著者
神田 学 張 翔雲 鵜野 伊津志 川島 茂人 高橋 裕一 平野 元久
出版者
日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.267-277, 2002-04-30
参考文献数
20
被引用文献数
3

地域気象モデルに花粉の移流・拡散・発生・沈降の物理プロセスを組み込んだ花粉予測モデルを開発した.花粉発生フラックスは・スギ林上の集中観測結果と物理的考察に基づき大気飽差の関数としてモデル化された.スギ林データベースや花粉自動観測システムが整備されている山形盆地を対象として検証計算を行い,花粉個数濃度の日変動特性が概ね良好に再現された.とりわけ花粉が夜間の弱風時に盆地内で滞留し高濃度化する現象が計算で示された.また,地表面摩擦速度や花粉粒子の沈降速度が花粉発生に及ぼす影響を感度分析により検討した.
著者
加藤 内藏進 加藤 晴子 逸見 学伸
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.203-216, 2009-04-30
被引用文献数
1

本研究では,加藤・加藤(2006)(KK06と略記)が指摘した4月初め頃の日本列島での急昇温と春を歌った童謡・唱歌に注目し,気象と音楽とを連携させた授業実践を試みた.まず,上記の急昇温の気候学的位置づけについてKK06の結果を要約するとともに,1981-1990年の毎日の地上天気図に基づく解析等を追加して,この時期のモンゴル付近における日々の卓越システムの季節的交代を確認した.次に,春を歌った童謡・唱歌の歌詞を分析した.その結果,春を歌った曲の多くは,二十四節気の春分・啓蟄〜穀雨,すなわち,上述の時期を素材としていることが分かった.以上を踏まえながら,小学校第5学年の児童を対象として,気象と音楽を関連させた研究授業を計3校時分行なった.内容は,日本付近の4月初め頃の急昇温を子供たちが把握し,それを踏まえて歌唱表現学習を行うものである.本論文では,その第1校時目(気象を中心)について,教材準備のための検討点,授業の観察や分析に基づく成果と問題点を報告する.「昇温量」と「気温自体」の混同が一部の子どもたちに見られるなど,指導法の更なる工夫の必要性も示唆されるものの,本事例は,日本の季節の進行と季節感を切り口とする気象と音楽の連携についての可能性を示すものと言える.
著者
石原 正仁
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.59, no.7, pp.563-577, 2012-07-31
被引用文献数
1

2008年8月5日に首都圏では多数の積乱雲が発生し,東京都豊島区雑司が谷では局地的大雨による被害が生じた.第1部(石原2012)ではこの日に首都圏で発生した積乱雲群のレーダーエコーの形態を統計的に調べた.この第2部では,この日大雨警報が発せられた地域に発生した積乱雲を対象として,気象庁の3次元レーダーデータを用いて降雨のピークの時刻と量を直前に予測することを試みた.「上空における降水のコア」,「鉛直積算雨水量」,「エコー頂高度」,「雷放電」,「降水セル強度と鉛直積算雨水量の変化」の5つの指標を検討したところ,各積乱雲においてこれらの手法のうちのいくつかには効果が認められたが,効果の程度や有効な手法の組み合わせは降水セルによって異なった.「上空における降水のコア」は雑司が谷に局地的大雨をもたらした積乱雲においては有効であった.
著者
佐々木 華織 菅野 洋光 横山 克至 松島 大 森山 真久 深堀 協子 余 偉明
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.51, no.12, pp.881-894, 2004-12-31
参考文献数
25
被引用文献数
3

山形県庄内地方に発生する清川ダシの集中気象観測を行い,峡谷出口に強風域が局限される事例(Obs-1)と,全域で強風の事例(Obs-2,3)を観測した.峡谷出口でのパイバル2点観測の結果,東風成分の高度は事例によって異なり,Obs-2では下層200〜400mに最強風帯が,その上空付近には1m/s以上の強い上昇流が発生していた.峡谷出口の風速は,峡谷内の気圧傾度によって加速された,地峡風の風速と同様の傾向であったが,Obs-1ではばらつきが大きかった.付近の高層データから,全ての事例で逆転層が認められた.Obs-1では上流である仙台の逆転層が清川周辺の山脈と同程度と低く,フルード数は0.11であり,峡谷出口付近でHydraulic jumpが発生していた可能性がある.一方,Obs-2,3では仙台の逆転層が高く,フルード数は最高0.58で,強風が平野全域に現れやすい状況であったと考えられる.
著者
仁科 淳司
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.309-310, 2002-04-30
著者
須田 芳彦
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.335-341, 1993-05-31
被引用文献数
1

気温の年々変動に着目して,大雨特性が気温の高低によってどう変わるかを調べるために,暖候期(5〜10月)の平均気温に基づいて地点ごとに温暖年・寒冷年を10年ずつ抽出し,それぞれ10年分のデータから暖候期における総降水量,降水日数,日・時間・10分間単位の確率降水量を求めた.ここでは,推定誤差の小さい確率降水量を得るために標本数の多い日別値データを用いた.温暖年と寒冷年における暖候期の平均気温の差は地点平均で1.1℃であり,ほとんどの地点で総降水量と降水日数は温暖年により少なくなっている.大雨を「総降水量に対する相対量」で定義するならば,大雨の度数は温暖年により多くなっている.確率降水量が寒冷年より温暖年に多い地点は,時間スケールが短くなるにしたがって増えており,これは,温暖年における大雨の特徴として,より短時間の大雨,すなわち「強雨」が多いことを示している.また,北陸地方で温暖年の確率降水量がより多く,南西諸島,四国南部から関東南部までの太平洋惻地域で寒冷年の確率降水量がより多いという地域的特徴が認められた.
著者
天気予報研究連絡会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.673-679, 2013
著者
高谷 美正 鈴木 修 山内 洋 中里 真久 猪上 華子
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.1037-1054, 2011-12-31
被引用文献数
2

2007年4月28日午後,関東地方は雷雨・突風・降雹を伴う大荒れの天気となり,各地で被害が相次いだ.この事例について,ドップラーレーダー,高層気象観測,ウィンドプロファイラー,地上気象観測の各データおよび被害調査等から解析を行った結果以下のことがわかった.(1)被害をもたらした降水システムは,ボウエコー(弓形のエコー)の特徴を備えていた.(2)レーダーのデュアル解析により,このボウエコーの先端部分に鉛直渦度と水平収束の大きい領域が解析された.この領域の形状と振る舞いは先行研究のサイクロニックなメソサイクロンと良く似た特徴を持っていた.この領域は当初中空(地上2〜4km)に浮いていたが,その後その南西端が地上付近に垂れ下がるような形状となった.この時にその足付近で,低層のPPIデータにマイソサイクロンが2つ検出され,これらは鉛直渦度と水平収束の大きい領域とともに東南東に移動した.(3)2つのマイソサイクロンの内,より南側を通過したマイソサイクロンが,東京湾岸地帯の約18kmにわたる直線上の複数の場所に突風被害をもたらした.低層のPPIデータによる見積りでは,被害場所は,渦の風と渦の移動速度が線形の重ね合わせによって強め合う場所で起きており,風速は最大40ms^<-1>ほどに達したと見積もられる.(4)サイクロニックなメソサイクロンの発生機構として,先行研究の数値実験において,「下降域内を下降する空気塊が,ガストフロントをまたぐ傾圧帯において傾圧効果により水平渦を獲得する.その水平渦がガストフロントに沿って存在する上昇流によって上方に傾けられて鉛直渦度を獲得し,更に延伸することにより鉛直渦度が強められる」というものが挙げられている.この発生機構が実際に働いていることを示唆する解析結果が得られた.(5)被害が最初に起きた時刻の約10分前に,仰角の高いドップラーデータで見ると,ボウエコーの先端部分において動径風の収束が強まっていた.これはマイソサイクロンの前兆現象として突風の直前予報に役立つと思われる.
著者
瀧下 洋一
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.167-175, 2009-03-31
被引用文献数
6
著者
藤部 文昭
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.43, no.10, pp.671-680, 1996-10-31
参考文献数
21
被引用文献数
13

台風移動時の風速分布を与える各種の計算式を比較検討し, 以下の点を指摘した. (1)力学的な観点から見れば, 台風と一緒に動く座標上の傾度風を求める方法が最も合理的であると考えられる. (2)その解は, 台風静止時の傾度風に(KC+G)/(K+1)の補正をすることによって近似できる. ここでCは移動速度, Gは一般風である. Kは遠心力とコリオリ力の比であり, 台風中心からの距離の関数である. (3)一方, 流跡線上の傾度風バランスや, 変圧風に基づく方法は, 発想は興味深いものの計算結果の妥当性には疑問がある. なお台風の中心付近ではK≫1であるため, 風の非対称性は一般風ではなく台風の移動によって生ずる.
著者
久野 勇太 日下 博幸
出版者
日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.61, no.8, pp.661-667, 2014

2002~2009年(8年間)の6~9月のアメダス10分値データおよび愛知県・岐阜県の川の防災情報10分間雨量データを用いて,濃尾平野周辺における強雨発生頻度の地理的特性を調査した.熱的局地循環が発達するような条件下での強雨に着目するために,対象期間全日と濃尾平野内で真夏日を記録した午前無降水日の2つの対象日ごとに解析を行った.その結果,以下の傾向が見られた.(1)2つの対象日ともに,10mm/hour以上の1時間降水量を観測した日数は濃尾平野近傍の北~北東の山地で多い.(2)濃尾平野の平均的な強雨日数は,愛知県沿岸部における強雨日数に比べて多い.(3)濃尾平野近傍の北~北東の山地では,15~18時に強雨発生頻度の極大値が存在する.ただし,関東平野とは異なり,濃尾平野の内陸部では時間帯による強雨発生頻度の極大値は見られない.(4)10mm/hour以上の強雨発生日は,強雨の非発生日に比べて濃尾平野周辺の大気が不安定な傾向にある.
著者
渡部 浩章
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.55, no.10, pp.807-812, 2008-10-31
被引用文献数
1

2004年9月29日09時には台風第21号が九州南部にあった.三重県付近は台風本体の影響を直接は受けていないが,下層の暖湿気塊が流れ込みやすい状態であり,尾鷲では29日の朝から昼前を中心として豪雨となった.2kmおよび5kmの水平分解能の気象庁非静力学モデルを用いて,豪雨をもたらした降水システムが強化された要因を調べた.数値実験の結果は,紀伊山脈南東斜面における発達した降水システム,尾鷲付近における地上の一様な東風,高度1.5km付近の南東風をよく再現した.山岳の影響により海岸線付近から山岳東斜面で対流が活発であった状況の中で,東からの降水セルの合流とともに尾鷲付近で降水システムの組織化と発達がみられた.このとき,さらに厚さ約400mの下層冷気塊によって下層収束が強化された結果,この降水システムが急激に発達し,80mm/hをこえる激しい豪雨をもたらしたと考えられる.