著者
小川 弘俊 大村 豊 大橋 大造 入谷 勇夫 加藤 政隆 待木 雄一
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.250-253, 1986-02-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
15

従来無毒蛇と考えられていたヤマカガシによる蛇咬傷で,著明な出血傾向をきたし脳出血で死亡した症例を経験した. 症例は14歳男性で,ヤマカガシに左手背を咬まれ,数十分後より頭痛が出現,続いて局所が腫脹,約16時間後より出血傾向が出現,約19時間後に昏睡状態となり,さらにその数時間後呼吸停止をきたした.頭部CTスキャンで左側頭葉および後頭葉に脳出血を認めた.交換輸血などを行ったが軽快せず,受傷後10日目に死亡した. ヤマカガシ咬傷では,上顎後部のDuvernoy腺より分泌される毒液が体内に入ることにより出血傾向がひきおこされる.本邦では坂本の症例以来自験例を含めて8例の報告例があり,全例に出血傾向が認められる.咬傷患者に対しては,出血傾向の出現に注意し,異常があれば早期に交換輸血や抗毒素血清の注射などが必要である.
著者
塩見 尚礼 近藤 雄二 小道 広隆 片野 智子 宮沢 一博 原田 佐智夫 稲葉 征四郎 上田 泰章 今井 俊介
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.57, no.7, pp.1592-1596, 1996-07-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
6

豊胸術後に発生した稀な乳癌の3例を経験した.症例1は43歳の女性.豊胸術後11年目に外傷にてシリコンバッグ破裂.以来乳腺腫瘤の生検を繰り返され, 3年後に乳癌と診断され,左Brp+Ax,広背筋皮弁移植を行った.症例2は56歳の女性,豊胸術後24年目に右腋窩リンパ節腫脹を認め,自潰してきたため当院受診.多発性骨転移を認める進行例であった.術前化学療法を行った後両側Brt-Axを施行した.症例3は66歳の女性.豊胸術後28年目に左乳房緊張感を主訴に受診.腫瘍摘出術にて乳癌と診断されBrt+Axを施行した.豊胸術後の乳癌は本邦では1970年以来37例の論文報告をみるに過ぎず.稀な疾患である.自験例3例を含め,文献的考察を加えて報告した.
著者
江崎 治夫 安田 克樹 武市 宜雄 平岡 敬生 伊藤 利夫 藤倉 敏夫 矢川 寛一 林 雄三 西田 俊博 石丸 寅之助
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.44, no.9, pp.1127-1137, 1983-09-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
9
被引用文献数
2 5

広島での原爆被爆者からの甲状腺癌の発生を知るため研究を行った.対象は統計処理を容易ならしめるよう,性別,被爆時年齢別,被爆線量別にあらかじめ定められた固定集団である放射線影響研究所の寿命調査拡大対象を用い, 1958年から1979年までの22年間に診断,或いは剖検により発見された甲状腺癌を調べ,被曝放射線量との関係を明らかにした. 75,493人の中から125人の臨床的甲状腺癌が発生した.男15人,女110人で,人口10万人対粗年間発生率は男2.7, 女12.4で男女共,線量の増加と共にリスクが増加する.若年女性に特に,この傾向が著るしい.期待数に対する観察数の比(O/E)をみると,男女別でも,男女合計でも,線量の増加と共に甲状腺癌が増加する.線型反応についての検定を行うと,女性及び男女合計では線量効果がみとめられた.又年齢が若い程線量効果が明らかである. 50rad以上被爆した群の対照群に対する相対性リスクは4.2で,男女差はないが男性は数が少い為,女性にのみ有意である.年齢別では20歳末満のリスクが7.9と高く,統計的に有意である.統計的に有意な回帰係数が求められた20歳末満の女性の年間1 rad当りのリスクの増加は100万人対約3.4である. 同期間に剖検された4,425人中155人に潜伏癌がみられた. 50rad以上の群の相対的リスクは1.9で有意に高く, O/E比は男1.6, 女1.8でほぼ等しいが,女子にのみ有意であった.
著者
吉田 信裕 舟橋 啓臣 今井 常夫 田中 勇治 飛永 純一 山田 二三夫 和田 応樹 束村 恭輔 森田 孝子 高木 弘
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.56, no.7, pp.1296-1300, 1995-07-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
21

1979年から1992年までに,当教室では甲状腺分化癌手術を392例経験したが,このうち20歳未満の若年者は18例であった.若年者症例にも成人と同様,「(1)甲状腺全摘,(2)両側頸部郭清,(3)上皮小体自家移植」の基本術式を原則として施行してきた.腫瘍径やリンパ節転移などを成人と比較,また術後経過についてQuality of lifeを含め追跡し,当教室の術式の是非を検討した.腫瘍径はt2以上が全体の約80%を占めたが,成人は60%に留まった.またリンパ節転移は約90%の症例に認めたが,成人例は76%であった.若年者は手術時に成人より進行していたが,18例のうち1例も再発を認めていない.また術後の合併症は,軽度の上皮小体機能低下症1例と術創ケロイド3例のみであった. 10歳以下の症例の成長・発育にも何ら問題はなく,適齢期に達した女性5症例のうち3例は児を設けている.充分な根治性と良好な術後経過を期待できる,妥当な術式と考えられた.
著者
鈴木 一郎 正津 晃 井上 宏司 中島 功 猪口 貞樹 上田 守三 大谷 泰雄 三冨 利夫 相川 浩幸 重田 定義
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.917-924, 1990-05-25 (Released:2009-04-21)
参考文献数
22

東海大学病院開設以来14年間に散弾銃銃創8例を経験した.8例とも男性で,事故による被弾であり,全例に入院を要した.2例は血気胸のため胸腔ドレーンを挿入,1例は視神経に隣接した散弾による視力障害のために開頭術,1例は膝関節貫通損傷にて大腿骨・経骨の部分切除を行った.死亡例はない.試験開胸や試験開腹術を要した症例はない. 1例は創感染を生じたが治療により改善し,他の7例には早期・晩期のいずれにおいても感染はなかった. 体内に残留した散弾の完全除去は非常に困難であり,しかも不必要である.ただし,鉛は関節滑液に溶解しやすく,周囲組織に沈着しやすいので,関節内の散弾や関節周囲の偽嚢胞は除去しなければならない. 体内遺残散弾による急性鉛中毒は非常に稀であり,受傷後最長13年8ヵ月を経過しているが,未だ本症を疑わせる症例はない.
著者
稲田 洋 勝村 達喜 藤原 巍 土光 荘六 元広 勝美 木曽 昭光 野上 厚志 正木 久男 中井 正信
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.45, no.12, pp.1659-1665, 1984-12-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
21

川崎医科大学胸部心臓血管外科において過去8年間に緊急手術を施行した破裂ないし切迫破裂性腹部大動脈瘤症例は9例であり,これを同時期に待期手術を施行した腹部大動脈瘤症例44例との比較を行い,破裂ないし切迫破裂性腹部大動脈瘤の外科治療上の問題点を検討した. 緊急手術例のうち入院後即刻手術を施行しなかったのは2例であるが,うち1例は経過観察中にショック状態となり,また他の1例は切迫破裂の症状が増強したため結局緊急手術を施行せざるを得なくなった.また術前破裂および切迫破裂と考えられた症例は各々4例と5例であり,手術死亡率は破裂例,切迫破裂例,緊急手術例で各々50%, 20%, 33%であり,これに対し待期手術例では0%であった.また生命表法による術後7年累積生存率は緊急手術例で16.7%, 待期手術例で73.2%であった.手術死亡原因では急性腎不全2例,出血1例で,遠隔死亡原因では吻合部縫合不全に起因するものが4例中3例を占めていた.また非特異性炎症性動脈瘤が9例中3例あり,しかもその3例中2例が上記原因にて遠隔死亡した. よって今後の手術成績の向上のためには破裂と考えられる症例のみでなく切迫破裂と考えられる症例にも入院後即刻緊急手術を施行すべきであり,その手術は迅速かつ出血を可及的に少なくするよう努め,また炎症性動脈瘤と考えられる症例には手術方法と手技の工夫,慎重な術後管理が必要と考えられる.
著者
武藤 功 音羽 剛
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.48, no.8, pp.1126-1130, 1987-08-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
10
被引用文献数
16

魚骨片を誤飲する機会は多いと考えられるが,この魚骨片が体外与排泄されず,消化管を穿通したという症例の報告は比較的少ない. 最近,誤飲された魚骨が,消化管を穿通し膿瘍あるいは腫瘤を形成し,手術した5症例を経験した. 1例は食道を穿通し縦隔洞膿瘍を形成し, 1例は直腸壁を穿通し肛門周囲膿瘍を形成,他の3例は結腸を穿通し肉芽腫を形成していた.結腸穿通の1例で放線菌症を認めた.結腸穿通により形成された肉芽腫の場合,悪性腫瘍との鑑別が困難な事があるがCT所見で,肉芽腫の場合,腫瘤陰影の中にひときわ明瞭なhigh densityの直線部分がある事が重要な所見に思われた.全例,切開ドレナージないし腫瘤摘出により完治し再発は認めていない.尚,個々の症例についての症状,診断,治療について若干の文献的検討を加え報告する.
著者
石田 常博 小川 徹男 星野 和男 阿部 展祐輝 佐藤 浩司 中村 敬 細野 治 飯野 佑一 川井 忠和 泉雄 勝
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.47, no.10, pp.1191-1197, 1986-10-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
19
被引用文献数
2

群馬県下における甲状腺癌集団検診を1980年から県対ガン協会と協力し,乳癌検診と同時に実施してきたので, 5年間の成績結果を報告する.受診者総数は91.787名(実人数54,625名)で,一次検診の異常者は4.6%,要精検者は2.4%であった.甲状腺癌は133例(乳頭癌117例,濾胞癌15例,髄様癌1例)発見され,発見率は0.14%,実人数に対して0.24%であった.初回受診者は繰り返し受診者よりも2倍発見率が高い.集検癌の82%が甲状腺腫に気付いていなかった.腫瘤径は2cm以下が65.5%を占め, 1cm以下の微小癌が22.6%にみられた.教室外来例に比して,リンパ節転移程度も少なく,甲状腺内に限局しているより早期の癌が多かった.転帰はリンパ節再発1例,残存甲状腺再発1例,交通事故死1例の他は健存であり,きわめて予後良好であった.甲状腺癌の集団検診は早期発見,早期治療上,有意義であり,今後さらに普及させるべきものと思われる.
著者
平松 和洋 関本 衛 長谷川 洋 中村 隆昭
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.54, no.8, pp.2125-2129, 1993-08-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
21
被引用文献数
1 5

症例は62歳女性,腹痛,嘔気,嘔吐を主訴として入院した.小腸造影では小腸に憩室を思わせる造影剤の貯留を認め, CTでは骨盤内に充実性の腫瘤を認めた.これらの検査所見より小腸憩室由来の腫瘍を疑ったが第4病日に穿孔性腹膜炎を併発したため手術を施行した.回盲部より約70cm口側,腸間膜対側にMeckel憩室が存在し,その先端に鶏卵大の腫瘍を認め,憩室中央には穿孔を認めた.明らかな他臓器転移は無かった. Meckel憩室を含めた小腸部分切除を施行した.腫瘍は病理組織学的には高分化~未分化腺癌よりなる多彩な像を呈していた.憩室内には異所性胃粘膜が存在し腫瘍はこれより発生したものと推察された.化学療法を施行したが術後9ヵ月で癌性腹膜炎により死亡した. Meckel憩室癌の本邦報告例14例の集計を行い若干の考察を加えた.
著者
飯塚 益生 馬来 忠道
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.628-632, 1986-05-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
9

胃アニサキス症2例の超音波検査を経験した.患者は36歳と29歳の女性で,ともに特徴ある画像を呈した.すなわち胃幽門前庭部から胃体下部にかけての全周性の壁肥厚像で,表面は平滑,内部エコーは低く均一で,粘膜面のエコーはやや高く認められたが各層は分離してみられなかった. 1例は水飲用と体位変換により内腔の開大を認め,壁の伸展性が十分保たれている所見をえたが,このことは悪性疾患との鑑別に有効であると思われた. 2例とも内視鏡検査で虫体を発見し,これを生検鉗子で摘出したことで症状は消失した.1例に1カ月後再度超音波検査を行ったところ,胃壁が正常の厚さにもどっていた.このことより,超音波検査はアニサキス症の治癒の判定にも有効であると思われた.
著者
今泉 宗久 内田 達男 新美 隆男 内田 安司 阿部 稔雄
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.658-663, 1989-04-25 (Released:2009-04-21)
参考文献数
18

輸血が免疫能低下に関与することは,腎移植等で知られている.そこで,肺癌手術例の予後における輸血の影響につき,当教室で手術を行った肺癌症例のうち評価可能な150例を対象として検討した.1986年6月現在,生存66例,死亡84例であった.P-病期Iは63例,IIは20例, IIIは60例, IVは7例であった.切除例は121例,試験開胸例は29例で,うち輸血例は91例であった.これらの症例の生存率はCaplan-Meier法に基づき,有意差はLogrank testによって統計的に処理された.術後5年生存率は無輸血群48.8%,輸血群30.2%であり(p=0.129),輸血量による差は認められなかった.P-病期別の5生率は病期Iでは無輸血群69.3%,輸血群62.5%で,病期II+IIIでは無輸血群30.8%,輸血群6.5%であった(p=0.125).手術程度別には,切除例,特に葉切例での5生率は無輸血群75.0%,輸血群49.8%で両群間に有意に差が認められた(p<0.05).従って,輸血は肺癌切除例の予後に悪い影響を与え,肺癌手術に際して不心要な輸血はなるべく避けるべきであると考えられた.
著者
八木田 旭邦 竹内 教能 伊藤 久 北島 政樹 立川 勲
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.185-191, 1987-02-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
23

腎移植時の輸血が,免疫寛容を誘導し移植腎の生着率の向上に寄与している事が知られている,この事実は,悪性腫瘍の外科的切除の際の輸血が,免疫寛容を惹起し逆に腫瘍の再発並びに増殖を促進している可能性も示唆している. stage II以上の結腸癌根治手術51例(輸血例36例,非輸血例15例)並びに乳癌根治手術51例(輸血例24例,非輸血例27例)の輸血の有無による予後をKaplan-Meier法で比較した.結腸癌根治手術の輸血例の生存率は,非輸血例に比較して明らかに低下している(p<0.0001).乳癌根治手術の輸血例の再発率は,非輸血例と比較し有意に高かった.また,結腸癌非根治手術例でも輸血例の予後は,非輸血例に比べ明らかに低下していた.輸血量と予後との因果関係を検討したが,輸血量との相関は得られなかった.この事実から手術前後の輸血が結腸癌並びに乳癌の予後不良因子として作用しており,輸血量との相関がない事から輸血の有無そのものが重要と考えられた.
著者
岩谷 周一 福島 晴夫 大隅 雅夫 田中 稔 平沢 敏昭 西田 保二 長町 幸雄
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.2308-2312, 1989-11-25 (Released:2009-04-21)
参考文献数
11

1983年から1987年までの5年間に群馬大学第1外科に入院した消化管出血例243例についてHb, MCV, BUN, BUN/Cr,を疾患部位別に比較し,出血部位,出血量及び出血状況の推定の可能性を検討した.結果:貧血群のMCVの比較では大腸出血例で食道のそれに比べ有意に小さかった.BUNが20mg/dl以上の高値を示すものは大腸よりも上部消化管で有意に多く,貧血群のBUNは食道の場合が胃十二指腸及び大腸よりも有意に高値であった.BUN/Cr>30の症例は上部消化管の21%に対し,大腸で1.9%と少なかった.食道疾患ではHbとBUN/Crとの間で相関(相関係数r=-0.6)が認められた.まとめ:消化管出血時,BUN/Cr>30を呈する症例は出血が上部消化管由来である可能性が極めて高く,また,出血量の推定も可能であることが示唆された.
著者
佐藤 裕 佐藤 清治 広橋 喜美 伊山 明宏 原岡 誠司 溝口 哲郎 片野 光男 樋高 克彦 原田 貞美 藤原 博 山本 裕士 久次 武晴
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.577-584, 1989-03-25 (Released:2010-01-21)
参考文献数
18
被引用文献数
11

1985年5月から1987年12月までの3年7ヵ月の間に,6名のシートベルトに起因する鈍的腸管・腸間膜損傷を経験したので報告する. 症例は男性5名,女性1名の計6名で,平均年齢は51.7歳であった.このうち,盲腸破裂と多発小腸穿孔をきたし,すでにshock状態におちいっていたために,回盲部切除を余儀なくされた女性を術後敗血症で失なった以外は全例軽快退院した.また大腸に損傷のあった5例中,遊離穿孔に至っていたのは2例のみで,あとの3例は腸間膜損傷をともなった腸管壁の漿膜筋層断裂にとどまっており,腸管切除をせずに吸収糸にて縫縮,修復するのみで良好な結果を得た. 診断面においては,腹部CT検査が腹腔内遊離ガスと液体貯留をあわせて同定でき,しかもその性状にも言及できる利点があり非常に有用であった. 交通事故の増加とシートベルト着用の義務化にともない,今後シートベルトによる鈍的な腸管・腸間膜損傷が増加するものと考えられる.シートベルトを着用した交通外傷患者の診療に際しては,常にこのことを念頭おくべきことを強調したい.
著者
大辻 英吾 菊岡 範一 辻本 洋行 桑田 克也 中村 隆一 菅 啓祐
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.991-994, 1993-04-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

22年前に胃潰瘍のために胃切除術を受けて, BillrothII法により再建された既往歴を持つ54歳の女性が,シラタキコンニャクによる食餌性イレウスを発症した.夕食にシラタキコンニャクを食べ,その翌朝から嘔気,嘔吐と共に上腹部に激しい痔痛を訴えて来院した.腹部レントゲン検査で鏡面像を伴う小腸ガスを認め,癒着性イレウスと診断した.保存的治療では改善しなかったため,開腹術を行ったところ,回腸末端より約210cmの小腸に閉塞物である食物塊が透見された.腸切開を施行して食物塊を摘出したところ,前日の夕食に食べたシラタキコンニャクが一塊となっていた.食餌性イレウスの原因となる食物には,柿,昆布,コンニャク,オレンジなどがあり,特に胃切除後の患者に多いと報告されている.イレウス状態の胃切除後患者の診察にあたっては,食ぺ物に関する問診が重要であると考えられた.
著者
市倉 隆 福留 厚 松峯 敬夫
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.610-615, 1984

われわれは最近,膵炎に起因すると思われる脾静脈血栓症を伴ったDouble pylorusの1手術例を経験したので報告した.<br> 症例は41歳の男性で,長年の飲酒歴を有する. 28歳頃より左季肋部から背部の疼痛をくり返し,昭和57年5月9日,下血および心窩部痛を主訴に当院内科に入院した.胃X線検査,胃内視鏡検査,選択的腹腔動脈造影など諸検査の結果,脾静脈血栓症による左側門脈圧亢進症,糖尿病,難治性胃潰瘍, Double pylorusの診断にいたり,胃潰瘍に対する内科的治療が無効のため,昭和57年9月8日開腹手術を施行した.手術所見では術前診断に加えて慢性膵炎の所見を認めた.脾剔を行い,また胃切除に際し,冠状静脈を損傷したため胃全剔を施行した.切除胃の病理組織学的検索によると, Pseudopylorusの部位では粘膜筋板の消失,筋層の断裂,円形細胞浸潤,強い浮腫と線維化がみられ,幽門前部の潰瘍が十二指腸球部に穿通してDouble pylorusが形成されたと考えられた.<br> 本症例では, 1) 膵炎, 2) 膵炎由来の脾静脈血栓症による左側門脈圧亢進症, 3) 膵炎由来と思われる糖尿病,の3者が胃潰瘍の発生,増悪,難治性に重要な影響をおよぼしたと推測され,この因果関係を中心に若干の考察を加えた.
著者
森田 章夫 小野山 裕彦 宮崎 直之 斎藤 洋一
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.1560-1565, 1992-07-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
19

胆嚢摘出術の功罪について検討する目的で,最近10年間に経験した胆石症例で胆嚢摘出術のみを施行した276例を対象として,術後合併症およびアンケート調査に基づいた遠隔成績より胆嚢摘出後症候群について検討した.術前の症状や併存疾患の有無と,術後合併症および遠隔時愁訴との間に関連性は認めなかった.術後合併症は37例(13.4%)にみられたがほとんどが一過性の軽度なものであった.アンケートは229例(82.8%)について回収し26例(11.4%)に遠隔時愁訴を認めた. 26例のうち18例に対し追跡調査を行い,慢性肝炎2例を除く16例の画像診断および血液検査上異常は認めなかった.遠隔時愁訴で最多の腹痛は14例(6.1%)に認められたが,術後5年以上経過した症例には認めなかった.以上より,胆嚢摘出術は術後合併症,遠隔成績ともに極めて満足すべきものであり,その根治性や癌合併の危険性を考慮すると手術療法が治療の原則であると思われた.
著者
宮田 哲郎 松峯 敬夫 石田 孝雄 福留 厚 袖山 元秀 小山 広人
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.44, no.8, pp.1087-1091, 1983

総胆管良性狭窄の治療は手術療法が中心となっているが,胆道系の手術と炎症をくり返している症例や,状態の悪い症例では手術的に狭窄を解除することはかなりの危険を伴なうことになる.我々は胆嚢摘出術後,総胆管狭窄をきたし化膿性胆管炎と総胆管結石とをくり返した症例に対し,減黄のためのPTCD瘻孔を拡張し胆道ファイバーで截石後,小児用挿管チューブでブジーを行ない狭窄部を拡張した.この方法は治療期間が長くなるという問題点があるが,手術療法に比較し侵襲が少なく安全であると思われる.