著者
氏平 祐輔 大藪 又茂 村上 徹朗 堀江 強
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.27, no.10, pp.631-636, 1978-10-05
被引用文献数
6

尿素の分解を利用した均質沈殿法によって鉄化合物を生成し,その化学状態をpH変化の追跡,メスバウアースペクトル及びX線回折パターンの解析から分析した.均質沈殿を行っている溶液のpH変化の様子,あるいは沈殿した鉄(III)化合物がpH 1.7〜1.8の鉄(III)塩溶液を加熱し,鉄(III)イオンを加水分解したときに生成する化合物と酷似していたことから,均質沈殿の過程は水酸化物イオンの均質的な供給下における鉄(III)イオンの加水分解の過程と同じであることが分かった.0.1M硝酸鉄(III)溶液からの均質沈殿ではゲータイト(α-FeOOH)及びヘマタイト(α-Fe_O_3)が生成し,0.1M塩化鉄(III)溶液からの均質沈殿ではアカガネイト(β-FeOOH)が生成し,0.1M硫酸鉄溶液の均質沈殿からは塩基性硫酸鉄〔NH_4Fe_3(OH)_6(SO_4)_2〕及びゲータイト(α-FeOOH)が生成した.沈殿時に共存する陰イオンの種類及び尿素の分解速度によって異なった化学状態の鉄(III)化合物が沈殿することも分かった.
著者
坪井 知則 平野 義男 木下 一次 大島 光子 本水 昌二
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.309-314, 2004 (Released:2004-09-13)
参考文献数
14
被引用文献数
7 9

化学的酸素要求量(COD)の迅速定量についてフローインジェクション/吸光光度定量の検討を行った.過マンガン酸カリウムを酸化剤として用い,この酸化反応の反応時間を促進させ,短縮するため触媒を用いる方法について検討した.その結果,白金チューブを反応コイルとして用いることにより,酸化反応が促進され測定時間を大幅に短縮できることが分かった.白金チューブ反応コイルのフローインジェクション分析(FIA)法への適用について詳細な検討を行った結果,D-グルコースを標準物質としたとき,検量線は0~100 ppmの範囲で良好な直線性を示した.S/N=3に相当する検出限界は0.01 ppmであり,5,10,20,50,100 ppmのD-グルコースに対する相対標準偏差は,それぞれ0.9,0.8,0.8,0.5,1.4% であった.本FIA法は,排水のCOD迅速定量に適用可能であり,またCODモニターとして利用できる.
著者
光田 圭佑 久保 拓也
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.72, no.9, pp.357-361, 2023-09-05 (Released:2023-11-23)
参考文献数
12

抗体を標的部位の認識・輸送手段として利用し,特定の低分子薬物を担持する抗体薬物複合体(ADC)が注目を集めている.ADCは,免疫グロブリンG(IgG)の四つのジスルフィド結合を切断し,リンカーを介して薬剤を結合するため,結合する薬剤の数や分布が異なり,その薬効も異なる.そのため,薬効の高いものだけを分離回収するためには,ADCの精密な分離技術が求められる.本研究では,ADC分析用の新規分離媒体開発のために,アミノ基修飾シリカゲル粒子に対して,スペーサーとしてポリエチレングリコール(PEG),リガンドとして芳香族化合物を修飾した.作製した分離剤を液体クロマトグラフィー(LC)用カラムに充填し,IgGが溶出する条件を評価した結果,移動相に2-プロパノールを添加する酸性条件下において完全溶出を確認した.さらに,芳香族で修飾されたIgGのLC分析では,未修飾のIgGと比較して保持力の増加が示され,ADCの選択的分離の可能性が示唆された.
著者
有馬 彰秀
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.72, no.7.8, pp.257-263, 2023-07-05 (Released:2023-08-25)
参考文献数
44

ナノ・マイクロスケールの細孔(ポア)を用いた粒子検出技術は,単一粒子レベルの感度を持ち,物理性状に基づく非修飾・非破壊の評価が可能であることから,幅広い微粒子の分析に利用されている.本稿では,まず著者らによる低アスペクト比ナノポアを用いた1粒子検出・捕捉技術について概説する.続いて,人工知能を利用したウイルス種識別について紹介する.この研究では,機械学習を利用することでイオン電流シグナルの形状特徴量を包括的に活用し,高精度識別を可能にした.また,検体認識分子を修飾した機能性ナノポアを開発し,検体のポア通過時の挙動を選択的に変化させることで識別精度向上を達成したため,併せて紹介する.
著者
杉山 雅人
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.45, no.7, pp.667-675, 1996-07-05 (Released:2009-05-29)
参考文献数
27
被引用文献数
14 14

自然水中の懸濁物質に含まれる主要から微量に至るまでの各種元素の同時分析法を検討した.懸濁物質を捕集したニュクリポアーフィルターをねじふた付きのテフロン瓶に入れ,濃アンモニア水を加え一定時間放置後,加熱して乾固した.残留物に過塩素酸・硝酸・フッ化水素酸の混合物を加えて加熱分解した.分解物を蒸発乾固した後,過塩素酸及び硝酸を加え再び乾固した.残留物を硝酸溶液に溶解し,ICP-AESに供試した.本法によって4種類の標準物質を分析し,AI,Ba,Ca,Cr,Cu,Fe,Mg,Mn,Ni,P,Sr,Ti,V,Znの14元素について,良好な結果を得た.原子吸光法を用いると,同一の試料でKとNaが定量できた.本法は水中懸濁物質に限らず,たい積物,岩石,生物試料,エアロゾルの分析にも広く有用である.
著者
中村 拓己 浅田 絵美 永田 佳子 金澤 秀子
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.52, no.9, pp.769-773, 2003 (Released:2004-01-30)
参考文献数
12
被引用文献数
6 5

市販品の緑茶中の主要成分であるカテキン類は,その製茶工程あるいは殺菌工程で熱異性化が起こることが知られており,緑茶カテキン類のうち含有量の最も多いとされているエピガロカテキンガレート(EGCG)は,ペットボトル飲料においては,その熱異性化体であるガロカテキンガレート(GCG)とほぼ1 : 1の割合で存在していた.また,抽出温度を変化させた実験から,緑茶はおよそ80℃ 付近から,熱異性化が起こり,抽出温度が98℃ となるとEGCGの熱異性化は更に進むことが確認された.更に,これらカテキン類のシトクロームP450(CYP)3A4代謝系に対する活性について検討した結果,構造中にガレートを有するカテキン類であるEGCG,GCG,エピカテキンガレート(ECG)のほうがガレート構造を持たないカテキン類と比較して阻害効果が大きいことが明らかとなった.したがって,CYP3A4代謝系に対するカテキン類の阻害効果は,ガレート構造の有無により大きく影響されることが示唆された.
著者
河野 洋一 藤田 和弘
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.331-334, 2016-06-05 (Released:2016-07-07)
参考文献数
19
被引用文献数
5 5

The behavior of the chlorogenic acids (CGAs) and total polyphenols by the difference in roast degree of coffee beans was investigated. As samples, Coffea robusta and Coffea arabica from Brazil, six kinds of different roast degree beans and green beans, were used. HPLC/UV was used for the measurement of CGAs. LC separation was performed on a C18 column with a mixture of water–acetonitrile–acetic acid (1000:50:3) including 30 mg L−1 1-hydroxyethane-1,1-diphosphonic acid (HEDP), acetonitrile and methanol as the mobile phase, and calculated as 5-caffeoyl quinic acid (5-CQA). The Folin-Ciocalteu method was used for the measurement of total polyphenols, and calculated as 5-CQA. As the roasting increased, with both varieties, CGAs decreased, although most of the total polyphenols did not change. Therefore, a difference in roasting causes a change concerning the chemical structure of CGAs. However, the change substances had a hydroxyl group, which came from the structure of CGAs, and the possibility that had antioxidant ability was suggested.
著者
飯盛 啓生 磯部 敏幸
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.55, no.12, pp.999-1002, 2006 (Released:2006-12-26)
参考文献数
12
被引用文献数
3 3

A fading phenomenon of laver arose in the Ariake Sea, Japan from the end of 2000 to the beginning of 2001. It was said that consumption of the major nutrient (N, P. etc.) of sea water by the large phytoplankton caused this phenomenon. In the present study, the relationship between the fading phenomenon of laver and metal elements in sea water was examined. It was found that the amount of essential trace metal elements (especially Fe, Mn and Zn) of the faded laver was less than those of normal laver. In addition, the concentration of these metals in sea water collected near the area around the color-faded laver decreased extremely compared with previous data. From these results, it was deduced that not only the major elements (N and P), but also trace essential elements (Fe, Mn and Zn), could be consumed by phytoplankton. Therefore, the deficiency of these elements could be the major reasons for the fading phenomenon of laver in the Ariake Sea.
著者
細谷 孝博 久保田 通代 熊澤 茂則
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.321-329, 2016-06-05 (Released:2016-07-07)
参考文献数
10
被引用文献数
2 3

アントシアニンは,ベリー果実等に含まれる色素成分の一種で,昔から天然着色料として幅広い食品に利用されている.また近年では,アントシアニンの様々な生理機能に関する研究も行われており,機能性成分としての利用も期待されている.本研究では,アントシアニンを豊富に含むベリー果実について,定量核磁気共鳴法(定量NMR)を用いた分子種解析によるアントシアニン成分の評価を行った.まず各ベリー果実抽出物の1H-NMRスペクトルより,各アントシアニン成分の定性及び定量分析を行った.続いて同スペクトルを用いて主成分分析を行ったところ,各アントシアニンによる分類分けに成功した.また,Oxygen Radical Absorbance Capacity(ORAC)法を用いて各ベリー果実抽出物の抗酸化活性を評価し,アントシアニン成分の種類と含有量,さらに,主成分分析から得られた結果に相関関係を認め,シアニジン系のアントシアニンが抗酸化に寄与することを明らかにした.1H-NMRを用いた本分析手法は,ベリー果実の品質管理や機能性を有するベリー果実をスクリーニングするための有用な手法であると言える.
著者
加藤 大
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.77-87, 2015-02-05 (Released:2015-03-05)
参考文献数
48
被引用文献数
2 2

タンパク質の細胞内局所での機能に注目が集まる中で,これらの解析にタンパク質を内包した刺激応答性ナノ粒子が用いられ始めている.タンパク質は,ナノ粒子に内包されることで細胞内に導入され,刺激応答を受けるまでナノ粒子内に安定に留まり,非侵襲な刺激を与えることで,細胞内で放出され機能する.そのため,刺激応答性ナノ粒子を用いることで,様々なタンパク質について細胞内で機能発現する時空間を正確に制御することができる.細胞内でタンパク質を放出する刺激として,標的部位の細胞内環境(低pH,還元状態)や光などの外部刺激が利用されている.本論文では,タンパク質内包ナノ粒子と,それを用いた細胞内タンパク質の機能解析に関しての最近の研究を紹介する.
著者
飯田 康夫 後藤 一男 古川 正道 柴田 正三
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.32, no.7, pp.401-406, 1983-07-05 (Released:2009-06-19)
参考文献数
16
被引用文献数
10 8

吸光光度法により多成分同時定量を行う場合のデータ処理において,Lambert-Beerの法則を行列の形で表す方法(AKC法)と,逆に,濃度を吸光度の関数として表す方法(CPA法)を定量精度などの面から比較し,更に検量(キャリブレーション)法についても検討した.その結果,定量精度の点ではCPA法が優れていると考えられるが,AKC法においてはスペクトルとしての観察ができることなどの利点があり,両者を組み合わせて用いることがよいと結論される.又,キャリブレーションにおいては,各成分の混合溶液を用いること,あるいは解析式に切片項を導入することにより,定量精度の向上が認められた.更に,これらの方法を用いて,8-キノリノール(オキシン)によるアルミニウム,鉄,及びチタンの3成分同時定量を行い,ほぼ満足のゆく結果を得ることができた.
著者
深沢 力 岩附 正明 平出 正孝
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.25, no.9, pp.634-639, 1976-09-10 (Released:2009-06-30)
参考文献数
3
被引用文献数
1 1

湿式定性分析を結晶化学的又は構造化学的な新しい立場から見直し,新しい知見を得ることを目的として,まず銀イオンと水銀(I)イオンの系統的定性分析で得られる沈殿の状態を光学顕微鏡とX線回折計により調べた.その結果,本来正八面体か立方体の結晶が析出すべきと思われる塩化銀が条件によっては六角(又は三角)板状結晶として析出すること,塩化水銀(I)沈殿に過剰のアンモニァ水を作用させると,いったん生成した塩化水銀(II)アミドが六方晶系又は等軸晶系の水酸化水銀アミド2水和物Hg2NOH・2H2Oに変化してしまうこと,塩化銀共存下で塩化水銀(I)沈殿にアンモニア水を作用させると銀アマルガムが生成する場合があることなどが分かった.
著者
下山 進 野田 裕子
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.49, no.12, pp.1015-1021, 2000 (Released:2001-06-29)
参考文献数
10
被引用文献数
3 4

セラミックスで密封した粒状のアメリシウム(241Am)を樹脂で環状(厚さ3mm×外径φ18mm×内径φ12mm)に成形した放射線強度1.85MBqの線源(AET Technology,重量:0.5g,検出器側鉛遮蔽材を含め26g),この線源から放出される放射線を大気中において試料に照射し,試料から発生する二次X線を線源の中央(環状線源の中央空洞部)から検出する小型電子冷却式シリコン半導体X線検出器(Amptek XR-100CR,重量:142g),検出器と接続するプリアンプ(Amptek PX2CR,重量:1387g),そして小型マルチチャンネル波高分析器(Amptek PMCA 8000A,重量:240g)を用いて,総重量約1800gの簡易携帯型蛍光X線分析装置を組み立てた。そして,この装置を用いて1682年に奉納された絵馬「羅生門図」の青の彩色に使用された着色料について非破壊分析を行った。その結果,この着色料はCa,Fe,Co,Ni,Asを主成分元素として含む“スマルト”であることが明らかとなった。
著者
谷藤 浩介 清家 泰 奥村 稔
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.58, no.8, pp.767-770, 2009 (Released:2009-10-09)
参考文献数
10
被引用文献数
2 2

The adsorptive removal of borate-boron from an aqueous solution using silica gel was studied using a batch equilibration technique. The effects of the pH and metal ions, such as alkali metal and alkaline earth metal, were clarified. The boron adsorption efficiencies increased with increasing the pH and the concentration of alkaline earth metal ions, and their maximum adsorptions were obtained at pH 10-12 in solutions containing calcium ion. The adsorption data obtained by changing the boron concentration and the adsorbent dosage were well represented by the Freundlich isotherm model.
著者
中村 清香 佐藤 浩昭
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.71, no.9, pp.483-493, 2022-09-05 (Released:2022-10-05)
参考文献数
27

質量分析法はポリマーキャラクタリゼーションにおいて有力な手法であり,測定装置の高分解能化とともにますますその利用範囲が拡大している.その一方で,マススペクトルが複雑になるため解析が困難になるという課題があった.その課題に対し,著者らはマススペクトルを二次元プロットへと展開することで視覚的に成分分布を表現する「ケンドリックマスディフェクト(KMD)解析」を,実用的なポリマー分析へと初めて適用した.さらにKMD解析を工業製品として用いられる複雑な組成を持つポリマー材料の組成分析へと適用するために,KMDプロットの高分解能化を行った.あわせて,KMD解析に適用できる高強度のマススペクトルを,マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI-TOFMS)で観測するための,簡便な試料前処理法を開発した.さらにKMD解析の適用範囲をMALDIのみならず,他のイオン化法を用いたデータへも拡大した.このような成果により高分解能質量分析法を用いたポリマーキャラクタリゼーションが加速されると期待される.
著者
若松 茂雄
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.7, no.5, pp.309-313, 1958-05-05 (Released:2009-06-30)
参考文献数
10
被引用文献数
13 9

従来酸性溶液中の遊離のホウ酸は加熟その他の処理によって非常に揮発しやすいと信ぜられている.このためにホウ素の定量にあたっては分析操作に種々な制限が加えられる.金属その他のなかの微量のホウ素の吸光光渡法による定量が困難であるとされている原因の一つはここにあると考えられる.よって著者はこの点について検討した結果,酸性溶液中の遊離のホウ酸は加熱その他の処理によって揮発することのないことをたしかめた.そしてこれによってホウ素の定量を困難にしている原因の一つを除去することができた.
著者
松枝 隆彦
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.110-115, 1980-02-05 (Released:2010-02-16)
参考文献数
23
被引用文献数
4 2

活性炭が水中の微量水銀をよく吸着する性質を利用して,水銀(II)及びメチル水銀(II)をパッチ法により活性炭(ダルコG-60, 225メッシュ以下)に捕集濃縮させ,ゼーマン効果を用いたフレームレス原子吸光装置(日立ゼーマン水銀分析計501形)により定量した.試料水500mlに1N塩酸5ml及び活性炭50mgを添加し,70分間振り混ぜた後,メンブランフィルター上に活性炭をろ別する.これを60℃で30分間乾燥し,その一定量を試料ボートに採り吸光度を測定した.活性炭に吸着された水銀について0~50ngの範囲で直線の検量線が得られた.又,繰り返し精度は,標準偏差パーセントで8.3%(10ngHg/10mg活性炭)であった.検出下限(S/N=2)は0.5ngであった.最適条件における水中のppbレベルの水銀(II)及びメチル水銀(II)の回収率はそれぞれ97%及び96%以上であった.還元気化法で著しい妨害を示す硫化物イオンの影響は認められなかったが,チオ硫酸イオン,金イオンが共存すると負の誤差を生じた.本法により,水銀(II)及びメチル水銀(II)をそれぞれ0.25ppb含む混合試料について分析した結果,還元気化無炎原子吸光法によるものとよい一致を示した.
著者
松本 健 木羽 敏泰
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.12-16, 1981-01-05 (Released:2009-06-19)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

100ml分液漏斗に1M塩化アンモニウム-炭酸アンモニウム-アンモニア水溶液(pH10)50mlを入れ,窒素を通じ脱酸素してから,金属銅試料を加え振り混ぜると,酸化銅(I)と酸化銅(II)はアンミン錯イオンとなって溶解し,金属は溶けないで残る.水溶液について銅の量を原子吸光法で定量すれば,酸化銅(I)と酸化銅(II)の合量が求められる.一方,水溶液について窒素ふん囲気の下でバソクプロイン-クロロホルム抽出した後,銅を比色定量して酸化銅(I)の量を求める.酸化銅(II)は酸化銅(I)と酸化銅(II)の合量から酸化銅(1)を差し引いて算出した.本法は精度が高く,金属銅表面の酸化銅(I)と酸化銅(II)とを簡単迅速に分別定量できる.
著者
大澤 進 杉本 晋哉 米久保 功 加治木 美幸 寺島 薫 岩崎 昭夫
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.37-50, 2018-01-05 (Released:2018-02-06)
参考文献数
31
被引用文献数
1

先進国で高齢化社会を最初に向かえる日本の医療費は約42兆円であり,国家予算の約38% に達する.我が国の医療での分析化学の技術は,患者の診断,治療効果の判定,予後の推定,そして健康管理に利用され,世界一の長寿国に貢献している.企業に勤務する社員の多くは健康診断を受ける機会があるが,自営業や家庭の主婦は健診会場にほとんど行くことがない.分析化学の技術を駆使して家庭内で臨床検査が可能な研究開発はされているが,その検査項目はぶどう糖など限定的であり十分に普及しているとは言いがたい.厚生労働省は40歳以上の国民を対象に特定健診(メタボ健診)を実施しているが受診率は47.6% であり,目標の70% には到達していない.著者らは手指からの微量の血液(65 μL)を緩衝液で希釈し,即時に血球と希釈血漿しょうを分離する技術を開発した.希釈された血漿は一週間安定であることから,試料を郵送して病院検査室で用いる生化学自動分析装置で測定することが可能である.希釈された血漿中の成分は採取した検査者の採取量や血球量により変動する.全血の希釈緩衝液に内部標準を添加することで,その希釈率から生体成分の希釈倍率を求め,血漿中の生体成分濃度を求めることができる.また,手指からの末梢血を緩衝液で希釈することにより,フィルターで容易に血漿を血球から分離することが可能となった.さらに希釈された血漿成分は生体内酵素も希釈されることから代謝産物の安定化にも寄与している.これらの血液希釈血漿分離技術を駆使し,希釈血漿150 μLでメタボ健診の14項目の検査を可能とした検査技術とその活用による効果を述べる.