著者
登張 真稲
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.412-421, 2014 (Released:2016-12-20)
参考文献数
70
被引用文献数
2

最近,共感の神経基盤を明らかにするための神経イメージング研究が盛んに行われている。本研究ではそのうちのいくつかを紹介し,それらの研究から共感に関連してどのようなことが分かったのかを,従来の共感の概念や理論と対照させながら検討した。最近の研究によると,身体的痛みや社会的痛み等への共感は,自分自身の痛み等の処理に関与する領域(島前部と帯状皮質前部等)と,アクション理解に関与する領域(下前頭回弁蓋部等),メンタライジング(心的状態の推測)に関与する領域(前頭前野背内側部,側頭–頭頂接合部,楔前部等)を活性化させた。また,それらの脳部位は共感の重要要素である他者との感情共有と他者の感情理解において重要な役割を果たすことが示唆された。さらに,共感は自動的に起こるとは限らず,状況要因や観察者の特徴によっては調整される場合もあることが明らかになった。向社会的行動の神経基盤を検討する神経科学的研究も見られるようになっており,この分野における新興のテーマの一つとなっている。
著者
塚越 奈美
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.25-34, 2007-04-20

4歳児・5歳児・6歳児(各42名)計126名が本研究に参加した。願いごとをすると空の箱に対象物が出現する現象を見た後,部屋に1人きりになった場面での子どもの行動が観察された。現象の再現可能性を子どもが検証しようとしているかどうかに着目し,主に,仕方を変化させながら複数回願いごと行動をするかと,箱の仕組みやトリックを調べる行動を示すかどうかを中心に分析した。その結果,そのような行動のうち片方あるいは両方を示した子どもの人数の割合は,4歳児26%,5歳児64%,6歳児71%であった。特に,5歳児・6歳児では,仕方を変化させながら複数回願いごと行動のみを示した人数と,この行動と箱の仕組みやトリックを調べる行動の両方を示した人数が多かった。これらの行動の年齢差は,目の前で示された不思議な現象を単純に信じるのではなく,それがなぜ起きるのかを自分で確かめようとする姿勢の違いを反映した結果ではないかと議論された。
著者
数井 みゆき 無藤 隆 園田 菜摘
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.31-40, 1996-08-01 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
9

本研究の目的は, 子どもの発達を家族システム的に検討することである。家族システムの3変数として, 子どもの愛着, 母親の認知する夫婦関係, 母親の育児ストレスをとりあげている。対象者は, 48組の母子で, 子どもの平均年齢は3.4歳であった。子の愛着の安定性には, 夫婦関係の調和性と親役割からのストレスとが関連していた。特にこの2つの変数の交互作用の要因が有意で, 親役割からのストレスが高くかつ夫婦関係が調和的でないときに, その子の愛着がもっとも不安定に予測された。また, 社会的サポートは親役割ストレスを低くする方向で関連していた。さらに, 家族関係の機能度という視点より, 柔軟性が適度に保たれている家族は, 家族システム的にも良好であった。母親の心理的状態や子どもへの行動・態度は, 夫との関係のありようと密接に関連しているという結果であり, 子どもの心理的状態を研究する上で母親ばかりではなく父親(夫)との相互作用・関係を考慮にいれなければならないことを示唆した。
著者
枡田 恵
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.151-161, 2014 (Released:2016-06-20)
参考文献数
20
被引用文献数
2

これまで幼児の感情発達に関する研究は,感情語や表情図を用いて感情や表情の理解を測る課題が中心であり,表現の側面に焦点を当てたものは見られない。そこで本研究は,幼児期における感情発達について理解と表現の両側面から検討した。言語の発達途上にある幼児を対象とするために,言語的課題と非言語的課題の両方を使用し,これらの課題の関連を調べた。4歳から6歳の幼児44名を対象に,喜び・悲しみ・怒り・恐れ・驚きを引き起こすような物語を読み聞かせた後に,主人公の気持ちに感情をラベリングさせる課題を行い,感情の理解を言語的に調べた。その後で,主人公の表情を描く描画課題,ならびに主人公の表情を自ら表現する表情表現課題という二つの非言語課題を行った。その結果,ラベリング課題と描画課題,表情表現課題のどちらの間にも有意な相関は見られず,理解課題と表現課題は,異なる認知過程を要すると考えられた。また年中児においては,描画課題と表情表現課題の間に有意な相関が見られたことから,幼児期においては,描画で示された表情表現は言語的な理解能力ではなく,実際の表情表現能力と関連している可能性が示唆された。
著者
江上 園子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.154-164, 2017 (Released:2019-09-20)
参考文献数
50

本研究は,キャリア女性の出産前後にわたる「母性愛」信奉傾向の変化を量的・質的に分析・検討したものである。具体的には,研究Iでは先行研究の1,260名のデータを用いて「母性愛」信奉傾向が「女性による子育ての正当化」と「母親の愛情の神聖視」の二次元に分類される可能性を確認的因子分析にて検証し,研究IIでは初産女性10名と経産女性10名を対象にしてそれぞれの因子得点の出産前後での変化の有無と女性たちが語る内容の変容をテーマティック・アナリシスにより探ることとした。結果として,初産の女性においては産後に「母親の愛情の神聖視」得点が上昇するが,経産の女性に関しては産前産後の得点変化が見られなかった。同様に,初産の女性では産後に「母親の愛情の神聖視」にかかわる肯定的な内容が多く語られたが,経産の女性ではそのような変化も見られなかった。また,初産女性の産前産後の変容の背景には①「母性愛」信奉傾向に対する印象の変化や②母親としての自分の評価や③自分のキャリアの再定義という大きな3つのテーマが関連していることが示唆された。
著者
永瀬 開 田中 真理
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.123-134, 2015 (Released:2017-06-20)
参考文献数
28

本研究の目的は,自閉症スペクトラム障害(以下ASD)者におけるユーモア体験について,構造的不適合を説明する手がかり(手がかり情報)がユーモア体験にかかわる認知処理に与える影響及び,ユーモア体験の強さに与える影響について検討を行うことであった。ASD者12名,典型発達者20名を対象に手がかり情報のある条件(手がかり有り条件),手がかり情報のない条件(手がかり無し条件)のユーモア刺激を用いて,ユーモア体験の強さに影響を与える「分かりやすさの認知」と「刺激の精緻化」の2つの認知的な処理の特性と「ユーモア体験の強さ」について比較検討を行った。その結果,主に以下の2点が認められた。1)典型発達者は手がかり有り条件において刺激を分かりやすく認知し,刺激の精緻化を多く行い,強いユーモア体験をする一方で,ASD者は手がかり情報についての条件間で差が見られなかった。2)典型発達者において,分かりやすさの認知と刺激の精緻化がユーモア体験の強さに影響を与える一方で,ASD者において刺激の精緻化のみがユーモア体験の強さに影響を与えていた。以上の結果から,典型発達者とASD者とでユーモア体験の強さに影響を与える認知的な処理の内実が異なることが示された。
著者
北田 沙也加
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.212-220, 2016

<p>年少児(4歳児)・年長児(6歳児)に物の永続性課題(あり得る現象とあり得ない現象)を見せ,不思議に思ったかの評定と驚きの表情を基に,各現象を不思議に思うかどうかを調べた。その際,あり得ない現象の前に「魔法の国」の話をする魔法群を設定し,統制群と比較した。あり得る現象に対する評定や表情変化に有意な年齢差は見られなかったが,あり得ない現象に対しては評定に有意な年齢差が見られ,年少児より年長児の方があり得ない現象を見てより不思議だと思っていた。魔法群と統制群に有意な差は見られず,物理概念に及ぼす魔法の影響は見られなかった。また,物理概念と空想/現実を区別する能力との相関を調べたところ,空想的な絵の判断とあり得ない現象の評定に関連が見られたが,年齢を統制すると関連は見られなかった。つまり,現実世界と空想の世界の認識がまだ曖昧である年少児は,魔法の概念にかかわらずあり得ない現象もあり得ると思う傾向が強いが,年長児になると魔法の概念にかかわらず,あり得ない現象を現実世界のこととして認識し,不思議に思うようになることが示唆された。</p>
著者
藤田 英典
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.439-449, 2012-12-20
被引用文献数
2

1990年代半ば以降,貧困・経済的格差が新たな社会問題として浮上し,子どもの生活・福祉・教育機会や発達にも深刻な影響を及ぼすようになった。本稿では.その現代的な貧困・格差の実態・特徴と子どもへの影響について,学力形成・教育達成と児童虐待を中心に,以下の構成で検討・考察している。(1)現代の貧困・格差や文化・社会のありようを踏まえ,その環境諸要因が子どもの発達の諸側面に及ぼす影響について仮説的な概念図を提示し,貧困が及ぼす影響の重大性を指摘する。(2)貧困・経済的格差の実態と子どもの教育達成・学力形成に及ぼす影響について種々の統計データに基づき検討し,貧困・格差の構造的複合性を指摘し,教育格差・学力格差の生成メカニズムについて経済的要因と文化的要因・社会心理的要因・学校要因が重なり合って格差が生成されていることを論じる。(3)児童虐待の実態とリスク要因について検討し,貧困が,単親家庭や孤立・育児疲れ等と相まって,その主要なリスク要因になっていることを確認する。(4)貧困・格差の再生産の傾向が強まっていることを確認し,今後の政策的・社会的課題について若干の私見を略述する。
著者
刑部 育子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-11, 1998
被引用文献数
4

本研究の目的は, 保育園における4歳児の「ちょっと気になる子ども」の長期にわたる集団への参加過程を関係論的に分析したものである。関係論的視点, その中でもとくにLave, &Wenger(1991/1993)による「正統的周辺参加」論では, アイデンティティの形成過程を共同体への十全的参加者となることとする。Lave, & Wengerは, アイデンティティの変化を長期にわたる他者との生きた関係の中で提え, また実践の共同体の徐々なる参加を通した位置として提える。本研究では, 1993年4月から1993年12月までピデオ観察を週一回の割合で行い, 保育者との関わり, 他の子どもとの関わりを通した対象児のアイデンティティの変化を分析し, 記述した。その結果, 「ちょっと気になる子ども」が気にならなくなっていく過程で起きていたことは, その子ども個人の知的能力やスキルの獲得といった変化というよりも, 共同体全体の変容によることが明らかになった。
著者
杉本 英晴 速水 敏彦
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.224-232, 2012-06-20

青年期は職業につく準備期間とされ,とくに青年期後期に行われる進路選択は非常に重要である。しかし最近,大学生における進路選択の困難さが指摘されている。本研究では,仮想的有能感の類型論的アプローチから就職イメージについて検討することで,他者軽視に基づく仮想的有能感と進路選択の困難さに影響を及ぼす就職に対するネガティブなイメージとの関連性について検討することを目的とした。本研究の目的を検証すべく,大学生339名を対象に,自尊感情尺度,他者軽視尺度,就職イメージ尺度,時間的展望体験尺度から構成された質問紙調査を実施した。その結果,他者軽視傾向が高く自尊感情が低い「仮想型」は,他者軽視傾向が低く自尊感情が高い「自尊型」と比較して,就職に対して希望をもてず,拘束的なイメージを抱いていることが明らかとなった。また,「仮想型」の時間的展望は,過去・現在・未来に対して肯定的に展望していないことが確認された。本研究の結果から,肯定的な展望ができない「仮想型」は,他者軽視を就職にまで般化していると考えられ,「仮想型」にとって就職することをネガティブにとらえることは,自己評価を最低限維持する自己防衛的な役割を果たしている可能性が示唆された。
著者
水野 里恵
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.56-65, 1998-04-10 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
3

254名の第一子の乳幼児期の縦断研究の結果, 乳児期の子どもの気質的扱いにくさと母親が子どもに対して感じる分離不安が, その子どもが幼児期に達した時の母親の育児ストレスと関連があることが明らかになった。幼児期に気質診断類型でdi拓cuhになる子どもは, easyになる子どもに比較して, 乳児期に新しい情況に消極的で順応性が低い子どもであった。そして, dimcuhの子どもを持つ母親は, easyの子どもを持つ母親に比較して, 育児ストレスを強く感じていた。乳児期と幼児期の気質次元に対する正準相関分析および乳幼児期の正準変数得点と母親の育児ストレスとの相関分析の結果から, 乳児期に世話がしにくく順応性が悪い子どもは, 幼児期に活動性が高く順応性が悪く持続性がない子どもになる傾向があり, それらの子どもの母親の育児ストレスは高いことが明らかになった。乳児期に子どもに対する分離不安が高い母親は, 分離不安が低い母親に比較して, 伝統的母親役割観を強く持ち, 子どもを預けての外出を控える傾向にあり, 幼児期に青児ストレスが強かった。
著者
前川 圭一郎 荻野 昌秀 田中 善大
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.105-118, 2023 (Released:2023-10-13)
参考文献数
17

本研究では,中学校において学校規模ポジティブ行動支援(SWPBS)の第1層支援に加えて,データに基づく学年規模ポジティブ行動支援(GWPBS)を1年生に対して実施し,その効果を検討した。GWPBSを効果的に実施するために,米国の管理職への規律指導に関する照会(Office Discipline Referral: ODR)を基にした生徒指導記録の件数のデータを用いて支援に関する意思決定を行った。GWPBSとしてキャンペーン形式の第1層支援に加えて第2層支援を実施した。GWPBSの効果を検討するために,生徒指導記録件数の測定に加えて,生徒の適応・不適応に関する質問紙尺度を実施した。GWPBSを実施した結果,対象学年(1年生)の生徒指導記録件数が減少し,特にSWPBSのみでは十分な減少が見られなかった標的行動に十分な減少が見られた。質問紙尺度については,GWPBSの対象学年において,他の学年では見られなかった不適応の指標の改善が確認された。結果から,本研究で実施したデータに基づくGWPBSが,対象学年の生徒の不適切な行動の減少と,それに伴う主観的な不適応の改善に効果があったことが示された。【インパクト】本研究は,米国の学校規模ポジティブ行動支援(SWPBS)で標準的に実施されているデータに基づく意思決定を含む形での学年規模ポジティブ行動支援(GWPBS)の実践を日本の学校において実施し,その効果を検証したものである。日本の学校におけるデータに基づくGWPBSに関する実践研究は,これまでに例のないものであり,本研究の結果は,今後日本におけるSWPBSの普及,発展にとって重要なものである。
著者
藤野 博
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.429-438, 2013 (Released:2015-12-20)
参考文献数
57
被引用文献数
1

心の理論(ToM)の発達に関する基礎研究は発達障害の臨床研究と実践に影響を与え,また臨床事例を対象とした研究はToMの発達基盤の解明に向けられた基礎研究の進展に貢献してきた。本論文では最初に,メタ表象操作に関わるToMの概念が自閉症スペクトラム障害(ASD)の社会性やコミュニケーションの問題を認知的な視点から説明できる可能性への期待が発達障害の臨床研究に与えた影響について展望するとともに,この概念が適用できる範囲について問題提起した。次いで,ToMのアセスメント・ツールとして藤野(2002,2005b)が開発した「アニメーション版心の理論課題」の妥当性について示し,これを適用して収集したデータに基づいて,学齢期のASD児におけるToMの発達過程,ToMの獲得と言語力の関係,ToMの問題に対する発達支援における2つのアプローチの有効性と限界,ToMの獲得と精神的健康の問題について論じた。そして最後に,ASD者の側から見たToM研究の問題点について批判的に検討した。
著者
西尾 千尋 工藤 和俊 佐々木 正人
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.73-83, 2018 (Released:2020-06-20)
参考文献数
30
被引用文献数
3

乳児が一歩目を踏み出すプロセスを明らかにするために,乳児3名について家庭で観察を行った。独立歩行開始から1ヶ月以内の自発的な歩行を対象に,歩き出す前の姿勢,手による姿勢制御の有無,一歩目のステップの種類,物の運搬の有無の4つの変数を用いて歩き出すプロセスを分析した。まず乳児ごとに歩き出すプロセスを分析したところ,立位から正面に足を踏み出すだけではなく,ツイストして一歩目から方向転換をする,物を拾い立ち上がりながら一歩目を踏み出すなど多様なプロセスが現れた。最も頻繁に用いたステップの種類はそれぞれ異なり,各乳児に特徴があった。さらに,それぞれの部屋において,乳児が歩き出した場所と歩き出しのプロセスの関係について検討したところ,歩き出す前に進行方向と同じ方向を向いているのかどうか,その際に姿勢を保持するのに利用出来る家具があるのかどうかにより足を踏み出す方法が制約されていることが示唆された。歩行という運動の発達を,個体とそれを取り巻く部屋という環境から成る一つのシステムに現れるタスクとして捉えられることについて考察した。
著者
西田 裕紀子 丹下 智香子 富田 真紀子 安藤 富士子 下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.76-86, 2014 (Released:2016-03-20)
参考文献数
43
被引用文献数
6

本研究では,地域在住高齢者の知能と抑うつの経時的な相互関係について,交差遅延効果モデルを用いて検討することを目的とした。分析対象者は「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の第1次調査に参加した,65~79歳の地域在住高齢者725名(平均年齢71.19歳;男性390名,女性335名)であった。第1次調査及び,その後,約2年間隔で4年間にわたって行われた,第2次調査,第3次調査において,知能をウェクスラー成人知能検査改訂版の簡易実施法(WAIS-R-SF),抑うつをCenter for Epidemiologic Studies Depression(CES-D)尺度を用いて評価した。知能と抑うつの双方向の因果関係を同時に組み込んだ交差遅延効果モデルを用いた共分散構造分析の結果,知能は2年後の抑うつに負の有意な影響を及ぼすことが示された。一方,抑うつから2年後の知能への影響は認められなかった。以上の結果から,地域在住高齢者における知能の水準は,約2年後の抑うつ状態に影響する可能性が示された。
著者
小原 倫子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.92-102, 2005-04-20 (Released:2017-07-24)
被引用文献数
2

本研究の目的は, 母親の情動共感性と情緒応答性が, 育児困難感にどのように関連するのかについて検討することである。0歳児を持つ母親78名と1歳児を持つ母親40名を対象に, 育児困難感と情動共感性について質問紙調査を行った。また, 情緒応答性の把握について, 日本版IFEEL Picturesを実施した。日本版IFEEL Picturesとは, 30枚の乳児の表情写真を母親に呈示し, その写真を通して, 母親が乳児の感情をどう読み取るかという反応特徴から, 母親の情緒応答性を把握するツールである。その結果, 母親の情動共感性及び情緒応答性と, 育児困難感との関連は, 子どもの年齢により異なることが示された。0歳児を持つ母親の育児困難感には, 母親の情動共感性が関連しており, 1歳児を持つ母親の育児困難感には, 母親の情緒応答性が関連していることが示された。母親の育児困難感は, 母親としての経験を重ねるにつれて, 母親要因である情動共感性よりも, 母子相互作用から生じる情緒応答性が関連要因となる可能性が考えられた。
著者
齋藤 有 内田 伸子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.150-159, 2013-06-20 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
3

本研究では,子ども中心で子どもとの体験を享受する「共有型」養育態度と,子どもにトップダウンに関わり,罰を与えることも厭わない「強制型」養育態度の,絵本の読み聞かせ場面(絵本場面)における母子相互作用の比較検討を行った。対象は3-6歳児とその母親29組で,母子にとって新奇な絵本場面を録画観察した。結果,養育態度による絵本場面の相互作用の違いは,母親のことばかけの認知的な水準ではなく,絵本場面を取り巻く情緒的雰囲気に現れた。また,子どもの年齢にかかわらず「共有型」養育態度の母親は子どもに共感的で,子ども自身に考える余地を与えるような関わりが多い一方で,「強制型」養育態度の母親は,指示的で,子ども自身に考える余地を与えないトップダウンの説明の多い傾向があった。さらに,それぞれの関わりのもとで子どもの絵本に対する関わり方にも違いがあり,「共有型」養育態度のもとで,子どもはより主体的に絵本に関わっていることが明らかになった。