著者
飯田 哲
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.238-243, 2019-06-01 (Released:2019-06-01)

OpenStreetMapとは,全世界を対象とした自由な地図データの作成プロジェクトである。OpenStreetMapプロジェクトは,誰でも参加することができ,誰でも利用ができる自由な地理空間情報の作成と配布を行うプラットフォームとして,世界各地に地図編集者のコミュニティを生み出し,2019年現在も成長を続けている。本稿では,2019年時点のOpenStreetMapについて,コミュニティの形成や関連する企業・団体によるエコシステムの形成,それらによる活動の状況など複数の観点から記述することにより,その状況を解説することを試みる。
著者
千 錫烈
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.60, no.10, pp.420-427, 2010-10-01

本稿では問題利用者への対処法を示すことを目的とする。最初に図書館における問題利用者の定義や問題行動の種類について概観し,問題利用者の範囲は広く,状況によっては問題行動かどうかの判断が困難なことを指摘する。次に日本における問題利用者の実態調査のレビューを行い,現実問題として問題利用者の被害が深刻であり,図書館員の精神的負担となっていることを示す。最後に,問題利用者の対処法として,最も遭遇頻度が高いであろう「怒った利用者」に焦点を当て,傾聴法に代表されるコミュニケーション・スキルを用いた方法や,意見が対立した際の「優位」と「回避」を用いた対処法を紹介する。
著者
緑川 信之
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.238-243, 2007-05-01

フォークソノミーという用語はフォーク(folkまたはfolks)とタクソノミー(taxonomy)の合成語である。Wikipediaによれば,フォークソノミーは,インターネット上での情報検索の方法論であり,協同的かつ自由に付与されるタブで構成されている。このダグによって,ウェブページやオンライン上の写真,ウェブリンクなどのコンテンツがカテゴリ分けされる。本稿では,フォークソノミーに関するいくつかの論文・記事を分析し,フォークソノミーの新奇性がどこにあるのかを明らかにした。
著者
福田 一史
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.72, no.8, pp.299-306, 2022-08-01 (Released:2022-08-01)

IFLA図書館参照モデルなど新しい書誌データモデルの採用・実装が進んでいるが,それらモデルによる書誌データ作成の方法論やコストについて議論の余地が大きい。本研究はビデオゲーム資料の目録作成においてゲーム作品の典拠構築にWikidataを活用した事例を通じて,オンラインコミュニティが生成したデータ活用の方法論について,網羅性・粒度・記録の完全性という3つの観点から検討した。ここでは所蔵資料の半数強のデータが接続され,コストや外部接続性について有効性が確認できた。一方で特定のデータセットだけを利用することによる課題と複数データセットの統合戦略の有効性が示唆された。
著者
太田 剛
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.71-76, 2020-02-01 (Released:2020-02-01)

現在,図書館の在り方が大きく変わってきているといわれる。旧来の図書の貸出しを中心とした考え方から,地域づくりの中心施設としての図書館へと移行し,そこに求められる役割も多様化してきている。とくに滞在型の図書館への移行は,空間の居心地の良さが重要視され,そこに配置される家具には,機能性や安全性のみならず,デザイン性も重要な要素となってきている。これまで全国各地で図書館の新設や改修に,アドバイザーやコーディネーターとして関わってきた筆者が,それまで経験した事例をもとに,これからの新しい図書館づくりにおける家具の選定について考察する。
著者
永崎 研宣
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.61-66, 2017-02-01 (Released:2017-02-01)
被引用文献数
1

デジタル文化資料のWebでの流通の仕方を抜本的に改革し,より効果的効率的に共有するための規格,IIIFが研究図書館を発信源として国際的に広く支持を集めるようになってきており,英国図書館やフランス国立図書館をはじめ,多くの関連機関がこれに積極的に関わるようになっている。本稿では,IIIFの初期段階の構想を採り上げ,それが現在にどのように実現されているかを明らかにする。そして,IIIFが現在提供する様々な利便性について紹介するとともに,現在国内外でどのように広まっているか,その広がりがどういった状況をもたらし得るか,について検討する。さらに,人文学向けのテクスト資料のデジタル化に関するデファクト標準であるTEIについても触れ,両者の対比と今後の可能性を提示する。最後に,デジタル文化資料の国際的な規格に日本が積極的に関わっていくことの意義を述べる。
著者
渡邉 英徳
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.12-16, 2020-01-01 (Released:2020-01-01)

私たちは,社会に“ストック”されている1964年大会の資料を“フロー”化するデジタルアース・コンテンツ「東京五輪アーカイブ1964-2020」を制作した。本稿で説明した情報デザインによって,ばらばらの粒子のように“ストック”され,固化していたデータが結び付けられ,液体のように一体となって流れる“フロー”となる。この“フロー”をさまざまなデバイスを通して生み出すことにより,資料についてのコミュニケーションが創発し,情報の価値が高まる。その結果として,55年前・1年後の五輪が,ひとつの流れのなかに位置付けられ,過去に学び・未来に活かす「継承」の機運を生み出せると,私たちは考えている。
著者
佐藤 翔 サトウ ショウ
出版者
情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.51-56, 2013

電子ジャーナル等の電子リソースの普及に伴い,そのアクセスログに基づいた研究が増えている。本文へのアクセス状況を包括的に示すアクセスログの分析は利用者行動を知る際に役立つものであるが,その目的や意図はログからはわからないため,その他の手法と組み合わせることが有益である。また,引用データとは異なる傾向を示すものとしてビブリオメトリクスの中でも注目されているが,研究評価に用いるには水増しが容易である等の問題もある。日本においては,海外で行なわれているような電子ジャーナルの大規模ログ分析が未だ行なわれていないことが課題である。
著者
山口 滋
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.58-64, 2023-02-01 (Released:2023-02-01)

医農薬品やプラスチック等,私たちの身の回りの化学品の多くは有機分子から作られている。目的の有機分子を作るために不可欠な手段として,有機合成がある。とくに分子と分子をつなげるための「触媒」の開発は有機合成のなかでも中心的な課題のひとつである。触媒開発をはじめとする有機合成分野の研究は人間の経験知に基づく試行錯誤で行われている。この試行錯誤をDXにより効率化しようという研究が近年盛んに行われている。しかし有機合成分野の「DX」は本当に必要であろうか?「DX」の潮流における触媒反応開発分野の変化と今後について概観する。
著者
樽見 博
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.8, pp.335-339, 2013-08-01 (Released:2017-04-18)
参考文献数
3

書物の誕生と同時に古書は生まれ,書物の流通の歴史が始る。書店の初期の形態は,新刊書の制作から販売,さらに古書の売買も伴うものであった。書物の刊行が増えるに従って新刊書店と古書店は分離し,流通の仕方も変わった。古書業界は業者間の交換市を経営し,需要と供給の関係から販売価格を決めるシステムを確立した。全国組織を作り貴重な古書を掘り起こし,古書の後世への伝達という役目を果たしてきた。21世紀に入り,書物の世界にもデジタル化の波が押し寄せてきた。書物という形態に大きな変革が起きようとしているが,1冊1冊に個性が備わる古書の価値を見極める仕事として,今後ますますその専門的な知識と経験が問われるようになってきた。
著者
木目沢 司
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.67-73, 2022-02-01 (Released:2022-02-01)

国立国会図書館(NDL)電子情報部は,NDLにおける情報システムに関連する業務の一元化による効率化及び円滑化を図るため,2011年10月に設置された。以降電子情報部は,NDLの基幹システムである国立国会図書館業務基盤システム等のリニューアルをはじめ多くのシステムの新規開発やリプレースを行ってきた。本稿では2021年10月に設置から10周年を迎えたことを機に,電子情報部が行ってきた情報システム整備の取組について振り返り,その成果を省察する。またNDLにおける今後のシステム整備の方向性と課題について考察する。
著者
福山 樹里
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.54-60, 2017-02-01 (Released:2017-02-01)

本稿の目的は,Europeanaが国も分野も異なる様々なデジタルアーカイブからメタデータを収集し,管理し,提供している方法を,公開されている文書類をもとに解説することである。はじめに,メタデータを収集しているアグリゲータモデル,収集したメタデータの処理工程,公開と出力までを概観する。次にEuropeanaのメタデータモデルであるEDMに焦点を当て,その開発方針と特徴を整理する。その後EDMを有効に機能させるメタデータの運用について,品質確認プロセスも含めて説明し,最後にEDMに関わる今後の課題をまとめる。
著者
古賀 崇
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.48-53, 2017-02-01 (Released:2017-02-01)

本稿では国際的動向を踏まえつつ,日本におけるデジタルアーカイブのゆくえを考えるための論点を提示した。すなわち,アーカイブズ領域でうたわれてきた「証拠的価値」や,デジタル・スカラーシップの進展とともに意識すべき「学術研究上のルール」を踏まえつつ,デジタル技術のポテンシャルを生かした「より深い利用」を促すため,どのようなかたちでデジタルアーカイブを構築・運用するのが望ましいか,ということを,本稿では論じた。国際的標準・規格や,図書館での「ディスカバリ・サービス」といった横断的・包括的検索システムとの関係も,考慮すべき論点に含まれる。
著者
片山 善博
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.168-173, 2007

図書館本来の機能,つまりミッションは,民主主義社会の国民・住民の「自立支援」を「知的インフラ」という側面で支えることである。真の民主主義社会の実現には,政府と国民との間でできるだけ広範な情報共有が必要であると同時に,政府が発信する情報だけでなく,いわば「対抗軸」ともいうべき客観的資料や政府案への問題点を論じた資料など,バランスの取れた情報環境が必要である。また,重要な政策決定を審議する際,失敗事例,諸外国事情を含め,基礎となる資料や情報は不可欠である。それらの情報環境を担うのが図書館であり,図書館のミッションといえる。そして,それらの情報へのアクセスを的確に行うのが司書の役割である。
著者
椎名 ゆかり
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.146-152, 2014-04-01 (Released:2017-04-13)

アメリカの図書館でマンガが所蔵されるようになったのは近年のことである。長い間マンガ,特に「コミック・ブック」と呼ばれるマンガの刊行物は,「子供向けの低俗な読み物」として時には規制運動も巻き起こるほど批判され,図書館はむしろ「コミック・ブック」に対して批判する側であった。その図書館が21世紀に入り,マンガを積極的に支持し,所蔵対象にするようになっている。本稿では,マンガが図書館に所蔵されるようになった歴史的経緯を概観し,この変化の起こった要因の一部に,マンガが「グラフィック・ノベル」として再発見された点や日本マンガ人気があった点を考察することにより,アメリカ社会におけるマンガの文化ヒエラルキーの変遷を検証する。
著者
出口 弘
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.122-132, 2014

本稿では日本の漫画を広く絵物語のコンテクストの中で位置づけ,その文化史的な意義と可能性を明らかにする。日本の絵巻や浮世絵,絵草紙,漫画などの諸コンテンツは社会階級に依存せず創作され,また複製や二次創作を積極的に是認する文化を持つ。これは欧州型の,オリジナル作品にオーラがあるとみなし二次創作を是認せず,権威による作品の評価を基軸とするアートの文化とは大きく異なる。本稿では,絵物語の歴史を概観しながら,あらゆる社会の場から表出され,異なる立ち位置の人々の世界観を混淆循環させる力と多様性を持つメディアとしての絵物語空間に着目する。その上で,漫画の様な絵物語を日本のサブカルチャーではなくメインカルチャーとして位置づけその可能性を論じる。