著者
奥村 為男
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.62-69, 1992-01-10 (Released:2008-04-21)
参考文献数
17
被引用文献数
12 10

Reactivity or degradation of 135 pesticides was investigated in waters containing residual chlorine and ozone to clarify their behaviors in water purification processes, and discussed with respect to their molecular structures (or functional groups).The pesticides were divided into two groups according to their reaction behaviors to chlorine and ozone. One group was for pesticides reactive with chlorine and more reactive with ozone, and another included pesticides undegradable by chlorine but easily degradable by ozone. Function groups or chemical structures reactive with both chlorine and ozone were thiophosphoryl, sulfide, dithiocarbamate, thiocarbamate, uracil and phenol. Ether bond such as aliphatic hydrocarbon (Al)-O-Al and aromatic hydrocarbon (Ar)-O-Al and Cl-unsubstituted C=C (double) bond were degraded not by chlorine but by ozone. Ar-O-Ar ether, ClC=C (double) bond, phosphoryl groups, dinitroaniline and dinitrophenol were undegradable by both chlorine and ozone.With respect to molecular structure, triazine, acid-amide, carbamate and diphenylether were basically stable against both chlorine and ozone. Reactivity of pesticides including any these structure seemed to be derived from inner side-chain(s) with reactive site(s) for chlorine or ozone.The results showed that there were much more pesticides reactive with ozone than those with chlorine.
著者
吉岡 佐 栗栖 聖 花木 啓祐
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.9-21, 2015 (Released:2015-01-10)
参考文献数
46
被引用文献数
1

江戸城外濠におけるアオコの発生などによる悪臭,景観への影響を改善するための水質改善施策を,水量,水質,コスト,便益の多方面から定量的・総合的に評価し,その有効性を示した。まず,流出解析モデルにより主な水源であるCSOの流入量評価を行い,その結果と水位・水質の現地測定結果を基に,現状を再現できる水質モデルを構築した。次に,有効な施策としてCSO対策に加えて下水再生水の導水を考え,アオコの発生を防ぐことが可能な最低導水量4,653 m3·日-1を求めた。そして,最低導水量を基に施策に必要となるLCC:3.9億円·年-1を求め,CVMにより算定した施策の便益7.5億円·年-1と比較することにより,施策の有効性を示した。
著者
夏池 真史 菊地 哲郎 Lee Ying Ping 伊藤 紘晃 藤井 学 吉村 千洋 渡部 徹
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.39, no.6, pp.197-210, 2016 (Released:2016-11-10)
参考文献数
144
被引用文献数
12

食物連鎖の根底を担う藻類を含め生物にとって不可欠な微量元素である鉄は, 陸域から河川や地下水を経て下流に移行し, 沿岸域での基礎生産に貢献していると考えられている。本総説では, このような流域における鉄の生物地球化学動態について既往研究を整理した。鉄の化学的特性として, 中性pHでは無機第二鉄の溶解度はサブナノモーラーであること, 溶存有機物が鉄の溶解度を上昇させること, 種々の熱力学・光化学的反応が鉄の生物利用性と密接に関係することが明らかにされている。また, 微細藻類による鉄の生物利用性は鉄の化学種に強く依存するため, 陸域由来鉄が沿岸域の基礎生産に及ぼす影響を適切に評価するには, 鉄の化学種に着目して研究を進めていく必要がある。森・川・海のつながりにおける鉄と有機物の動態研究では, 陸での有機鉄の溶出から沿岸域生態系への移行までをカバーした総合的な研究が重要と考えられる。
著者
大山 浩司 矢吹 芳教 伴野 有彩
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.277-284, 2019 (Released:2019-11-10)
参考文献数
29
被引用文献数
2 4

大阪府内の農業地帯を流下する河川, 下水処理水の寄与が大きい河川, 及び大阪府内各地域の主な河川において, ネオニコチノイド系農薬及びフィプロニルの実態調査を行った。その結果, ニテンピラムとチアクロプリドを除く農薬が全ての調査地点で検出された。イミダクロプリドの濃度は6月に, ジノテフランの濃度は8~9月に顕著に上昇しており, これらは水稲におけるそれぞれの農薬使用時期と一致した。今回の調査で検出された農薬濃度は, 農薬登録基準および環境中予測濃度 (PEC) よりも低かったが, 種の感受性分布 (SSD) を用いた生態系への複合影響評価を行ったところ, 農業地帯の河川では5月下旬から6月下旬にかけて, EU等で無影響の基準とされている5パーセントよりも一時的に高くなると算出された。
著者
柴田 由紀枝 岩崎 雄一 竹村 紫苑 保高 徹生 髙橋 徹 松田 裕之
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.183-188, 2020 (Released:2020-11-10)
参考文献数
18
被引用文献数
2

和賀川の清流を守る会 (以下, 守る会) は, 岩手県を流れる和賀川を公害から守り, 清流を保護することを目的として多様な利害関係者によって1972年に結成された。上流域に存在する休廃止鉱山の水質監視を主要な活動の1つとして, 守る会は, 会発足時から河川での水質調査, 1976年からは鉱山での水質調査を開始し, 測定結果を会報で報告している。排水基準を超過した場合も含むすべての測定結果が, 会報で公開・議論されている点は情報公開のあり方の点からも興味深い。また, 会報のテキスト分析によって, 1972年から2019年までの間に, ①公害への危惧, ②休廃止鉱山での水質監視や鉱害防止対策, ③水生生物など自然環境全体の保全, と会報の話題が変化していることが示された。守る会の活動を分析・整理した本研究の成果は, 排水基準の遵守のみに依拠しない休廃止鉱山における柔軟な坑廃水管理を検討する上で貴重な基礎資料となると考えられる。
著者
田中 優希 矢口 淳一
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.97-105, 2018 (Released:2018-07-10)
参考文献数
21

青森県八戸市の東側に位置する蕪島海水浴場は, 近年糞便性大腸菌群濃度が高く一時遊泳禁止措置がとられることもあった。糞便汚染の原因を解明するため本研究では2014年5月から2年7ヶ月間指標細菌濃度をモニターすると共に, 汚染源に特異的な4つの遺伝子マーカーを使用してリアルタイムPCRによる遺伝子マーカー濃度の測定を行い, 汚染源の追跡を実施した。糞便性大腸菌群数は, 2014年5月2日に1.04×103個 100 mL-1と水浴場基準を超える値を示し, 2015年5月にも9.00×102個 100 mL-1に達していた。蕪島海水浴場の指標細菌数は春に増加し, 7月以降減少して海水浴シーズンには水浴可能のレベルとなっていた。糞便汚染の原因を解明するため使用したヒト, ブタ, ウシ, ウミネコの糞便汚染を特定する4つの遺伝子マーカーHF183, Pig-2-Bac, Rum-2-Bac, 及びCat998は, 下水とそれぞれの糞便を用いた試験結果よりそれぞれ90~100%の感度と80%以上の特異度を示し, これらのマーカーの有用性が検証できた。蕪島海水浴場における4つの遺伝子マーカーの検出状況をリアルタイムPCRで調査したところ, 遺伝子マーカーHF183, Cat998の濃度は大きく年間変動し, HF183は5月に最も濃度が高く, Cat998も5月から7月にかけて濃度が増加しその後減少した。ブタとウシの糞便汚染を示すマーカーPig-2-BacとRum-2-Bacは検出されなかった。遺伝子マーカーによる4つの汚染源の検討結果から, 蕪島海水浴場の糞便汚染の原因は, ヒトとウミネコの糞便によると推定される。
著者
鈴木 祥広 西山 正晃 糠澤 桂 石井 聡
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.19-26, 2018 (Released:2018-03-10)
参考文献数
20
被引用文献数
2

水環境におけるふん便指標細菌である大腸菌は, 環境中で再増殖することが知られており, 指標細菌としての妥当性が懸念されている。そこで本研究では, 下水処理水が流入する小河川において, 下水処理水の流入・混合後の流下過程における大腸菌数の変化について調査した。大腸菌のフラックスは, 上流地点と下水処理水の合計量よりも, その下流地点において増大する傾向を示した。また, 下流地点の底質で高密度の大腸菌数が検出された。そこで, パルスフィールド・ゲル電気泳動法によって大腸菌の遺伝子型の類似性を評価したところ, 上流の河川水, 河床付着物, ならびに底質から単離した大腸菌において遺伝子型の一致する株が確認された。以上のことから, 下水処理水の影響を強く受ける小河川では, 大腸菌が河床の付着物や底質に生残・蓄積しており, 再増殖する可能性も否定できないことが示唆された。河川における大腸菌数によるふん便汚染評価の解釈には, 留意する必要がある。
著者
小林 憲弘 小坂 浩司 浅見 真理 中川 慎也 木下 輝昭 高木 総吉 中島 孝江 古川 浩司 中村 弘揮 工藤 清惣 粕谷 智浩 土屋 かおり 寺中 郁夫 若月 紀代子 加登 優樹 小関 栄一郎 井上 智 村上 真一 金田 智 関 桂子 北本 靖子 堀池 秀樹 米久保 淳 清水 尚登 髙原 玲華 齊藤 香織 五十嵐 良明
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.223-233, 2017 (Released:2017-11-10)
参考文献数
23
被引用文献数
2 1

水道水中の臭素酸イオン (BrO3-) を既存の告示法よりも高精度かつ迅速・簡便に分析するために, LC/MS/MSによる測定方法を検討し, 臭素酸イオンを高感度に検出でき, さらに水道水中に含まれる他の陰イオンを良好に分離可能な測定条件を確立した。さらに, 本研究で確立した測定条件が全国の水道水に適用できるかどうかを検証するために, 水道事業体等の23機関において水道水に臭素酸イオンを基準値 (0.01 mg L-1) およびその1/10 (0.001 mg L-1) となるように添加した試料を調製し, 各機関で最適化した様々な測定条件で試験を行った。その結果, いずれの機関においても厚生労働省が示している「水道水質検査方法の妥当性評価ガイドライン」の真度, 併行精度および室内精度の目標を満たしたことから, 本分析法は水道水中の臭素酸イオンを基準値の1/10 (0.001 mg L-1) まで高精度に分析可能であると評価した。
著者
志々目 友博
出版者
Japan Society on Water Environment
雑誌
水環境学会誌 = Journal of Japan Society on Water Environment (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.29, no.8, pp.469-476, 2006-08-10
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

The amounts of Co-PCB emission in Tokyo Bay basin were estimated using a multimedia environmental model, the CoZMo-POP model, which was developed for describing the long-term fate of persistent organic pollutatnts (POPs) in a coastal environment. The Co-PCB concentrations in sediment estimated using the model effectively explained the chronological changes in the concentrations in substances that settled at the bottom of sea water, which were estimated by a sediment mixing model based on the concentrations in sediment core samples. Furthermore, the estimated chronological changes in the amounts of Co-PCB emission in each year were in agreement with the chronological changes in PCB demand in Japan.
著者
浦瀬 太郎 筒井 裕文 稲生 武士 陳 浩楊
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.107-114, 2017 (Released:2017-05-10)
参考文献数
21

生物処理機能に悪影響を与えるほど高濃度で廃水中に医薬品が含まれることは稀であるが, 抗菌薬服用者のし尿のみを処理する小規模浄化槽では生物処理機能への影響が生じる可能性がある。本研究では, 分解の遅い医薬品成分までをゆっくりと分解することを目指した二段式膜分離活性汚泥法において, わが国でも使用量の多い抗菌医薬品であるレボフロキサシン (LVFX) およびクラリスロマイシン (CAM) が流入した場合の生物処理機能への影響を調べた。LVFX 5 mg L-1の添加, あるいは, CAM 2 mg L-1の添加により, 40%以上硝化が抑制され, また, 毎日の膜洗浄が必要なほどの膜目詰まりが生じた。また, こうした悪影響は, 抗菌薬の添加開始より遅延して生じ, 添加を中止しても回復しなかった。この原因として, 活性汚泥による抗菌薬の吸着緩衝作用が重要であることが示唆された。
著者
高橋 威一郎 高瀬 勝教 竹下 佳代子 河野 博幸 馬見塚 守 岐津 英明
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.51-62, 2016 (Released:2016-03-10)
参考文献数
23
被引用文献数
6

大分県の芹川ダムにおいて, 平成26年10月に2-メチルイソボルネオール (MIB) が高濃度化し, 本ダムの下流の表流水を水道水源とする大分市では大規模なかび臭障害が発生した。原因はダム湖内でのかび臭物質産生藍藻 (かび臭藍藻) の増殖であり, 遺伝子配列解析及びMIB産生能評価の結果, Pseudanabaena limnetica及びPseudanabaena galeataと推定された。11月中旬のダム湖秋季循環期到来以降, 湖内のかび臭藍藻やMIBは急激に低減し, 微生物群集構造解析の結果, 湖水循環前後での群集構造の変化が認められ, 細菌による生物分解の関与が示唆された。かび臭藍藻は水温が10 ℃以下の低水温環境でも生息し続け, MIB産生能もわずかに有し, 15 ℃以上となると活発な増殖と高いMIB産生能を示した。また, かび臭藍藻の溶藻やMIBの分解等の生物分解の発現にも至適温度があることが示唆された。
著者
石川 百合子 川口 智哉 保高 徹生 東野 晴行
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.29-43, 2014 (Released:2014-03-10)
参考文献数
27
被引用文献数
2 1

本研究では2011年3月の福島第一原発事故により放出された放射性セシウムによる河川流域における河川水濃度と流域土壌に蓄積した量(本論文では,蓄積量と表記する)の残存状況の推定を目的とした数値シミュレーションモデルを構築した。産総研-水系暴露解析モデル(AIST-SHANEL)をプラットフォームとし,流域における懸濁物質の流出ポテンシャルと放射性セシウムの動態を考慮したモデルを導入し,阿武隈川水系を対象にケーススタディーを実施した。その結果,本モデルの妥当性を検証し,降水による出水に伴う放射性セシウムの総流出量は僅かであることが示された。特に,セシウム137は自然崩壊が少ないことも相まって流域における蓄積量を減少させるのは困難なことが考えられ,除染をはじめ総合的な対策を検討することの必要性が示唆された。本モデルは放射性セシウムの河川流域での挙動解析や汚染対策の評価を可能にするものと考えられる。
著者
鈴木 祥広 丸山 俊朗 高見 徹 土手 裕
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.19, no.5, pp.388-396, 1996-05-10 (Released:2008-01-22)
参考文献数
25
被引用文献数
5 4

Monochloramine (NH2Cl) is the strongest toxic substance resulting from chlorinated sewage effluent. To estimate of NH2Cl on the growth of organisms in coastal region, disappearance of NH2Cl in seawater was investigated.Changes concentration of NH2Cl and total oxidant in artificial seawater were determined. The concentration of NH2Cl decreased with time and reached to 20% of the initial concentration after 6 hour at 30°C. On the other hand, 90% of the initial concentration of total oxidant was detected after disappearance of NH2Cl. The rate constant of NH2Cl disappearance was not concerned in the initial concentration at constant temperature. Disappearance of NH2Cl depended on water temperature, and the rate constant followed the Arrhenius equation. The rate constant and half-life value at 20°C for NH2Cl in seawater were 0.031 h-1 and 10 h. These results suggested that the effluent contained NH2Cl would be enough to effect on coastal organism until its disappearance. NH2Cl disappearance depended on salinity. However, NH2Cl in artificial seawater without KBr was stable even in the same condition. It was clear that the disappearance factor of NH2Cl was in existence of Br-. NH2Cl changed to the other oxidant with Br-, therefore, the product which may act on organisms still remained in seawater after disappearance of NH2Cl.
著者
稲村 成昭 山崎 宏史 西村 修
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.123-127, 2013 (Released:2013-07-10)
参考文献数
4
被引用文献数
1 1

本研究では浄化槽の法定検査結果による浄化槽処理水BODと浄化槽内水温のデータ16万件を検査月ごとに集計して解析した結果から,処理水平均BODへの水温による影響は,現在の水温ではなく,過去4~5ヶ月から現在までの水温の履歴を含めた移動平均水温に高い直線的な相関があった(平均水温が11~25℃の範囲において)。このことは,現在の浄化槽の状態は一定の過去から現在までの水温の累積によって左右されていることを意味している。また,これまでの調査データでは,現在の水温が低い程,処理水BODも低いといった現象も認められたが,移動平均水温として評価することにより,浄化槽の処理性能に対して,これまでの想定通り,水温が高いほど,処理水BODが低くなることが改めて確認された。
著者
永淵 修 中澤 暦 篠塚 賢一
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.35-42, 2019 (Released:2019-01-10)
参考文献数
51

上流域に自衛隊の射撃場を持つ, ため池の鉛汚染について, その起源を特定する方法を検討した。鉛は各鉛鉱山によりその安定同位体比が異なることが知られている。そこで, 射撃場を含む流域内の堆積物と土壌を採取し, その鉛同位体比を基に起源を検討した。その結果, 射撃場の影響下にある土壌・堆積物とその影響を受けないものでは鉛同位体比が異なっていた。さらに, 銃弾に使用されている亜鉛, 銅と鉛の組成比からD.I. (Distance Index) を計算し, D.I.値を用いてクラスター分析を行ったところ射撃場の影響を受けた地点と受けてない地点ではD.I.の値が大きく異なり, クラスターも二つに分離された。したがって, 土壌・堆積物の鉛汚染の起源を特定する方法として, 鉛同位体比を含めた金属組成比によるD.I.およびクラスター分析等の結果を統合する解析法は, 鉛汚染の起源推定の確度を上昇させる優れた手法であることを確認した。
著者
鈴木 穣 柴山 慶行 岡本 誠一郎
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.87-96, 2017 (Released:2017-03-10)
参考文献数
34

公的機関の水質調査データ等を用いて, 霞ヶ浦 (西浦) における藍藻類の長期的消長に影響する主要水質因子の検討を行い, 藍藻類は, 底泥表面の溶存酸素濃度が低下し溶解性マンガン濃度が増加傾向にあるときに増殖する傾向にあることを明らかにした。水質の統計解析結果と合わせて, 底泥から溶出する溶解性マンガンが藍藻類の増殖に及ぼす影響を考察するとともに, 底泥表面の溶存酸素濃度の低下は, 海水侵入が主要因と考えられることを示した。併せて, 今後必要な調査・研究に関する提言を行った。
著者
浦瀬 太郎 川野 唯人 佐藤 美桜
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.83-90, 2022 (Released:2022-03-10)
参考文献数
40

水環境中の薬剤耐性菌についての2000年代初頭の研究事例との比較を目的に、神奈川県内の金目川, 大根川, 渋田川, 鶴見川において, 2019年に大腸菌の様々な抗生物質への耐性率を調べた。下水道の普及率が高い地域においても, セフォタキシム耐性に代表されるヒト由来の大腸菌にしばしばみられる耐性プロファイルを持った大腸菌が多く検出され, 採水場所付近の合流式下水道の越流水の影響や伴侶動物の関与が示唆された。一方, テトラサイクリンとスルファメトキサゾールに同時に耐性を持つ株が渋田川で多く検出された。2000年代初頭の同じ場所での大腸菌における耐性調査に比較して, 今回の調査では, 畜産に関連すると考えられる耐性や一般的な耐性であるアンピシリンへの耐性率が有意に減少した。レボフロキサシンやゲンタマイシンなどへの耐性率は増加したが統計的に有意な増加ではなかった。
著者
亀田 豊 山下 洋正 尾崎 正明
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.31, no.7, pp.367-374, 2008 (Released:2010-01-09)
参考文献数
27

The occurrence of sixteen synthetic fragrance materials and nine organic UV filters was investigated in influent, effluent, and excess sludge in 47 sewage treatment plants (STPs) in Japan. Their loads into the STPs and into an aquatic environment via STPs were estimated according to their influent and effluent concentrations. Highest loads in influent into the STPs and effluent into the aquatic environment were 1.79 mg · day-1 · inch-1 for homosalate and 0.31 mg · day-1 · inch-1 for ethylhexyl methoxy cinnamate (EHMC), respectively. Removal ratios of the fragrance materials and organic UV filters in the STPs were also calculated. The removal ratios varied markedly among compounds. The minimums of the removal ratios were higher than 90 % for benzyl acetate, methyl dihydrojasmonate, octyl salicylate, homosalate, benzyl salicylate, isoamyl-p-methoxycinnamate, and octocrylene, moreover, the lowest removal ratio was approximately 50 % for EHMC. The removal ratios due to adsorption onto the sludge to the total removal ratio were evaluated from the concentrations of compounds in the return sludge. The highest ratio of the removal due to adsorption onto the sludge to the total removal ratio was 40 % for 1,3,4,6,7,8-hexahydro-4,6,6,7,8,8-hexamethyl-cyclo-penta-[g]-2-benzo-pyrane and 7-acetyl-1,1,3,4,4,6-hexamethyl tetrahydro-naphthalene. Many of the organic UV filters measured were evaluated to be less removed by adsorption because of the markedly higher adsorption to the influent sludge than to the return sludge. Further research on their adsorption and biodegradation in the STPs is required.
著者
對馬 育夫 小越 眞佐司 山下 洋正 原田 一郎
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.23-28, 2013 (Released:2013-01-10)
参考文献数
7
被引用文献数
8 8

福島第一原子力発電所事故に伴い飛散した放射性物質が,東北·関東を中心とする多くの下水処理施設において検出されている。本研究では,放射性物質により下水汚泥が高濃度に汚染されるメカニズムを解明するため,関東・東北地方の4箇所の下水処理場を対象に,流入状況の調査および各処理過程における放射性核種分析を行った。さらに,放射性物質を含む下水汚泥の埋立処分のための知見を得るため,下水汚泥焼却灰及び溶融スラグについて,溶出試験を行い,放射性セシウムの溶出特性を調査した。その結果,下水処理場内に流入した放射性物質は主に反応槽内において保持されていること,大部分の放射性物質が浮遊物とともに汚泥側に移行していることが示された。また,溶出試験において,本試験に供した12検体のうち9検体については,溶出液の放射性物質は検出限界値以下であり,残り3検体については,溶出率が0.5-2.7%と極めて小さかった。
著者
魚野 隆 濱口 昂雄 久米 幸毅 細谷 和海
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.34, no.9, pp.109-114, 2011 (Released:2011-09-10)
参考文献数
15
被引用文献数
2 1

メダカは,遺伝的特徴によって北日本集団と南日本集団に大きく二分される。両集団は,京都府由良川水系において側所的に分布しているにもかかわらず,それぞれ純系を維持している。このことは,両集団間に生殖的隔離が成立していることを示唆している。そこで,両集団の生態的分化の程度を探る一環として,京都府由良川水系の南北集団を用いて,通常時と刺激を与えた時の群れ行動について比較実験を行った。通常時では,南日本集団は北日本集団より小さな魚群半径を形成した。しかし,4尾の場合では魚群半径にばらつきが見られた。刺激を与えた時では,南日本集団は一度分散した後,密集し,静止した。一方,北日本集団は活発に動いていたが,冬期に南日本集団と同様に静止することを確認した。以上の結果から,南北集団間で群れ行動が異なることが確かめられ,そのことから地域性を無視した放流は生態的地域固有性を失わせるものと危惧された。