著者
高橋 信一 田中 昭文 徳永 健吾
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.107, no.8, pp.1273-1282, 2010 (Released:2010-08-05)
参考文献数
46
被引用文献数
2

2009年,日本ヘリコバクター学会から改訂ガイドラインが発表され,そこではすべてのH. pylori感染者に対し除菌を行うよう強く勧められるとされた.H. pylori胃炎を背景として,さまざまな上部消化管疾患や消化管以外の疾患が発症するが,除菌により組織学的胃炎の改善とその後発症する疾患の予防に結びつくことが期待されている.世界の標準除菌治療は,プロトンポンプ阻害剤(PPI)+クラリスロマイシン(CAM)+アモキシシリン(AMPC)もしくはメトロニダゾールによるものだが,CAM耐性菌による除菌率の低下が問題であり,近年,連続療法やラクトフェリンなどによる除菌率上乗せ効果が注目されている.
著者
中村 孝司 鎌上 孝子 大国 篤史 黄 沾 伊藤 善志通 糸数 憲二 菅又 成雄 鳥居 正男 三宅 和彦 山中 正己 丹羽 寛文
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.80, no.12, pp.2493-2503, 1983 (Released:2007-12-26)
参考文献数
47
被引用文献数
7

消化性潰瘍の治療に当つて嗜好品をいかに取り扱うべきか, 今日でも不明確な点が多い. また潰瘍の経過に及ぼすこれらの効果についての検討もきわめて乏しい.著者らは, 内視鏡的に経過を追跡しえた症例591例 (平均観察期間5年11カ月) を対象として, 喫煙, 飲酒, コーヒー摂取の潰瘍再発, 治癒に与える影響について検討を行つた.その成績は次の通りである. 1. 喫煙は消化性潰瘍の再発率を統計的に有意に上昇させ, 明らかな悪影響を与えることが示された. また潰瘍の治癒率にもある程度の抑制効果が示された. 2. 飲酒およびコーヒー摂取は, 消化性潰瘍の再発率, 治癒率に大きな影響を与えなかつた.

1 0 0 0 OA E型肝炎の臨床

著者
矢野 公士 玉田 陽子 八橋 弘
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.106, no.2, pp.188-194, 2009 (Released:2009-02-05)
参考文献数
32
被引用文献数
2

E型肝炎は世界中に遍在している疾患である.本邦では,遅くとも1980年ごろには散発的なE型肝炎の発生がおこっており,近年増加傾向にある.E型肝炎ウイルスには4つの遺伝子型があり,このうち本邦に土着しているのは3型および4型である.元来熱帯地方で報告されてきた1型ないし2型とは異なった疫学,臨床的特徴を示す.3型と4型との間にも相当の地理的分布,臨床的差異が存在し,4型HEVはE型急性肝炎の重症化と関連している.本稿では,近年明らかになってきた,本邦におけるE型肝炎型肝炎の現状,ならびに疫学と遺伝子型を中心としたE型肝炎の臨床的特徴について述べる.
著者
中村 俊幸 岸本 恭 下澤 信彦 小池 祥一郎 清水 忠博 久米田 茂喜 渡辺 豊昭 中澤 功 重松 秀一
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.97, no.2, pp.195-198, 2000-02-05 (Released:2008-02-26)
参考文献数
13
被引用文献数
1 5

梅毒性直腸炎は報告が少なく,非常にまれな疾患である.今回われわれは同性愛者の梅毒性直腸炎の1例を経験したので若干の文献的考察を含めて報告する.患者は40歳の男性,同性愛者で過去に肛門性交歴があった.主訴は肛門からの出血と疼痛で,内視鏡で下部直腸に潰瘍性の病変を認めた.生検で病変部のTreponema pallidumが証明され,梅毒性直腸炎と診断された.
著者
吉田 浩二 中村 祐輔
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.107, no.8, pp.1255-1261, 2010 (Released:2010-08-05)
参考文献数
7
被引用文献数
1

2009年9月,米国医薬食品局(FDA)は「治療用がんワクチンについての臨床的考察 Clinical considerations for Therapeutic cancer vaccines」を発表した.がんワクチン療法が,副作用が少なく高いQOLを保つ治療法となる可能性に言及している.がん治療の概念が変わりつつあることを,FDAガイダンスの解説から紹介し,現在,われわれの共同臨床研究ネットワークで実施されている膵癌,食道癌,大腸癌の「がんペプチドワクチン療法」の現状と今後の展開について紹介する.
著者
柳澤 昭夫 加藤 洋
出版者
The Japanese Society of Gastroenterology
雑誌
日本消化器病學會雜誌 = The Japanese journal of gastro-enterology (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.101, no.10, pp.1061-1071, 2004-10-05
被引用文献数
6

膵癌 (通常型浸潤性膵管癌) は膵管上皮を起源とするが, その発生過程には膵管上皮よりいきなり異形の強い癌病変として発生する過程de novo carcinoma (de novo ca) と腺腫を経て発生する過程adenoma-carcinoma sequence (ACS ca) とがある. de novo caはさらに発生してすぐに周囲へ浸潤する型intraductal non-spreding typeと膵管内をある程度広がったのちに浸潤する型intraductal spreading typeがある. 前者の膵管内の組織型像は平坦な増殖を示す癌 (Flat type) であり, 後者は丈の低い乳頭性増殖を示す癌 (Low papillary type) である. ACS caの大部分は膵管内乳頭性粘液腫瘍 (IPMN) であり, 遺伝子分析によってもACSの関係が証明された. この癌はたとえ浸潤癌であっても強い線維化内の浸潤でありその予後は良い.<BR>膵癌の発生母地は粘液細胞過形成であることが遺伝子分析により明らかとなったが, この上皮がどのくらいの期間後に癌化するか, またこの上皮からどのくらいの頻度で癌が発生するかの問題が残っている.
著者
早雲 孝信 東 健 中島 正継 安田 健治朗 趙 栄済 向井 秀一 水間 美宏 芦原 亨 水野 成人 平野 誠一 池田 悦子 加藤 元一 徳田 一 竹中 温 泉 浩 井川 理 青池 晟 川井 啓市
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.88, no.8, pp.1539-1544, 1991 (Released:2007-12-26)
参考文献数
19
被引用文献数
2

ras遺伝子は, そのpoint mutation により活性化される癌遺伝子として知られている. 今回, われわれは oligonucleotide hybridization assay を用いて,大腸癌86例における K-ras codon 12, 13のpoint mutation の有無について検索した. その結果, codon 12に32例, codon 13に1例の33例 (38%) に point mutation を認めた. 変異の比率を腫瘍の存在部位, 組織型, 深達度, リンパ節転移, ステージ分類別に検討したが, 有意な関係は認められなかつた. しかし, 深達度mやsmといつた早期の癌においても高頻度に変異が検出され, ras遺伝子の point mutation が癌の進行過程というよりも発癌の過程に関係していることが推察された.
著者
古沢 明彦 鵜浦 雅志 野ツ俣 和夫 森岡 健 早川 康治 松下 栄紀 小林 健一 服部 信 牧野 博 福岡 賢一 田中 延善 中川 彦人 西邨 啓吾 金井 正信 杉本 立甫
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.86, no.12, pp.2765-2772, 1989 (Released:2007-12-26)
参考文献数
32
被引用文献数
1

40歳未満で発症した若年肝細胞癌 (HCC) 11例について, 非若年HCC187例と臨床病理学的に比較した. 若年ではHBsAg 陽性例が10例(91%)と非若年に比し有意に高率であり, 50%にHBVや進行性肝疾患の家族集積を認めた. 肝硬変合併率は73%と非若年と差異は認めなかつた. 肝障害の既往を有する例は27%で, 腹痛で発症し発見時進行例が多かつた. 腫瘍随伴症候群 (PNS) 合併例が若年では36.3%と非若年に比し有意に高率であつた. PNS合併若年HCCではLC合併例は25%と低く, AFP著増例が多く且つ著しく予後不良であつた. 以上より我が国の若年HCCではHBVが発癌に強く関与し, またPNSを伴う例はHCCの中でも特徴的な1群を形成しているものと推測された.
著者
村松 友義 丸高 雅仁 松三 彰 渡邊 直美 村上 和春
出版者
The Japanese Society of Gastroenterology
雑誌
日本消化器病學會雜誌 = The Japanese journal of gastro-enterology (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.99, no.7, pp.808-813, 2002-07-05
被引用文献数
6

症例は35歳,女性.ダイエット目的でビール酵母を2カ月間服用していたが上腹部痛,右背部痛,下痢が出現したため来院した.来院時末梢血白血球9500/mm<SUP>3</SUP>で好酸球が39%を占めていた.腹水および胃,十二指腸の生検で多数の好酸球を認め好酸球性胃腸炎と診断した.ステロイド投与により症状および検査所見は速やかに改善した.本症例の免疫学的所見を提示するとともに若干の文献的考察を加えた.
著者
荒木 寛司 小野木 章人 井深 貴士 森脇 久隆
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.107, no.3, pp.427-431, 2010 (Released:2010-03-05)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

28歳男性.家族歴として父に30年前より原因不明の反復する腹痛·発熱発作.現病歴,約1年前より1~3カ月に1回,数日から1週間で自然軽快する腹痛·発熱発作あり,血液検査でCRP,白血球増多を認めた.全身CT,上下部消化管内視鏡にて異常なし.MEFV遺伝子検査にて患者と父にE148Qヘテロ/M694Iヘテロの遺伝子異常を認め家族性地中海熱と診断.コルヒチン(1mg/日)の投与にて症状は消失した.
著者
藤田 淳 稲垣 恭孝 米井 嘉一 大塚 征爾 中澤 敦 塚田 信廣 鈴木 修 桐生 恭好 水野 嘉夫
出版者
The Japanese Society of Gastroenterology
雑誌
日本消化器病學會雜誌 = The Japanese journal of gastro-enterology (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.97, no.4, pp.472-477, 2000-04-05
被引用文献数
2

症例は45歳男性の特発性ヘモクロマトーシス.皮膚色素沈着,糖尿病,肝線維化,下垂体性腺機能低下を呈しHLAはA11,A31(19),B46,B60(40),Cw1,Cw7でHFE遺伝子変異(C282Y,H63D)を認めなかった.更にHLAの記載のある本邦報告25例につき文献的に検討した結果欧米症例で高率なHLAA3,B7,B14の頻度は本邦症例では極めてまれであり人種差が認められた.
著者
上田 城久朗 能丸 真司 永田 夏織 梶井 信洋 大村 良介 原田 俊則 鈴木 伸明 鈴木 道成 森岡 秀之
出版者
The Japanese Society of Gastroenterology
雑誌
日本消化器病學會雜誌 = The Japanese journal of gastro-enterology (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.97, no.1, pp.33-37, 2000-01-05
被引用文献数
17 13

症例は73歳女性.朝食2時間後より突然,上腹部痛出現.腹部CT検査と小腸造影検査より空腸憩室を合併した小腸軸捻転症と診断した.入院約1カ月後,手術を施行したが,小腸全体が反時計回りに720°捻転しており,空腸憩室はTreitz靱帯から約25cmの部位の腸間膜よりに存在した,原発性小腸軸捻転症は,本邦ではまれな疾患で術前診断されることは少ないが,本症例では典型的なCT像より術前診断が可能であった.
著者
石橋 陽子 松薗 絵美 合田 智宏 横山 文明 菅井 望 関 英幸 三浦 淳彦 藤田 淳 鈴木 潤一 鈴木 昭 深澤 雄一郎
出版者
The Japanese Society of Gastroenterology
雑誌
日本消化器病學會雜誌 = The Japanese journal of gastro-enterology (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.108, no.5, pp.759-768, 2011-05-05
被引用文献数
2 1

急性壊死性食道炎の4例を経験した.4例とも初発症状は吐血で,上部消化管内視鏡検査では特徴的な黒色食道を呈した.発症時の基礎疾患は,3例がケトアシドーシス,2例が糖尿病であった.3例は保存的に軽快し,死亡例を1例認めたが死因は急性壊死性食道炎によるものではなく,基礎疾患である敗血症が予後を規定した.急性壊死性食道炎はまれな疾患ではあるが,緊急内視鏡における鑑別診断として念頭に置くべきであると考える.<br>
著者
河野 辰幸
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.102, no.2, pp.170-175, 2005 (Released:2005-06-06)
参考文献数
46

バレット腺癌においても,外科治療の意義は確実な局所コントロールとリンパ節を系統的に郭清できることによる根治性の追求にあり,食道扁平上皮癌での治療経験が参考となる.その侵襲の大きさと術後生ずるかもしれないQOLの低下が問題である.内視鏡治療は転移に対しては無力であるが,表在性病変に対する内視鏡切除術の局所制御能は外科切除術に匹敵し,原発巣の詳細な組織学的評価が可能であるなど,粘膜内に止まる可能性のある限局性病変に対しては常に第一段階治療法の役割を担う.逆流防止手術や内視鏡的アブレーションなど,バレット上皮の消褪や腺癌への進展予防における役割についてはなお一定の見解が得られていない.
著者
幕内 博康
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.105, no.9, pp.1299-1308, 2008 (Released:2008-09-05)
参考文献数
62
被引用文献数
2

欧米ではBarrett腺癌の増加が著しく,本邦でも報告例が増加している. Barrett食道癌の発生母地であるBarrett食道はSEBEを含めても集検例の6.1%,医療施設の受診例では20.1%であった. 欧米では,Barrett食道からの腺癌の発生は0.5%,食道癌全体の半数をしめているが,本邦ではまだ少なく,われわれの施設で食道癌全体の0.9%を占めるに過ぎず,1973年から2005年までの報告例は431例であった.Barrett腺癌についてその診断面では,拡大内視鏡やNBI,治療面ではEMR, ESDが進歩·普及しつつある. Barrett食道の発生,定義,Barrett腺癌の発生,サーベイランス,精密診断,治療法など,まだまだ数多くの問題点が残されている.
著者
木村 まり子 松田 徹 深瀬 和利 奥本 和夫 間部 克裕 鈴木 克典 青山 一郎 堺 順一 斉藤 博 佐藤 信一郎
出版者
The Japanese Society of Gastroenterology
雑誌
日本消化器病學會雜誌 = The Japanese journal of gastro-enterology (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.99, no.2, pp.145-151, 2002-02-01
被引用文献数
20

上腸間膜動脈解離6症例につき検討した.高血圧を4例に認め,危険因子として考慮された.症状の特徴として,背部に放散する高度の腹痛,背部痛,食後の症状増悪,腸雑音の減弱が挙げられた.診断にはCTや腹部超音波検査が有用であった.抗血栓凝固薬で保存的に管理し,4例が改善した.改善しない2例については厳重に経過を観察し,増悪するようなら侵襲的治療を考慮する必要がある.本疾患として加療されていることもあり,腹痛の鑑別診断上忘れてはならない疾患であると考えられた.
著者
神保 りか 吉岡 篤史 高橋 有香 小野 圭一 足立 洋祐 小島 茂 武田 雄一 野内 俊彦 清水 誠一郎
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.102, no.8, pp.1051-1054, 2005 (Released:2005-08-05)
参考文献数
10

最近12カ月間にトラニラストが原因と考えられた重症肝障害の5症例を経験した.トラニラスト内服開始後,平均34日目に黄疸を認めて入院となり,内服中止後平均37日で肝機能の正常化を認めた.薬物リンパ球刺激試験は3例に施行したがいずれも陰性で,薬物性肝障害の診断には国際コンセンサス会議の診断基準が有用であった.トラニラストによる肝障害はまれではなく,内服中は定期的に肝機能を検査する必要がある.