著者
鈴木 昌 堀 進悟 小林 健二
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.6, pp.209-215, 2004-06-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
8

目的:病院内で心停止に早期除細動を実践するには,看護師による電気的除細動(DC)が不可欠であるが,多くの看護師はDC施行を躊躇してきた。本邦に看護師によるDCを普及させるには,看護師がDC施行を躊躇する原因を明らかにする必要がある。本研究の目的は,看護師によるDC施行に対する看護師の態度に関与する要因を明らかにすることである。方法:平成15年10月に,救命救急センターを併設する市中総合病院(644床,看護師555人)で行われた救急蘇生法に関する院内講演会に先立ち,出席した看護師242人を対象に無記名アンケート調査を行った。有効回答が164人から得られた(回収率67.8%)。アンケートでは,評点尺度法を用いた9問を用意し,看護師によるDCに関して,教育,経験,法解釈および態度について尋ねた。病院内でVFへの遭遇時に,医師の指示なしでDCを施行するか否かについての態度に関与した要因をcategorical regression analysisを用いて抽出した。結果:VF遭遇時に,医師の指示なしでDCを施行すると回答した看護師は21人(12.8%)であった。この回答に関与した要因は,看護師による緊急時のDC施行は許されているか否かについての法解釈,DCの施行経験,DC施行現場への遭遇経験,および卒前教育の有無であった(r=0.476, p=0.02,重要度:0.444, 0.202, 0.126, 0.111)。結語:医師の指示なしでDCを施行するか否かに関する看護師の態度に最も関与した要因は,看護師のDC施行に対する法解釈であった。本邦において,看護師によるDC施行を普及させるには,看護師によるDC施行の法的根拠を明確に示す必要がある。
著者
稲桝 丈司 折居 麻綾 中村 芳樹 黒島 義明 鈴木 亮 菊野 隆明 市来嵜 潔
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.5, pp.263-266, 2003-05-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
10

A 52-year-old man was admitted after sustaining a gunshot wound to the head. The patient had been ambulant at the time of impact but collapsed suddenly and was comatose upon admission. Brain computed tomography (CT) scans revealed an acute subdural hematoma with marked midline shift; an emergency evacuation of the hematoma and craniectomy were performed. He recovered neurologically and underwent cranioplasty using autologous bone two weeks after the initial surgery, but he developed a wound infection and subdural empyema, necessitating another debridement surgery. Cranioplasty using a ceramic bone was performed two months after the debridement, and he was discharged with no neurological deficits. Gunshot wounds to the head have a higher rate of postoperative infection than closed head injuries; thus, debridement to remove as much bony and missile fragments as possible is important.

8 0 0 0 OA 挫滅症候群

著者
横田 順一朗
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.1-16, 1997-01-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
120

本総説では挫滅症候群に関する歴史,疫学,病態生理,診断と治療などを解説し,あらためて同症候群の臨床的意義を探ってみたい。挫滅症候群とは,四肢が長時間圧迫を受けるか窮屈な肢位を強いられたため生じる骨格筋損傷により,救出後から急速に現れる局所の浮腫とショックや急性腎不全などのさまざまな全身症状を呈する外傷性疾患である。同症候群は長時間の臥床に伴う偶発的な筋圧挫としても散発例をみるが,通常は地震,空襲などにより倒壊した家屋の下敷きになって集団で発生する。長時間の骨格筋圧迫による筋崩壊のメカニズムについては,膜伸展による損傷(stretch myopathy)と虚血とが指摘されている。圧迫解除によって急速に骨格筋に浮腫が生じ,骨格筋特有のコンパートメント症候群(筋区画症候群)へと進展する。この機序として活性酸素などが関与する再灌流障害が推定されているが,明確にされていない部分も多い。崩壊した骨格筋細胞へは水分が移行し,細胞内からはカリウム,ミオグロビンなどさまざまな細胞内物質が流出する。この結果,細胞外液の喪失による低容量性ショック,高K血症,代謝性アシドーシス,急性腎不全などが生じる。骨格筋を長時間圧迫する特異な受傷機転と四肢の知覚・運動麻痺の存在が診断の根拠となる。輸液療法が治療の主体をなすが,その目的が細胞外液の補充に留まらずカリウムを排泄させることにあるため,強制利尿並みの大量投与を行う。とくに救出現場から輸液を開始することにより,急性腎不全を回避できる可能性が高くなる。高K血症の進展や腎不全が完成すれば透析療法の適応となる。コンパートメント症候群に対する筋膜切開の適応については意見が分かれている。トリアージや患者搬送なども治療成績を左右するため,集団災害時での同症候群への対応についても言及する。
著者
大槻 秀樹 五月女 隆男 松村 一弘 藤野 和典 古川 智之 江ロ 豊 山田 尚登
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.9, pp.763-771, 2009-09-15 (Released:2009-11-09)
参考文献数
19

精神疾患のいくつかは,季節性に寛解・増悪することが指摘されており,とくに気分障害における季節性がよく知られている。自殺企図患者や入院患者における季節性の変動を示すデータは散見されるものの,一般救急外来を受診する患者に関するデータは少ない。我々は平成17年 9 月から 1 年間,滋賀医科大学附属病院救急・集中治療部を受診した3,877例(救急車により搬送された患者2,066例を含む)を調査した。精神科疾患は299例(7.7%)であり,その中でF4(神経症性障害,ストレス関連障害および身体表現性障害)が158例と最多であった。精神科疾患で受診する患者数は, 6 ~ 7 月と 9 ~10月にピークがあり, 1 月に最も減少していた。精神科疾患で受診する患者数は,日照時間や降水量との間に関連性は認められなかったが,気温が上昇すると精神科疾患により来院する患者数が増加することが示された。これらの結果は,救急外来を受診する精神科疾患の特徴を示すと共に,今後,救急外来において精神科疾患を早期に発見する手助けの一つとなりうると思われる。
著者
森松 嘉孝 木下 正治 松岡 昌信 嶋田 亜希子 堀田 まり子 坂本 照夫 相澤 久道
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.11, pp.612-617, 2004-11-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
12

We report a rare case of progressive severe pulmonary failure due to exposure to dimethyl sulfate vapor. The patient is a 48-year-old man who carried four bottles of dimethyl sulfate on the carrier of a truck and one of them was broken. After he had been cleaning up the carrier for an hour while covering his nose and mouth with a dry towel, he had felt pain of his eyes, pharyngolarynx and nose. He went to an emergency hospital on foot 3 hours after exposure, because he felt obstruction of the pharyngolarynx, hoarseness and dyspnea. He was immediately intubated due to severe hypoxia and was immediately administered hydrocortisone intravenously, and methylprednisolone inhalation therapy was prescribed for ten days. Tracheostomy was performed the 5th day following the onset of symptoms because of severe laryngeal edema. Sputum and strider continued after steroid therapy was suspended because of Pseudomonas aeruginosa infection. The steroid therapy was resumed as transbronchial lung biopsy suggested peribronchiolar inflammation with granulation change, and he improved promptly. However, he had another bout of pneumonitis thereafter, and dyspnea and hypoxia gradually developed. Home oxygen treatment was introduced the 5th year after onset, and then roentgenogram showed severe emphysematous change, and now he is listed for lung transplantation. We ewcommend a high dose of steroid in the acute phase and a low dose of erythromycin for a long term in case of lung injury due to exposure to dimethyl sulfate.
著者
高橋 春樹 出口 善純 阿部 勝 山田 創 秋月 登 小林 尊志 中川 隆雄
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.226-231, 2009-04-15 (Released:2009-09-04)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

症例は75歳の女性。主訴は呼吸困難 飼い犬に左手を噛まれた2日後,呼吸困難で近医を受診した。動脈血ガス分析にて低酸素血症を認め,血液検査にて敗血症,播種性血管内凝固症候群,多臓器不全と診断され,当センターに転送された。集中治療(エンドトキシン吸着,持続血液濾過透析)にて軽快し,第14病日退院した。後日,血液培養よりCapnocytophaga canimorsusが検出された。C. canimorsusはイヌ咬傷後の敗血症の原因菌として米国では死亡例も多数報告されており,高齢者・易感染者に重症例が多い。本邦での報告は稀であるが,早期に適切な抗生剤を選択する上で念頭に置くべき病原体と考える。
著者
小松 裕和 鈴木 越治 土居 弘幸
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.9, pp.794-800, 2009-09-15 (Released:2009-11-09)
参考文献数
5
被引用文献数
1 1

関連と因果関係は異なる(Association is not causation)。これは有名な言葉であるが,「関連と因果関係が異なるときバイアスが生じている」と定義されている。そして,連載第3回で紹介した反事実モデルとdirected acyclic graph(DAG)はバイアスを理解し,整理する上で非常に役立つツールである。交絡バイアスはDAGの共通原因によって生じるもの,選択バイアスはDAGの共通結果を調整することによって生じるものとして整理し,情報バイアスは「系統的でない誤分類(non-differential misclassification)」を理解することが有用である。一方,結果の解釈にあたっては,バイアスが「真の値」から「推定値」を「どの方向」に「どの程度」ずらすようなバイアスか,つまり過大評価(away the null)するバイアスか,過小評価(toward the null)するバイアスかを2×2表を用いて検討をすることが重要である。
著者
朱 祐珍 渥美 生弘 瀬尾 龍太郎 林 卓郎 水 大介 有吉 孝一 佐藤 愼一
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.7, pp.304-308, 2012-07-15 (Released:2012-09-17)
参考文献数
8
被引用文献数
1

アクリルアミドは様々な用途で使用されるが,長期の曝露によって末梢神経障害を主症状とする慢性中毒を起こすことが知られている。今回我々は,アクリルアミドによる急性中毒を来した症例を経験したので報告する。症例は23歳の男性。自室にて自殺目的にアクリルアミドを水に溶かした溶液を内服し,嘔吐を認めたため救急外来を受診した。来院時意識清明,血圧117/53mmHg,脈拍数101/分,SpO2 99%(室内空気下),呼吸数24/分,体温36.7℃であった。身体所見や血液検査では異常を認めず,輸液にて経過観察をしていたところ,内服8時間後より徐々に不穏状態となった。その後も幻視や幻聴などの中枢神経症状が持続するため緊急入院となった。内服9時間後より全身の硬直,著明な発汗が出現し,内服11時間後より乳酸値の上昇,血圧低下を認めた。輸液負荷を行ったが反応せず,カテコラミンを投与し気管挿管を行った。その後も循環動態は安定せず,肝機能障害,腎機能障害が出現し,血液透析を施行したが,血圧が保てず約1時間で中止した。乳酸値の上昇から腸管虚血を疑い造影CTを施行したところ,著明な腸管壁の浮腫と少量の腹水を認めた。腸管壊死の可能性はあるが,全身状態から外科的処置は困難と判断した。その後も乳酸値の上昇,血圧低下,全身痙攣が続き,アクリルアミド内服40時間後に永眠された。アクリルアミドによる慢性中毒や亜急性中毒の報告はあるが,今回の症例のように急性中毒による劇的な経過で死に至った例は少ない。内服後数時間は症状が出現せず重症化を予測しにくいが,その後劇的な経過で死に至る場合があるため,慎重な経過観察が必要と考えられた。
著者
中村 俊介 三宅 康史 土肥 謙二 福田 賢一郎 田中 幸太郎 森川 健太郎 有賀 徹
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.7, pp.312-318, 2011-07-15 (Released:2011-09-13)
参考文献数
19
被引用文献数
1

背景:熱中症の後遺症として中枢神経障害を生じた症例の報告は散見されるが,発生に関わる要因について検討されたものは少ない。目的:熱中症の臨床所見から中枢神経系後遺症の発生要因を明らかにする。方法:2006年,2008年に日本救急医学会熱中症検討特別委員会が実施した症例調査であるHeatstroke STUDY 2006およびHeatstroke STUDY 2008から中枢神経系後遺症を生じた症例,および対照として後遺症なく生存したIII度熱中症の症例を抽出し,各々の診療情報について分析を行った。結果:全症例数は1,441例であり,中枢神経系後遺症は22例(1.5%)で認めた。重複したものを含め後遺症の内容は,高次脳機能障害15例,嚥下障害6例,小脳失調2例,失語および植物状態が各1例であった。中枢神経系後遺症を生じた群の男女比は13:9,平均年齢は62.6歳であり,一方,後遺症なく生存したIII度熱中症は計286例で男女比213:72(不明1),平均年齢55.4歳であった。来院時の臨床所見については,中枢神経障害を生じた群で90mmHg以下の血圧低下,120/分以上の頻脈を多く認めたが,後遺症なく生存したIII度熱中症群との間に有意差はなかった。一方,Glasgow coma scale(GCS)の合計点,体温,動脈血ガス分析のbase excess(BE)において有意差を認め(各々p=0.001,p=0.004,p=0.006),また来院後の冷却継続時間についても有意差がみられた(p=0.010)。結語:中枢神経系後遺症の発生例では来院時より重症の意識障害,高体温,BE低値を認め,冷却終了まで長時間を要していた。中枢神経系後遺症を予防するためには,重症熱中症に対して積極的な冷却処置および全身管理,中枢神経保護を目的とした治療を早急に行うことが重要である。
著者
Takashi Wakahara Nobuaki Wada
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
Nihon Kyukyu Igakukai Zasshi (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.175-180, 1994-04-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
11

A 18-year-old man was admitted with a complaint of enormous abdominal distension and gasping respiration. The patient's colon was inflated as a result of having compressed air forced through the anus by his fellow worker. Chest and abdominal X-ray and arterial blood gas analysis revealed enormous pneumoperitoneum, hypercapnia and hypoxemia (pH 7.10, PCO2 84.9mmHg, PO2 33.5mmHg). A large amount of gas (air) was released from the abdomen by puncture on the right upper quadrant, and hypercapnia was rapidly improved. Gastrografln enema revealed rupture of the transverse colon and emergency operation was performed. There was a rupture, 3cm in diameter, in the transverse colon along the tenia coli omentalis. Multiple serosal tears (16 in total) were also found throughout the remaining colon.
著者
本多 ゆみえ 李 慶湖 小林 弘幸
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.10, pp.847-856, 2013-10-15 (Released:2013-12-30)
参考文献数
15

【はじめに】近年,医療界全体にわたり,医事紛争件数が増加している。これは救急領域においても同様であり,この領域での医師不足の誘因になっている可能性がある。しかし,救急領域の医療訴訟を詳しくみると,ある特定の疾患やその処置内容などいくつかの特徴があることがわかってきた。そこで今回,その点を検証するために救急領域の裁判例の実態を検討し分析した。【方法と症例】救急領域に関する裁判例を抽出するためTKC法律情報データベース,第一法規株式会社の法律情報総合データベース「D1-Law.com」を利用し,キーワード検索条件として「医療訴訟」または「医療過誤」を充足し,かつ,「救急外来」あるいは「救急センター」をも充足する裁判例を1965年から2011年まで検索した。そのなかで純粋に医師が当事者となり急性期の医療行為が対象となっている裁判例は50例であった。以下,疾患・年齢・性別・争点・転帰・認容率・認容額,原告側の過失主張と裁判所の判断につき検討した。【結果】全50例の内訳は,男性40例(80%),女性10例(20%),平均年齢46歳(4歳から84歳)で15歳以下の小児は6例(12%)であった。疾患は,外傷が11例で最も多く全例死亡。続いて,イレウス7例(死亡6例と後遺症1例),急性喉頭蓋炎6例(死亡3例と重度脳機能障害3例),くも膜下出血4例(死亡3例と重度脳機能障害1例),急性心筋梗塞3例(全例死亡),急性大動脈解離3例(全例死亡)であった。また賠償が命じられるパーセンテージ(認容率)は76%であり,その額(認容額)は,棄却12例を除くと平均3911万円で,1億円以上も4件あった。【結語】救急領域で訴訟になりやすい疾患は,外傷,くも膜下出血,急性大動脈解離,急性喉頭蓋炎,イレウスで,いずれも誤診が最大の問題である。
著者
鈴木 裕之 中野 実 蓮池 俊和 仲村 佳彦 畠山 淳司 庭前 野菊 清水 尚
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.6, pp.297-302, 2011-06-15 (Released:2011-08-19)
参考文献数
17
被引用文献数
2 1

症例は70歳の女性。自宅で呼吸苦を自覚し自ら119番通報をした。救急車内収容時に無脈性電気活動(pulseless electrical activity; PEA)となり,救急隊員による約1分間の心肺蘇生術で心拍再開し当院へ搬送された。当院到着時に再びPEAとなり,アドレナリン1mgを投与し,気管挿管,当院スタッフによる約8分間の心肺蘇生術で心拍は再開した。心エコーで著明な右心負荷所見,胸部造影CTで左右の肺動脈に血栓を認め,肺塞栓と診断した。へパリン3,000単位静注後,肺動脈造影を施行したところ,肺動脈主幹部の血栓は既に溶解しており,造影欠損像を末梢に認めるのみであった。循環動態,呼吸状態ともに安定したため,抗凝固療法のみ行う方針でICUに入室させた。しかし,ICU入室4時間後から徐々に血圧が下がり始め,入室6時間後にはショック状態となった。心エコーで右心負荷所見は改善傾向にあり,肺塞栓による閉塞性ショックは否定的だった。腹部エコーで大量の腹水を認め,腹部造影CTでは血性腹水と肝裂傷を認め,胸骨圧迫による肝損傷から出血性ショックに至ったと診断した。硫酸プロタミンでへパリンを拮抗し,大量輸血で循環を安定させ塞栓術による止血を試みた。しかし,肝動脈と門脈からの血管外漏出は認められず,塞栓術による止血は不可能であった。静脈性出血の自然止血を期待し腹腔内圧をモニターしながら,腹部コンパートメント症候群に注意しつつ経過観察した。第2病日循環動態は安定し,第9病日抗凝固療法を再開した。第10病日人工呼吸器離脱し,第40病日独歩退院した。心肺蘇生術後の患者では,蘇生術に伴う合併症の発生を常に念頭に置きながら,原疾患の治療にあたることが重要である。
著者
大槻 郁人 高桑 一登 佐藤 順一 高橋 広巳 荒川 穣二
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.11, pp.941-946, 2013-11-15 (Released:2014-01-07)
参考文献数
9

症例は慢性血液透析中の83歳の男性。意識消失のため午前2時に当院へ救急搬送された。搬入時の血糖値は22mg/dlと低値であり,50%ブドウ糖を20ml静脈内投与した。血糖値は128mg/dlへ上昇し意識状態の改善を認めた。糖尿病の既往はなく,精査加療目的に入院した。入院後10%ブドウ糖を20ml/hrで持続投与していたが,入院5時間後再度意識障害が出現し血糖値は32mg/dlと低血糖を認めた。内服薬についてかかりつけ医に問い合わせたところ,当院搬入10日前の透析中に心室頻拍が出現したため,透析患者には禁忌と認識していたが,危険な不整脈に対して使用する旨を本人に説明しコハク酸シベンゾリン(以下CZ)100mgを5回分頓用で処方していた。来院時には全て内服しており,CZによる薬剤性低血糖を疑い,より高用量のブドウ糖の持続投与を行った。ブドウ糖投与とともに血糖値は上昇し意識障害は改善した。第8病日に来院時のCZ血中濃度は1,330ng/mlと異常高値であることが判明し,CZによる低血糖と診断した。CZの血中濃度が中毒域を下回り,重篤な低血糖を来さなくなるまで5日間を要した。CZは透析で除去されにくいとされており,本症例も12日間の入院管理が必要であった。慢性血液透析患者におけるCZ中毒は低血糖などの副作用が遷延する可能性があり,入院による厳重な管理を要する。
著者
山本 紳一郎 増田 卓 松山 斉久 佐藤 清貴 盛 虹明 北原 孝雄 大和 田隆
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.5, pp.189-200, 1997-05-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
30
被引用文献数
2 1

クモ膜下出血(SAH)急性期に認められる心電図異常を中枢性・末梢性交感神経系の活動および心筋障害の程度と対比し,心電図異常の成因について検討した。発症24時間以内の破裂脳動脈瘤によるSAH677例に対して,来院時より24時間の心電図モニターを行い,不整脈を認めなかった281例をA群,心室性期外収縮,心室性頻拍,心室細動の3種類以外の不整脈を認めた274例をB群,心室性不整脈として心室性期外収縮,心室性頻拍,心室細動のいずれかを認めた122例をC群とした。来院時に血圧,脈拍,意識状態,頭部CT検査を行い,心筋逸脱酵素,心筋収縮蛋白,カテコラミン,ノルアドレナリン代謝産物のMHPGを測定した後,脳動脈造影を施行した。3群間では年齢に有意差はなく,不整脈はSAH急性期の58%に出現し,不整脈として洞性頻脈,心室性期外収縮,上室性期外収縮などが多く認められた。来院時の血圧,心拍数はA群に比べB群あるいはC群で有意に上昇し,QTc間隔はA群に比べC群で有意に延長していた。また来院時の電解質濃度あるいは脳動脈瘤の部位には3群間で有意な差は認めなかった。不整脈はWFNS分類によるgrade 1V, Vの重症例に多く出現し,Fisher分類によるSAHの程度ではA群およびC群に比べB群でgroup 4の割合が高かった。血漿ノルアドレナリン,アドレナリン,MHPG濃度はA群と比較してB群およびC群でいずれも有意に上昇していた。血清CK-MB,ミオシン軽鎖およびトロポニンTの最高値は,A群およびB群に比較してC群で有意に高値を示した。SAH急性期の心電図異常は,交感神経系活動の亢進による機能的な変化から出現する場合と,カテコラミンによる心筋障害のために出現する場合があると考えられる。また,心室性不整脈を認める例ほど心筋障害を合併している可能性が高く,SAH急性期に認められる心肺機能停止との関連が示唆された。
著者
杉村 朋子 原 健二 久保 真一 西田 武司 弓削 理絵 石倉 宏恭
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.12, pp.842-850, 2012-12-15 (Released:2013-01-17)
参考文献数
17
被引用文献数
2 4

尿試料からの簡易薬物スクリーニング検査を実施している3次救命救急センターや高度救命救急センターでは,これまでTriage DOA(シスメックス社)が使用されてきた。2010年11月にはこれに加えて,尿検査キットINSTANT-VIEW M-I(TFB社)が国内販売となった。そこで当施設において薬物分析結果に基づいた両キットの比較検討を行った。対象は2010年12月28日から2011年8月30日までの約8か月間で,救急初療時に検査が必要と判断し,採尿可能であった症例を対象とした。Triage DOAおよびINSTANT-VIEW M-Iの検査を施行し,1項目でも陽性を認めた45症例に対し,当大学法医学教室でガスクロマトグラフ質量分析装置(Gas Chromatograph Mass Spectrometer,以下GC/MS)および液体クロマトグラフ質量分析装置(Liquid Chromatography - tandem Mass Spectrometry,以下LC/MS/MS)を用いた薬物分析を実施した。比較検討の結果,INSTANT-VIEW M-Iの方が操作は簡便で所要時間も短時間であった。しかし,結果の判定はTriage DOAの方が簡単であった。薬物検査の性能に関しては,感度はINSTANT-VIEW M-Iが高く,特異度はTriage DOAが高い傾向にあった。両キットで三環系抗うつ薬とベンゾジアゼピン系の偽陽性率が高く,数例で偽陰性も認めた。簡易スクリーニング検査には偽陽性(偽陰性)があるということを理解したうえで用いることが重要である。
著者
板垣 有亮 瀧 健治 山下 寿 三池 徹 古賀 仁士 為廣 一仁 林 魅里
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.57-62, 2014-02-15 (Released:2014-06-10)
参考文献数
14

症例は33歳の初産婦。妊娠41週0日に1児を正常分娩した。出産後1時間で子宮より2,800mL の出血を認め,ショック状態となり当院へ転院となった。救急搬入時にショック状態が継続していて,搬入後7分でpulseless electrical activity(PEA)となった。9分間のcardiopulmonary resuscitation(CPR)にて心拍再開し,出血性ショックに対してtranscatheter arterial embolization(TAE)後にintensive care unit(ICU)へ入室となった。ICU入室後に羊水塞栓症によるdisseminated intravascular coagulation(DIC)と診断し,人工呼吸器管理下でDICの治療を行い,3日間のmethylprednisoloneの投与と第1病日,第2病日に血漿交換を行った。第9病日に抜管に至り,抜管後意識レベルはGlasgow coma scale(GCS)15であったが,第19病日に脳静脈洞血栓症を合併し,ヘパリンによる抗凝固療法を開始した。第23病日に再度子宮内出血を認め,超音波検査と血管造影検査にてuterus arteriovenous malformation(子宮AVM)または胎盤遺残と診断し,同日子宮全摘術を施行した。病理結果は第1群付着胎盤遺残であり,子宮筋層血管内にムチン成分と上皮成分を認め,第1群付着胎盤遺残,羊水塞栓症と診断した。術後状態は安定し,第134病日にmodified Rankin Scale Grade 1で独歩退院した。羊水塞栓症は稀な疾患であるが,予後不良な疾患である。羊水塞栓症の診断治療には複数科に渡る早急な判断と集中治療協力体制が肝要である。
著者
箕輪 良行 柏井 昭良 井上 幸万
出版者
日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.9, pp.444-450, 2000-09-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
7
被引用文献数
1

目的と背景:自動二輪車と自転車の乗用者ヘルメット着用は,頭部外傷を減らし死亡率を下げると実証されている。大宮市は人口44万人で交通の要地にある首都圏の都市である。約25年間にわたり児童がヘルメットを着用して通学している小学校がある。ヘルメット着用の義務化が交通事故およびその死亡を減らすかを検討するのが本研究の目的である。方法:遡及的なケース・コントロール法で検討した。市内36の小学校の生徒(延べ約20万人)を対象母集団とした。89~95年度に学校管理内外に発生した学童の交通事故およびその死亡について調べた。年間交通事故件数が10件以上の主要な国道および県道から1km以内にすべての小学校が存在している。ヘルメット全員着用を指導している4校と,91年前後に着用を自由化(中止)した4校をケース群とした。これ以外の28校をコントロール群とした。着用を自由化した前後で期間を分けて,交通事故件数,死亡者数を比較検討した。結果:89~91年度(前期)から92~95年度(後期)で36校の生徒1,000人当たりの年間交通事故件数(事故率)は1.0から1.4に増加した(p<0.05)。ヘルメットの全員着用を自由化した4校(自由化群)の事故率は前期0.4から後期1.6に有意に増加した(p<0.01)。全員着用を継続した4校(全員着用群)の事故率は,前期1.3から後期0.4へ減る傾向がみられた。ケース群の全員着用群と自由化群のうち前期の部分を合わせたものの事故率は0.7で,コントロール群と自由化群の後期を合わせたものの事故率1.3に比して低かった(p<0.05)。36校全体の死亡数は前期0人から後期3人へ増加した。全員着用群では期間中に死亡がなかった。結語:交通の要地である都市で実施されてきた小学校児童のヘルメット着用は,交通事故および死亡を減らしたと示唆された。
著者
本村 友一 松本 尚 益子 邦洋 薄衣 佑太郎 宇治橋 貞幸
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.7, pp.281-287, 2014-07-15 (Released:2014-11-01)
参考文献数
16
被引用文献数
1

はじめに:外傷性窒息とは,胸部を強く圧迫されることで呼吸が障害され,呼吸不全による低酸素脳症から死亡に至り得る外傷形態とされるが,「圧迫部位」,「負荷の大きさ」および「負荷時間」などの物理学的パラメータとこれらの医学的事象の関係性は不明瞭である。本研究の目的は,成人男性において,「呼吸不全」に至る胸腹部圧迫条件(「負荷の大きさ」,「負荷時間」)を推定することである。対象と方法:健常な成人男性5人(体重61.1±3.7kg)を被験者として胸腹部へ3つの負荷様式(負荷A:胸腹部合計50kg,負荷B:同40kg,負荷C:同30kg)の錘による荷重を加え,血圧,心拍数,呼吸数,肺活量,1回換気量,呼吸相などのパラメータを経時的に測定した。また呼吸耐力予備指数breathing intolerance index(BITI)を算出し,各負荷様式における負荷開始から呼吸不全に至るまでの時間を推定した。結果:負荷Aで,経時的に呼吸数が増加し,1回換気量が減少した。BITIはすべての負荷様式で直線に回帰された。負荷A,BおよびCで,それぞれ負荷開始から32分,42分および81分でBITI=0.15(危険域)に達し,それぞれ77分,87分および126分後に呼吸不全に至ることが推定された。考察:本研究では,胸部圧迫に加え腹部圧迫も行い,合計30kgの胸腹部負荷であっても,負荷が継続すると呼吸筋疲労から呼吸不全に至りうることが推定された。小児や高齢者などでは,さらに呼吸耐性は低い可能性が示唆された。外傷性窒息を予防する工学的な空間デザインや急性期の治療の観点から,外傷性窒息のメカニズムやパラメータの解明は重要であり,今後さらなる研究が必要である。
著者
照井 克俊 藤田 友嗣 高橋 智弘 井上 義博 遠藤 重厚
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.10, pp.857-863, 2013-10-15 (Released:2013-12-30)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

トリカブトは毒性の強いアコニチン類を含有する有毒植物である。本研究では,1984年1月から2011年12月の間に当センターに搬送されたトリカブト中毒患者30症例について,中毒の原因,中毒が発生した時期,摂取した植物部位,中毒症状,治療,転帰を調査した。対象は男性22例,女性8例で,年齢は5歳-78歳(平均48.3歳)であった。トリカブト中毒の原因は,自殺目的での摂取15例,食用植物との誤食14例,民間療法としての使用1例であった。自殺目的によるトリカブト中毒は1年を通じて発生し,誤食による中毒は4-6月の山菜採取の時期に集中していた。自殺目的では根を,誤食では葉を摂取する傾向にあった。中毒症状は,不整脈(26),嘔気・嘔吐(24),口唇・口角の痺れ(23),四肢の痺れ(23),動悸(19),血圧低下(18),胸痛・胸部不快感(17),意識障害(13),脱力感(11),めまい(9),麻痺(5),腹痛(4)が生じた。不整脈では心室性期外収縮が最も観察され(26例中17例,65.4%),心室細動(VF)は26例中7例(26.9%)に観察された。不整脈の治療として抗不整脈薬のリドカインが主に投与され,軽症例には効果的であったがVFを生じた重症例には効果がなかった。難治性のVF患者には,経皮的心肺補助法(PCPS)による治療が効果的であった。転帰は30症例中3例が難治性のVFにより死亡した。トリカブト中毒では多彩な症状が出現したが,重篤な不整脈の出現の有無が転帰を左右した。トリカブト中毒で生じる不整脈の治療では,VFを生じるような重症例には抗不整脈薬や除細動の効果は限定的である。重症例では早期にPCPSの積極的な導入を行い,血行動態の安定化を図ることが救命にとって重要である。本結果は今後のトリカブト中毒の治療に有用な情報になるものと考える。
著者
千葉 宣孝 木下 浩作 佐藤 順 蘇我 孟群 磯部 英二 内ヶ崎 西作 丹正 勝久
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.10, pp.871-876, 2013-10-15 (Released:2013-12-30)
参考文献数
12

シアン化カリウムによる中毒は,暴露後早期から出現する組織における酸素の利用障害のため死亡率の高い中毒のひとつであり,大量摂取時には数分で死に至ることが知られている。今回,自殺目的でシアン化カリウムを内服したが,症状の出現が緩徐であったため治療が可能で救命し得た症例を経験したので報告する。症例は30代の男性。シアン化カリウムを詰めたカプセルを3錠内服した。内服約15分後の救急隊到着時,意識清明,瞳孔径は左右とも6mm,血圧160/90mmHg,脈拍数132/分,呼吸数18/分と瞳孔散大と頻脈を認めた。内服約38分後の来院時,不穏状態であり,瞳孔径は左右とも8mm,血圧140/70mmHg,脈拍数126/分,呼吸数36/分と瞳孔散大,頻脈,頻呼吸を認めた。内服から約86分後に血圧78/40mmHg,脈拍56/分と循環不全を認め,動脈血ガス分析では,pH6.965,PaO2 528.4mmHg,PaCO2 30.7mmHg,HCO3- 6.8mEq/l,Base excess -24.1mEq/l,SaO2 99.6%と代謝性アシドーシスを認めた。解毒剤として3%亜硝酸ナトリウムと15%チオ硫酸ナトリウムを投与した。解毒剤投与後,代謝性アシドーシスの改善と循環動態の安定が得られた。来院時のシアン化カリウム血中濃度は全血で3.1μg/mlであったが,解毒剤投与により血中濃度の低下を認めた。結晶あるいは固体であるシアン化カリウムは,酸と接触すると急速にシアン化水素を発生し,粘膜から吸収され中毒症状を引き起こすと言われている。本症例は,カプセルで内服したことでカプセルの緩徐な崩壊とともに症状が出現した可能性が示唆された。薬物名や量だけではなく,毒物の形状や内服手段の聴取は症状の出現の予測や治療において重要な因子のひとつであると考えられた。