著者
坂無 淳
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.19-36, 2007-06-10

本論文ではハラスメントと大学研究室の構造の関係を北海道大学の大学院生へのインタビュー調査から考える。大学研究室の構造には固定メンバーが長時間すごす閉鎖的な特徴があり,上下の関係としては研究室の権力がトップの教員に集中している。またジェンダーの関係として,ホモソーシャルな構造がみられる。具体的には,女性に対して(1)男性から女性への性的なジョーク,(2)少数派である女性が男性院生の友人を作りにくい状況,(3)研究が女性には向いて吟ないという偏見,(4)少数者である女性は会話の選択を強いられるという4点があり,同性愛に対しては同性愛ジョークがある。一方で,研究室では少数である女性院生の抵抗の戦略をみることもできた。<BR>上記のような閉鎖的でホモソーシャルな構造が大学研究室にできやすいようであるが,権力が集中する教員,また院生においても男性が多い。そこでは教員や多数派である男性院生に都合の良いように研究室の慣習がつくられ,下位で少数の女性院生が不利益を強いられることが多い。インタビューと『学生生活実態調査』からは「普通」の研究室にもハラスメントの潜在例は多く,大学の対応システムにのらない例も多い。また閉鎖的で教員の権力が強い,ホモソーシャルな構造のもとで,ハラスメントは温存される可能性が高いと考えられる。
著者
上山 浩次郎
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.21-36, 2012-06-05 (Released:2013-02-28)
参考文献数
21
被引用文献数
1

本稿では,これまで高等教育進学率の地域間格差がどのように変化してきたのかを明らかにする。その地域間格差は,過去と比べて拡大してきたのか縮小してきたのか,それとも安定して推移してきたのか。こうした論点を検証することを通して,現在の地域間格差の状況を評価する。 先行研究を確認すると,1990年以降,高等教育進学率の地域間格差は拡大してきたという見方と,安定して推移してきたという見方が併存している。こうした見解の違いは,標準偏差と変動係数という,用いる格差指標の違いが関係している。しかし,両者ともに,進学率の格差指標としては適切さに欠ける。そこで本稿では,より妥当性が高い都道府県間相関比を格差指標として分析した。 分析の結果,⑴大学進学率では,男女計・男女別と都道府県別・地域ブロック別のすべての組み合わせで,地域間格差が1990年まで縮小したのち1990年以降は拡大していること,⑵大学に短大を加えた高等教育進学率でも,すべての組み合わせで,地域間格差が1990年を境に縮小から拡大に転じていることが明らかになった。さらに,⑶2010年現在の状況は,「大学立地政策」が実効的な影響力をもつ以前の1975年の格差と比較して,大学進学率で同程度,高等教育進学率でもこれに匹敵する程度となっている。 以上から,現在は,高等教育進学率の地域間格差の是正を意図するような政策が再び必要となる状況へと変化しつつあることが示唆される。
著者
工藤 遥
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.61-84, 2022 (Released:2022-08-01)
参考文献数
7

本稿では,コロナ禍初期に北海道札幌市で「子ども宅食」活動を展開した子育て支援NPO が実施したアンケート調査のデータから,一斉休校や登園・外出自粛要請が子育て家庭に与えた影響について考察した。休校・自粛要請により,家庭内で母子だけで過ごす時間が長時間化する中,幼い子どもを持つ母親たちは,子どもの食事作りや家庭学習,生活習慣や健康面への配慮など,普段よりも多くのケアや教育,家事負担を抱え,就業面や経済的な面でも困難に直面していた。本調査では,母親回答者の9割以上が休校・自粛の影響で「困った」と回答し,特に就園・就学期の子どもがいる親でその割合が高かった。また,ストレス程度が高い回答者は普段よりも休校中ほど多く,特に普段からストレスが強い層ほど休校中のストレスや困り感も強いことが確認された。保育・子育て支援の利用が一般化した社会で,「子育ての社会化」機関がその機能を一斉に停止・縮小したことの影響は大きく,また,コロナ禍では家族ケアや女性の就労に関する平時からの問題もより深刻な形で顕在化した。こうした中で本調査では,食事提供型の支援が家事負担や食費の軽減にとどまらず,孤立感の緩和や精神的支援としても有用であることが示唆された。子育て問題の予防と解消のためには,緊急時も含めて「子育ての社会化」体制を機能させることとともに,公的支援の「切れ目」を埋める民間の活動に対する支援の拡充も重要である。
著者
猪瀬 優理
出版者
Hokkaido Sociological Association
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.1-18, 2010
被引用文献数
1

現代日本では,若者の性行動・性意識に変化が生じており,これを「乱れ」として懸念する声も強い。しかし,若者の意識をより実質的に理解するには「乱れ」という否定的な解釈だけでは不十分である。若者たちが自分自身やその周囲の人びととのかかわりの中で形成する性意識の文化的背景を知る必要がある。本稿は思春期にあたる中学生,高学生(以下,中高生)の月経観・射精観に着目してこの問題に取り組む。射精に関する先行研究は月経に比して少ないため,射精観に関する議論は意義がある。<br> 北海道の都市における中高生を対象とした調査票調査とインタビュー調査をもとにして,⑴射精に対するイメージが月経より希薄であること,⑵月経/射精と生殖の結びが漠然としたものである可能性,⑶射精が罪悪感・羞恥心を伴うものであること,⑷射精経験が月経経験よりも公的に語られにくいものであること,を明らかにした。<br> この背景には,⑴性的欲望や性的欲求について公的に語ることに対するタブー視が根強く,特に子どもに対して顕著であること,⑵女性の身体は特別なケアが必要なものとみなすが,男性の身体には特別なケアの必要を認めないこと,⑶生殖とのつながりについて特に女性の身体を重視する文化があること,⑷性的欲求や性的欲望が主にポルノグラフィとして語られる文化があること,が挙げられる。射精はその現象の性質から性的欲求との関わりが強いために,公的に語られにくいことが指摘できる。
著者
成瀬 麻夕 川畑 智子
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.43-61, 2016 (Released:2017-08-31)
参考文献数
18

ハラスメントは深刻な人権問題である。本稿ではこれまでの調査結果をもとに,日本のハラスメント対策の現状について考察する。まず,全国の大学におけるハラスメント概念の特徴について統計的に検討した結果,日本の大学が「ハラスメント」と見なす行為は多様であることが明らかとなった。このことから,日本の大学のハラスメント認識には統一見解が存在せず,各校が個別にハラスメント対策を行っている現状が浮き彫りとなった。本調査では,「セクシュアル・ハラスメント」事例を通して日本のハラスメント概念の特徴を分析した。分析軸としてハラスメント対策の先進国であるイギリスのハラスメント概念に基づく行為水準を参考にした。その結果,日本の「セクシュアル・ハラスメント」概念は迷惑行為から犯罪行為に至るまでの様々な行為を含む,包括的なカテゴリーとして位置づけられていることが明らかとなった。一方で,そのような日本の「セクシュアル・ハラスメント」概念の登場によってハラスメントそのものの概念構築ができず,ハラスメントの定義が確立されてこなかった。その背景には,日本では「セクシュアル・ハラスメント」対策が先駆けて整備されたという経緯がある。このことによって,日本では様々な行為水準で分類されたハラスメント概念が恣意的に構築される結果となった。今後は,諸外国のハラスメント対策を参考に,日本でも人権意識に基づいたハラスメント概念の構築とそれを基本とする実態把握の方法の確立が急務である。
著者
李 賢京
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.77-99, 2010-06-16 (Released:2013-02-28)
参考文献数
50

本稿の目的は,海外における日系新宗教信者の信仰深化過程を考察することである。多くの先行研究では,日系移民社会内における日系人の信仰継承が注目されてきた。だが,本稿では,日系移民社会内ではなく,過去に日本によって植民地支配された韓国における,韓国人信者の信仰継承に焦点を当てる。 第2次世界大戦後,多くの日本の宗教教団は朝鮮半島から撤退していったが,天理教は韓国人信者たちによって存続され,現在まで受け継がれている。本稿では,天理教の「3世信者」のライフヒストリーに基づき,彼らの信仰における深化過程を明らかにした。特に本稿では,「日常」あるいは「非日常」における「教団内他者」・「教団外他者」との関わり・相互行為・相互活動が,「3世信者」の信仰に,どのような影響を与えているのかについて分析し,韓国に特徴的な日系新宗教信者の信仰深化過程を明らかにした。 韓国天理教の「3世信者」における信仰の深化過程への考察から,以下の2点の知見が得られた。⑴韓国は日本植民地経験に起因する反日感情が強く(反日感情を現しているのが日系宗教に対する「似而非宗教」「倭色宗教」という呼称である),そうした感情を持つ「教団外他者」は,「3世信者」の信仰生活の「弱化」に強く影響を与えていた。⑵「教団内他者」である同輩の信者と,親の寛容な宗教教育態度は,「3世信者」の信仰の維持および深化に影響を与えていた。
著者
古口 真澄
出版者
Hokkaido Sociological Association
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.1-20, 2012

孫の養育責任を担う祖父母の事例を通し,「家」制度の持続・変容面がどのように表れているかについて,先駆的に考察を試みた。家族の段階的推移として家族縮小期,家族再構築期,家族再縮小期を設定しているが,分析の中核は,祖父母が主に孫の養育にかかわる家族再構築期である。<br> 家族縮小期では,(1)子世代(長男)の結婚年齢が早いと,親世代(祖父母)の方に,夫婦家族規範意識が強くみられていた。<br> 家族再構築期には,(2)明治民法の「家」制度的要素が,親権問題では払拭されている。(3)「直系家族」的であるという「縦」の系譜・「父子継承ライン」は,祖父母の中に現在でも根強く維持されている。その内実を精査すると,祖父(父)―息子―孫息子という継承ラインではなく,祖母(母)―息子,祖母―孫息子というように,祖母が認知する「子の可愛さ」と「継承意識」が二重になり直系家族の「連続性」が強化されていた。(4)「家」制度の持続面と変容面から,孫息子と孫娘の養育責任を担う父方祖母には,父系血統の存続へのこだわりが表出しやすいと捉えることができる。<br> 家族再縮小期では,(5)「1960年代生まれには,結婚時の核家族化,中途同居の傾向がみられ,なおかつ同居にもっとも強く働いているのは,夫の続柄(長男)と持家の相続という伝統的な要因である」ということが確認された。本稿からは,長男の転職による近居が,祖父母の「継承意識」を強めていたと考えられる。
著者
盛山 和夫
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-37, 1992-04-15 (Released:2009-11-16)
参考文献数
30
被引用文献数
4

階級理論は、マルクス主義的であるかそうでないかを問わず、階層理論とともに、危機を迎えているが、この危機を何とか打開しようとする試みも少なくない。そうした中で、その基本的着想がライトによって踏襲されているレーマーの『搾取と階級の一般理論』は、搾取概念の再検討にまでさかのぼって階級理論の再定式化をめざしたという点で、注目すべきものである。本稿は階級理論において搾取概念が占める位置を考察して明確にしたのち、レーマーとライトの新しい搾取概念を検討している。古典的な搾取理論は、「本来帰属すべき価値の不当な奪取」という観念に基礎をおいているのに対して、レーマーらのそれは「仮想的状態と比べた場合の格差」に基礎をおいてをり、限りなくネオ・ウェーバリアンの搾取概念に近くなっている。このため、具体的にいかなる社会集団が搾取―被搾取の関係にあるかを同定する能力に欠ける。それ以外の点も含めて、新しい搾取理論は今日の階級理論の危機を救うものとはいい難い。
著者
シリヌット クーチャルーンパイブーン
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.1-20, 2015

タイにおいて,1970年代に入ると,学生たちは各地の民主化と共に,政治的民主化への熱情を高め,自国の問題に対する意識を持ち始めた。そして,日本のタイに対する帝国主義的な行動も注目されることとなった。本稿では,日本に反抗する気持ちが高揚していた1972年に発生した「野口キック・ボクシング・ジム事件」と「日本製品不買運動」を新聞記事の分析及び運動参加者の語りを通じて,考察を進めてきた。その際,本稿では,運動の発生の背景や運動の発展,成否に関わる要因など,様々な観点から考察を行った。その結果,「野口キック・ボクシング・ジム事件」は「日本製品不買運動」の前哨戦として位置付けることができ,ともに新聞のセンセーショナリズムの影響を一つの背景として,運動参加者を動員して行われたことが分かった。「野口キック・ボクシング・ジム事件」は日本主義的消費文化流入に対する反抗によって発生したと考えられる。一方,「日本製品不買運動」は,日本のタイに対する経済侵略をはじめ,様々な不安及び不満が重要な要因であったが,日本の投資家との相互作用的な関係を持つ軍事独裁政権に対する不満が日本に転移して表現されたと考えられる。そして,運動を展開する際に,ネットワーク,人的資源,知識的資源など,様々な資源が運動の成功に貢献した。これらの資源は,タイにおける民主化運動,学生運動の基盤作り,となったと考えられる。
著者
亀野 淳
出版者
Hokkaido Sociological Association
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.1-15, 2005

本稿は日本的雇用システムの変化が若年雇用や学歴・学校歴に及ぼす影響について考察したものである。<BR>日本的雇用システムの変化は,そのメリットを否定したわけではなく,むしろメリットを維持するための修正とみるべきである。変化の方向性としては,新規学卒者の採用人数の絞込み,遅い選抜方法の見直し,人材育成における対象者の絞込みや自己啓発への期待などがあげられる。新規学卒者の採用人数の絞込みは,単純に若年者の雇用環境の悪化だけではなく学歴や学校歴による格差が大きくなると見込まれる。また遅い選抜方法の見直しは,選考基準として学校歴がより重視される傾向になると見込まれる。さらに人材育成における対象者の絞込みや自己啓発への期待は,ビジネススクールなどの専門職大学院の対する社会的ニーズは高まると予想されるが,大卒者の相対的地位の低下を招き新たな若年者の雇用問題を発生させるおそれもある。<BR>このように日本的雇用システムの変化は,若年者の雇用環境の悪化や学歴・学校歴による格差を拡大させるおそれがある。したがって今後は正規社員と非正規社員の処遇格差の是正や非正規社員に対する人材育成やマネジメントの必要性が高まる。
著者
高島 裕美
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.37-54, 2014 (Released:2016-07-02)
参考文献数
13

制度上のジェンダー平等が実現しているといわれる教職であるが,実はその 職場にはさまざまなジェンダー・バイアスがある。こうした実態が生成・維持 される仕組みは,これまで必ずしも明らかになってきてはいない。 そこで本稿では,教職の職務配置の論理に着目し,ジェンダー・バイアスが 生成・維持される仕組みを,教員集団に焦点化することで明らかにすることを 課題とした。 分析の結果,第一に,ジェンダー・バイアスの実態が,小学校では担任する 学年に,中学校では担当する教科に確認できた。しかし第二に,教員たちは自 身の職場を「ジェンダー・バイアスのない職場」と評価していることが明らか になった。第三に,こうした実態と認識のずれを生じさせるのは,職場のジェ ンダー・バイアスは,家庭責任を持った女性教員に対する「配慮」の結果とし て理解されていたことに由来するということが明らかになった。そして第四に, この「配慮」が女性の担当する職務を男性の担当する職務より劣位に置かれる ことを見えにくくしていることが明らかになった。しかし同時に,昨今の学校 組織改革や教職の多忙化の影響によって,教員同士による「配慮」自体が,す でに困難になりつつあるということも示唆された。
著者
松宮 朝
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.59-76, 2023 (Released:2023-08-01)
参考文献数
40

2020 年春からのコロナ禍では,対面でのインタビュー調査,フィールドワー ク,学生の現地での調査実習など,コミュニティ実践の現場にかかわる調査活 動のほとんどすべてを中止せざるをえなくなった。こうしたなかで,コロナ禍 で激変した環境に対応しつつ,地域コミュニティの実践現場への調査,調査実 習でのかかわりをどのように継続・再開させるかが課題となった。この課題に 対して,本稿ではまず,地域コミュニティでの対面的なつながりが「悪」とさ れる政策がとられ,地域コミュニティ,コミュニティ実践が停滞もしくは中断 を迫られた状況を確認した。このことは,地域コミュニティをめぐる対面での 調査実習,調査研究にも大きな影響を及ぼしたのである。その上で,筆者のコ ミュニティ実践を対象とした量的調査,質的調査にかかわる調査実習を振り返 り,また,コロナ禍で調査をスタートさせた,屋外での支援活動と連携したア クションリサーチ,参与観察の成果と課題について検討した。コロナ禍に対応 したオンライン調査への移行は,調査方法の可能性を拡げた一方で,学生間の 調査スキル,地域コミュニティ参加,関係形成の継承については課題が残った。 以上のコロナ禍での調査実習と調査研究の検討から,①関係の継続と調査方法 の継承の持つ意味,②オンラインではつながることができない対象者へのアプ ローチの重要性という,対面調査の果たす役割が確認されたと考えられる。
著者
山本 堅一
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.41-57, 2023 (Released:2023-08-01)

コロナ禍をきっかけに,世界中でオンライン授業の普及が進んだ。学生を教 室に集めて対面で授業を行うことは,リスクがあったからだ。オンライン授業 をやってみると,意外と良いなと感じている教員,学生がいれば,やはり対面 の方が良いと感じている教員,学生もいる。 オンライン授業を2年経験し,ある程度コロナ禍が落ち着いてきた中で,わ れわれが進むべき道が目の前で二つに分かれている。コロナ禍以前の対面授業 に戻すか,オンライン授業の活用を継続するか,である。前者は平坦な,後者 は険しい道である。 オンライン授業を活用したこの2年間,さまざまな課題が噴出したのは確か である。その一方で,やはり授業は対面でなければいけない,という確たる根 拠も出てきていない。しかしながら,オンラインは止めて対面に戻そうという 動きの方が強いように感じられる。 本稿では,オンライン授業の実践例,北海道大学の学生と教員に取ったオン ライン授業に関するアンケート調査結果を紹介し,オンライン授業の可能性に ついて考察した。解決が難しい課題はあるものの,オンライン授業は部分的に でも継続していくべきである,ということは示されたのではないだろうか。特 に,講義形式の授業においては,オンライン授業を活用することで,学習者中 心の授業へと転換しうるという点は,教育効果と共に検証が期待される論点と なった。
著者
平沢 和司 杉野 勇 歸山 亜紀
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.77-93, 2023 (Released:2023-08-01)
参考文献数
26

日本で行われているウェブ調査のほとんどは,調査会社などのモニターを対 象にしているため,対象者が確率抽出されていないという問題がある。そこで 選挙人名簿(一部は住民基本台帳)から無作為に抽出した者を対象に,まず郵 便で調査を依頼しウェブで回答を求めた。ただし,ウェブ回答ができない(好 まない)対象者もいるので郵送法を併用したミックスモード調査とした。その 結果,(1)回答者に回答モードを選択させる同時型だとウェブ法は郵送法にく らべて選択されにくいが,ウェブ法を先行させる逐次型で,かつ第2モードの 郵送法を適切な時期に提示すれば,ウェブ法の回答比率を上げることができ, 最終的な回収率も郵送法で約10%ポイント付加された。(2)モードによって 回答傾向に多少の差異が検出されたが,回答者の属性を統制しても効果が残っ た質問はかなり限られていた。(3)以上の無作為抽出者と,非確率抽出者(調 査会社のモニター)では,約半数の質問で回答傾向に違いがみられた。データ の質を重視するのであれば,ウェブ法を中心として郵送法を併用するミックス モード調査の拡充が望まれるが,いかにそのコストを下げるかなど更なる議論 が求められる。
著者
濱田 国佑
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.1-17, 2013 (Released:2016-07-02)
参考文献数
17

本論文では,2005年に実施されたSSM 調査データを用い,新自由主義的な 政策支持と社会に対する閉塞感との関連,さらには社会的不平等感との関連に ついて,世代的な差異に着目しながら検討を行った。 世代別に新自由主義的な政策支持を従属変数にして重回帰分析を行ってみた ところ,「規制緩和支持」に対して「再配分志向」が影響を与えていた。また, 「権威主義」および「閉塞感」については20~34歳の世代でのみ効果が認めら れた。「民営化支持」に対しては,「閉塞感」の効果は見られないものの,20~34 歳の世代で「再配分志向」の効果が見られた。以上の分析結果から,小泉政権 による新自由主義的な改革に対する支持の一因として,「再配分」を求める意識 および「閉塞感」が一定の影響力を持っていることが明らかになったと言える。 次に,構造方程式モデリングによって若年層における意識間の関連について 検討を行ったところ,「閉塞感」から「再配分志向」を経由して新自由主義的な 政策支持に影響を与える間接効果の存在が確認された。「閉塞感」と「再配分志 向」がそれぞれ独立に影響を与えているわけではなく,「閉塞感」を感じる人ほ ど「再配分志向」を高め,それが新自由主義的な政策支持に影響を与えている ことが明らかになった。