著者
張 日新 秋山 邦裕 Zhang Ri xin Akiyama Kunihiro
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学農学部学術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
no.59, pp.51-58, 2009-03

外国人研修・技能実習制度は,外国人労働者の技術,技能,知識の習得と雇用関係における実践的,実務的習熟により,母国での技能活用を援助する制度として設けられている。この制度に基づく外国人の違法就労,強制労働,労基法違反などが大きな社会問題となっている。外国人研修・技能実習制度について,社会問題をもたらす可能性がある現行制度の研修生受入れプロセス及び外国人研修生をめぐる管理費用の実態分析を行った。具体的には,①地元雇用より外国人研修生の受け入れにシフトするようになった背景・動機と効果,②外国人研修生受入れのプロセス,③現行外国人研修生受入れの体制の下での負担費用実態などを明らかにする。
著者
ローシュングリ アブリミテイ 岩元 泉 坂爪 浩史 高梨子 文恵
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.37-53, 2005-03-01

現在,新彊ウイグル自治区の農村女性において教育レベルの格差が拡大している。そこで我々は農村地域における女性の教育レベルの現状,および低学歴が家庭経済状況とどのような関係にあるかを明らかにすることを目的として,トルファン市ヤル村およびウルムチ県三坪農場の2つの地域で調査研究を行った.この2つの村で調査した結果,ウイグル農村女性においては教育機会が乏しく依然として低学歴状態に置かれていることが分かった.また,伝統的慣習による早婚の傾向,早婚による離婚,さらに低学歴に深い相関関係が見られた.これらは低い経済生活水準とも相まって,悪循環に陥っている.しかし次第に女性の収入が世帯の収入に寄与する割合も高くなってきている.経済的収入機会を増やすことが農村女性の地位向上には重要であることが明らかになった.
著者
田中 實男
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.37-44, 1996-03-31

ここ四半世紀に亘るわが国の農畜産物の生産調整は, 消費を上回る生産の増大による絶対的過剰と, わが国の貿易黒字を背景にして海外からの農畜産物の輸入調整の出来ぬままに国内の生産を抑制する相対的過剰とを原因として開始された.このこと自体が, 農畜産物価格を低迷させる結果となり, 農業経営にとって非常に厳しい状況となった.ここ10年ほどの間に, この厳しい環境条件のなかにおいて農業経営の継続が不可能となり, 農家整理の事例が散見されるようになった.本稿においては, 農業経営が破綻を来たして, 破産整理に至った原因について, 30年間に亘る農業経営診断作業過程から得られた知見を整理して検討した.その結果, まず第1点として, 農家の破産整理にまで至った事例にすべて共通する基本的条件は, 農業生産技術水準の低位性であった.これまでに農業生産についても, 所得拡大を目指して経営規模拡大の努力がなされてきた.しかし, この規模の拡大が所得の増大に結びつくには, 省力化しつつ規模拡大前と同一生産技術水準の維持が前提条件である.さらには, 規模の拡大は, 多分に経営外からの原材料用役の購入の増大すなわち経費率の上昇を伴うのが一般的である.結果として, 経営規模の拡大とともに生産技術水準の低下と収益の減少を来すのが多かった.所期の目的たる所得の拡大を実現するには, 農業経営者としての高い管理能力の発揮が問われたのである.第2点として, 経営能力と密接に関係するが, 生活水準を維持するには農業経営規模が零細である点が指摘される.この点は, 施設型資本集約型農業経営においては, 可成りの規模拡大によって目的が達成されているが, 土地利用型農業経営は, 農地問題との関係でもって非常に零細である.しかし, この必要とされる農業経営規模とは, 農家の生活水準におおきく関係するわけで, 第3点として, とくに戦後生れの農業経営者の生活観の不健全さを指摘した.何よりも人並みの生活水準が前提であって, 自分で稼ぎ出す所得の多寡とは無関係という人生観は理解の外であるが, 現実に存在しているのである.第4点としては, 農村にこのような破産型人生観が通用するような金融環境が存在することが問題である.それは, とくに農協を中心として成立しているが, 現在に至ってその存在を整理しなければならない状況に追い込まれた.農家の高額負債問題は現実に破綻して, 具体的に破産整理の実行となったわけである.農家の高額負債問題の整理としては, 著者は早くから提案したところであるが, 農業経営の再建の可能性の有無を尺度にして, その可能性のない農業経営は早急に経営活動を停止させて整理すべきである.このことは, 債権者としての農協などと債務者としての農家の双方にとって, 可能な限り損害の少ない処理法となるからである.そして, 再建の可能性のある農業経営は, 経営から生活までを管理する濃密な指導態勢のもとに置かれるべきである.それは, これぐらいの指導を必要とするぐらいの破産型の人生観を持った農業経営者が多くいるからである.1992年(平成4)11月末に, 6,500万円の負債でもって農協との合意のうえで農村から退散した畜産経営者が, その後はビル清掃員ついで長距離トラック運転手と転身したが, 現在の彼の「畜産経営をやっていた時に比べてこんなに楽をしていいものかと思う」ということばのなかに, 経営者としての能力の欠落とそれまでの生活の無計画さを見出すのである.
著者
西田 孝太郎 小林 昭 永浜 伴紀
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.151-168, 1955-11-30

I-1.日本産ソテツCycas revoluta THUNB.の種子より, 著者がさきに予想した有毒配糖体を純粋に単離した.このものはC_8H_<16>O_7N_2なる無色針状結晶の一新配糖体であることを証明して, cycasinと命名した.cycasinの単離にはその結晶化を妨げる共存不純物, 殊に糖類を, イオン交換樹脂及び活性炭chromatographyによつて分別除去する方法を採つた.I-2.cycasinの単離に際し, cycasinとの分離困難なsucroseを除くため, 抽出液に酵母invertaseを作用せしめ, 活性炭chromatographyを効果的に且つ容易に行い, その収量を原法に比して倍加せしめることができた.II.cycasinの構造を決定するため濠洲産ソテツのmacrozaminについての報告と比較検討した結果, 酸, アルカリ乃至は還元剤によるcycasinのaglyconeの分解生産物及び, cycasinの紫外部及び赤外部吸収スペクトルにおける吸収極大が, macrozaminのそれらと一致することを明らかにした.しかるにcycasinの糖成分として証明しうるのはglucose 1分子のみで, xyloseは存在しない.すなわちcycasinの構造はglucosyloxyazoxymethaneでなければならないと結論される.III.ソテツ種子から調製したemulsinによるcycasinの分解を, 酵素反応の条件を種々異にする場合について検討した.最終分解産物としてcycasin 1 mol.につき, N_2 gas, formaldehyde, methanol及びglucoseがそれぞれ約1 mol.ずつ得られ, 酸による加水分解の結果と一致した.N_2 gasの測定にはWARBURG manometerを用いた.cycasinのaglyconeは酵素によつてglucoseから切離される場合にも不安定で, 上記低分子化合物に分解するものと結論される.
著者
田邊 幾之助 上村 幸広 吉井 右 木佐木 博 藤井 正範
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.33-39, 1981-03-19

海水の常在微生物相から旧式焼酎蒸溜廃液を加えながら形成させた海水活性汚泥による処理は良好であったが, この海水活性汚泥法の的確な微生物管理のためには微生物相を充分に把握する必要がある.このため, 先ず, 通常の分離方法で微生物相を明らかにした.微生物相は混合液を洗浄液, 洗浄汚泥(試料(4))およびワーリングブレンダーでホモゲナイズした洗浄汚泥(試料(5))について明らかにしたが, 海水活性汚泥の場合は主として, flavobacteria, Achromobacter-Pseudomonas群およびCorynebacterium roseumから成立ち, しかも, これらはいずれも(5)/(4)比が10^3と高く, 汚泥フロックの構成的な細菌であることが証明出来た.菌類としてはGeotrichum candidum, 藻類としてはChlorellaおよび藍藻が目立った.
著者
西山 安夫 松尾 英輔 稲永 醇二 石黒 悦爾 宮里 満
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.251-258, 1990-03-15

ツルムラサキ, トウゴマ, ダイズ, ソラマメの乾燥種子を^<60>Co, γ線で照射した後, 砂箱または地床に播種して, それらの出芽および生育状況を調査した.ツルムラサキの'緑色種'と'紅色種', トウゴマおよびソラマメの出芽率は7.4kGy, 9.2kGy, 3.4kGyおよび0.2kGy以上の区ではいずれも0%となった.ツルムラサキの'緑色種'と'紅色種'およびダイズの生存率はそれぞれ0.5kGy, 0.4kGyと1.0kGy以上の区で0%となった.ダイズ'ひたしまめ'は0.5および0.7kGy区では出芽し, 生存し続けたが, 本葉の発生はみられなかった.本実験に用いた植物の茎長, 生体重はいずれも照射線量の増加につれて著しく小さくなる傾向がみられた.葉のモザイク症状はトウゴマ, ダイズ, ソラマメでは線量の増加とともに顕著に現れたが, ツルムラサキにはほとんど認められなかった.
著者
西原 典則 西川 正雄 堀口 毅 稲永 醇二
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.71-81, 1987-03-16

硝酸化成抑制剤の土壌中における行動を明らかにするため, 粘土鉱物の種類, 有機物含有量, CECなどを異にする3種類の土壌を用いて土壌カラムを作り, 浸透水による薬品の下方への移動を微生物的測定法および化学的測定法により検討した.得られた結果は次のとおりである.1.実験に用いた4種類の硝酸化成抑制剤(Dd, Tu, AM, DCS)の土壌中における移動速度はシラス土壌が他の土壌に比して大きかった.2.比較的溶解度の大きいDdおよびTuは溶解度の小さいAMおよびDCSに比して土壌中における移動速度が大きかった.3.化学的測定法により硝酸化成抑制剤の含有量の大きかったフラクションでは微生物的測定法による硝化抑制率も高かった.しかし, 化学的測定法で硝酸化成抑制剤が検出されなかったフラクションで硝化抑制効果の認められる場合があった.4.微生物的測定法による硝化抑制率のピークの巾は化学的測定法による薬品含有量のピークの巾に比して大きかった.5.Ddについては, シラス土壌において化学的測定法による土壌中含有量と微生物的測定法による硝化抑制率との間に正の相関がみられたが, 黒ボク土および沖積土では相関はみられなかった.AMについては, いずれの土壌においても土壌中含有量と硝化抑制率との間に相関はみられなかった.
著者
岩堀 修一 米山 三夫 大畑 徳輔
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.43-48, 1979-03-19

ニンポーキンカンの着色を促進し, 早期収量を増加させるためのエスレル(2-chloroethylphosphonic acid)の最適散布時期と濃度をきめるために, 加世田市の栽培者の園で3年間実験を行なった.第1実験ではエスレル0ppm, 200ppm, 400ppmを11月4日に散布した.エスレルは着色を促進し, その効果は濃度の高い方が著しく, 特に赤色の発現が顕著であった.第2実験ではエスレル0ppm, 200ppm, 400ppmを早期(10月18日), 中期(10月28日), 晩期(11月9日)に散布した.エスレルの着色促進効果は, 濃度は高い方が, 時期は早いほど著しかった.しかし400ppmの早期散布では50%の落果が, 中期散布では20%の落果があった.第3実験では2年間にわたりエスレル400ppm散布区と対照区の早期収量を調べた.散布は初年度は10月30日に, 2年目は11月2日に行なった.2年間ともエスレル散布によって早期収量は著しく増加し, 1月まで残る果実はほとんどなかった.落葉・落果, あるいは樹体への悪影響は認められなかった.第4実験では, 1.無処理, 2.10月18日200ppm散布, 3.10月18日と11月2日の2回200ppm散布, 4.11月2日300ppm散布の4処理の収量を比較した.300ppm散布で早期収量は著しく増加した.しかし200ppm1回と2回散布の間には差はなく, ともに対照区より早期収量は高い傾向にあったものの, 有意差は認められなかった.以上の結果から10月下旬〜11月上旬の300〜400ppmのエスレル散布が落葉・落果をほとんどおこすことなく, キンカンの着色促進, 早期収量増に有効であると思われた.
著者
西原 典則
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.177-185, 1958-10

稲白葉枯病に対して抵抗性を異にする6品種の水稲について7月4日(移植期), 8月22日, 9月2日, 及び9月20日の4回にわたり葉の圧搾汁液を採取しその滲透圧, 比電気伝導度, 全窒素, 全糖, 乾物, 灰分, 及び有機物含有量を定量して次の結果をえた.1.滲透圧, 全窒素, 乾物, 及び有機物含有率は移植期から9月上旬まで減少し9月下旬には増加した.2.比電気伝導度及び灰分含有率は生育の進むに従い低下した.3.全糖含有率は移植期から8月下旬まで増加し9月上旬には減少したが, その後最上位葉では増加し第3葉では減少した.4.滲透圧, 比電気伝導度, 全窒素, 全糖, 乾物, 灰分, 及び有機物含有率の品種間差異は生育時期及び葉位によつて異り一定の傾向を認めえなかつた.5.比電気伝導度/氷点降下度及び全糖/全窒素は水稲の生育時期によつてその値を異にしたが, 9月下旬において抵抗性品種は罹病性品種に比して比電気伝導度/氷点降下度が小で全糖/全窒素が大であつた.6.全窒素含有率と比電気伝導度, 全糖, 灰分含有率, 及び有機物含有率と比電気伝導度, 灰分含有率との関係を除き, 滲透圧, 比電気伝導度, 全窒素, 全糖, 乾物, 灰分, 及び有機物含有率の間には夫々相関が存在した.
著者
森園 充 北 敏郎 西山 実光
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.95-103, 1976-03-20

ウマ, ウシ, ブタ, イヌ, ネコの血清Al-P総活性値をK-K変法, BL法およびB変法の3種の方法で測定した結果, 次のような知見が得られた.1.各家畜の正常活性値は, K-K変法で, ウマ17.4±0.78,ウシ9.2±0.63,ブタ6.6±0.33,イヌadult5.8±0.4,infant8.8±1.1,ネコadult3.9±0.7,infant8.6±0.9KAU, BL法で, ウマ6.2±0.28,ウシ2.2±0.1,ブタ2.1±0.1,イヌadult1.6±0.1,infant2.3±0.2,ネコadult1.2±0.3,infant2.6±0.3BLU, B変法では, ウマ7.3±0.6,ウシ3.1±0.2,ブタ2.5±0.1,イヌadult2.3±0.2,infant2.9±0.3,ネコadult1.7±0.2,infant3.5±0.4BUであった.2.K-K変法に対するBL法とB変法の相関性は, 前者がウマでr=0.79,ウシでr=0.86,ブタr=0.65,イヌr=0.60,ネコr=0.80,後者がウマr=0.67,ウシr=0.79 r=0.76,ブタr=0.76,イヌr=0.77,ネコr=0.86といずれも強い相関が認められた.3.K-K変法に対するBL法とB変法による活性値の換算値は, ウマ10KAU-4.1BLU, 20KAU-7.0BLU, 10KAU-3.4BU, 20KAU-8.7BU, ウシ10KAU-2.5BLU, 20KAU-5.4BLU, 10KAU-3.4BU, 20KAU-6.1BU, ブタ10KAU-3.2BLU, 20KAU-6.4BLU, 10KAU-3.5BU, 20KAU-5.0BU, イヌ10KAU-2.4BLU, 20KAU-4.1BLU, 10KAU-3.3BU, 20KAU-6.6BU, ネコ10KAU-2.9BLU, 20KAU-5.5BLU, 10KAU-3.9BU, 20KAU-7.0BUであった.4.イヌとネコにおいては, infantがadultよりも活性値が明らかに高い傾向が認められた.5.各家畜における性差は認められなかった.6.ウシにおける品種間の差は認められなかった.7.3種測定法の中では, K-K変法が最も適当しているものと考える.
著者
柳田 宏一 伊東 繁丸 片平 清美
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.183-197, 1988-03-15

昭和57年3月から昭和58年2月までの1年間, 黒毛和種繁殖牛37頭を用いて, 冬季における貯蔵飼料給与量の増加や冬季離乳によって飼養改善を行った場合の季節別の繁殖成績を調査した.その結果, これらの改善を行っても, 冬季分娩牛の繁殖成績はあまり改善されず, 受胎までの日数は長いことが判明した.その原因は冬季の栄養状態の不良によるところが大きいと考えられたので, これらを改善するため, 冬季に立毛状態にしたイタリアンライグラス草地約7haに, 昭和58年12月16日から昭和59年3月14日の間(1年次)と昭和59年12月12日から昭和60年3月15日の間(2年次)に, 黒毛和種冬季分娩牛をそれぞれ22頭および30頭を放牧し, 冬季放牧が繁殖成績に及ぼす効果について検討した.すなわち, 冬季放牧が繁殖成績や体重, 栄養度指数およびBody condition score(BCS)に及ぼす効果を明らかにするとともに, これらに対する年次, 分娩月, 産歴および牛来歴の影響を追求した.また, 繁殖成績ならびに卵巣機能と体重, 栄養度指数およびBCSの関連性について検討し, 冬季放牧によって繁殖成績を向上させるための栄養状態の指標を探求した.その結果は次のとおりである.1.冬季放牧を行った冬季分娩牛の受胎に要する日数は1年次が69.1日, 2年次が105.2日であり屋外パドックでの貯蔵飼料給与形態での冬季分娩牛の受胎までの日数122±67日より短かった.2.冬季放牧を行った冬季分娩牛の受胎までの日数は, 年次により異なり, 備蓄草量の多い年は短かった.また, 受胎までの日数には, 分娩月間でも有意差が認められ, 1月および3月分娩牛が短く, 12月および2月分娩牛が長くなる傾向を示した.しかし, 産歴および牛来歴による差は認められなかった.3.分娩前後の体重の推移には年次および産歴による違いが認められた.また, 分娩月間では, とくに, 12月分娩牛の体重の低下が大きかった.栄養度指数では産歴による違いが認められたが, 分娩月や来歴による違いは認められなかった.BCSでは産歴および牛来歴による違いが認められ, 産歴が進むほど, また, 牧場生産牛ほどBCSは高かった.4.冬季放牧を行った冬季分娩牛の受胎時のBCSは分娩月間, 産歴間および牛来歴間で有意差は認められず, いずれも3以上の値を示した.しかし, 受胎時の体重および栄養度指数は産歴間で有意差が認められた.したがって, 繁殖管理での栄養状態の指標としてはBCSが優れていると考えられた.5.受胎に要する日数は分娩後20日から60日までの日増体重(Daily gain)が大きいほど短くなる傾向を示した.また, 分娩後40日, 60日および初回授精時のBCSは3よりやや高い値で受胎に要する日数が最小値を示した.6.分娩後90日以内に受胎する分娩牛のBCSは, 分娩前が3^+で, 分娩によって3に低下し, その後20〜40日で3^+に上昇した.7.分娩後20日までにプロジェステロン濃度が1ng/ml以上に上昇するパターン1の分娩牛は, 受胎までの日数が74.6日および授精回数が1.7回で, 他の分娩牛(パターン2)に比較して繁殖成績は良好であった.パターン1を示す分娩牛のBCSは分娩後60日までに3から3^+まで上昇した.8.授精後受胎した牛の授精直前の発情周期におけるプロジェステロン濃度のピークは4ng/ml以上で, 受胎しなかった分娩牛の濃度より高い値を示した.
著者
国分 禎二
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.1-126, 1973-03-24
被引用文献数
2

作物の栄養器官が同化産物の貯蔵器官として特に発達し, その器官の貯蔵物質の含有率が作物の品種によって異なる場合, 含有率の差異が貯蔵器官のどのような構造の差異に基づくものであるかと云う観点から, 貯蔵器官の構造とその機能の発現との関係を解明した研究は、きわめて少ない.本研究は, 以上のような観点より, 作物の同化産物の貯蔵器官の組織構造とその蓄積能力との関係に関する基礎的資料を得る目的で, 甘しょの塊根を材料としておこなったものであって, 塊根の組織諸形質の品種・系統間変異, およびその遺伝を検討し, 塊根の組織諸形質の特性から得られた知見に基づいて, 甘しょ高でん粉多収性品種の育種に関して考察をおこなったものである.A 塊根の組織構造塊根組織に関する明確な基礎的知見を得ることを目的として, でん粉貯蔵器官にとってとくに重要と考えられる維管束の分化と柔細胞の増生に焦点をあてながら, 発生初期の不定根から収穫期の塊根に至る一連の組織観察の結果を論述した.I 不定塊の根端部における組織の分化 甘しょ品種沖縄百号の栽植5日後の不定根を供試して, 根端部における組織の分化様相を観察した.1 根冠はその中央部を構成する中央構造とその側層を構成する側層構造とからなっている.2 横断面では, 根冠の中央構造の細胞は一定の配列様式を示さないが, 根冠の側層構造の細胞は, 中央構造を取り囲む輪状配列を示している.3 根冠の最内層は表皮原となっている.4 表皮原に接して頂端側(根冠側)と基部側(皮層および中心柱側)の両側に分裂組織がある.5 皮層は約8層の細胞層からなり, 横断面では, 中心柱を取り囲む輪状構造を示し, 根端部から約200μの部位では, 細胞間隙が認められる.6 内鞘細胞は, 表皮原先端部の基部側にある分裂組織から2〜3個の細胞を隔てた極先端部において識別できる.7 中心柱の先端部には表皮原の基部側の分裂組織に接して, 不整形の細胞よりなる半球形の部分が存在する.8 原生篩管は, 中心柱の先端部から約500μの部位において明瞭に認められる.9 原生木部道管の厚膜化が認められるのは, 中心柱の先端から1cmないし2cmの間である.10 中心柱の柔細胞は, 縦軸方向では皮層細胞より長く, また, 横断面におけるその細胞配列には一定の様式がみられない.11 軸の中心を通る縦断面では, 中心柱の中心部には大きな核をもった比較的大型の細胞からなる一列の細胞列があって, 頂端分裂組織のごく近くまで達している.II 不定根の塊根形成 沖縄百号および九州34号を供試して, 栽植5日後より1カ月間5日おきに合計6回不定根を採取し, 不定根の最肥大部または最肥大予想部位の組織標本を作成して, 塊根組織の分化発達過程を追跡した.1 栽植5日後には, 皮層は約8層の細胞層からなり, 離生細胞間隙にとむ.内鞘細胞はその並層分裂により中心柱の細胞数を増加し, 直層分裂によって内鞘細胞自身の数を増加してその円周を増加している.原生篩部は内鞘に接して, 5〜6個所に放射状に認められ, その周囲には, すでに伴細胞を伴う後生篩部が分化している.原生木部構成道管の細胞膜は厚膜化しているが, まだ木化しておらず, 原生木部は完熟していない.2 栽植10日後には, 厚生篩部に対応する皮層部に破生細胞隙が認められる.原生木部道管および中央後生木部道管が木化し, 成熟する.また, 篩部を取り囲む扇形の分裂組織が発達する.3 栽植15日後には, 中心柱では一次形成層が完成し, 道管周囲に分裂組織が発達する.4 栽植20日後には, 一次形成層による維管束ならびに柔細胞の増生が旺盛となる.道管周囲の分裂組織による柔細胞の増生も顕著であるが, この分裂組織は直接には維管束の分化をおこなわないので, いわゆる形成層とは認め難い.木部柔組織内に新しい篩部が分化し, この篩部に接して分裂組織が発達するこの分裂組織は維管束を分化するので, 形成層と認められる.従って, この木部内に発達した篩部(interxylary phloem)に接する分裂組織は, 先に分化した塊根周囲の一次形成層に対して, 二次形成層(secondary cambium)と呼称すべきである.5 栽植25日後には, 前期までに認められた諸種の分裂組織による細胞の増生は依然旺盛であるが, さらに, 木部柔組織の個々の大型の柔細胞が, 比較的孤立的に分裂するのが観察される.この種の細胞分裂は維管束の分化を伴わず, また一連の分裂細胞層の形をとらないので, 前期までの諸種の細胞分裂に対して, とくに, 大型柔細胞分裂として区別できる.6 栽植30日後には, 皮層はほとんど脱落し, 新しく, コルク形成層が発達して皮部を形成する.中央道管の周囲の分裂組織の活性はやや衰える.この時期に, 甘しょの塊根の組織学的諸形質は完成する.7 以上の観察結果から, 塊根肥大に寄与する細胞の増生は, コルク形層, 一次形成層, 二次形成層, 道管周囲の柔細胞分裂および大型柔細胞分裂によるものと結論される.これらの細胞分裂の中で, 一次形成
著者
富田 裕一郎 林 国興 武元 和郎 荒武 正則
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学農学部学術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
no.28, pp.p199-208, 1978-03

必須アミノ酸混合物を唯一の窒素減とした基礎飼料に, 非蛋白態窒素源としてクエン酸二アンモニウム(DAC)とL-グルタミン酸(Glu)を添加したときの, 白色レグホン雄雛の成育に対する効果について検討するため2回の実験を行なった.実験期間は, 実験-1では15日令から27日令までの12日間, 実験-2では18日令から29日令までの15日間である.その結果は次の通りである.1.実験-1,-2を通じて基礎飼料にDACおよびGluを単独にあるいは両者を混合して添加すると対照の基礎飼料給与区に比して有意に増体量の増加をもたらした.実験-1では, 12.91%DAC(10%粗蛋白質量に相当)単独添加区の増体量が, 他の2.58%DAC(2%C.P.)および3.36%Glu(2%C.P.)の両非蛋白態窒素添加区よりも大であった.実験-2では, 6.46%DAC(5%C.P.)と8.42%Glu(5%C.P.)の混合添加区の増体がDAC6.46%(5%C.P.), 12.91%(10%C.P.), 19.37%(15%C.P.)およびGluの16.81%(10%C.P.)各単独添加区の増体に比して大であり, 19.37%DAC添加区の増体量は他の非蛋白態窒素添加よにる増体量に比べ, 有意に低した.2.飼料摂取量, 飼料効率は非蛋白態窒素の添加により高くなり, また肝臓重, 肝臓中の蛋白質量, RNAおよびDNA量, GOT, GPTおよびXDH活性, さらに血漿尿酸量が増加した.3.血漿中の遊離アミノ酸濃度を測定した結果, 対照の基礎飼料給与区に比して, 12.91%DAC単独添加区ではイソロイミン, スレオニン, リジンの増加, ヒスチジン, チロシンおよびロイシンの低下が顕著であった.16.81%Glu単独添加区では, アスパラギン酸, アラニンの増加, ヒスチジン, チロシン, グリシンの低下が大であった.DACとGlu両者を添加した区ではグルタミン酸の増加, ヒスチジン, チロシン, グリシン, セリンの減少が大であった.
著者
西山 安夫 松尾 英輔 石黒 悦爾 稲永 醇二 宮里 満 陳 介余
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.11-18, 1992-03-30

種子の出芽とその後の植物の生育に対する放射線照射の効果を明らかにするため, ダイコン, トロロアオイ, ワタ, キンレンカの乾燥種子に^<60>Coのγ線を照射し, 露地またはビニルハウス内の地床に播種した.ダイコン'聖護院'の出芽率, 出芽日数, 生存率は, 照射量0〜1.0kGyではほとんど影響を受けなかった.しかし, 3.4kGy以上では, 出芽率は著しく低下し, 出芽個体はすべて枯死した.線量0〜0.3kGyでは草丈, 生体重は影響を受けなかったが, それ以上の線量0.4〜1.0kGyでは線量の増加につれて小さくなった.奇形は主に葉の変形という形で現れ, しかもその程度は線量が大きいほど著しかった.トロロアオイは3.6kGy区まで出芽したが, このうち生き残ったのは0.4kGy区までであった.茎長や節数には照射の効果は認められず, 生存率, 着花率は線量の増加につれて小さくなった.これに対して, 分枝個体の割合や, 傷害の程度は線量の増加につれて大きくなった.ワタの出芽率は線量が増加するにつれて小さくなり, 7.4kGyで0%となった.1.0kGy以上の線量区の個体はすべて枯死した.生存個体のうち, 0.2kGy以上の区ではすべて芯止りとなり, 伸長生長が見られたのは対照区と0.1kGy区だけであった.キンレンカの出芽率は3.6kGy区で0%となり, それ以上では線量の増加につれて低くなった.1.0kGy区の出芽個体はすべて枯死した.照射によって, 第1本葉に白い斑点が生じ, その症状は線量がふえるほど著しくなった.0.3kGy以上の区では茎の頂端が塊状に変形する個体が生じ, その発生割合は線量が増加するとともに増加した.ワタ子葉の葉柄長とキンレンカ第1本葉の葉柄長は線量の増加につれて短くなった.
著者
古賀 克也 福永 隆生 藤井 信
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.179-187, 1976-03-20

ブロイラー頭部は乾物中, 蛋白質53%, カルシウム7.5%, 燐3%, 熱水可溶抽出物3%を含むので蛋白資源活用の面から食品としての利用性について研究した.1)缶詰にしたブロイラー頭部を0.7気圧加圧60分ないし150分蒸煮むよび1気圧加圧15分ないし90分蒸煮を行ない, 骨の軟化状態をTensilon UTMおよびガラス棒圧迫により調べた.その結果0.7気圧100分あるいは1気圧加圧60分の蒸煮で鶏頭は充分な可食状態になることが認められた.2)上記条件で加圧蒸煮したブロイラー頭部ミンチの一般成分およびアミノ酸組成を常圧蒸煮ミンチのものと比較してもほとんど変化は認められない.3)1気圧加圧60分蒸煮の頭部ミンチを豚肉ソーセージ製造時に5〜6%添加しても結着性には影響がなく, 試食官能テストの結果, 無添加のものに比し遜色がないことが認められた.さらに鶏頭部はカルシウム, 燐の含量が多いので, その可食化ミンチの摂取は妊産婦, 授乳婦にとって無機栄養上有効と思われる.4)アミノ酸の相対的割合からみればブロイラー頭部の蒸煮ミンチは鶏肉に比し, アルギニン, プロリン, グリシン, アラニンが多く, リジン, アスパラギン酸, グルタミン酸, 含硫アミノ酸, イソロイシンは少ない.蒸煮ミンチのprotein scoreは51であった.5)頭部およびそのミンチを常圧および加圧下で熱水抽出を行ないフレーバーテストを行なったところ, 遊離アミノ酸含量や蛋白質含量が多い加圧熱水抽出液よりも常圧熱水抽出液が呈味は良好であった.加圧熱水抽出液の5'-イノシン酸および乳酸含量は常圧熱水抽出液のものより少なかった.常圧熱水抽出液はスープあるいは調理のベースとして良好であるのみならず, その凍結乾燥粉末は長期保存呈味料として良好である.6)ブロイラー頭部ミンチの熱水油出液にはタウリンが著しく多く, 次でグルタミン酸, アラニン, ロイシンが多く含まれる.ヒスチジン, アルギニンおよびアスパラギン酸含量は少なくシスチンはまったく含まれない.天然調味料のとりがらエキス, 牛肉および鯨肉エキスとアミノ酸の相対的割合を比較すれば, 頭部ミンチ抽出液のタウリン含量は著しく多く, グルタミン酸含量はかなり少ない.さらに数種のアミノ酸含量についても他のエキスとの間にかなりの相違が認められた.
著者
植木 健至 寺山 保彦
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.42-48, 1955-11-30

前報において, 低水温灌漑が水稲の生育収量に好影響を与えることを報じたが, 本年度はかかる現象に対し, 栄養生理的な検討を行うべく, 生育時期別に稲体有機成分を分析した.処理方法の大要は前年同様であり, 得られた水温は貯溜区(対照区)最高29〜34℃, 平均約27℃で掛流区最高24〜27℃, 平均約24℃であつた.なお掛流処理期間は7月27日〜9月30日迄である.実験結果は次に示す通りであつた.1.乾物重 : 伸長期より登熟期にかけて, 根, 茎葉, 穂と順次に掛流区が大となつた.2.登熟中期に至る迄, 茎葉部においては掛流区の粗蛋白含有率は貯溜区よりも常に高く, 澱粉含有率では全く逆の傾向を示した.3.幼穂形成期より出穂直後にかけて, 掛流区において株当粗蛋白含有量著しく大で且つ, 全糖含量もやや勝る傾向がみられた.粗澱粉含量については分蘗期には貯溜区が大であつたが, 出穂後は粗繊維と共に掛流区が凌駕し, 殊に穂部澱粉において著しい差異がみられた.以上掛流区における増収の過程を推察すると, 幼穂発育期において根重の増加に伴い, より多くの窒素を吸収し, これが一方では1穂粒数の増加をもたらすと共に, 他方では二次的に出穂後の光合成等を盛にし, 穂への多量の澱粉蓄積を可能としたと思われる.なお本年度も前報同様, 稈長, 穂長, 1穂粒数, 株当籾重等の区間差を認めえた.
著者
橋永 文男 古賀 俊光 石田 和英 伊藤 三郎
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.29-37, 1984-03-15
被引用文献数
2

プリンスメロンの成熟に伴う果実(未熟, 適熟, 過熟)の化学成分の変化および生理障害果の一種である異常発酵果(浸出果, 緑斑果)の化学成分を比較した.1.生理障害発生の著しい圃場のプリンスメロン果実は成熟に伴い, 全窒素, アルコール可溶性窒素, 遊離アミノ酸, タンパク質等の著しい増加が認められたが, 対照区の生理障害果の発生の少ない地区の果実では成熟に伴う変化が顕著でなく未熟果と大差がなかった.遊離アミノ酸はグルタミンが最も多く, つづいてアラニン, シトルリンであった.浸出果はアスパラギン酸が多く, アルギニンが少なかったが, 緑斑果は逆であった.2.果実硬度は成熟につれて減少したが, 緑斑果は未熟果と同じであった.糖は浸出果で多く, 緑斑果で少なかった.クエン酸は異常発酵果で少なかったが, 浸出果は酢酸が多かった.また浸出果はカルシウムが少なく, カリウムが多い傾向にあった.3.香気成分は果心部の方が果肉部より多く含み, 酢酸エチル, エタノール, 酢酸オクチル, オクタン酸プロピルが主要な成分であった.異常発酵果はエタノールとイソ吉草酸メチルが増加したが, 大部分の成分は減少した.タンパク質バンドおよびパーオキシダーゼ活性は果実の成熟につれて増加した.緑斑果のパーオキシダーゼアイソザイムは特異な活性バンドが認められた.4.異常発酵果は正常果に比べて全窒素や遊離アミノ酸, エタノール, イソ吉草酸メチルの含量が多かった.そのうち浸出果は硬度, 糖度, タンパク質バンド, パーオキシダーゼアイソザイムなどから過熟果に類似し, 緑斑果は未熟果と類似していた.
著者
服部 満江 田中 実男
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.213-223, 1958-10

本稿は鹿児島の農業の発展促進の順序を解明せんとするものであるが, そのためには, 先ずここの農業の本質を弁えた上で, その順序の判別を行わねばならぬ.鹿児島では農業が最も重要な産業でありながら, それが後進的で生産性も低いが, その主なる原因は, ここの農業が自然条件並びに市場条件に恵まれておらぬことと, 第2次産業未発達の故に農業人口が漸次増大した結果生じた多数の零細農家が農業生産を担当していることにある.そこで鹿児島の農業の発展促進のためには, これらの不良条件に対処するための処置が優先的に考慮され, 以て農業生産の安定を期することが基本的な重要事項となつてくる.その内容について概言すれば, 気象条件上農業生産にとつて最も不利な台風に対処するためには, 水陸稲の早期栽培, 畜産の強化, 果樹園の防風施設の強化が優先さるべく, また, 土壌条件上生産に不利な火山灰土壌に対処するためには, 地力増進方式の設定, ボラ, コラ層の排除, 更には畑地灌漑などが優先さるべきである.水田においても秋落田についての地方増進方式は必要であり, 用排水路の改善などが先ず考慮さるべきである.農産物販売のための市場条件の不利に対処するためには, 共同販売体制の確立は不可欠であり, また市場の動向に適応して計画的な生産を行うべき考慮も重要である.次に, 零細農が農業生産を発展的に担当し得ることを計るためには, 外部より農業資本を導入し, 計画的指導体制を確立し, また, 農家の協力体制を作り上げることが, 至難ではあつても, 優先的に考慮さるべきであり, 更に他方では, 開墾, 工場誘致, 出稼移民の促進を通じて, 零細農の発展的解消への努力もつづけられねばならぬ.これらの考慮に基づいて, 従来の諸種の農業発展促進計画を再検討すれば, 問題のとり上げ方の順序並びに各種問題間における相互関係が充分理解され得る場合が多い.
著者
西原 典則 二之宮 哲志 堀口 毅 恒吉 利彦 稲永 醇二 西川 正雄
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.119-130, 1978-03-19
被引用文献数
1

水稲の生育・収量に及ぼすけい酸の時期別影響をみるため, けい酸の供給時期および欠除時期を段階的に変えて水稲を水耕栽培した.得られた結果は次のとおりである.1.けい酸欠除期間に出葉した葉は軟弱で垂れ下がり, けい酸供給期間に出葉した葉は粗剛で直立する傾向を示した.2.草丈はけい酸供給時期が早いほど, またけい酸欠除時期が遅いほど大であった.3.出穂の20日以上前からけい酸を欠除した区では出穂後の籾に褐色の斑点を生じたが, 出穂直後以前からけい酸を供給した区の籾は健全であった.4.水稲のわら重, 根重および精籾重はけい酸供給時期が早いほど, またけい酸欠除時期が遅いほど大となり, 粃重は逆に減少した.5.水稲の収量構成要素のうち一株粒数, 登熟歩合および千粒重はけい酸供給時期が早くなるほど増加した.また一株粒数および千粒重はけい酸欠除時期が遅いほど増加したが, 登熟歩合は栄養生長期以後けい酸を欠除した区では低かった.6.生育初期(7月1日〜7月20日)のけい酸欠除は水稲の収量および収量構成要素に大きな影響を及ぼさなかった.7.各葉位の葉重は出葉後のけい酸供給開始時期が早いほど, またけい酸欠除時期が遅いほど大であった.8.葉身, 葉鞘および根のけい酸含有率は生育初期にはけい酸欠除の影響をほとんどうけなかったが, その後はけい酸供給時期が早いほど, またけい酸欠除時期が遅いほど大であった.9.茎では節間伸長期, 籾殻では出穂期までにけい酸供給をはじめた区のけい酸含有率はいずれも大差なかったが, その後までけい酸を欠除した区はけい酸含有率が低下した.栄養生長期以後けい酸を欠除した区における茎および籾殻のけい酸含有率は著しく低くかった.10.葉身のけい酸含有量において第1葉(止葉)/第2葉比および第2葉/第3葉比はそれぞれ第1葉および第2葉が出葉・充実している時期にけい酸供給をはじめた区が大であった.11.水稲体の各部位におけるけい酸の分布割合はけい酸供給時期の遅いほど葉身および葉鞘部が減少し, 籾および茎部が増加する傾向を示した.また栄養生長期以後けい酸を欠除した区における籾および茎部のけい酸分布割合は著しく小さかった.
著者
冨永 茂人 岩掘 修一
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.1-10, 1992-03-30

ポンカンの果実発育の各過程にエチクロゼートを散布し, 各時期の果実の大きさと摘果効果との関係, 及び各時期のエチクロゼート散布と果実品質との関係について調査した.1.エチクロゼートを満開後35〜40日に散布した場合, 無散布樹の落果が大きいために, 摘果効果が明らかでなく, 果実横径による摘果効果の差異も認められなかった.2.エチクロゼートを満開後47〜55日に散布した場合, 葉果比からみた摘果効果が極めて大きく, 摘果過剰になった.この時期の果実横径別に摘果効果をみると, 無散布樹に比べて横径が大きい果実で摘果効果が大きく, 横径が小さい果実では摘果効果がそれほど大きくなかった.3.エチクロゼートを満開後70日に散布すると, 摘果効果は中程度で, 葉果比からみた摘果効果は適当であった.この時期の散布では果実横径の小さい果実の落果が多く, 横径の大きい果実の落果は少なかった.4.エチクロゼートの時期別散布が果実品質に及ぼす影響をみると, 満開後35〜55日の散布では果実の肥大は促進されたが, 果実品質が低下する傾向にあった.一方, 満開後70日の散布では着色が促進された.5.ポンカンに摘果剤としてエチクロゼートを散布する場合, 満開後70日前後が良く, この時期の散布は熟期促進用散布の第1回目の散布と兼ねることができるものと考えられた.