した結果,その組成にも産地により有意な差があった。判別的中率は95.5%であった。生産年による微量元素組成の変動が小さければ,貝殻および耳石微量元素組成による産地識別が可能であると考えられる。
著者
八木 基明 橘 勝康 三嶋 敏雄 原 研治 槌本 六良
出版者
Japanese Society for Aquaculture Science
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.501-505, 2001-12-20 (Released:2010-10-28)
参考文献数
16

ふ化直後のマダイとトラフグにカロテノイド(マダイ:β-カロテンあるいはアスタキサンチン,トラフグ:β-カロテン)で栄養強化したワムシを投餌し種苗生産を試みた。マダイでは,ふ化後20日の飼育で,β-カロテン及びアスタキサンチン強化区の生残率が対照区と比較して高くなった。トラフグでは,ふ化後28日の飼育でβ-カロテン強化区の生残率が対照区と比較して高くなった。両魚種ともに全長からみた成長にはカロテノイド強化による有意な差は認められなかった。飼育最終日の仔魚より脾臓を採取し,リンパ球の幼若化反応を検討したところ,両魚種ともにPWM20μg/mlあるいはCon A100μg/mlの刺激で,カロテノイド強化区が対照区に比較して有意に高い幼若化の反応性を示した。これらの強化ワムシでマダイやトラフグの種苗を飼育することにより,種々の感染症に対して抵抗力の高い健康な種苗の生産の可能性が考えられた。
著者
山本 剛史 松成 宏之 奥 宏海 村下 幸司 吉永 葉月 古板 博文
出版者
日本水産増殖学会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.367-375, 2019

<p>ヒスチジン(His)含量の低いイワシ魚粉と His 含量の高いアジ魚粉を50%配合した飼料(FM1,FM2),FM2 の含量に合わせて FM1 に His を添加した飼料(FM1H),イワシ魚粉の配合を15%に削減して大豆タンパク質とコーングルテンに置き換えた低魚粉飼料(LFM)および FM1 と FM2 の含量に合わせて LFM に His を添加した飼料(LFMH1,LFMH2)を平均体重4.7 g のブリに45日間給餌した。最も成長の良かった FM2 区に比べ,FM1 区では若干劣り,低魚粉飼料の3 区の成長はいずれも FM1 より劣った。一方,His を FM2 のレベルに添加した FM1 と LFMH2 を与えたブリでは摂餌が増加し,成長が改善する傾向がみられた。肝臓の遊離アミノ酸組成には飼料の影響はほとんどなかったものの,普通筋では飼料中の含量を反映して His が蓄積する一方で,タウリンやほかのアミノ酸が減少した。以上の結果から,ブリ稚魚において飼料への His の添加効果は限定的であり,特に低魚粉飼料の栄養価を根本的に改善するものではないことが示された。</p>
著者
田中 彌太郎 リオ ナタリアデル
出版者
水産増殖談話会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.58-59, 1978

1977年1月, 島根県産イタヤガイ母貝の温度刺激による産卵誘発結果から, 本種は自家受精が正常におこり, それによってふ化したD型幼生は特定の餌料生物を摂取して十分に生長することおよび変態期における幼生の交装をふくむ形態観察から, 天然における本種幼生の同定が可能であることを示した。
著者
水野 かおり 三浦 智恵美 三浦 猛
出版者
Japanese Society for Aquaculture Science
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.23-30, 2014-03-20 (Released:2015-04-02)
参考文献数
20

カワハギおよびウマヅラハギの適水温を明らかにするため,異なった水温(15°C,20°C,25°C,30°C)で63日間,飽食給餌下にて飼育し,両種の飼育成績を比較した。カワハギの成長は20°C~25°Cが最もよく,日間摂餌率および飼料効率は,15°Cと25°Cでは高水温ほど増加したが,30°Cでは減少した。ウマヅラハギは30°Cでは全ての個体が死亡した。日間増重率および日間摂餌率は,15°Cと20°Cでは高水温の20°Cの方がより増加したが,25°Cでは減少した。一方,飼料効率は15°Cが最も高く,高水温ほど減少した。これらの結果から,両種の飼育適水温はカワハギ20°C~25°C,ウマヅラハギ15°C~20°Cの範囲内であると推察された。また,海面小割生簀で15ヶ月間の飼育試験を実施した結果,カワハギは60 g から371 g,ウマヅラハギは24 g から267 g に成長し,累積死亡率は,カワハギでは29%と高く,ウマヅラハギでは 3%と低かった。
著者
米山 兼二郎 川村 軍蔵 掘切 圭美
出版者
Japanese Society for Aquaculture Science
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.543-549, 2008-12-20 (Released:2012-09-15)
参考文献数
39

釣り針を回避することを学習したニジマスの脳から抽出したtotal RNAを釣り針未経験のニジマスに注射し,total RNA注射によって学習行動が転写するか否かをみた。1個体からのtotal RNA量は脳組織1.0 g当たり0.06-0.33 mgであった。対照魚は生理食塩水を注射した個体とハンドリング以外の処理を行わない個体とした。total RNA注射魚と対照魚を識別するために鰭に標識し,実験池に混ぜて収容して釣り試行に供した。用いた6群のうち4群で,total RNA注射魚は対照魚より明瞭に釣られにくかった。この結果より,釣り針回避学習がtotal RNAを介して釣り針未経験の個体に転写したと解釈された。どの群でも対照魚が比較的釣られにくかったのは,total RNA注射魚の釣り針回避行動が群内の他個体に社会的影響を及ぼしたためと考えられた。
著者
青山 茂 佐藤 亜紀
出版者
Japanese Society for Aquaculture Science
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.609-610, 2008-12-20 (Released:2012-09-15)
参考文献数
13
被引用文献数
1

The spawning behavior of the Hokkaido eight-barbel loach, Lefua nikkonis, an endangered species of the family Balitoridae in Japan, were observed in a pair reared in an experimental tank. Spawning occurred in January 2007 with a water temperature of ca. 18°C which had declined from ca. 28°C in summer. On days when spawning occurred, the male chased the female and pecked at the female. Then they burrowed into the artificial spawning substratum and spawned remaining adjacent to each other. The pair spawned 7 batches of eggs during the 21 day reproductive period; therefore batch-spawning was confirmed in this species.
著者
鷹﨑 和義 和田 敏裕 森下 大悟 佐藤 利幸 佐久間 徹 鈴木 俊二 川田 暁
出版者
日本水産増殖学会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.41-51, 2018 (Released:2019-03-20)
参考文献数
30

2015年5月~2016年11月に,福島県内の阿武隈川水系の13定点においてさし網や延縄などを用いた調査を行い,716個体(体長9.9~65.0 cm)のチャネルキャットフィッシュが採集された。本種は阿武隈川の本流で採集され,特に発電用ダム(信夫ダム,蓬莱ダム)の貯水域やその下流域で多く採集された。信夫ダムでは,2008年に比べて CPUE が著しく増加していることや,GSI の高い成熟個体や未成熟の小型個体が多く採集されたことから,近年,ダム周辺の水域を中心に,再生産により本種の個体数が急激に増大している可能性が考えられた。雌の GSI の季節変化より,本水系における産卵期は5~6月ごろと推定された。信夫ダムにおいて,さし網および延縄により採集された魚類のうち,本種が占める割合は非常に高く(各64.2%および100%),本水系における適切な駆除手法の確立が急務であると考えられた。
著者
岡内 正典 山田 敏之 尾崎 照遵
出版者
Japanese Society for Aquaculture Science
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.147-155, 2008-06-20 (Released:2012-09-10)
参考文献数
20

魚類飼育水への添加やワムシの栄養強化など,ナンノクロロプシスの新たな用途を考慮し,試薬類および農・水産用肥料を用いた栄養塩類添加海水培養液の処方を考案した。その結果,小規模な培養を対象とする培養液(ESM-NA液)の組成としては,NaNO3; 4.41 mM,NaH2PO4・H2O; 90μM,Fe-EDTA; 29.7μM,MnCl2・4H2O; 2.2μM,ZnSO4・7H2O; 0.38μM,CoCl2・6H2O; 0.126μM,大規模な培養を対象とする施肥培養液(FSM-NA液)の組成としては,硝酸カリ; 5.3 mM,リン安; 0.66 mM,クレワット32; 20 mg/l,クレワット鉄; 3 mg/l が適切であることが分かった。このFSM-NA液の性能を従来の「屋島培地」と比較したところ, 9 日間のバッチ式通気培養で良好であった。また,ナンノクロロプシスを魚類飼育水に添加する際に同時に混入する培養液の影響を調べたところ,ヒラメ仔稚魚に対する悪影響はなかった。これらの結果から,本研究で考案した培養液は餌料としてのナンノクロロプシスの大規模及び小規模培養に適している。
著者
古川 元希 澤田 英樹 三田村 啓理 益田 玲爾 荒井 修亮 山下 洋
出版者
日本水産増殖学会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.179-182, 2019-06-20 (Released:2020-06-20)
参考文献数
25

Japanese common sea cucumber Apostichopus japonicus is one of the most important fisheries species of the world, while the natural resources are declining recently. We examined the retention rate of single spaghetti tags applied to A. japonicus to use future mark-recapture studies for estimating their stocks and/or their ethology. Eight of 10 individuals retained the tags for 76 days under 12°C. The retention rate is high compared to the other studies using spaghetti tags on Aspidochirotida, and that is practical levels to utilize for ecological and/or conservation studies in the active and reproductive season of A. japonicus.
著者
畑中 宏之 稲田 善和 谷口 順彦
出版者
水産増殖談話会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.241-247, 1991

低水温ショック法または高水圧ショック法により, アユの人為三倍体を作出し, 正常二倍体と比較しながら三倍体の成長および成熟における特性の解明を試みた。未成魚期の成長および飼料効率については三倍体がやや劣る傾向が認められた。適性な飼育条件の検討の必要性が示唆された。成熟が始まると, 二倍体が成長の停滞を示し, 産卵期が終わると死亡するのに対し, 三倍体の雌魚は越年後も死亡することなく順調に成長した。
著者
吉田 俊一
出版者
日本水産増殖学会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.27-35, 1972-04-30 (Released:2010-03-09)
参考文献数
11

以上の諸実験から飼育上の条件を要約すると1.飼育水はできるだけ高塩分のものを用いるのがよい。2.飼料はウナギ用のようににおいの強い, 粉末もしくは粒状の魚粉を主体としたものがよい。3.投餌は少量づつ, 回数多く与え, 投餌後しばらくは止水, そのほかは極少量の流水とする。4.全期間を通じて干出による支障はないが, 酸素補給面から通気は不可欠である。
著者
中辻 伸嘉 秋田 もなみ 林 芳弘 野村 晋平 足立 亨介 森岡 克司
出版者
日本水産増殖学会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.309-315, 2018 (Released:2019-12-20)
参考文献数
26

本研究は加太産天然マダイ(RK)及び養殖マダイ(RC)の物性(破断強度)を比較し,生化学及び組織学的アプローチから物性の決定要因を検討した。RK 及び RC の肉の破断強度はそれぞれ55.6及び34.9 gw であり,RK で有意に高い値を示した。従来から知られている破断強度と関係性がある筋肉中のコラーゲン含量は RK で高い傾向があったが,有意差はなかった。一方,組織学的観察から RK 及び RC の筋繊維面積はそれぞれ6299.5及び9524.5 µm2 であり,RK の筋繊維面積は RC より有意に小さく,筋繊維の結合組織である筋内膜の網目構造が密であることが観察された。以上のことより,RK の物性は RC より硬く,これには筋肉中の結合組織の構造が主に関与することが示唆された。
著者
中村 智幸
出版者
Japanese Society for Aquaculture Science
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.85-87, 2018 (Released:2019-03-20)
参考文献数
21

A total of 800 hatchery-reared white-spotted charr Salvelinus leucomaenis fry (underyearlings) were stocked into a study site in the Nakatagiri River, central Japan, during autumn of every study year from 2011 to 2015 and 22 stocked charr were recaptured from 2013 to 2016. Of the recaptured charr, 20 charr (90.9%) were age 1+, 2 charr (9.1%) were age 2+, and no > age 3+ charr was recaptured. The results suggest low effectiveness of fry stocking to enhance the > age 2+ charr population.
著者
東 健作
出版者
Japanese Society for Aquaculture Science
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.401-410, 2010-09-20 (Released:2012-10-05)
参考文献数
43
被引用文献数
1

四万十川流域における,⌈上流⌋,⌈中流⌋,⌈下流⌋の3市場での約30年間にわたるアユの入荷量(1977-2009年)を解析することによって,当河川におけるアユ入荷量の動向と近年の特徴を明らかにした。アユの入荷量変動は流域全体で概ね同調しており,特に2003年以降の不漁が顕著であった。その一方,⌈中流⌋で年毎の変動が大きく,⌈下流⌋で入荷量の減少度合が大きいといった市場間の違いもみられ,遡上量と産卵親魚の双方が減少したことによって資源が縮小している現状が示唆された。当資料の解析から,10月の漁獲と同月の少雨が翌年の入荷量に対して負の相関を示すことが分かった。それゆえ,アユ資源の持続的利用のためには,降雨条件を考慮に入れながら産卵初期の親魚を保護することが重要であることを指摘した。
著者
村田 修 家戸 敬太郎 石谷 大 那須 敏朗 宮下 盛 山本 眞司 熊井 英水
出版者
Japanese Society for Aquaculture Science
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.75-80, 1997-03-20 (Released:2010-03-09)
参考文献数
15

1990年3月に作出した交雑魚マダイ♀×クロダイ♂およびマダイ♀×ヘダイ♂を4年間飼育した後, 2月から6月までの生殖腺成熟の様相を, 同様に4年間飼育した両親魚種 (マダイ, クロダイおよびヘダイ) と比較した。その結果, 両交雑魚から摘出した生殖腺は外観的に同時期の両親魚種のそれらに比較して明らかに未成熟であった。両親魚種の生殖腺指数はいずれも4月に最大値となり, その平均値はいずれも8以上の高い値であったのに対し, 両交雑魚のそれは1以下であった。生殖腺組織像から両交雑魚とも精原細胞, 精母細胞, 精細胞および精子形成は観察できたが卵母細胞は認められなかった。以上より, 両交雑魚は雌雄ともに生殖不能すなわち雑種不妊であることが明らかにされた。
著者
甲本 亮太 工藤 裕紀 髙津 哲也
出版者
日本水産増殖学会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.615-630, 2011-12-20

秋田県沿岸におけるハタハタ仔稚魚の水深別分布と摂餌生態を調べるため、2009年2-5月に仔稚魚の分布密度と食物組成および餌サイズ組成を調査した。仔稚魚は水温7.3-12.2℃の底層に分布し、水深0.5-5mの産卵場から個体発生的に水深60m以深に移動した。また稚魚は、水温13.2℃以上の底層には分布しなかった。ハタハタの孵化仔魚は脊索長が約12mmあり、他の海産魚類の仔魚に比べて口器および形態が発達した段階で孵化していた。体長12-30mmの仔魚の餌は浮遊性あるいは底生性のカイアシ類コペポダイトが高い割合を占め、40mm以上ではアミ類が優占した。コブヒゲハマアミはハタハタ稚魚の成育場に同期的に出現し、他の浮遊性あるいは底生性の甲殻類に比べて大型であることから、稚魚の重要な餌生物の一つであると考えられた。