著者
八巻 幸二
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.7, pp.319, 2010-07-15 (Released:2010-09-01)
参考文献数
1

アディポカインとは,脂肪細胞から産生・分泌されるさまざまな生理活性物質の総称である.従来アディポサイトカインの名称でも用いられて来た.「アディポ」は脂肪,「サイトカイン」は細胞間生理活性物質を意味する複合語である.現在「サイトカイン」の名称は細胞間の情報伝達物質で免疫調節物質として用いられる場合が多く,免疫調節と関係のない物質もあることより,大きな意味で,近年はアディポカインを用いる場合が多いと思われる.これまでは脂肪細胞は単なる油滴を蓄えるエネルギー貯蔵庫細胞と考えられてきたが,近年メタボリックシンドロームに関わる重要な生理活性物質を産生・分泌していることが明らかとなった.これまでに報告されたアディポカインとして,アディポネクチン(adiponectin),レプチン(leptin),レジスチン(resistin),TNF-α (tumor necrosis factor-α,腫瘍壊死因子),アンジオテンシノーゲン(angiotensinogen),PAI-1 (plasminogen activator inhibitor-1),HB-EGF (heparin binding-epidermal growth factor-like growth factor),ビスファチン(visfatin)などがある1) .またアディポカインの分類では,インシュリンの抵抗性やメタボリックシンドロームを進行させるものを悪玉,よい方向に導くものを善玉と慣用的に呼ぶ場合がある.脂肪細胞には形態学的に,小型脂肪細胞,大型(通常)脂肪細胞,巨大化した大型脂肪細胞に分類されている.小型脂肪細胞は直径10μm前後で,球形であり,大型(通常)脂肪細胞は直径70-80μmで,球形ぶどう型である.また巨大化した大型脂肪細胞は直径が100μmを超える多面体型である.通常成長から肥満への過程で,小型脂肪細胞から大型の細胞に分化し,さらに巨大化した大型脂肪細胞へ分化する.また脂肪組織としての分類は,付着する部位が周辺の場合内臓脂肪,皮膚の下の皮下組織の場合は皮下脂肪に分類されている.また脂肪組織の機能によって,脂肪組織は白色と褐色に分類され,通常エネルギーとしての中性脂肪を蓄える単胞性脂肪細胞を白色脂肪組織,蓄えた脂肪をエネルギーとして使用し熱産生の働きを持つ多胞性脂肪細胞を褐色脂肪組織としている.1) アディポネクチンは小型脂肪細胞から分泌され,インシュリンの感受性を高めて糖代謝を促進する.また血管拡張作用を持ち血圧上昇を抑制する.また内臓脂肪の巨大化ではその分泌量が低下し,糖代謝異常高血圧を誘導することでメタボリックシンドロームが進行する.そのため,善玉と考えられている.2) レプチンは,白色脂肪細胞から分泌され視床下部の満腹中枢に働き食欲を抑制する.脂肪が増加すると分泌が高まり食欲を低下させ肥満を予防するが,脂肪がたまりすぎるとレプチン過剰になり満腹中枢が反応しなくなりレプチン抵抗性となる.3) レジスチンは脂肪細胞から分泌されるインシュリン抵抗性ペプチドとして発見された.この遺伝子の変異では糖尿病リスクが高まることが明らかになっている.4) TNF-αは白血球(マクロファージ)から産生されるサイトカインとしてよく知られている.通常マクロファージから産生され炎症やアレルギーの初期において白血球の遊走に関与するサイトカインである.近年このタンパクが脂肪細胞からも産生されることが明らかになって,インシュリンレセプターの働きを抑制し,インシュリンの抵抗性を誘導する.すなわち悪玉として作用するアディポカインの一つである.5) アンジオテンシノーゲンは,本来肝臓で産生,血液中に分泌される血圧に関与するタンパクであるが,脂肪細胞でも産生されることが明らかとなった.血液中のアンジオテンシノーゲンは腎臓から分泌された分解酵素であるレニンで分解され10個のペプチドからなるアンジオテンシンIとなりアンジオテンシン変換酵素によって2個ペプチドが切り出され,アンジオテンシンIIになり,この物質は強力な血管収縮作用を持つため血圧を上昇させる方向に働く.(View PDF for the rest of the abstract.)
著者
花村 高行 青木 仁史 内田 絵理子 萩原 俊彦
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.6-12, 2008-01-15 (Released:2008-02-29)
参考文献数
21
被引用文献数
1

アセロラはアスコルビン酸含量の高い果実として知られている.アスコルビン酸は必須栄養素としてだけでなく,美白効果をもつ美容素材として化粧品や健康食品に広く使用されている.アセロラの美容効果についてはin vitro試験での有効性は報告されているが,ヒトを対象とした試験の報告は見当たらない.我々は40代の閉経前の健康な女性について,アセロラ果汁飲料の12週間摂取による美容効果をアスコルビン酸含有飲料およびアスコルビン酸を含有しない飲料を対照として二重盲検並行群間比較法により検討した.美容効果の評価は機器による評価,被験者による肌状態のVAS法を用いた自己評価および皮膚科専門医による肌状態の評価により行った.その結果,被験者の自己評価および医師の評価ではアセロラ果汁飲料は2種類の対照飲料より,肌状態に対して高い効果を示した.従って,これらのアセロラ果汁飲料の美容作用には,アスコルビン酸だけでなく他の成分の関与が示唆された.しかしながら,機器による評価では対照とアセロラ果汁摂取で明確な違いは認められなかった.
著者
成澤 朋之 江原 雅人 原田 雅典 海野 まりえ 金子 雅明 仲島 日出男
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
pp.NSKKK-D-23-00002, (Released:2023-04-13)

本研究では高灰分粉の使用による国産小麦を原料としたパンの味・香り成分の変化を確認した. LC/MSおよびGC/MS測定の結果, 共通して高灰分粉20 %以上の置換により呈味成分や揮発性成分の傾向が分かれた. 高灰分粉の添加により, アミノ酸の含有量およびアルコール類やラクトン類といった発酵生成物と考えられる化合物群の面積値が増加した. また, メイラード反応生成物も高灰分粉の添加により面積値が増加した. 官能評価において, 国産小麦のパン用小麦粉の特徴を表す単語として「甘味」や「塩味」などが, 高灰分粉40 %置換の特徴を表す単語として「焦げ臭」や「酸味」, 「えぐみ」などが選定された. 高灰分粉の添加により発酵生成物やメイラード反応生成物が増加しており, これらの化合物群が高灰分粉添加のパンの官能評価特性に影響を与えていることが示唆された. 高灰分粉をパンの添加材料として活用することで, 低コストで従来のパンとの風味差別化を図ることが可能になると考えられる.
著者
遠藤 千絵 石黒 浩二 瀧川 重信 野田 高弘 波佐 康弘
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.50-55, 2015-01-15 (Released:2015-02-28)
参考文献数
16
被引用文献数
2 1

生食用ジャガイモ品種の低温貯蔵による糖増加特性を解析した.品種によって糖の増加程度が異なること,特に「インカのめざめ」「インカのひとみ」は長期低温貯蔵で糖が顕著に増加することが明らかとなった.増加した糖組成の解析から「インカのめざめ」は「ショ糖増加型」,「キタアカリ」は「還元糖増加型」,「ノーザンルビー」は両タイプの中間的な特性を持つ品種であることがわかった.「インカのめざめ」においては,二地点の圃場で収穫された塊茎でも同一カ所の低温貯蔵で1ヶ月以降同程度の糖増加が見込めること,低温貯蔵出庫後,室温におくと1週間程度で増加した糖の40%弱が,1ヶ月後までには50∼70%強が消失すること,1週間後までに室温から低温に戻せばその後3週間程度で出庫時の80%程度まで糖量を回復できることが明らかとなった.
著者
渡辺 智子 広瀬 理恵子 安井 明美
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.11, pp.731-738, 1999-11-15 (Released:2009-05-26)
参考文献数
24
被引用文献数
9 8

無洗米(水稲品種:コシヒカリおよびヒノヒカリ)についてその表面構造,成分含有量と嗜好性を検討した.その結果,いずれの品種にも共通していたことは,(1) 精白米は,無洗米処理により糠が剥離し表面構造に変化がみられ,灰分,Cuを除く無機質(特にMgおよびFe),ビタミンB1およびナイアシンで有意な損失がみられた.(2) 無洗米飯は精白米飯に比べ,脂質およびMgが有意に低い値,Ca,NaおよびKが有意に高い値を示した.(3) 無洗米飯は炊飯による成分変化がほとんど見られなかった.精白米飯は洗米操作によると考えられる灰分,無機質,水溶性ビタミン類の損失がみられた.(4) 無洗米および無洗米飯は,精白米およびその飯に比べ,明度がやや高い値を示した.(5) 官能評価の結果から,無洗米飯は精白米飯に比べ,外観の白さ,透明感,つやおよび色で評価が高くコシヒカリで有意差が見られた.これらの結果より,無洗米飯は精白米飯に比べ,Ca,Na,K,Zn,Cu,水溶性ビタミンを多く含有し,嗜好面ではほとんど差がみられないことがわかった.
著者
白坂 憲章 高崎 竜史 吉栖 肇
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.10, pp.495-498, 2005 (Released:2007-04-13)
参考文献数
4
被引用文献数
4 5

梅加工品中に含まれる抗酸化・抗変異原活性を有する機能性成分として梅果実成分リオニレシノールの含量を検討し, 以下のような結果を得た.市販の調味梅干のリオニレシノール含量は製品の塩分濃度が低い製品ほどリオニレシノールの含量およびラジカル消去能が低い傾向がみられ, 調味工程における脱塩操作における流出が主たる原因と考えられた.調味梅干製造の漬け込み工程において, 調味液が果肉に浸透する調味の初期においては, 果肉からのリオニレシノールの溶出とその含量の減少に伴うと考えられるラジカル消去能の低下が認められたが, 調味液が浸透する2週目以降においては, リオニレシノール含量, ラジカル消去能共に増加が認められ, 浸透圧による種からのリオニレシノールの再移行が生じたと考えられた.以上の結果より, 調味液に添加が不可能なリオニレシノールなどの機能性成分の調味行程における低下を防ぎ, 有用成分を多く含む調味梅干を製造するには, 塩濃度を低下させるための過剰な脱塩を避け, 十分な浸透圧を持つ調味液を用いて十分な時間をかけて調味を行うことが必要と考えられた.

3 0 0 0 OA MCTオイル

著者
都築 和香子
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.11, pp.440-441, 2019-11-15 (Released:2019-11-27)
参考文献数
4
著者
田中 直義 木村 小百合 木内 幹 鈴木 あゆ野 村松 芳多子 三星 沙織
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.167-174, 2012-04-15 (Released:2012-05-31)
参考文献数
33
被引用文献数
2

糸引き納豆は醗酵後の冷蔵中ににおいが変化してゆくことが知られており,品質の変化が早く生鮮飲食品並みの消費期限が設けられている.冷蔵中における主要なにおい物質の変化を以下の方法で検討した.(1) 購入直後の市販納豆および1週間冷蔵庫中で保存した市販納豆から臭い物質を連続水蒸気蒸留抽出によりエーテルに抽出し,濃縮した.得られたエーテル濃縮液をガスクロマトグラフ-におい嗅ぎ法で分析したが,試料間の差異が大きかったのでエーテル濃縮液を10の指数関数的に希釈することにより,主要な臭い物質を検索した.その結果,主要なにおい物質として2-メチルプロパン酸エチル,2-メチル酪酸エチル,3-メチル酪酸エチルなどの低分子脂肪酸エステル,2,5-ジメチルピラジン,トリメチルピラジンなどのピラジン類,酢酸,2-メチルプロパン酸,2- or/and 3-メチル酪酸などの低分子脂肪酸,およびエタノールが検出できた.1週間冷蔵中で保存するとそれらの物質の中で,低分子脂肪酸エステルのにおいは弱く,ピラジン類と低分子脂肪酸は強くなる傾向にあった.(2) 醗酵終了直後および冷蔵日数の異なる納豆からにおい物質をSPME法で抽出・濃縮し,ガスクロマトグラフで分析し,主要なにおい物質の変化を測定した.冷蔵日数が長くなるにつれて主要なにおい物質の中で,低分子脂肪酸エステルは減少,ピラジン類と酢酸以外の低分子脂肪酸は増加する傾向にあった.以上の結果から,冷蔵中のにおいの変化は,脂肪酸エステル類が減少し,ピラジン類および酢酸以外の低分子脂肪酸類が増加することによるものと推定した.
著者
嶋田 貴志 岡森 万理子 深田 一剛 林 篤志 榎本 雅夫 伊藤 紀美子
出版者
日本食品科学工学会
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.604-607, 2011 (Released:2012-12-03)

5週齢のBALB/c系雌マウスにスギ花粉アレルゲンを5回感作した後、腹腔内にアレルゲンを投与して好酸球を集積させるI型アレルギーの遅発相モデルを作製した.このモデルに対して、モリンガ(Moringa oleifera)の葉を3種の混合比(0.3%、1.0%および3.0%)で混じた粉末飼料を自由摂取させ、好酸球の集積および血清中の総IgE量に対する影響を調べた.通常の飼料を与えた対照群と比較してモリンガ葉を0.3%および3.0%与えた群は、総白血球数および好酸球数で有意な低値を示した.血清中総IgE量では対照群と比較して3.0%のモリンガ葉を与えた群が有意な低値を示した.以上の結果より、モリンガ葉は経口的に摂取することでI型アレルギーに対して抑制作用を有する可能性が示された.
著者
佐藤 幸子 夛名賀 友子 四宮 陽子
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.108-116, 2014-03-15 (Released:2014-04-30)
参考文献数
27
被引用文献数
1 3

うどんのコシの特徴である硬さの不均一性を物理的に解明するために,圧縮によるクリープ測定をモデル化し,ゆで麺表面から中心部への粘弾性分布を測定することを試みた.結果は次の通りである.(1)測定方法のモデル化により,ゆで麺表面から中心部にかけての4点において典型的なクリープ曲線が得られ,試料A(ゆで直後麺)と試料B(ゆで後24時間麺)の各部位は,6要素と8要素に解析された.(2)粘弾性の解析結果,試料AとBの粘性率ηNは107~108Pa・sだが,η1,η2,η3は104~106 Pa・sと小さく,麺内部へかけての変化も見られないことから,ηNに対して無視できると考え,粘弾性を2要素に単純化した.(3)2要素に単純化した試料AとBの緩和時間を計算した結果,AとBともに表面付近は約1分で内部へかけて減少し,中心付近は10秒以下であり,ゆで麺の咀嚼時間1秒以下と比較するとかなり長かった.したがって,ゆで麺の咀嚼では弾性要素の影響が強いと考えられる.(4)試料Aの弾性率は表面から内部にかけて徐々に増加し,「コシが強い」状態を表していた.試料Bは歪率16%で増加して,その後やや減少傾向で,弾力の無い伸びた麺の状態を表していた.(5)官能評価で選択された麺の特徴を表す代表的な用語は,Aは「弾力がある」,「もちもちしている」,「こしが強い」,「つるつるする」,Bは「弾力がない」,「こしが弱い」,「噛み切りやすい」,「やわらかい」であり,クリープの測定結果とよく一致した.
著者
村上 香 永澤 健
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.84-91, 2021-02-15 (Released:2021-02-26)
参考文献数
15

本研究では,発酵および非発酵ルイボスティー(RTおよびGRT)の抽出時の茶葉量,時間および温度によるポリフェノール含量および抗酸化活性への影響を調べた.500 mLの水道水を沸騰させた熱水で茶葉1.5-10 gを10分間浸漬した「お湯出し」条件では,茶葉量は,1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル(DPPH)ラジカル消去活性(抗酸化活性)と正の相関関係示し,茶葉5および10 gのRTと比べて,GRTは半分の茶葉量で同レベルの抗酸化活性を示した.また,茶葉5 gを500 mL熱水で5-20分間お湯出しした場合,RTでは15分以上,GRTでは20分以上浸漬することにより,より効率的にポリフェノールや抗酸化活性を引き出せることが確認された.7 °C,12時間浸漬の「水出し」条件(茶葉5 g/500 mL)では,ポリフェノール量と抗酸化活性はRTでお湯出し5分間,GRTで10-15分間と同程度であることがわかった.RTは茶葉5 g(/500 mL),10分間,70および80 °Cは沸騰を保った沸騰水の抽出「煮出し」と比較して,総ポリフェノールおよびアスパラチン含量,DPPHラジカル消去活性に大きな違いは見られなかった.GRTにおいても80 °Cと沸騰水ではポリフェノールおよびアスパラチン含量に有意な差は認められなかった.本実験で検討した条件では,茶葉量10 g/500 mL,10分間お湯出しは,総ポリフェノール含量(RT:756±9;GRT:939±5 µg/mL),アスパラチン含量(RT:10.6;GRT:363 µg/mL),DPPHラジカル消去活性(RT:3.62;GRT:5.87±0.03 mMアスコルビン酸当量)が最も高い条件であった.また,本研究により,RTおよびGRTは,「お湯出し」および「水出し」でもポリフェノールおよびアスパラチンや抗酸化活性を有することが確認された.
著者
高橋 陽子
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.186, 2011-04-15 (Released:2011-05-31)
参考文献数
2
被引用文献数
4 1

繊維質とは,自然に放置しても分解されにくく,動物によっても消化されにくい成分のことを指す.本来,ヒトの消化酵素で消化されない繊維質は,生理的意義が低い非栄養素とされてきたが,難消化性の繊維質はヒトの健康維持に重要な役割を果たすことが次第に知られるようになった.食物繊維とは多糖類のひとつであるが,日本食品標準成分表2010では「ヒトの消化酵素で消化されない食品中の難消化性成分の総体」と定義されている.ヒトの炭水化物消化酵素であるアミラーゼは,デンプンを構成している糖分子のα結合を分解できるが,食物繊維を形成しているβ結合を分解する能力がない.従来,食物繊維はエネルギー源にならないと考えられていたが,実際は,消化されない食物繊維の一部が腸内細菌により発酵分解されて短鎖脂肪酸とガスになるため,エネルギー量はゼロにはならない.また,食物繊維はタンパク質,脂質,炭水化物(糖質),ビタミン,ミネラルに次いで,ヒトに不可欠な第六の栄養素として数えられるようになっている.食物繊維は水に溶けない不溶性(water-insoluble dietary fiber ; IDF)と水に溶ける水溶性(water-soluble dietary fiber ; SDF)に大別される.一般的に食物繊維は,食物の咀嚼回数や消化液の分泌を増加させたり,便通や腸内環境を改善したりするが,不溶性と水溶性で異なる生理作用もある.不溶性食物繊維は保水性が良く,便量の増加や腸の蠕動運動の促進,脂肪や胆汁酸,発がん物質等の吸着・排出作用がある.水溶性食物繊維は,糖の消化吸収を緩慢にして血糖値の急な上昇を抑える糖尿病予防効果,胆汁酸の再吸収を抑えてコレステロールの産生を減らす脂質異常症の抑制効果が期待できる.また,水分を吸収してゲル化するため,胃腸粘膜の保護や空腹感の抑制作用がある.不溶性食物繊維には植物体を構成するセルロース,ヘミセルロース,リグニン,エビやカニ類の外骨格成分であるキチン・キトサンがある.セルロースは植物の細胞壁の主成分で,野菜や穀類の外皮に多く含まれる.グルコースがβ-1,4結合により直鎖状に連なってリボン状に折り重なる構造をしているため,力学的に強固な物質である.ヘミセルロースも細胞壁を構成する不溶性食物繊維であるが,セルロースを構成するグルコースが他の糖で置換された多糖類である.糖分子の種類によって水溶性が異なり,マンナン(グルコマンナンとも呼ばれるコンニャクの成分.グルコースとマンノースがβ-1,4結合したもの),β-グルカン(キノコ類や酵母類に含まれる.グルコースがβ-1,3または-1,4結合したもの),キシラン(細胞壁の成分であるキシロースがβ-1,4結合したもの)等がある.リグニンは果物や野菜の茎,穀類の外皮に含まれる木質の繊維である.キチンはセルロースに構造が似ているが,N-アセチル-D-グルコサミンが連なるアミノ多糖であり,キトサンはキチンからアセチル基が除かれたD-グルコサミン単位からなるものである.水溶性食物繊維にはガム質,ペクチン,藻類多糖類等が分類される.ガム質は植物の分泌液や種子に含まれている粘質物で,代表的なものにグアー豆に含まれるグアーガム(マンノース2分子に1分子のガラクトースの側鎖をもつ多糖類)がある.ペクチンはガラクツロン酸がα-1,4結合した構造をしており,腸内細菌では分解できるがヒトの消化酵素では分解できない.果物類に多く含まれ,水分を吸収してゲル化する性質があり,砂糖と酸を加えて加熱調理するジャムやゼリーの製造に利用されている.藻類多糖類には渇藻類に多いアルギン酸,紅藻類に多いフコイダン,寒天の主成分であるアガロース等がある.この他に,トウモロコシを原料として人工的に合成されるポリデキストロースや難消化性デキストリンも食物繊維として使用されている.食物繊維の摂取目標量は,日本人の食事摂取基準(2010年版)によると,18歳以上では1日あたり男性19g以上,女性17g以上とされている.日本人の食物繊維摂取量は,食生活の欧米化や穀類,芋類,野菜類,豆類の摂取減少の影響を受けて第二次世界大戦後から年々減り続けており,実際の摂取量は若い世代を中心に目標量を満たさない状況が続いている.
著者
中村 善行 藏之内 利和 高田 明子 片山 健二
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.12, pp.577-585, 2014-12-15 (Released:2015-01-31)
参考文献数
24
被引用文献数
7 13

調理後の甘さが大きく異なる多様なサツマイモ品種·系統や育種素材を供試して,塊根のβ-アミラーゼ活性およびデンプンの含量,糊化温度と蒸しいものマルトース含有率との関係を調べた.マルトース含有率はβ-アミラーゼ活性の上昇に伴って増加したが,活性が約0.2 m mole maltose/min/mg proteinを越えると含有率の増加は抑制された.マルトース含有率とデンプン含有率との間には相関が認められなかったが,デンプン糊化温度との間には弱い負の相関が認められた.特に,β-アミラーゼ活性が高い塊根では糊化温度が低いほどマルトース含有率が高い傾向が見られた.また,デンプンの糊化温度が比較的高い品種「ベニアズマ」を本州より気温の低い北海道で栽培すると,糊化温度が有意に低下し,β-アミラーゼ活性は同等かあるいはそれ以下にも拘わらず,マルトース含有率が有意に高くなった.サツマイモの加熱調理に伴うマルトース生成には塊根のβ-アミラーゼ活性に加えてデンプンの糊化し易さも重要であると考えられた.
著者
齋藤 寿広
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.8, pp.419-424, 2018-08-15 (Released:2018-08-25)
参考文献数
44
被引用文献数
4

The Japanese pear (Pyrus pyrifolia Nakai) is one of the most commercialized fruit trees in Japan and it has been consumed for a long time. The concept of pear cultivars was first developed in the middle of Edo Era (1603-1887). Commercial pear orchards were established in the late Edo Era and over 1000 cultivar name have since been recorded. ‘Taihei’ was the leading cultivar in 1890-1900, followed by ‘Kozo’ in 1900-1910. ‘Chojuro’ became the leading cultivar from the 1910s to the late 1940s due to its high productivity and disease resistance, but ‘Nijisseiki’ replaced it until the late 1980s, as this cultivar had superior flesh texture despite its extreme susceptibility to black spot disease. The systematic breeding program of the Horticultural Research Station [currently National Institute of Fruit Tree and Tea Science (NIFTS), National Agricultural Research Organization (NARO)] began in 1935 and it mainly aimed to improve fruit quality by focusing on flesh texture and black spot disease. As a result, cultivars ‘Kosui’ and ‘Hosui’ were released in 1959 and 1972, respectively. ‘Kosui’ became a leading cultivar in the late 1980s and ‘Hosui’ became second in the beginning of the 1990s. Current breeding at NIFTS uses DNA marker-assisted selection for combining superior fruit quality with traits related to labor and cost reduction, multiple disease resistance, and self-compatibility.
著者
柳原 哲司 藤井 はるか
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.243-255, 2017-05-15 (Released:2017-05-26)
参考文献数
13
被引用文献数
2

Recently, the demand for commercial Hokkaido rice has been on the rise. Consumers are calling for the development of Hokkaido rice cultivars that are suitable for commercial use, in addition to the popular household varieties. In response, we have been developing new Hokkaido rice cultivars as well as evaluation methods to determine the suitability of these cultivars for commercial use.1.Definition of suitability for commercial useFrom 2009 to 2013, we visited 13 major commercial users of Hokkaido rice and conducted interviews to gain an understanding of the qualities considered essential in commercial rice. All the surveyed companies listed the following four processes in rice production: 1) commercial milling, 2) commercial cooking, 3) rice processing and molding, and 4) storage and distribution prior to consumption. The data demonstrated that in each process, the suitability of rice was evaluated based not only on taste and quality, but also on the unique commercial perspectives of economic efficiency and workability.2.Development of a method to evaluate the suitability of Hokkaido rice for commercial useBased on the results of the above survey, we identified the appropriate parameters to evaluate the suitability of commercial rice, as specified by actual consumers. We undertook the development of new evaluation methods that take into consideration economic efficiency (cooking yield) and workability (stickiness), aspects not previously considered. Addition of the parameters from the new evaluation method to the existing parameters of taste and quality is anticipated to make the assessment comprehensive and address the requirements of various commercial users, which include determining the amount of water to be added to achieve low stickiness (workability) and high cooking yield (economic efficiency). The ultimate goal is to select cultivars with reduced stickiness (workability), culminating in the selection of cultivars that have only moderate stickiness and little discoloration (taste and quality).
著者
吉田 充 三好 恵子 堀端 薫 水上 裕造 竹中 真紀子 安井 明美
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.11, pp.525-530, 2011-11-15 (Released:2011-12-31)
参考文献数
14
被引用文献数
12 13

日本人の主食である炊飯米からのアクリルアミド摂取寄与を推定するために,炊飯米に関して臭素化誘導体化GC-MS法による低濃度での定量分析法を確立し,アクリルアミドの測定を行った.本分析法の玄米おけるLOQは0.20 μg/kg,LODは0.09 μg/kg,発芽玄米では,LOQは0.17 μg/kg,LODは0.07 μg/kg,精白米では,0.14 μg/kg,LODは0.06 μg/kgであった.2種類の家庭用炊飯装置で炊飯を行った結果,米に生じたアクリルアミドの濃度は,発芽玄米,玄米,精白米の順であった.IH真空圧力炊き炊飯器の1機種を用いた炊飯ではいずれの米の場合も,電子ジャー炊飯器の1機種を用いた炊飯よりもアクリルアミド濃度は低く,業務用炊飯装置の1機種による炊飯ではさらにアクリルアミド濃度は低かった.この炊飯器の違いによるアクリルアミド濃度の差は,炊飯時の温度履歴の違いと高温になる鍋肌の材質の違いによると考えられた.本測定結果を日本人の炊飯米の摂取量と合わせて考えると,他の食品を含めたアクリルアミドの摂取量全体に対して,炊飯した精白米からのアクリルアミド摂取の寄与は小さいことが確認された.玄米および発芽玄米についても,IH真空圧力炊き炊飯器や業務用炊飯器で炊飯すれば,アクリルアミド摂取に対する寄与率は小さいが,焦げを生じさせるとその寄与はアクリルアミドの摂取源の一つとして無視できないものとなり得る.
著者
桝田 哲哉
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.11, pp.499-509, 2016-11-15 (Released:2016-12-23)
参考文献数
45
被引用文献数
1

Many low-molecular weight molecules, including amino acids, saccharides, polyols, peptides, and synthetic compounds, are well known to elicit the sensation of sweetness, whereas most proteins are tasteless and flavorless. However, some proteins do elicit a sweet taste response on the human palate. Sweet-tasting proteins have potential as low-calorie sweeteners and as substitutes for sucrose for industrial applications, and could be useful in clarifying the mechanisms by which we perceive a sweet taste. However, despite a number of investigations assessing the relationship between sweetness and the structures of sweet-tasting proteins, no common feature has been identified in either their tertiary structures or amino acid sequences. However, most sweet-tasting proteins are basic and have high isoelectric points. Here, we first review site-directed mutagenesis and chemical modification studies on the charged residues of thaumatin and lysozyme. Efforts to increase the production yield of recombinant lysozyme and thaumatin from the yeast Pichia pastoris are then described. We conclude by introducing our recent investigations into the atomic-resolution structural analysis of thaumatin, and a cell-based assay using sweet taste receptors.
著者
常石 英作
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.362, 2006-06-15 (Released:2007-06-15)
参考文献数
3
被引用文献数
1

カルノシンはβアラニンとヒスチジンのジペプチドでβアラニル・ヒスチジン,アンセリンはヒスチジン部分がメチル化されβアラニル・1メチルヒスチジンとなったものである.筋肉中に高濃度に存在するが,図1に示す通り牛肉や豚肉では主にカルノシンが,鶏肉ではカルノシンも含まれているが,アンセリンが多い.ちなみに魚ではアンセリン,ウミヘビや鯨ではバレニン(βアラニル-3メチルヒスチジン)が多い.これらは,ヒスチジンの構成要素であるイミダゾールから,イミダゾールペプチドと呼ばれ,内因性抗酸化物質としての役割を果たしている.カルノシンを摂取したラットでは,筋肉中含量が上昇し,筋肉脂質の過酸化や蛋白の酸化が抑制される.これは生理的状況下におけるカルノシンの生体内での抗酸化性を示している.また,カルノシンは脂質酸化で生成される細胞毒素(不飽和アルデヒド)を消去する.カルノシンの抗酸化力は,グルタチオンやチオクト酸と比較すると劣るものの,筋肉中の含量が非常に多いため,生体内脂質酸化物の消去に重要な役割を果たしていると考えられている.生体内で発生する活性酸素には,呼吸によるエネルギー代謝の過程で生成する水酸化ラジカル,侵入異物の分解のための窒素系ラジカル,白血球による殺菌作用で生じる塩素系ラジカルがある.植物性食品のポリフェノールやビタミンEは水酸化ラジカルに,ビタミンCは窒素系ラジカルに,アンセリンやカルノシンは塩素系ラジカルに対して抑制作用を示す.カルノシンは1.0%で肉製品の褐色化を抑制し,銅イオンによるアスコルビン酸の酸化を阻害する.アスコルビン酸とともにカルノシンを肉製品に添加して用いると,品質保持や色調安定に効果的である.アンセリンやカルノシンにおける生体pHの緩衝能も知られている.過大な負荷のかかる運動を行った場合,筋肉中に乳酸が蓄積して酸-塩基バランスが酸性側に傾く傾向を示す.この乱れを防止し,運動の持続や疲労感の軽減に役立つ.アンセリンやカルノシンを豊富に含むチキンエキスをマウスに6日間経口投与したところ,遊泳持久力が有意に向上したという報告がある.緩衝能の向上に起因する効果であると考えられている.牛筋肉の筋線維タイプとの関連では,乳酸の蓄積しやすい解糖型筋線維数の多い筋肉部位でカルノシン含量が高い傾向があり,各筋肉部位の含量は図2の通りである.しかし,アンセリンについては筋線維型との関係は認められない.
著者
箭田 浩士 我藤 伸樹 永友 榮徳 忠田 吉弘 小野 裕嗣 吉田 充
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.188-192, 2003-04-15
被引用文献数
3 2

梅肉エキス中のMFについて,固相抽出カートリッジを用いた前処理法ならびにHPLCによる分析法を確立した.これにより,梅肉エキス中のMFを迅速・簡便に回収率良く抽出し,定量分析することが可能になった.<br>また,MFの正確なモル吸光係数1.78×10<sup>4</sup>(λ<sub>max</sub>282nm,water)を決定した.これにより吸光度からMF標準溶液のモル濃度を決定することができる.
著者
平澤 マキ 志村 晃一 清水 章子 村 清司 徳江 千代子 荒井 綜一
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.95-101, 2008-03-15 (Released:2008-04-30)
参考文献数
21
被引用文献数
4 8

アボカドの食物繊維やポリフェノールの機能性を明らかにするために,その構成成分と特性を解析した.使用したアボカドは水溶性食物繊維5.23±0.53g,不溶性食物繊維11.3±0.71g(可食部100g当たり/無水物)を含んでいた.不溶性食物繊維はペクチン画分 : ヘミセルロース画分 : セルロース画分はそれぞれ20.6% : 43% : 36.4%であり,不溶性食物繊維は膨潤性が大きく,色素吸着能はローズベンガルにおいて高い値を示した.水溶性食物繊維は鉄吸着能も高く,WSPは優れた鉄保持能力をもつことが示唆された.また,アボカドの抗酸化性は果皮が最も強く,次いで種子,果肉の順であった.果皮にはポリフェノールが多く存在し,種子,果肉は少ないことが認められた.ポリフェノールの組成をGC-MSで測定したところ,カテキン,エピカテキン,クロロゲン酸類が同定され,これらが抗酸化性に寄与していると考えられる.果皮は未利用資源として新たな食品機能性素材に利用されることが期待される.