著者
坂本 圭 辻野 博之 中野 英之 浦川 昇吾 山中 吾郎
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.175-188, 2018

<p>著者らの海洋大循環モデル「気象研究所共用海洋モデル(MRI.COM)」は,開発が始まってから20 年近くが経過し,気象研究所と気象庁の様々な部門で利用されるようになるとともに,ソースコードの大規模化・複雑化が進んだ。このような状況の下でも,バグの混入や意図しない影響を抑えながらモデルを効率的に開発するため,現代的なソフトウェア開発で用いられるツールと手法を取り入れ,開発管理体制を一新した。まず,ソースコードの開発履歴(バージョン)を管理する「Git(ギット)」を導入した。このツールにより,複数の開発者が複数の課題に同時に取り組む並行開発が可能になった。また,プロジェクト管理システム「Redmine(レッドマイン)」を導入し,開発状況を開発者全員で共有した。このシステムによってデータベースに逐一記録された開発過程が,他の開発者や次世代の開発者にとって財産となることが期待される。これらのツールを用い,さらに開発手順を明確にすることで,開発チーム内の情報共有と相互チェックを日常的に行う開発体制に移行することが可能となったことは,コード品質の向上に大きく寄与している。現在,気象庁では,MRI.COMだけでなく,気象研究所と気象庁で開発しているほぼ全てのモデルをGit(またはSVN)とRedmineで一元的に管理するシステムを構築しており,モデルの開発管理及び共有化が大きく前進している。</p>
著者
飯田 博之 磯田 豊 小林 直人 堀尾 一樹
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.155-174, 2018-07-15 (Released:2018-07-25)
参考文献数
23
被引用文献数
1 3

2016 年夏季に宗谷暖流沖合域で実施したCTD ならびにXBT とADCP を用いた25 時間連続往復断面観測で得られた詳細な流れ場と水温場の時間変化データの解析によって,冷水帯を伴った日周期渦流が宗谷暖流沖合を横切る様子を初めて捉えた。観測された冷水帯下部は,ほぼ均一な高塩分水で占められており,その起源は日本海中層水であることが示された。数値モデル結果を使用したトレーサー実験によって,日本海中層水は,岸向きの移流と湧昇により宗谷海峡へ供給された後,卓越した日周潮流により励起された反時計回りの孤立渦流に取り込まれ,冷水帯下部の海水の大部分を構成するとともに,宗谷暖流沖合水となって移流されることが示唆された。
著者
関口 秀夫 石井 亮
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.21-36, 2003
被引用文献数
27

有明海は本邦全体の干潟面積の約20%に相当する広大な干潟をもち,その中で最大の干潟面積をもつ熊本県ではアサリ漁業が盛んである。本邦全体のアサリ漁獲量は1975~1987年にかけて14万~16万トンあったが,これ以降激減している。有明海全体のアサリ漁獲量を代表する熊本県の漁獲量は,1977年に約6万5千トンあったが,2000年にはその1%にまで激減している。アサリ漁獲統計資料の解析によれば,アサリ漁獲量の減少パターンは有明海固有のものであり,漁獲量激減に関与している要因は本邦全域に及ぶような要因ではない。また,有明海の二枚貝類各種の漁獲統計資料の解析によれば,有明海のアサリ漁獲量の減少パターンは他の二枚貝類と異なっており,アサリ漁獲量の激減に関与している要因はアサリに固有の要因である。有明海のアサリ資源の幼生加入過程に関する過去の研究成果を踏まえれば,アサリ浮遊幼生の生残率の低下が,さらに言えば,この生残率の低下を引き起こしている要因が,アサリ漁獲量の近年の激減に関与している可能性が高い。ここでは,この推測を検証するための,併せて着底稚貝以降の死亡が関与する可能性を検証するための,プロジェクト方式の研究計画についても,提案をおこなう。
著者
石井 大輔 柳 哲雄 佐々倉 諭
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.23, no.6, pp.217-236, 2014-11-15 (Released:2019-02-01)
参考文献数
19
被引用文献数
2 3

赤潮の発生規模や発生状況を評価できる指標として提案された赤潮指数をはじめとする赤潮基礎データセット(1979―2004年)をもとに,瀬戸内海における赤潮関連情報の経年的な変動傾向や赤潮優占群の海域特性について検討評価を行った。瀬戸内海(大阪湾以外)と大阪湾における赤潮指数の時間変動特性を解析した結果,瀬戸内海(大阪湾以外)における赤潮指数の長期変動は1990年付近を極小とした増減傾向を示す一方,大阪湾のそれは約30年間顕著な減少傾向を示すことが判明した。また,瀬戸内海(大阪湾以外)では主に全天日射量,大阪湾では陸域からの寄与が大きい栄養塩濃度が赤潮指数の長期変動を決める要因であることを示唆する結果を得た。さらに,赤潮構成種ごとに整理した分類群別(珪藻群・非珪藻群・複合群)の赤潮指数から算出した赤潮優占率をもとに,瀬戸内海(大阪湾以外)および大阪湾における赤潮の卓越群について調べた結果,瀬戸内海(大阪湾以外)では全般的に非珪藻群が優占する一方,大阪湾では非珪藻群から珪藻群へ長期的に優占群が遷移するパターンが確認された。
著者
大島 慶一郎
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.75-96, 2018

<p>海洋の大規模な中深層循環・物質循環は,極域・海氷域での海氷生成による高密度水生成が起点になっている。全海洋の深層に広がる底層水が作られる南極海のような極海では,観測の困難さによって,海氷生成及び中深層水の形成・循環は十分わかってはいなかった。衛星マイクロ波放射計データによる薄氷厚アルゴリズムが開発され,熱収支計算を組み合わせることで海氷生産量を見積もる手法が考案された。南大洋の海氷生産量マッピングからは,ロス海に次ぐ第2 の海氷生産量域が東南極のケープダンレー沖にあることが示され,ここが未知(第4)の南極底層水生成域であることが,直接観測から明らかになった。北半球最大の海氷生産量域は,オホーツク海北西ポリニヤであることが示され,ここを起点として北太平洋の中層まで及ぶオーバーターンが形成されることに対応する。西岸境界流である東樺太海流はこのポリニヤで形成される高密度陸棚水を南方へ運ぶ役割を持つ。この50 年のオホーツク海風上域での温暖化が,海氷生産の減少とそれに伴う高密度水減少をもたらし,北太平洋のオーバーターンを弱化させていることも示唆された。これらの研究により,海氷生産量と中深層水の形成・変動に強い関係があることが定量性をもって明らかになってきた。</p>
著者
川合 英夫 Hideo Kawai
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.351-359, 2001-07-05
参考文献数
12

江戸時代中期の瀬戸内海では「潮汐界」(シヲサカヒ) は, その両側で上げ潮時の潮流が逆向きとなる潮汐の境界を意味していた (森 幸安, 1754)。内海舟運で行われた潮待などの実際面で「潮汐界」の情報が役立ったため, この語が使われたのだろう。北原 (1912, 1921) は「潮合(線)」を寒暖二流 (実は二水塊) の境界という意味で使っていた。「潮境」を浮遊物の集積する海流収斂線や異色水塊の境界という意味で, 最初に使ったのは宇田 (1931) である。しかし宇田が傾倒してやまない北原が使った「潮合(線)」の代わりに「潮境」を使い始めた動機は謎である。もしかすると, すでに「潮境」が外海漁業者の間で広く使われていたという経緯も考えられる。「潮合(線)」も「潮境」も海軍水路部の重松や岸人らでは使われず, 水産試験機関の北原や宇田らに限って使われたことは,「潮合(線)」「潮境」の情報が水産試験研究の実際面で役立ったためだろう。A term "Shiwo-Sakahi" (潮汐界), used in the Seto Inland Sea, Japan in the middle Edo Period (Mori, 1754), is interpreted to mean a boundary zone, on both sides of which the current direction from the low tide to the high tide becomes opposite. This term must have spread, because such information on tidal currents was useful for the practical aspect, related to the waiting in port until the tidal current shifts to a favorable direction. Kitahara (1912, 1921) used terms "Shio-Ai" (潮合) and "Shio^Ai-Sen" (潮合線) to mean a boundary between warm and cold currents, but actually warm and cold water-masses. While Nagatsuka (1906) used a term "Shio-Me" (潮目, current-rip) to mean a boundary between cold river water and warm seawater in his traditional Japanese poem, Uda (1929a) used this term to mean a line of accumulation of drifting matter accompanied by a thermal front in his scientific report. Uda (1931) also used a term "Shio-Zakai" (潮境) for the first time to mean a line of current convergence or a boundary between two water-masses with different colors. However, the motive for Uda, an ardent admirer of Kitahara, to have started using "Shio-Zakai" instead of "Shio-Ai-Sen" used by Kitahara, is still mysterious. Possibly "Shio-Zakai" might have already spread among fishermen in open seas. The terms "Shio-Ai" and "Shio-Zakai" were not used by Shigematsu and Kishindo of the Hydrographic Office, Japanese navy, but were used by Kitahara and Uda of fisheries experimental organizations. This is probably because these terms were useful for the practical aspect of the fisheries oceanography.
著者
鬼塚 剛 柳 哲雄 門谷 茂 山田 真知子 上田 直子 鈴木 學
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.403-417, 2002-05-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
28
被引用文献数
2

現在,洞海湾で水質浄化の試みとして,ムラサキイガイの養殖を行うことが計画されている。そこで,海域浄化に必要な養殖量とその効果を定量的に把握するために,鉛直2次元の数値生態系モデルを用いて洞海湾における物質循環の再現を行い,ムラサキイガイ養殖の有無による湾内物質循環の違いを調べた。その結果,ムラサキイガイ養殖量1,000トン以上で表層のクロロフィルa濃度は減少,湾奥底層の溶存酸素濃度は増加し始め,10,000トン養殖すれば赤潮防止に効果があり,貧酸素水塊の状態にも改善が見られることがわかった。10,000トン養殖時に,ムラサキイガイによる植物プランクトン摂食量は基礎生産量のおよそ2割に達し,2次生産量より大きい値であった。また,養殖しない場合と比較すると湾内有機物濃度が2~3割程度減少していた。洞海湾では工場からのTN(溶存・懸濁態窒素総量)負荷量が大きいため,ムラサキイガイ養殖による窒素除去効果は小さく,TN負荷量の約2%ほどであった。洞海湾が国の定めるTN環境基準を達成するためには,工場からのTN負荷量を削減しなければならないが,ムラサキイガイ養殖と工場からの負荷量削減の両方を組み合わせることで,より効果的に赤潮や貧酸素水塊の発生を防止できる。
著者
丹羽 淑博
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.175-188, 2017-09-15 (Released:2018-09-12)
参考文献数
63
被引用文献数
3

海洋中・深層の乱流混合は,深層大循環の強さやパターンをコントロールする重要な物理過程である。この乱流混合の基になるエネルギーは,潮汐流や地衡流が海底地形の上を通過したり,大気擾乱の移動に伴って風応力が変動したりすることによって励起される内部波のエネルギーが乱流スケールにまでカスケードすることによって供給される。本稿では特に内部波の励起過程に着目し,近年,理解が大きく進展した潮汐起源の内部潮汐波,大気擾乱起源の近慣性内部波,地衡流起源の風下内部波のグローバル分布に関する研を紹介する。さらに,中・深層の乱流混合のグローバル分布のパラメタリゼーションの実現に向け,残されている課題について議論する。
著者
久木 幸治
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.91-106, 2020

<p>短波海洋レーダによる波浪研究の現在までの進展について紹介する。短波海洋レーダが受信する波浪からの後方散乱電波のドップラースペクトルには,波浪を構成している全ての自由波成分が関与している。このため,ドップラースペクトルから波浪スペクトルを推定することが可能である。その推定手法には,半経験的な手法,パラメータ適合による手法,線形インバージョン法,非線形インバージョン法がある。この中で,半経験的な手法が最も広く使われている。半経験的な手法とは,ドップラースペクトルと波浪パラメータとの関係式において未知の係数を経験的に求めることによって波浪パラメータを求める手法である。パラメータ適合による手法は,広ビーム型短波海洋レーダで得られるドップラースペクトルの解析のために開発された。線形インバージョン法は,狭ビーム型短波海洋レーダで波浪スペクトルを求める手法として最もよく知られた手法であり,ドップラースペクトルと波浪スペクトルとの関係式を波浪スペクトルについて線形な式に近似してから,波浪スペクトルを求める手法である。非線形インバージョン法は,日本で最も精力的に開発が進められている手法であり,線形インバージョン法を高度化した手法である。短波海洋レーダによる波浪推定精度を高めるためには,推定手法の高精度化とともに,SN(信号対雑音)比の高いドップラースペクトルを選択する手法の開発が必要である。このことによって, 沿岸域における波浪の高い精度での予報が可能となることが期待される。</p>
著者
黒田 一紀
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.37-53, 2020-03-15 (Released:2020-03-27)
参考文献数
38

「海洋學談話會」は,農林省水産試験場の宇田道隆の発起により,海洋学に関する論著の紹介,試験研究成果の発表,および各職場の会員間の交流を目的として,1932年4月に開始された。東京・月島の水産試験場で月2 回木曜日の例会は1941年2月の172回まで続き,実講演者は80名,延べ話題提供数は506件に達した。この実績に伴う海洋学への情熱と連携の高まりによって提唱された日本海洋学会の創立は,海洋気象台(神戸)に既存していた「海洋学会」と話合いが行われたが,1937年前半に不調に帰した。その後,1939年末における標準海水準備委員会の立上げを切掛けとして,「海洋學談話會」と「海洋学会」との間に妥協が成立し,1941年1月28日に創立に至った。ここでは,「海洋學談話會」の発起,内容,切掛けおよび母体から日本海洋学会創立への紆余曲折の経緯を調べたので,関係科学者の役割も含めて報告する。キーワード:海洋 學談話會,海洋学会,日本海洋学会,宇田道隆,日高孝次
著者
諏訪 僚太 中村 崇 井口 亮 中村 雅子 守田 昌哉 加藤 亜記 藤田 和彦 井上 麻夕里 酒井 一彦 鈴木 淳 小池 勲夫 白山 義久 野尻 幸宏 Ryota Suwa Takashi Nakamura Akira Iguchi Masako Nakamura Masaya Morita Aki Kato Kazuhiko Fujita Mayuri Inoue Kazuhiko Sakai Atsushi Suzuki Isao Koike Yoshihisa Sirayama Yukihiro Nojiri 京都大学フィールド科学教育研究センター瀬戸臨海実験所 九州大学付属天草臨海実験所 琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底研究施設 琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底研究施設 琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底研究施設 琉球大学大学院理工学研究科 琉球大学大学院理工学研究科 東京大学海洋研究所 琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底研究施設 産業技術総合研究所 琉球大学 京都大学フィールド科学教育研究センター瀬戸臨海実験所 国立環境研究所地球環境研究センター Seto Marine Biological Laboratory Field Science Education and Research Center Kyoto University Amakusa Marine Laboratory Kyusyu University Sesoko Station Tropical Biosphere Research Center University of the Ryukyus Sesoko Station Tropical Biosphere Research Center University of the Ryukyus Sesoko Station Tropical Biosphere Research Center University of the Ryukyus Graduate School of Engineering and Science University of the Ryukyus Graduate School of Engineering and Science University of the Ryukyus Ocean Research Institute The University of Tokyo Sesoko Station Tropical Biosphere Research Center University of the Ryukyus Geological Survey of Japan National Institute of Advanced Industrial Science and Technology(AIST) University of the Ryukyus Seto Marine Biological Laboratory Field Science Education and Research Center Kyoto University Center for Global Environmental Research National Institute for Environmental Studies
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.21-40, 2010-01-05
参考文献数
102
被引用文献数
3

産業革命以降の二酸化炭素(CO_2)排出量の増加は,地球規模での様々な気候変動を引き起こし,夏季の異常高海水温は,サンゴ白化現象を引き起こすことでサンゴ礁生態系に悪影響を及ぼしたことが知られている。加えて,増加した大気中CO_2が海水に溶け込み,酸として働くことで生じる海洋酸性化もまた,サンゴ礁生態系にとって大きな脅威であることが認識されつつある。本総説では,海洋酸性化が起こる仕組みと共に,海洋酸性化がサンゴ礁域の石灰化生物に与える影響についてのこれまでの知見を概説する。特に,サンゴ礁の主要な石灰化生物である造礁サンゴや紅藻サンゴモ,有孔虫に関しては,その石灰化機構を解説すると共に,海洋酸性化が及ぼす影響について調べた様々な研究例を取り上げる。また,これまでの研究から見えてきた海洋酸性化の生物への影響評価実験を行う上で注意すべき事項,そして今後必要となる研究の方向性についても述べたい。The increase of the atmospheric carbon dioxide (CO_2) concentration after the industrial revolution caused global climate change. During the last several decades, coral reef ecosystems have been devastated by the mass-scale coral bleaching events caused by abnormally high seawater temperature in summer. In addition, increased atmospheric CO_2dissolves in the ocean, acts as an acid and finally decreases the pH level of seawater. This phenomenon, known as ocean acidification, is now being considered as a future threat to the calcifying organisms in coral reef ecosystems. In this review, we summarize basic backgrounds of ocean acidification as well as its potential impacts on coral reef calcifiers. Together with the distinctive mechanisms of calcification among specific groups, we review the impacts of ocean acidification on major reef-builders such as scleractinian corals, calcareous red algae and reef-dwelling foraminifera. Finally, we point out some recently-recognized problems in acidified seawater experiments as well as the future direction of this research field.
著者
永田 俊
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.1-18, 2019-01-15 (Released:2019-01-24)
参考文献数
63

溶存有機物を起点として細菌から原生生物やウィルスへとつながる微生物食物連鎖(微生物ループ)は,海洋の炭素・窒素循環の駆動システムとして重要な役割を果たしている。しかし,中・深層における微生物ループの変動や制御機構については未解明の点が多く,海洋生物地球化学モデルへの微生物過程の組み込みは依然として初歩的な段階にある。筆者は,1990年代に,深層における細菌の地理的分布に着目した研究を行い,粒子の沈降フラックスと,深層の細菌生産が共役していることを見出した。その後,この研究は,南北太平洋と南大洋を含む広域的な南北断面観測や,外洋域の定点での時系列観測へと発展した。その結果,表層からの炭素輸送と中・深層の細菌生産の応答の間に,時間的なずれが生ずる場合があることや,中・深層の微生物プロセスが従来考えられていた以上にダイナミックであることなどが明らかになってきた。本稿では,海洋の中・深層における微生物ループ研究の歴史的な流れを概説するとともに,ウィルスや細菌が関与する炭素循環制御システムの実験的な解析についてのいくつかの研究事例を紹介する。また,今後の課題として,表層から中・深層への炭素鉛直輸送の主要媒体である,凝集体(マリンスノー)の形成と崩壊に関わるメカニズムを解明することの重要性を指摘する。
著者
黒田 一紀
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.26, no.6, pp.251-258, 2017-11-15 (Released:2018-04-09)
参考文献数
26
被引用文献数
1

気象庁が1967年に始めた東経137度線の海洋観測は,2016年に50年目を迎えた。フィリピン海中央部に位置する観測線は,亜熱帯循環の主な海流系を横切り,その半世紀にわたる観測資料は,海況や物質循環および気候の長期変動に関わる有用な成果を産出してきた。本総説では,増澤譲太郎博士による137度線の創始を可能にした条件を3つ挙げ,それらに関わる経緯を詳述することにより,今後の本観測線の継承および海洋モニタリングのあり方に資することを目指す。3つの条件とは,黒潮研究に造詣深い増澤博士の指導力と先見性,気象庁が待望していた「凌風丸Ⅱ世」の代船建造,そして1965年に開始した国際黒潮共同調査の対象海域にフィリピン海が含まれたことである。付加する必須事項として,米国のMontgomery博士が留学中の増澤博士に,赤道海流系の重要性と大洋規模の定期的海洋環境監視の必要性を示唆した点がある。これらの条件が1966年に出揃った結果として,1967年1月の第1回137度線の定期海洋観測が実現した。
著者
関根 義彦 陳 苗陽
出版者
The Oceanographic Society of Japan
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.277-289, 2003
被引用文献数
2

日本南岸の黒潮流路の変動特性を知るため,1975年から1995年までの都井岬から房総半島沖までの9点からの黒潮の離岸距離を海上保安庁水路部の海洋速報の黒潮流路の中央点との距離として求め,その時間変動を調べた。その結果1975年に発生した黒潮大蛇行は室戸岬から大王崎にかけて離岸距離が大きく御前崎以東で離岸距離が小さいのに対し,1980年以後の五回の大蛇行は室戸岬から潮岬では離岸距離が小さく御前崎以東で離岸距離が大きくなり,大蛇行の流路のパターンが1980年前後で大きく変化していることが示された。大蛇行期ごとの平均距離をみると,1975年発生の大蛇行は伊豆海嶺の三宅島と八丈島の間のゲート領域を通るのに対し,1980年以降発生の大蛇行は平均距離が伊豆海嶺のゲート部よりも南に位置し,C型流路かゲート部を通る流路の選択を強制されることが示唆された。このため1980年以降発生の大蛇行は流路に及ぼす伊豆海嶺の地形効果が大きく,低気圧渦である大冷水塊を伴う大蛇行が比較的短時間で消滅する可能性が示唆された。九州南の潮位差解析により黒潮の南側分流の流量が大きいと都井岬から室戸岬沖の黒潮離岸距離が大きくなり,御前崎から石廊崎沖では離岸距離が小さくなる傾向が示された。一方北部流量が大きくなると,都井岬から潮岬沖の離岸距離が小さくなり御前崎から野島崎沖で離岸距離が大きくなる傾向がある。また,犬吠埼沖では黒潮の離岸距離が九州南の潮位差と有意な相関を示さない。
著者
高橋 大介 南條 悠太 大山 淳一 藤井 直紀 福森 香代子 武岡 英隆
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.1-19, 2010-01-05
被引用文献数
2

四国西岸に位置する法花津湾において2005年から2007年の夏季にビデオモニタリングを行い,湾内表層で形成されるミズクラゲ集群出現頻度の時間変動について調べた。ミズクラゲ集群出現頻度には,8月中旬から増加し,9-10月に減少する長周期変動と,10-15日周期で増減を繰り返す短周期変動が存在した。特に,短周期変動の強弱の経年変化は,四国西岸域で生じる急潮の強弱の経年変化と一致していた。そこで,急潮とミズクラゲ集群出現頻度の短周期変動との関係を明らかにするため,2007年の夏季法花津湾において係留観測と海洋観測を行った。法花津湾へ到達した急潮は湾内に暖水流入を引き起こすとともに,湾スケールの海水交換を励起した。この暖水流入にともなって湾外の既存水塊中にいたミズクラゲが湾内へ輸送され,湾内表層で受動的に集群することによって,夏季法花津湾表層ではミズクラゲ集群出現頻度が10-15日周期で変動していると考えられる。
著者
柳 哲雄
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.93-95, 1993-04-25 (Released:2008-04-14)
参考文献数
3

Tide and tidal current at the central part of the Seto Inland Sea on 29 March 1185, when the war between Genji and Heisi was carried out, are reproduced. The reproduced tide and tidal current well coincide with the description in "Heike-Monogatari".
著者
渡慶次 力 柳 哲雄
出版者
The Oceanographic Society of Japan
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.13, no.5, pp.475-491, 2004
被引用文献数
2

瀬戸内海沿岸と太平洋沿岸の潮位記録,人工衛星から得られた海面高度偏差記録,黒潮流轄の位置記録,四国沖の水温・塩分鉛直断面観測記録を用いて,2001年9月17日から20日に広島で発生した冠水被害を伴う高潮位の原因について研究した。その結果,近年広島における年平均潮位は地盤沈下により上昇(5.0mm y<SUP>-1</SUP>)しているため,潮位の季節変動が最大値をとる夏季から秋季に高潮泣か発生しやすい傾向にあることが判明した。特に,2001年9月に広島で発生した冠水被害を伴う高潮位は,これらの要因に瀬戸内海を含む太平洋沿岸の+10cm程度,約4か月周期を持つ海面上昇が重なったために発生した。高潮位に影響を与えた約4か月周期の海面上昇は,四国沖約250kmの海面高度偏差が負であり,四国沖の黒潮の接岸傾向時に発生していた。四国沖の海面高度偏差の変動は,中規模渦によるものと類推され,それが四国沖の黒潮離接岸に影響を与えて,瀬戸内海を含む四国沿岸における約4か月周期の海面昇降をもたらした可能性がある。近年の広島における年平均潮位は地盤沈下に伴い上昇傾向にあるために,夏季から秋季の大潮時に太平洋から瀬戸内海へ偏差10cm程度の海洋擾乱が加わると,通常の満潮面から約30cm 高いところに建造されている厳島神社においては,冠水被害を伴う高潮位が今後も頻繁に発生する可能性がある。
著者
渡慶次 力 柳 哲雄
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.13, no.5, pp.475-491, 2004-09-05
被引用文献数
2

瀬戸内海沿岸と太平洋沿岸の潮位記録,人工衛星から得られた海面高度偏差記録,黒潮流轄の位置記録,四国沖の水温・塩分鉛直断面観測記録を用いて,2001年9月17日から20日に広島で発生した冠水被害を伴う高潮位の原因について研究した。その結果,近年広島における年平均潮位は地盤沈下により上昇(5.0mm y^<-1>)しているため,潮位の季節変動が最大値をとる夏季から秋季に高潮泣か発生しやすい傾向にあることが判明した。特に,2001年9月に広島で発生した冠水被害を伴う高潮位は,これらの要因に瀬戸内海を含む太平洋沿岸の+10cm程度,約4か月周期を持つ海面上昇が重なったために発生した。高潮位に影響を与えた約4か月周期の海面上昇は,四国沖約250kmの海面高度偏差が負であり,四国沖の黒潮の接岸傾向時に発生していた。四国沖の海面高度偏差の変動は,中規模渦によるものと類推され,それが四国沖の黒潮離接岸に影響を与えて,瀬戸内海を含む四国沿岸における約4か月周期の海面昇降をもたらした可能性がある。近年の広島における年平均潮位は地盤沈下に伴い上昇傾向にあるために,夏季から秋季の大潮時に太平洋から瀬戸内海へ偏差10cm程度の海洋擾乱が加わると,通常の満潮面から約30cm 高いところに建造されている厳島神社においては,冠水被害を伴う高潮位が今後も頻繁に発生する可能性がある。
著者
浅 勇輔 広瀬 直毅 千手 智晴
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.39-50, 2007-01-05
被引用文献数
12

能登半島東岸では,台風通過後に度々強い海流(急潮)が発生し,強い振動流が1週間以上継続したとの報告もある。本研究では,急潮の全体像を把握するため,3次元海洋モデルを用いた数値実験を行なった。沿岸観測で捉えられた2004年の急潮の特徴,例えば台風通過後の位相差,1ms^<-1>を超える流速や周期性などを,モデルでよく再現することができた。さらに,能登半島北東沖で発生する吹送流が強い移流効果を伴って沿岸部の急潮を引き起こし,富山湾内ではその急潮が線形的な内部ケルビン波として反時計周りに伝播していくことが判明した。2004年の台風15号,16号,18号の場合を比較し,南西風によって励起される吹送流の強さに比例して,半島北部の水塊が富山湾のより奥まで輸送されることが示された。