著者
吉田 卓弘 梅本 淳 山井 礼道 清家 純一 本田 純子 丹黒 章 島田 光生 米田 亜樹子
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.40, no.9, pp.1576-1581, 2007 (Released:2011-06-08)
参考文献数
37
被引用文献数
6 8

非常にまれな胃異所性膵から発生した腺癌の1例を報告する. 症例は64歳の男性で, 胸膜炎の経過観察中に, 胸部CTにて胃幽門部大彎側に径3.0cmの腫瘤を偶然に指摘された. 上部消化管内視鏡検査, 超音波内視鏡検査を施行したところ, 幽門前庭部になだらかな隆起性病変を認め, 筋層を主座とする粘膜下腫瘍を認めた. Retrospectiveには2年前のCTでも存在しており, 腫瘍径にほとんど変化を認めなかった. しかし, 幽門狭窄症状を来したため, 胃gastrointestinal stromal tumorの術前診断のもと腹腔鏡下幽門部分切除術を施行した. 腫瘍の一部を術中迅速診断に提出したところ, 胃異所性膵と考えられた. 永久標本では粘膜下層から漿膜下にかけて腫瘍が存在し, 一部に腺癌への移行像を認め, 異所性膵から発生した高分化型腺癌と診断された. 粘膜下腫瘍の治療においては, 悪性腫瘍が併存する可能性も念頭におく必要がある.
著者
植田 隆太 今 裕史 和久井 洋佑 阪田 敏聖 蔵谷 大輔 武田 圭佐 小池 雅彦 鈴木 昭
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.53, no.12, pp.985-991, 2020-12-01 (Released:2020-12-26)
参考文献数
16
被引用文献数
2 3

症例は63歳の男性で,糖尿病性腎症による末期腎不全で血液透析を19年間施行し,高カリウム血症のためポリスチレンスルホン酸カルシウム(calcium polystyrene sulfonate;以下,CPSと略記 商品名:カリメート散)を内服していた.進行する貧血と黒色便に対する精査で下行結腸癌の診断となり,腹腔鏡下結腸部分切除術(下行結腸),D3郭清を施行した.術後経過は良好で第11病日に退院したが,その後も貧血の進行と血便を認めたため,第43病日に下部消化管内視鏡検査を施行した.吻合部に全周性の出血する潰瘍を認め,その他に縦走潰瘍を1か所認めた.潰瘍からの生検では,潰瘍底に好塩基性多菱形の沈着物を認め,CPSの関与が疑われた.そのためCPSの内服を中止したところ,貧血の進行は止まり,その後の下部消化管内視鏡検査でも潰瘍は改善していた.それ以降3年間,癌および潰瘍の再発なく生存中である.
著者
福留 惟行 駄場中 研 横田 啓一郎 石田 信子 上村 直 並川 努 井口 みつこ 戸井 慎 花﨑 和弘
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.52, no.12, pp.703-711, 2019-12-01 (Released:2019-12-28)
参考文献数
41

症例は59歳の女性で,神経性食思不振症に対して精神科入院中,経鼻胃管による栄養投与を受けていた.胃管挿入後8日目に生じた腹痛に対して撮影したCTで胃壁全体の浮腫,胃壁内気腫と門脈ガス血症(hepatic portal venous gas;以下,HPVGと略記),縦隔気腫,皮下気腫を認めた.上部消化管内視鏡検査で,胃体上部大彎に限局性粘膜壊死を認めた.縦隔気腫,皮下気腫に関しては原因の特定はできないものの気腫性胃炎からのHPVGの診断で胃全摘術を施行した.BMI 10 kg/m2と低栄養状態であったが,術後経過は良好であった.本症例は,胃管留置による胃粘膜傷害からの感染が原因で気腫性胃炎を発症,それに伴いHPVGを生じ,同時に低栄養状態による組織の脆弱性を背景として,胃管挿入の刺激で気道内圧の上昇,肺胞の破裂が起こり,縦隔気腫と皮下気腫が発生したと考えられた.このような二つの病態が同時に起こったと推測されるまれな症例を経験したため報告する.
著者
新井 俊文 高崎 健 大原 敏哉 金井 信雄 吾妻 司 原田 徹
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.415-421, 2011-04-01 (Released:2011-04-23)
参考文献数
19

現在,腹腔鏡下胆嚢摘出術(Laparoscopic Cholecystectomy;以下,LCと略記)は胆石症の標準術式となっているが,症例の集積に伴い胆石腹腔内落下による膿瘍形成の報告も散見される.今回,腹腔内落下胆石が原因で胃壁内に炎症性肉芽腫を形成し手術的に除去した非常にまれな1例を経験したので報告する.症例は53歳の男性で,前医にて胆石胆嚢炎に対しLCが施行されたが,術中膿性胆汁と結石が腹腔内に流出し可及的に結石の除去がなされた.6か月後のCTにて腹腔内と胃壁内に腫瘤を指摘され当院へ紹介された.開腹所見は肝S6に接する肝外膿瘍と内部に結石を認め,胃前庭部の小腫瘤を部分切除にて摘出した.結石分析はビリルビンカルシウム結石であった.高度炎症胆嚢では壁損傷もまれではなく,それに伴う腹腔内落下胆石の回収は困難な場合も少なくない.胆石腹腔内落下が必ず膿瘍に結びつくわけではないが散石時には厳重な経過観察が必要と考えられた.
著者
山中 雅也 奥村 徳夫 園原 史訓 小西 滋 杉本 博行 梶川 真樹
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.52, no.12, pp.722-727, 2019-12-01 (Released:2019-12-28)
参考文献数
22

症例は18歳の男性で,突然の左肩痛と背部痛,腹痛を主訴に当院を受診した.腹部造影CTで,脾腫,脾周囲の血腫および遅延相での造影剤の血管外漏出像を認め脾破裂と診断した.循環動態は安定していたために保存的治療とした.また,顎下リンパ節の腫脹,疼痛があり,血液検査で単球の上昇,EB virus抗体VCA-IgM陽性,異型リンパ球の出現などを認め,伝染性単核球症による脾破裂と診断した.以後,再出血することなく軽快し21病日に退院した.脾臓は免疫において重要な臓器であり,若年者では脾破裂の場合も可能なかぎり温存することが望まれる.伝染性単核球症による脾腫が原因となって生じた脾破裂に対して,保存的治療で脾臓を温存することができた症例を経験したので報告する.
著者
後藤 健太郎 松末 亮 山口 高史 森吉 弘毅 猪飼 伊和夫
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.54, no.10, pp.728-735, 2021-10-01 (Released:2021-10-27)
参考文献数
30

症例は76歳の女性で,3年前に肛門前方の無痛性腫瘤を触知し,数か月前から増大するため受診した.肛門前方の硬結を伴う2 cm大の皮下腫瘍が皮膚に露出し,表面は粘液で覆われていた.CTで腫瘍の肛門括約筋および膣への浸潤が疑われ,両側外腸骨リンパ節が腫大し,PET-CTで原発巣と両側外腸骨リンパ節に集積が亢進していた.生検でアポクリン腺癌や異所性乳房由来の腺癌が疑われた.両側外腸骨リンパ節転移を伴う会陰部アポクリン腺癌の診断で腹腔鏡下腹会陰式直腸切断・膣壁合併切除,両側外腸骨リンパ節摘出術を施行した.腫瘍は前方で膣壁上皮直下に達し後方では一部肛門管上皮に露出し,両側外腸骨リンパ節転移が確認された.アポクリン腺癌は浸潤性と転移性を獲得するまで数か月から数年の静止期があるとされる.会陰部の経時的に増大する皮下腫瘤ではアポクリン腺癌も鑑別疾患の一つとして考え,生検による早期確定診断が重要と考えられた.
著者
河野 修三 下田 忠和 飯野 年男 二階堂 孝 梅田 耕明 桜井 健司
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.72-76, 1995 (Released:2011-06-08)
参考文献数
18
被引用文献数
2 3

症例は68歳の女性. 平成5年7月に左鼠径部の有痛性腫瘤を主訴に来院し, 大網のヘルニア嵌頓の診断にて手術を施行した. ヘルニア嚢には3×2cmの腫瘤を認め, 同部を切除した. 病理検査の結果が転移性腺癌であったため, 生殖器および消化器の精査を行い諸検査で異常所見を認めなかったため, 腹腔鏡検査に引き続き, 開腹手術を施行した. 大網には多発性散在性に瘢痕様病巣が存在したので大網網嚢切除を施行した. 大網およびヘルニア嚢腫瘤の病理組織学的検査から腹膜原発漿液性乳頭腺癌と診断した. ヘルニア嚢に悪性腫瘍を発見することはまれなことである. 腹膜原発の漿液性乳頭腺癌は比較的まれな疾患であるが, 腹水貯留による腹部膨満感や腹部腫瘤触知により診断されることが通常である. ヘルニア嚢の腫瘤より同疾患が診断された報告はほかになく, 非常に興味深い症例と考えた.
著者
山口 康雄 久間 直哉 久留須 裕司 小川 道雄
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.1163-1168, 1993 (Released:2011-08-23)
参考文献数
5
被引用文献数
1

胃癌の診断で胃全摘術を行った症例を対象として, 手術侵襲後に急性相反応蛋白の産生が急増する時期における分枝鎖アミノ酸 (以下BCAA) 投与の意義について検討した.手術侵襲の指標として尿中norepinephrine総排泄量およびinterleukin-6 (IL-6) の血中濃度を測定した.これらはBCAA投与群, 対照群の両群間で有意差はなく, 侵襲の程度には差はなかった.総蛋白, アルブミンおよび種々の急性相蛋白の血中濃度は両群間で有意差はなかった.また, 必須アミノ酸であるleucine, isoleucine, valineの血中濃度は両群間で有意差は認められなかった.しかし侵襲に対する筋蛋白融解の程度, つまり体重当たりの尿中総3-methylhistidine排泄量は, 対照群に比べBCAA群では有意に低下した.以上より, 術後早期に耐糖能の変化に応じた非蛋白カロリー量にBCAAの豊富なアミノ酸製剤の併用投与により, 侵襲による筋蛋白融解が抑制される傾向が示された.
著者
木村 拓也 Lauro Augusto Cescon Matteo Zanfi Chiara Pinna Antonio Daniele 福澤 正洋
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.41, no.11, pp.1883-1891, 2008-11-01
参考文献数
21

イタリアのボローニア大学S'Orsola-Malpighi附属病院で過去7年間に脳死ドナーから成人の小腸単独移植を28例(29移植)に行ったので報告する.方法:原疾患は短腸症候群と小腸機能不全が29移植中27移植(93%)で,移植の適応としては中心静脈アクセスの確保不能,中心静脈栄養に関連した合併症(繰り返す感染症,肝機能障害)が20例(69%)を占めた.免疫抑制剤はdaclizumab,alemtuzumab,antithymocyte globulinのいずれかをinductionに用い,tacrolimusを維持に用いた.Daclizumab投与例ではプレドニゾロンも併用した.結果:患者/グラフトの5年生存率は74%/71%であった.拒絶反応は13例に認め,全例にステロイドパルス療法を,2例にはOKT3を追加投与したが,1例は回復せず,graftの摘出を要した.6例死亡したが(中央値:400日)敗血症3例,アスペルギルス肺炎2例,CMV腸炎による多発穿孔1例とすべて感染症関連であった.生存例22例中19例は中心静脈栄養を必要とせず,経口摂取で生活し,生活の質が保たれていた.考察:成人の小腸単独移植は,induction therapyの導入や適応の選択などで他の臓器移植とほぼ同じ生存率を得ることが可能となってきた.小腸移植は小腸機能不全や短腸症候群患者における有用な選択枝となりえるが,拒絶反応,感染症で失う症例も多く,さらなる工夫が必要である.
著者
稲垣 大輔 塩澤 学 里吉 哲太 渥美 陽介 風間 慶祐 樋口 晃生 利野 靖 益田 宗孝
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.50, no.8, pp.607-613, 2017-07-01 (Released:2017-08-24)
参考文献数
19

目的:原発巣切除を施行した腹膜播種を伴う大腸癌の予後因子を明らかにすることを目的として検討を行った.方法:2000年から2010年まで,当科で治療を行った原発性大腸腺癌を対象とした.結果:大腸癌1,484例のうち77例(5.2%)に腹膜播種を認めた.腹膜播種を伴う大腸癌で原発巣切除を施行したのは74例で,手術根治度Bを得られたのは12例であった.手術根治度Cの65例において,原発巣切除62例と非切除3例の治療成績を比較すると,原発巣切除症例の生存率が有意に良好であった(P=0.037).腹膜播種を伴う大腸癌で原発巣切除を施行した74例で,腹膜播種の程度の分類はP1 32例,P2 17例,P3 25例で,3年生存率(生存期間中央値)は,P1 34.4%(20.2か月),P2 41.2%(24.7か月),P3 8.0%(14.8か月)であった.P3とP1およびP3とP2を比較すると,P3はいずれも有意に予後不良であった(P=0.008,P=0.008).多変量解析の結果,組織型(低分化腺癌・粘液癌・印環細胞癌),腹膜播種P3,手術根治度Cが独立した予後不良因子であった(P<0.001,P=0.015,P=0.002).結語:腹膜播種を伴う大腸癌では,原発巣切除と腹膜播種切除で肉眼的根治切除を行うことができれば治療成績を改善できる可能性があると考えられた.
著者
西田 修 佐野 文男 佐藤 直樹 五十嵐 究 木村 純 葛西 洋一
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.17, no.9, pp.1758-1762, 1984 (Released:2011-03-02)
参考文献数
17
被引用文献数
2 3

1968年から1982年までに当科で経験した40歳未満の若年者大腸癌23例の病態および治療成績に検討を加えた. 若年者大腸癌は全大腸癌の9.7%で, 平均病悩期間は4.5ヵ月, 腫瘍長径は6.6cmと高年者より発育が速い. 組織学的には低分化腺癌 (17%) と粘液癌 (33%) の頻度が高い. n (+) は若年者49%, 高年者38%, V (+) は若年者48%, 高年者32%, ly (+) は若年者47%, 高年者37%と, いずれも若年者の頻度が高い. 臨床症状は若年者に腹痛および肛門痛が39%と多い. 若年者大腸癌の再発率は60%, 5生率44%とその成績は不良で, 特に, 肝転移再発が38.5%と高いため, 門脈内への化学療法が望まれる.
著者
大山 莉奈 塩谷 猛 小峯 修 南部 弘太郎 渡邉 善正 渋谷 肇
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.49, no.10, pp.971-978, 2016-10-01 (Released:2016-10-20)
参考文献数
16

症例は75歳の女性で,筋委縮性側索硬化症にて他院に通院中であり嚥下機能低下に対し1年前に胃瘻造設術を施行されていた.急激な腹部膨満を認め腸閉塞の疑いで当科へ搬送され精査の結果胃軸捻転症の診断となった.同日緊急で開腹胃壁固定術を施行し,再度胃瘻の使用が可能となった.難治性神経疾患を持つ患者の場合は,胃瘻造設後これを軸として胃軸捻転症を発症する可能性があり,急性腹症の鑑別の一つとして考慮すべきであると考え報告する.
著者
星野 由維 筒山 将之 杉本 博行 小林 大介 横山 裕之 望月 能成 谷口 健次
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.55, no.11, pp.692-700, 2022-11-01 (Released:2022-11-30)
参考文献数
36

症例は85歳の男性で,腹痛・嘔吐を主訴に前医を受診し,小腸閉塞の診断で保存的加療を行ったが食事摂取で再燃を繰り返したため,精査・加療目的に当院に紹介受診となった.腹部ダイナミックCTにて,空腸に造影効果を伴う壁肥厚とその口側の腸管拡張を認め,空腸腫瘍とそれに伴う腸閉塞と診断した.寛解・増悪を繰り返す腸閉塞を認めており,手術適応と判断し腹腔鏡下小腸部分切除術と所属リンパ節郭清を施行した.術後病理検査にて小腸組織内に膵腺房組織を認め異所性膵が存在し,異所性膵組織の一部と連続性を持って異型細胞を認め異所性膵癌と診断した.根治切除可能であったが,術後2か月で多発肝転移・腹腔内リンパ節再発を認め,S-1内服を継続し現在も外来通院中である.今回,術前診断が困難な小腸異所性膵癌の1例を経験したので報告する.
著者
友野 絢子 佐溝 政広 松本 晶子 大坪 出 光辻 理顕 和田 隆宏 木崎 智彦
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.512-517, 2020-06-01 (Released:2020-06-30)
参考文献数
13

症例は76歳の女性で,心窩部痛を主訴に当院救急外来を受診した.白血球およびアミラーゼ,リパーゼの上昇が見られ,腹部CT上,左腎下極に腸間膜脂肪織濃度上昇を認めた.異所性膵膵炎を疑われて入院となり,保存的加療が開始された.入院2日後から腹痛の最強点は右側腹部に移動し,炎症反応の増悪を認めた.CT上,腸間膜脂肪織濃度上昇は右側腹部に移動し,腹水も出現したため,急性腹症の診断で当科紹介となり,同日緊急手術を施行した.Treitz靭帯より20 cm肛門側の部位から30 cm長にわたる,小腸間膜の色調変化と血腫形成を認めた.小腸憩室炎による腸間膜穿通を疑い,小腸部分切除および腸間膜内血腫切除術を施行した.病理学的には空腸憩室近傍に発生して憩室内に開口部を持ち,急性出血性膵炎を発症した異所性膵であった.
著者
金子 猛 磯部 潔 笠原 正男
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.46-50, 2003 (Released:2011-06-08)
参考文献数
9
被引用文献数
5 4

術前腹部CTで石灰化を伴う小腸腫瘤性病変を認め, 開腹手術で小腸間膜に異所性膵組織を認めた1例を報告する. 症例は54歳の男性. 1996年9月25日より腹痛出現し, 入院精査で小腸に石灰化を伴う腫瘤性病変をCTで認めた. 保存的治療で腹痛軽快するが, 2週間後のCTでも縮小した腫瘤性病変を小腸に認めた. 小腸造影では異常所見を認めなかった. 1996年11月7日, 再び腹痛が出現し救急外来受診. CTでは前回と同様に小腸壁の肥厚と石灰化病変を認めた. 開腹手術を施行し, トライツ靱帯より50cm肛門側に, 小腸に接する小腸間膜内に4cm大の腫瘤性病変を認めた. 小腸とともに切除した. H.E.染色および特殊染色において腺房組織, 導管とランゲルハンス島を検索され, Heinrich I型の異所性膵組織と診断された. 好酸球浸潤を認め, 異所性膵組織が膵炎を引き起こしたものと考えられた.
著者
大原 信福 森田 俊治 小森 孝通 谷田 司 野田 剛広 今村 博司 岩澤 卓 保本 卓 足立 史朗 堂野 恵三
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.456-462, 2015-05-01 (Released:2015-05-16)
参考文献数
18

下腸間膜動脈領域に形成された動静脈奇形(arteriovenous malformation;以下,AVMと略記)によって虚血性大腸炎が発症したと考えられた1例について報告する.AVMにより虚血性大腸炎を発症することはまれであり,本邦で初の報告例と思われるため報告する.症例は74歳の男性で,血便を主訴に来院した.大腸内視鏡検査で左側結腸に高度の粘膜浮腫とうっ血を認め,虚血性大腸炎が疑われた.腹部造影CTでは左側結腸壁の造影不良と,下腸間膜動脈領域の2か所にAVMが指摘された.血管造影検査で下腸間膜AVMを確認し,引き続き塞栓療法を試みたが手技中に腸管浮腫が急性増悪したため中断した.結腸左半切除術を施行し,単孔式横行結腸人工肛門を造設した.術後は合併症なく経過し,術後7か月まで再出血を認めていない.
著者
山川 雄士 坂東 悦郎 川村 泰一 谷澤 豊 徳永 正則 杉沢 徳彦 金本 秀行 絹笠 祐介 上坂 克彦 寺島 雅典
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.1-10, 2014-01-01 (Released:2014-01-21)
参考文献数
25
被引用文献数
3 3

目的:85歳を超える超高齢者に対する消化管癌治療法の選択にあたっては,根治性のみならず患者の耐術能や社会的背景などを考慮に入れた総合的な判断が必要となる.75歳から84歳までの高齢者(elderly people;以下,EPと略記)と85歳以上の超高齢者(very elderly people;以下,VEPと略記)の胃癌手術症例を比較検討し,VEP群に対する胃癌手術の安全性,死亡原因に関して検討した.方法:2002年10月から2011年10月に当院で行われた胃癌手術症例のうち,R0手術を施行された75歳以上557例を,EP群515例とVEP群42例に分類し,両群における周術期因子,生存転帰を後ろ向きに比較検討した.続いて,VEP群の術後の死亡原因を解析し,他病死の予測因子を抽出した.結果:術前BMI値,血清Alb値はVEP群において有意に低値であった.両群間で術前Stageと術後合併症には差を認めなかったものの,郭清範囲はVEP群において有意にガイドライン推奨郭清度未満の手術が多かった(P=0.012).Overall survivalはVEP群で有意に不良であった(P=0.034)が,disease-specific survivalにおいては両群間において差を認めなかった(P=0.304).VEP群では術前BMI 20未満,術前血清Alb値低値,独居,術後在院日数15日以上で有意に他病死症例が高率であった.結語:VEP群はEP群と同様に安全な手術が可能であった.VEP群の治療成績の向上には,術前の栄養管理と術後の在宅支援が重要である.