著者
火爪 健一 関 誠 十亀 徳 上野 雅資 太田 博俊 柳澤 昭夫
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 = The journal of the Japanese Practical Surgeon Society (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.873-877, 1997-04-25
参考文献数
10
被引用文献数
3

脾よりかなり離れた大網に存在し,茎捻転によると思われる症状を呈した重複副脾の稀な1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.症例は35歳女性.人間ドックの腹部USで左側腹部に腫瘤を指摘され精査目的で入院となった.腹部USでは左腎尾側に充実性腫瘤が存在し,腹部CTでは腎下極に始まり下行結腸を前方より圧排する均一な充実性腫瘤が見られた.血管造影では左胃大網動脈より栄養されるhypervascularな腫瘍像が見られ,他に脾下極よりに径2cmのhypervascularな多発病変が見られた.以上より副脾を疑ったが,他の悪性疾患を否定できず,また間歇的な腹部仙痛発作を認めたため,開腹術を施行した.<br> 大網前面に胃大網動静脈につながる長さ90mmの茎を有する径40mm大の副脾と,長さ25mmの茎を有する径21mm大の副脾を認めた.ともに茎の起始部で切除した.組織学的に2個とも副脾と診断した.
著者
川田 忠典 荒瀬 一己 舟木 成樹 正木 久朗 北川 博昭 平 泰彦 野口 輝彦
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.44, no.12, pp.1405-1409, 1983-12-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
9
被引用文献数
1

外傷性胸部大動脈断裂の急性期予後は不良であり,外科的治療が唯一の救命手段である.そのためには早期診断が必須であるが,多臓器損傷を伴うために確定診断は意外と困難である.我々は入院直後の胸部レ線像上,縦隔陰影拡大,気管右偏像,大動脈弓部不明瞭化の一つ以上の所見があれば,胸部CTスキャンを行い,縦隔内あるいは大血管周囲に血腫像を呈していれば血管撮影を行うという診断プログラムに基づき本症の早期診断に努めた. 1979年7月から1982年12月までに胸部外科医が関係した鈍的胸部外傷患者は21例で,そのうち胸部レ線像上診断基準陽性例は15例であった. 15例中13例は胸部CTスキャンが行われ,縦隔内血腫の見い出された7例は大動脈造影が行われた.残る2例はCTスキャンが省略され即大動脈造影が行われた.血管造影の行われた9例中では4例に胸部大動脈断裂が, 1例に左鎖骨下動脈断裂がみとめられ,全例緊急外科的治療にて救命された. 以上の結果より我々の診断プログラムは本症早期発見に有用であったと考えられた.特に胸部レ線像上診断の疑わしい例ではCTスキャンが補助診断的に有力で,血腫形成像があれば緊急血管造影の決断のよい指標となった.しかし,縦隔拡大が明瞭な例では切迫破裂の危険性が予測され,診断のために時間の浪費は避けるべきで,血管撮影を先行させることが肝要と考えられた.
著者
藤井 秀則 山本 広幸 田中 猛夫 谷川 允彦 村岡 隆介
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.1681-1686, 1992-07-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

近年腹部超音波検査の進歩と普及により肝嚢胞の診断が容易となり,発見の機会は増加している.当院における1990年1年間の腹部超音波検査件数は約5,100件で168例(3.3%)に肝嚢胞を認め,大きさでは直径4cm以下がほとんどで8cm以上は3例であった.巨大肝嚢胞例2例に対し超音波ガイド下によるエタノール少量注入を施行し良好な結果を得た.自験例を含めた本邦報告例66例の検討では,注入薬剤はエタノール62例,塩酸ミノサイクリン4例であった.注入方法としては超音波ガイド下に7~8Frのピッグテールカテーテルを嚢胞内に挿入して行うのが一般的で,注入後10~30分の体位変換を行い排液する.エタノール注入例を検討すると, 1回の注入量は少量にとどめ,注入後は排液を充分に行い,持続ドレナージを行い2回あるいは3回以上の反復注入をするのが最適と考えられた.
著者
岩垣 博巳 日伝 晶夫 淵本 定儀 折田 薫三 米山 勝 堺 修造
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.53, no.10, pp.2343-2346, 1992-10-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
15

大腸癌患者の腸内環境を健常成人と比較検討した.患者群の糞便水分は健常者群より高値を,また糞便pHも高値を示した.各種有機酸濃度は健常者群より一様に低値を示したが,コハク酸に限り,高濃度かつ有意に高頻度で検出された.内因性endotoxin産生に関与するグラム陰性菌の菌数および占有率は,両群間で有意な差を認めなかった.患者群の糞便から検出される主要な細菌叢は健常者群に近似していたが, Staphylococcusをはじめとする好気性菌を高頻度に検出し,大腸癌患者においては好気的腸内環境にあることが示唆された.
著者
星野 澄人 森谷 雅人 今井 直人 佐藤 茂樹 永楽 仁 片場 嘉明 小柳 泰久
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.393-397, 1997-02-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
17

胃石イレウスは比較的稀な疾患であり,術前診断が困難なことが多い.今回われわれは,胃石による小腸イレウスの1手術例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する. 症例は63歳男性,数日前より嘔気,嘔吐を繰り返し,症状の増悪を認めたため近医受診し,上部消化管造影を施行したところ十二指腸下行脚に陰影欠損を認め,十二指腸腫瘍によるイレウスの疑いで当院紹介入院となった.上部消化管内視鏡を施行したところ,十二指腸下行脚には病変は認めず,鉗子孔からのガストログラフィンによる造影で,空腸に体位にて移動する陰影欠損を2カ所確認した.以上により,異物(胃石)イレウスと診断し自然排出を期待して保存的治療を試みたが9日間経過しても排出されず,外科的療法(胃壁切開)により,計5個の胃石を摘出した.摘出した胃石の成分分析よりタンニン98%の結果を得,柿の常食の嗜好もあることから,柿胃石によるイレウスと診断した.
著者
垣迫 健二 桑原 亮彦 多田 出 森本 章生 小林 迫夫
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.54, no.8, pp.2097-2101, 1993-08-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
22
被引用文献数
1

Chilaiditi症候群は,右横隔膜と肝臓の間に消化管の一部が嵌入した総称であるが,本症候群には特有の症状がなく,偶然に発見されることが多いと言われている.今回われわれは,右横隔膜下に回腸が嵌入し,絞扼性イレウスを呈した症例を経験した.症例は67歳男性で,右季肋部痛を主訴に近医により紹介され入院となった.腹部所見,腹部X線検査, CT検査などの結果,絞扼性イレウスを合併したChilaiditi症候群と診断し,緊急手術を施行した.肝右葉と腹膜との間に既往の肝炎によると思われる索状物を認め,同部に回腸の一部が嵌入,絞扼し壊死を伴っていた.小腸型のChilaiditi症候群は稀な疾患であり,文献検索上,本例では13例を数えるに過ぎないが,そのうち7例で絞扼性イレウスが認められた.小腸型のChilaiditi症候群では,絞扼性イレウスを合併することが多く,注意が必要であると考えられる.
著者
江嵐 充治 野口 昌邦 福島 亘 太田 長義 小矢崎 直博 北川 裕久 宮崎 逸夫 山田 哲司 中川 正昭
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.1522-1527, 1992
被引用文献数
1

最近,乳房切断術後,直ちに広背筋皮弁や腹直筋皮弁など自家組織を用いて乳房再建術を行う一期的乳房再建術が普及しつつあるが,予後に関する報告を見ない.今回,これら自家組織を用いて乳房再建を行った83例と乳房切断術のみを行った153例の生存率と非再発生存率を比較検討した.その結果,一変量解析で5年生存率および非再発生存率は乳房再建症例でそれぞれ92%, 90%,非乳房再建症例でそれぞれ92%, 86%であり,いずれも両群間に有意差を認めなかった.更に多変量解析で両群症例の背景因子を補正し検討したが,両群間に有意差を認めなかった.従って,一期的乳房再建術の有無は乳癌の予後に影響を与えないことが示唆された.
著者
井上 正
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.447-453, 1989
被引用文献数
1

外科医は常に手術を中心として創造に向って歩まねばならない.このためには深い思索と優れた着想が必要である.そうしてそれを実証し,評価し,また未来に向って探究する.その中に常に外科医の夢-surgeon's dreamが欲しいものである. <BR>心臓大血管外科の歴史は正にこの流れそのものである.1945年Taussigが着想し,Blalockが実証したFallot四徴に対する短絡手術,1948年Baileyによる僧帽弁交連切開術から1954年Gibbonによる人工心肺による開心術の成功を経て,1960年Starrの人工弁手術,1969年Favaloroの冠動脈バイパス手術から,最近の人工心臓をブリッジとした心臓移植の今に到る迄,この思想は脈々と流れ続けている. <BR>この間にあって,我が国で創案・創始された数々の手術,例えば新井,川島,佐治,今野・相馬,竹内,村岡などの手術に対して深い敬意を表わすとともに,これを育み,育て,さらにこれに続く手術が開発されることを念願して止まない.消えることなく夢を持ち続けたいものである.
著者
小川 明男 秋田 幸彦 鵜飼 克行 太田 淳 大島 章 京兼 隆典 七野 滋彦 佐藤 太一郎
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.52, no.10, pp.2387-2392, 1991-10-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
10

短期間で幽門前庭部狭窄が増悪し,進行胃癌と鑑別に苦慮した胃十二指腸潰瘍の1例を経験したので報告する.症例は71歳男性で,頭部外傷の既往があり常時頭痛があるため近医より投薬を受けていた. 1989年10月16日吐血し当院入院となった.上部消化管検査にてBorrmann 4型の進行胃癌を疑診したが,生検結果で悪性所見を認めなかった.幽門前庭部狭窄が著明に進行したため11月22日幽門側胃切除,十二指腸切除を施行した.切除標本では胃体下部小弯,前後壁に三条の巨大帯状潰瘍(Ul-II),その肛門側に十二指腸球部にまで及ぶ長さ7cmの全周性狭窄部を認めた.病理組織像では粘膜の軽度の炎症所見と粘膜下層における膠原線維の増生,更に全周性狭窄部では固有筋層の著明な肥厚を認めた.幽門前庭部狭窄は慢性炎症の繰り返しによるものと考えられた.増悪の誘因として,薬剤,循環障害が考えられた.
著者
鬼塚 卓弥
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.409-414, 1988-03-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
6
著者
高田 孝好 裏川 公章 内藤 伸三 松永 雄一 河合 澄夫 高瀬 信明 中山 康夫 香川 修司 長畑 洋司 林 民樹 斎藤 洋一
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.44, no.10, pp.1162-1169, 1983-10-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
28

著者らはビリルビン2mg/dl以上の閉黄患者255例を対象として消化管出血を合併した27例(11%)についてその臨床病態を分析し,また若干の実験成績とともに閉塞時の消化管出血の成因,治療について検討した.消化管出血27例中24例(89%)はビリルビン10mg/dl以上の高度黄疸症例であった.また原因と思われるstressorを重複算出にて分析すると,手術侵襲や胆管炎,重症肺合併症などの感染症が主たる原因と考えられた.潰瘍発生部位は胃体部から噴門部にかけ小弯側中心に発生し, UL I~UL IIの浅い潰瘍が多発する傾向にあった.閉黄時の急性潰瘍発生機序について総胆管結紮ラットに水浸拘束ストレスを負荷し検討した.結紮2週群ではストレス負荷後に胃壁血流量が無処置群, 1週群に比較して著明に減少し,また潰瘍指数も高値を示した.閉黄時には急性潰瘍発生準備状態にあると考えられ,このため閉黄患者の術後には積極的にcimetidineなどの予防的投与を行ない消化管出血の発生に細心の注意をはらう必要がある.教室では過去3年間に閉黄時の消化管出血7例にcimetidineを投与し5例(71%)の止血を得た.やむを得ず手術を施行する時は,出血巣を含つ広範囲胃切除術にcimetidineの併用が好ましい方法と考える.
著者
小山 省三 小口 国弘
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.511-516, 1980-05-01 (Released:2009-03-31)
参考文献数
11

ホルマリンによる腐蝕性胃炎は極めてまれであるが,養蚕用消毒液としてのホルマリンを誤飲した2例を経験した.症例1は67歳の男性で,誤飲後一時的にショック状態を呈したが,ショック状態より離脱後,第17病日の胃X線検査では小弯の短縮,浮腫,胃粘膜の不整,乱れ,不整形のバリウム斑,さらにトライッツ靱帯近くの十二指腸と空腸の拡張低下部を認めた.さらに第31病日には幽門狭窄症状が出現し,胃X線検査では胃壁の拡張は悪く,ノウ胞状の形態を示しさらに胃内視鏡検査では,発赤,出血,浮腫,ところどころに白苔さらに著明な凹凸と多彩な所見を呈し幽門狭窄が高度のため,胃亜全摘術と胃空腸吻合術を施行した.症例2は66歳の男性で,誤飲後12時間目に胃内視鏡検査を施行された.胃内腔全体が,凝固壊死に陥つた白苔で被われており,この白苔はわずかな刺激ではがれ,その白苔下には広汎な浮腫と充血を認めたが,誤飲後2週間目には軽度の浮腫を残すのみであつた.このようなホルマリンによる腐蝕性胃炎は,本報告例では清酒との誤飲で発症しており,ホルマリンの保管管理を充実する必要がある.さらにホルマリン誤飲例に対しては,急性期のショック状態に対する処置と同時に蛋白等による中和剤での胃洗浄を十分施行する必要があり,さらに長期観察中にホルマリンによる蛋白凝固作用で幽門狭窄の発生した場合や胃粘膜欠損による低蛋白血症が生じる様な際には,積極的な外科的処置が必要であり,やむなく残胃に病変が残存するような場合にも,病変を有する残胃と正常な空腸との間に,十分良好な創傷治癒が期待できると思われる.
著者
磯田 恵子 松崎 孝世 吉田 禎宏 藤野 良三 斎藤 勢也 高橋 正倫 Naohiko HAYASHI Hiroshi FUKUDA Kunimi HAMADA Naohiko KUROKAMI Takashi NAGANO
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.2453-2457, 1989-11-25 (Released:2009-04-21)
参考文献数
14

最近経験した胆嚢ポリープ癌の4例を報告するとともに,過去10年間に当院外科で手術した胆嚢ポリープ様病変について検討した.内訳はコレステロールポリープ4例,腺腫3例,過形成1例,腺癌4例であった.切除標本ではコレステロールポリープは5mm以下の小病変が多く腺癌は1例を除き10mm以上であった.超音波検査では12例中10例に病変を描出しえており,コレステロールポリープはIaないしIIa型であり,IV型は全て腺癌であった.超音波検査で胆嚢内にポリープ様病変を認めた場合,5mm以下のもの及び5~10mmでもエコーパターンがI型のものは経過観察,II, III, IV型は悪性の可能性もあり手術適応である.また,10mm以上のものは手術を原因とする.手術を施行する際の術式として,術後に癌と判明した場合m, pmの早期癌では胆嚢摘出術のみでよいが,ss以上の進行癌では積極的に再手術を勧めるべきと考えられる.
著者
畠中 坦 天野 数義 鎌野 秀嗣 花村 哲 伊藤 直貴 佐野 圭司
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.114-129, 1981

1980年までの実質14年間に著者の一人(H. H.)が責任治療を行った脳腫瘍308例のうち,放射線治療を行ったのは212例であり,そのうち特に神経膠腫(グリオーマ),髄膜腫,肉腫,計146例について,光子(photon,コバルト60またはリニヤック)による治療と,低速中性子(原子炉による硼素中性子捕捉療法)とを比較した.前者は102例,後者は44例に行われたが,後者のうち12例は光子治療が無効であったためさらに中性子捕捉療法を行ったものである.病理組織診断は成績判定に重要なので,客観的立場にある欧州人神経病理学者に再判定を依頼した. (1) WHO分類によるIII~IV度膠腫(ほぼ, Kernohan分類のIII~IV度に近く,いわゆるGlioblastoma)では,光子治療(その大部分の症例は化学療法,免疫療法を併用している)による平均生存は12.9カ月で,全41例が最高3.9年までに死亡したが,低速中性子捕捉では18例中5例が生存しており,平均は17.8プラス月を越えた.これは,近年の主要な報告(Gillingham 13.8カ月, Walker 8.4カ月, Jellinger 13.3カ月)に比べても上廻っており,これまでの最高生存は8年6カ月を越えている.(ことに初回切除術をH.H.が自ら行いすみやかに中性子捕捉療法を行った10例では,初回手術の平均2週間以内に中性子捕捉療法が行われており,平均生存は24.4カ月を越え10例中4例が生存している.) (2) 天幕上II度の膠腫では,光子群37カ月中性子捕捉群36カ月以上と差はないが,前者の80%はすでに死亡し,後者は80%が生存している. (3) 橋・延髄の膠腫では光子群16例が全例死亡し,平均は8カ月であるのに対し,中性子捕捉治療では18カ月を越え,最長生存は,当初4,200ラッド照射後再発し昏睡にまでいたりその後中性子捕捉療法を行った当時3歳の小児で,現在まで4年半生存,小学校に進学している.<br> 深部治療に好適な熱外中性子の得られる原子炉がないことと,早期治療の原則が行われていないため,まだこの療法の真価は発揮できてはいないが,これ迄の限られた経験からみて今後一層の進歩・普及が期待される.また他種癌の治療への適用が検討されている.
著者
幸田 圭史 高橋 一昭 更科 広実 斉藤 典男 新井 竜夫 布村 正夫 谷山 新次 鈴木 秀 奥井 勝二 古山 信明 樋口 道雄
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.46, no.11, pp.1466-1470, 1985

非ポリポーシス性遺伝性大腸癌の一型として分類されているcancer family syndromeは, Lynch (1973)らによりその診断基準が示されたが未だ明確なものではない.今回cancer family syndromeを疑わせる異時性3重複癌の症例を経験した.症例は60歳の女性で, 40歳時にS状結腸癌,直腸癌に罹患. 57歳時に子宮内膜癌に罹患.今回(60歳)は胆嚢癌,横行結腸癌と診断され昭和59年7月開腹術を行ったが多数の腹腔内播種を認め根治術を施行し得ず閉腹した.その組織型は全て腺癌であった.また本症例の三男は20歳時に大腺癌の為死亡し,母親は胃癌の為53歳時に死亡している.本症例の大腸癌はポリポーシスの形をとっておらず,子宮癌は子宮体部に発生したものであった.これらは, Lynchらの述べているcancer family syndromeの特徴の大部分を満たしているが,広い家族歴を調査できなかった為,常染色体優性遺伝のことは証明できず確定診断にはいたらなかった.家族に対する癌の二次的予防の意味においてcancer family syndromeを診断することは意義があり,今後明確な診断基準の作成が必要と考えられた.また,診断基準の作成の為に免疫学的研究の導入が必須と思われた.
著者
星野 光典
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.521-529, 1991

胆嚢結石の種類による破砕状態の相違を検討するため,摘出した5種類の胆石80個に対し基礎的実験を施行した.胆石の破砕されやすさを2mm以下の破砕片の重量%で比較すると,純コレステロール石は最も破砕されやすく,混成石は破砕されにくい傾向がみられた.臨床では, 284例中50例に体外衝撃波破砕療法を施行した. 50例中18例(36%)が完全消失した. 20mm以下の単数結石で有意に消失率が高く,また超音波分類では,コレステロール石と推定されたものの消失率は40%で, CTで非石灰化症例は27例中13例(48.2%)において消失したが,石灰化症例でも21.7%の消失率を得た.破砕治療後の加藤らの分類では,微細片浮遊型は11例中10例が1回のみの施行であるが小破砕止沈澱型,大破砕片沈澱型では2回3回と治療回数が増加した.以上により術前の画像診断を駆使し胆石の性状を知ることが,消失予測に影響すると考えられた.