著者
内藤 美加
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.288-298, 2016 (Released:2018-12-20)
参考文献数
90

本稿では,対人理解の能力とその発達について,これまで心の理論と呼ばれてきた従来の理論を批判的に検討し,その代替となるような理論枠組みを提案する。この枠組みは従来の認知主義に対して,第1に近年活発になっている現象学的視点に基づく相互作用説に依拠しつつ対人理解を説明する。第2にこの理論枠組みでは,現象学的な相互作用説でも十分説明できない社会文化的構成としての発達の過程とその(構成物としての)結果とが区別される。そのために,まず従来の心の理論研究の認知主義的背景と理論的立場を概観する。次いで現象学的視点から見た心の理論説への批判と身体化された相互作用の中での対人認知の発達をたどり,誤信念課題の達成に関する最近の知見と議論も併せて検討する。最後に,相互作用説に基づく社会的認知の多重あるいは二重過程モデルが,現象学だけでなく心理学的な説明としても最も有力で現実的であるものの,このモデルでも対人認知の社会文化的な構成過程には十分言及されていないことを指摘する。さらに,心の理論研究が陥っていた誤謬を明らかにする。
著者
沖潮(原田) 満里子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.125-136, 2016 (Released:2018-06-20)
参考文献数
29
被引用文献数
2

本研究は,障害者のきょうだいである筆者による自己エスノグラフィを通して,障害のある妹との関係や社会との関わりを明らかにした上で,障害者のきょうだいを生きることの内在的な本質を探ることを試みている。また,対話的な自己エスノグラフィという従来の自己エスノグラフィの批判を乗り越え得る方法を適用したことから,自己エスノグラフィにおける対話の可能性についても検討を行なった。筆者が妹の発達を感じるという判断がこれまで生きてきたどのような文脈の中で起きたのかという研究設問に対して,筆者の自己物語をデータとし,さらに分析に関する対話者との対話もまたデータとし,円環的にデータ収集と分析を繰り返した。結果では,筆者の妹の発達の捉え方の変化が時系列に整理された。次いで,妹の発達を期待していなかった自分自身の発見という筆者の物語から,障害者のきょうだいが,存在するだけで価値があるという家族的な価値観と,経済的な活動等ができることに意味がある社会的な価値観の狭間で揺らぐさまが明らかになった。さらに,筆者が望んでいた妹との切り離しに対して疑問を抱くようになった姿がみられた。このことから,青年期の発達課題でもあり社会的言説でもある,人は自立して生きていく,つまり障害者もそのきょうだいも別々に生きていくというストーリーへの追従と,それへの抵抗の間に揺らぐという点が障害者のきょうだいの心理的特徴として明らかになった。
著者
苅田 知則
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.140-149, 2004-08-20 (Released:2017-07-24)
被引用文献数
3

本研究では,幼児が自由遊びの時間に行う「隠れる」行為の動機を,参与観察を通して研究者自身が再体験的に理解し,当該事象における幼児の内的様相を記述的に再構成すること,および再構成によって得られた例示を,公共的に再体験・相互理解可能な仮説として提示することを目的とした。本調査の研究協力者は,幼稚園児(年中児21名,年長児19名)であり,自由遊びの参与観察から,65事例の「隠れる」行為が観察された。それらの事例を,KJ法を用いて仮説生成的に構造化する二つの分析を試みた。分析1では,KJ法を用いて行為の目的と手段に着目した分析を行ったところ,65事例を13の1次カテゴリー,さらにそれらを包括する四つの2次カテゴリーに分類し,最終的に「演劇的行為」と「対人的行為」という二つの3次カテゴリーに集約した。分析2は,幼児が「隠れる」場所と行為の関係性に着目した分析であり,「隠れる」場面では,子ども(主体)と空間(場)および遊びの成員外の第三者(他者)の3要素が織りなす特定の「三者構造」が構成されており,「囲う」「潜る・入る」「隔てる」という3種類がモデルとして浮上した。最終的に,二つのKJ法による分析から得られた結果を,Burke(1952/1982)の劇学的視点を導入して統合し,子どもが「隠れる」2つの動機を提示した。
著者
谷 冬彦
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.35-44, 1998-04-10 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
2

本研究は, Ehksonの漸成発達理論の観点から, 青年期における基本的信頼感と時間的展望の関連について検討した。基本的信頼感尺度, 絶望感尺度, 時間的展望体験尺度の全項目について因子分析を行った結呆, 「絶望一希望」因子, 「基本的信頼・時問的連続性」因子, 「現在・未来の確実性」因子, 「対人的信頼感」因子の4因子が抽出された。「基本的信頼・時間的違続性」因子が抽出されたことによって, 基本的信頼感と過去から現在までの自己の時問的連続性とが密接に関わるという仮説が支持された。また, 対人的信頼感は, 基本的信頼感に比ベ, 時問的展望との関わりが低かった。このことは, 対人的信頼感と基本的信頼感とは概念的に異なるという仮説を支持するものであった。さらに, 「基本的信頼・時間的連続性」は「絶望感」と「未来の確実性」に影響を与えるだろうという仮説を検証するために, 共分散構造分析を行った。その結果, 「基本的信頼・時問的連続性」は「絶望感」に影響を与え, さらに, 「絶望感」は「未来の確実性」と相互に影響を与え合っているという構造があることが明らかになった。これらの結果は, 漸成発達理論を支持するものであるとともに, 青年期におデける基本的信頼感と時間的展望の関連構造を明らかにするものであった。
著者
村上 達也 西村 多久磨 櫻井 茂男
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.399-411, 2014 (Released:2016-12-20)
参考文献数
38
被引用文献数
7

本研究の目的は他者のネガティブな感情とポジティブな感情の双方に着目した“子ども用認知・感情共感性尺度”の信頼性と妥当性を検討すること,共感性の性差および学年差を検討すること,そして,共感性と向社会的行動および攻撃行動の関連を検討することであった。小学4年生から6年生546名,中学生1年生から3年生646名に対して調査を行った。因子分析の結果,子ども用認知・感情共感性尺度は6因子構造であった。それらの因子は,共感性の認知的側面である,“他者感情への敏感性(敏感性)”と“視点取得”の2因子と,共感性の感情的側面である,“他者のポジティブな感情の共有(ポジ共有)”,“他者のポジティブな感情への好感(ポジ好感)”,“他者のネガティブな感情の共有(ネガ共有)”,“他者のネガティブな感情への同情(ネガ同情)”の4因子であった。重回帰分析の結果,小中学生で敏感性とネガ同情が向社会的行動を促進していることが明らかになった。また,小学生高学年ではポジ好感が身体的攻撃と関係性攻撃を抑制することが明らかになった一方で,中学生では視点取得が身体的攻撃と関係性攻撃を抑制することが明らかになった。
著者
浜田 恵 伊藤 大幸 片桐 正敏 上宮 愛 中島 俊思 髙柳 伸哉 村山 恭朗 明翫 光宜 辻井 正次
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.137-147, 2016 (Released:2018-06-20)
参考文献数
37
被引用文献数
3

本研究では,小学生および中学生における性別違和感を測定するための尺度を開発し,性別違和感が示す,内在化問題および外在化問題との関連について検討することを目的として調査を行った。小学校4年生から中学校3年生までの5,204名(男子2,669名,女子2,535名)を対象として質問紙を実施し,独自に作成した性別違和感に関する13項目と,抑うつおよび攻撃性を測定した。因子分析を行った結果,12項目を含む1因子が見出され,十分な内的整合性が得られた。妥当性に関して,保護者評定および教員評定による異性的行動様式と性別違和感との関連では,比較的弱い正の相関が得られたが,男子の本人評定による性別違和感と教員評定の関連には有意差が見られなかった。重回帰分析の結果では,性別違和感と抑うつおよび攻撃性には中程度の正の相関が示された。特に,中学生男子において性別違和感が高い場合には,中学生女子・小学生男子・小学生女子と比較して抑うつが高いことが明らかになった。
著者
外山 紀子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.244-263, 2017 (Released:2019-12-20)
参考文献数
93

ここ10年ほどの間に,幼児の選択的信頼(あるいは選択的な社会的学習)について多くの研究が行われるようになった。選択的信頼とは情報源としての信頼性という点から他者を区別し,特定の他者から学ぼうとする傾向をいう。これらの研究は,伝統的な子ども観,すなわち子どもは他者を信じやすく(あるいは騙されやすく),たとえ自分の考えとは異なるものでも他者の言うことを信じる傾向があるという見方に異議を唱えるものである。本稿では幼児期の選択的信頼に関する研究を,他者の認識論的属性(情報の正確さや確信度,専門性など)と非認識論的属性(年齢,馴染み,話しことばの特徴,身体的魅力や社会的地位など)という点から分けて,整理を行った。これまでの研究は幼児(とりわけ3歳児)の能力をどう評価するかについて,一種の緊張状態の中にあり,幼児が他者の情報を鵜呑みにせず合理的な手がかりに基づいて情報源を選択する能力があることをアピールする研究もあれば,逆に,他者の情報に懐疑的な目を向けることがいかに困難であるかを強調した研究もある。本論文では現在までの研究の概観をふまえた上で,このまだ若い研究分野が実践的,学術的にどのような意義をもつのか,そして今後の課題について論じた。
著者
柴山 真琴
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.120-131, 2007-08-10 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
2

本研究では,保育園児を持つ共働き夫婦が子どもの送迎分担をどのように調整しているのかを質的に分析した。データは,私立J保育園を利用する28家族についての送迎記録表と,2001年3月から8月の間に10家族を対象に実施したインタビューによって得た。分析の結果,送迎分担には,(I)母専任型,(II)父母分担型, (III)父専任型,(IV)祖母依存型(下位タイプ:(a)父母+祖母型,(b)母+祖母型),(V)ベビーシッター利用型,の5タイプがあることがわかった。この送迎分担タイプと夫婦間での調整過程(調整過程で使用される相互作用様式,送迎分担についての妻の考え,調整過程での妻の主導的役割の有無)との間には対応関係があった。父親が送迎を分担しない家族(I,IV(b),V)では,妻の多くが送迎は自分の仕事と考え,夫に働きかけて話し合うこともなく,妻が送迎の方針を決めて送迎を実行していた。特に前二者のタイプでは,「暗黙の了解」「話し合いせず」「話し合い不成立」という夫婦間で調整をしない相互作用様式が使用されていた。一方,父親が送迎を分担する家族(II,III,IV(a))では,妻の多くが送迎は夫婦で分担すべきであると考え,夫が送迎を分担するよう積極的に働きかけ,「話し合い」によって形成したルールに従って夫婦で送迎を分担していた。
著者
荘島 幸子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.83-94, 2010-03-20 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
1

本研究は,身体に対する強烈な違和感から,身体的性別を変更することを望む我が子(身体的性別女性,A)から「私は性同一性障害者であり,将来は外科的手術を行い,身体的に男性になる」とカミングアウトを受けた母親(M)による経験の語り直しに焦点を当てた事例研究である。子からカミングアウトを受けて2年が経過した第1回インタビュー時に,「性別変更を望む我が子を簡単には受け入れることができない」と語っていた母親1名に対し,約1年半の間に3回のインタビューを行った。分析の視点は,【視点1:Aについての語り直しの状況】,【視点2:構成されるMの物語】,【視点3:語りの結び直し】の3つであった。A-Mの関係性は,3回のインタビューを経て良好なものへと変化していた。分析の結果,Mが語り直しのなかで,親であることを問い直しながら自らの経験を再編し,M自身の人生の物語を再構成していく過程が明らかにされた。語りを生成する際には,他者(周囲の他者/聞き手としての他者)が重要であることが見出された。考察では,自責の念や悔いといった語り直しから母親の生涯発達を捉え,従来の段階モデルを越えた議論を行った。また,Mの語り直しを促進させ,親物語の構成を下支えする1つの軸となる役割を担う存在として聞き手を位置づけた。
著者
木下 芳子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.311-323, 2009-09-10 (Released:2017-07-27)

児童および生徒が,多数決を適用してもかまわない状況と多数決の適用は問題である状況について理解しているかどうかを日本とイギリスの児童・生徒および大学生を対象に調べた。両国とも小学校3年,6年および中学校2年の児童・生徒と大学生の年齢群で合計240人が調査に参加した。参加者はあるクラスで種々の問題について討議し,決定をしようとしているという設定で,13の仮説的場面について,多数決で決めてもかまわないかどうか判断し,その理由を述べるように求められた。結果として,両国とも3年生でも概ね多数決を適用してよい場面と適用が問題である場面の区別がついていること,年齢が上になるほど区別は明確になることがあきらかになった。また,多数決の適用の判断に当たっては,国による違いもみられた。イギリスのほうがより課題解決的で,多数決を是認することが多かった。また,日本ではイギリスより感情的反応が多いことなどが示された。判断には,それぞれの国の価値観や社会的決定に対する態度が反映されていることが示唆された。これらの結果は,これまでの比較文化的研究の結果に照らして討論された。
著者
菊地 紫乃
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.162-171, 2014 (Released:2016-06-20)
参考文献数
23
被引用文献数
1

本研究では,幼児が2つの物語を比較することで,その構造を抽出し,物語と類似した方法で問題解決をできるのか検討した。5歳前半児と5歳後半児を対象に問題解決の物語を提示し,その後,道具を使って解決する課題を解かせた。物語と課題は解決方法において類似しており,類推によって解くことができた。2つ物語を与える場合,教示によって物語の比較を促す群とそうでない群を設けた。実験の結果,5歳後半児は物語の比較を促されなくても,自発的に類推によって解決ができると示された。一方,5歳前半児は,自発的に類推によって解決することが難しく,大人によって物語の比較を促されることで類推による解決ができるようになると示された。年齢に伴って,物語と課題に共通する構造に気がつくようになることも明らかにされた。幼児においても類推による問題解決を行うことができ,5歳後半以降に自発的に構造に基づいて類推による解決ができるようになると言える。さらに,物語と課題の間の構造の類似性に気づくほど類推による解決が可能であった。構造の抽出ができるほど構造に基づく問題解決もできるという関連が示唆された。
著者
三好 昭子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.286-297, 2011-09-20 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
1

本研究では,Eriksonの漸成発達理論における第IV段階の活力(virtue)である有能感(competence)について両極端な2つの事例から,有能感の生成要因を明らかにし,有能感がアイデンティティに基づいた生産性にどのように影響するのかを示した。明治時代の東京で,学童期から抜群の学業成績を収め,若くして小説家としての地位を確立した作家谷崎潤一郎と芥川龍之介の有能感の様相が対照的だったことを示し,同じような経歴を重ねながら,どうして有能感の様相が対照的であったのかという観点から比較分析を行った。谷崎の場合は無条件に愛され,寛大にしつけられた結果,第IV段階以前の活力を基盤とした確固たる有能感が生成された。それに対して芥川の場合は,(1)相互調整的でない養育環境と(2)支配的なしつけを受け,初期の活力の生成が阻害され,早熟な良心が形成された。その結果,芥川は(3)主導性を発揮することができず,目的性が過度に制限され,有能感の生成が妨げられたことを明らかにした。そして谷崎は作家としてのアイデンティティに基づいた生産性を発揮し続けたが,作家としてのアイデンティティを主体的に選択しえなかった芥川は,義務感によって生産に従事し続けたことを示した。さらに初期の発達段階における活力の生成を阻害されると,どんな才能・能力に恵まれても自分の才能・能力が何に適しているのかを見出すことができなくなる可能性を指摘した。
著者
秋田 喜代美
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.90-99, 1992-12-25 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
2

本研究は, 子の読書への参加と熟達化に家庭が果たす役割という観点から, 読書に関する家庭環境を, (1) 家に本を置くという物理的環境準備者としての役割, (2) 親自身が読書を行い, 読書熟達者のモデルを子に示す役割, (3) 子に本を読むよう勧めたり, 本を買い与えたり, 本屋や図書館へ連れていくなど直接的な動機付けを行う役割, (4) 親が子どもに本を読んでやることによって直接読み方を教授したり, 子どもが本を理解できるよう援助したりする役割の4種類に整理し, 各役割が子の読書に与える影響を検討したものである。小3, 小5, 中2, 計506名を対象に質間紙調査を行った結果, 次の4点が明らかとなった。第1に, 親が読書好きであることが, 子に対する様々な行動の量に影響を与えること, 第2に親が読み聞かせをしたり図書館や本屋に連れて行くなど, 読書に関して子どもと直接関わることの方が蔵書量や親自身の行動よりも子の感情に与える影響が大きいこと, 第3に親の役割内容には子の感情と関連のある役割と読書量と関連のある役割があること, 第4に役割には子の学年と共に影響が弱くなる役割と学年によらず影響を与える役割があることである。
著者
石島 このみ 根ヶ山 光一
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.326-336, 2013 (Released:2015-09-21)
参考文献数
40
被引用文献数
4

本研究では,乳児と母親のくすぐり遊びにおいて,いかに相互作用がなされているのかを明らかにし,そこにおいて意図理解がなされている可能性とその発達について検討した。観察開始時生後5ヶ月の母子1組を対象とし,3ヶ月間,家庭での自然観察を縦断的に行った。その結果,生後6ヶ月半の時点で,くすぐり刺激源(母親の手)と母親の顔との間で交互注視が起こり,その生起頻度は発達的に増加していた。さらに生後6ヶ月半頃のくすぐり遊びの行動連鎖について検討したところ,くすぐったがり反応が生じた事例では,身体に触れずにくすぐり行動を顔の前に提示する「くすぐりの焦らし」がなされた後に乳児がくすぐり刺激源を見る,くすぐり刺激源と母親の顔に視線を配分させる,「くすぐりの焦らし」において予期的にくすぐったがる,といったパターンが生起していた。このことから,生後6ヶ月半の時点で,乳児は母親とくすぐりの文脈を共有し,母親の意図を読みとりながら能動的に相互作用を楽しんでいることが示唆された。くすぐりの場は,身体部位を対象化することで成り立つ「原三項関係 proto-triadic relationship」(Negayama, 2011)の一例であると言える。そのような母子の身体を媒介項とした自然な相互作用における萌芽的な意図の読みとりが,三項関係における意図理解の成立への橋渡し的役割を担っている可能性が指摘された。
著者
江上 園子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.122-134, 2005-08-10 (Released:2017-07-24)
被引用文献数
5

母親の「母性愛」を信奉する傾向がポジティヴな結果をもたらすだけではなく, 子どもの発達水準の認知という要因との交絡によっては養育場面でネガティヴに転化するという可能性を実証した。研究Iでは, この「『母性愛』信奉傾向」を「社会文化的通念である伝統的性役割観に基づいた母親役割を信じそれに従って養育を実践する傾向」と定義し, 「『母性愛』信奉傾向尺度」を作成し, 信頼性・妥当性についての検討を行った。研究IIでは, この尺度を用いて, 「母性愛」信奉傾向が高く子どもの発達水準を低いものであると認知している母親の場合は, 怒りの感情制御が困難になるという仮説の検証を行った。その結果, 「母性愛」信奉傾向と子どもの発達水準との交互作用が怒りの感情制御に影響することを一部で明らかにした。つまり, 子どもの発達水準が高い場合は「母性愛」信奉傾向の高さはポジティヴに作用するが, 発達水準が低い場合はポジティヴに作用せず, むしろネガティヴな影響を与えうることが示唆された。したがって本研究は, ポジティヴ/ネガティヴの二分法的に議論されがちな「母性愛」を両方の可能性を秘めたものとして解釈し, 「母性愛」を「両刃の剣」であると結論した。
著者
熊谷 晋一郎
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.322-334, 2016 (Released:2018-12-20)
参考文献数
66
被引用文献数
1

自閉スペクトラム症の疫学研究や歴史社会学的研究をふまえると,診断基準の中にある社会的コミュニケーション・相互作用という概念が,本来,地域性や時代性に応じて揺れ動くinter-personalな現象を,永続的でintra-personalな現象に誤認させ得ることが示唆される。社会関係以前に存在する個体側の永続的な身体特徴は,自閉スペクトラム症といっても個々人で多様である可能性が高いため,ケースごとに個体の不変項を抽出する必要がある。そうした目的の下,我々は自閉スペクトラム症の診断を持つ綾屋と8年にわたる当事者研究を行ってきた。その結果,1)内臓感覚に由来する長期的目的の下で,行動を制御したり,記憶の取捨選択やsystem consolidationを遂行することの困難や,2)外受容感覚と統合されずに強度を増した内臓感覚によって,自他感情の認知や内発的意図を構築することの困難,感覚過敏や鈍麻,予測誤差への敏感さなどが生じている可能性が示唆された。当事者研究は,多様なimpairmentを記述するディメンジョンの候補を提起するという学術的な意義だけでなく,自分の通状況的な不変項を自ら把握することで本人のウェル・ビーイングに貢献する可能性がある。
著者
小野寺 敦子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.15-25, 2005-04-20 (Released:2017-07-24)
被引用文献数
7

68組の夫婦に縦断研究(子どもの誕生前, 親になって2年後, 3年後)をおこない親になることによって夫婦関係がどのように変化していくかについて検討した。夫婦関係は「親密性」「頑固」「我慢」「冷静」の4因子からなる尺度によって明らかにした。その結果, 親密性は親になって2年後に男女ともに顕著に低くなるが, 2年後と3年後の間には大きな変化はなかった。このことから, 夫婦間の親密な感情は親になって2年の間に下がるが, 3年を経過するとその下がったレベルのまま安定し推移していくことが明らかになった。しかし妻の「頑固」得点は母親になると著しく高くなっており, 妻は母親になると夫に頑固になる傾向が認められた。さらに夫の「我慢」得点は3期にわたって常に妻よりも高かった。これは夫が妻の顔色をうかがって妻に不快なことがあっても我慢してしまう傾向があることを示している。最後に「親密性」が低下するのに関連する要因について重回帰分析を用いて検討した。その結果, 夫の場合は妻自身のイライラ度合いが強いことと夫の労働時間が長いことが親密さを低下させていた。一方の妻の場合は夫の育児参加が少ないことや子どもが育てにくいことが夫への親密性を低める要因としてかかわっていた。
著者
北川 恵
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.439-448, 2013 (Released:2015-12-20)
参考文献数
34

本稿では,アタッチメント理論に基づく親子関係支援の基礎と臨床の橋渡しについて,欧米の先行研究を概観したうえで,日本での今後の課題を考察した。親の内的作業モデル,敏感性,内省機能といった特徴が子どものアタッチメントの質に影響するという基礎研究知見に基づいて,それらを改善することを目的とした介入プログラムが開発された。介入効果が実証されているものとして,敏感性のみに焦点づけた短期間の介入(VIPP),内省機能に焦点づけた長期間で密度の高い介入(MTB),敏感性と内的作業モデルに焦点づけた比較的短期間の介入(COS)について概観した。介入とその効果についての報告が蓄積されたことから,有効な介入の特徴(焦点,頻度,期間)や,介入の要素(安心の基地,心理教育,ビデオ振り返り)についての議論が起こり,また,臨床群の評価に適切な測定方法開発の必要性が高まった。日本での今後の課題として,欧米の知見を日本に応用する際に,アタッチメントの普遍性と文化についての検討が必要であること,支援の場に安心の基地を実現する臨床的工夫を行いながら,アタッチメントの変化に関わる要因について実践に基づく仮説を生成することが必要であると論じた。
著者
大伴 潔 宮田 Susanne 白井 恭弘
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.197-209, 2015 (Released:2017-09-20)
参考文献数
39
被引用文献数
1

日本語を母語とする子どもにおいて動詞の多様な形が生産的に使われるようになる過程や順序性の有無については,ほとんど明らかになっていない。本研究は,子どもの発話を縦断的に分析することにより,動詞語尾レパートリーの獲得の順序性の有無を明らかにするとともに,母親が使用する動詞の表現形との関連性について検討することを目的とした。研究1では,4名の男児の自発話の縦断的データに基づき,1歳から3歳までの期間の動詞語尾レパートリーを分析したところ,動詞語尾形態素の獲得に順序性が存在することが認められた。順序性を規定する要因として,養育者からの言語的入力,形態素が表す意味的複雑さ,形態素の形態論的・統語論的な複雑さが考えられた。研究2では,3組の母子を対象に母親の動詞語尾形態素を分析し,子どもの形態素獲得の順序性と母親からの言語的入力との関連について検討した。その結果,子どもの形態素獲得順序が母親の形態素使用頻度およびタイプ数と相関するだけでなく,母親同士の間でも形態素使用頻度・タイプ数について有意な相関が認められた。この知見は,母親の発話が文脈に沿った形態素使用のモデル提示となっていることを示すとともに,自由遊び場面での話者の観点や発話の語用論的機能に関する一定の傾向があり,意味内容と発話機能に関するこのような傾向が子どもの形態素獲得の過程に反映する可能性が示唆された。
著者
岡田 努
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.162-170, 1993-11-10 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
3

従来青年期の特質として記述されてきたものとは異なり, 現代青年は, 内省の乏しさ, 友人関係の深まりの回避といった特徴を示していると考えられる。こうした特徴は, 新しい対人恐怖症の型として注日される「ふれ合い恐怖」の特徴とも共通すると考えられる。本研究は, 「ふれ合い恐怖」の一般健常青年における現れ方 (ふれ合い恐怖的心性) を, 内省, 友人関係の持ち方, 自己評価間の関連から考察した。内省尺度・友人関係の深さに関する尺度を変量としたケースのクラスタ分析の結果, 3つの大きなクラスタが得られた。第lクラスタは内省に乏しく友人との関係を拒否する傾向が高く, 「ふれ合い恐怖的心性」を持つ群と考えられる。第2クラスタは内省, 対人恐怖傾向が高く自己評価が低い, 従来の青年期について記述されてきたものと合致する群であると考えられる。第3クラスタは自分自身について深く考えず友人関係に対しても躁的な態度を示し, 第1クラスタとは別に, 現代青年の特徴を示す群と考えられる。この群は自己評価が高く, 対人恐怖傾向については, 対人関係尺度の「他者との関係における白己意識」下位尺度得点以外は低かった。これらのことから, 現代の青年の特徴として, 自分自身への関心からも対人関係からも退却してしまう「ふれ合い恐怖的心性」を示す青年と, 表面的な楽しさを求めながらも他者からの視線に気を遣っている群が現れている一方, 従来の青年像と合致する青年も一定の割合存在することが見いだされた。