著者
渡慶次 力 柳 哲雄
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.395-405, 2003-07-05
被引用文献数
1

沖縄本島では夏季台風が接近するため高潮の被害が深刻な問題となっている。一方, 2001年7月20日から23日に那覇において,観測史上初めて低気圧の通過や強風のない状況でも道路冠水の被害が発生して社会問題となった。そこで沖縄本島の那覇で観測された潮位記録と衛星から得られた海面高度偏差記録を用いて,台風通過のあった1997年8月17日の高潮位と,低気圧の通過や強風を伴わない状況で発生した2001年7月22日の高潮位の原因について調べた。その結果,高潮位を発生させた潮位の長期変動において,1997年と2001年は近年における那覇の経年的な年平均潮位の上昇と,夏季に最大値となる季節変動であるSa潮の振幅が大きかったことから,冠水被害を伴う高潮泣か発生しやすい傾向にあったことがわかった。さらに那覇において高潮位を発生させた潮位の短期変動の要因に関して,1997年8月17日においては台風通過に伴う海面上昇, 2001年7月22日においては直径を200kmから500kmと変化しながら,西の方向へ約6.3 cm s^<-1>の移動速度で北緯29度,東経157度付近から沖縄本島まで到達した中規模渦(10cm以上の正偏差域で定義される)による海面上昇が,主な要因であったことが解明された。
著者
中井 俊介
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.117-128, 1998-04-05
著者
上 真一
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.19, no.6, pp.283-299, 2010-11-05
被引用文献数
1

生物海洋学における研究目的の一つは,植物プランクトンから魚類などの高次栄養段階動物に至る食物連鎖の中でのエネルギー転送過程や物質循環過程を解明することであるが,人間活動の高まりが海洋生態系の変化を引き起こしている現在では,食物連鎖構造に及ぼす人間活動の影響を解明することも主要な研究テーマとなる。本稿は著者がこれまで行ってきた動物プランクトン(特にカイアシ類)の生産生態研究とクラゲ類大発生機構解明研究を概説し,魚類生産が持続するための沿岸生態系の保全と修復の必要性について述べる。食物連鎖の中枢に位置する動物プランクトンの生産速度の推定を目的として,まず分類群別に体長-体炭素重要関係を求め,動物プランクトン現存量測定の簡素化を図った。次に最重要分類群であるカイアシ類の発育速度,成長速度,産卵速度などと水温との関係から,本邦沿岸産カイアシ類の平均日間成長速度は冬季では体重(あるいは現存量)の約10%,夏季では約40%であることを明らかにした。瀬戸内海全域を対象とした調査航海を行い,現場のプランクトン群集の生産速度を求めた。その結果,植物プランクトンから植食性動物プランクトンへの転送効率は28%,さらに肉食性動物プランクトンへの転送効率は26%と,瀬戸内海は世界トップレベルの単位面積当りの漁獲量を支えるにふさわしい優れた低次生産構造を示した。1990年代以降瀬戸内海の漁獲量は急減し,一方ミズクラゲの大発生が頻発化し始めた。さらに2002年以降は巨大なエチゼンクラゲが東アジア縁海域に毎年のように大量発生し始めた。両現象に共通するのは人間活動に由来する海域環境と生態系の変遷(例えば,魚類資源の枯渇,富栄養化,温暖化,自然海岸の喪失など)であり,両海域はいわゆる「クラゲスパイラル」に陥っているようだ。クラゲの海からサカナ溢れる豊かな「里海」の創生に向けた海域の管理が必要である。
著者
中井 俊介
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.4, no.5, pp.433-440, 1995-10-30
著者
中井 俊介
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.6, no.6, pp.399-408, 1997-12-05
著者
大塚 攻 西田 周平
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.6, no.5, pp.299-320, 1997-10-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
147
被引用文献数
11 24

The feeding ecology of marine pelagic copepods has been intensively studied since the 1910's. Recently, many new techniques, such as high-speed cinematography, deep-sea ROV, and SCUBA, have been introduced for direct observatios of their feeding behavior. These have clearly revealed that particle-feeders employ suspension feeding but not filter-feeding and that appendicularian houses are important food items for some pelagic calanoid, harpacticoid, and poecilostomatoid copepods. Particle-feeders commonly utilize microzooplankton such as ciliates and copepod nauplii and fecal pellets. Detritivory, strict selective predation, and gorging have been found exclusively in oceanic copepods. Five calanoid families Diaixidae, Parkiidae, Phaennidae, Scolecitrichidae, and Tharybidae with special sensory setae on the mouthparts and the poecilostomatoid Oncaea are considered to be adapted for feeding on detrital matter such as appendicularian houses. Some heterorhabdids probably inject a venom or anesthetic into prey animals to capture them. In the laboratory, predation on fish eggs and larvae by copepods, rejection of some dinoflagellates by calanoids, developmental inhibition of copepod eggs by feeding on some diatoms, and copepods' reactions to fecal pellets were demonstrated. Pelagic copepods constitute an assemblage of evolutionarily different groups. Among the 10 orders, calanoids supposedly first colonized the marine pelagic realm, and, at present, are most successfully adapted of any order to this environment by a wide variety of feeding mechanisms. They have developed a wide variety of feeding mechanisms. On the other hand, poecilostomatoids have secondarily become adapted to pelagic environments and are loosely associated with fish larvae and pelagic invertebrates, such as salps and appendicularians, for feeding. The calanoid family Heterorhabdidae consists of 2 particle-feeding, 3 carnivorous, and 2 intermediate genera. A phylogenetic analysis showed that the carnivores could have originated from the particle-feeders through the intermediate conditions, and that the mouthpart elements of the carnivores could be derived from those of the particle-feeders with modifications of the original elements and no addition of novel structures. Recent studies demonstrate that some copepods such as scolecitrichids and Oncaea can efficiently feed on nanoplankton trapped in appendicularian houses, and also suggest that suspension-feeders may transport diatom resting spores into the sea-bottom in the epipelagic zone and metals in the deep-sea bottoms through their feeding behavior, and that epipelagic carnivores may compete with fish larvae for copepod nauplii and dinoflagellates.
著者
稲津 大祐 木津 昭一 花輪 公雄
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.57-69, 2005-01-05
被引用文献数
1

日本沿岸の85か所,および,韓国の日本海側の3か所の水位データを用いて,気圧変動に対する水位の応答とその海域特性を研究した。その結果,従来提唱されてきた静力学的なInverted Barometer (IB)応答(-1cm hPa^<-1>)が成り立つ海域は,水深の浅い内湾を除く,太平洋沿岸に限られることが明らかになった。一方,日本海やオホーツク海沿岸の水位は,総観規模の気圧変動に対して,最大半日程度の遅れを伴いながら応答することがわかった。日本海沿岸における応答時間の遅れは,対馬,津軽,宗谷海峡からの距離にほぼ比例していた。これらの結果に基づき,場所によって異なる水位の応答を仮定して,新しい気圧補正法を提案する。この補正によって,IB応答を仮定する従来の補正よりも確からしく気圧起源の変動成分を除去することができ,また山陰海岸に発生する陸棚波の信号をより確からしく抽出することができた。
著者
横田 華奈子 勝又 勝郎 山下 幹也 深尾 良夫 小平 秀一 三浦 誠一
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.19, no.6, pp.317-326, 2010-11-05
被引用文献数
1

マルチチャンネル反射法地震探査(Multi-Channel Seismic survey,MCS survey)は,これまで地震学において地下の構造探査に用いられてきた手法である。2003年にこのMCSデータを用いて海洋中の密度構造を可視化できることが指摘されてから,地震音響海洋学(Seismic Oceanography)と呼ばれるMCSデータを用いた海洋物理学が発展してきた。この新しい研究分野を本稿で紹介する。MCSデータとは人工震源から発振された音波の反射強度を記録したものである。ノイズが多いなどの難点はあるが,従来の海洋観測法では様々な制約から取得することが難しい水平・鉛直ともに高解像なデータである(水平分解能6.25〜12.5m,鉛直分解能0.75〜3m)。観測は船舶を停止せずに行われるため,約200kmの測線を前述の分解能で1日で観測できる。MCSデータを用いると広範囲の海洋中のファインスケールの密度構造を可視化することができる。ここでは一例として,伊豆・小笠原海域の1測線に見られた反射強度断面上の低気圧性渦を挙げる。
著者
升本 順夫
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.15-26, 2000-01-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
32
被引用文献数
1

西太平洋及びインド洋の熱帯域における海洋循環とその変動について,海洋大循環モデルを用いて行った著者の最近の研究を簡単に紹介する。特に西太平洋熱帯域に発達するミンダナオ・ドームの季節変動,インドネシア通過流に見られる年周期と半年周期変動,および南部熱帯インド洋の年周期強制ロスビー波を取り上げ,それらの発生機構を明らかにする。
著者
大西 広二
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, 2002-03-05

北太平洋中央部の亜寒帯海域において,北海道大学のおしょろ丸によるCTD観測が毎年6月の下旬に行われている。1990〜1998年の9年間,180°の経度線に沿って,48°N〜51.2°Nの間に9観測点が設けられた。このデータセットを用いて,水温,塩分,密度,地衡流速(3,000m基準)についての平均断面図や標準偏差断面図などを作成した。さらにEOF解析を用いて断面構造における空間分布と時間変動の解析を行った。流速断面のEOF第1モード(寄与率37.6%)は,西向きのアラスカンストリームと東向きの亜寒帯海流の強弱を表わす空間分布を示した。このモードの振幅関数では,1991年と1997年に正の極大値を持ち,亜寒帯海流の東向き輸送量の変動とよい一致を示した。また,この変動は,Ridge Domainにおける深層水の湧昇の度合いが強く関与していることが示された。
著者
和久 光靖 橋口 晴穂 栗田 貴代 金子 健司 宮向 智興 青山 裕晃 向井 良吉 石田 基雄 鈴木 輝明
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.1-17, 2011-01-05
被引用文献数
4

顕著な貧酸素水の発生源となり周辺の浅場生態系に致命的な打撃を与えている, 埋め立て用土砂採取跡地(浚渫窪地)およびその周辺海域における酸素の消費過程を解明するため, 主たる酸素消費物質である粒子状物質の沈降フラックスを測定した。2007年6月から2007年7月の間に計4回, 浚渫窪地の内外の3測点において, 浚渫窪地上面(CDL-3.5m)と浚渫窪地海底(CDL-6.9, -6.4m)に相当する深度にセディメントトラップを設置した。懸濁態炭素の沈降フラックス(PC flux)は, 0.35〜15.3gm^<-2>d^<-1>と観測日により大きく変動し, 膨大なPC flux(9.48〜15.3gm^<-2>d^<-1>)が-6.9, -6.4m層で観測された。膨大なPC fluxの観測時には, 浚渫窪地周辺の浅海域において, 浚渫窪地から湧昇した貧酸素水に起因すると推察される底生生物の大量へい死と, そこから浚渫窪地内部への海水流入が認められた。観測されたPC fluxを上方からの沈降成分と, 水平輸送に由来する成分へ仕分けた結果, 膨大なPC fluxの観測時, 水平輸送成分は, 多いときには上方からの沈降成分の7〜11倍に相当した。これらのことから, 浚渫窪地周辺の浅海域での底生生物の大量へい死に伴い激増した粒子状物質が, 海水の流動によって浚渫窪地に輸送された結果, 膨大なPC fluxがもたらされたと考えられた。このように, 浚渫窪地は, 窪地内部の貧酸素水に起因する周辺浅海域の底生生物のへい死を招き, 浚渫窪地へ膨大な量の粒子状有機物の集積を引き起こし, 貧酸素化を加速すると示唆された。
著者
佐藤 義夫 林 淳子 西森 真理 小野 信一 竹松 伸
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.193-204, 2000-07-05

海水(Mn~2+:約50ppm;pH:約8.0)中でバクテリアの媒介によって生成するマンガン酸化物鉱物を, いろいろなマンガン酸化バクテリアと海水の組み合わせを用いて調べた。その結果, hydrohausmannite, feitknechtite(β-MnOOH), manganite(γ-MnOOH), unnamed MnO_2 mineral(JCPDS Card:42-1316)および10Å manganate(buseriteあるいはtodorokite)が生成したが, マンガン酸化物が生成しない組み合わせもかなり存在した。バクテリアのマンガン酸化活性が高いときには, 酸化状態の高いMn(IV)酸化物が, それが低いときには, Mn(III)酸化物が, それぞれ生成した。各鉱物は, 中間物質を経ることなく, Mn~2+の酸化によって直接生成したものと考えられる。海洋環境に存在するMn(IV)酸化物は, 純粋な無機的反応よりもむしろ微生物の媒介によって生成するものと考えられる。
著者
杢 雅利
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.489-498, 2005-07-05

西部北太平洋亜寒帯域および移行域に生息するハダカイワシ科魚類の優占種について日周鉛直移動様式を解析して, 典型的な日周鉛直移動を行なう種, 夜間の分布が表層と中層に分かれる種, 夜間の分布の上限が昼間の分布の上限よりも浅くなる種, 日周鉛直移動を行なわない種の大きく4つのタイプに分けられることを明らかにした。さらに, 生物量で優占するトドハダカ, コヒレハダカおよびセッキハダカの3種について摂餌生態および成熟について多くの新知見を得た。特に, 胃内容物の精緻な解析から, 日周鉛直移動が餌の豊富な表層への摂餌回遊であることを示した。これらの知見は, 夜間の表層での魚類マイクロネクトンによる餌料プランクトン消費量を見積もる実証的パラメーターを示したもので, さらに精度の高い水産資源管理モデルの構築だけではなく, 外洋における生物ポンプの生態学的な理解にも大きく貢献するものである。さらに, トドハダカについては初期成長および産卵生態を明らかにして, 本種が亜寒帯域と移行域の間で摂餌・産卵回遊を行なっていることを示した。
著者
日本海洋学会海洋環境問題委員会
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.14, no.5, pp.601-606, 2005-09-05
被引用文献数
1

2001年, 日本政府は都市再生プロジェクト(第二次決定)において, 東京国際空港(以下, 羽田空港)の再拡張事業を選定し, 「国際化を視野に入れつつ羽田空港の再拡張に早急に着手し4本目の滑走路を整備する」方針を固め, 2002年6月, 「羽田空港を再拡張し, 2000年代後半までに国際定期便の就航を図る」ことを閣議決定した。4本目の新滑走路の位置を確定した国土交通省は, 2009年の完成を目指している。工期には約3年を要すため, 2006年春には着工の予定である。本事業の環境影響評価に関しては, 2004年11月28日に1か月間の環境影響評価方法書(以下, 方法書)の縦覧期間が終了し, 国土交通省は2006年の事業着工にむけ, 影響評価準備書(以下, 準備書)の作成段階に入っている。この事業計画は(図1), 羽田空港沖から多摩川河口域にかけて, 埋立と桟橋のハイブリッド構造の滑走路を建設するものである(図2)。こうした構造物の建設は, 東京湾の水域生態系に少なからぬ影響を与えることが考えられる。したがって, その環境への影響は時間をかけて慎重に論議され調査されなければならない。このことに照らせば, 方法書から準備書作成までの期間は, 環境影響評価を行うにはあまりにも短いように思われる。方法書に対する意見の提出期限(2004年12月13日)はすでに過ぎたが, 長年にわたり海洋の環境を調査・研究してきている日本海洋学会海洋環境問題委員会としては, 本事業の環境影響を最小限に止めることを切望し, 羽田空港再拡張事業における環境影響評価のあり方について特に見解を表明する次第である。
著者
岡村 和麿 田中 勝久 木元 克則 清本 容子
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.191-200, 2006-03-05
被引用文献数
8

2002年および2003年の夏季に有明海奥部・中部域および諫早湾において,表層堆積物の含泥率,酸化還元電位,有機炭素量,全窒素量,クロロフィル色素量および有機炭素安定同位体比(δ^<13>C)を測定した。有機炭素量は,有明海奥部の鹿島沖泥質平坦地の六角川と塩田川に挟まれた干潟浅海域および諫早湾の小長井沖から湾中部にかけての海域において,高濃度(>18 mgC gDW^<-1>)を示した。クロロフィル色素量は,有明海奥部の塩田川沖海底水道北部周辺海域および諫早湾の中部域において,高濃度(>100μg gDW^<-1>)を示した。δ^<13>Cは,有明海奥部の浅海域で低く(<-22.0‰),諫早干拓潮受け堤防付近を除く諫早湾と有明海中部域で高い値を示した(-21.0〜-19.4‰)。クロロフィル色素量およびδ^<13>Cの分布様式から,諫早湾では植物プランクトン起源の有機物が高濃度に堆積していることが推察され,実際に広い範囲で酸化還元電位が低下していることが観測された。潮流速の低下した諫早湾および諫早湾湾口の周辺では,赤潮植物プランクトン起源有機物の堆積により貧酸素水塊の頻発や慢性化が危倶される。
著者
乗木 新一郎 海老原 真弓 工藤 純子
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.205-217, 2000-07-05
被引用文献数
2

1995年12月から1996年12月の一年間, 東京湾湾口部の水深890mの790m層で時間分画式セジメントトラップを用いて沈降粒子を集めた。全粒子束は5-65g m~-2day~-1であった。粒子中の全二酸化ケイ素, アルミニウムそしてマンガンの濃度は, それぞれ, 47-62%, 4.4-7.3%, 800-1400ppmであった。春季から秋季にかけて, 陸源粒子束と生物起源二酸化ケイ素粒子束が増大したことによる全粒子束の極大が, 5回観測された。その時, 丁度東京湾上を台風または低気圧が通過していた。二つのことが考えられる。一つは, 表層堆積物の舞い上がりによる粒子の再移動であり, もう一つは, 台風の通過によって成層化が崩れて栄養塩の豊富な亜表層の海水が表面に出てきて, その後の日照時間の増加によってプランクトン増殖が促進されたことによる一時的な生物活動の増大である。また, 東京湾中央の表層堆積物には正のガドリニウム異常があったが, 沈降粒子には異常が見られなかった。このことから, 粒子が東京湾湾口の海底斜面に沿って外洋へ移動する経路があることを明らかにした。
著者
洪 鉄勲 尹 宗煥
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.1, no.5, pp.225-249, 1992-10-26

The effect of typhoon on the sea level variations at three tidal stations in Pusan, Izuhara, and Hakata in the Tsushima / Korea Strait is studied by using hourly sea level data and numerical experiments. The characteristic features of the sea level variations at these three tidal stations are found to be: (1) the existence of the time-lag between the maximum sea levels at these stations (2) the persistence of the high sea level at Pusan for about a week even after the passage of the typhoon and (3) the occurrence of oscillations with a period of about 2.5 days after the passage of the typhoon. The results of the numerical shallow water experiments with the high resolution (1/12^0 × 1/12^0) explain well the observed features of the sea level variations at three stations above. The time-lags between the maximum sea levels are caused by the difrerent response of the sea levels at each station to the typhoon. In Pusan and Izuhara, the sea level responds isostatically to the atmospheric pressure as the typhoon approaches to these stations, while in Hakata, there develops the southwestward coastal flow which is driven by the southwestward wind accompanied by the typhoon and cancels the increase of the sea level due to the isostatic response to the atmospheric pressure by the typhoon. The high sea level at Pusan after the passage of the typhoon may be maintained by the southwestward coastal current along the south Korean coast which is driven by the large scale cyclonic eddy formed in the Japan Sea by the typhoon, although the duration in the model is shorter than the observed one. The oscillation of about 2.5 days period after the passage of the typhoon seems to be a basin scale oscillations due to the propagation of Kelvin wave generated by the typhoon.
著者
高橋 鉄哉 藤原 建紀 久野 正博 杉山 陽一
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.9, no.5, pp.265-271, 2000-09-05
被引用文献数
11

1985-1992年に三重県が行った浅海定線調査のデータおよび京都大学が1997年9月2日に行った調査のデータを用いて, 伊勢湾において外洋系水が湾内へ進入する深度の季節変動を調べ, 湾内に形成される貧酸素水塊との関係を調べた。その結果, 外洋系水は, 4月から10月には中層より進入し, それ以外の季節には底層より進入すると推測された。外洋系水の進入深度の季節変動は, 湾内水と外洋系水の密度の季節変動が異なることによる。この進入深度の季節変動が, 貧酸素水塊の消長に寄与する可能性がある。
著者
宇野木 早苗
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.11, no.6, pp.637-650, 2002-11-05
被引用文献数
2 1

河川およびその流域で行われるさまざまな事業が,河川が注ぐ沿岸海域にどのような影響を与えるかが,4項目を取り上げて考察された。一つは川からの取水の問題で,取水によって海域の流れ,特に鉛直循環が著しく弱まり,海域の環境が悪化することが豊川用水事業を例に説明された。二つは川と海を断ち切る河口堰の問題で,ここでは特に諫早湾干拓事業の潮受堤防は長大河口堰であるとの認識の上に,潮汐・潮流の減少と膨大な千潟・浅瀬の喪失のため,また巨大汚濁負荷生成システムが機能して,有明海の顕著な環境悪化が生じたと解釈された。三つは沿岸の地形,自然,漁業環境を破壊する川からの砂供給の減少の問題で,球磨川を例にしていかに減少量が莫大であるかが示された。四つには流域の森林破壊の影響が議論された。河川事業の海域への影響は,河川内と異なって一般に緩やかに時間をかけて顕れ,また開発が進んだ内湾においては他の人為的影響と重なって判別が難しく,取り返しがっかない状態が生じやすい。事の重大性を認識して,研究の推進の必要性,および川と海を一体とした発想と管理が特に河川関係者に必要であることが,強調された。
著者
石田 明生 中田 喜三郎 青木 繁明 沓掛 洋志 岸 道郎 久保田 雅久
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, 2002-03-05

北太平洋における水塊とフロンの分布と特徴を,海洋大循環モデル(GCM)によって調べた。さらにGCMの実験によって得られた移流と拡散場を用いて,海洋による人為起源のCO_2の取り込み量を見積もった。GCM実験において用いられる拡散のパラメータ化と海面外力の違いが,CO_2の取り込み量に与える影響を,三つの実験によって調べた:すなわち,これまでの多くのモデルで用いられてきた水平・鉛直拡散過程による実験(RUN1),等密度面拡散を導入した実験(RUN2),等密度面拡散とともに,水温と塩分に冬季の海面境界条件を与えた実験(RUN3)である。水塊とフロンの現実的な分布は,等密度面拡散モデルによって再現された。水平・鉛直拡散のモデルは塩分極小や現実的なフロンの侵入を再現できなかった。塩分極小層の深さは冬季の外力のもとで,よりよく再現された。これらの結果は等密度面拡散と冬季外力の両者が,モデルによる水塊とフロンの再現に必須であることを示唆している。RUN3で得られた移流と拡散場を用いた人為起源のCO_2の海洋による取り込み量は,1990年において19.8Gt Cであった。この値は水平・鉛直拡散過程を用いたRUN1の結果より約10%大きい。これまでのモデルが,人為起源のCO_2の吸収源と考えられている中層の水塊構造をよく再現できなかったことから,本研究の結果は,これまでのモデルが海洋による人為起源CO_2の取り込み量を小さく見積もっていたことを示唆している。